Blue Archive:Task Force 作:タクティカルおじさん
ミレニアムサイエンススクールの校門正面に、4人の大人が近付く。彼らはシャーレとその米軍人たちである。
「交渉した次の日に、ここを訪れるのか...」
シャーレの先生の護衛に割り当てられているホプキンスは、そう呟く。昨日、アメリカの外交使節団がレールガン開発計画の技術的援助に関する提案を取り付けようとしたが、生徒会長が不在であるということを理由にミレニアムサイエンススクール側から拒否されたばかりであった。
そんな状況は芳しくないものの、先生がヴェリタスから呼び出しを受けたということもあり、やむを得ず彼女らの学園に訪れることとなったのである。
だがいくら護衛という立場であれども、やはりアメリカ人として或いは国家に奉仕する身としては血の気が引くような気分に襲われた。
「まだ撃たれていないから敵じゃないな?」
「ああ、その通りのようだ軍曹」
護衛の二人は、校門正面で警護しているロボット────自動小銃が装備されている────の姿を見て、そう軽口を叩いた。つまりアメリカ人はまだ
ミレニアムサイエンススクールはキヴォトス最高峰の科学技術を持っているということもあり、レールガンに飽き足らず自律型戦闘用ロボットなどの工学分野、さらには海洋生物、化学素材といった自然科学分野の研究がされている。
これらの技術、研究力は一部においてアメリカよりも上回るほどハイレベルなものであると、つい
'' 認証が済んだよ ''
校門でパスチェックを済ませた先生は、そう言うとホプキンスとナイト二等軍曹からなる護衛二人は先生の後ろに続いて、敷地に入る。さらに、その後に続く形でケリーも足を踏み入れた。
それからゲーム開発部の部室がある建物に向かう道中、ケリーは先生に対して言葉を掛ける。
「本日も忙しいのですか?」
'' 実はまだ片付けないといけない書類処理も残っていてね... ''
「なるほど。忙しいあまり
ケリーはぶすりと率直に言った。すると先生の表情はきまりが悪そうな顔をみせた。彼の推察は当たっていたということである。
「...シャーレの業務は多岐に渡ると耳にしています。それも私生活が圧迫されるほどである────と」
ある程度であるがシャーレの業務量が過大であるという事情を知っていた彼はそう言う。それから彼は更に続ける。
「もちろん私はこのようにマルチタスクを行うことは悪いとは思いませんが...」
'' 今度からは気を付けるよ ''
二人の武装した護衛を引き連れている彼はそう言う。
「いや...貴方にとって重要というのであれば致し方無いと思いますよ」
ケリーは今までの言動から一転してそう言った。このキヴォトスという学園都市、いわば異世界において先生という指導者としての立場だけではなく、その肩書きだけでは言葉で説明し尽くすことが難しい事情があるだろうとまで推察していたのだからだ。
一見してみればたかが一人の教師という言葉だけならば、米軍の高級将校や大臣、そして大統領などという権威的である肩書きと比べれば、大した役職かつ人物ではないはずだ。
それにも関わらずホワイトハウスは、Tier1の特殊部隊であるDEVGRUに対し彼の護衛の任に就かせた。これが意味することは、紛争地域における親米寄りである一国の大統領を護衛することと等しい。
これらのことから先生はやはり只者ではない。キヴォトスと米国における重要な仲介役という言葉だけでは、正確には言い表すことが出来ないということでもあるのだろう。
それだけ彼は特異な人物であるということだ。
しばらくして校舎に入ると、無機質で洗練され、床に汚れが殆ど見られない廊下へと彼らは歩を進めた。天井には等間隔で光源が配置され、眩しすぎることなく十分な光量を発していた。
それからヴェリタスの部室の目の前に辿り着いた時、ちょうどその目の前にゲーム開発部の生徒たちが居た。
「あっ!アリス、先生を発見しました!」
天童アリスは先生の姿を見るや否や、嬉しそうな顔でそう言った。それに続く形で、先生と軍人達の姿を見て、彼女たちは反応を示す。
「こ、こんにちは...」
「やっほー先生!その後ろにいる人達と一緒に、どうしてここに?」
'' ヴェリタスに呼ばれてね...ゲーム開発部も? ''
先生はそう尋ねると、モモイがすぐさま答える。
「うん!マキが面白いものを見つけたらしくて!」
どうやら彼女たちゲーム開発部と先生が呼び出された理由は、同じのようであった。『面白いもの』が一体どういうものであるのか分からないが、初めて詳しい事情を知ったケリー達に興味を掻き立てるものであった。
「もしかしたら、何かインスピレーションを貰えるんじゃないかと思って」
「重要なイベントが発生するかもしれないので、今日はユズもいます!」
「はい...い、いいアイデアに繋がるなら...でも、こ、ここまで来るのは...ちょっと...すごく、大変だったけど...」
人見知りなユズは初めて出会う大人達が居ることで、更に緊張と内気な性格がより悪化していた。それでも『面白いもの』に惹かれて、勇気を持って彼女達と共にこの部室までやって来たのだろう。
「あとちょっとだよユズ!」
「うん、頑張ろう」
「ユズが倒れないよう、アリスがしっかり支えます!」
三人はユズにそう励まし、アリスに至ってはユズの肩を掴んで実際に支えようとまでしていた。
「み、みんな、ありがとう...」
ユズは照れながらも彼女達に感謝を伝えた。彼女たちの友情はそれだけ深いということだ。
'' それじゃあ入ろうか ''
先生がそう言うと先にアリス達を部室に行かせて、その後に先生達も続いた。部室に入ると、先程まで明るさが十分だったはずの廊下と比べてやや薄暗く、多くのモニターに文献や何らかのデータ化されたグラフが表示されていた。
そして彼らとヴェリタスの面子を、何かをブルーシートで覆ったのか僅かながら物体のシルエットが伺える机を挟んで、挨拶を交わす。
「やっほー!お邪魔します!」
「やっほ〜!久しぶりだね」
モモイは気軽に挨拶を済ませる。するとマキもそう返した。対してコタマは、シャーレの先生とその護衛達の姿を見たこともあり、初めて出会ったことから律儀に会釈をする。
「皆、間に合ったみたいだね」
「それで、ハレ先輩。例のブツって?」
「ああ、それなら...」
ハレは彼女達と先生を呼び出した本題に入ろうと、机の上からブルーシートを外す。するとそこには、長い手足と複数の紫色に塗装された触覚らしきものを備えたロボットらしきものが、皆の目に留まる。
しかし動く様子はない。
「タコよりはマシな見た目だな」
ナイト軍曹はアメリカ人独特の感性を発揮すると、タコ嫌いな彼にとってグロテスクな見た目であることもあるのか、何歩か後ずさった。
そんな中ホプキンスはふと部室の周りに目を見渡すと、同じような形をしたロボットが合計5体いるのが目に見えた。
「どうやら聞いていた内容よりは5倍面白そうだ」
「間違いない」
護衛の二人は軽口を叩いた。
これは....どこにあったの?
「全てミレニアム学区の郊外で発見されたものです」
コタマがそう答えると、マキは付け足して言う。
「これで全部じゃなくて、少なくともまだあと20体はあったよ!」
「おっと20倍の訂正だな」
マキの説明を聞いて、またしてもそうジョークを飛ばす。そんな中、ケリーは独特な球体と長い手足を特徴とするロボットの姿を見て、何か思案していた。
実は彼にとってこの姿をしたロボットは、初めて見たわけではない。直近の治安維持パトロールを担当した部隊の報告書から、確かにミレニアム学区の郊外にて類似のロボットと交戦したことを彼は知っていた。
勿論、残骸は分析の為に回収したものの戦闘での損傷が激しすぎたのか、まともな分析が出来ずに全くもってこのロボットの正体などは不明であった。だがこのロボットの姿や形、細長い触角と手足はまさに見たことがあり、まさに瓜二つとも言うべきだ。
「えっと...以前、私はこれと似たロボットを見たことがありますが...これは貴女方のものですか?」
ケリーはそう問いただすと、マキとコタマが答える。
「ミレニアムで作ったドローンの中に、こんな形状はないよ」
「かなり個性的な見た目です」
どうやらミレニアムサイエンススクールで作られたものではないらしい。そうなると一体誰が作ったのかが気になるところだ。
「写真は撮っても? 他にこの子に関する情報は?」
様々なキヴォトスに関して情報を追い続ける職務を与えられている彼はそう尋ねると、ハレは静かに頷いて許可を与えたのちに答える。
「私たちの方でも一通り調べてみたんだけど、結局何も見つからなかった」
「調べた結果、電源ボタンはおろか接続ポートすら見つかりませんでした。それ以前に、表面に繋ぎ目はありません」
「────だから先生を呼んだんだ」
「なるほど。そういうことですか」
ケリーは初めて先生が呼ばれた理由を知ったのと同時に、無傷である未知のロボットの姿を写真に収める。
「もし危険物であれば、シャーレにご協力いただこうと思いまして」
「どう先生? 何かわかったりする?」
モモイにそう尋ねられた先生は答える。
'' ...うーん。わからないかも ''
その言葉を聞いた、彼女たちはやや落胆しか顔を見せる。やはり一人の信頼できる大人としての頼み綱の先生が、わからないということは彼女たちにとって珍しいことなのだろう。
「やっぱダメかぁ。先生ならもしかして...って思ったんだけど。部長に聞くしかないのかなぁ...それか副部長なら...」
「今ここに居ない人の話をしても仕方ないですよ」
マキがそう思案するなか、コタマがそう突っ込んだ。そうやってどうやってこのロボットを調べようかと、彼女たちの頭を悩ませる中、アリスがその机の上にぐったりとした姿で鎮座するロボットに近付く。
「アリス...見たことがあります」
何かを思い出したかのようにぽつりとそう呟く。
「アリスちゃん...?」
「これ、は...」
アリスの様子に異変を感じたユズはそう声を掛けるが、その言葉が聞こえていないとでも言うべきか。そのままアリスはロボットに視線を集中させている。
そしてアリスがロボットに軽く右手で触れた。それと同時にロボットは振動し、いくつかの電子部品が紫色に発光した。それからあっという間にロボットは机の上で立ち上がった。
「え!?何!?電源入った!?」
「えっ!?」
モモイは驚き、後退りする。対してハレは、今まで起動することが出来なかったのにも関わらず、アリスが突拍子もなく起動させたことに驚いたようだった。
「ま、待って....アリスちゃんの様子が...おかしい」
アリスの様子が明らかに異常であると感じたユズはそう言った。当の本人であるアリスは目を閉じて、立ち止まっていた。それからすぐさま、彼女は瞼を開けて。
「...起動開始。コードネーム『AL-1S』起動完了」
彼女の目は他のロボットたちと同じ色を不気味に輝かせていた。それから彼女は、彼女自身の背丈と不釣り合いと言っても過言ではない携帯式レールガンであるスーパーノヴァを構える。
「プロトコル『ATRAHASIS』を実行します」────
────すぐさまスーパーノヴァから凄まじい威力の弾丸が彼、彼女たちに向かって放たれる。
轟音と閃光が部室を引き裂いた。
炸裂したプラズマが入り口の方にある壁面を貫き、そのまま壁の向こうにあった演算端末やサーバーを爆散させる。高温の爆風が室内を駆け抜け、ガラス製ディスプレイが一斉に破砕された。細かい破片が弾丸のように飛び交い、生徒たちは大人たちが回避出来ないと判断し、咄嗟に彼らの身を庇う形で床に伏せる。
「ゲホッゲホッ...」
「突然眠っていたロボットが起動...」
「イカれてる」
コタマとハレのおかげで難を逃れたホプキンスはそういう。寧ろヘイローがある彼女たちにとって、直撃ではなかったものの殆ど無傷のようであり、ハレに至っては咳き込んでいただけだった。
「ナイト、少佐!! 無事か!?」
ホプキンスが大声で安否を確認するためにそう叫ぶと、返事が返ってくる。
「大丈夫だ。まだ天国に行くには早い」
「...命が一個減りました」
どうやら彼らは生きていたようだった。ナイト軍曹は庇ってくれたマキのおかげで助かったようで、ケリーは護衛の二人と比べて身軽であったことから、どうにか射線から逃れることが出来たらしい。
しかしながら辛うじて生き延びたものの、発射した本人であるアリスが問題だった。爆発によって発生した瓦礫片と爆炎のなかから姿を現す。
────「有機体の生存反応を確認。失敗を確認しました」
彼女は機械的に、抑揚がない声でそう告げる。
「...プロトコルを再実行します。武装のリロード開始」
「また...レールガンの充電を始めました!」
彼女はどうやらここにいる者を生かすつもりがないらしい。そのことがようやくわかると、護衛の二人はすぐさま立ち上がり、安全装置を解除する。そうして銃を構えようとした時だった。
どこからか連続して乾いた銃声が空に響く。
少なくともヴェリタスやゲーム開発部はおろか、彼らも発砲はしていない。
「おい、チビ。そこまでだ」
アリスの背後に彼女は現れた。
小さな体格にメイド服を彷彿とさせる制服とそれに似合わぬ威圧的なスカジャンを羽織り、二丁の鎖付きMPXを華麗に使いこなす────それはC&C所属のリーダーである美甘ネルだった。
「妨害を確認、充電失敗。再────」
「大人しく寝てろ」
アリスが充電をもう一度行おうとしたとき、ネルは彼女の頭に向かって強烈な打撃を加える。そうするとアリスは完全に気を失ったようで、ゆっくりと地面に倒れこんだ。
それからアリスが倒れてから間もなくして、彼女によって起動された何体ものロボットたちが姿を現す。
「こいつらここにもいやがったのか」
距離を詰めてくるロボットの姿を見たネルはそうぼやく。どうやら彼女はこれらを見たのが初めてではないらしい。
「ナイト、俺たちの仕事の時間だ」
「わかった」
先程、安全装置を外していた護衛の二人はすぐさま応戦した。二人のMP7A2によるフルオート射撃が瞬く間に、ロボットに襲い掛かる。4.6×30ミリという一見すれば、9ミリパラベラム弾より小さい口径であるが、拳銃弾とは違って高速で発射されるため、十分な貫徹力を発揮する。
素早い発射速度も相まってロボットの装甲を容易く撃ち抜くと、あっという間に周囲にいた数体のロボットたちは各個撃破されていく。同時にネルによる銃撃も加わり、素早く処理される。
それから全くもって接近を許すことなく排除し続けて、残り2体となった時、丁度彼らが挿していた弾倉が弾切れとなる。
そうして、二人はサイドアームであるドットサイト付きのGlock 19 MOSをホルスターから取り出そうとしたときだった。
銃声が遠くから聞こえてきたのと同時にある一体の胴体上部が様々な部品をまき散らしながら、盛大に吹き飛んだのだ。明らかに小銃用ライフル弾によるものではない、12.7ミリかそれ以上の大口径弾だろう。
そして残りの一体が再び接近をしたが別の方向から素早く、連続した銃声が聞こえると、倒れこんだ。これで完全にロボット群は沈黙したのである。
「これで終わり!」
そう言いながらもスライディングをして彼らの目の前に登場したアスナは、使い終わったFAMASの弾倉を交換する。そしてロボットを破壊して笑みを見せる彼女が持っている腰元の無線機から、声が漏れ出る。
『任務完了』
「ナイスショットだったよ!」
無線の向こうの話し手は大口径弾でロボットをズタズタにした狙撃手は、角楯カリンだった。彼女が愛用する『ホークアイ』ことボーイズ対戦車ライフルは、13.9x99ミリとブローニングが使用する口径よりも若干大きいことが特徴の狙撃銃である。
最も特筆すべき点は重量が16キログラムほどあり、女子高生が持つ分にはかなり重いということだ。これは12.7ミリ弾を使用するM82バレットよりも約3キロも重いのだ。そしてたとえ伏せ撃ちだろうが、持ち運んだうえで難なく使いこなすことが出来るということは、カリンの腕力と技術が並大抵ならぬものということを意味するのだ。
「あら、私たちは出遅れてしまいましたね」
室笠アカネはMP7A2のリロードをする護衛二人の姿を見るや否や、そう言う。周囲に横たわるロボットの残骸たちの殆どは、真っ先に戦闘を仕掛けたネルと同様にすぐ交戦したホプキンス達によるものだったからだ。
それから戦闘を終えて、ネルは周囲を見渡す。
「先生これで良かったのか?」
'' ネル、みんな!ありがとう! ''
「んで、何があったんだ? すげぇ音がしたから来てみたら、部室がボロボロじゃねぇか。それにチビのあの姿は────」
ネルは何が起きたのか知りたいのと同時に、部室が吹き飛ばされただけではなく近くのサーバールームも粉砕されている状況について、そう語っている時だった。
「誰か担架を!!」
遠くからケリーの切迫した声が聞こえてきたのと同時に、ミドリが現れる。彼女はかなり深刻そうな顔で、しかも半泣き状態であった。
「お姉ちゃんが....お姉ちゃんが...!」
頬に涙が伝わるも嗚咽を堪えながらミドリは伝える。モモイに何が起きたのかが分かると、先生たちはすぐさまケリーの声が聞こえた方へと向かう。
そう遠くもない位置で大なり小なりの瓦礫が散らばる中、ケリーとユズの姿が見えた。そして、彼らの近くにはモモイが横たわっており、ケリーは必死に数少ない包帯で止血をしていたが、それでも血は一向に止まらない。
そしてケリーが着ているサービスシャツの下腹部とダークグリーンのスラックスは血で滲んでおり、両手にも血痕が付いていた。
またユズは目の間で額から流血するモモイの姿をみて、目の間で起きてる状況が受け入れないのか酷く放心状態であった。
「少佐、代わります」
「これで足りるのか...?」
ホプキンス達はこの凄惨な状況を目の当たりして動じることなく、すぐさまケリーの止血を手伝う。そしてケリーと護衛二人が交代する形で、先生の目の前にやってきた。
'' モモイに....何が... ''
「彼女は...」
先生から尋ねられると、言葉を詰まらせながら彼は暗い表情で言う。
「
垂れ下がるケリーの両手に付いた血の跡が全てを物語っていた。