ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 当初の予定では後藤ひとりについて回って、奇行を行う後藤ひとりに、ひとり(さんカッケェ)!! って言ってるだけの太鼓持ち主人公だったんですが、何故かクソ真面目に音楽やり出して困ってます。


010 台風ライブ

 結束バンドの初ライブ当日、東京に台風が直撃した。

 

 俺はひとりと共に早めにSTARRYへと到着して店内で時間を潰していた。

 

 ずぶ濡れになったPAさんが扉から入ってきて、ふと上を見上げた。俺もそれにつられるように見上げると、ドリンクカウンターの壁に沢山のてるてる坊主が吊るされていた。そういえば店の扉の外にも吊るしてあった気がする。

 

「昨日虹夏たちが作っていったんだよ……」

 

 店長がカウンターへ突っ伏したまま投げやりに言った。そんな店長を見ながらPAさんはライブの集客の心配をしていた。

 

「みんな客の入り見て心折れなきゃいいですけど……練習頑張ったのにかわいそうですね……」

 

 そう言ったPAさんに、店長はなおも突っ伏したまままるで自分に言い聞かせるように言った。

 

「バンド続けてくならこんな理不尽沢山あるんだから……どんな状況でも乗り越えられるようにならないと……」

 

 確かにその通りだ。今回初ライブにこそ台風が当たってしまったが、こんな事はいつだって起こりえるのだ。

 

 今回は台風だったが、冬になれば大雪が降る事もあるだろう。そんな少しでも足が遠のくような面倒くさい事が起きて、それでもなおライブハウスへ足を運んで見に行きたくなるような、そんなバンドにならなければいけないのだ。

 

 俺が階段に座って時間を待っていると、なにやら結束バンドのメンバーが集まって話をしていた。聞こえて来た話によると、誘った友達の多くが台風の為に今日のライブに来れないらしく、半分以下になってしまったようだった。

 

 なんとなく暗い雰囲気を察したひとりがひげ眼鏡と襷でボケた(本人は大真面目かもしれないが)事で少し明るい空気になった時、STARRYの扉が開いた。

 

「わああ、すごい雨」

 

 皆の視線が一斉に入り口の扉へ向かうと、入って来たのは廣井さんだった。

 

「ぼっちちゃ~ん、来たよ~。あ、太郎君も来たよ~。何してんのこんな所に座って~」

 

 ひとりに挨拶した廣井さんは雨に濡れてびちょびちょの洋服で肩を組んで来た。しかも相変わらず酒臭い。

 

「え? お前ぼっちちゃん目当てで来たの? っていうかなんでそんな太郎君に馴れ馴れしいんだよ」

 

「いいんです~。太郎君とは将来を誓い合った仲だからね~」

 

「もうそれでもいいですけど、それなら酒の量減らしてくださいよ……そういえば志麻さんとイライザさんはやっぱり今日無理でしたか?」

 

 路上ライブの時に言った、将来三人でバンド組みましょうって事を言ってるのだろうが、また誤解を生みそうな発言だ。店長なんか凄く可哀想な目でこちらを見ている。恐らくウザ絡みする酔っ払いのたわごとだと思っているのであろう。その通りです。

 

「一応太郎君の奢りだって言ったんだけどね~、なんか二人とも用事あるって」

 

 まあ今日こんな天気だしな、実際に用事があるかは分からないが来れないのは仕方ない。

 

 店長が廣井さんを知っている事に驚いたひとりが、二人の関係を尋ねると、店長から大学の後輩と説明があった。

 

「えっ! って事は廣井さん二十……ぐえ」

 

 俺が廣井さんの年齢に言及しようとすると、俺の首に右腕を回したまま、首を引っ張るようにして立ち上がった廣井さんは、今度は店長と肩を組んで、今日のライブの打ち上げの事でウザ絡みを始めて迷惑がられていた。

 

「ちょっと廣井さん、首締まってます! 首!」

 

「え~、だって太郎君この前の打ち上げ帰っちゃったから捕まえとかないと」

 

 廣井さんが店長にウザ絡みしていると再びSTARRYの扉が開いた。視線を向けると、今度は路上ライブで演奏が終わってすぐにひとりに詰め寄っていた女性二人組の姿が目に入った。

 

「ぬれた~」

 

「あっ! ひとりちゃん」

 

「あっえっ、来てくれたんですか!?」

 

 この台風の中、友人でもない路上ライブを見ただけの人が来ると思っていなかったひとりは大層驚いていたが、女性二人がひとりのファンを公言したのを聞いて気味の悪い笑い声を出し始めた。そのあまりの気味の悪さに女性二人が人違いを疑いながら引き始めたので、慌てて俺はフォローに入った。

 

「だ、大丈夫です。合ってます。後藤ひとりです」

 

 知らない男に話しかけられて一瞬警戒した女性二人だったが、俺と廣井さんの顔を覚えていたのかすぐに警戒を解いて話しかけて来た。

 

「あ、路上ライブの時のドラムの人とベースの人ですよね」

 

「今日はお二人も出るんですか?」

 

「いえ、俺達も見にきました。あの……俺が言うのも変ですが、今日は期待しててください」

 

「はい! 楽しみにしてます!」

 

 女性たちはそう笑顔で言うと、ステージがよく見える最前列へと向かって行った。

 

 今日はワンマンライブでは無く複数のバンドが出るのだが、それでもやはり普段より断然客の入りは悪く、ポツリポツリと入るのみだった。

 

 いよいよトップバッターの結束バンドのライブが始まる時間になったが、依然客席はがらんとしており、他のバンドが目当ての客などは露骨に退屈そうな会話や雰囲気を出していた。

 

 結束バンドの四人が舞台の上へあがり、機材のセッティングを終えると、ひとりは不安そうに俺を見て来た。俺はどう勇気づけるか迷ったが、とりあえずひとつ頷いて見せた。これがどこまで効果があったかは分からないが。

 

「初めまして結束バンドです。本日はお足元の悪い中お越しいただき、誠にありがとうございます」

 

「あっはは……喜多ちゃんロックバンドなのに礼儀正し過ぎぃー……」

 

 喜多さんと虹夏先輩のMCにひとりのファン二人が愛想笑いをした。会場は完全に滑った雰囲気の静寂に包まれた。

 

「インテリロックバンド!」

 

 俺が声を出すと会場の全員がこちらを見た。本当マジで全員。隣にいる廣井さんや店長、果ては結束バンドの四人までが俺を見て来る。やめろ、俺が滑ったみたいじゃねーか……演者を見ろ演者を。

 

「あ、あはは。ありがとうございます」

 

 俺の発言に気を取り直した喜多さんが曲名を発表して、演奏が始まった。

 

 緊張か、MCのダメージを引きずっているのか、演奏ははっきり言ってグダグダだった。喜多さんは声が上ずっていたりギターもミスが多い、虹夏先輩はもたついてるし、リョウ先輩は息が合ってないし、ひとりはやりづらそうにしているし。

 

 ひとりの前を陣取っていたファン二人も最初は体を上下に揺らしてノっていたのに、途中から動かなくなってしまった。他のバンド目当ての人はみんなスマホを見ていたり、演奏中にも関わらずどこかへ行ってしまう始末だ。

 

 俺はひとりでに拳を強く握っていた。悔しかった。そりゃあ緊張でパフォーマンスが落ちるのは当たり前のことだ。それでも。こんな台風で碌に客が集まらなかったライブであったとしても。結束バンドが、後藤ひとりが、こんなもん(・・・・・)じゃ無いという事を皆に知って貰いたかったのだ。

 

 一曲目の演奏が終わると先程退屈そうに話していた女性二人がポツリと呟いた。

 

「やっぱ全然パッとしないわ」

 

「早く来るんじゃなかったねー」

 

 女性の言葉に喜多さんが動揺していたが、虹夏先輩に促されて二曲目の紹介を始めていた時、ふと見るとひとりがこちらを見ていた。泣き出しそうな、それでいて何かを決意したような、しかしあと一押しが足りないような、そんな顔で。

 

 そんな顔を見て、同じステージに上がれない俺は。だからこそ背中を押すのだ。

 

「頑張れ、ひとり」

 

 俺の小さな呟きは誰にも聞こえなかっただろう。だがそれに呼応するようにひとりはギターを掻き鳴らし始めた。

 

 瞬間――会場の空気ががらりと変わった。

 

 明らかに予定にはないギターソロに結束バンドの三人が驚いて動揺しているが、ひとりはそれに構うことなく俯きながらギターを掻き鳴らした。

 

「調子出てきたじゃねーか……」

 

 先程とは別の理由で拳を握った俺は、その猫背の演奏を見て呟いた。

 

 ギターソロから照明が落ちて流れるように二曲目に入る。喜多さんはしきりにひとりの方を気にしていたが、先程の様な不安定さは無かった。

 

 客席を見ればひとりのファンの二人は体を上下に揺らしているし、先程スマホを弄っていた人たちも全員顔を上げてステージを見上げている。

 

 ギターソロで空気を完全に変えたひとりに、俺は感嘆していた。そうだ、逆境を切り開くのはいつだってヒーロー(・・・・)なのだ。

 

 流れを掴んだそのままの勢いで最後の三曲目を終えて、結束バンドの初ライブは終了したのだった。

 

 

 

 店長にライブの打ち上げに誘ってもらえたのでついて行く事にした俺は、居酒屋に入って皆で乾杯すると早速廣井さんに絡まれた。

 

「太郎君~お酌して~」

 

「はいはい、任せて下さい」

 

「あはははは! 太郎君へったくそ! 泡ばっかりじゃん!」

 

 俺のやる気はあるが下手くそなお酌で泡ばかりになったビールに大笑いしていた廣井さんに、喜多さんの至極まっとうな疑問が飛んできた。

 

「ていうかこの方誰なんですか?」

 

「誰よりもベースを愛する天才ベーシスト廣井で~す。ベースは昨日飲み屋に忘れました~」

 

 廣井さんの自己紹介に困惑する喜多さんに俺は一応フォローを入れておく。

 

「こんなんでも一応マジでベースは凄いんですよ」

 

「! 太郎はなかなか見る目がある。私、よくライブ行ってました……」

 

 俺のフォローにリョウ先輩が乗っかって来た。なんでもリョウ先輩はSICKHACKのバカみたいなテクニックに魅了されてよくライブに行っていたらしい。しかしリョウ先輩の口から説明されたライブは俺の知っているものとはいささか様相が異なった。

 

「普段は酒ぶっかけたり歌詞飛んだり、客の顔面踏んだりしてるんですか……泥酔はしてたけど何にも無かった俺の時は逆にレアだったんですね……」

 

「じゃあ今度太郎君がライブ来た時は顔面踏んであげる!」

 

 嫌な予約が入ってしまった。これは本格的に志麻さんに相談した方がいいかもしれんね。

 

 俺は廣井さんの元を離れて今日の立役者であるひとりを労いに向かった。

 

「今日はお疲れさん。ってどうしたひとり! 真っ白になってる場合じゃないぞ」

 

「はっ!? あ、太郎君」

 

「店長が料理どんどん頼んでいいって言ってたぞ」

 

 端の方で真っ白に燃え尽きかけていたひとりを起こしてメニュー表を渡した。俺達二人がメニューを見ながら悩んでいると、喜多さんから呪文の様な注文が聞こえて来た。

 

「じゃあ私、アボカドとクリームチーズのピンチョス」

 

「「!?」」

 

 俺達二人は震えあがった。なんだそれ? なんでそんな意味不明なメニューがこんな居酒屋にあるんだよ……しかし喜多さんの攻撃はそれで終わりでは無かった。

 

「あと……スパニッシュオムレツのオランデーズ添え下さい」

 

 おいおいマジでなんなんだよこの店は……場末(失礼)の居酒屋じゃなかったのかよ……

 

 喜多さんの注文に困惑している店長を尻目に、俺達は顔を見合わせた。

 

「おいひとり、ここは俺たちも負けてられねーぞ……」

 

「そ、そうだよね! ここは私たちも、何かおしゃれなチョイスを……!」

 

 隅の方で小声で作戦会議を開いていた俺達に、店長は気を利かせて声を掛けてくれた。

 

「ぼっちちゃん達は? 何頼む?」

 

「じゃ、じゃあ……マチュピチュ遺跡のミシシッピ川グランドキャニオンサンディエゴ盛り合わせで……」

 

「じゃあ俺はイースター島のアマゾン川エアーズロックサンタモニカ盛り合わせで!」

 

 無茶な注文に必死にメニュー表をめくって探してくれている店長に申し訳なく思った俺達は、早々にフライドポテトと唐揚げである事を白状したのだった。

 

 注文したフライドポテトと唐揚げを二人でつまんでいると、ふとサラリーマン同士の会話が聞こえて来た。内容は奥さんが浮気をしているかもしれないだとか、仕事が大変だとか、そう言った話だった。

 

 社会人は大変そうだな、なんて他人事の様に聞いていると、目の前のひとりが突然震え出した。

 

「うお! どうしたひとり」

 

 見る見る内に顔が崩れて震えが大きくなっていく。やばい、これは何か嫌な事がクリティカルした時の反応だ。

 

 なんとか元に戻そうと声を掛けたが、その甲斐も無く結局ひとりは爆発した。

 

「おぎゃあああああああ!! やっぱりニートあああああああ!!」

 

「ぼっちちゃんまたいつもの発作か!?」

 

 店長やみんなが驚いているが、またってなんだよまたって。そんなにいつも爆発してるのか……

 

 しかし一体どんな未来を見たんだ……ひとりくらい見た目のスペックが高ければ、最終手段としてどっかに永久就職すればいいんだから、ニートでもいいだろ。

 

 崩壊した顔面で「ギターで食べられるようにならないと私はニート……」などと呟いているひとりの元にバンドメンバーが修理道具を持って集まって来た。

 

「もー後藤さん顔。怖いのよねこの顔。でも山田君がいる時で良かったですね、毎回この作業大変だから……」

 

 そう言って紙やすりやらなんやらを俺に渡してくる。まじで扱いに慣れてきてるな。それが良いか悪いかは分からんが……

 

「まあ見ててください、ひとりの傍で十年間磨いて来た技を!」

 

「おお、まさに匠の技」

 

「凄い……こんなにあっという間に」

 

 俺にとっては慣れた作業だ。慣れたくは無かったが……手早くひとりの顔を直すとリョウ先輩と喜多さんから感嘆の声が上がった。

 

 ひとりが意識を取り戻すと、虹夏先輩は少し風に当たってくると言って店の外に出て行った。

 

「そう言えば郁代。今日のライブギター初めて三か月かそこらでよく頑張った」

 

 名前バレした喜多さんの顔面がひとりのように崩壊し始めた。ちょっと、喜多さんの顔は直せませんよ! どうやら喜多さんは自分の名前が嫌いなようで、ずいぶんと荒れた様子だった。

 

「だってダジャレみたいでしょう? きた~! 行くよ~! ってあほか~~い! あはは!」

 

「いや、山田太郎よりマシでしょう?」

 

 見かねた俺が横から口を出すと何故か全員押し黙った。いやなんで黙るんですか……どう考えても助け舟でしょう今のは……そこは笑って下さいよ……えっ? みんなそんな風に思ってたんですか!? ちょっと!? 

 

「あっ、なんて言うかごめんなさい……」

 

「ちょっと! 喜多さんもなんで謝るんですか!? やめろ! 申し訳なさそうな顔をするな!」

 

 俺と喜多さんが互いにダメージを受けていると、いつの間にか廣井さんがひとりの隣に移動していた。

 

「まぁ気楽に楽しく活動しなよ」

 

「漠然と成功する事ばかり考えていると辛くなっちゃいますもんね」

 

「そうそう、夢を叶えていくプロセスを楽しんでくのが大事だからな」

 

 先程のひとりの将来の不安に対する話だろう。廣井さん、PAさん、店長の大人組三人が言う言葉にはなんだか確かな重みがあった。

 

「ていうか、先輩はどうして急にバンドやめちゃったんですか?」

 

「え? 店長さんバンドしてたんですか?」

 

 廣井さんからの突然の話題にひとりが驚いて声を上げたが、俺も同じように驚いて店長を見た。そりゃライブハウスの店長なんだからやっててもおかしくないが……

 

「そうだよ~、凄い人気だったんだから」

 

「じゃあ……なんで……」

 

 ひとりの疑問を聞いた店長はビールの入ったジョッキをあおると、目を瞑って静かに、しかしはっきりとした口調で言い切った。

 

「飽きたんだよ。バンド」

 

「え~? ならライブハウスの店長してるの矛盾してるじゃん」

 

「うるせーな〇ね」

 

 それ以上詮索されるのを嫌ったのか、店長は滅茶苦茶辛辣……とういか火の玉ストレートな暴言を廣井さんへと投げつけてそれきりこの話題に触れようとはしなかった。

 

 そうしてしばらくすると、ひとりも席を立ってどこかへ行ってしまった。

 

 俺は何となく先程の店長達の言葉を思い出していた。

 

 夢を叶えるプロセスを楽しむ……今の俺も未来の夢に繋がっているのだろうか? そもそも俺の夢はなんだろう……ひとりとバンド組む事か? ひとりと武道館やドームで対バンする事か? それも良いが、ひとりが関係しない、俺だけの夢はないだろうか? 出来ればでっかいのがいい。となるとやはりオリコン一位だろうか? いや、もっとでっかい奴がいい……となるとやはりビルボード一位か? そんでもってデカいフェスに出よう。俺とひとりと廣井さんと……あともう一人くらい歌が歌える奴が欲しいな。出来ればギターかキーボードで学生時代ボッチだった奴……ってのはちょっと厳しいか? まあそれはおいおい探していこう。

 

「太郎君飲んでる~」

 

 なんだか楽しくなってきた俺が、夢を叶えるプロセスなんぞを投げ捨ててスマホを弄ってフェスを探していると廣井さんが隣に座って来た。

 

「ほら廣井さんどうですこれ? アメリカのウッドストック・フェスティバルってサイケデリック・ロック出られるみたいですよ! あとはグラストンベリー・フェスティバルってのは世界最大らしいですよ! これ俺達で出ましょうよこれ!」

 

「……太郎君まさか本当にお酒飲んでないよね?」

 

 検索したスマホの画面を見せながら大興奮で語る俺に、廣井さんは引きながら飲酒の心配をしていた。

 

 その内虹夏先輩とひとりが戻ってきてしばらくすると、打ち上げはお開きとなった。二次会があるのかもしれないが、俺とひとりはこれから電車で二時間かけて帰らなくちゃいけないからな。

 

 帰りの電車の中で俺とひとりは今日のライブの事を話していた。

 

「ひとりさん今日カッコよかったっス! 二曲目入る前のギターソロ、あれアドリブでしょう? あれから調子出てきたんじゃないっスか!?」

 

 久々の舎弟ムーヴをしながら、俺は興奮気味に今日のライブを象徴するようなギターソロを語っていた。

 

「う、うん。でもあれは太郎君のおかげでもあるから……」

 

 まさか俺の名前が出るとは思わなかったので、おかしな事を言うひとりに俺は首を傾げた。

 

「あの時、私このまま終わりたくないって思ってたんだ。でもどうしても怖くて……だけど太郎君が背中を押してくれたから……だから、あ、ありがとう……」

 

 俺のあの時の呟きはどうやらひとりに届いたらしい、なんだか気恥ずかしくなったので俺は話題を変える事にした。

 

「そ、そういえば打ち上げの時、虹夏先輩とどっか行ってなかったか?」

 

 何気なく聞いた俺の言葉に、ひとりの肩が跳ねた。

 

「あ、あれはその……実は……」

 

 言い淀んだひとりに、一緒にトイレに行ってました、なんて可能性に今更気付いた俺は途端に変な汗が出て来た。やばい、今の質問やっぱりなかった事に出来ないだろうか。

 

 なかなか言い出さないひとりだったが、遂に観念したように話し出した内容は中々衝撃的な物だった。

 

 

 

「虹夏ちゃんに、私がギターヒーローだってバレたんだ……」

 

 

 ……やっぱりあの人探偵かなんかだろ。




廣井さんは動かしやす過ぎてヤバイ。

次回番外編です。



閲覧、お気に入り、感想などその他諸々ありがとうございます。自分の中の承認欲求モンスターが出てくるので返信などは出来ませんが全て読ませてもらっています。
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