ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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連続投稿すれば……バレへんか


011 if another end 01 MerryBadEnd 

 結束バンドの初ライブ。一曲目が終わり、ステージ上の泣きだしそうな顔のひとりに見つめられて、何も返す事が出来なかった俺は、ひとりが立ち尽くしたまま二曲目に入るのを見守る事しか出来なかった。

 

 結局白けた空気のまま三曲目が終わり、たいして客も盛り上がらないまま結束バンドの初ライブは終わってしまった。

 

 お通夜みたいな打ち上げで、いつも表面上だけでも厳しい事を言っている店長達がみんなを必死に慰めているのが印象的だった。

 

 初ライブが終わり、もうすぐ新学期が始まる直前に虹夏先輩から連絡が来た。

 

「もしもし、虹夏先輩どうしました?」

 

 電話に出ると虹夏先輩からひどく困惑したような声が聞こえて来た。

 

『あっ太郎君? 実はぼっちちゃんからロインが届いてね…………バンドやめますって……』

 

「…………は?」

 

 虹夏先輩の言葉の意味がよく分からなかった。詳しく聞いてみても、虹夏先輩もよく分からないらしい。

 

『三日前に届いてね、それきり連絡がつかないの……ロイン送っても既読も付かないし……それで太郎君なら何か知ってるかなって思って電話したんだけど……』

 

 もしかして初ライブの失敗を引きずっているのだろうか? 確かに初ライブはいまいちだったかも知れないが、廣井さんも言っていた、最初はそんなもんだと。

 

「わかりました。取りあえずひとりに直接聞いてみます」

 

 そう言って電話を切ると、俺は急いで後藤家へと向かった。

 

 後藤家へ着いておばさんに話を聞くと、あれからずっと部屋に篭っているらしい。ふたりちゃんも気を遣っているらしく、事態は中々に深刻そうだった。

 

「ひとりー、入るぞー」

 

 おばさんに案内されて部屋の前まで来たが、反応はなかった。ゆっくりと襖を開けて中を見ると、部屋の電気はついていなかったが、押し入れの方からギターの音色が聞こえて来る。

 

 押し入れの襖をゆっくりと開けると、ノートパソコンを見ながら演奏しているひとりがいた。肩ごしに画面を覗いて見ると、どうやら俺の演奏動画らしい。

 

 ヘッドフォンを付けている為かまだこちらに気付いていないひとりは、どうやら俺の動画の曲に合わせてギターの演奏をしているようだった。

 

 辺りを見渡して収録では無い事を確認すると、俺はひとりのヘッドフォンを後ろから両手で外して持ち上げた。

 

「おいひとり、ちょっと話があるんだが……」

 

「ひゃあ!!」

 

 ひどく驚いたひとりは飛び上がって頭をぶつけていた。ちょっと悪い事をしたかも知れない。

 

 そのまま外に出るように促すと、ひとりはのそのそと押し入れから這い出して来た。

 

 部屋の中央の机を挟んで向き合うように座ると、ひとりは俯いたまま酷く居心地が悪そうにしていた。おそらく今日俺が来た理由が分かっているのだろう。

 

「あー……虹夏先輩に聞いたんだが……バンドやめるんだって?」

 

「…………う、うん」

 

「…………やっぱりあれか? 初ライブの事か? ……でも廣井さんも言ってたけど、ああいう事はそんなに珍しい事じゃ……」

 

 なんとかフォローしようとした俺に、ひとりは精一杯に虚勢を張って引きつった笑みで答えた。

 

「あ、あはは……や、やっぱり私には無理だったんだよ……私みたいな陰キャにバンドなんて……」

 

「そんな事……!」

 

 否定しようとした俺に、ひとりは拒絶するように言い放った。

 

「もう……いい……伊地知さん(・・・・・)山田さん(・・・・)喜多さん(・・・・)も……もう関係ない!」

 

「! お前!」

 

 思わず襟首を掴んだ俺に、ひとりは固く目を瞑って耐えていた。

 

 沈黙が支配した部屋の中で、ひとりが涙を流しながら呟きはじめた。

 

「私……太郎君が良い……太郎君とバンド組みたい…………小学校の頃からずっと傍にいてくれて……ずっと好きだった太郎君と……!」

 

「お前……何言って……」

 

 気が付けば襟首を掴んでいた手は離れていた。しかしそんな事を気にする様子も無く、ひとりは涙を流しながら話し続けた。

 

「私、ずっと悩んでた……私だけがバンドやっていいのかなって…………太郎君を楽器に誘ったのは、私なのに……一緒にバンドやろうって誘ったのは、私なのに……! それなのに……私だけ楽しくていいのかなって、ずっと考えてた……

 

 だけど、太郎君やさしいから……自分はバンド組めなくても全然気にして無い振りして…………私の事……ずっと応援してくれて……

 

 だから、私嬉しかった……! 路上ライブで太郎君と一緒に演奏出来て……! 太郎君言ってたよね……? 私の動画見ながら、ずっと演奏してたんだって…………でも……それなら、私だって……

 

 私だって、ずっと太郎君の動画見ながら演奏してたんだよ……! ずっと……一緒に演奏する時の事考えて練習してたんだよ……! 

 

 太郎君が後ろにいてくれたから……私、路上ライブであんなに演奏出来たんだよ……! 

 

 太郎君が応援してくれたから……私、結束バンドも頑張ろうって思ったんだ……でも……! やっぱり駄目だった……」

 

 長い長い独白の後、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔になったひとりはそれきり俯いて黙ってしまった。沈黙に押しつぶされそうな部屋にはひとりの嗚咽だけが響いている。

 

 俺はひとりがそんなに俺とバンド組むのを楽しみにしてくれていると思ってなかった。ひとりがそんなに俺の事好いていてくれていると知らなかった。だけど……

 

 やっぱりひとりには同年代の友達と仲良く交流して欲しいのだ。今しかないこの時間を、俺とだけなんて寂しく過ごして欲しくは無いのだ。

 

 だが俺がどこのバンドにも入らずに、ひとりに余計な心配をかけたのは事実だ。

 

 俺はゆっくりとひとりの前に座り込むと、やさしく声を掛けた。

 

「なあひとり。もし俺が今からでもどこかのバンドに入ったら。お前は安心して結束バンドに戻れるか?」

 

 ひとりは首を横に振った。決意は固いってか? なかなか強情な奴だ。

 

「まあでも少し時間をくれ。なんとか探してみるからさ。そしたらちゃんと虹夏先輩達に謝って、それで今度こそ対バンしようぜ」

 

 そう言って俺はひとりの頭を撫でてやると、立ち上がって部屋を出た。

 

 その後詳しい事は書かずに、虹夏先輩にロインで少し時間を貰えるようにだけ頼みこむと、了承の返事が来たので俺はどこか入れるバンドを探すことにした。

 

 新学期が始まってすぐ、俺は放課後に軽音部室へ向かった。もちろんバンドに入ってひとりを安心させるためだ。

 

「一年の山田太郎です。ドラム希望です。よろしくお願いします」

 

 以前に会ったことがある部員は歓迎してくれたが、他の軽音部員は皆困惑していた。そりゃそうだ、こんな夏休み明けの中途半端な時期に入部だなんて珍しいだろう。もう部員同士でバンドメンバーも固まっているだろうし、途中入部は邪魔でしかないのかもしれない。

 

 とりあえず仮入部という事で軽くドラムを叩いて見せる事になったのだが、俺の腕前に顧問や部員たちが色めき立った。

 

 特に顧問の反応が顕著で、顧問の鶴の一声で固定されていたバンドを崩してまで、軽音部で一番上手いギターとベースが連れてこられて、俺と組むことになった。だがここからが地獄の始まりだった。

 

 部活中は常に顧問の怒号が飛んだ。俺に、ではない。俺以外の部員に、だ。

 

 「ちゃんと山田のドラムに合わせろ」「どうして山田に合わせない」「山田はちゃんとリズムをキープしているぞ」「恥ずかしくないのか山田はまだ一年だぞ」

 

 三日もすると同じリズム隊のベースの先輩が部活に来なくなった。二番目に上手い人が新しく入ったが、その人も三日もすれば部活に来なくなった。ギターの先輩も顧問の怒号に耐えられなくなったのか五日もすれば来なくなった。

 

 居心地の悪さと、このままでは軽音部が崩壊すると思った俺は、七日目に部活をやめた。幸い仮入部だったのですんなりとやめる事が出来た。顧問の引き留めは凄かったが。

 

 軽音部をやめてから、学校での俺はさらに孤立した。そりゃそうだ、あれだけ仲の良かった軽音部を荒らすだけ荒らしてハイさよなら。なんて事をした奴に仲良くしてくれる奴はいない。

 

 俺は廣井さんに頼んでメンバーを探してもらったが、成果は芳しくなかった。理由はSIDEROSに断られたのと同じだ。正確に言うと、入る前に廣井さんが握りつぶしたと言った方が良いだろう。

 

「実力が離れ過ぎてるとバンドが潰れかねないからねぇ……」

 

 廣井さんはそう言って電話先で困ったように笑った。たしかにその通りだった。俺も軽音部で経験したからな。

 

 廣井さんを通さずにバンドを組んでもみたのだが、俺のおかげ(・・・)であっという間にバンドが二つ解散してからは、そんな気も無くなってしまった。

 

 結局俺は上手い具合にバンドに入る事が出来なかった。それはつまり、ひとりが結束バンドに復帰しない事と同義だった。

 

 新学期が始まり二十日が経った頃、俺はひとりと共にSTARRYを訪れた。バイトを辞める事を伝える為と、ひとりが正式に結束バンドを脱退するのを伝える為だ。

 

 ここに来るまで再三ひとりに確認したが、ひとりの意志は固く、説得は不可能だった。

 

 店長と虹夏先輩に頭を下げて説明した。虹夏先輩は最後までひとりを説得していたが、ひとりは最後まで首を縦に振らなかった。

 

 虹夏先輩が涙を流しながら外へ出ると、店長が優しい声で話しかけて来た。

 

「気にしなくていいよ、あいつは子供だから今は納得できないだろうけど……こういうことは珍しく無いんだから……」

 

 俺は今日店長や虹夏先輩に殴られる覚悟で来た。いや殴って欲しかったのだ。そうすればなんだか許されたような気がするから。しかしそうはならなかった。だからこれはきっと罰なのだ。俺はこの先、ずっと虹夏先輩の涙と、店長の優しい顔を思い出すのだろう……

 

 店長に見送られてSTARRYを出た俺達は、久しぶりに、本当に久しぶりに手を繋いで帰った。あれほど人が多かった下北沢に、なんだか俺達二人だけが取り残された様な気分だった。

 

 

 

 俺もバンドに入れず、ひとりも結束バンドをやめてしまい時間が出来た俺達は、前に虹夏先輩が言っていた、ギターヒーローとドラムヒーローでのコラボ動画を撮る事にした。

 

 ひとりを連れてスタジオへ行き、二人で今の売れ線バンドの曲を演奏した。

 

 結果から言うと、この動画は大いにウケた。

 

 お互いの動画登録者は十五万人を超えて、WEBなどで取り上げられる事もあった。

 

 さらに何本か動画を上げて、登録者数が二十万を超えた辺りでテレビの取材の申し込みが入った。

 

 話を聞けばかなりお堅い音楽番組で、俺達の年齢に反しての演奏技術の高さに興味を持ったらしい。

 

 お互いの親を交えて説明を受けて、顔出し無し、本名無しの取材を了承して、後日取材という事になった。

 

 取材の当日は物腰の柔らかそうな中年女性がやって来た。恐らくこれは前もって伝えておいたひとりの人見知りに対する配慮だろう。

 

 取材で俺達は、小学校からの幼馴染である事、中学一年の時から楽器を始めた事、親からの勧めで動画投稿を始めた事、平日は六時間、休日は十時間、毎日練習している事などを話した。

 

 取材が終わってからも俺達は各自で動画を投稿したり、コラボ動画を投稿している内に、またしてもろくに参加出来ないまま文化祭は終わり、十一月になった。ひとりに聞けば喜多さんとのギター練習は文化祭を境に自然消滅してしまったらしい。

 

 いよいよ前に受けた取材の番組が放送されると、これが世間で大いにバズった。

 

 ギターヒーローファンやドラムヒーローファン以外にもこの放送は刺さったらしく、一途な努力が実を結ぶ事や若い世代の新しい音楽の才能なんかが好評だったようだ。

 

 この頃ひとりのギターが故障するという事が起きたのだが、その時ひとりの親父さんが広告収入を設定してくれていた事が判明した。ひとりに聞くと俺達のコラボ動画や、取材の影響で再生数がとんでもない事になっていたらしく、かなりの金額が入って来たらしい。

 

 そんな物があるなんて知らなかった俺は滅茶苦茶後悔したが、なんとうちの親も広告収入を付けておいてくれていた! なんでも親同士で話し合って決めていたらしい。

 

 ひとりは壊れた親父さんのギターを広告収入で修理すると、親父さんの勧めもあり新しいギターを音ハウス(楽器の通信販売)で購入していた。俺は騒音問題があるのでドラムなんぞ買えないので、お金が有ってもスタジオ代になるのだが……

 

 この放送の後、驚くことに俺達の事をドラマにしたいといったオファーがやって来た。なんでも十年来の男女の幼馴染で、共に音楽の才能があり、共に努力して行動して世間に認められた、というドラマ性がお偉いさんの琴線に触れたらしい。

 

 またしても親を交えてよくわからない説明を受けて、これを了承すると、映像制作がスタートしたようだった。

 

 最初はひとりのルックスを見た関係者から、是非ひとり自身を主演女優に! とのアプローチを受けたが、ひとりがむむむむむ無理ですと断った為普通に女優が使われることとなった。

 

 しかしなんとか俺達を絡めたかったテレビ局の思惑で、なんと俺達はテレビドラマの主題歌の演奏を任されることになった。

 

 取材の番組が放送されてから、他の演奏系動画投稿者からぜひコラボしましょうとの連絡が絶えなかったが、顔も知れない他所の投稿者をひとりが怖がった為に結局ひとつも実現しなかった。

 

 ドラマが放送されるまでは比較的静かに過ごして、俺達は二年生になった。俺達は相変わらず例の謎スペースで二人で弁当を食べているが、ひとりは喜多さんと同じクラスになったらしい。だが会話らしい会話は無いようで、ひとりは酷く疲れた様子だった。

 

 ドラマの放送が近づいてくると、俺達も主題歌の収録が始まった。ひとりはえらく緊張していたが、手を変え品を変えなんとか収録を無事終える事が出来た。

 

 この主題歌の別バージョンのジャケットを俺達二人の写真で、とのことだったのでここで初めて俺達は顔を解禁した。

 

 七月になってドラマが始まると、これがもうバカみたいに流行った。

 

 やはり実際に存在する男女の幼馴染という希少性が受けたのだろうか? 内容は俺達をモチーフにした恋愛プラス音楽ドラマで、若い女性に人気があるようだった。

 

 街には野暮ったく前髪を伸ばして、ピンクのジャージを着てギターケースを背負った女子高校生であふれ返った。

 

 そのおかげか俺達の動画登録者数もバカみたいに跳ね上がり、遂にお互い百万登録者を達成した。

 

 主題歌CDのジャケットが発表されて、俺達の顔が割れると、俺達の学校での扱いは百八十度変わった。

 

 今まで空気のように扱われていた俺達の周りには、常に人が溢れるようになった。喋った事の無い上級生から下級生まで、あらゆる人が周りに溢れた。酷い奴だと、金の無心にくる奴まで現れる始末だ。

 

 あれだけ敵視していた軽音部員もやってきた。俺と肩を組み、俺達は同じ部活でバンドも組んだことがある、などと周りの人間に自慢していた。

 

 ひとりの所にも沢山の人が訪れていた。大勢の人間にちやほやされてひとりは顔を崩していたが、その人混みの中に喜多さんの姿はなかった。

 

 だがそんな事も長くは続かなかった。ひとりは顔が良くて引っ込み思案だ、それに気付いた奴が、ひとりをストーキングし始めたのだ。

 

 周りの人間のおかげで比較的すぐに解決したが、ひとりは学校を怖がるようになった。席を立つときは常に鞄を持ち歩くようになり、昔以上に俺の傍を離れないようになった。

 

 学校ではそんなトラブルに見舞われながらも、CDが売れないと言われる時代に、俺達のCDは百万枚という驚異的なセールスを記録した。

 

 動画サイトで演奏を見た人やCDを買ってくれた人たちで、俺達の演奏を生で見たいという問い合わせがかなりの量あったらしく、よく分からないうちになんと武道館ライブが決定した。

 

 しかしここで問題が発生した。そう、ひとりの人見知りだ。

 

 用意した演者ではどうしてもうまく演奏が出来ないひとりに酷く困った担当者は、ひとりの幼馴染である俺になんとかならないか相談してきた。

 

 俺が、知り合いなら何とかなるかも知れない、ただその人は他にバンドを組んでいるので、採用するなら対バン方式でやって欲しい旨を伝えると、難しい顔で悩んだ担当者は演奏の腕を見て決めるから知り合いを呼んで欲しいと頼んできた。

 

 そうして俺は、自分のスマホの家族や後藤家を除いて登録されている、たった三人の知り合いの一人に電話を掛けた。

 

 

「もしもし、俺です。太郎です。廣井さん生きてますか?」

 

 

 廣井さんは突然の連絡に大層驚いて、そして俺達の活躍を喜んでくれた。

 

 そんな廣井さんに事情を話すと、二つ返事で来てくれる事になった。

 

「やっほ~太郎君、ぼっちちゃん。ひさしぶり~」

 

 後日やって来た、相変わらず酒でぐでんぐでんの廣井さんを見て、なんだか俺は嬉しくて涙が出そうだった。ひとりも久しぶりに会う家族以外の知り合いとそのあだ名にとても喜んでいた。何もかも変わってしまったと思ったけれど、廣井さんは変わらずにいてくれた事が、なんだか無性に嬉しかった。

 

 あの路上ライブから、まだ二年も経っていない事に驚きつつも三人で演奏すると、担当者は俺達の息の合った演奏と、廣井さんの技術の高さに一つ唸って快諾してくれた。

 

 そうしてSICKHACKを前座として招待する形で俺達の武道館ライブは開催され、大盛況で幕を閉じた。

 

 その後も俺達に演奏依頼は沢山入ってきているし、動画サイトの再生数も順調に伸びている。最近ではひとりに作詞や作曲のオファーも来ているらしい。

 

 プロとして活動するようになった俺達は、結局三年生に進級することなく秀華高校を中退した。理由としてはやはりひとりの高校でのストレスだった。俺だけ高校に残る事も出来たが、もうここまで来たら毒を食らわば皿までだ、という事でひとりと一緒に中退した。

 

 それから三年……俺達は数多くの曲を演奏して、ひとりは数多くの楽曲を作って来た。

 

 数多くのヒットを飛ばして、ありがたい事にもう一生食うに困らないだけのお金は稼いだ。

 

 ひとりも将来の心配をしなくていいようになり、有名にもなってちやほやされて毎日それなり(・・・・)に楽しそうだ。

 

 

 

 世間は俺達二人の事を輝かしい成功者だと称えるのだろう……しかし、俺はふと考えてしまうのだ。

 

 あの結束バンドの初ライブの日、ステージの上で今にも泣き出しそうになりながらこちらを見ていたひとりに、なにかやってやれることは無かったのだろうか……と。

 

 もし、あそこで俺が僅かでも何かひとりの力になれていたら、もっと違う未来があったんじゃないだろうか……

 

 今のこの未来は、結束バンドというかけがえのない物を犠牲にしてまで手に入れる価値が、本当にあったのだろうか……

 

 もしあの時、ひとりが結束バンドを辞めていなければ、今頃はひとりの周りにも沢山の仲間がいたのではないだろうか? もしかしたらSIDEROSの大槻さんとも仲良くなれていたような、そんな未来もあったかもしれない……

 

 様々なIF(もしも)に思いを巡らせていた俺は、溜息と共に一度大きくかぶりを振った。もう、全て過ぎ去った事だ。

 

 俺はゆっくりと椅子から立ち上がると、机の上に置いてあった自分のスマホをポケットへと無造作に突っ込んだ。そのスマホには今もなお、俺の過去への未練を表すかのように、自分の家族と後藤家以外の……三人の友人の名前が登録してある。




番外編です。

この話はですね、お前の小説幼馴染なのに後藤ひとりとの関係薄くない? って疑問から出て来た話です。

一応本編でも匂わせてはいるのですが、作者自身が幼馴染とはいえあんまりべたべたした関係ってちょっと違くない? と思っているので、本編ではあっさりに書いてます。なので本当は結構でっかい感情がひとりちゃんから主人公に向いてるぞって思ってもらえたら幸いです。

あと関係ないけど、10話の台風ライブは書くのに三日かかったのに、これは一日で出来たらしいですよ。
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