ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 ちょっと恐ろしい事に気が付いたんですけど、SICKHACKの志麻さんっているじゃないですか。私、ずっと志麻って苗字だと思ってたんですけど、岩下志麻って言う名前なんですね……電子の単行本派なんですけど、岩下って本人が自己紹介する場面は無かったと思うので、とりあえず志麻さん呼びでいきます。


013 申し込み四苦八苦

 俺は今、文化祭でのクラスの出し物を決める話し合いを、必死に睡魔と戦いながら聞いていた。

 

 幸い俺のクラスは文化祭への関心がそれ程高くないのか、あるいは文化祭を回って楽しむ方を優先しているのかは分からないが、演劇や飲食店などと言い出す人間は少なかった。

 

 どんな出し物に決まろうとも俺の貢献度が低い事は決まっているので、眠い目を擦りながら静かに机に頬杖を付きながら見守っていると、最終的に何かの展示をすることで決まったようだった。

 

「最後に、文化祭二日目の体育館ステージ出演希望の人は、この紙に必要事項を記入して生徒会室前の箱に入れて下さい」

 

 教室の前で話し合いを取り仕切っていたクラスメイトが、両手で持った紙を見せながら説明して締めくくった。

 

 そう言えば文化祭ライブがあったな……中学の時は結局メンバーが集まらなくて出られなかったが、ひとりは結束バンドで出るのだろうか? ……そう考えたらなんだかテンション上がって来たな! 

 

 今まであまり文化祭は楽しみでは無かったが、知り合いがあの壇上に立つと考えると、なんだか少しワクワクする。ちょっと文化祭を楽しみにしている陽キャの気分が分かったかもしれん。

 

 何となく浮かれた気持ちで放課後を迎えると、江の島に遊びに行った時にロインを交換した喜多さんから連絡が来た。

 

 校内でわざわざ連絡してくるなんて珍しいな、なんて思いながらスマホを見て、俺は思わず声を上げた。

 

『後藤さんが倒れて保健室に運ばれたみたい』

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 『倒れた』という穏やかでは無い単語に、俺は急いで保健室へ向かうと、そこには既に先に着いていた喜多さんがベッドの脇に置かれた椅子に座っていた。

 

「喜多さん、ひとりはどうです?」

 

「あっ、山田君。私もよく分からないんだけど、生徒会室の前で倒れてたらしくて……」

 

 ベッドを見れば、ひとりが頭に包帯を巻いて眠っている。前髪を手で除けて額を軽く触って見ると少しコブになっているようだった。壁にでも額をぶつけたのだろうか? 

 

 周りを見渡すと、ベッドの脇の机の上に置いてある皺になった紙がふと目に入ったので、手を伸ばそうとした所でひとりは目を覚ました。

 

「…………知らない天井だ……」

 

 開口一番何を言ってるんだこいつは……まぁ起き掛けにネタがぶっ込めるなら大丈夫だろう。

 

 とりあえず誰かに殴られたとかでは無いと判断した俺は喜多さんと共に声を掛けた。

 

「あっ……目、覚めた? どう? 具合は?」

 

「大丈夫かひとり?」

 

「あっ全然大丈夫です」

 

 俺達の声にゆっくりと起き上がったひとりはこちらへ向くと、はっきりした口調で答えた。

 

 素人の俺が見た感じだが、気分も悪く無さそうだし、口調もはっきりしているので本当に大丈夫そうだ。それに保健の先生が病院へと送って無いという事は多分そういう事なんだろう。

 

「後藤さん倒れたって聞いて心配しちゃった」

 

「本当だよ。一体何があったんだ?」

 

「えっ!? えっと…………ちょ、ちょっと転んで床に頭をぶつけちゃって……すみません……あっ……」

 

 心配する俺達の言葉に、ひとりはなんだかバツが悪そうにあちこち目線を泳がせながら、しどろもどろに言い訳を始めたかと思うと、何かを見つけたのか、俺達を通り過ぎた先の一点に視線を向けて小さく声を上げた。

 

「どうかした?」

 

「い、いえ……」

 

 喜多さんの疑問に短く返したひとりは、その後困った表情で石像の様に固まってしまった。

 

「……あっありがとうございます……私、もう少し寝てからバイト行きますんで……ごっご心配無く……」

 

「そう……? でも……」

 

 しばらくしてようやく再起動したひとりは、焦ったようにお礼を言うと、ふとんを被って横になってしまった。そんなひとりを心配したであろう喜多さんは、何事か言いかけてから俺の顔を見てきた。

 

「……そうね。じゃあ後は山田君にお願いしようかな。それじゃあ後藤さん、無理しないでね」

 

 喜多さんはこれから友達と用事があるようで、そう言うと席を立って保健室を出て行った。

 

 喜多さんを見送ると、俺は先ほどまで喜多さんが座っていた席へと腰を落とした。そして先程から気になっていた机の上に置いてあった紙を手に取った。

 

「なになに……おっ、秀華祭のステージ出演希望用紙か……バンド出演希望……結束バンド……」

 

「あっそれは……文字の練習に書いてただけで……」

 

 用紙を手に取って読み上げると、ひとりは慌てて布団から這い出して来ておかしな言い訳をしてきた。しかしやるならもっとマシな言い訳をしろ……

 

 そんなひとりに呆れながらも、俺は用紙に書かれた文字を読んで思わず笑顔になった。

 

「おお! 遂に出るのかひとり! 中学一年の時から夢見て、苦節三年だもんなぁ……俺も今日クラスで説明を受けて、ひとりが出るんじゃないかと思ってたんだよ!」

 

「そっそうなんだ……けど……やっぱり私、まだライブも碌にしてないし勇気が……」

 

 俺は感極まって興奮してまくし立てたが、ひとりはなんだか自信が無い様で、不安そうに俯きながら答えてきた。

 

 確かにひとりのライブ経験は、虹夏先輩に頼まれた助っ人での一回と、路上ライブでの一回、それと結束バンド初ライブの計三回しか無い。加えて観客数も俺が知る限りでは路上ライブの時の十五人位が最大値ではないだろうか。

 

 それに比べて学校の体育館は、仮に全校生徒の四分の一が見に来たとしても、二百人近い人数になる。そりゃあ確かにひとりじゃ無くてもビビッてしまうか。

 

「うーん、確かになぁ……そうだ! それじゃあちょっとどんな雰囲気なのか見てみようぜ。動画サイト探せば文化祭ライブの動画がどっかにあるだろ」

 

 悩んでいても仕方ないし、言っても文化祭ライブなんぞ素人高校生の集まりだ。実はそんなに盛り上がってもいないのかもしれない。

 

 俺は座る場所を椅子からひとりの寝ているベッドへと移し替えながら、スマホを取り出して動画を探してみる。それっぽい動画を見つけて再生すると、二人で体を寄せてスマホを覗き込んだ。

 

(イケメン陽キャ男子)(眩しい絆)(永遠の友情)(黄色い歓声)(クラスメイト達の声援)(一致団結)(最高の仲間)(謎のペンライト)

 

「「う”わ”ぁ”!!」」

 

 画面からあふれ出す情報の暴力に、俺達二人はライブシーンまでたどり着く事無く、揃ってベッドへと折り重なるように倒れ込んだ。

 

「ひ、ひとり……続きは頼んだ……」

 

「む、無理……太郎君こそ……言い出したんだから最後まで見てよ……」

 

 なんとか動画を止めて追撃は防いだものの、それ以上進軍できなくなった俺達はそのまま折り重なって倒れ伏しながら会話を続けた。

 

「いや、でも普段は目立たない奴が文化祭で実は……って王道展開だし、お前でも行けるんじゃないか?」

 

 なおも悪あがきの様に俺が言うと、重なるように俺の上でダウンしていたひとりは少し考えこむと、おもむろに切り出した。

 

「太郎君……想像してみてよ……」

 

 ひとりの言葉に従って目を閉じて思い浮かべる。ステージに上がる時のメンバー紹介……虹夏先輩やリョウ先輩で上がる歓声……そして続くひとり……静かになる会場……喜多さん登場で再び沸く観客……

 

「「露骨な温度差!!」」

 

 二人同時に血を吐いた。

 

「あっ……無理だ……」

 

 ひとりはゆっくりと起き上がるとゴミ箱に出演用紙を捨てたので、俺は一応の考えを伝えてみる事にした。

 

「もしお前が文化祭ライブ出るんなら……虹夏先輩達に頼んで、お前を借りてBocchisで出ようと思ってたんだけど、それでも無理か?」

 

 ひとりは驚いてこちらを見た。俺はその視線を受け止めるようにベッドに仰向けになったままじろりとひとりを見つめ返す

 

「ぼっちズって……あのお姉さんと三人で……? ……お姉さん来れるの? それに……曲は……」

 

 突然の提案にひとりが不安そうにこちらを見て来たので、俺はベッドの上で寝転びながら頬杖を付いた。

 

「廣井さんにはこれから頼んでみる。ダメだったら……俺達二人でやるか。ギターとドラムなら一応ツーピースバンドの体裁は整うだろ。ボーカルは……ひとりやってみるか? まあ最悪無くてもいいだろ。それと曲はなんか有名な奴のコピーになるな」

 

 俺の言葉、特にボーカル云々の部分にひとりは目に見えて狼狽えたかと思うと、そのうち目を固く瞑って考え始めた。恐らく大勢の前でのライブの重圧と出演を天秤にかけているのだろう。

 

 しばらく目を瞑ってぷるぷると震えながら考えていたひとりは、覚悟が決まったのか目を見開いた。

 

「~~~~~! ……ごめん」

 

 そういってひとりは力なく肩を落とした。

 

「いいよ、気にするな。まぁお前の気持ちも分かるしな」

 

 俺は軽く笑ってベッドに体を投げ出すと、ゆっくりと目を瞑った。

 

 伊達にひとりの幼馴染を十年もやっていないので、この返答も予想はしていた。それに確かにひとりの気持ちも分かるのだ。俺だって十五人程度の路上ライブで緊張したのだ、ただでさえ人見知りのひとりが、いきなり二百人……もしかしたらそれ以上の人の前で演奏するだなんて怖気づいても仕方ない。

 

 それに今は何もしていなかった中学時代と違って、ひとりはライブハウスでライブをしているのだ。今年は無理でも、来年、再来年にはひとりも大勢の前で演奏するのも慣れてくるかもしれない。なに、あと二年も時間はあるのだ。

 

 悩んでいる時は大変だが、結論が出ると気持ちが軽くなったので、俺は勢いを付けてベッドから起き上がった。

 

「ま、でも一応考えといてくれよ。確か締め切りはまだ先だろう? もし気が変わったら教えてくれ」

 

「う、うん」

 

 なんとなくひとりはまだ迷っているようだったが、ゴミ箱に捨てた用紙を拾う事は無かった。

 

 まぁ気が変わったらまた用紙は貰ってくればいいか。

 

 ひとりの怪我の具合を確認すると問題なさそうだったので、俺達はSTARRYへとバイトに向かう事にした。

 

 

 

 STARRYへ到着して、店長とPAさんへ挨拶すると、ひとりは流れるようにゴミ箱に入りはじめたので、俺は慌ててひとりの両脇を掴んで猫の様に引っ張り出した。

 

「えっ仕事してよ……なに……? なんかあったの?」

 

「すみません店長……実は……」

 

 文化祭の話をすると、店長もPAさんも一生に一度の青春の舞台という事で、ひとりの背中を押すような発言をしてくれていた。

 

 しかしPAさんが朝起きれないから高校を中退したと聞いた時は驚いた。ひとりは高校中退を目標にしている所もあるので、変に影響されるとまずいな、なんて考えてちらりとひとりの顔を伺うと、ひとりも微妙な顔をしていたので多分大丈夫だろう。恐らくPAさんとでは性格が違い過ぎて参考にならないのかもしれない。

 

「あれ? お姉ちゃんとぼっちちゃんが話してる。珍しい」

 

 いつの間にか虹夏先輩とリョウ先輩が入って来ていた。

 

 PAさんと店長に事のなりゆきを説明された虹夏先輩は文化祭ステージ出演に乗り気のようだった。

 

「ライブハウスとは違う良さがあるよ~」

 

「あれ? 虹夏先輩は文化祭ステージ出た事あるんですか?」

 

 確か虹夏先輩達の高校は進学校で、そう言うのが無いと言っていたと記憶していたので聞いてみると、虹夏先輩とリョウ先輩から中学時代に出た事があるとの答えが返って来た。その際にリョウ先輩はマイナーな曲を弾いて会場をお通夜にしたと誇らしげに話していたが、聞いてるこちらが恐ろしくなる話だ。

 

 さらに虹夏先輩とリョウ先輩は中学時代はお互い違うバンドを組んでいたらしく、今回結束バンドとして同じバンドで文化祭ステージに出てみたいと、楽しそうに話していた。

 

「とは言え、ぼっちの迷う気持ちも分かる」

 

 先程まで文化祭ライブに乗り気だったリョウ先輩が、突然真剣な顔で話し始めた。

 

「下手したら……というか絶対ここより多い人数の前で演奏する訳だし……だからそんなに焦って決める事でもないよ」

 

 優し気な声色でひとりへと語りかけたリョウ先輩を見て、俺は少し意外に思った。こう言っては失礼だが、リョウ先輩はあまり他人の感情に頓着しない人だと思っていた。

 

「……正直、お通夜状態だったライブたまに夢に見る……」

 

 それだけ言うとリョウ先輩は机に伏せてしまった。

 

 なんとなく気まずい空気が流れたので、俺は流れを変える為に、虹夏先輩に文化祭ライブでひとりを借りれるかどうか聞いておくことにした。

 

「虹夏先輩、実は俺も結束バンドが文化祭出るなら、ひとりと一緒に出ようと思ってるんですけど、ひとり借りる事って出来ますか?」

 

「えっ!? ……ああ! そうなの? うんうん、全然大丈夫! じゃあリョウと喜多ちゃんも一緒に貸した方がいい?」

 

「いえ、ひとりだけで大丈夫です。ベーシストは一応当てがあるんで」

 

「えっ!? そうなの? もしかして学校の友達とか?」

 

「いえ廣井さんです」

 

 その名前を出した瞬間、場の空気が凍った。

 

 皆一様に心配そうな顔を向けて来る。店長なんかあからさまに怪訝な顔をしている。

 

「え……もしかして太郎君、あいつになんか弱みを握られてるとか……?」

 

「えぇ……なんでそんな物騒な話になるんですか……違いますよ。大丈夫です」

 

「太郎君……何かあったら相談に乗るから何でも言ってね!」

 

「いや! だから大丈夫ですって!」

 

 どうしようもない位信頼が無い廣井さんのせいで、店長と虹夏先輩に凄く心配されてしまった。

 

 だが確かにあの酔っ払いを高校のステージに立たせるのはマズイ気もする……まさか酒ぶっかけたりしないよな? ちくしょう……もう少し廣井さんがまともならこんな心配しなくて済むのに……でもぼっちズにはあの人が必要なんだよ……

 

 俺が皆に慰められていると、いつの間にか元に戻ったリョウ先輩がなにやら真剣な表情でこちらを見ていた。

 

「リョウ先輩どうしました?」

 

「…………いや、もし太郎も文化祭ステージ出るなら楽しみにしてる」

 

「まぁ、出るかどうかはひとり次第ですけど、頑張りますよ」

 

 俺の言葉に頷いたリョウ先輩は、それきり興味を無くしたように黙ってしまった。

 

 結局ひとりの悔いが残らない様にするのが良い、という事でこの話はおしまいになった。

 

 

 

 

 翌日の通学途中に、俺はひとりに文化祭ステージをどうするかの結論を聞いてみる事にした。

 

「すみません……昨日は行けそうな気がしたんだけど無理です……でも、みんなも私が悔い無い方にって言ってくれたし、大失敗したら高校生活耐えられる気がしないし……ライブハウスでの演奏もガチガチだし、文化祭ステージなんて……」

 

「うわ凄い喋る」

 

 流暢につらつらと言い訳を重ねるひとりに俺は驚いたが、ひとりは畳みかけるように話し続けた。

 

「やっぱり私は、売れて人気になった時に、「まさかあの後藤さんが!?」とか「サイン貰っとけばよかった~!」とか、そういう路線を目指すよ! はぁ~……目指す道がはっきりして悩みも解消されたよ」

 

「……そっか」

 

 一息に話し終えたひとりは、すっきりとした表情でこちらを見て来たので、それがひとりの決断なら俺が言う事は何もなかった。

 

 あれだけ早口でまくし立てるのを見るとまだ思うところがありそうな感じはするが、これ以上追求するのも酷な気がした。文化祭はまた来年だってあるのだ。

 

 そう思っていたのだが、学校に着いてから事態は急変した。

 

「後藤さん! 山田君! おはよう!」

 

 教室へ向かって二人で歩いていると喜多さんに声を掛けられたので、俺達は挨拶を返した。

 

 喜多さんは昨日保健室で俺達と別れた後、ひとりの体調が気になって保健室へ戻ったらしい。

 

 それを聞いたひとりが申し訳なさそうに謝っていたが、なんだか俺も申し訳ない気分だ。そういう事ならロインにでも連絡をくれれば良かったのに、なんて思っていたら喜多さんからとんでもない発言が飛び出した。

 

「あ、あと出しておいたからね」

 

「「えっ」」

 

 俺達二人から間抜けな声が漏れた。そんな俺達の間抜け面など気にする事無く、喜多さんは楽しそうに続けた。

 

「文化祭の個人ステージ。結束バンドで出場するのよね!」

 

「あぇ?」

 

 ひとりは今度こそ驚き過ぎて、前衛美術の絵画の様な顔になった。

 

「もうすっごく楽しみ! 保健室のゴミ箱に間違って入っちゃってたの! 危なかったね!」

 

 喜多さんは笑顔でとても待ちきれないといった様子で話している。余程文化祭のステージに出るのが楽しみなのだろう。こういうのを見ると喜多さんが陽キャなのを再確認させられる。

 

「えっ!? ちょ……喜多さんアレ出したんですか? え? ちょっと待って下さい。あの用紙って締め切りいつでしたっけ? まだ間に合いますよね?」

 

「え? ええ。まだ間に合うと思うけど……」

 

 あまりの急展開に、俺は慌てて鞄をひっくり返してぼっちズの出演用紙を探し出すと、崩れた顔のまま気を失ったひとりを喜多さんに任せて、生徒会室前まで用紙を提出する為に走る事になった。まさかこんな事でひとりとの初文化祭ライブがお流れになっては笑えない。

 

 なんとか用紙を提出した俺は一安心したのだが、文化祭ライブを不参加と決断したのに、不意打ちで参加が決まったひとりは、あまりのショックに放課後になってもまともに話す事すら出来なかったので、仕方なくそのままSTARRYへと連れて行く事になった。

 

「それでずっとこんな感じなんだ……」

 

 STARRYに置いてあった棺桶のインテリアにひとりを押し込んで寝かせていると、説明を聞いた虹夏先輩が呟いた。

 

 リョウ先輩から今からでも参加を取りやめてはどうかと助言があったが、喜多さん曰く一度提出すると取り消せないらしい。

 

 一向に目を覚まさないひとりに皆で困っていると、STARRYの扉が開き、聞きなれた声が聞こえて来た。

 

「やっほ~~。タダ酒飲まして~~」

 

「飲ませるか消えろ」

 

 一升瓶を抱えて入って来た廣井さんは、店長の辛辣な物言いにも大して堪えた様子も無く虹夏先輩へと抱き着いて店長への愚痴を言っていたが、その虹夏先輩にも邪険にあしらわれて今度は俺に抱き着いて絡んできた。

 

「はぁ~……やっぱり私の事を大事にしてくれるのは太郎君だけだよ……太郎君が二十歳(ハタチ)になったら一緒にお酒飲もうね~太郎君の奢りで」

 

 くそう……また嫌な予約が入ってしまった。まぁそれは別に構わないけど、俺が二十歳になるまで廣井さんが生きてるか不安ですよ。

 

 俺が前の二人程邪険に扱わなかった事に満足したのか、棺桶に入ったひとりを見つけた廣井さんは不思議そうにひとりに声をかけた。

 

「ぼっちちゃ~ん……どうした? 何か心配事?」

 

「文化祭のステージに、私が勝手に申し込んでしまって……」

 

 喜多さんの説明を聞いた廣井さんは、ひとり達が文化祭のステージでライブをする事をとても楽しそうに喜んでいた。

 

 すると今まで静かに横になっていたひとりが、ゆっくりと勢いも付けず、全くブレる事無く上半身を起き上がらせたのを見て俺は目を丸くした。

 

 ふとした時に思うのだが、こいつ体幹強すぎるだろ……ツイスターとかでも平気でブリッジしたりするし、もしかして俺より筋力あるんじゃないか……? 

 

 起き上がったひとりは廣井さんに文化祭ステージがいかに不安であるかを打ち明けていたが、ひとりの話を聞き終わった廣井さんはスカジャンのポケットから一枚のチケットを取り出した。

 

「ぼっちちゃん、これあげる。今日、私のバンドライブすんの~、良かったら見に来なよ~」

 

「えっ!? いいんですか!?」

 

 廣井さんから何か貰える事にひとりが大層驚いていたが、廣井さんは気にする事無くポケットからさらにチケットを取り出すと、虹夏先輩達にも配り出した。

 

「はい、太郎君も」

 

 前回もタダでライブを見せて貰ったのに、今回もまた奢られるのは非常に悪い気がしたので俺がチケット代を支払おうと財布を取り出すと、虹夏先輩と喜多さんも財布を取り出し始めた。

 

「いいよぉ、あげるあげる」

 

 廣井さんは俺達の仕草を見てそう言い放った。曰く自分は高校生から金を巻き上げる貧乏バンドマンではない。チケットノルマは余裕だし、物販でも稼いでいる。と語っている。

 

「こう見えても私、インディーズでは結構人気バンドなんだよぉ。ねっ」

 

 そう言って俺とリョウ先輩を見て来たので、俺達は頷いた。

 

 虹夏先輩や喜多さんはどうにも信用していないようだが、残念? ながらそれは事実だ。俺が見たライブでも五百人位入っていたみたいだし、なんといっても俺も物販を購入した一人だ。

 

「……じゃあなんでいつも安酒ばっかり? それにシャワーもウチで借りてくし……」

 

「家賃払え」

 

 しかし俺とリョウ先輩の援護も空しく虹夏先輩と店長に詰め寄られた廣井さんは、苦笑しながら現在の貧乏生活の実態を白状した。

 

「泥酔状態でライブするから毎回機材ブッ壊して、全部その弁償に消えてるの……」

 

 廣井さんの告白を聞いた俺はSIDEROS試験の際に大槻さんが予約したスタジオへ向かう時に、付いて来た廣井さんが言った言葉を思い出して肝を冷やした。あの時は誇張か何かだと思っていたが、まさか本当にぶっ壊していたとは……そりゃ吉田店長もスタジオ貸してくれねーわ。

 

 廣井さんは嫌な事を忘れるかのように、持っていた酒の一升瓶をラッパ飲みすると深く息を吐いた。

 

「て言うか禁酒しろよ。ライブ活動する前は全然飲んで無かったろ。体壊すぞ」

 

「えっ、そうなんですか? うわぁ想像つかないですね。泥酔してない廣井さんってどんな感じだったんですか?」

 

 珍しく優し気に廣井さんの体を労わっていた店長の言葉に、俺は驚いて聞き返した。他の皆も同じ感想らしく興味津々の様子で店長の返答を待っている。

 

「昔のこいつ? そうだな……実はこいつ昔は……」

 

「まあそんな事はどうでもいいじゃん! みんな新宿にレッツゴー!」

 

 店長の言葉を遮るように廣井さんは大きな声を上げた。どうやらあまり触れて欲しくない過去のようだ。

 

 廣井さんはそのまま立ち上がり千鳥足で歩き始めたので、仕方なく肩を貸してやることにした。おっとSTARRYを出る前に、廣井さんが粗相をした時用のビニール袋を店長に貰っていかないとな。

 

 道中リョウ先輩がSICKHACKのライブがタダで見れる事に感動していたが、正直俺はチケット代を払いたかった。別に廣井さんを助ける為とかでは無く、このまま奢られ続けるとなんだか怖い事になりそうな気配がビンビンしているので、これが気のせいであることを祈るばかりだ。

 

「ねぇ太郎君。お姉さんってどんな音楽してるの?」

 

 ひとりが俺だけに聞こえる位の小声で話しかけて来たので俺は少し考えてから、「なんかウネウネした感じの奴」と答えておいた。俺の説明に要領を得なかったのかひとりは困った顔をしていたが、まあ聞いてのお楽しみって事で。

 

「ここがぁ、私のホーム、新宿FOLTでーす! さぁ入って入ってー」

 

 途中新宿駅の人の多さに怯んだひとりを励ましながらなんとかFOLTへと辿り着くと、廣井さんは俺の肩から離れて皆を先導しながら中へと入って行った。

 

 やはりFOLTの雰囲気は少し怖い様で喜多さんやひとりが不安そうにしていたが、虹夏先輩の「ウチと変わらないよ」との言葉に少し安心したようだった。

 

「あっ」

 

 歩きながらふと横を見たひとりの動きに釣られて、そちらに視線を向けた俺は思わず声を漏らしてしまった。

 

 そこにはテーブルに両肘をついてこちらを睨むように見つめる大槻さんがいた。

 

 顔を向けた事で向こうも俺に気付いたのか僅かに嬉しそうに表情を緩めたかと思うと、慌てた様子ですぐにまた先程と同じようなムスッとした表情に戻ってしまった。

 

 大槻さんに睨まれて怯えてしまったひとりを安心させる為に話しかけようかとも考えたが、テーブルの両脇に女性が二人座っていたので俺は会釈だけして通り過ぎる事にした。陰キャは友人の友人がいると話しかけられないのだ。

 

「銀ちゃーん、おはよー」

 

「あぁ……?」

 

 廣井さんの挨拶に、奥でお金を数えていた吉田店長がこちらを見た。その眼力とドスの聞いた低い声に虹夏先輩がぷるぷるの涙目になってしまったのを見て、吉田店長は訝し気にこちらを眺めている。

 

「この人、店長の銀ちゃんねー」

 

「あっお久しぶりです。山田です」

 

「! あらぁ~! 山田君じゃない。ひさしぶり~」

 

 こちらを訝しんでいた吉田店長と目が合ったのでとりあえず挨拶しておいた。すると向こうもこちらを覚えていてくれたみたいで、両手を振って笑顔で返してくれた。

 

 廣井さんの紹介に加えて俺という顔見知りがいたお蔭か、吉田店長は先程の怖い雰囲気を霧散させて乙女モード全開で自己紹介を始めたが、見た目とのギャップに結束バンドのメンバーは目を丸くして自己紹介を聞いていた。

 

 そんな時、少し怒気を含んだように廣井さんを呼ぶ声が後ろから聞こえて来た。

 

 皆で振り返るとSICKHACKメンバーである志麻さんとイライザさんがこちらへと歩いてきた。

 

「あれ? 山田君。もしかしてまた廣井を連れてきてくれたんですか? おい廣井、あんまり迷惑かけるなよ。あと遅刻するな」

 

「太郎! Thanks! でももうリハーサル終わっちゃいましたヨ!」

 

「いえ今日は……まぁ連れては来たんですけど……なんかすみません」

 

 志麻さんとイライザさんに詰め寄られた廣井さんは、悪びれた様子も無く一升瓶片手に軽く謝るだけだった。

 

 その後、自己紹介と最近の廣井さんの迷惑料という事で虹夏先輩に紙袋を渡した志麻さん達は、ライブの準備という事で奥に引っ込んでいったが、その間際俺は廣井さんに呼び止められた。

 

「あっ! 太郎君は私の目の前の最前列に陣取っといてね~」

 

 廣井さんの目の前なんぞ何が降って来るか分からなくて恐ろしいのだが、ご指名された以上仕方ない。できれば志麻さんのドラムが見たいのだが……

 

 期待三割、渋々七割くらいの気持ちでひとり達と別れて、廣井さんが出て来るであろう場所の目の前に陣取った俺は急に横から声が掛けられた。

 

「ちょっと山田太郎。なんでさっき無視したのよ!」

 

「うわびっくりした! ……なんだ大槻さんじゃないですか。今日は廣井さんのライブ見に来たんですか?」

 

 隣を見れば睨むような視線を向けてくる大槻さんがいた。正直急にデカい声で呼びかけるのはやめて欲しい。陰キャは急なでかい音が苦手なんだよ。

 

「まぁそうだけど……それよりさっきの……」

 

「ああ、すみません。さっきは同じテーブルに女性が二人いたんで、お友だちかバンドメンバーだと思って声が掛けられなかったんですよ」

 

 俺がそう言うと、大槻さんは考えこむように眉間にしわを寄せた。

 

「なんだったらそっちから声掛けて下さいよ」

 

 大槻さんはたじろぎながらもさらに深く眉間にしわを寄せた。文句は言いたいが、正論パンチに手が出せないような表情だった。

 

 大槻さんは気持ちを仕切り直すように一度自分のツインテールの片方を手で払うような仕草をみせると、あからさまに話題を変えて来た。

 

「そ、それにしても意外ね。あなたドラムでしょ? それなら志麻さんを見た方がいいんじゃない?」

 

「いや……実は廣井さんのご指名でして……」

 

 俺がなりゆきを説明しようとすると、照明が落ちた。

 

 ゆっくりと舞台の幕が上がっていくと観客の熱気も最高潮になり、皆口々にSICKHACKメンバーの名前を叫んでいたので、俺も波に乗る事にした。

 

「うおおお! 廣井最強! 廣井最強!」

 

「何よその掛け声……」

 

 隣の大槻さんが困惑気味に聞いてきたが、細けぇことはいいんだよ。こういうのは勢いが大事なんだよ勢いが! 

 

 幕が上がり切ると、場所は合っていたようで目の前には廣井さんが居た。

 

 廣井さんは俺の叫び声で俺の場所を確認したのかこちらにチラリと目線を向けると、不気味な笑みをこぼした。

 

 演奏が終わると、マイクパフォーマンスだろうか? 廣井さんはマイクを持ってステージの前へと歩き出すと、そのままステージの端から空中を歩くかのように足を大きく踏み出して――

 

「ちょっと廣井さん! 下着が見え――って痛ってぇ!」

 

 躊躇なく下駄で俺の顔面を踏みつけた。

 

「新宿ありがとう! カス共最高!!」

 

 最高!! じゃねえよ! 痛ってぇわコレ。普通のスニーカーとかの平らな靴底ならまだしも下駄はイカンでしょ。リョウ先輩はこれに耐えたのか……

 

 しかし何故最前列に来いと言っていたのか疑問だったが、そういえば顔面を踏まれる約束をしていたな。完全に失念していた。

 

 幸いあまり体重を乗せていないのでまだ我慢できるが、このまま逃げれば廣井さんがバランスを崩してステージの下に落下してしまうので、まさか逃げる訳にはいかない。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫?」

 

「え、ええ。まぁなんとか……痛たた、ちょっと廣井さん! 下駄を動かさないで……おいやめろ!」

 

 隣にいた大槻さんが心配そうに聞いてきたが、無理ですって言う訳にもいかないのでなんとか我慢していると、急に顔面を踏み込むような痛さが襲ってきた。

 

「痛っ……」

 

 しかし次の瞬間、急に顔面の痛みが消失した事を不思議に思い目を開けると、観客に身を委ねるように飛び込んできた廣井さんの背中が写った。

 

「ちょ……!」

 

 慌てて受け止めようと手を上げると、四方から同じように手が伸びてきて廣井さんの体を受け止めた。そのまま観客の手に運ばれるようにして廣井さんの体は会場を一周してからステージへと戻って来た。

 

「あなた姐さんのライブ見た事あるんじゃないの?」

 

 俺の醜態に大槻さんは困ったように話しかけて来た。

 

「いや……確かに二回目なんですけど、前回はもうちょっと大人しかったもんで……」

 

 大槻さんの口ぶりからして、これがデフォルトなのかね? だとしたら今度からはもうちょっと後ろで見るようにしようかな……

 

 ライブが終わったのでひとり達と合流しようと思い大槻さんに一言声を掛けると、大槻さんに引き留められた。

 

「今度SIDEROSのライブも見に来なさい。そういえば、まだあなたに私の実力を見せてなかったから……」

 

「……じゃあライブの日程決まったら連絡下さい。ああ、それと俺も高校の文化祭でライブするんで、もし良かったら見に来てください」

 

 他人には試験までしたのに自分の演奏を見せていなかった事に思うところがあったのか、気まずそうにそう言ってきたので、俺は自分の文化祭へと招待すると今度こそ本当に大槻さんの元を離れる事にした。

 

 

 

「ようひとり、ライブどうだったよ?」

 

「うっうん。お姉さん凄い恰好良か……ってどうしたの太郎君!? 顔に赤い線が……」

 

「えっ? マジで? さっき廣井さんに下駄で踏まれたからそれかもな……」

 

 ひとり達と合流してFOLTの控え室でライブの感想など話ていると、タオルで汗を拭きながら廣井さんがやってきた。

 

「どうだった~私のライブ」

 

「めっちゃ痛かったです!」

 

「あっはは~……まあそれはね……私に踏んで貰えるなんてレアなんだぞ!」

 

 俺が顔を踏まれた痕をアピールしながらやんわりと抗議すると、廣井さんは苦笑しながら答えたが、最後は開き直ったようにヤケクソに笑った。

 

 下着がモロ見えだったのは言わない事にした。どう考えても完全に藪蛇だからだ。なにせ周りは女性ばかりだ、そんな事を言えばどうなるか分かったものでは無い。ただ、分かってやっているのならいいが、知らずにやっているのなら機会があれば伝えた方がいいのだろうか? ……何故俺がこんな事に気を揉まなければいけないのだ……

 

 廣井さんがなんとなく元気が無さそうなひとりの隣に座ってライブの感想を聞くと、ひとりは遠慮がちに話し始めた。

 

 ライブは最高だったが、自分には自信が持てないと語ったひとりの話を聞いた廣井さんはポツリポツリと自分の過去を話し始めた。

 

「私って実はさ、高校まで教室の隅でじっとしている根暗ちゃんだったんだよ」

 

 えぇ……そうだったんですか? お酒の力って怖ぇ……なんて茶化すような真似はしない。なんか真面目な話だから。でもそうか、だから廣井さんはあの路上ライブの時ぼっちズ(・・・・)を否定せずに入ってくれたのか。

 

 しかし廣井さんの話を聞くと余計に思ってしまう。かぁ~酒飲んでない頃の廣井さんに会ってみてぇ~! 酒を飲んだからこそ今の廣井さんがあるのは分かるけど、やっぱ見てみてぇ~! きっと凄ぇ美少女だった(・・・)んだろうなぁ~! かぁ~! 

 

 なんて事を考えていた罰が当たったんだろうか、立ち上がってひとりの話を聞いていた廣井さんをひとりが文化祭ライブに誘うと、嬉しかったのか廣井さんは壁に向かっておもむろに右腕を振りかぶった。

 

「いえ~い、その意気……」

 

 瞬間――俺の第六感に物凄いアラート音が鳴り響いて、これまでの廣井さんの発言が駆け巡った。

 

『多分また機材ぶっ壊されるって思ったんじゃない?』『毎回機材ブッ壊して、全部その弁償に消えてんの……』

 

「ぬわああ!! ちょっ、ちょっと待って下さい!!」

 

 突然立ち上がって廣井さんへと抱き着いた俺にその場の全員が驚いた。しかしそんな事には構っていられない。まずはこいつを何とかしないと。

 

「ええ……何なに急に……太郎君恥ずかしいよ……」

 

 いじらしく下を向きながら身をよじらせている廣井さんに、俺は悲痛な叫びを上げた。

 

「おいアンタ! 今何しようとした! 今すぐその右腕を下げろ! now! ハリー!」

 

 俺の必死の形相に廣井さんが不思議そうに右腕を降ろすと、一拍遅れて扉から吉田店長が顔を覗かせた。

 

「あら? 珍しく廣井ちゃん何にも壊して無いのね。良かったわぁ~、アタシも心が痛んでたのよ~」

 

 吉田店長の言葉に俺は脱力しながら廣井さんから離れると、元の席に戻っていった。誰か廣井さんを止めてやれよ……なんで俺がこんな心労を……もう廣井さんのお世話やーやーなの! 

 

 結束バンドの面々はこれからファミレスで文化祭ライブの相談をするらしいが、俺は廣井さんに頼みごとがあるので先に行ってて欲しいとお願いして一人残ると、廣井さんに話しかけた。

 

「すみません廣井さん。実は俺もぼっちズとして文化祭ライブ出ようと思ったんですけど、廣井さんベース&ボーカルとして一緒に出てくれませんか?」

 

「えっ!? 太郎こんなの出すんですカ!?」

 

「うっ……そ、そうです……ってこんなのって……」

 

 イライザさんの驚きは尤もだが、先程の廣井さんの昔話を聞くと尚更この人しかいないのだ。

 

「私は良いよー。曲はどうすんの?」

 

「ひとり達は結束バンドのオリジナルで行くみたいですけど、俺達は適当に今演奏できるコピーですね。今回は記念出演みたいなもんですし」

 

 俺が適当に最近流行した曲を挙げて廣井さんの様子を伺うと、イライザさんが声を上げた。

 

「! ズルイ! 私もソレやりたいです!」

 

 恐らく今俺が挙げた曲の中にあった、最近大流行したアニメの主題歌に食いついたのだろう。ズルイズルイと騒いでいる。

 

「それに私もjapanese High Schoolのブンカサイに行ってみたいです!」

 

「いやまぁ来るのは別にいいんですけど、予定とか大丈夫ですか?」

 

 俺が文化祭の日程を伝えると、イライザさんは見る見る涙目になってしまった。恐らく用事が入っているのだろう。

 

 イライザさんを慰めている廣井さんを見ながら、段々事態がややこしくなってきたのを感じた俺は、そろそろ退散しようと思い話をまとめに入った。

 

「じゃあ廣井さん、詳しい事は連絡するんで。俺はこれで……」

 

「ちょっといいですか山田君」

 

 お暇しようとした俺を、志麻さんが呼び止めた。

 

「……実は廣井から話は聞いていたんです。それで今日まで考えていたんですけど……」

 

 いまいち要領を得ない言い回しに、志麻さんの言葉の続きを待っていると、志麻さんの口から耳を疑うような提案が飛び出した。

 

 

 

 

 

「山田君。掛け持ち……という事になりますが、廣井と正式にバンドを組んでみる気はありませんか?」




多分期待してくれている人が居るかもしれないので先に言っておくと、主人公は文化祭ライブで演奏しません。

文化祭ラストは第一話書いた辺りから考えていたのでちょっと申し訳ないけど勘弁してね。

文化祭編終わってからがBand of Bocchisの本格始動の予定です。
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