ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 本当は次話が渋谷路上ライブの予定だったんですが、思ったより14歳の話が長くなったので次話でライオット参加話とか色々片づけて、その次が多分渋谷路上ライブになります。



017 ぽいずん変じて薬となる?

「あっあたしぽいずん♡やみ、14歳で~す☆」

 

 

 

「アポとかとってらっしゃいますか?」

 

 場違いなほど陽気な黒髪の少女? ぽいずん♡やみ14歳さんの挨拶を受けて、STARRYは水を打ったように静まり返ったが、そんな空気を全く気にする事無くPAさんが応対した。

 

 やはり似たようなキャラ(長い黒髪と萌え袖だけで判断)の扱いは慣れているのだろうか? もし俺とドカベンキャラが被るような奴が来ていたら、今頃血で血を洗う凄惨なホームランダービーが開催されていただろう。

 

 PAさんがぽいずん♡やみ14歳さんの先制パンチ(自己紹介)を綺麗にスルーした事を周りの皆が驚いたが、すぐにSTARRYには廣井さんやひとりという彼女以上にアクが強い者が居る事を思い出して納得していた。

 

 なぁに、この二人に比べたらぽいずん♡やみ14歳さんなんぞただの痛い恰好しただけの十四歳よ。と言うかこの人格好がそれっぽいだけで絶対14歳じゃねぇだろ……

 

 ぽいずん♡やみ14歳さんはPAさんの質問に悪びれた様子も無く謝ると、矛先を結束バンドの四人に向けた。

 

「下北沢で活躍中の若手バンド特集記事を書こうと思ってまして~」

 

 ぽいずん♡やみ14歳さんの言葉に虹夏先輩や喜多さんは自らのバンドの注目度の高さに大喜びだ。しかし名前長すぎるだろこの人、ぽいずんさん? やみさん? 14歳さん? なんて呼べばいいんだ? とりあえずぽいずんさんと呼んでおこう。

 

 未知との遭遇に怯えたひとりが俺の背中に隠れてしまった事を気にする事無く、ぽいずんさんは結束バンドに質問した。

 

「じゃあ早速しつも~ん! 今後の結束バンドの目標は?」

 

 結束バンドのメンバーは各々バラバラな目標を語っていたが、俺の背中に隠れるだけでは飽き足らず、ぽいずんさんに目も合わせずにそっぽを向いたまま答えるひとりの目標を聞いて俺は驚いた。

 

「あっ世界平和……」

 

 えぇーっ!? ひとりの夢ってそんなに大きいのかい!? ってマジかよ……俺は台風ライブの打ち上げで、ビルボード一位やグラストンベリー・フェスティバルとか言う世界最大のフェスに出るというでっかい夢を掲げたつもりだったが、まさか更に上があるなんて……やっぱりひとり、お前がナンバーワンだ。

 

 ぽいずんさんは皆の統一感の無い答えに張り付けた様な笑みで感想を返すと、途端に虹夏先輩達に興味を無くしたように突然俺の後ろに隠れていたひとりへと体を回り込ませて覗き込んできた。

 

「あっ(唐突)そう言えばギターの方って少し前にダイブで話題になった人ですよね!? ……って、もしかしてあなたは一緒に写ってた男子生徒ですか!?」

 

 何だこいつひとりに目を付けるとは中々見る目があるな……なんて思って見ていると、ひとりが隠れている壁役の俺の顔を面倒そうに見た途端、何かに気づいたぽいずんさんは急に俺への態度を変えて嬉しそうに話しかけて来た。

 

「なんであの時ダイブしたんですかぁ~。なんで受け止めなかったんですかぁ~。普段のライブからダイブしてるんですかぁ。お二人はどんな関係なんですかぁ。もしかしてお二人は付き合ってるんですかぁ~」

 

 

 虹夏先輩達をほったらかしにして、ダイブの動画の当事者である俺達に矢継ぎ早にしつこく絡んでくるぽいずんさんを、もしかしてこれ(・・)が目的か? と不審に思った俺は虹夏先輩へと視線を向けた。

 

 虹夏先輩も困惑した表情でこちらを見ていたが、俺と視線が合うと一つ頷いた。やはり虹夏先輩もこの不審者に思うところがあるのだろう。仕方ない、俺がなんとかするか。

 

 ぽいずんさんはやはり被害者である俺よりも、ダイブ当事者のひとりの方に興味があるのか熱心に話しかけていたが、ひとりは相変わらず未知との遭遇に心を閉ざしているようだった。

 

 さて、どうはぐらかそうかと俺は考えた。そうだな……取りあえず妹と兄貴って設定で行って見るか? それで文化祭の時は妹が勢い余って兄貴にダイブ、STARRYに二人でいるのもそんな妹を心配した兄貴がライブを見に来た……おっ? これは結構いい感じの筋書きじゃないだろうか? 

 

 取り敢えずそんな感じで行こうと思って口を開きかけると、店長が間に入って来た。

 

「すみませんうちでの迷惑行為はやめてもらえま……」

 

 店長! 良かった、これで俺のバカみたいな言い訳を使う必要が無くなって助かりましたよ。なんて思っていたら、間髪入れずぽいずんさんが涙目で店長に謝った事で店長の様子が変わった。

 

「ふぇ……ごめんなさい……」

 

「!? セツドアルコウドウオネガイシマスネ……」

 

 いや弱すぎんだろ、ぽいずんさんもしてやったりって顔してるぞ。そのヤンキーみたいな恰好は見掛け倒しですか……と思ったが案外そうかもしれない。店長は見かけによらずメッチャ良い人だからな……

 

 ぽいずんさんのぶりっ子(死語)に店長が負けたので、いよいよ進退窮まった俺はやはり例の設定で押し通そうと思った時、今度は虹夏先輩が唐突に叫んだ。

 

「……皆そろそろライブの準備しなきゃ!」

 

 俺に視線を向けてきた虹夏先輩が頷いたので、俺も小さく頷き返した。半ば強引に話を打ち切った虹夏先輩は、ぽいずんさんへ不審な眼差しを向けながらひとりを連れて奥に引っ込んでいったので、俺は一つ息を吐いてライブを見る為にその場を離れた。

 

「あっ太郎君。なんか揉めてたみたいだったけどどうかしたの?」

 

「あの人と何か話してたみたいだけど……」

 

 ステージの近くに行くと、いつもの様にひとりの眼前に陣取っていた一号二号さんが話しかけて来た。やはりあれだけ派手に話していると目立っていたのだろう。

 

 ちなみに今は太郎君と名前で呼ばれているが、少し前までは名誉顧問と呼ばれていた。名誉顧問とは俺が苦肉の策で付けた自分のあだ名だ。彼女たちはどこからか(多分虹夏先輩辺りだろう)俺がひとりの幼馴染だと知るとファン一号は俺だと言ってきた。

 

 しかし路上ライブでファンになってくれた二人にこそ一号二号を名乗って欲しかった俺は、その理屈なら一号はひとりのおじさんだが、身内がファンと言うのはおかしい、それよりひとりの演奏を聞いてファンになってくれた人こそ一号だ。そう反論した。

 

 その結果二人は身内はファンでは無いと言う主張は納得してくれたが、ライブハウスまでやって来る幼馴染を差し置いて一号二号を名乗るのも恐れ多いと悩んでいたので、じゃあ俺は名誉顧問で、と言ったら割とすんなりと通ってしまった。

 

 それから名誉顧問と呼ばれ出したのだが、年上の女の人に自分の事を名誉顧問と呼ばせるプレイをする奴は大体ヤバイ奴だろう、常識的に考えて。なので俺は泣いてお願いして名前呼びにして貰ったのだ。

 

 そもそも何なんだよ名誉顧問って……何する人なの? それに本当にファンクラブとか出来たら絶対煙たがられるやつじゃん……それによく考えたら零号とかの方がカッコよかったか? 

 

「いえ、なんか雑誌のライターさんらしくて……下北沢の若手バンドの特集で結束バンドを見に来たらしいですよ」

 

 俺の言葉に一号二号さんは先ほどの虹夏先輩達の様に、自分たちが応援しているバンドが評価されはじめた事を嬉しそうに喜んでいた。

 

 

 

 相変わらず本調子ではないが楽しそうに演奏しているひとりのライブが終わると、一号二号さんがひとりへとライブの感想を伝えに行くという事で俺も一緒に駆り出された。なんでも俺がいるとひとりがいつもより沢山喋ってくれるから、らしい。

 

 ひとりも最近大体同じ客が入っている為慣れて来たらしく、一号二号さんの差し入れを受け取りながら少しだが会話をしていた。

 

 そんなぬるま湯の様な環境にひとりが慣れた事に虹夏先輩が苦言を呈して、ひとりが小賢しい正論で反論していると、慌てた様なぽいずんさんが割り込んできた。

 

「あのっ!! その……まさか……まさかとは思ったんですけど……」

 

 ライブ前のふざけた雰囲気などまるで無くして、信じられない様な物を見た様に驚愕しているぽいずんさんは、自分の考えを確かめるように言葉を発した。

 

「その歌うようなギタービブラートのかけ方、所々に滲み出る演奏のクセ……絶対そう! 間違いない!」

 

 困惑と驚愕が入り混じった表情でひとりを見つめていたぽいずんさんは、ゆっくりと、しかし確信を込めて叫んだ。

 

「あなたギターヒーローさんですよねッ!!」

 

 

 

 俺はぽいずんさんを今までただの痛い人だと思っていた……が違った。この人は分かる(・・・)人だ。なにせ相変わらず実力の半分も出せていない、虹夏先輩が気付いた時よりも酷いひとりの演奏を聞いてギターヒーローと言う答えへ辿り着くとは……

 

 そんなぽいずんさんの渾身の叫びにイマイチ鈍い反応を返した喜多さん達を見て、ぽいずんさんが先程とは違う叫びを上げた。

 

「まさかあんた達知らないの!? このギターヒーローさんはねぇ!! 超凄腕高校生ギタリストでッ、それでいて男女問わず学校中の人気者でロインの友達数は千人越え彼氏はバスケ部のエースで更に超凄腕ドラマーの超リア充女子なのッ」

 

 いやちょっと待て、いつの間にか彼氏君が超凄腕ドラマーに成長してるじゃねーか……バスケ部エースと凄腕ドラムの両立なんて無理に決まってるだろいい加減にしろ。あれほど設定を盛るなって言ってたのに何をしてるんだこいつは……

 

「人違いじゃないですか?」

 

 ぽいずんさんの熱のこもった公開処刑(説明)を喜多さんがバッサリと切って捨てると、それに続くように虹夏先輩が叫んだ。

 

「そっそうですよ! その人とこのド陰キャ少女が同一人物に見えますか!?」

 

 ひとりの事を守る為なんだろうが二人とも容赦が無い。いや喜多さんは知らないから当然か。ひとりは言葉のナイフでもう全身傷だらけですよ。しかしひとりが自分で蒔いた種とはいえ他人の口から聞くとあの妄言は破壊力抜群だな……本物のリア充女子である喜多さんでもここまでハイスペックじゃねぇよ……違いますよね? 

 

 二人の言葉を聞いて冷静になったのか、ひとりを見ながら何やら考え込んでいたぽいずんさんは、暫くすると自分の中で結論が出たのか顔を輝かせた。

 

「やっぱりギターヒーローさんですよね!」

 

「なんで!?」

 

 皆何故その結論に至ったのか分からず混乱していたが、俺は少し違う。まさかこの人……演奏技術だけじゃなくてひとりの最先端ファッションを理解できる人なのか!? やべーなこの痛々しい不審者になんだか親近感が湧いて来てしまった。

 

「カリスマは一般人とは一味違うしッ!」

 

 やはりこの人痛い人だが見る目のある人だ。若干ギターヒーローという色眼鏡的な先入観が入っている気がしないでもないが、流石はマイナーとは言え音楽雑誌のライターだ。やっぱりバリキャリな大人()は見る目がありますねぇ。

 

「あっあの……あの……」

 

 ぽいずんさんの押しの強さに圧倒されているひとりが困ったように口を動かすと、ひとりの様子を見た虹夏先輩は俺の近くへと歩いて来た。そのまま俺の腕を掴んでぽいずんさんの前へ連れて行くと大きな声で宣言した。

 

「この人がぼっちちゃんの彼氏です!」

 

「……は?」

 

 誰が発したか分からない声が辺りに響くと共にその場の全員があっけにとられた。何言ってんだこの人。というか俺の考えてた兄妹設定がいきなり破綻したんだが……どうすんだよこの後……

 

ギターヒーローさん(その人)ってバスケ部のエースが彼氏さんでしたよね!? こんなパッとしない顔した男子がそんな凄い人に見えますか!?」

 

 俺の体は見えない刃物に貫かれた。まるで触れる物全てを傷つける白刃(しらは)の様な人ですね虹夏先輩は。だがなるほど、中々上手い言い逃れかも知れない。俺が傷つくという事を考慮しなければ。

 

「確かに……バスケ部のエースにはとても見えない……」

 

 うーん納得しちゃったよこの人。ままええわ。その方が都合が良い。

 

 ひとりの動画説明欄(虚言)を全面的に信じているのか、ぽいずんさんは再び悩み始めた。

 

「このパッとしない男子が彼氏って本当なんですか!?」

 

 考えても埒が明かないと判断したぽいずんさんは確認の為に直接ひとりに質問した。しかし会話のキャッチボールの度にいちいち俺を言葉で殴るのはやめろ。いらないだろパッとしないって枕詞は。

 

 ぽいずんさんに詰め寄られたひとりは未知との遭遇(ぽいずん♡やみ14歳)を恐れて顔を伏せていたが、誤解を解くために遂に顔を上げた。

 

「あっえっ……えへ……えへへ……」

 

 おい誤解を解け、なんでそんな嬉しそうなんだよ……と思ったが、分かったぞ。ひとり……否定しないって事はそう言う作戦で行くんだな? 

 

 俺はひとりの考えをいち早く読み取ると、作戦成功に向けてぽいずんさんの前に躍り出た。あなたとは出会い方が違えば同じ感性を持つ物同士、後藤ひとりファンとして同志になれたかもしれませんね……しかし今回は押し通らせて貰いますよ。

 

「虹夏先輩の言葉通り、俺がこいつの彼氏です」

 

「えっ!?」

 

 突然そう宣言した俺にひとりとぽいずんさんが同時に声を上げて驚いた。

 

 いやなんでひとりが驚くんだよ。虹夏先輩発案のバスケ部でも何でもない俺が彼氏の振りをして、お前がギターヒーローの疑いから逃れる作戦じゃねーのかよ。

 

 見ればひとりの顔はだらしなくふにゃふにゃしている。どんな表情だ、作戦をドブに捨てる気か。もう吐いた唾は飲めねーぞ。あーもうめちゃくちゃだよ、どうすんだよこの状況。

 

 次から次へと滅茶苦茶な情報が飛んできて、流石のぽいずんさんもだいぶ混乱しているようだ。顎に手を当てながらブツブツと呟いている。

 

「でもあの演奏は確かに……やっぱりあなた本当はギターヒーローさんですよね!?」

 

 やはり己の直感を信じる事にしたらしい。この人見た目に反して優秀過ぎるだろ……

 

 ぽいずんさんが再びひとりに問いかけると、ふにゃふにゃの顔でにやけていたひとりは今度こそぽいずんさんに反論した。

 

「あっいやぁ……えへぇ……ちっ違いますぅ……」

 

「絶対この子ーーーーー!!」

 

 遂にぽいずんさんはひとりをギターヒーローと確信したように叫んだ。

 

 おいバカおい、そこはちゃんと否定しろよ。今までの俺と虹夏先輩の苦労はなんだったんだよ。虹夏先輩メッチャ怒ってるし俺は言葉の暴力に殴られ損じゃねーか。それにさっきから何だそのふにゃふにゃ顔は。シャキッとせんか。

 

「あの~ギターヒーローって……」

 

 遠慮がちに聞いて来た喜多さんに、ぽいずんさんはスマホの画面にギターヒーローの投稿動画を表示させながら説明し出した。

 

 動画を見た喜多さんは、その特徴的なピンクジャージと後藤家に遊びに行った時に入った見覚えのある部屋を見て、大して驚きもせずに言い切った。

 

「まぁひとりちゃんね」

 

「ぼっち」

 

 そら気付くわな。と言うか何故今まで気づかれなかったのかと言う方が謎だ。あの特徴的なピンクジャージはそうそう見かけるもんじゃ無い。

 

 同じく動画を見ていた、後藤家に遊びに行ってすら無いリョウ先輩も特に驚く事無くひとりだと断定したのを見て、何故驚かないのかとぽいずんさんは憤慨した。

 

 だがリョウ先輩も喜多さんも前々からひとりには何かを感じ取っていたらしく、特別驚く事もなくすんなりと納得していたが、それよりも二人は別の事に驚いていた。

 

「いや驚いてますよ。この大量の虚言には……」

 

「ぼっち様、動画のお金の管理は私めにお任せください」

 

「~~~~!!」

 

 リョウ先輩はいっつも何かの管理をしたがってるな。クレジットカードは短期間に沢山申し込むとヤバイ奴と判断されて審査に通らないらしいですよ。気を付けましょう。

 

 ギターヒーローのアカウントが皆に見つかった事で今までの数々の虚言が白日の下に晒されて、ひとりは声にならない声を上げて固まっていた。

 

 決め手はピンクジャージだと思うから、今度から動画撮影の時は嫌でもおばさんが買って来た服を着てやろうな。俺も写真撮りに行くから。

 

 しかし恐ろしい……明日は我が身(ドラムヒーローの虚言)だ……いや、まだバレると決まった訳ではない。それに俺の虚言は軽音部のギターの彼女だけだ……なら――バレる前に作っちまえば良いんだよギターの彼女をよぉ! いややっぱ無理だわこれ。しかし今更消したら視聴者に勘ぐられるしどうすっかな……

 

「ギターヒーローさん。さっきのライブはなんであんな酷い演奏を……!?」

 

 ぽいずんさんはギターヒーローというビッグネームに大して驚かない他の人間を呆れたように放りだしてひとりに詰め寄り、先程のライブの酷い演奏の理由を問いただしていた。

 

「わっ私人見知りで……だからバンドだと上手く合わせられなくて……動画は家で一人で弾いてるから……」

 

「……いいんですよぅ☆ 天才にだって欠点はあるもんですう!」

 

 スゲーな全肯定したぞ。この人実はひとりと相性抜群なのでは? 太郎は訝しんだ。しかし廣井さんや店長と言い、ひとりは大人に好かれるな。ひとりは怖がっているが案外ひとりは社会に飛び出してからの方が生きやすいのかもしれない。

 

「え~! ひとりちゃんってこんなに凄い子だったの?」

 

 ぽいずんさんの話を聞きながらスマホを見ていた一号二号さんが驚いて声を上げたので、俺は腕を組んでドヤ顔で話しかけた。

 

「フフフ……そうですよ。そしてそんな凄い子を路上ライブ一回で見抜いた一号二号さんも凄い人なんですよ……フフフ」

 

「ええ~! なになに? そんなに褒めてもまた(・・)太郎君がライブやる時に見に行く位しか出来ないよぉ~」

 

 俺の褒め殺しに一号二号さんは恥ずかしそうにしているが、俺が路上ライブにいたのを覚えててくれて、更に俺のライブに来てくれるとか何だこの人達天使か? BandofBocchisのファンクラブ会員番号一番二番はお二人の為に空けて待ってますよ! 

 

 やっと期待通りの反応をしてくれる一号二号さんに喜んだぽいずんさんは、二人をギターヒーローの選ばれし古参ファン認定した後、二人がこれから厄介ファンへと変わり果てる様を思い描いてドン引きされていた。

 

 そんな本気とも冗談ともとれる話をし終えたぽいずんさんは、まるでもう結論が出たかの様に話をまとめた。

 

「ウチの編集長にかけあって業界の人紹介してもらえるように言っときます!」

 

 ぽいずんさんの言葉に一号二号さんやリョウ先輩以外の結束バンドのメンバーが色めき立った。結束バンドが有名になるかもしれないとはしゃいでいる皆を見たぽいずんさんは、喜んでいる事が全く理解できない顔で困惑していた。

 

「結束バンド? 何の話? あたしが言ってるのはギターヒーローさんだけ」

 

 ひとりを指さしながら勧誘するのはギターヒーローであるひとりだけだと言ったぽいずんさんは、結束バンドを下北沢によくいるバンドだと評価すると同時に当たり前の事実を確認するかの様に言い切った。

 

「……っていうか”ガチ(・・)”じゃないですよね」

 

 ファンでも関係者でもない、完全な第三者である音楽雑誌ライターの冷静な感想に虹夏先輩が動揺した。

 

「だって客も常連だけだし、宣伝もそんなにやってないみたいだし。本気でプロを目指してるバンドにみえないんだもん」

 

 はえー確かに、流石雑誌ライターを名乗るだけあって指摘が具体的だ。しかしヤバイな、俺自身何も考えて無かった。廣井さんに曲作って貰ってライブする所までは頭にあったが、bocchisも宣伝とかもやった方が良いよな? 今度廣井さんに聞いてみるか……しかしますますリーダーの立つ瀬が無いな……

 

 ギターヒーロー(ひとり)はもうプロとして通用するのでちゃんとしたバンドに入った方が良い、だからいい話が無いか探して置くと言ってスマホを弄り始めたぽいずんさんに俺は慌てて反論した。あー困ります、まだbocchisで一回もライブして無いのにひとりを持って行かれたら困ります。

 

「すんません……いきなり引き抜かれると困るんですが……」

 

「あっ……太郎君……」

 

 ぽいずんさんの強引な話の展開に口が挟めずにいたひとりが助けを求めるかのように俺の名前を呼んだ。ぽいずんさんは俺に笑顔を向けると、これからのギターヒーローの事を考えているのか興奮した様子だった。

 

「ごめんね~☆ このバンドのファンの人には残念だけど、ギターヒーローさんは今の邦ロック界にドカーンっと衝撃を与える……」

 

「おい。もう店閉めるから帰ってもらっていい?」

 

 ぽいずんさんが言い切る前に店長が横から割って入って来た。何を思ったのかガスマスクと言う重装備で登場した店長は、話は終わってないと食い下がるぽいずんさんに恐ろしい切り札を切った。

 

「お前みたいなアクの強いライターは絶対アンチがいるからな……ネットで調べたら本名が出て来た」

 

 ええ!? いくら雑誌のライターだからって本名ってそんな簡単に出て来るんですか!? っていうかそんな簡単に本名が分かるんならなんでぽいずん♡やみ14歳なんて名前名乗ってるんですか……

 

 しかしちょっとぽいずんさんの本名に興味が沸いた俺は、店長と結託してぽいずんさんの本名から実家の連絡先を掴んだ事でぽいずんさんを脅しているPAさんの元に近づくとスマホの画面を見せて貰った。

 

「……佐藤さん!!」

 

「ちょっとあんた! それはルール違反でしょ!?」

 

 俺が見せて貰った苗字を叫ぶと、ぽいずんさん――佐藤さんは悲鳴に近い声を上げた。

 

 ぽいずん♡やみ14歳はルール無用だろ。というかなんだよもっとやばいキラキラネームが出て来るのかと思ったら意外と普通じゃねーか。と思ったが今は喜多さんみたいにシワシワネームの方が嫌なのか? うーん太郎なんてミイラ見たいな名前の俺だがよく分からん感覚だ。

 

 ぽいずんさんは親御さんにぽいずん♡やみ14歳をばらされる事に恐怖していたので、一応ぽいずん♡やみ14歳がヤバイ名前である事の自覚はあるらしい。じゃあなんでこの名前付けたんだ? マジで分からん……

 

「ギターヒーローさんそれでは~~! 今日の事は頭の隅にでもいれといてくださぁ~い」

 

 これ以上話を強引に進める気は無い様で、店長の脅迫に怯えて弱々しくそう言ったぽいずんさんは、STARRYから出て行く直前真剣な表情で振り返ると、先程からのおどけた様子からは想像出来ない程酷く真面目な声色で言い放った。

 

「……こんなところでうだうだやってると、あなたの才能腐っちゃいますよ」

 

 直後に店長とPAさんに脅されて、「あばよ☆」なんて今日日聞かない捨て台詞を残して慌ててぽいずんさんが出て行くと、俺は深い溜息をついた。ぽいずんさんがいなくなった事に安堵した――からでは無い。

 

「うだうだやってると才能が腐る……か」

 

 ボロボロの演奏でもひとりの正体を見抜いた辺り音楽的な審美眼は本物だろう。俺の勝手な想像だが、恐らくぽいずんさんはこれまでに沢山そんな(腐った)奴を見て来た(・・・・)のだ。だからこそあんな言葉が出てきたのだと思った。

 

「……太郎君?」

 

 俺はいつの間にか難しい顔をしていたのか、ひとりが心配そうに上着の裾をつまんできた。

 

「……ん? おっとすまん。ちょっと考え事をな……店長ももう上がって良いって言ってるし、そろそろ俺達も帰るか」

 

 PAさんと共にぽいずんさんを追い返した事にスッキリしていた店長は、結束バンドのメンバーを気遣う様に「あまり真に受けるな」と声を掛けると今日はもう帰るように言ってきた。

 

 帰り支度をした俺とひとりは、虹夏先輩に見送られてSTARRYを後にした。

 

 電車に乗って自宅の最寄り駅に着くまで二人とも一言も話さなかった。だがこのまま黙っていても何も進展しないと思った俺は、駅から自宅まで歩いている最中に纏まらない考えのまま話し始めた。

 

「お前が結束バンドに入ってから……まぁ色々あったわな」

 

 今まで俯きながら歩いていたひとりが顔を上げてこちらを見て来た。

 

「色々失敗もあっただろうけど……喜多さんを勧誘して結束バンドに入って貰って、アー写撮影して曲作って、台風の中ライブやって文化祭でも演奏出来たよな……でも」

 

 俺は一度言葉を止めてぽいずん♡やみ14歳の言葉を思い出した。

 

「ガチじゃない……か。痛い恰好してる人だけあって、痛い所を突いて来る人だな」

 

 俺が苦笑しながら言うと、ひとりは俺がぽいずんさんの肩を持ったのだと勘違いしたのか、頬を膨らませながらジト目で睨んできた。

 

「……太郎君はどっちの味方なの」

 

「はぁ? 今更何を言ってんだよお前は。俺はずっと昔からお前(・・)の味方だろうが……」

 

「あうっ……」

 

 呆れたように俺が言うと、ひとりは顔を赤くして俯いた。

 

 だがひとりの味方だからこそ、今の俺はあえて厳しい事を言わなければいけないのかも知れない。

 

「覚えてるかひとり、お前STARRYでのバンドオーディションの時言ってたよな? ()()()()()()()()()()()()()()って。ならお前は今こそ証明しなくちゃいけないんだよ。結束バンドが仲良しクラブじゃないって事を」

 

「! それはっ……でも……」

 

 真剣な顔で俺の話を聞いていたひとりは不安そうに呟いた。

 

 話しながら歩いていてふと周りを見ればいつの間にか後藤家の前まで着いていた。しかし俺達はすぐに解散せずに後藤家の家の前に二人で立ち尽くしていた。

 

 妙案が思いつかないまま俺は空を見上げた。当たり前だが街灯やら何やらが明るすぎて肉眼では星なんてほとんど見えない。でも――それでも見える星があった。

 

「そうだなぁ……今のぬるい(・・・)環境のままじゃいけないのなら……あえて過酷な環境に飛び込んでこそはじめて見える道もあるかもな」

 

 星を見ながら何となく口を衝いて出て来た俺の言葉を聞いたひとりはゆっくりと顔を上げてこちらを見てきた。今の言葉が何かヒントになったのだろうか? 余計に混乱させたなら申し訳ない。仕方ないだろ、俺なんかまだライブすらやった事無い新米(ペーペー)なんだから……

 

「まぁ納得いくまで沢山悩め。おまえがどんな答えを出しても俺は最後まで応援するからさ。じゃあな」

 

 このまま此処で悩んでいても力になれそうに無いと思った俺は、それだけ言うとひとりと別れて自宅への帰路についた。

 

 

 

 数日後、ひとりは一枚の宣伝フライヤーを俺に見せて来た。そのフライヤーはぐしゃぐしゃに皺が付いていて、ひとりが随分悩んだ事を伺わせた。

 

「十代の挑戦者エントリー受付中……未確認ライオット……これに出るのか?」

 

 俺が確認するように聞いてみると、ひとりは小さく頷いた。

 

「考えただけで今から凄く緊張する……けど私、飛び込んでみる……!」

 

「……そうか、頑張れよ! 応援してる」

 

「! うん!」

 

 激励と共にひとりへフライヤーを返すと、ひとりは今度こそ力強く頷いた。

 

 そんな決意のまま俺達はSTARRYへと赴いた。だが扉の取っ手を掴んだひとりはいつぞやのバイト初日の様に固まって動かなくなってしまった。

 

「? おいどうした。早く入れよ」

 

 見ればひとりは固く目を閉じて苦悶の表情を浮かべている。

 

「おいひとり、何でこんな土壇場でビビるんだよ」

 

「だっだって……! 考えてみたら私一人で勝手に決めた事だし……余計な事だって皆に断られたら……! どっどうしよう太郎君……!」

 

 ひとりは勢いよく振り返ると、縋るように俺の上着を掴みながら泣き言を言ってきた。

 

「どうもしねぇよ! 大丈夫だって! メンバーを信じろ! ほらいい加減覚悟を決めろ!」

 

 俺はSTARRYの扉を開き強引にひとりを店内へと押し込んだ。ひとりは「心の準備が!」なんて言ってるが知った事ではない。こういうのは勢いが大事なんだよ。

 

「あっぼっちちゃん!」

 

 突然入って来たひとりに気付いた虹夏先輩が、振り返りながらひとりのあだ名を叫んだ。虹夏先輩に呼ばれたひとりは遂に覚悟を決めたのか、先程までの泣き顔を全く感じさせる事のないイケメンな決め顔を作ると、結束バンドの皆に見せつけるようにフライヤーを掲げて力強く言い放った。

 

「結束バンドで……グランプリ獲りましょう!」

 

 やれば出来るじゃないかひとり、今のお前最高にカッコ良いぞ! でも今度からは外で悩まずに最初からそれが出来るように頑張ろうな。それと――

 

 

 

 後で今のイケメン顔の写真撮らせてくれねぇかな……




 ぽいずんなんて名前のキャラが出てきて引っ掻き回した結果、良い方向に転がるとか完全に毒薬変じて薬となるって意味だと思うんです。


 あと皆さん気付いてるかもしれませんが、主人公は未確認ライオットに『出ません』。いやだって廣井さん十代じゃないし……


 全然関係ないけど原作のこの時点では結束バンドのオリジナル曲って3曲しか無いって虹夏ちゃんが言ってるんですが、アニメだともう4曲あるんですよね(ギターと孤独、あのバンド、忘れてやらない、星座になれたら)、アニメ二期だとどうなるんでしょう。普通にグルーミーが5曲目になるのかな。
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