ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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いい加減主人公を活躍させろと石を投げられそうだったし、自分でも何とかしたかったので路上ライブ開始直前まで持って行きたかったけど、意外と話の中で片付けなきゃいけない事が多くて時間かかりました。

今回主人公が秋葉原に買い物に行く場面があるんですが、これにひとりちゃんを連れて行ってデートっぽい話を書きたい……けど性格を考えたら絶対付いて来ないよな……って物凄く悩んだのが遅くなった理由の半分位を占めてます。


018 嵐の前のクソボケ

 結束バンドでグランプリ獲りましょう。そう力強く宣言したひとりに、虹夏先輩はその覚悟を確かめるように問いかけた。

 

「本気なんだね!!」

 

「あっはい!」

 

 しかし改めて未確認ライオットと言う舞台の大きさを説明されたひとりは、次第に声が小さくなり、最後にはまた苦悶の表情で悩み始めてしまった。

 

「最終審査はフェス形式で、数千人の前で演奏するみたいだけどいいんだね!」

 

「うぅ……う~~……あっはい……」

 

 恐らくひとりの覚悟を確かめる為に大げさな口調で言ったのであろう虹夏先輩の言葉に、弱々しくも逃げる事無く肯定したひとりを見て虹夏先輩と喜多さんが感嘆の声を上げた。

 

 ひとりが来る前から未確認ライオットへ出場しようと考えていたらしい結束バンドのメンバーは、ひとりの意志が確認できると全員で席に着き今後の話をし始めたので、興味のあった俺は椅子を引っ張ってきてひとりの後ろへ腰を落ち着けた。

 

 未確認ライオットは三段階の審査があるようで、まず最初にデモテープを送ってのデモ審査、次にインターネットによる投票で順位づけるウェブ投票、更に審査会場となるライブハウスでライブを行うライブ審査へと続き、最後に数千人の前でライブを行うフェス形式によるファイナルステージで優勝者を決める、と言う物らしい。

 

 まずは四月が〆切であるデモ審査までに曲やミュージックビデオ(MV)を作ると言う方針に決まった。

 

「スターリーでの月一ライブじゃ足りないし、路上でもして行こう!」

 

「これから半年、忙しくなりますね」

 

 虹夏先輩の言葉に、喜多さんが続くように気合を入れた。

 

 やばい、Bocchisの活動開始時期と被ってるやんけ。しゃーない、こんな事は他所からメンバーを借りる時点で分かっていた事だ。まぁなんとかなるだろ。

 

「はいはい。虹夏先輩ちょっと聞きたいんですけど、路上ライブの時のドラムセットってどうするんですか?」

 

 丁度いい機会なので俺は手を上げて聞いてみた。前に志麻さんが持って来てくれたドラムセットはちょっと持ち運びが難しそうなので、もうちょっと簡素な物で代用出来ないかと思ったのだ。

 

「おっ、いい質問だねぇ! 路上ライブでのドラムはハイハットとスネアとバスドラがあれば十分! バスドラはキャリーバッグを空にしてキックペダルを付けるとそれっぽい音がでるよ! なになに、太郎君も路上ライブに興味あり!?」

 

「ええまぁそうですね。ありがとうございます、参考にしてみます。あと一応聞いて置きたいんですけど、路上ライブってどこでやるんですか?」

 

 なるほど、ハイハットとスネアとバスドラの三つでいけるのか。俺はレンタルスタジオでしか演奏したことが無いのでチューニングキーやキックペダル位しか持ってない、なので他は全部買わないといかんな。

 

「そりゃあ下北でしょ! わたし達の拠点はSTARRYだからね!」

 

 良かった、ひとり抜きで路上ライブやるとして渋谷でばったり、なんて事にはなら無さそうだ。まあひとり抜きでやるならギターがいないので、大槻さんを何とか引っ張り込まなきゃいかんのだが……

 

 路上ライブを計画している虹夏先輩に店長がSTARRYで沢山ライブすればいいと提案して断られているが、ライブ一回三万じゃそりゃ無理だわな。

 

 その後優勝賞金百万円を発見した喜多さんが驚いて叫ぶと、それを聞いた店長が分け前五十万でSTARRY使い放題を提案してやっぱり虹夏先輩に断られていた。

 

 実際店長の提案はどうなんだろう? 五十万って事はライブ約十七回分だろ? 〆切が四月で今は十一月……いや今月はもう少ないから十二月からとして……四か月で十七回、一ヵ月約四回……大体週一回か、まあライブハウスでライブしても新規獲得は難しいからな、断るのも妥当な選択か。

 

 俺がそんなたわいのない事を考えていると、結束バンドの実力的な現在地の確認の意味も込めて同世代で今人気のバンドの情報や曲をチェックする事になった。

 

 皆でノートPCで情報を見ていると、横からリョウ先輩がスマホでまとめサイトを見ながら説明してくれた。それによると今勢いのある同世代バンドは、都内中心に活動するエレクトロ・ロックバンドの『ケモノリア』、大阪のコミック・バンド『なんばガールズ』そして――

 

「最近だと新宿FOLTで活躍中の『SIDEROS』ってメタルバンドもよく聞くかも」

 

 その言葉を聞いた瞬間ひとりが動揺した顔で勢いよく俺へと振り返った。

 

 はえーすっごい。廣井さん推薦バンドだから凄いんだろうとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。というかマジかよ、俺もあの時SIDEROS入れてたら今頃人気バンドの一員やんけ。ままええわ、ひとりとバンド組む方が余裕で優先度高いしな。

 

「? どうしたのぼっちちゃん」

 

「あっいえ……なっ何でもないです……」

 

 急に俺の方を見たひとりを不審がって虹夏先輩が声を掛けていたが、のほほんとした顔で画面を見ている俺に、ひとりはそれ以上何も言わず再び前を向いた。

 

 リョウ先輩からの情報提供で、SIDEROSが結成一年たらずでワンマン出来るほどの人気な事と、大槻さんがメンバーをクビにしまくってると言う情報が出てきたが……大丈夫だってひとり、だからそんな不安そうな表情で何回もこっちを見るな。大槻さんはちょっと当たりが強いだけで話してみると実はいい人だから。

 

「ていうか高確率でライブ映像にいる廣井さん邪魔すぎません」

 

 画面に映るSIDEROSのライブには、酔っぱらった廣井さんが最前列で野次を飛ばす姿が写っている。

 

「FOLTでは絶対ライブしたくないね」

 

 何てこと言うんですか! FOLTはBocchisの拠点候補の一つですよ! まあBocchisに廣井さんが居るんで最前列で野次る事は無いけど、志麻さんの苦労を考えるとライブ中が怖いんだよなぁ……

 

 そう言えば大槻さんにライブを見に来いって言われてたけど行ってねーわ。と言うかSIDEROSのライブこの映像で見るのが初だわ。やっべぇな、ただでさえ借りを作ってるからライブ見学で返そうと思ってたのにもうどうにもならんねこれは。

 

 結束バンドの面々は同世代の活躍に気圧されたようで、周囲にはなんとなく重い空気が立ち込めていた。

 

 そんな暗い空気を吹き飛ばすように虹夏先輩はメンバー全員に向かうと、もう一曲新曲が欲しい事、それでミニアルバムを作る事、MVを撮影する事をメンバーへ伝えると最後に力強く言い切った。

 

「だから次の曲は最高の一曲を作ろう。その曲をデモ審査に送る!」

 

 その言葉にプレッシャーを感じたのか、ひとりとリョウ先輩が緊張した顔で答えると、虹夏先輩と喜多さんは場を明るくしようと努めて陽気に振舞った。

 

「あたしは映像の編集したり、CDのジャケット描くから!」

 

「私は広報します! トゥイッターとかイソスタの!」

 

 えっ! 虹夏先輩映像の編集とか絵が描けるんですか!? やばいな、本格的に俺が無能なリーダーな予感がしてきた。なんか俺にも出来る事ねぇかな? ひとりちゃん係やきくりちゃん係以外で。

 

 映像の編集という言葉に、店長がスマホで結束バンドのライブを撮っていた事をPAさんが教えてくれたので、嫌がる店長を皆で抑えて動画を見せて貰う事にした。

 

「店長、この映像なんでひとりばっかり写ってるんですか?」

 

「い、いやこれは何かあった時の記録用にな……」

 

 まだ店長に目を付けられていると思ってひとりがショックを受けていたが、そんな事は気にせず俺は店長に詰め寄った。

 

「店長この映像コピーしてください! オナシャス」

 

「もー! 太郎君もバカな事言ってないの!」

 

 俺の事をたしなめた虹夏先輩は、動画サイトにアップする為に動画を編集し始めると、メンバー各々から自分勝手な注文が次々と入って来る事に苛立って、最後には怒って叫んでいた。

 

「あっ私は顔見えてないカットオンリーで……あっそこ顔が……」

 

「あの~私の顔って編集できますか? その顔アップで!」

 

「ベースイントロなんだから私から始めてよ」

 

「元の映像コピーして欲しいんですけど」

 

「あーーー!! だったら自分でやれーーーー!!」

 

 

 

 完成して動画サイトに投稿した動画を皆で見てみると、先程の賑やかさは何処へ行ったのか微妙な空気が辺りを包んだ。まあMVでもないし、動画を切り貼りしただけなのでこんなものだろう。

 

 自分たちの演奏に落胆した四人がスタジオ練習へと向かう為に席を立ち始めたので、俺は丁度良い機会だと思いひとりのBocchis入りの許可を取っておく事にした。

 

「すみません、皆さんちょっとだけいいですか? 結構重要な話があるんですけど……」

 

「え? なに? そんなに改まって……?」

 

 いざ言うとなるとなんだか緊張してきたが、俺の言葉に四人がこちらへ向いたのを確認すると俺は姿勢を正して――勢いよく土下座した。

 

「虹夏先輩……! いえ、結束バンドの皆さん! ひとりを俺に下さい!」

 

「…………ええーー!!!」

 

 今までの暗い雰囲気を吹っ飛ばすほどの叫び声がSTARRYに響いた。

 

 

 

「え……ええ!? 山田君!? そんな……大胆過ぎるわ! でも遂になのね!?」

 

「? えぇまあ……遂にと言えば遂に(Bocchisに入る許可を取りに来たって事)ですね」

 

 焦っていたのでもしかしたら言葉が足りなかったかもしれん……なんて思って顔を上げて見れば、喜多さんが顔を赤くして大興奮している。虹夏先輩も顔を赤くして困っているし、ひとりに至っては顔を蛸の様に真っ赤にして口をパクパクしている。パクパクですわ。唯一普段通りなのはリョウ先輩だけだ。

 

「た、太郎君! そんな……急に何言い出すの!? って言うか、わたし達にそんな事言われても……」

 

「いや、結束バンドの皆には言わないと駄目でしょう? 今後のバンド活動にも関わる事ですし……」

 

 結束バンドに言わずして誰に言うんだよ……勝手にひとりを持って行ったら、その方がまずいだろ……さっき未確認ライオットに出るから忙しくなるって言ってたばかりじゃねーか……

 

 俺が怪訝な顔で言うと、虹夏先輩は何かに気付いたようにアホ毛をピンと立てて驚き赤い顔のまま声を上げた。

 

「! たっ確かに……! デッ、デートとかい、行くならバンドの練習休まなくちゃだもんね!」

 

 えっ? どこに行くかは知らんがバンドの練習を休ませたらイカンでしょ。一応メインバンド最優先の約束があるんですよ。

 

「きゃあああ!! 何か見えない力が働いてると思って安心してたけど! やっぱりそんな事無かったのね~~! でも確かに幼馴染なんて漫画みたいな関係の男子が居たら納得だわ~~!」

 

 赤い顔で何かに納得したようにそっぽを向きながらおかしな事を言う虹夏先輩と、さっきからずっと大興奮の喜多さんにほとほと俺は困ってしまった。

 

 えぇ……? 何言ってんだこの人達? 見えない力って何だよ怖ぁ……しかしなんか話が噛み合ってない気がするぞ? どうなってんだこれ? 

 

 俺が困惑して辺りを見回していると、様子がおかしい大興奮の喜多さんと虹夏先輩をそのままにして、唯一普段と変わらないリョウ先輩が俺へと質問した。

 

「それで、ぼっちを下さいって本当はどういう意味?」

 

「はぁ……俺がバンド作ったのは話しましたよね? 廣井さんとの奴です。そこにひとりに入って欲しいんです。ひとりとは話が付いてるんで、後は結束バンドの皆さんに掛け持ちを許して欲しいんですけど……」

 

 ようやくまともに話が出来る人を見つけて安心した俺は、先程から伝えているひとりに掛け持ちを頼みたい事を改めて説明した。すると先程まで大興奮だった虹夏先輩と喜多さん、さらにはひとりまで時が止まったように固まってしまった。なんでひとりまで固まってんだよ……お前はこの話知ってるだろ……

 

「ぷぷぷ……虹夏実はむっつり……」

 

「あああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 うおびっくりした! 何だなんだ!? よっぽどさっきのライブ動画の出来が悔しかったのか? まぁ次がありますよ虹夏先輩。ファイト! 

 

 リョウ先輩に煽られた虹夏先輩が何故か急に叫び出した。しかしリョウ先輩に向かっていつものプロレス技が炸裂する事は無く、頭を抱えてその場で立ち尽くしている。

 

 赤い顔のまま肩で息をしていた虹夏先輩は、涙目で俺を睨むと大声でヤケクソ気味に叫んだ。

 

「ちっ違うもん! あたしは悪くない! あたしは悪くない! だって太郎君がぼっちちゃんを下さいってゆったもん! 下さいって!」

 

「ま、まぁ言ったかもしれませんね……」

 

 あまりの必死な剣幕な虹夏先輩を見て俺は自分の非を認めた。まぁ確かに俺も言葉が足りなかった様な気もする。しかしいつの間にか現れた店長がとても楽しそうに止めの一撃を叩き込んだ。

 

「お前太郎君が『今後のバンド活動にも関わる事ですし……』って言った時何考えてたんだ?」

 

「あああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

「あの……ひとりの掛け持ちの事なんですが……」

 

 なんだか収集がつかなくなってきた気配を感じたので、俺はとりあえず本来の用件の返事だけでも貰おうと虹夏先輩に尋ねたのだが、虹夏先輩は先程以上に顔を赤くして俺を睨んできた。

 

「うちのぼっちちゃんはミッチ・ミッチェルくらいドラム叩ける奴じゃないと貸しません!」

 

 いきなり何を言ってんだこの人……と言うかどうして虹夏先輩がその話を……まさか店長が漏らしたのか? あれだけ秘密って言ったのに……ってよく考えたらSTARRYでのバンドオーディションの時に話した、秘密にしてもらう様に言った話はこの後の奴だったわ……

 

 店長を見れば腕を組んでバツが悪そうにそっぽを向いていた。

 

 明らかに喋ったヤツじゃねーかそれ。これはさっきのひとりのライブ動画で手打ちですよ……だがあの時の話が元になってるなら俺はこの続きの正解を知っているのだ! 

 

「じゃあ俺はジョン・ボーナムくらいになってそいつの実力試してやりますよ!」

 

「駄目! うちのぼっちちゃんはジョン・ボーナムにはやらん!」

 

 えぇ……!? どういう事だよ、話の流れが違うじゃねーか。ひとりの親父さんはこれで泣いて喜んでたんだが……じゃあなんて言えばいいんだ……? いや待てよ、たしかあの時、俺の言葉の後に店長が何か言ってたな。あれは確か……

 

「えっと……じゃあ俺がミッチ・ミッチェルになります?」

 

 虹夏先輩は相変わらずの赤い顔と涙目でこちらをじっと睨んで来た。

 

「なれるのかお前に!」

 

 まだ続くのかよこれ……仕方ない、よく分からんがなんだか俺が悪いみたいだし、行きつくところまでこの茶番に付き合ってやろうじゃないか。

 

「なります!」

 

「よしんば太郎君がジョン・ボーナムだったとしたら?」

 

 本格的にどういう事だよ……? どんな質問だ。いやなんなんだよこの会話は……何か意味があるのかこの会話に……って言うか虹夏先輩実は結構余裕あるんじゃないか? 

 

「は? えと……ミ、ミッチ・ミッチェルです……?」

 

「………………ぼっちちゃんがいいならいいよ」

 

 うわぁ急にまともになるな! 

 

「あっはい……ありがとうございます……あの、そっち優先で迷惑はかけないんで……」

 

 困惑気味に答えた俺に、ようやく気持ちが落ち着いて来たのか虹夏先輩はそれだけ言うと、未だ赤い顔のまま逃げる様にスタジオ練習へと向かって行った。

 

 虹夏先輩を見送って周りを見ると、今度は酷くいじけた様子の喜多さんが目に入った。まるで過去一番のビッグウェーブが来たけど波に乗り損ねたサーファーみたいだ。

 

「はぁ~……そりゃそうよね……いくら漫画みたいな幼馴染だからってそんな都合のいい事起こらないわよね……確かに……なんだか安心した気持ちもあるわ……けどこのままくっついてって気持ちもある……心がふたつあるわぁ~」

 

 なんだかいつもよりおかしな事を言っている喜多さんに声を掛けられずにいると、リョウ先輩がとても嬉しそうな顔で俺に話しかけて来た。

 

「太郎ありがとう。このネタは半年は擦れる」

 

「あっはい……まぁあの……程々にしておいて下さいね……あと助かりましたリョウ先輩。ありがとうございます」

 

「うん、それじゃあ動画の再生よろしく。広告収入が入るくらい再生しておいて。ほら郁代行くよ」

 

「あああ!! やっぱり私の名前、ダジャレみたいじゃないですか!?」

 

 よく分からないがやんわりと窘めておくと、頷いたリョウ先輩は俺に動画の再生の仕事を与えてから、憂鬱そうな喜多さんを連れてスタジオ練習へと向かった。すみません喜多さん、今のはちょっと……申し訳ないがダジャレですね。さぁ後はひとりだけなんだが……

 

「おいひとり、お前もいい加減戻って来い」

 

「んはっ! ……あっあれ? 神奈川の庭付き一戸建てで専業主婦やりながら家族四人で囲む幸せな食卓は……?」

 

 何の話だよ。随分と静かにしてると思っていたら、一体何を考えてたんだこいつは……そんなに自宅に帰りたかったのか……? それならジミヘン(犬)もカウントしてやれよ家族だろ。

 

「何を言ってんだ……まぁいいや。ひとり、お前確か次の土日って予定空いてたよな?」

 

「えっ? うっうん……確か練習もバイトも無かった筈だけど……」

 

 ひとりの返事を聞いて俺はスマホを操作すると、廣井さんと大槻さんへと今日中には決める旨のメッセージを添えて路上ライブ予定日のロインを送った。

 

「よし……後で一応虹夏先輩に改めて確認しといてくれ。それともう皆スタジオ練習に行ったぞ、お前も早く準備して行ってこい。あとは――」

 

 俺の言葉を聞いて慌ててスタジオ練習へ向かおうとするひとりに、俺は廣井さん達に送ったロインの内容を伝えた。

 

「お前の予定が空いてる次の土日のどっちかに路上ライブ行くから、準備しといてくれよ」

 

「…………ろっ路上ライブ!? もしかして例の!?」

 

 俺の言葉にひとりは飛び上がって驚いていた。しかし未確認ライオットでグランプリを獲るなら最終的には数千人の前で演奏するのだ、これくらいでビビッてる場合じゃないだろう。

 

「そうだよ。お前も未確認ライオットに向けて少しでも実戦経験が積めて丁度いいだろ」

 

 いい加減路上ライブの日時を決めようと思っていたが、未確認ライオットに出場するなら経験と言う意味でも良い機会かも知れない。しかし路上ライブ用のドラムセットが次の土日までに揃うだろうか……? 通販じゃ間に合わないだろうから近隣の店を探さないとな。

 

 未だに怯えているひとりに練習へ行くように促すと、バイトが始まるまでの間に店長に路上ライブ用のドラムセットについて聞く事にした。

 

「店長、路上ライブのドラム用にハイハットとスネア欲しいんですけど、どっか店知りません?」

 

 俺の質問に店長は少し考えると、心当たりがあったのか教えてくれた。

 

「さっき虹夏に聞いてたやつ? あー……なるべく種類が豊富な所が良いなら秋葉原にドラム専門店があるけど、まだ何も機材持って無くて路上専用でもいいなら、今は持ち運びがしやすい奴とかも売ってるよ」

 

 店長に教えて貰った物をスマホで調べてみると確かにあった。コンパクトなトラベラーでスネアとバスドラが一緒になった奴だ。ハイハットは付いてないが、別に購入しても一緒に専用ケースに入れようと思えば入るらしく、確かにキャリーバッグとスネアを別々で買うよりかなり荷物が少なくなる感じだ。

 

「へぇ~こんなのあるんですね。ありがとうごさいます。ちょっと明日秋葉原行って見てきます」

 

 とりあえず目星はついたので店長にお礼を言ってスマホをポケットに突っ込むと、店長はテーブルに頬杖をつきながらこちらを楽しそうに見て来た。

 

「しかし路上ライブからスタートするとか、お前なかなかロックな奴だな」

 

 店長の言葉に俺は首を傾げた。そもそも俺の人生の初ライブ? がひとりと廣井さんとの路上から始まっているので、俺としてはライブハウスより路上の方が経験値が多いのだ。まぁ総数一回で誤差みたいなもんだが。

 

「金が掛からないから路上選択したんですけど、これってロックなんですかね?」

 

「自分の友達の前では演奏出来るけど、見ず知らずの人間の前では出来ないって奴の方が多いんだよ。それに路上ライブの日時だけ先に決めて、今から機材買いに行く奴がロックじゃなくてなんなんだよ」

 

 店長は呆れたように、しかし楽しそうにくつくつと笑いながら言ってきたが、反論する気も無い俺は仕方なく肩を竦めた。

 

 確かにそうかもしれない。普通初めてのライブハウスでのライブは自分が頼んでチケットを買ってくれた知り合いしか来ないだろう。そう言う人はまあ微妙な演奏をしてもそれなりに盛り上がってくれる。

 

 しかし路上はそうはいかない。批判こそ飛んでこないかも知れないが、こちらに興味が湧かなければ素通りされるというこの上ない残酷な評価が突きつけられる。あと警察も怖いしな。

 

「それでどこでやんの? やっぱこの辺(下北沢)?」

 

 店長はノートPCへ向き直り、いつもの紙パックジュースを飲みながら質問してきた。正直に答えても良いのだが、万が一情報が洩れて虹夏先輩が見に来ることを恐れた俺は一応釘を刺しておく事にした。既にさっきので前科一犯だしな。

 

「知り合いに見られると恥ずかしいんで誰にも言わないでくださいね。渋谷です。渋谷のTSUTAYA前」

 

 それを聞いた店長はゆっくりと振り向くと、怪訝な表情でこちらを見て来た。

 

「……マジで? いくらあいつ(廣井)がいるからってそれはちょっと……まぁ失敗から学ぶモンもあるか……」

 

「ちょっと!? なんで失敗が前提になってるんですか!? それにこの為に……って訳じゃ無いですけど、SIDEROSの大槻さんも引っ張り込みましたからね! 美人で演奏も上手いナイスガールですよ」

 

 何故か失敗が確定していると思っている店長に反論するように、俺が両手の親指を上げながらドヤ顔で新メンバーが居る事を知らせると、店長は先程の楽しそうな表情から一変して面倒くさそうなジト目で俺を睨んできた。

 

「……お前、ぼっちちゃんを泣かすなよ」

 

「えぇ? 何なんですか急に店長まで……今日は何かおかしいですよ皆」

 

 店長がこちらを見ながらポツリと呟いた言葉に、今度は俺が困惑して声を上げた。

 

 先程も虹夏先輩と喜多さんの様子がおかしかったが、今度は店長かよ……やはり女の人はそういう(・・・・)話が好きなんだろうか? しかし女子高生組がおかしくなるのはまあ分かるのだが、アラサーの店長まで一体何だと言うのだ……

 

「お前がそんな(・・・)だとぼっちちゃんが安心できないんだよ」

 

 俺が全く意味不明だと思っていると、店長がそんな俺を見ながらやはり面倒そうな顔で言ってきた。安心できないと言われてもな……幼馴染をなんかと勘違いしてるのか? 

 

「はぁ……よく分かりませんけど多分大丈夫ですよ。心配しなくてもひとりはその内イケメンハイスペック彼氏連れて来ますから」

 

「……は?」

 

 店長は更に目を細めて俺を見て来た。心なしか怒っているようにも見える。怖い。まあ店長はひとりがお気に入りのようだから心配なのだろう。でもあまり心配しなくても大丈夫ですよ。ひとりは実は高スペックですからね。

 

「いやだって店長もひとりの良さに気付いたでしょう? 一号二号さんもそうだし、多分これからもっと多くの人がひとりの良さに気付くと思うんですよ。あいつ実は顔も良いしスタイルも良いし……姿勢は悪いですけど。それに……まぁちょっと癖はありますけど性格も良いですからね」

 

 店長を安心させるようにそう言うと、俺は頭の後ろで手を組んでぼんやりと天井を見上げた。

 

「そうしてきっとその内、ひとりも自分の価値に気付くんですよ。その時、多分ひとりの傍には……イケメンで、頭が良くて、背が高くて、金持ちで、包容力があって……そんな奴がいるんじゃないですかね?」

 

 そんな奴が居たらいいな、と思う。随分と生きづらそうにしているひとりが安心できる奴が現れたのなら、それはあいつの幼馴染としてとても喜ばしい事だ。あっでもベーシストは〇すけどな。慈悲は無い。

 

 俺の話を聞いていた店長はなんだか難しい顔で眉を寄せて怒ったような表情を浮かべると、そのまま黙ってノートPCへと体を向けて今度こそ仕事を始めた。話は終わり、という事だろう。時計を見ると丁度時間になっていたので俺もバイトを始める事になった。

 

 今日は虹夏先輩達がバイトに居ないのでPAさんと共に机を運んで掃除をしていると、不意にポツリと店長が言葉を漏らした。

 

「私は……」

 

 突然の店長の呟きに俺が掃除の手を止めてそちらを見ると、店長はノートPCの前で頬杖をつきながら画面を見つめたまま言葉を続けた。

 

「私はぼっちちゃんが、イケメンで、頭が良くて、背が高くて、金持ちで、包容力がある奴を連れて来ても認めないけどな」

 

 まるで拗ねた子供の様な態度で言う店長の背中を見て、俺は思わず苦笑した。

 

「店長…………あんまり理想が高いと相手が見つかりませんよ」

 

「お前のクソボケを死という方法で醒ましてやろうか」

 

 

 

 ちょっとPAさん! 楽しそうに笑ってないで妙なプラグを両手に持って追いかけて来る店長を止めて下さい!! 

 

 

 

 その後は何事も無く()普段通りバイトを続けて、ひとりの練習が終わるのを待った。

 

 ひとりの練習が終わると俺もバイトを終えて二人でSTARRYを出て帰途についた。帰り道でひとりに土日の予定を確認した所、どちらも問題ないとの答えが返って来たので、俺はそのまま廣井さんと大槻さんへと連絡を入れて、これでようやく路上ライブが本決まりとなった。

 

「しかし路上ライブやるだけでここまで日程調整面倒だと思わなかったな。そう思うと虹夏先輩はスゲーな」

 

「いや……それはこのバンドだけだと思うよ……」

 

 ひとりから冷静なツッコミを貰ってしまった。俺以外それぞれメインバンドがあるし、俺たち二人は通学二時間なので放課後に何かやるような事が出来ず、なかなか廣井さん達と予定が会わせられないのだ。

 

「ま、まぁ何にせよ後は路上用のドラムセット買えば準備完了だからな。それも明日買いにいくし」

 

「太郎君は意外と何でもギリギリまで放置するよね……夏休みの宿題とか……」

 

 誤魔化すように俺が言うと、ひとりは路上ライブ用のドラムセットを未だに持っていない事と、また今年もギリギリだった夏休みの宿題に呆れたように呟いた。

 

 こいつなんだか今日は当たりが強くないか……? ひょっとして毎年夏休み終わりにこいつの部屋の机を占領してるのを根に持っているんだろうか? 仕方無いだろう自分の部屋だと気づいたら宿題そっちのけでドラムの練習はじめちゃうんだから。ひとりの部屋の殺風景さが丁度良い感じに集中出来るのだ。ギリギリまで放置してるのも最終的には間に合ってるからセーフ! 

 

 だがこれに関しては明らかに悪いのは俺なので、これ以上突っつかれないように明日の予定へと話を逸らすことにした。

 

「そっそんな事より、俺は明日の放課後は店長に教えて貰った秋葉原のドラム専門店に行くけど、お前は明日も練習か?」

 

 聞いてみると、やはり未確認ライオットに向けて気合が入っているのか明日もSTARRYで練習するとの答えが返って来た。

 

 しかしそうなると先ほどの話ではないが皆のスケジュール管理が難しくなりそうだ。分かっていた事だが今後は路上ライブ等の突発的な物は良いとして、ライブハウスでのライブの様な日時が動かせない全員集まってのイベントは難しいかもしれない。となると今後は昨今の流れに乗って動画配信サイトを利用したWeb路線へと舵を切っても良いのかもしれない。 

 

「? どうしたの?」

 

「……いや、お前が最終審査で数千人の前で演奏するのを想像してた」

 

「うっ!」

 

 悩む俺の顔を見てひとりが心配そうに聞いてきたが適当に誤魔化すと、ひとりが悲鳴の様な呻き声を上げて胸を押さえていた。

 

 Bocchisの方向性についてはまだどうなるか分からないし、不安にさせる事もない。それにどうせ相談するなら日曜に全員集まるのだからその時で良いだろう。

 

 

 

 翌日の放課後、ひとりと校門前で別れた俺は予定通り店長に教えて貰った秋葉原のドラム専門店へ向かった。

 

 店に着いて一通り回ってみると前もって調べた目的の物はすぐに見つかったが、一応普通のスネアも探してみた。今までは考えた事無かったが、ドラムセット全部は無理にしてもスネアドラムくらいは自分専用の物を持ってるドラマーが多いらしい。

 

 スネアに関しては正直どれがいいのかよく分からないのだが、ひとりの話ではこういうのはある程度品質があれば後は見た目で選んでも良いという事なので、直感で良さそうな物の型番だけメモしておいた。

 

 結局路上ライブで必要な物だけ購入して俺は店を出た。

 

 路上ライブ用のドラムだけでも結構な荷物なのに、ここから更に七万以上するスネアを持つのはちょっと怖かったので、買うとしてもスネアはまた今度だ。楽器に詳しそうな廣井さんに同行をお願いしても良いかもしれない。

 

 なにはともあれ、これで路上ライブの用意は出来たので、あとは本番の日を待つだけだ。




自分では全く釣り合っていないと思っていて、その内ハイスペックイケメン彼氏を連れて来るだろうから自分からは絶対にアプローチしない主人公
VS
自分から行って万が一にでも断られたら人生終わると思っていて、でも十年も一緒にいて一切他の女の影が見えないから安心(慢心)して自分からは絶対にアプローチしない後藤ひとり


幼馴染の設定として、傍にいるのが当たり前なので主人公には結構辛辣な事を言ったりぞんざいな扱いをする=甘えている・心を許しているって感じの関係を意識してます。


あと個人的に原作で一番かわいいと思ってる虹夏ちゃんは、STARRYの男子トイレにビラを貼りに入った後の「ちょっと止めてよ!」って照れてるシーンなので、照れてる虹夏先輩を書きたかったんです。
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