ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 しゅまん、あと一話だけ待って。ほんとに次だから。

 もしかしたら気付いた人もいるかもしれませんが、実は前回と今回は一つにまとめる予定でした。なので016から017まで投稿期間が空いたのと、前回の終わり方がちょっと唐突だと感じた人もいたかもしれません。でも二万字超えたので区切った方が良いと思ったし、次回への引きはどうしても最後の台詞で締めたかったんです。


019 New Beginning

 迎えた日曜日、俺とひとりはとりあえず廣井さん達と合流する為に新宿FOLTへと向かった。

 

 相変わらず新宿と言う地に怯えているひとりをバッグを背負った背中に張り付かせてFOLTへ入り、相変わらず厳つい顔の吉田店長に挨拶すると、相変わらず酒を飲んでニコニコ顔の廣井さんと……滅茶苦茶機嫌の悪そうな大槻さんに迎えられた。

 

「おはようございます廣井さん、大槻さん。早速ですけど大槻さん、こいつが……おい、いい加減背中から離れろ二回目だろここ来るの。こいつがウチのギターの後藤ひとりです。そんでこの人が……ってひとりは前に動画見て知ってるか、SIDEROSの大槻ヨヨコさんだ」

 

「あっ後藤ひとりです……」

 

「……大槻ヨヨコよ……」

 

 ひとりと大槻さんは初顔合わせなので紹介したが、案の定ひとりは大槻さんの威圧感に怯えてしまって、挨拶も消え入りそうな声だし、目も合わせずに震えている。それに大槻さんは何故かひとりの事を鋭い目つきで睨むように見ていた。

 

 しかし大槻さんの機嫌の悪さはどういう事だ。自分と同等以上のギタリストに対しての対抗心かとも思ったが、どうもそんな感じではない気がする。

 

「あの、廣井さん……大槻さんどうしたんですか?」

 

 これから一緒に路上ライブをするのに余計な衝突は避けたかったので、俺は事情を知っていそうな廣井さんに小声で耳打ちして聞いてみると驚くべき答えが返って来た。

 

「実は今まで散々ぼっちちゃんの事話してたから、大槻ちゃん随分と意識してたみたいで……そんな時にぼっちちゃんのバンドの映像見たみたいでね……」

 

 後頭部を掻きながら困ったように言った廣井さんの言葉に俺は合点がいった。

 

 恐らく結束バンド自身にすら微妙な評価だった、店長の録画したライブ映像を切り貼りした動画を見たのだろう。廣井さんが気に掛けているのでどんな凄い奴かと思っていて、たまたま動画を発見して見てみたら想像以下の奴だったから機嫌が悪いって所だろうか? 

 

 とりあえず大槻さんの刺すような視線を遮るように、ひとりと大槻さんの間に体を割り込ませると、そんな俺の事まで不機嫌そうに睨んできた大槻さんに弁明してみる事にした。

 

「大槻さん、そんなに睨まないで下さいよ。こいつが凄いギタリストなのは俺と廣井さんが保証しますから大丈夫ですって。もし微妙な演奏だったら廣井さんが一週間禁酒しますから」

 

「そうそう……ってえぇ!? 私!? しかも何その条件!? 太郎君、何か最近私の扱いが雑じゃない~?」

 

「HAHAHA、それだけ親しくなったって事じゃないですか。廣井さんだけですよこんな冗談が言えるのは。それに廣井さんもひとりの実力疑ってないでしょ?」

 

「まぁそうだけど……えっ!? 親しくなったって事はきくりちゃんルートもあるかも……ってコト!?」

 

「(ちょっと何言ってるか分から)ないです」

 

 何だその恐ろしいルートは……知らない間に俺を地獄に引っ張り込むんじゃ無い。でももし廣井さんが酒控えたら考えますよ(考えるとは言ってない)。

 

 廣井さんが「横暴だ~」なんて嘆いているのを横目にひとりを椅子に座らせてから俺もひとりの隣の椅子に腰を下ろすと、大槻さんは何か言いたそうに眉を寄せて俺を見て来た。

 

「こいつはちょっと人見知りなんで、まだバンド組んだばかりで慣れて無いんですよ」

 

「む……そうなの? でも流石にあれはちょっと……」

 

 バンドに入ったばかりで慣れていないので上手く演奏出来ない、と言う事には思う所があるのか、大槻さんは少し理解を示して来た。

 

 まぁ四月にバンド組んで今十一月だから、既に七か月近く経ってるんだけどな。それに人に合わせるのに慣れていないのもあるが、人前で演奏するのにも慣れていないので、ひとりにはダブルのプレッシャーが掛かっているのだ。

 

「だからそうですね……あと十年くらいすればフルスペックが披露出来る筈です!」

 

「そんなに待てる訳ないでしょー!?」

 

 随分と気の長い話の説明を聞いた大槻さんは困った様な呆れ顔で机を叩いた。

 

 十年と言うのは俺がひとりと知り合って経た時間なので、他の人間ならもっと短くなる可能性は十分ある。あくまでフルスペックを発揮できるようになるまでの期間を『俺』が保証できるのが十年という事だ。

 

 そんな困った様な顔の大槻さんを見た廣井さんが、俺の援護の為に口を開いた。

 

「大丈夫だって大槻ちゃん。前に三人で路上ライブやった時も、私とぼっちちゃんは合わせるの初めてだったけどちゃんと出来てたから」

 

 俺と廣井さんが二人で顔を見合わせて「ねー!」なんて言って同意し合っていると、大槻さんが握りこぶしを作った右手で一度机を叩いた。

 

 突然の台パンに驚いた俺達が大槻さんを見ると、大槻さんは静かに目を閉じて難しそうに眉を寄せていた。

 

「……わかりました。どうせ今からやる路上ライブで分かる事です」

 

 一応俺と廣井さんからの激推しなので引き下がってくれたのだろう。まあ実際に演奏を聞いたら分かってくれる筈だ、頼むぞひとり。

 

 ひとりを見ると、俺達の今までの会話の数々のプレッシャーに押しつぶされるように白目をむいて気絶している。しっかりしろ、まだ何も始まってないぞ。

 

「さて、ひとりの話はそれくらいにして……そういえば皆さんもうパーカー着て来てるんですね」

 

 話を戻す為に一度仕切り直して皆を見渡せば全員黒色のパーカーを着ている。フードを被って演奏しても窮屈にならないサイズ、とだけお願いしたのでデザインもブランドもバラバラだが、黒のパーカーで揃っていると何となく統一感が出ていて良い感じだ。

 

「フードを被って演奏する為にパーカー、なんて言うから何事かと思ったけど、まさか覆面バンドとはねぇ~。一応聞くけどなんで覆面?」

 

 俺が皆を見渡していると廣井さんがそんな疑問をぶつけて来た。大槻さんやひとりもそれは気になっていたのかこちらを見ているので俺は自分の考えを話しておく事にした。

 

「ひとりが緊張せずに演奏しやすい為とか、このバンドがサブバンドだからとか一応理由はあるんですけど、一番はやっぱり廣井さんと大槻さんって言うビッグネームを隠す為ですかね」

 

 ともすれば廣井さんのサブバンドと取られかねないが、それでは面白くない(・・・・・)。大槻さんのSIDEROSだって今や期待の注目若手バンドだ。それに俺の主観だが、結果的にとは言え各バンドのエースばかりを集めてしまった様な感じになっているので、そういう方面だけでの話題になる事を避けたかった面もある。

 

「まぁあんまり影響が無かったり演奏に支障が出るなら外してもいいんですが、取り敢えずはこれで行きます」

 

 今の時代覆面バンドも結構あるみたいなので、皆一応納得してくれたのか特に異論が上がる事は無かった。

 

「そうだ、せっかくなんで皆がどんなマスク持って来たか見せて貰ってもいいですか?」

 

 本番で初お披露目でも良いのだが、ひとりが何を持って来たのかちょっと心配なので一応聞いておく事にした。ひとりの事だから一人だけぶっとんだ物を持って来てたら困るからな。

 

「おっけ~。じゃあまずは私から、じゃ~ん! 一応二種類もってきたんだけどね」

 

 廣井さんが取り出したのは狐のお面だ。普通の顔全体を覆うものと、ボーカルをする事を考えてか、鼻までは隠れているが口は露出している物の二種類ある。なんでだろう……滅茶苦茶納得できる。何故かは全く分からないが凄く廣井さんっぽい。

 

「下駄の印象が強いんですかね? すっげー廣井さんっぽいです」

 

「あっ凄くお姉さんっぽくて良いと思います」

 

 あっ、ひとりの奴いつの間にか復活したのか。

 

「確かに……なんだか姐さんっぽいですね」

 

「そう~? 前にファンから貰ったんだ~。一応取っといて良かったよぉ」

 

 あっやっぱりファンの人からも廣井さんってそう言うイメージなんですね。木刀を買ってる感じからするとイライザさんの方が喜びそうな気はするけど。

 

 そんな風に思いながら次の大槻さんを見た。大槻さんは廣井さんの狐面を見てなんだか少しバツが悪そうにすると、荷物から自分の物を取り出した。

 

「あの……山田太郎が顔を隠せる物って言ってたから……これなんだけど……」

 

 大槻さんが取り出したのはガスマスクだった。両頬の所にでっかくて平べったい円柱がくっついてる奴。やはりメタルバンドやその服装の印象のせいだろうか、こっちはこっちで凄く大槻さんっぽい。

 

「大槻さんのバンドの印象か、これもスゲー大槻さんっぽいですね。へぇ~フリッツヘルメットもあるじゃないですか。いよいよミリタリーって感じで良いですね……」

 

「あっメタルっぽいです……」

 

「大槻ちゃんだからドクロかなんかだと思ったよ~」

 

 廣井さんの大槻さんのイメージってドクロなんですね……やっぱりメタルバンドの印象ってそうなんだろうか。

 

 廣井さんの狐面を見て方向性を間違えたと思っていたのか、自信なさげだった大槻さんだったが、俺達の言葉を聞くと少し安心した様子だった。

 

 と言うか別に顔が隠れれば何でもいいのだ。方向性とか無い。むしろバラバラなのも個性があって面白い。あっでもひとりちゃんは少し待ってね。

 

「よっしゃ、次は俺ですね。俺はこれです!」

 

「……えっと……これは?」

 

 俺がウキウキでテーブルに置いた物を見て大槻さんが困惑したように言った。

 

「サイバーパンク風マスクです! 通販で見つけました! どちゃくそカッコよくないですか!? しかも光るんですよこれ!」

 

 このデザインはちょっと説明しづらいのだが、SFロボットの顔の様なデザインのマスクで、フルフェイスでは無く後ろをゴムベルトで止める形になっている。このデザインがカッコイイのだが、何と言っても顔の中心部に光の輪が出来るのだ。これで目立たないドラマーも薄暗いライブハウスで存在感抜群ですよ! 

 

 大興奮で俺が語っていると、廣井さんが今までに見た事が無いような優しい顔で語りかけて来た。

 

「やっぱり太郎君も男の子なんだねぇ~」

 

 おかしいな……あんまり刺さらないのか? 見れば大槻さんも呆れた様な表情だし、やはり女の人にこのロマンは分からないのだろうか……いやでもガスマスク持って来る大槻さんなら分かってくれよ……

 

「あっ私は良いと思うよ」

 

 ひとりは分かってくれたか! と思ったが多分こいつは派手に光ってるのに反応してるだけだろ……街灯に寄って来る虫みたいになってるぞお前……

 

「……お前はどんなの持って来たんだ?」

 

 仕方ないので適当に切り上げて最後に残ったひとりを見た。こいつは黙っていると段ボールや紙袋を被り始めたりとんでもない物を持って来そうなので、ちゃんと演奏出来るだけの視界が確保出来る物と念を押しておいたのだが……

 

「あっ私はこれです……」

 

 ひとりが取り出したのはヴ〇ノムみたいな顔のデザインのマスクだった。どうやらこれも目の(フチ)と歯のギザギザの部分が光る物らしい。

 

 あっ良かった凄い普通。ひとりの事だから気味の悪いおっさんの顔のマスクとか、くしゃくしゃの泣き顔の赤ん坊の顔のマスクとか、そう言うリアル方面の物を持ってきたらどうしようかと思ったが、これなら全然問題ない。

 

「ほっ本当は馬のマスクか、目立つから太ったおじさんの顔のマスクにしようと思ったんだけど、太郎君から視界が悪いのは駄目って言われたのと、おじさんのマスクは買う前にふたり……妹が凄く気味悪がって……それでお父さんに相談したらこれを貸してくれて……」

 

 マジでナイスだふたりちゃん。おじさんはなんでこんなモンを持っているのかは分からないけど、二人のおかげで一つのバンドが救われましたよ。

 

「へぇ~、太郎君のもぼっちちゃんのも光るんだね。面白そう、私も探してみようかなぁ」

 

「えっ!? 姐さんもこういうのにするんですか!? どうしよう……ガスマスクで光るのなんてあるのかしら……?」

 

 いや別に光らなくても大丈夫ですから……と言うか皆光ったらただでさえ地味なドラムが余計目立たないじゃないですか……

 

 廣井さんが光るマスクに興味を示した事でちょっとおかしな方向に行きそうな感じになっているが、今回の物に関しては全員概ね問題無い。

 

 全員のマスクが問題がない事を確認して椅子から立ち上がると、俺は傍に置いてあった荷物を背負った。

 

「準備も整った事ですし、それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

 皆が立ち上がりFOLTを出ようとした所、この期に及んで渋谷に行くのを恐れたひとりが椅子に根が生えたように動かなくなってしまったので、三人がかりでFOLTから引っ張り出した。往生際が悪いぞ三人に勝てる訳ないだろ!! 

 

 新宿から渋谷へ向かう間、青い顔をしているひとりを逃がさない様に俺と大槻さんでそれぞれひとりの脇の下から腕を通して拘束し、囚われた宇宙人の様な様相でなんとか渋谷へと連行した。

 

 ひとりの腕を引きづって渋谷駅の改札を出ると、俺はその人の多さに驚いた。ひとりはもはや痙攣しそうな勢いだ。

 

「いやー初めて来たけど凄い人の数ですね」

 

「あっ素晴らしい路上ライブでした……」

 

「ちょっと後藤ひとり!? ライブは今からやるのよ!?」

 

 下北沢や新宿とはやはり毛色が違う事とその人の多さに驚いていると、もはや一人では帰る事が出来無くなったひとりは俺の背中にべったりと張り付いて怯えていた。ツッコミを入れた大槻さんも心なしか緊張している感じだ。廣井さんは……多分鬼ころパワーだと思うがいつも通りで頼もしい。

 

 俺も初めての渋谷にちょっとだけ不安になっているのだろうか? 楽器や機材を持っているからなのか、それとも俺の背中にビタビタに張り付いている奴が珍しいのか、それとも顔が良い女性が三人(一人は顔が見えないかもしれないが)もいるせいなのか、なんとなく通行人から視線を感じる気がした。

 

 しかし日曜の渋谷とは凄い場所だ。今日は黒パーカーを羽織っているが、ひとりのピンクジャージがそんなに浮いていないのが凄い。なかなか個性的な人が沢山いるな。

 

 改札から出て、俺もお上りさんの如く辺りをキョロキョロと興味深く見渡しながら歩いていると、廣井さんが何処かを指さしながら声を上げた。

 

「TSUTAYA前だっけ? あっ、あそことかいいんじゃない? 丁度空いてるし」

 

 廣井さんが見つけた場所は人通りも多くて確かに丁度良いかもしれない。まあ人通りが少ない場所なんて無いので空いてたらどこでもいいのだが。

 

 場所が決まって荷物を降ろすと、指示した訳でも無いのに一同申し合わせた様に人通りに背を向けてマスクからつけ始めたのがなんだかおかしかった。

 

 マスクを被ってからいよいよ機材の準備をしている中、ひとりがギターケースから取り出したギターがふと目に入って俺は驚いた。

 

「おいひとり、お前それ前に使ってたギターじゃないか? 新しいのはどうしたんだよ?」

 

 ひとりのギターケースから出て来たギターは今使っている新しいYAMAHAのギターでは無く、中学の頃から使っていたおじさんから借りたギターだった。正直路上でクソ高いギターを使うのは俺の精神に優しくないのだが……

 

「あっうん……新しいのもあるけど……太郎君とバンド組む約束したのはこのギターだから……だから私、太郎君と演奏する時はこれ使おうって決めてたんだ……」

 

 すわ新型機は故障か? などと考えていた俺の予想とは違ったようだ。理由を話してくれたひとりは、持って来た古いギターを愛おしそうに撫でた。ヴェ〇ム風のマスクが無ければさぞ絵になった事だろう……これは俺の痛恨のミスだ。

 

 しかし、うーん……そういう事なら許しましょう! 路上ライブに誘ったのは俺なので演奏中に故障したら修理費は俺が折半してやるけど、取り扱いにはマジで気を付けてね。

 

 ひとりと話した後、俺は持って来たドラムをセッティングすると軽く叩いて具合を確かめてみる。店では試奏させて貰ったし家でも予習として組み立ててみたのでその辺りの作業に滞りはない。

 

 未だに感覚だけでやっているドラムのチューニングをしていると、驚いた事にまだ準備中にも関わらずマスクとフードを被った妙なコスプレバンド集団に興味が湧いたのか、ぽつりぽつりと人が足を止め始めた。

 

 ドラムのセッティングを終えた俺は緊張をほぐす為に誰かと会話したかったので、ベースやマイクの音を確かめている廣井さんの傍へと近寄った。

 

「凄いですね。金沢八景の時はこんなに早く立ち止まって貰えませんでしたよね、廣……きくりさん」

 

「そうだねぇ……って、ええ!? 何なに!? なんで急に名前で呼んだの!?」

 

「いっいや、顔を隠してるのに苗字呼んでたら意味ないかなって思って……」

 

 苗字を呼ぶのと名前を呼ぶの、どちらが隠密性が高いかはちょっと分からんが、多分名前の方がバレにくいだろうと思って名前を呼んでみたのだが、思ったよりも驚いてわたわたしている廣井さんの様子にちょっと面食らってしまった。

 

 なんだか慌てた様子な廣井さんの準備が終わった事を確認すると、ちょっと怖いが次は大槻さんの様子を確認する事にした。

 

「あ、あの……ヨ、ヨヨコさんは準備出来ました?」

 

「ええ、私はもう大丈夫……って何!? なんで急に名前で呼ぶのよ!?」

 

 廣井さんにああ言った手前、もう名前で呼ぶしか無いのだが……くそう……いちいちあまり驚かないで欲しい。と言うか、何で二人とも同じ様な反応をするんだよ……俺の方がなんだか恥ずかしくなってくるじゃないか……

 

 廣井さんと同様の説明をしたが、なんだか怒ったような雰囲気の大槻さんに追い返された俺は最後に一番問題がありそうなひとりへと足を向けた。

 

「どうだひとり? そろそろ始めるぞ。準備出来たか?」

 

「だっだだだだ大丈夫!」

 

 うーん駄目そう。緊張か、はたまた武者震いか、見ればひとりのギターを持つ手はわずかに震えていた。

 

「……ひとり、なんか腹減らない? 終わったら何か食いに行こうぜ」

 

「……えっ!? どっどうしたの急に……!?」

 

「そうだな……カストにでも行くか。カストって何が美味いの?」

 

「えっえっと…………チーズが入ったハンバーグ……とか?」

 

「おっいいなそれ。じゃあ打ち上げでそれ食いに行くか」

 

「あっえっ……えっ?」

 

 突然ファミレスのおすすめメニューを聞いて来た俺に、ひとりは大いに困惑しながらも馬鹿みたいに真面目に答えて、俺の返答にやっぱり困惑していた。これで多少は緊張が解れてくれればいいのだが……

 

「まぁあんまり緊張すんなって、今日は名実共に俺がドラム(大黒柱)だ。しっかり支えてやるからちゃんと付いて来いよ」

 

「! うっうん!」

 

 そう言って軽くひとりの背中を叩いてやってドラムの前へ腰を落とした。

 

「Band Of Bocchisで~す! 渋谷のみなさ~ん、今から路上ライブやるんで暇なら聴いてってくださ~い」

 

 俺が定位置に就くと廣井さんが通行人に向かって声を上げた。その廣井さんの陽気な声に更に少しだが人の足が止まった。本当はリーダーの俺が言うべきなんだろうが、割と周りがうるさいので一番後ろにいるドラムで、なおかつマスクを被っていては声が聞こえにくいと思い、一番前にいるボーカルの廣井さんにお願いしたのだ。

 

 ちなみに今回のボーカルは全部廣井さんだ。大槻さんもボーカルは出来るが、単純に大槻さんはまだBocchisの曲の歌詞を覚えていないのと、今日は体験入部みたいな物で正式に加入していないからだ。

 

「え~っと、私たち、まだオリジナルが二曲しかないんで、その前にとりあえず有名な曲のメドレーやりま~す。ここ三年位の流行りは大体出来ると思うんで、何かリクエストあったらくださ~い」

 

 廣井さんの言葉に足を止めた人が連れの人間と話し始めた。一応立て看板にも同じような文言を書いておいたのだが、まあでも正直これで何かリクエストが来るとは思っていない。リクエスト飛ばしてその曲分かりませんとか言われたら恥ずかしいし、気後れするもんね。なので何も来なかった時用のセットリストは用意してある――

 

「じゃあアレやってよ! アレ!」

 

 ――のだが。すまん渋谷舐めてたわ。こんな速攻でリクエスト飛んでくるとは思ってなかった。流石陽キャの街。

 

 お願いされたのは少し前に流行ったドラマの主題歌だ。よくギターヒーロー(ひとり)ドラムヒーロー()の所にもお願いされるので俺達は全く問題ない。

 

 観客のリクエストにメンバーがこちらを見て来た。ここで知らない曲の場合は首を横に振るのだが全員問題ないらしい。ちなみに曲を知らないメンバーが三人以上なら全員が知ってる打ち合わせの曲に行くが、二人なら強行する。

 

 じゃあ知らん曲の時はどうするかって? それっぽいアドリブですよ。まぁメドレーって事なので最初の曲以外は一分くらい頑張れば終わるし、曲調だけでも知ってたらそれっぽい演奏すればへーきへーき。

 

「それじゃあリクエスト貰った曲からやりま~す。メドレーなんで、もし良ければ次のリクエストがあったら演奏中に言ってくださ~い。五曲くらいを予定してま~す」

 

 廣井さんが言い終るとメンバー全員がこちらを見た。さあいよいよ始まるぞ。緊張もしているがそれ以上に胸が高鳴る。

 

 廣井さんは金沢八景の路上ライブをBocchisの初ライブだと言った。確かにそうだ。だがあの時はひとりのライブチケットの為に金沢八景に行き、ひとりが廣井さんを助けたから路上ライブが出来た。俺にとっては正にひとりにおんぶに抱っこのライブだった。だから――

 

 ここが俺の(・・)新たな出発地点だ。

 

 チラリとひとりを見るとマスクのせいで表情こそ分からないが、やはり緊張しているのが見えてなんだか思わず笑ってしまいそうだった。自分よりテンパってる奴がいると冷静になれる、とはこの事だろうか? 俺が……いや、俺達(・・)でちゃんと支えてやるからそんなに心配すんなって。それに万が一失敗したらメンバー全員で一緒に笑われてやるから安心しろ。

 

 俺はゆっくりと息を吐くと、感覚を確かめるように一度両手に持ったドラムスティックをクルクルと回転させた。大丈夫、いつも通りに手は動く。

 

「それじゃあ、いっちょ始めますか」

 

 俺はマスクの下で静かに、しかし万感の思いを込めて呟いた。

 

 

 

「ぼっちが集まったぼっち達の音楽(ロック)――ぼっちず・ろっくってヤツを」




 さて次回やっと路上ライブなんですが……まあね! 待たせ過ぎてハードルが上がり過ぎて多分期待している程の物は出てこないと思うけどね! だって読者の想像上の路上ライブより盛り上がる事は多分無いだろうから!

タイトル回収は最終回の方がよかっただろうか……ままええやろ。
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