ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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ギャグで作った主人公のバンド組みたい設定が早くも足を引っ張り始めてて草も生えない。


002 バンド活動について話し合う話

「あっ、ひとりさんおはようございますッス、ライブお疲れ様です。へへ……」

 

「おはよう太郎君。えっ、なんで敬語!?」

 

 翌朝、いつも通り自分の家の前で待っていたひとりを見つけた俺は、へりくだった三下舎弟ムーヴで声をかけた。

 

 なにせ自他共に認める陰キャガールがつい先日思いついた話しかけられる秘策とやらを実行して、俺達の三年越しの悲願であるバンド結成と、ライブハウスなどと言うシャレオツ空間でライブを行うと言う偉業を一日で達成してしまったのだ。野球でいえば9回裏ツーアウトランナー無しの状態から満塁ホームランを打ったようなもので、その秘策を是非とも教えてほしかった。

 

「いえ、俺ひとりさん尊敬してるんで、これで普通ッス。マジリスペクトッス。ライブ最高でした」

 

「い、いやあ。それ程でも……」

 

 当然昨日は寝てたからライブなんか行っていないのだが、とりあえず褒めておく。何故なら将来俺が初ライブしたら言ってほしい言葉だから。だから俺の時はお前が頼むぞひとり。

 

 俺の放つヨイショに謙遜しながらもひとりの顔はデロデロに溶けて、頬はぷにぷにだった、よっしゃ、ひとりも嬉しそうだし秘策とやらを教えてもらえるまで今日はこの舎弟ムーヴで行く事にするか。

 

「あ、ギター背負ってたらカバン持ちにくいッスよね、カバン持ちますよ……って、うわあああ! お前なんでギター背負ってるんだよ! それ親父さんの奴だろ! 高い奴だろ! って言うか俺が中学の時ドラムスティック学校へ持って行って白い目で見られた事お前も知ってるだろ! 俺の失敗から学習しろ後藤ひとり!」

 

 あまりにも学習しないひとりに、三下舎弟ムーヴも忘れて思わず叫んでしまった。コイツまるで成長していない。

 

「ちちちち違、違くないけど! こ、これのおかげで昨日ライブ出られたんだよ!」

 

「え、そうなんですか流石ひとりさんッス、バンド女子最高ッス、タダ物じゃないッス」

 

「手のひら返しが早い!」

 

 それから学校へ向かうまでの道すがらに昨日起こった出来事をひとりから聞いていた。その内容は、昨日たまたまギターを持って学校へ行き、俺が休んだ事で放課後たまたま公園で黄昏ていて、結束バンドとかいうバンドのギターがたまたまライブ直前に逃げ出して、虹夏先輩? という人がたまたま公園にギター出来る人を探しに来た、という事らしい……ってかやっぱりギター持って行ってるじゃねーか、しかもよく聞いたらギターだけじゃなくバンドTシャツや大量のラバーストラップに缶バッジって中学で俺達が失敗した原因全部盛りじゃねーか、秘策ってそれかよ学習しろ後藤ひとり! 

 

「しかしすごい偶然……と言うかここまで揃うともはや運命じみてるな。これは遂に始まったんじゃねーか? 後藤ひとりのロックの伝説が」

 

 気を取り直した俺が右手で口元を隠してひとりを見ながらキメ顔でそう言うと、ひとりはハッとした表情で俺の顔を見つめ返してきて、盛大ににやけだした。いや乗ってんじゃねーよ。ハッ、じゃねーよ。お前そのうち変な詐欺に引っ掛かるぞ気を付けろよと言っておいた方がいいかもしれない。

 

 しばらくにやけて謎の言葉を呟いていたひとりは、急に何かを思い出したのか元の顔に戻ると俯きつつ不安そうに話始めた。

 

「そ、それで今日の放課後ライブハウスでバンド活動について話し合うらしいんだけど……」

 

 ひとりの言葉を聞いた俺は思わず顔を伏せて目を瞑った。

 

 うわあああ! ひとりがカッコイイ事言ってる! 俺も言ってみたい! ライブハウスでバンド活動について話し合うんだけどぉ、とか言ってみたいいい! コイツ昨日一日でどれだけ濃密な体験してんだ朝から俺の情緒無茶苦茶じゃねーか。戻らなくなったらどうするんだよ。

 

「あ、あのひとりさん。俺も放課後付いて行っていいッスか……」

 

 いやホラ、付いて行くのはバンドってどういう事するのかなっていう将来の為の予習だから……全然羨ましくなんかねーし……そう思いながら苦悶の表情で絞り出すように言った俺の言葉を聞いた瞬間、ひとりは勢いよく顔を上げてこちらを見て高速で首を縦に振り始めた。

 

「うわあびっくりした。急にヘドバンするなよ」

 

「い、いや違」

 

「じゃあ放課後付いていくから道案内頼んます」

 

 そう言うとひとりはあっちを向いたり、こっちを向いたり、上を見たり下を見たりしながら最後には俺の顔を見ながらにへらと不気味な笑顔を浮かべた。おいマジで頼むぞ、俺はライブハウスまでの道知らないんだからな。

 

 そうして放課後、下北沢に有るというSTARRYというライブハウスに向かうことにしたのだが……

 

「おいひとり、歩きづらいからちょっと離れろ。というかお前が先導しろよ、俺は道わかんないぞ」

 

「こ、この街まだ慣れなくて……恥ずかしいから……」

 

 まあ県外から登校している俺達にとって、下北沢はかなりのオシャレタウンであるからその気持ちも分からなくはない。

 ひとりは後ろから俺の腹を両手でガッチリホールドして、頭頂部を俺の腰に押し付けて下を向いて歩いていた。二人合わせて横から見ると、さながらケンタウロスの様な恰好である。だが俺はこっちの方が恥ずかしいとか歩きづらいとかそんな事よりももっと別のことが気になって仕方なかった。

 

「おいひとりお前のギターケースが俺の背中に当たってるぞおいやめろ押すなだからギターケースが当たってるんだってそれ親父さんの高いギターだろやめろ押すなギターケースの中身が心配だからやめろおいバカおいやめろ押すな」

 

 そんな感じで最後はひどい猫背で歩く二人組という奇妙な出で立ちでライブハウスに着いたが、入り口の扉を前にしてもひとりは俺の背中にしがみ付いたままだった。

 

「おい、早く入ってくれよ」

 

「ちょ、ちょっと待って。あと五分……いや十分したら絶対入るから。あ、太郎君先に入ってもいいよ……」

 

 いいよじゃねーよ。知らない人ばかりのところに俺を放り込むな。しかし俺は初めてのライブハウスという事でちょっとわくわくしているので、ここはひとりの言葉通り扉を開ける事にした。扉を開き中に入ろうとするとひとりは置いて行かれない様に先ほどよりも腕に力を込めてしがみ付いて来たがそれを無視して歩を進めた。

 

「失礼しまーす」

 

「あ、ぼっちちゃん来た……って誰!?」

 

 扉を開いて軽く挨拶すると、金髪のサイドテールの少女が現れていきなり言葉のナイフを突き刺して来た。おいおいおい、陰キャに対して誰? は言っちゃいけない言葉第一位(全日本陰キャ協会調べ)だろ。いやこの場合マジでなんの関係も無い人だから正しい使い方なんだろうけど、勝手に凄いダメージを受けてしまったゾ。

 

「あの……ぼっちって……後藤ひとりの事……ですよね?」

 

 外見的に、彼女がひとりを誘ってくれた伊地知虹夏さんだろうと判断した。あだ名の事は聞いていなかったが、今朝ひとりが楽しそうに話していたから恐らく()()()()線は無いと思うが、ひとりは案外アホなので本人が気付いていないだけかもしれないと一応確認しておこうと思い発した言葉は、思ったより低い声が出て自分でも驚いた。すると伊地知さんらしき人は慌てた様子で勢いよく首と両手を振りながら声を上げた。

 

「う、うん……! あ、ち、違くて……ぼっちちゃんって言うのはきちんとお互い了承を取ったあだ名というか……ぼ、ぼっちちゃん助けて!」

 

 その言葉を聞いたひとりは、この場のおかしな雰囲気を感じ取ったのか青い顔で慌てて両者の間に割って入った。

 

「ちちちち、違うの太郎君。あ、あの……ぼっちってあだ名は昨日リョウさんに付けて貰った……ちゃ、ちゃんとしたあだ名で……そういうのじゃなくて……あ、それでこちらが今朝話した結束バンドのドラムの虹夏ちゃんです。あ、あの、それでこっちは太郎君です……私の、私の……えっと……」

 

 ひとりも相当テンパっているのだろう、説明もそこそこにいきなり人物紹介をやり始めた。しかし俺の事をどう紹介しようかと迷ったひとりは俯いていた顔を少し上げて上目遣いで俺の顔をじっと見つめてきた。俺も真っ直ぐにひとりの瞳を見つめる。いいんだぜひとり、俺の事をマブダチだと紹介してくれて。

 

「あっ、私の舎弟です……」

 

 おいバカおい、なんでよりにもよって舎弟なんだよ……って思ったけどしてたわ、朝に舎弟ムーヴしてたわ。もう乗るしかねーわこのビッグウェーブに。

 

「いきなり失礼な事言ってすみませんでした。これからもぼっちって呼んでやってください。山田太郎です。ひとりの舎弟です。右投左打です。ポジションはキャッチャーです。よろしくお願いします」

 

 そう言って俺は頭を下げた、ちょっと情報量が多くなったがさりげなくドカベンネタを織り交ぜて重かった空気を軽くするナイスな自己紹介だ。そんな俺の自己紹介を聞いた伊地知さんは笑いながら答えてくれた。

 

「あはは、あたしもごめんね。紛らわしい事いっちゃって! ぼっちちゃんから聞いてるかもしれないけど、あたしは伊地知虹夏、下北沢高校の二年で結束バンドってバンドでドラムやってます! それにしても、太郎君は野球部なんだね」

 

「違います」

 

「えっ……ああ! じゃあどこかのクラブチームとか?」

 

「いえ、野球はやってません」

 

「……???!!??!???」

 

 せっかく舎弟の方をスルーして、話の広がりそうなキャッチャーの方を選んだのに、意味不明な返答をされた伊地知先輩が宇宙猫の様な表情になっている。あっやばい、これはネタが滑った時の反応だ。つい一か月前に高木君にネタが通った成功体験を忘れられずに、またやってしまった! 学習しろ山田太郎! 

 

 しかし、空気を軽くしようとしてお通夜みたいにしてしまった事を後悔しているが、リカバリーの方法が全く分からず、途方に暮れている俺の前に救いの女神が現れた。

 

「虹夏、それ多分ドカベンネタ。ドカベンの主人公が山田太郎って名前で、ポジションがキャッチャーなんだよ。それにしても君、山田太郎ってそれ本名?」

 

「ウス、山田太郎です。本名です。それでえっと……」

 

「私は山田リョウ。虹夏と同じ下高の二年で担当はベース」

 

 なるほどこの人が山田リョウ先輩か。ひとりにあだ名をつけた張本人らしいが、ドカベンネタを拾えるならまあ悪い人ではないのだろうと考えた俺は、本当はバンド会議の見学に来たんだけど、さっきから場を荒らしてしかいないと感じて挨拶もそこそこにさっさと立ち去る事にした。

 

「あっ、じゃあ俺はこれで帰ります。ひとりの事よろしくお願いします」

 

 そう言って会釈をして扉へ向かおうとすると、ひとりが驚愕の表情でこっちを見ると同時に上着の裾を掴んできた。いやなんでそんな驚いてるんだよ、というかその俊敏性を体育で出せ。

 

「えー、太郎君帰っちゃうの? あたし、ぼっちちゃんと太郎君の事もっと知りたいなー」

 

「私も太郎の事聞きたい。やっぱりお弁当はドカベンなの?」

 

 そうしている内に宇宙猫状態から復帰した伊地知先輩とリョウ先輩に声を掛けられた。ひとりを見るとまたヘドバンしていた。そのうち首が取れちゃうんじゃないかと心配になる。先輩たちから声を掛けて貰った俺は、好意に対してしつこいようにも感じたが一応最終確認的な意味も込めて改めて聞いてみた。

 

「いいんですか?」

 

 そう聞くと、先輩方二人は特に気にした様子もなくあっけらかんとした調子で言い放った。

 

「全然オッケー! むしろぼっちちゃんが連れて来た人に興味あるし。ねっ、リョウ」

 

「うん、ぼっちの日常に迫る為の重要参考人」

 

 なんだかひとりの評価がおかしな気がしたが、今日はバンドの何たるかを勉強に来た事と、ライブハウスにも興味があった俺は二人の言葉に素直に甘える事にして頭を下げた。

 

「じゃあ……すみません。見学させて貰います」

 

 そうしてテーブルに案内された俺達は、仲良くなるためにとリョウ先輩の用意したトークテーマが書かれた巨大なサイコロを振る事になったのだが、その前に気になっていた事を聞こうと俺は挙手した。

 

「はい! 太郎君どうぞ」

 

「あの、呼び方なんですけど。伊地知先輩はいいんですけど山田先輩は俺も山田なんで、リョウ先輩って呼んでもいいですか?」

 

 司会役の伊地知先輩に指名された俺がそう言うとリョウ先輩は快く快諾してくれたが、伊地知先輩はむくれた顔で抗議してきた。

 

「えー、ぼっちちゃんもリョウも名前呼びなのに、あたしだけ苗字呼び―?」

 

「まあそれはそうなっちゃうんですけど……」

 

「あたし達も太郎君って名前で呼んでるしさっ! 思い切って言っちゃおう!」

 

 そこまで言われるとこちらとしては断る理由が無かった。まあ本人がいいって言ってるしいいか。

 

「じゃあ虹夏先輩って呼ばせて貰います」

 

「是非そう呼んでくれたまへ、それじゃー、はい! あたしも質問いいですか!」

 

「? はい、虹夏先輩どうぞ」

 

 そう言って俺の方を見て手をあげた虹夏先輩を指名した。

 

「太郎君とぼっちちゃんはどんな関係ですか!」

 

「それは私も気になる」

 

 最高に瞳を輝かせた虹夏先輩と、表情の変化の分かりずらいが興味ありそうなリョウ先輩の両名から質問を受けた。やはり女子高生はこういうの好きなんだなあ。

 

「俗にいう幼馴染ってやつですね。俺が小学校一年の時に転校してきてからだから……今年で十年目なのかな」

 

 こういうのは変に隠すから駄目な事を知っている俺は普通に真実を話した。それを聞いた虹夏先輩は満面の笑みで、リョウ先輩は興味津々と言った様子で俺とひとりを左右から取り囲むようにズズイと距離を詰めた。

 

「えー! すごい! そういうの本当にあるんだね! やっぱり十年間ずっと同じクラスとかそういう奴なの!」

 

「あっいえ、そういうのはないです。それどころかひとりとは十年間同じクラスになった事無いです」

 

「そっかー、やっぱそういう漫画みたいな事はそうそうないんだねぇ」

 

 虹夏先輩は残念そうにそう言うと少し落ち着いたのか、司会進行役に戻っていった。

 

 それからサイコロを投げた最初のテーマは学校の話になり、通学二時間の理由を聞かれたひとりが高校は誰も過去の自分を知らない所にしたいと話して引かれた後、同じく通学二時間の俺に話を振られた。

 

「太郎君はなんで秀華高なの?」

 

 ひとりとバンド組む為です。

 

 そう喉まで出かかったのを寸でのところで押し止めた。危ない危ない、昔した約束をいつまでも引きずってる幼馴染ヒロインみたいな発言をするところだった。今そんなことを言えばこの場の全員が混乱するだろう。せっかくひとりを受け入れてくれた恩人達にそんな真似はしたくなかった。

 

 だがひとりとバンドを組む事はやはり昔からの目標であり夢だから、いつか実現できる日が来ることを祈っていよう。

 

 ちらりとひとりの方を見ると、特に変わった様子もなくこっちを見ていた。その様子に安心した俺は少し考えて適当な理由をでっち上げた。

 

「あのー、東京。東京に憧れて、高校は東京が良くって。ひとりがここに行くって聞いたんで便乗しました」

 

「あーちょっとわかるかも。なんか東京の学校っておしゃれー! って感じだもんね」

 

「私も、下北は古着屋さん沢山あって好き」

 

 我ながらなかなか良い回答だと思っていたら、案の定先輩二人も納得したらしかった。ひとりはリョウ先輩の古着屋巡りに勝手にダメージを受けていた。

 

 次の話題の音楽の話になった時、メモを取りながら聞いていた俺は驚愕した。なにせドラムヒーローとして上げる動画は全て流行りの曲のカバーばかりだったので、自分たちで曲を作るなど俺は考えていなかったからだ。

 

 聞けばリョウ先輩は作曲出来るらしく、ひとりも作詞を頼まれていた。なんともまあバランスの取れたバンドで、ひとりはいいバンドに入ったなぁと他人事ながら感心していた。

 

 いままで比較的大人しくしていたひとりが、次のノルマの話になった途端にぶっこんできた。どうやらバンドは売れるまでとてもお金が必要らしく、バイトをする必要があるらしい。そんな話になった時にひとりが鞄からおもむろに取り出した豚の貯金箱を見て俺は叫んだ。

 

「うわ、ひとり! お前なんて物持ち歩いてるんだ!」

 

「そうだよぼっちちゃん! そんな大事なお金使えないから……」

 

「前におばさんがソレ探してたんだぞ、貯金しようと思ってるんだけど貯金箱が見つからないって……お前が持ち歩いてたのかよ。何時から持ってたんだ? おばさんかなり前から探してたから、ソレあんまり入ってないはずだから多分足りないぞ」

 

 俺の言葉を聞いたひとりはバイト確定で世界の終りの様な目を向けたかと思うとがっくりと項垂れた。そんなやり取りを見ていた虹夏先輩はひとりにSTARRYでバイトすることを提案したが、ひとりはどうにも踏ん切りがつかないようだったので見かねた俺は虹夏先輩に声をかけた。

 

「すんません、タイムを要求します」

 

「認めます」

 

 両手でTの字を作った虹夏先輩に軽く頭を下げて、ひとりを連れて部屋の端の方に移動した。

 

 不安そうに俯いているひとりに向かって俺は声をかける。

 

「いいかひとり想像してみろ、ライブハウスでバイトしたとするだろ?」

 

 そう言って俺は裏声で芝居ったらしく声を出す。

 

「後藤さ~ん、放課後は何してるの~(裏声)」

 

「あっ、放課後はライブハウスでバイトしてます」

 

 ひとりの体が少し反応したが、まだ俯いたままだった。駄目か……じゃあ次は熱血大陸っぽく行くか。

 

「んん、あーあー。高校時代に何かアルバイトはやっていましたか? (低い声)」

 

「高校時代は下北沢のライブハウスでバイトしてました」

 

「なぜライブハウスでバイトを? (低い声)」

 

「う~ん、私にとって音楽って言うのは酸素みたいなものなんですよね、だから魚が水を求めるように私も音楽がある所じゃないと生きられなかったんです」

 

 見ればひとりが瞳を輝かせてこっちを見ていた。現金な奴だな。う~ん説得してたら俺もライブハウスでバイトしてみたくなったぞ。ひとりに戻るか尋ねると頷いたのでテーブルに戻る事にした。

 

「あ、戻って来た」

 

 談笑していた先輩方に迎えられて席に座る。

 

「で、どうかなぼっちちゃん。一緒にここでバイトしない?」

 

 再度虹夏先輩に尋ねられたひとりは長い葛藤の末「がんばりましゅ……」と決断した。

 

「そうだ、ぼっちちゃんが心配だったら太郎君もここでバイトすれば? 男の人が居たらウチも色々助かるし!」

 

 ありがたいお誘いだったが、ひとりだけならまだしも二人も急に雇って大丈夫なんだろうか? 先輩方二人もいるしライブハウスの事を全く知らない俺は人数過多な気がしたので虹夏先輩に聞いてみた。

 

「あの、非常にありがたい話なんですが。いきなり二人も雇ってもらって大丈夫なんですか?」

 

「うーん、あたし達も毎日出てる訳じゃないから、多分大丈夫だと思うんだけど……太郎君に関しては、ちょっと聞いておくから分かったら連絡するね。あ、ロインID教えてよ」

 

 そうして虹夏先輩と連絡先を交換した後、今日の集会はお開きとなった。

 

 

 

 先輩達に見送られてライブハウスを出て電車に乗り、二人並んで座れるくらいに乗客が減ったところでひとりがぼそりと話し始めた。

 

「あ、あの。太郎君……バンド一緒に組めなくて……ご、ごめん……」

 

 その長い前髪で表情は伺えなかったが、最後は消え入りそうなほど小さな声だった。

 

「うん? ああ、まあしゃーない」

 

 俺は努めて明るく言ったが、ひとりの様子は変わらなかった。だが考えてみればひとりが落ち込むのも無理はない、だって俺をバンドへ最初に誘ってきた(・・・・・・・・)のは他ならぬひとりだからだ。

 

 まあ考えたくはないが結束バンドが解散することだってあるかもしれないので、まだ先の事は分からないが、順調にいけば確かにこの先ひとりとバンドは組めないだろう。だがせっかく待望のバンド活動が始まったのに、そんな後ろ向きな事を考えるなんてもったいないと思い無い頭を絞って考えていると、ふと名案が思い付いた。

 

「まあ確かに一緒にバンドは組めないかもしれないけど、そうだな……俺もこれからなんとかバンド作るからさ。そしたらひとり、対バンやろうぜ」

 

「……対バン?」

 

 不安そうにこちらを向いたひとりは、不思議そうに聞き返した。

 

「そうそう、対バン。STARRYでやらせてもらおうぜ。そんで人気が出たら……ドーム! 最終目標はドームライブで対バンやろう!」

 

「ドームで対バン……」

 

 ひとりは確かめるように俺の言葉を繰り返した。

 

「別に武道館やスーパーアリーナでもいいぞ。でもひとりは人見知りであがり症だからな、いきなりでかいライブで対バンは難しかろう。だから……それまで先に結束バンドでよく練習しておいてくれ」

 

 俺はドヤ顔でそう言うと、ひとりは少し眉を吊り上げて反論してきた。

 

「そ、そんなことないし……よ、余裕だし……中学の時は妄想でドームも武道館もスーパーアリーナも何百回も埋め尽くしたし……」

 

 怖いよ、こいつ偶にブツブツと何か言ってると思ったらそんな事やってたのか……まあなんにせよこれで俺など気にする事無くバンド活動をしてくれたら、俺としてもバンド結成活動(未定)に専念できるってもんだ。

 

「それに先の事は分かんないからな、お前が結束バンドに入ったのもまあ偶然みたいなモンだし、もしかしたら俺とお前も、この先偶然バンドを組むこともあるかもしれないしな」

 

 これは俺の願望だ。ドーム対バンまで一回も共演無しってのも寂しいし、いつか何かで機会があればいいなあなんて思っている。

 

 それから二人で将来どこのライブ会場でやりたいだの、ひとりから「ドームライブ出来る位人気になれば高校中退できるかな?」などと言う馬鹿な話をしていた途中。

 

「あっあの、太郎君」

 

「うん? 何だ」

 

 不意にひとりに呼ばれて顔を向けると、俺と目が合ったひとりは慌ててせわしなく視線を動かした末そっぽを向いてしまった。

 

「あ、あの……その……あ、ありがとう……」

 

 そう言ってひとりははにかむように笑った。

 

 

 はーかわいい。この娘アイドル事務所に入れると思いませんか? 




主人公のバンド結成話は辛気臭くなるのでやりたくないけど、結束バンドに入れない以上どうしても触れなきゃいけないのでなるべくさらっと流します。
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