ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 正直盛り上がる場面程書くのが難しいと思ってます。何をどこまで引っ張って、何をいつバラすかって言うのは常に考えているけど、『その時』が読者と本当に一致しているのか分からなくて怖いから。


022 つっきー襲来

 廣井さんから十二月二十四日に行われるSICKHACKのワンマンライブに、SIDEROSと結束バンドとBocchisでゲスト出演しないかと連絡を貰った数日後の朝、俺はひとりに虹夏先輩から何か聞いていないかそれとなく探りを入れてみる事にした。

 

「なあひとり、十二月二十四日(クリスマス・イヴ)ってなんか予定あるか?」

 

「え…………えっ!! にっ二十四日の予定!?」

 

 ひとりは最初こそ鈍い反応を見せたが、何故だか急に驚いて顔を真っ赤にさせながらあたふたとし始めた。

 

 そうしてひとしきりテンパった後、一度呼吸を整えたひとりは赤い顔で俯きながら答えた。

 

「なっ無いでしゅ……」

 

「……そっか」

 

 ひとりの不可解な反応は置いておくとして、どうやらまだ虹夏先輩から何も聞いていないようだ。もしかしたらゲスト出演を断った可能性もあるので、今俺から何か言うのはやめておく事にした。

 

 その放課後、俺は今日ライブを行うひとりと喜多さんと共にSTARRYへと向かっていた。

 

「もう十二月か~。すっかりクリスマスムードね」

 

 クリスマスがあと二週間ほどに迫った街並みはイルミネーションに彩られて、すっかり煌びやかになっている。

 

 未確認ライオット参加を決めた結束バンドのメンバーはあれから気合が入っており、この一ヵ月間は練習とバイト尽くしのようだった。それが大変だったのか、はたまた充実していたのかは分からないが喜多さんはあっという間だと感想を漏らした。

 

「冬休みまであと少しだし待ち遠しいわ~」

 

「あっ私も……」

 

 恐らく友人との予定が沢山詰まっているのだろう、待ちきれない風に言う喜多さんに酷く真剣に同意するように言葉を発したひとりに俺と喜多さんは視線を向けた。

 

「ずっと……待ち遠しかったです」

 

「お、おう……そうか……」

 

「そ、そう……何か重みが違う気がするけど……」

 

 あまりにも真に迫ったひとりの物言いに、俺達二人は思わずたじろいだ。やっぱり学校辞めたいって言ってるのは冗談じゃないんだな……でもここまで来たら結束バンドが大ヒットして億万長者にでもならない限り絶対卒業させるけどな。

 

 クリスマス前だと言うのにあまりにも辛気臭くなったので話題を変えようとした喜多さんの話では、どうもリョウ先輩の曲の作成が難航しているようだった。やはりデモ審査に出すにあたって色々と思う事があるのかもしれない。

 

「冬休みもバイトと練習漬けだけど、クリスマスにはパーティしましょ!」

 

「クリスマスパーティ……」

 

 喜多さんの提案にひとりが小さく呟きながらこちらにチラリと視線を向けて来た。そんなひとりを見た喜多さんは何か思い出したように笑顔で声を上げた。

 

「そう言えば! 二人はいつもクリスマスってどうしてるの!? やっぱり幼馴染だしどっちかの家でパーティーとかするのかしら!?」

 

 やはり陽キャはこういうイベントが大好きなのか、喜多さんはお目目キラキラで問いかけて来た。

 

「えっと……そうですね。ウチの両親がひとりの両親と仲が良いって話はしましたっけ? なので大体はひとりの家に集まってパーティーしますね。ひとりの親父さんが料理上手なので……ってそう言えば今年はケーキどうするんだ? もう予約とかしたのか? 俺何も聞いてないんだけど」

 

「あっケーキはお母さんがもう予約してるみたい。二つ予約したみたいだから、多分当日に私たちが取りに行くんじゃないかな?」

 

 料理はウチで作ったのを持って行ったり母親同士でひとりの家で合同で作ったりするし、ひとりの親父さんも唐揚げやらが上手なので、購入するのは基本飲み物やケーキだけなのだ。なので酒の類を調達するのが俺の親父の役目で、ジュースやケーキの受け取りを担当するのが俺とひとりの毎年の恒例行事だったりする。

 

 喜多さんに説明している途中で思い出した自分達の担当であるケーキの事をひとりに聞いていると、そんなやりとりが琴線に触れたのか喜多さんは大興奮の様子だった。

 

「きゃー! これよこれ! まさに漫画やドラマで見た様な幼馴染だわ! 本当にこんな関係の男女が存在するのねー!」

 

 どういう事だよ……俺達はネッシーか何かか? ってそう言えばひとりは下北沢のツチノコだったわ……やばいな、俺達二人とも絶滅危惧種を超えた幻の生き物になっちゃってるじゃねーか……

 

 いつもの発作を起こした喜多さんが「私も幼馴染が欲しいわー!」などともはや叶わぬ願いを言い始めた時、喜多さんのスマホからロインの通知音が鳴った。

 

「? 伊地知先輩からだ……なになに? 十二月二十四日、新宿FOLT、SICKHACKのワンマンライブに……」

 

 虹夏先輩からの連絡を見た二人は急遽決まったゲスト出演に驚いていた。特にひとりは二十四日と聞いて何かに気付いたようで、顔を赤くさせながら盛大に顔面をぶっ壊している。

 

「SIDEROSと結束バンドと……ばんどおぶぼっち……ず……? ってどこかで聞いたような……」

 

 書かれているバンド名を見ながら喜多さんは目を瞑って顎に人差し指を当てながら記憶を掘り起こそうとしていたが、中々思い出せないのが気持ち悪いのかうんうんと唸りを上げて悩んでいた。

 

 やはりこういう事を覚えていそうな陽キャの喜多さんでも覚えていないか……まあそりゃそうだ。文化祭で演奏したバンドは色々あったが、結局俺だって覚えているのは結束バンドしかないのだ。用紙に載ってはいたものの結局演奏しなかったよく知らない奴のバンド名など覚えている奴がいなくて当然だろう。

 

「あー……それは俺のバンドですね。この間説明したひとりに入って貰った奴です」

 

 どうせ黙っていた所で本番になればバレるのだから、隠していても仕方ないと思った俺は正直に打ち明けると、喜多さんは喉まで出かかっていた気持ち悪さが解消されてスッキリしたのか顔を綻ばせた。

 

「そうよ! Band of Bocchis! 確か文化祭の時言ってたわよね!? ひとりちゃんから山田君がドラムやってる事は聞いてたし、実際に山田君の部屋で見せて貰ったから知ってたけど、私、まだ実際に山田君がドラムを演奏してるの聴いた事無かったから、すっごく楽しみ!」

 

「そう言えばそうですね……まあ、あんまり期待せずに待っててください」

 

 無邪気にはしゃぐ喜多さんに答えると、ひとりが何とも言えない顔を浮かべてこちらを見ていた。一体何なんだよ……ここ最近情緒の忙しい奴だ。

 

「なんだよその顔は……?」

 

「えっえっと……喜多ちゃん太郎君の部屋に入った事あるんだなって……」

 

「夏休みのTシャツデザインの時に、お前の家に行く前に虹夏先輩と一緒に来たぞ」

 

 「虹夏ちゃんまで……」なんて言いながら、なんだか少し元気がなくなったひとりを引き連れて俺達はSTARRYへと向かうのだった。

 

 

 

「おはようございまーす。あっ伊地知先輩連絡見ましたよ! ゲスト出演楽しみですね!」

 

 STARRYへ辿り着き俺達が各々挨拶すると、リョウ先輩と向かい合って話をしていた虹夏先輩へ喜多さんが楽しそうに話しかけた。

 

「見てくれた? そうなんだよねー。ちょっと前に連絡が来て、少し考えたんだけど今は沢山ライブしたいからぜひお願いしますって! そう言えば太郎君のバンドも呼ばれてたよね!? 太郎君ライブ初めてで大変だろうけどよろしくね!」

 

 なんと虹夏先輩は俺のバンド名を覚えていたらしい。流石と言うかなんというか……文化祭で俺のバンド名を聞かれなければ今回のライブはマスクを被って別人の振りをしてやり過ごせたのだが、教えてしまった以上こういう日が来る事はわかっていたのだ……

 

 しかしいきなりひとりをギターヒーローだと見抜いたその慧眼の前で演奏する事になるとは、いよいよ進退窮まって来た感じがあるな。

 

 虹夏先輩に適当に返事をすると珍しくリョウ先輩がこちらを見ていた。

 

「……私も楽しみにしてる」

 

「アッハイ」

 

 そう言えばこの人は文化祭の時も同じような事を言ってた気がする。もしかしたら喜多さんと言う前例があるので俺の事を実はドラムなんて全然出来ない自称ドラマーだと疑っているのかも知れない。喜多さん……あなたの残した傷跡は意外に大きいかもしれませんよ……

 

 しばらくすると結束バンドの面々は今日のライブの準備の為に奥へと引っ込んでいき、俺が一人でボケっとしているとひとり達と入れ替わるように店長が声をかけて来た。

 

「よぉ太郎。路上ライブどうだった? 一人くらい足を止めてくれたか? まあでも最初はそんなもんだ気を落とすなよ」

 

 この人何故か前に両手にプラグを持って追いかけられて以降俺の事を呼び捨てで呼んでくるようになってしまったのだが……そんなにいい人が見つからない発言が効くとは思わなかった……やばいな、なんとか誕生日プレゼントで機嫌直してくれるといいんだが……

 

「って、ちょっと店長!? なんで失敗した事が前提で話しを進めるんですか!?」

 

 聞き捨てならない言葉に俺が抗議すると店長はいかにも当然の事のように、それでいて面倒そうに言い返して来た。

 

「なんでって言われても……お前路上ライブ初めてだろ? それにいくらあいつ(廣井)が居ても、バンドは一人だけ上手くても駄目なんだよ」

 

 俺の信用は全然無いけど廣井さんの実力は認めてるんだな。まぁそりゃそうか、俺は店長の前で演奏した事無いからな。しかし悔しいから路上ライブ大成功だったの教えてやろう。

 

「何言ってるんですか。大成功ですよ! もう囲いが二重三重になって投げ銭もジャンジャン入って、終いには演奏終わったらファンになりました! って沢山の観客が……」

 

「おう、へこんでるかと思ったけどそんだけ言えたら大丈夫そうだな。将来そうなるように頑張って行けよ。まぁ続けてたらファンもその内出来て来るから」

 

 俺がドヤ顔で語ると、店長はまるで弟子の成長を見守る師匠の様な朗らかな笑みを浮かべて満足そうに頷いた。

 

 くそう……全く信じて無いな。しかし改めて状況を説明すると滅茶苦茶嘘臭いな……トゥイッターで呟いたら即嘘松認定されて炎上しそうな内容だ。実は路上ライブには観客が一人もおらず、あれは俺の見た都合の良い夢だったのでは? なんて思ってしまう。だって未だにBocchisのトゥイッターフォロワーが十人位しかいないし……その内の一人がヨヨコ先輩だし……

 

 店長が笑いながら去って行き一人残された俺が悔しい思いをしていると、ぼちぼち客が入って来る時間になった。受付はいつもは俺の仕事だが、今日は結束バンドのライブを見るのでPAさんが担当している。

 

 もはや常連となったひとりのファン一号二号さんがやって来て話をしながらライブ開始を待っていると、なんだか聞き覚えのある声が聞こえて来た気がした。

 

「今日はどのバンドを見にこられました?」

 

「結束バンドです……」

 

 アイエエエエ! ヨヨコ先輩!? ヨヨコ先輩ナンデ!? いやマジでどうしたんだ? 眼鏡をかけて、いつもの高い位置でのツインテールでは無く肩のあたりの低い位置で左右に結っているしマフラーにダッフルコートを着ているから、あれが普段の姿なんだろうか……? いつも会う時は割とメタルで派手な格好をしていると思っていたけど、普段は案外地味な恰好をしているのかもしれない。

 

 チケットを購入してなにやら難しい顔で辺りをキョロキョロと見回しているヨヨコ先輩を見ながら俺が静かに驚いていると、そんな俺の視線の先から結束バンドを見に来た声が聞こえてきたのに気付いた一号二号さんがヨヨコ先輩へ嬉しそうに近づいて話しかけた。

 

「あれ~見たことない子だ~! あの~今日初めてライブきた感じですか~? 結束バンドを見にきたんですよね?」

 

「名前なんて言うの?」

 

「えっ……(おお)つ……つっきーです

 

「…………っ」

 

 あっ危ない……なんとか噴き出すのを堪えたぞ。なんだよつっきーって……しかしすげーな一号二号さんは。流石にあの引っ込み思案のひとりのファンをやっているだけの事はある。ヨヨコ先輩が女の人だからだろうけど、知らん人でもグイグイ行くこの感じ……この人達やはりかなりのコミュ強だな。

 

 少し距離が離れているのと、一号二号さんが壁になっている事も手伝ってヨヨコ先輩は俺に気付いていないようで、一号二号さんに次のライブは一緒に行こうと誘われたりロインの交換をしたりしている。

 

 男の俺を混ぜるのはヨヨコ先輩に悪いと思い気を遣っているのだろう。一号二号さんは俺を呼び寄せる事も無く、話をしている途中で一号さんがチラリと顔だけ俺へと振り向き右手を少し上げて来た。恐らく今日はもう俺の相手を出来ないという謝罪だろう。

 

 別に気にしていない事を伝える為に俺も右手を軽く上げて返事をすると、一号さんがこちらを見た事で視界が開けたのかヨヨコ先輩とバッチリと目が合ってしまった。

 

「あっヤベ」

 

「…………~~~~~~~~~!?!!!」

 

「あっ始まったよ!」

 

 瞬時に顔を真っ赤にして飛び掛かってきそうな表情のヨヨコ先輩に、これ以上ない位のベストタイミングでライブが始まった事を告げた二号さんのおかげで一応の危機は去った。まあどうせライブが終わったら絡まれるので地獄までの時間を先延ばしにしただけなんだが……

 

 俺も前の方でひとりのギター演奏を見たかったのだがそこには一号二号さんとヨヨコ先輩がいるので、今日ばかりは少し後ろの方で文字通り後方腕組古参ファン面でライブを見た。

 

 

 

「ちょっと太郎!! 気付いてたのなら声をかけなさいよ!!」

 

 ライブが終わると一も二も無くこちらに詰め寄って来たヨヨコ先輩に続くように一号二号さんも集まって来た。

 

「なになに? 太郎君とつっきーちゃんって知り合いなの?」

 

「……ひとりちゃんと言う物がありながら……太郎君……ちょっとお姉さんとお話しようか……?」

 

 おかしい……出会った当初の二号さんはもう少し穏やかで、おっとりしていて、可愛らしい感じのお姉さんだった筈だ。一体何が彼女をこんな風にしてしまったんだろうか……現代社会の闇は深いのかもしれない……しかし洒落にならん怖さがあるので俺は弁明してみる事にした。

 

「実はヨ……ん”ん”、つ、つっきーさんとは廣井さん経由で知り合ったんですよ。知ってます? あの酔っ払い」

 

 本名を名乗らず自らつっきーと言い出したので、SIDEROSの事を言っても良いのか判断がつかずとりあえず伏せておいたが、一号二号さんはいつも俺が廣井さんとつるんでいるのを思い出したのかとりあえず納得したようだった。

 

「…………なんか太郎君の周り女の子ばっかりじゃない……?」

 

 やばいな、二号さんが何故かまた暗黒面に落ちかけている。しかしそれは俺も困っている事なので勘弁してもらいたい。俺の男の知り合いと言ったら…………吉田店長くらいか? でもあの人も心は乙女って廣井さんが言ってるしな……これ以上考えるのはよそう……

 

 ヨヨコ先輩を見れば俺がつっきーさんと呼んだ事に、赤くした顔を伏せながらプルプルと震え出している。今にも爆弾が爆発しそうな気配を察知した俺はすぐさま話題を逸らす事にした。と言うか自分でつっきーって言い出したんだから我慢してくれよ。

 

「物販見ませんか物販! ねっ一号さん!」

 

「えっうん、そうだね。つっきーちゃんも物販見ようよ。今日やった曲のデモCDとかいろいろあるよ!」

 

 一号さんが間に入ってくれたおかげでなんとか爆弾処理を無事に済ませた俺は、三人の後について物販コーナーへと足を運んだ。

 

 物販コーナーに着くと、そこに売っているただの結束バンド(五百円)を見たヨヨコ先輩は驚いて俺に小声で話しかけて来た。

 

「ちょっと……これただの結束バンドだし、値段設定も……ってあなたまで買ってるの!?」

 

 俺の左手首につけられたライブの時限定で付けているピンク色の結束バンドを見て、またヨヨコ先輩が驚きの声を上げた。

 

「俺だってこんな法外な値段のただの結束バンド買いたくないんですよ……けど仕方ないでしょーが! ひとりのグッズなんか出されたら!」

 

「でも普通のリストバンドはライブでしか使い道ないけど、これはコード束ねたりできるじゃん!」

 

 俺の静かな叫びが聞こえていたのか一号さんが楽しそうに話しかけて来たが、ヨヨコ先輩はその意見に驚いている様な表情だった。そうだよ結束バンドはただの結束バンドなんだよ。それに――

 

「えっ!? 普通のリストバンドは学校とか普段でも着けて行けるでしょ?」

 

 俺が真顔でそう返すと三人ともなんだかドン引きしているように見えた。おかしいな……ひとりなら全力で同意してくれるんだけどな……

 

 結局ヨヨコ先輩はデモCDだけ買ったようで、そのまま結束バンドメンバーへ会いに行こうとする一号二号さんと共にメンバーの前まで行くとスルリと踵を返して立ち去ろうとして――

 

「新しいファンの子連れてきました~!」

 

 見事に一号さんに捕まってバンドメンバーに紹介されていた。

 

 メンバーの前に出されたヨヨコ先輩はやはり正体を隠しているのか、マフラーを口元へと引っ張り上げて顔を隠そうとしているようだ。そんなヨヨコ先輩の仕草を見ながら、なんだかひとりは親近感を抱いたような遠慮がちな笑みを浮かべている。

 

 ……って嘘だろひとり!? お前もしかして気付いてないのか!? 仮にもBocchisと言う同じバンドのメンバーで渋谷路上ライブと言う苦難を一緒に潜り抜けた仲だろうが……

 

「じゃあ私はこれで……!」

 

「皆つっきーちゃんにサイン書いてあげてよ~」

 

 そのまま逃げ出そうとしたヨヨコ先輩を一号さんはしっかりと手を掴んで捕獲しながら、バンドメンバーへ先程ヨヨコ先輩が買ったデモCDにサインを頼んでいた。

 

 サインなんて考えてないと言う虹夏先輩にひとりも同意しているが、こいつ歌詞ノートにサイン書いてなかったか? それともやっぱりあれはクソ面倒くさいから辞めたのか? 

 

 そんな風に考えながら出来上がったサイン入りCDを見て俺と虹夏先輩は思わず叫んだ。

 

「ぼっちちゃんちゃんとサイン作ってるじゃん!!」

 

「でっかいよ! お前のサインデカ過ぎるだろ!? 一人で三分の一の面積取っちゃってるじゃん! バランスを考えろ! あと喜多さんのサインの右下のこれってなんですか? もしかして中指を立て……」

 

「!? 何言ってるの!? そんな訳ないでしょ! ちゃんと見て山田君!」

 

 流れ弾を食らって参戦してきた喜多さんも加わってしっちゃかめっちゃかになっていると、それまで黙っていたリョウ先輩がヨヨコ先輩を見ながらポツリと呟いた。

 

「あれ? 何か見た事ある気が」

 

 リョウ先輩の疑問にヨヨコ先輩がビクリと肩を震わせた時、聴き馴染んだへべれけ声が聞こえて来た。

 

「みんらぁ~~!! 今日もライブよかったよ~。あの~~あへ~~……四曲目エモの塊!!」

 

 三曲しかやってないのに四曲目がエモの塊な訳ないだろいい加減にしろ。案の定虹夏先輩にも突っ込まれているが、そういう時は二曲目あたりを指定するといいですよ、一曲目は流石にわざとらしいんで。いや知らんけど。

 

「あ~太郎君! 連絡見た~? 丁度いいからBocchisもねじ込んどいたよ~」

 

「えぇ……丁度いいからねじ込むってなんですか……大丈夫なんでしょうね? まさか不正とかありませんよね?」

 

「そんな訳ないじゃ~ん」

 

 俺の心配に廣井さんは上機嫌に笑っていると、虹夏先輩がゲストで呼ばれた事のお礼を伝えている隣で喜多さんが質問した。

 

「でも、どうしてわたし達を?」

 

 それを聞いた廣井さんは後頭部を右手で撫でながら困ったように笑って答えた。

 

「朝起きたら、何故か送信履歴に入ってたんだよね~……魔法みたいな事もあるもんだ!」

 

 いやそれはねじ込んだとか不正よりヤバイ奴でしょうが……志麻さんに殴られますよ……

 

 そんな冗談なんだか本気なんだか分からない廣井さんの言葉を聞いて、今まで静かだったヨヨコ先輩が怒気を含んだような声を上げた。

 

「やっぱり適当だったんじゃないですか……」

 

 やっぱり、という事はここに来る前に何か話していたのだろうか? という事は今日ライブを見に来たのもこの話と何か関係があるのかも知れない。

 

 廣井さんは声のかけられた方を見ると、いつもと違う格好のヨヨコ先輩を見ながら不思議そうに話しかけた。

 

「え? 大槻ちゃん?」

 

「えっいや違います!」

 

「絶対大槻ちゃんだって!」

 

 この期に及んでシラを切るつもりなのは無理じゃないかな……? なんて思いながらも、何か事情があるのだろう事を察した俺は気を利かせてヨヨコ先輩に助け舟を出す事にした。

 

「何言ってるんですか廣井さん。この人はつっきーさんですよ」

 

「えっ? 何言ってんの太郎君。どう見ても……」

 

「~~~~~~ッ。そうです! 私が大槻ヨヨコ!」

 

「えっ!? 誰……?」

 

 いやなんで俺が助け舟を出した瞬間観念したように自分で正体をバラすんですか……これじゃ俺が馬鹿みたいじゃないですか……しかも名乗りを上げても分かってない人がいるし……

 

 見ればひとりは名乗りを上げられてようやくヨヨコ先輩の正体に気付いたようで、驚きながら俺を見ている。まるで知ってたんなら早く教えてくれと言わんばかりの表情だ。お前には自力で気づいて欲しかったよ……しかし今度は俺が変装して声をかけてみても面白いかもしれない。

 

「ちょっ……待って……着替えるから……分かんないよね」

 

 まさか名乗りを上げても分からない人が居ると思っていなかったのか、ヨヨコ先輩は慌てて変装? を解き始めた。

 

 困惑の視線に囲まれながら着替え始めたヨヨコ先輩は、眼鏡やマフラー、ダッフルコートを脱いでいくたびに何故か俺へと押し付けてくるので仕方なく受け取っていると、最後にツインテールを結び直して見慣れたメタル風衣装のヨヨコ先輩が現れた。

 

 路上ライブの時もこんな感じの服だったけどアレは一応ライブだからだと思っていたんだが、この人もしかして普段からこんな格好してるのか……? ひとりのジャージもアレ(・・)だし、廣井さんも年中下駄を履いてるし、もしかしてBocchisは俺しかまともな私服の奴がいないんじゃないか!? 

 

「これでわかった?」

 

 なんてヨヨコ先輩に言われて結束バンドのメンバーは理解はしたようだが……ヨヨコ先輩! 一号二号さんがまだ全然わかってないですよ! 誰? みたいな顔してポカーンですよ。しゃーない俺が説明するか……

 

 俺が一号二号さんの傍に近づいて新宿を拠点に活動しているバンドのリーダーであると説明していると、結束バンドをゲストで呼んだ事にまだ納得出来ていないヨヨコ先輩が廣井さんに抗議していた。

 

「酔った勢いとはいえ、私、結構考えてるけどな~。それとも何? 大槻ちゃんは私の目が節穴って言いたいの?」

 

「そんな意味じゃ……」

 

 廣井さんが久しぶりに目を見開いて抗議を一蹴すると、ヨヨコ先輩はその雰囲気にたじろいだ様子だった。ヨヨコ先輩は廣井さんを尊敬しているから、一蹴されたのはなおの事堪えたのかもしれない。

 

「……帰ります! 結束バンド! 私と姐さんのライブを台無しにするのだけは許さないから!」

 

 しばらく無言で佇んでいたヨヨコ先輩はそう言って踵を返すとSTARRYから出て行ってしまった。

 

 ってちょっとヨヨコ先輩!? 俺にマフラーやらコートやらを預けたままなんですけど!? どうするんですかこれ!? 

 

 仕方がないので皆に一言入れてから俺はヨヨコ先輩を追いかけるようにSTARRYを飛び出した。すると扉を出て階段を上がってすぐの所でヨヨコ先輩が腕を組んで立っていた。恐らく服を預けた事を思い出したが、取りに戻るのも格好がつかないのでどうするか悩んでいたのだろう。その証拠に衣服を持って来た俺の顔を見た途端少し表情が和らいだ気がする。

 

「何やってるんですか……もうちょっと後先を考えてですね……」

 

「うっうるさいわね! はやくコートを頂戴!」

 

 衣服を返してヨヨコ先輩が着替えている間、結局よく分からなかった今日ライブに来た理由を聞いてみる事にした。

 

「それで今日は何でライブ見に来たんですか?」

 

「別に……動画だけじゃなくて自分の目でも見ておこうと思っただけよ」

 

 さっきの言葉からみるにやはり結束バンドの実力不足に思う所があるのかと思っていると、着替え終わったヨヨコ先輩はつっけんどんに答えてからUSBメモリを俺に押し付けて来た。

 

「? なんですかコレ?」

 

 USBメモリを受け取って眺めながら訪ねると、ヨヨコ先輩は神妙な表情で俺を見据えて口を開いた。

 

「あなた前に言ってたわよね? 姐さんの作ったサイケは演奏しないけど、後藤ひとりが作ったら演奏するって。それって、私でもいいのかしら?」

 

 その口ぶりからするに……つまり作った(・・・)って事か? それで、その曲がこの中にあると。

 

 俺は再びUSBメモリを右手の親指と人差し指で摘まんでかざすように眺めてみた。うーん……あと二週間も無いんだが……しかしどうせ発表するならここ(・・)が一番面白い気がする。

 

 俺はしばらくUSBメモリを眺めながら悩んだ末にヨヨコ先輩を真っすぐに見据えながら問いかけた。

 

「ヨヨコ先輩が歌うって事になりますけどいいですか?」

 

「ええ」

 

「じゃあやりましょう! 廣井さんに聴いて貰って問題なければ俺達の三曲目って事で。それで演奏の方は……あと二週間で仕上げて下さいね」

 

「ええ……えっ!? ちっちょっと!? もしかして今度のライブで演奏するつもり!? そこは姐さんの……」

 

 えぇ……? 何で今更そんな事言ってんの? そう言うつもりで持って来たんじゃないのかよ……? どう考えてもそう言うつもりにしか思えないだろこのタイミングは。

 

 ライブ本番を想像して俺はなんだか楽しくなって来たので、困惑しているヨヨコ先輩に向かって笑顔で言い放った。

 

「サイケの本家であるSICKHACKのライブのゲストで新曲のサイケを演奏する。中々ロックじゃないですか! Band of Bocchisって奴を見せてやりましょうヨヨコ先輩!」

 

「ちょっ!!」

 

 廣井さんからOKが出たら連絡すると伝えると、俺はヨヨコ先輩と別れて再びSTARRYへと舞い戻った。

 

 

 

 STARRYへ戻ると虹夏先輩が何やら熱心にスマホの画面を見ていた。他の人は画面を見ていないが、ひとりはなんだかにやけた様子で廣井さんもいつもより機嫌が良さそうなニコニコ顔だ。

 

「……何かありました?」

 

 俺が外でヨヨコ先輩と話している間に何があったのか聞いてみると、皆を代表して喜多さんが答えてくれた。

 

「あっ山田君! 山田君はもう知ってるかしら? SNSで今凄く話題の曲……と言うかバンド? があるんだけど!」

 

 なんだか喜多さんが興奮したように言ってきた。聞けばヨヨコ先輩が去った後の暗くなった雰囲気を何とかする為に明るい話題を探した所、今話題のバンドの話を喜多さんが振って来たらしい。

 

 俺はSNSは基本的にやってないし流行り廃りが激しいので付いて行けないのだ。そう言えばギターヒーローのトゥイッターはマイニューギアしか乗せてないけどアレでいいんだろうか……? 

 

「へぇ~どんなヤツですか?」

 

 流行りの曲はその内俺達ヒーローに演奏依頼が来るので、先に知っておいても良いかも知れないと思って喜多さんに尋ねてみた所、喜多さんは俺に動画を見せる為に自分のスマホを弄り始めた。

 

「それがね! そのバンドは皆バラバラの被り物をしてる四人組なんだけど、すっごく上手なの! 少し前の渋谷で撮られたらしいんだけど……」

 

 瞬間先程の楽しい気持ちが吹っ飛んで俺の背中から嫌な汗が噴き出て来た。ひとりを見るとまんざらでもない表情で俺の事を見て来るではないか……状況分かってるのかお前……

 

 まあ渋谷で路上ライブやってる人は他にもいたし、偶然にも覆面バンドが被ったのだろう。大丈夫だまだ希望はある。

 

「あったわ! これよ!」

 

 ひとりと廣井さんの様子で薄々は分かっているが、俺は一縷の望みをかけながら喜多さんが差し出して来たスマホの画面を覗き込んだ。

 

 

 どう見ても俺達です。本当にありがとうございました。

 

 

 そっか~……そうだよね。そりゃ撮られてる可能性はあったよね……こういうの疎いから気付かなかったよ……

 

 動画は最初にやったメドレー演奏だった。俺のドラムスティックによるカウントから始まり五曲目の最後まで、ご丁寧に動画を分割してまで全編投稿している。撮影者は俺から見ると右側に居た様で、ヨヨコ先輩と廣井さんに隠れてひとりの姿はあまり見えていない。

 

 動画が投稿されてまだ三日も経っていないと言うのに、既に再生数が何十万を超えていてリツイートも一万を余裕で超えている、所謂バズっているというヤツだった。

 

 返信を見ると、これは誰それが顔を隠して演奏している! 俺は詳しいんだ! なんて言って有名人を上げている人もいれば、実はこれ俺達なんですwとか言ってる奴までいて割と混沌としている。

 

 しかしこんなにも動画はバズっているのに何故Bocchisのトゥイッターは未だにフォロワーが十人しかいないのだ……そう思いながら投稿主を見ると、どうも演奏開始直前に来てメドレー演奏が終わってすぐに立ち去った為にバンド名を知らないので誰か教えてくれと書いてあった。そんな中返信を見て行くとひとつの投稿が目に入った。

 

『俺これ生で見たよwこの後オリジナルを二曲やってた。確かバンド名は――』

 

 

「バンド・オブ・ホッチキス……」

 

 

 俺が読み上げて顔を上げると、目が合った廣井さんが気まずそうに後頭部を掻いた。

 

 ただでさえ返信が混沌として正体が分からないのに、知ってる奴が間違えてたらそりゃBocchisのフォロワーは増えねーよ……

 

 なんだかどっと力が抜けた俺は大きく息を吐きながら、廣井さんにヨヨコ先輩から預かったUSBメモリを突き出すように手渡した。

 

「何これ?」

 

「ヨヨコ先輩から預かった新曲です……次のライブに間に合わせたいんで確認してください……ちなみにサイケ(・・・)らしいです……」

 

 俺の言葉を聞いた廣井さんは途端に楽しそうな表情になると、勢いよく椅子から立ち上がり、カラコロと下駄を鳴らして出入口へと繋がる階段へと歩き出した。

 

「それじゃあ皆当日よろしくね~~! じゃあ太郎君、ぼっちちゃん、今日中に連絡するからね!」

 

 階段の途中で一度俺達へと振り返った廣井さんは、それだけ言うと軽い足取りでSTARRYを出て行った。

 

「あっ太郎くん……大丈夫?」

 

 脱力している俺にひとりが寄ってきて話しかけて来たが、路上ライブ動画が好評でニヤけているせいか頬っぺたがモチモチしていたので俺は両手でひとりの頬をこねくり回してやった。

 

「ひゃっ! って太郎君の手あったかいんだね……」

 

「……ひとり、新曲二週間で行ける(・・・)か?」

 

 俺以外はメインバンドがあるのでかなり大変だろう事は察しがつくのだが、一応の俺の問いかけにひとりは一瞬固まって、しかしすぐに自信なさげではあるが言葉を返して来た。

 

「がっ頑張りましゅ……」

 

 まあ今から廣井さんチェックが入るから実際は二週間無いんだけどな……まあでも頑張るしかないよな。間に合ったらきっと面白いし。

 

 ひとりの頬から手を放してそろそろ帰り支度を始めようとした時、今の今まで難しい顔をしながら熱心に何度も何度も路上ライブ動画を見ていた虹夏先輩が遂にポツリと呟いた。

 

 

 

「……これ……ドラムヒーローさんだ……」




「そういえばリストバンド新色買ったよ~!」
「えっそんなの売った記憶……山田ッ!」
「!? はい!? すんません!」
「!? ちっ違っ! 太郎君じゃなくてっ!」

 って言うのを書きたかったんですが、話に関係無いしテンポが悪くなるんでカットしました。
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