ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 喜多ちゃんに初詣に連れて行かれたとあるので多分後藤家まで迎えに来たんだろう→喜多さんのクラスメイトと鉢合わせしたとあるので秀華高校の近く、明治神宮か?→でも後藤家から二時間かけて明治神宮まで初詣に行くか?→中間地点にするか……←今ココ


026 Junction

 年が明けた一月一日。今日くらいはゆっくりしようと布団で惰眠を貪っていた俺は、突然部屋に入って来た母親に叩き起こされた。

 

「太郎! ひとりちゃんと喜多さんが来てるわよ! ダラダラしてないで早く起きなさい!」

 

 元日の朝から珍しく張り切っている様子の母親から発せられた喜多さんという名前に驚いて飛び起きると、俺が起きたのを確認して部屋を出ていった母親を見送ってから急いで服を着替える事にした。

 

 着替え終わると洗面所で顔を洗い歯を磨いて、のそりとリビングへ入る。相変わらずシャレオツな服を着た喜多さんと、今日に限ってはなんだかめでたく感じるド派手なピンクジャージを来たひとりが、並んでテーブルについてウチの母親の作ったおせちやお雑煮を楽しそうに食べていた。

 

「ようひとり、喜多さんもいらっしゃい。色々聞きたいけど、とりあえずは明けましておめでとうございます」

 

「あっ太郎君。明けましておめでとう」

 

「あ! 山田君! 明けましておめでとう! 今年もよろしくね!」

 

 とりあえず新年の挨拶を二人と済ませると、俺は台所で自分の箸やら食器やらを用意してひとりの正面の席に座った。

 

「それで、元日の朝もはよからなんで二人してウチで雑煮なんて食べてるんですか?」

 

 俺が母親が持って来てくれた雑煮を受け取りながら二人に訊ねると、出された雑煮を食べながら喜多さんが答えてくれた。

 

「もー! 山田君も忘れちゃったの!? 夏休みの終わりに江の島に行った帰りの電車で冬休みも一緒に遊ぼうって約束したじゃない!」

 

 言ってたか? 言ってたような気もする……しかしもう四か月も前の話だし、冬休みに入って今まで特にお誘いが無かったのですっかり忘れていた。まさか元日の朝に来るとは思わなかった。

 

「じゃあ今日来たって事は……やっぱり初詣に行こうって奴ですか?」

 

「そう! ひとりちゃんを誘ってから山田君の家に来たんだけど、山田君まだ寝てるみたいだったから。そうしたら山田君のお母さまが『太郎が起きるまでこれでも食べて待っててね』ってお雑煮を振る舞ってくれたの!」

 

 喜多さんから二人がウチで雑煮を食べていた理由や、今日の意気込みを聞きながら俺は朝食を終えると、一度自分の部屋に戻り外出用の服に着替えてから二人と共に家を出た。

 

 

 

「それで初詣ってどこに行くんですか? この辺りなら瀬戸神社ってのがあるんですけど」

 

「じゃあまずは其処に行きましょう!」

 

 『じゃあまずは』なんて喜多さんの言葉に若干の不安を覚えながらも俺達は瀬戸神社へと向かう事になった。

 

 瀬戸神社は金沢八景駅近くにある神社で家からも比較的近いので、徒歩でもそんなに時間もかからずに辿り着いた。今はまだ朝も早く空いている時間帯なので比較的参拝客も少な目だ。あくまで比較的、だが。

 

 比較的少ないとはいえ、やはり人でごった返したなか参拝を終えた俺達はおみくじを引くことにした。

 

「それじゃあせーので開きましょう! せーのっ!」

 

 喜多さんの掛け声でおみくじを開くとそこに書かれていたのは――

 

「えーっと……俺は凶ですね」

 

「えっ……私は大吉だわ。ひとりちゃんは?」

 

「あっ私は末吉です……」

 

 あ、俺達の結果を聞いて喜多さんが固まった。しかしどうにもひとりは運が悪いのかこういうクジで上の方の結果を出しているのを見た事がない……まぁひとりのおみくじの結果が毎年ぱっとしないのは仕方ないが……もしかしてひとりの運がぱっとしないのは内田さんが言ってた肩に憑いてるすごいの(・・・・)のせいじゃないだろうな……? ……わかった、この話はやめよう。ハイ!! やめやめ。

 

 他人の事を言いながらも自分だって凶を引いているのだから笑えない。ただ凶や大凶よりも、そこに書かれた文言こそ大事だと聞いたことがあるので俺は自分の凶のおみくじを確認してみると、そこにはこう書かれていた。

 

「……行くべき道を思案すべし……か」

 

「ま、まあ大吉なんて全然ロックじゃないわよね!? やっぱり時代は末吉か凶よね!?」

 

「ちょっと喜多さん落ち着いて下さい! ほ、ほらまだ他にも行くんでしょ? 次の場所でまたおみくじ引きましょう!」

 

 俺が自分のおみくじを見ていると、喜多さんが落ち込んでいるひとりをフォローする為に自分のおみくじをその辺に投げ捨てて錯乱していたので、それをなんとかなだめてから俺達は次の目的地に向かう事にした。

 

 先頭を歩く喜多さんについていくと、どうやら駅へと向かっているらしい。金沢八景駅に到着してそのまま電車に乗ると、俺は喜多さんに次の目的地を尋ねてみた。

 

「それで次は何処に行くんですか? 電車にまで乗って」

 

「ふふん! 何を隠そう次は全ての場所が凄いパワースポットらしいわ! そこに行けばひとりちゃんの厄も丸っと綺麗になる事間違いなしよ!」

 

 そう言って両手の親指を立ててドヤ顔を披露した喜多さんに連れてこられた場所は――

 

 

 

 

 

「川崎大師ですか……」

 

 関東三大厄除け大師の一つとしても有名な川崎大師だった。

 

「そう! なんでも参道にある飴屋さんの飴は「厄を切る」という事で有名らしいの! 帰りに買って帰りましょう!」

 

 まるでネットで調べたような喜多さんのうんちくを聞きながら歩いていたが、とにもかくにも人が多い。滅茶苦茶多い。伊達に参拝客全国トップ3の人気寺院ではない。

 

 そのせいで駅のホームに降りた瞬間からグロッキーになっているひとりを俺と喜多さんの二人で脇を抱えて歩くことになってしまっている。こいつ人が多い所だといっつもこんなんじゃねぇかよ、しっかりしろ。

 

 捉えた宇宙人のようにひとりを運びながら、なんとかかんとか本日二度目の参拝を終えた俺達が瀬戸神社のリベンジおみくじを引こうと移動していると、突然喜多さんを呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「あっ喜多ちゃんじゃん!」

 

 声のした方を見てみると、俺達と同じ位の年齢と思われる男女が大人数で集まってこちらを見ていた。

 

「あら~、みんなも来てたの!?」

 

「そうだよ~。え~すっごい偶然! こんな人混みの中で鉢合わせするとかもう運命じゃない!? あれ? もしかしてその人喜多ちゃんの彼……」

 

「違います! そっちの男子は同じバイト先の山田君。そしてこの子が、私と同じバンドメンバーの後藤ひとりちゃんよ!」

 

「……っす」

 

「あっ……どうも……」

 

 突然大人数に紹介されたので驚いて二人してコミュ障みたいな返事をしてしまった。その後話しているのを見ていると、どうやらこの人達は喜多さんのクラスメイトらしい。友達の友達は友達では無いのでしばらく黙って様子を窺っていると喜多さんのクラスメイトからとんでもない提案が飛んできた。

 

「私たち、今から新年カラオケ大会するんだけど、せっかくだから喜多ちゃん達も一緒に行こうよ!」

 

 やばいぞ、脇に抱えたひとりが震え出した。こいつは家族や俺の前で歌うのは割と大丈夫なんだが、店員など知らん人が混じると一気に駄目になるのだ。しかし恐らく喜多さんにカラオケ大会をどうするか尋ねられてもこいつはきっと断らない。なぜならひとりは昔から、何故か他人からノリが悪いと思われる事を極端に恐れているのだ。

 

「ちょっと待ってね、二人に聞いてみるから……そういうことなんだけど、ひとりちゃん、山田君どうする?」

 

「まあ俺はいいですけど……」

 

 チラリとひとりを見る。ひとりはカラオケ大会と聞いてきつく目を閉じたかと思うと、突然勢いよく右手を振り上げた。

 

「あっ……っしゃ~~~! 新年カラオケ大会いっちゃいます~~~~!?」

 

「ひとりちゃん……やる気ね! じゃあみんな、私たちもお邪魔するわー!」

 

 喜多さんに尋ねられたひとりは俺の予想通り断る事無く何故か意味不明なハイテンションで答えると、喜多さんはクラスメイトに参加を伝えていた。そんな喜多さんを見ながら先程まで異常なハイテンションだったひとりが泣きそうな顔で俺を見上げて来た。

 

 いやお前が自分で言ったんだからそんな顔で見られてももうどうしようもないぞ……まあこれも将来のB(バンド)o(オブ)B(ボッチズ)のボーカルの練習と思って頑張ってくれ。

 

 しかし早速おみくじのぱっとしない結果が的中しつつあるひとりの運勢に不安を覚えたので、俺は喜多さん達についてカラオケの店に向かう途中で参道にある飴屋で飴を購入したのだった。

 

 

 

 店に着いて新年カラオケ大会が始まるとそこはやはり結束バンドのフロントマン、歌の上手さは喜多さんの独擅場だ。次々と九十点後半の点数を叩き出して観客を沸かせている。

 

「やっぱ喜多ちゃん歌上手いねー!」

 

「ねー! そうだ! 喜多ちゃんがこんだけ歌上手いんだからもしかして同じバンドの後藤さんもかなり上手いんじゃない!?」

 

「えっ!? 後藤さんって喜多ちゃんとバンド組んでるの!? すごーい!」

 

 おいおいおい、同じバンドなら歌が上手いってそれはちょっと発想が飛躍し過ぎだろ……BoB(ウチ)にも歌える奴が二人いるが、あれは他所のフロントマン二人をパクってきただけだから……

 

 俺が喜多さんのクラスメイトの言葉に恐怖していると、何時の間にかひとりがマイクを持たされて部屋に中央にあるモニターの横へと立たされているではないか。更にはひとりへ向けて歌のリクエストが飛んできている。

 

「誰米うたって~」

「ラブみょん~」

「ひげ女~」

 

 あっあっあっ……やばい、ひとりの奴あまりの周囲の無茶振りに魂が抜けかけてるじゃねーか……その証拠にかなり顔面が崩れてきている。仕方ない、このままでは喜多さんのクラスメイトの前で派手に爆散しかねないので俺が助けてやろう。

 

「あっそれじゃあ私が……」

「あっじゃあ俺が……」

 

 手を上げた瞬間喜多さんと声が被った。どうやら喜多さんもひとりの惨状を見かねて動いてくれたらしい。手を上げた同士二人で顔を見合わせると、喜多さんは素早く上げていた手を下げて期待に満ちた笑顔をこちらへ向けて来た。

 

「それじゃあ山田君お願いね!」

 

「おー! 君が行っちゃう? っていうか山田君……だっけ? そういえば喜多ちゃんとどういう関係なの~?」

 

 一人の女子が面白そうに声を上げるとそれに続くように周りが囃し立てて来た。やっぱ陽キャはこういう話題が好きなんすねぇ……なんて思ったが、正直にひとりの幼馴染で喜多さんとはひとりを通した友人です。なんて説明するのも面倒なので俺は適当に関係をでっち上げる事にした。

 

「あー……喜多さんのバンドでベースを担当してる山田リョウって人が居るんですけど……あれが俺の姉です」

 

 俺が前々から考えていた苗字を使った冗談(ネタ)を披露すると、今まで期待に満ちた顔で俺達を見ていた喜多さんがそれはもう目を剥いて急に立ちあがった。

 

「ちょちょっと山田君!? 突然何言ってるの!? リョウ先輩の弟だなんてそんな羨ましい……じゃなくて妬ましい……でもなくて……と、とにかく! 違うでしょ! 違うのみんな! 山田君はリョウ先輩の弟なんかじゃないの! ず、ずるい! 私だって苗字が山田だったらリョウ先輩の妹になれたのに!!」

 

「え……喜多ちゃん!? ちょっとどうしたの!? 落ち着いて! なんか変な事言ってるよ!?」

 

 暴走している喜多さんが大勢のクラスメイトに心配されている混乱に乗じて、俺はこそこそと席を立つとモニター近くに一人ぽつねんと立ち尽くしているひとりに近づいた。あと喜多さん、仮に苗字が山田でも弟にも妹にもなれませんからね。

 

「おいひとり、大丈夫か?」

 

「あっあっあっ……」

 

 あっこれは駄目みたいですね。やはりひとりに大勢の知らない人とのカラオケ大会はまだ早かっただろうか? しかし未来のギターボーカルの為にもここで少しでも経験を積んで欲しいのもまた事実だ。

 

 俺はしばらく考えると、近くの人に頼んでもう一本マイクを受け取り皆に向かって高らかに宣言した。

 

「それでは不肖山田太郎と後藤ひとり、誰米歌います!」

 

「あっあっあっ……えっ!!?!? たっ太郎君!?」

 

「ほらしっかりしろ、頼むぞひとり。俺だって歌はあんまり得意じゃないんだから」

 

「お~! デュエット? いいぞ~!」

 

「誰米の何歌うの~」

 

 とりあえずひとりのピンチに出てきただけだから何歌うかなんて考えて無かったわ。しかし俺達だって伊達にヒーローをやっていない。混乱するひとりを他所に二人で歌える誰米の曲を適当に選んで欲しいと伝えると、曲の入力機器を持っている人が具体的な曲名を出して尋ねて来たので俺がOKを出すと、いよいよ音楽が流れて来た。

 

 

 

 

 

 歌い終わると微妙な点数が画面に表示された。歌を聞いていた喜多さんのクラスメイトは、同じバンドを組む人間として喜多さんのような九十点後半を期待していたのかなんとなく肩透かしを食らったような表情だった。

 

「いや九十点にも届かないんか~い」

「っていうか後藤さん声()っさ!」

「そういえば山田君? は喜多ちゃんのバンドメンバーじゃなくない?」

「そういえばそうだわ」

「でも点数は低いけどなんか意外と良くなかった?」

「あ~なんかわかる。リズムが良いって言うか……なんだろ?」

 

 みんな思い思いの感想を言い合っているが、これでとりあえずノリを壊さず義理は果たしたので、一仕事終えた気分の俺はマイクを机に置いてそのままひとりを引き連れて先程の自分の席の位置へと戻った。

 

 それからすぐに次の曲が流れ始めて、喜多さんのクラスメイトはもう俺達の事など気にしていないようでカラオケ大会を続行している。

 

 相変わらず魂が抜けた様なひとりを隣に座らせて俺は頼んだ飲み物で喉を潤していると、喜多さんが不思議そうな顔で見つめて来た。それがどうにも気になってなんとなく居心地が悪かったので理由を聞いてみる事にした。

 

「なんすか?」

 

「あっえっと……二人の歌、あんまり点数は出なかったけど……その……なんていうか……それに山田君の歌……」

 

 感想を上手く言語化できないのか困ったように言葉を詰まらせた喜多さんの言葉の続きを待っていると、喜多さんのクラスメイトが喜多さんをデュエットに誘ってきてそのまま歌う流れになったので、俺の歌の感想らしき物はうやむやになってしまった。特に山田君は微妙だったね、なんて言われていたらショックなので丁度良かったかもしれない。

 

 その後も喜多さんはいろんな人から引っ張りだこで、デュエットをしたり頼まれて一人で歌ったりして場を盛り上げていた。俺達は遠慮したという事もあるが結局再びマイクを持つ事無く合いの手などをして過ごし新年カラオケ大会は幕を閉じた。

 

 

 

「今日はありがとう。ひとりちゃん、山田君。それじゃあまたね!」

 

 カラオケ店を出て挨拶を交わすと、喜多さんは家の方向が同じクラスメイトたちと一緒に帰っていった。それを見送ると俺は腕を掴んでなんとか立たせてはいるが、未だ呆然自失状態のひとりに声をかけた。

 

「おいひとり、俺達もそろそろ帰るぞ」

 

「んはっ! あ、あれ? えっと……なんだっけ……? そうだ、確かカラオケ大会で無茶振りされて……」

 

 魂の抜けかけていたひとりは俺の声で飛び起きると、周りをきょろきょろと見渡しながら怯えた表情で眉を寄せて、先程のカラオケ大会の記憶を唸りながら掘り起こそうとしていた。

 

「お前そこから記憶がないのかよ……それは一応何とかしておいたぞ。さあ俺達も帰ろうぜ。あ、川崎大師の参道で買った飴食べるか?」

 

「えっうん……あっ美味しい……」

 

 口の中に飴を放り込んでやると、ひとりはその甘さに顔を綻ばせた。そうして厄が切れる事を期待して縁起が良いと言われる飴を食べながら、俺達は二人で帰途へとついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう事が冬休みにあったんですよ」

 

 冬休みも終わり新学期が始まってすぐ、バイトの為に赴いたSTARRYで虹夏先輩に冬休みでの出来事を聞かれたので元日の話をした。

 

「えー! 太郎君とぼっちちゃんデュエットしたの!? あたしなんて、まだぼっちちゃんの歌もちゃんと聞いた事無いのに……ギターヒーローさんとドラムヒーローさんのデュエット……うう……聞きたい聞きたいー!」

 

「えっ!? そっそんな事があったの!?」

 

「ってなんでぼっちちゃんが驚いてるの!? 一緒に歌ったんじゃないの!?」

 

「えっと……なんだか冬休みは記憶がはっきりしてなくて……」

 

 なんてこった……ひとりの奴新年カラオケ大会の無茶振りで酸素欠乏症に……しかしクリスマスライブ(ドラムヒーローバレ)からこっち、虹夏先輩の情緒がちょっとおかしい気がして仕方ない。その内妹の異変に気付いた店長からぶん殴られる未来しか見えないから、なるべく早く元の虹夏先輩に戻ってくれる事を願うばかりだ。

 

「そういえば太郎君。B(バンド)o(オブ)B(ボッチズ)のトゥイッター凄いね! もうフォロワー三万人だっけ? ってなんでそんな嫌そうな顔するの!?」

 

 虹夏先輩の賞賛にも似た言葉に俺は盛大に顔を顰めた。

 

 FOLTでのクリスマスライブ後の打ち上げで撮った写真をツイートしてしばらく経ってから、例の動画に正しいバンド名が返信されて広まったのか、四六時中フォロー通知音が鳴りやまないという事態になったのだ。最初はそのうち鳴りやむだろうとしばらく放置していたのだが、一向に鳴りやむ気配が無かったので最終的に通知音を消す事で解決した。

 

 そんな訳で、ありがたいフォロワーも俺にとってはちょっとしたトラウマ製造機でもある。そんなBoBトゥイッターの余波を受けて、結束バンドのイソスタやヨヨコ先輩のトゥイッターもフォロワーがそこそこ増えたらしく、所用で連絡をした時のヨヨコ先輩は心なしか嬉しそうだった。

 

「まあ実際ありがたい話ですけどね、三万人もフォローしてくれるなんて。でも知らない間に勝手に話題になった動画が原因でフォローされてるんで、正直あんまり人気になったって実感はありませんけど……」

 

「そっか……それで? その話題のバンドの、ライブでは歌った事の無いリードギターとドラムのデュエットっていう超絶レアな歌を聞いた非ッ――常~~に羨ましい喜多ちゃんは何処行ったの?」

 

 俺がトゥイッターフォロワーに関する正直な感想を話すと、虹夏先輩少し残念そうに小さく返事をして、それからカラオケ大会の事を考えて悔しそうに両目をぎゅっと閉じると右手の拳を握りしめて声を絞り出した。それから辺りをきょろきょろと見回して喜多さんを探し始めた。

 

 既にSTARRYには来ている筈だがそういえば姿が見えない。俺も虹夏先輩と同じように辺りを見回してみたが喜多さんの姿は発見できなかった。

 

「あっ喜多ちゃんならここに……」

 

 俺達の疑問に答えるようにひとりが視線を向けた先には、いつぞやのひとりの様にテーブルの下で膝を抱えて酷く沈んだ表情で座り込んでいる喜多さんの姿があった。

 

「生きるのしんどいわ……」

 

「ぼっ……喜多ちゃん!? どうしたの!? 何かぼっちちゃんみたいになってるけど!?」

 

「喜多さん!? どうしたんですか!? あっ! もしかして俺がリョウ先輩の弟を騙った事にまだ怒ってるんですか?」

 

「ちょっとどういう事!? なんで太郎君がリョウの弟なんて事になってるの!?」

 

「へぇ~……刃物って刃の部分を上にすると罪が重くなるのね……」

 

 ちょっとガチで洒落にならない情報を呟くのは怖いから止めて欲しい。ひとりの話ではリョウ先輩が最近バイトに来ないから落ち込んでいるらしいが……本当か? 俺を亡き者にしようとしてるんじゃないよな? 

 

「そういえば最近リョウ先輩バイトに来てませんね」

 

「あっリョウさんって今日もバイト来ないんですかね」

 

 俺とひとりが何気なく聞いてみると、虹夏先輩は自分のスマホを取り出して一度画面を確認してから、困ったように眉を下げた。

 

「何の連絡もないね……実は学校にも来なくなっちゃって……」

 

イヤーーーッ

 

 急に絹を裂くような悲鳴が聞こえて驚いた俺達三人は悲鳴を上げた人物を見た、その声の張本人の喜多さんは白目を剥いて尚も叫び続けた。

 

「それは絶対恋!! 男だわーーーーー!!」

「悪い男に引っかかったに違いないわ~!」

「女が突然変わる時、そこには大抵男の影があるのよ~~~~~!!」

「こんなに女子がいるのに誰一人浮かれた話がない…………」

 

 叫んでいた喜多さんははたと何かに気づいたように急に言葉を止めると、真剣な表情でじっとひとりの顔を見つめた後、ゆっくりと俺の顔へと視線を移してから、また再びひとりへと視線を戻した。

 

「えっえっと……? あの……?」

 

「……まだ付き合ってないからノーカウント!!」

 

「な……何の話? ちょっと、喜多ちゃん落ち着いて……」

 

 いや何を言ってんだこいつ(喜多さん)は……何がノーカンなんだよ自由人過ぎるだろ……喜多さんは普段は割とまともだが、何かの拍子でスイッチが入ると途端に結束バンドで一番ヤバイ奴になるのがちょっと恐ろしい。

 

 様子を窺うとひとりはその怒涛の勢いに圧倒されて、虹夏先輩は面倒くさそうな呆れ顔で喜多さんを見ていた。

 

 一通り叫んでスッキリしたのか、喜多さんは再び机の下に潜りこむと膝を抱えて座り込み、いじけた様子でぶつぶつと呟き始めた。

 

バンドマンかしらね絶対そうよね同じベーシストかしら先輩が好きになるんだから多分よっぽど実力のある人なんでしょうねでも将来は安定してるのかしら老後には二千万貯蓄がないといけない時代なのよ先輩は浪費家だからあてにできないしちゃんとお金のやりくりができる人じゃ無いとバンドマンにお金があるはずないわ絶対ムリえ? もしかして先輩の実家の財産を!? とんでもないわ! これだからベーシストは……でもまぁいいですよ先輩が決めたことなら……

 

「全然納得してないやんけ……未練タラタラじゃないですか。地雷系かな?」

 

「ちょっと山田君!! 弟なら何とかしてリョウ先輩を助けるのよ! あなたもベーシストがお兄ちゃんになったら嫌でしょ!?」

 

 俺が言い出した事ですけど、もうその設定はいいですから。それにその設定で行くならすでに姉がベーシストじゃないですか……ベーシストの姉とベーシストの義理の兄とかもう終わりだよこの家族。

 

 結局半狂乱の喜多さんを静めるべくリョウ先輩宅へと様子を見に行くことになった――のだが。

 

「あれ? 太郎君は行かないの?」

 

「いや全員で行ったら今日のSTARRYどうするんですか……流石にヤバいでしょ……」

 

 流石に全員で抜けたらやばい事くらい俺にも分かる。しかも先程から店長の姿が見当たらないので一言伝える事すら出来ない。ほぼ無断欠勤じゃねーか。

 

 そういう訳でどうせバンドメンバーじゃない俺が行っても邪魔なだけだろうし、残ってバイトをすることにした。

 

 ひとりが愛用のギターを背負うと三人は訪問準備が完了したようで、出て行く前に俺に声をかけて来た。

 

「それじゃあ太郎君。ちょっとリョウの様子を見て来るからその間お店の事お願いね」

 

「じゃあ行ってくるね、太郎君」

 

「山田君任せておいて! あなたのお姉さんは私が守るわ! 具体的に言うと、もし彼氏がバンドマンなら、ギターはひとりちゃん、ボーカルとベースは廣井さん、ドラムは山田君以上の実力じゃ無いと認めない! って言ってくるから!」

 

「さっきからその弟って設定ってなんなの……? それにその三人以上の実力って……喜多ちゃん、自分が何言ってるかちゃんと分かってる?」

 

 とりあえず知り合いの凄いって言われてる人の名前を出しました! と言う雰囲気のドヤ顔の喜多さんに、虹夏先輩はジト目でツッコミを入れながら三人はSTARRYから出て行った。

 

 

 

 三人が出て行ってそろそろバイトの時間が近づいてくると、いつもの紙パックジュースの入った袋を持った店長が姿を現した。

 

「あれ? 太郎だけか? 他の奴らは何処行った?」

 

 きょろきょろと辺りを見回して、俺以外の人間がいない事を不思議そうに訊ねて来た店長に、他の三人はリョウ先輩を心配して家に様子を見に行った事を伝えると、眉を寄せて難しい顔をしながらバーカウンターに広げたノートPCへと体を向けた。

 

 今日はバイトが俺しかいないのでPAさんと共にまずステージの清掃を終わらせると、続いてフロアの清掃へと場所を移した。俺はフロアをモップで掃除しながら丁度良い機会なので傍にいた店長に前々から考えていた事を相談してみる事にした。

 

「店長~。ちょっと相談があるんですけど」

 

「何~? 時給なら上げられないけど」

 

「えっ? 今日俺一人なんですよ? 今日くらいなんか無いんですか?」

 

「ええ……? マジで時給の相談なのかよ……」

 

 しまった。店長の誘導尋問につい本音が漏れてしまった……じゃない。違うんだ、俺が相談したかったのはそんな即物的なものでは無い。

 

 店長に背を向けて床掃除をしていたが、呆れたようにこちらに振り向いたのが声で分かったので、俺は掃除の手を止めて店長の誤解を解くために向き直った。

 

「いやっ……違いますよ……実はですね。バンドメンバーとも話したんですけど、俺もそろそろ拠点って奴が必要かなって思って……って、うわなんか俺今カッコイイ事言ってませんか!? バンドメンバーと話したとか拠点とかって!」

 

「何言ってんだお前……」

 

 昔ひとりが初ライブ後に言って俺が勝手に憧れていた『バンドメンバーと話し合う』という状況を遂に自分でも実現した事に感動していると、店長は冷ややかな目を向けて来た。

 

 俺のライブ経験は路上ライブとゲスト出演だけで、自らが主体となった箱でのライブは経験がない。それにヨヨコ先輩にもSNSでのバンド紹介欄に普段何処で活動しているのか書いておく事は重要だと言われて、確かにその通りだと思ったのだ。

 

「で? 何処にするんだ? やっぱFOLTか?」

 

「え? STARRYですけど……」

 

 お互いの言葉に驚いて顔を見合わせると、店長が場を仕切り直すように一度咳払いをした。

 

「……いいのかSTARRY(ウチ)で? あいつ(廣井)やSIDEROSがいるFOLTの方がいいんじゃないか?」

 

「逆にSICKHACKとSIDEROSが居るからFOLTは止そうかなって。ほら、結束バンドとBoBがSTARRYに入ったら二組みずつ別れて据わりがいいでしょ? それになにより……」

 

 正直そんなもんはただの建前だ。FOLTだ渋谷チョークホテルだと候補に挙がった拠点だが、やはりSTARRYが良いと思った。店長に恩返し的な意味もあるが、一番は結束バンドと同じ場所の方が色々な意味でやりやすいだろうという事だ。ひとりの精神的にも、覆面の正体を隠す的な意味でも。それに一号二号さんも来やすいだろうし。まあ廣井さんやヨヨコ先輩のベテラン組にはちょっと我慢して貰う事になるが……

 

「STARRY()良いんです。というわけで店長……ライブ出たいんでB(バンド)o(オブ)B(ボッチズ)のオーディションをしてくれませんか?」

 

 結束バンドもライブをする為にオーディションを行なっていたので、それに倣って店長に頼んでみると、店長は何とも言えない表情で一度俺を見て、そのままノートPCへと体を向けてしまった。そうしてこちらに顔も向けずにぶっきらぼうに言い放った。

 

「それじゃあ次の土曜日に演奏見て決めるから」

 

「ウッス! よろしくお願いシャス!」

 

 店長に返事を貰ったのでフロアの清掃を再開すると、俺達のやり取りを見ていたPAさんが笑顔で俺に近寄って来て小声で囁いた。

 

「なんだか店長機嫌良さそうですね」

 

「そうですか?」

 

「そうですよ、多分山田君がSTARRYを拠点に選んでくれたのが嬉しかったんですね」

 

 にこやかに店長の方を見たPAさんに釣られて俺も視線を向けると、ぐるりと首だけ回してこちらを見て来た店長から恥ずかしさを誤魔化すような若干の怒気を孕んだ声が飛んできた。

 

「聞こえてるから。ちゃんと仕事して」

 

「はーい。それじゃあ山田君、掃除が終わったら一緒に設営準備をしましょう」

 

 店長の言葉にPAさんはいつもの様に萌え袖をはためかせながら楽しそうに両手で口元を抑えると、フロアの清掃へと戻って行った。

 

 

 

 結局その日のバイトは虹夏先輩達抜きで終わったが、帰って来た虹夏先輩達に話を聞いた所、無事リョウ先輩の問題は解決したようだった。

 

「あ、そうだ虹夏先輩。今日店長にBoBがSTARRYでライブする為のオーディション頼んだら次の土曜って言われたんですけど、ひとりの予定って空いてますか?」

 

「え? BoBがライブするの? STARRY(ウチ)で? そのオーディション?」

 

 バイトが終わった帰り際、次の土曜日のオーディションでひとりを借りる必要があるので結束バンドの予定を聞いてみると、オウム返しのように俺の言葉を確認した虹夏先輩は一目散に店長の元へと飛んでいった。

 

「うお!? 急にどうした虹夏!? 」

 

「お、お姉ちゃん! BoBのオーディション土曜日にやるの!? あっあたしも見たい! いいよね!? 前に太郎君も結束バンド(わたし達)のオーディション見てたし! ねっ!? いいでしょ!?」

 

 そんなもんその内STARRYでライブやるんだから別に見なくてもいいだろと思うのだが、虹夏先輩の言葉通り俺も結束バンドのオーディションを無理言って見学させて貰ったので偉そうな事は言えないのだ……

 

 暫く待っていると、己の主張が通ったのか満足そうな顔の虹夏先輩が戻って来た。

 

「見ていいって!」

 

「はぁ……あの虹夏先輩、それでひとりの予定なんですけど……」

 

「え? ああ! ごめんごめん! 全然おっけー! 頑張ってねぼっちちゃん!」

 

 一も二も無く店長の元に飛んでいった自らの行動が今更恥ずかしくなったのか、虹夏先輩は少し顔を赤くすると、大げさな身振りで快諾してくれた。虹夏先輩に激励されたひとりが緊張した様子で返事をすると俺達はSTARRYを後にした。

 

 

 

 

 

 廣井さんとヨヨコ先輩にオーディション開催の連絡をして迎えた土曜日。俺達BoBのメンバーはSTARRYのステージに立っていた。

 

 観客席ではいつも通り難しい顔をした店長の他に、PAさんやひとりを除く結束バンドのメンバーも席に座って演奏が始まるのを待っている。

 

 身内だけのオーディションなので覆面は無しで行こうかと思ったが、一応本番想定での演奏という事でパーカーとマスクも装着済みで演奏する事になった。

 

 準備を終えたメンバー全員がこちらに向かって頷いたのを確認した俺は、いよいよ演奏を始める為に観客席に向かって挨拶を始めた。

 

「えーBand of Bocchisです(半ギレ)」

 

「ちょっと太郎! その挨拶毎回するつもり!?」

 

「!? ヨ……つっきーさん! これはドカベンネタはやめろって言われた俺に残された最後の野球要素ですよ!?」

 

「それ野球要素なの!?」

 

 いきなり茶々を入れて来たヨヨコ先輩に反論すると、廣井さんは笑っていたが店長からは冷ややかな視線が突き刺さった。

 

 うーん、このMCはあんまりウケないのか……いやMCじゃなくて本気だったんだが……まあいい、これは今後に生かす為に覚えておこう。

 

 俺はこの空気を誤魔化すように一度咳ばらいをすると、気を取り直して言葉を続けた。

 

「えー失礼しました……それじゃあ、Sky's the Limitって曲やります」

 

 スティックを掲げた俺がカウントを取ると、遂にオーディションが始まった――

 

 

 

    ◇◇◇

 

 

 

 別に、山田太郎という人物の実力を侮っていた訳では無い。

 

 クリスマスライブからこっち、耳にタコができるかと思うくらい虹夏から話は聞かされたし、ドラムヒーローとやらの動画も無理矢理見させられた。

 

 だから山田太郎という人物が、動画を見る限りではそれこそプロに近しい実力……いや、既にプロで通用する実力を持っている事は十分過ぎるほど分かっていた。

 

 虹夏が熱を上げるほどの、動画を見る限りプロに引けを取らない技術を持つギターヒーローにドラムヒーロー、普段の素行はそびえたつクソだが、演奏技術に関してだけは先の二人をも凌ぐ後輩、そして、新宿では新進気鋭と言われるSIDEROSのバンドリーダー。よくぞまぁ、こんな冗談みたいな人材を、今まで一度もバンドを組んだ事の無いと言っていた男子高校生が一人で集めたものである。

 

 そういう意味では山田太郎という人物は人間的魅力(カリスマと言い換えてもいいかもしれない)、そういうものに溢れた人物であるか、若しくはペテンまがいの口先で人材を集め、それを維持する能力を有する……とにかく、そういう事に関してだけは間違いなく優れていると評価できる人間なのかもしれない。

 

 だが、私はそれだけで無条件にBoBというバンドを評価する事は出来なかった。何故なら、実際にバンドという形での演奏を見たのは、スマホで撮影された聞き取りにくい路上でのコピーメドレーひとつだけだったし、なにより疑うだけの理由を、彼らのメンバーの一人がこれ以上無い形で既に体現しているからだ。

 

 後藤ひとり。ぼっちちゃんの結束バンドでの演奏はお世辞にも良いものでは無い。彼女は彼女の持つ元来の性質の為に、自らの所属するバンドで十全に実力を発揮できていないのだ。だが、仮に動画内での技術を十全に発揮できたとしても、結束バンドという現時点では高校生にしてはレベルが高い程度の演奏の輪の中に入った時、ぼっちちゃんの技術が突出していればしている程、調和を乱し、最後にはバンド全体が崩壊するだろう。

 

 つまり……バンドとは一人の突出した技術ではなく、メンバー全員で相互に影響しあってこそ初めて完成する物である、という事だ。

 

 野球で各チームの四番打者を九人集めても全員がホームランバッターにならない様に、各バンドのエースを集めたからと言って、それで最高の音楽になる訳ではないのだ。

 

 勿論例外もある。だがそういったエースばかりを集めた例外的なバンドは余程強力な信頼関係や仲間意識、そして目的意識があってこそ始めて成立するものであり、だからこそ例外と言われているのだ。

 

 そうした考えから、私は恐らくこのBoBというバンドは個々の技量が高いだけの、言ってしまえば各々で好き勝手に音を鳴らしているだけのバンドではないかという可能性を考えていた。

 

 別にそれ自体は非難されるものでは無い。個々の技術が高ければ、それでも素人相手には十分通用するだろうし、本人たちが楽しいのなら、それがなにより一番良い。

 

 それに、別に趣味のバンドでも良いのだ。そうして皆で集まって音楽に興じて、高校三年間という青春を楽しく過ごす……実に素晴らしい事だと、そう思っていた。

 

 

 

 ――曲が始まる瞬間までは。

 

 

 

 曲が始まると私は目を見開いた。

 

 最初に驚いたのはぼっちちゃんのギターだ。疾走感あふれるギターリフから始まる曲の演奏に、普段聴くぼっちちゃんのギターから感じる不安や恐れ、緊張、そしてなによりも遠慮といったものが感じられなかった。

 

 原因は恐らく私が驚愕した二つ目の理由、山田太郎のドラムだろう。

 

 メロディック・ハードコアなんてテンポの速い曲を、揺らぐことの無い抜群の安定感で叩き続けている。こいつが後ろにいれば、さぞ演奏しやすいだろうと他人事ながら思ってしまう。

 

 なにより良い(・・)と思うのが、こいつの流れ(・・)だ。『ちゃんと叩こう』だとか『ミスをしないように』なんて縮こまった演奏や、かといって勢い重視の雑な演奏からでは決して生まれない、そういう流れがこいつの演奏にはある。

 

 こういう流れを作れるドラマーが中心でメンバーを引っ張っていくバンドは、抜群の安心感とリズムが生まれる。演奏するメンバーもそうだが、なにより聴く側の観客が『リズムに身を委ねて』聴いていられると言うのは並大抵の事ではない。

 

 更には、その良い流れとリズムを、同じかそれ以上のレベルで支えている、演奏技術だけ(・・)なら間違いない後輩(廣井きくり)だ。体の芯まで響く重低音でバンドの屋台骨を支えるこいつの実力は、素行を差し引いても一目置かざるを得ない。

 

 なるほど、この二人が居ればどんな初心者ギタリストが入っても形になるんじゃないかとさえ思えて来る。しかし、そんなリズム隊二人の前に立つギタリスト二人も、恐らく世代トップクラスだ。

 

 ぼっちちゃんは普段の不安定な演奏が想像できないような伸びやかで力強い音を鳴らしている。余程信頼しているのか、恐らくドラムの音しか聞こえていない(・・・・・・・・・・・・・・)事で、演奏に集中して、緊張や重圧を上書きしているように感じる。

 

 SIDEROSリーダーの大槻ヨヨコも、演奏を聴く限り恐らくぼっちちゃんに引けをとらない実力者だ。少なくともそこら辺のバンドならリズムギターなんてやっていていいような実力ではない。SIDEROSのリードギターも高レベルである事と、ボーカルを兼任している為に、リズムギターをやっているのだろう。

 

 なにより恐ろしいのが、このレベルの演奏をするBoBの四人の内、三人がまだ高校生という事実だ。このまま努力し続けられるのなら、もはやどこまで伸びるか想像もつかない。

 

 Band of Gypsysをパクるという怖い物知らずに加えて、メンバー全員がアフリカ系アメリカ人というGypsysを踏襲したような、メンバー全員が過去や現在でぼっちな人間だという中々皮肉の利いたバンド名。

 

 山田太郎を軸にして集まったはみ出し者(ぼっち)の実力者であると各々が認めた信頼関係。全員同じはみ出し者(ぼっち)という仲間意識。そしてその(ぼっちという)感情を音楽で表現するという共通の目的意識。本人達は気付いていないのかもしれないが、もしかするとこいつらは……

 

 例外を除いて、エースを集めただけのバンドが最高のバンドでは無いと、今でも思っている。だが――

 

 

 

 BoBの演奏か、それとも一瞬脳裏を過ぎった馬鹿馬鹿しい(・・・・・・)考えの為か、気が付けばぞくりと震えた身体を抱くようにして、私は自分の二の腕を一度さすった。

 

 

 

    ◇◇◇

 

 

 

「……ありがとうございました!」

 

 演奏が終わると、俺たちはお礼を述べて店長からの言葉を待った。

 

 店長は結束バンドの時と同じように左の手のひらを口元に被せながらしばらく考えると、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。

 

「ドラム。もう少しだけダイナミクス(音の強弱)のコントロールに気を付けろ、それもドラムの役割だからな」

 

「ウッス」

 

「リードギター。ドラムの音を聴くのも大事だけど、もう少し他も意識するように」

 

「あっはい……」

 

「リズムギター。いままでバンドのリーダーだったのは知ってるけど今はリズムギターだ、もう少し控えて曲を支える意識を持て」

 

「……はい」

 

「ベース。お前ならもうちょっとドラムと融合できるだろ」

 

「は~い」

 

「え~……お姉ちゃん厳しすぎない……」

 

「い、今の演奏で改善する所とかあるんですね……」

 

 俺達一人ひとりに一言アドバイスをくれた店長の言葉に、自分に言われた訳でも無いのに虹夏先輩と喜多さんは緊張したような声を上げたが、店長は気にした風もなく頬杖をつきながらそっぽを向いて言葉を続けた。

 

「でも……まあうん。BoBがどういうバンドかは分かった」

 

 あっ、これ結束バンドのオーディションでやったところだ! 俺知ってる、この台詞が出て来たって事は一応合格できた筈だ。しかし今回は違うって可能性もあるので一応言質を取っておこう。

 

「つまりどういう事なんですか!? 落ちたんですか俺達!?」

 

「う、うるせぇな! お前分かってて言ってるだろ!? 合格だよ合格!」

 

 店長が頬を少し赤くして吐き捨てるように合格を告げると俺達は胸を撫で下ろした。その後一度楽屋に戻り荷物を片づけて虹夏先輩達と合流する為に観客席へと向かうと、店長の姿が無くなっている事に気付いた。虹夏先輩へ訊ねると何やら取って来る物があると言って奥へ引っ込んでいったという事だった。

 

「それにしても、山田君凄かったんですね。普段の様子からは想像もつきませんでした」

 

「クリスマスライブでは後ろで見てたけど、近くで見たら迫力が違うね! やっぱり(Y)BoB(B)凄い(S)!」

 

「これから私たち、こんな凄いバンドと一緒にライブするかもしれないんですね……大丈夫かしら」

 

私たち(結束バンド)の物販でBoBのグッズを売ろう。取り分は五分五分でどう?」

 

 PAさんや虹夏先輩達から今の演奏の感想を聞いていると(一名変な事を言ってる奴もいるが)、姿を消していた店長がのそりと奥から戻って来た。手にはなにやら二枚の紙きれを持っている。

 

「おっ、いるな。おい太郎、お前たしか未確認ライオット出ないんだったよな?」

 

「え? あっはい」

 

 突然の質問に俺が素直に肯定すると、店長は持って来た二枚のフライヤーをテーブルの上へと広げて見せた。

 

「まあ、お前のバンドは十代じゃない奴が混じってるしな……でも太郎だけ夏まで目標無しってのも暇だろ……それならこれに出てみたらどうだ?」

 

「なにお姉ちゃん? このフライヤー……ってこれ……!」

 

「『「Freshman A GO-GO」ステージ出演オーディション』と『出たいか!? サマスニ!?』……ってこれもしかしてフシロックとサマースニックの出演オーディションですか!?」

 

 テーブルに広げられた二枚のフライヤーをまじまじと見ていた喜多さんが、そこに書かれている文字を見て声を上げた。喜多さんの言葉に釣られて見てみると、確かにフシロックとサマースニックの名前がある。

 

「凄い……! これ最終審査を勝ち抜いたらフシロックやサマスニに出られるって書いてますよ!? 伊地知先輩、私たちもこれ……」

 

喜多ちゃん(・・・・・)

 

 フライヤーを熱心に読んでいた喜多さんがその内容を理解して驚きの声を上げて参加を持ちかけた瞬間、虹夏先輩は重苦しい声を上げて言葉を遮った。虹夏先輩は分かっているのだ、今の結束バンド(自分達)がただの好奇心や興味本位だけでそれ(・・)に参加できるほど、それは生易しいものでは無い事を、そして店長が俺達に話を持って来た意味(・・)も。

 

「まぁ残念ながら、ロッキンジャポンは千葉に在住か通学通勤してるメンバーがいないと、オーディション自体受けられないんだけどな」

 

 店長は二人の様子を意に介さず軽く笑って喜多さんの手からフライヤーを抜き取ると、俺の胸へと押し付けてきた。俺は二枚のフライヤーを受け取ると、ぼんやりとそこに書かれた文字を眺めた。何度読んでもフシロックとサマースニックへの出場を決めるオーディションだと書いてある。

 

「締め切りはまだ先だから急いで決めなくてもいい、けど一応こんなのがあるぞって事だけ伝えておこうと思ってな。出る気があるなら詳しい事はネットで自分で調べてくれ」

 

 そう言うと店長は仕事があると言って今度こそ本当に奥へ引っ込んでしまった。

 

「太郎君……」

 

 フライヤーを見つめたまま立ち尽くしていた俺に、ひとりが上着の裾を掴みながら心配そうに声をかけてきた。俺は無言でひとりへ視線を向けて、続けて廣井さんとヨヨコ先輩を見た。

 

「それで? どうするつもり?」

 

 ヨヨコ先輩は目が合うと真っ直ぐに俺を見つめながら訊ねてきた。周りを見回せば虹夏先輩達も固唾を飲んで見守っている。

 

 締め切りは四月の末なので急いで決めなくていいとさっき店長が言っていたのに、なんだか今返事をしなければいけないような雰囲気になってるじゃねーか……どういう事だよ……お前は結論を急ぎすぎる……まあ未確認ライオットの審査スケジュールとかあるのだろうから気持ちは分かるが……

 

 俺は何故だか急に元日に引いた凶のおみくじの内容を思い出した。

 

『行くべき道を思案すべし』

 

 今後考えがどう変わるか分からないが、今の気持ちだけでも伝えておこうと思った俺は、再びフライヤーに目を落とし、少し考えてからゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「俺は――――」




 彗星の如く邦ロック界に突如現れた謎の覆面バンドBoBがオーディションを突破してフシロックフェスティバルとサマースニックに登場! 出場した夏フェスでメジャーバンドアキレス腱ドロスや海外バンドと対面するBoB! みたいなの考えたんですが、これ本当にぼざろの面白さか? 結束バンドの出番は? BoBがそんな有名になってこの後の原作との整合性大丈夫そ? BECK読んだらよくね? みたいな事考えてずーっと悩んでました。

 ぼざろってバンド活動描写自体は割と地に足着いたリアルな奴だと思ってるんで、こういう少年漫画っぽい展開はぼざろの空気と合わない気がするんですよね……

 一応アンケート置いときました。と言っても決定ではなく参考程度なんで、良かったら気楽に答えてくれると嬉しいです。

BoBは夏フェスオーディションに……

  • 出る(フシロック)
  • 出る(サマースニック)
  • 出る(両方)
  • 出ない(今後WEB方面で活躍)
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