ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 前回は沢山のアンケート回答や感想ありがとうございました。
 ちょっとこの小説のガチのターニングポイントっぽかったので、先の展開まで考えて時間かかりました。プロットとか無いからね、しょうがないね。

 あと10.5話があると管理が面倒だったんで変えました。これにより10話以降は1話ずつ番号がずれたんですが別に内容は変わってません。


027 Home sweet home

 フシロックとサマースニックの出演オーディションのフライヤーを見つめて少し悩んだ俺は、皆が見つめる中今の自分の考えを伝える為にゆっくりと口を開いた。

 

「俺は――せっかく勧めてくれた店長には申し訳ないんですけど、夏フェスには出なくてもいいかなって思ってます」

 

 俺の言葉に虹夏先輩とヨヨコ先輩の二人の表情が若干険しくなったような気がした。というか一体なんだと言うのだこの変な緊張感は……正直勘弁してほしい……

 

「……まぁ太郎君がそう言うなら……」

 

「私は……」

 

 廣井さんが空気を読んで話を終わらせようとした間際、ヨヨコ先輩がポツリと言葉を溢した。皆の視線が一斉にヨヨコ先輩へ集まったが、ひとりなら間違いなく顔面が崩壊してあたふたと動揺するような全員の視線を気にする事無くヨヨコ先輩は言葉を続けた。

 

「私は……このメンバー(BoB)なら、フシロックでもサマースニックでも……オーディションさえ受けられるなら、ロッキンジャポンだって審査を通過して出られると思ってるわ」

 

 言葉と共に射るような眼差しでヨヨコ先輩はこちらを見てきた。しかしフシロックだろうがサマスニだろうがロッキンだろうが出られるとは、ヨヨコ先輩のBoBの評価がなんだかえらい事になっている気がする。

 

「まぁそれについては俺も同意しますけどね」

 

「……それじゃあどうして?」

 

 ヨヨコ先輩は俺の返事が意外だったのか少し驚いたようだったが、すぐに眉間に皺を寄せながら不満げな様子で聞き返して来た。

 

 しかし今日は随分と食い下がってくるなヨヨコ先輩は……そもそもどうしても何も、これは俺が出たいとか出たくないとかだけの問題ではないのだ。

 

「未確認ライオットファイナルステージに進めるのは東京会場からは二組。ただでさえ厳しいのにその前段階でデモ審査やWEB審査だってある。ヨヨコ先輩、それにひとりも……万が一どこかの審査で落ちた場合……二人は……いや、メンバー全員が納得(・・)できますか? 」

 

 俺の言葉に結束バンドのメンバーは落選した時の事を想像したのか、わずかに表情が固くなった気がした。

 

 もし審査のどこかで落選した場合、ひとりやヨヨコ先輩はまだいい。いや実際は良くは無いが、本人達は自分は全力を尽くしたと断言出来るだろうし納得も出来るだろう。だが他のメンバーはどうだろうか? もしBoBの活動などにうつつを抜かさず自分達のバンド一本に絞っていればあるいは……という想いがきっと必ず出て来る筈だ。

 

「俺はそういうつまんない後悔は見たくないし、させたくないんですよ。そう言う訳でフェス不参加は俺自身の為なんです。それに元々は結束バンドの本気度や実力を証明する為に未確認ライオットに出るんですから、ここは全力で当たらないと駄目でしょう? だからBoBはフェスには出ません! 終わり! 閉廷! 以上! みんな解散!」

 

 俺は体の前で両腕を交差させてバツ印を作ると、フェスに参加しない旨を黙って話を聞いていた皆にはっきりと言い切った。

 

「……はぁ。まぁあなたの言い分は分かったわ」

 

 ヨヨコ先輩は若干不服そうな様子だったが、一応は納得してくれたのか小さくため息をついてそれ以上は何も言わなかった。そうして夏フェスを巡る一応の結論がでると、ややこしい話が終わるのを待っていた廣井さんが俺に訊ねてきた。

 

「それじゃあ太郎君どうする? 先輩の言ってたように夏が終わるまで私たちは目標が無くなっちゃうけど」

 

「そうなんですよねぇ……俺としてはもう一曲出来たらBoBファーストEPって事でサブスクで配信とかやってみたかったんですけど……」

 

 これから夏までは未確認ライオット関係でひとりとヨヨコ先輩は忙しくなりそうだし、レコーディングなんてしている暇はないかもしれない。まあレコーディングはドラム以外は各自宅碌で出来なくもないが……しかしそんな事より四曲目がまだ出来ていないのだ。こればかりは作曲が出来る廣井さんやヨヨコ先輩を待つ他無いのでEP配信もまだしばらくかかりそうだ。

 

「あ、あの……太郎君!」

 

「ん? どうしました?」

 

 俺が今後の事で悩んでいると急に虹夏先輩が大きな声を上げた。顔を向けると虹夏先輩は顔を赤くして緊張した表情でこちらを見ていた。訊ねると虹夏先輩はまるでひとりがテンパった時の様に視線をあちこちに動かしながら、やがて覚悟を決めた表情で勢いよく頭を下げた。

 

「あっあの……もし時間が空いてるようなら……あっあたしにドラムを教えてください!」

 

 深々と頭を下げた虹夏先輩の言っている事がしばらく理解できなかった俺は、虹夏先輩を呆然と見つめた後、ようやく意味を理解して素っ頓狂な声を上げた。

 

「……えっ!? 俺がですか!?」

 

「そ、そう……」

 

「……いや、でも教える事なんて多分ないですよ? 虹夏先輩、基礎は出来てますし……」

 

 ドラムを教えると言っても虹夏先輩は基礎はもう出来ているので後は技術の練度を上げていくのが良いのだろうが、これはもう時間をかけて反復練習するしか無いので正直俺に出来る事があるとは思えない。それに結束バンドには結束バンドの呼吸というかグルーヴ感と言うか……そういう物があると思うのであんまり口を出したくないのが本音だ。

 

「お願い! たまにあたしの前でドラムを叩いてくれるくらいでもいいから!」

 

 一応結束バンドと言う音楽に俺という異物を混入させたくない事を伝えてみたのだが、虹夏先輩はなおも熱心に頼み込んできた。

 

「……虹夏、もしかして太郎のドラム見たいだけなんじゃ……」

 

「!? ち、ちがわい!」

 

 そんな虹夏先輩の様子に何かを感じたのかリョウ先輩がポツリと呟くと、虹夏先輩の顔が赤くなり目が盛大に泳ぎ出した。見れば虹夏先輩のトレードマークであるアホ毛がすごい勢いで動いている。

 

 リョウ先輩に指摘されて盛大にキョドっている虹夏先輩を一先ず置いて俺はひとりを見た。結束バンドに俺が介入しても大丈夫かどうか意見を貰う為だ。こいつは俺以上に音楽的センスがあるのである程度なら判断が出来そうだし、なにより俺相手でも遠慮せず率直な意見を言ってくれそうだと思ったからだ。

 

 俺の視線に気付いたひとりはまだ赤い顔でキョドっている虹夏先輩を一度見て俯きながら少し考えたかと思うと、こちらに顔を向けて小さく頷いた。結束バンドのメンバーであり、人の機微に聡いひとりからお許しが出たという事は俺が介入してもとりあえず悪い方向にはいかないと考えていいだろうか? 

 

「……分かりました。あんまり役には立たないだろうけど、それでもよければ」

 

「ほ、本当!? ありがとう!」

 

 リョウ先輩にからかわれてあたふたとしていた虹夏先輩は俺の返事を聞いて嬉しそうに声を上げた。そのまま俺の目の前まで駆け寄ってくると、俺の両手を自分の両手で包むように握ってから俺の顔へと自分の顔をズイと近づけて嬉しそうにお礼を言ってきた。

 

 うおっ……顔が良い……ひとりやリョウ先輩、それに喜多さんに隠れがちだが虹夏先輩も決して顔は悪くない。というかむしろ良い方だ。SICKHACKのフロントマンの廣井さんといい、SIDEROSのフロントマンのヨヨコ先輩といい、周りのレベルが高すぎる。

 

 昔ひとりが『虹夏ちゃんはいい匂いがした』なんて事を言っていたのを聞いて若干引いていたのだが、マジでなんか良い匂いがするので困る。もうちょっと防虫剤の匂いとかをさせて俺を安心させて欲しい……

 

 しかし俺の知り合いは全員顔が良いのが恐ろしすぎる……高校の頃(思春期)にこんな美人に囲まれて過ごしたら、音楽で成功できずに将来しがない会社員になった時に、女性への顔面ハードルが上がりすぎて結婚出来ないんじゃないかと我が事ながら心配になって来てしまう。

 

「はあ~……まさかあのドラムヒーローさんにドラムを教えて貰えるなんて……あたし、ギターヒーローのぼっちちゃんにギターを教わってる喜多ちゃんが、ちょっと羨ましかったんだ……」

 

「あっはい……そっすか……」

 

 虹夏先輩は天井を見ながら両手を合わせて、目を輝かせながら感極まったようにそう言うと、スキップでもしそうな軽やかな足取りで元居た場所へと戻って行った。虹夏先輩と距離が開いた事に安堵した俺は思わずひとりの後ろに張り付く様に逃げ込んだ。

 

「ふぅ……やっぱりお前の(防虫剤の)匂いが一番落ち着くわ……」

 

「えっ!? ……そっそれってどういう……」

 

 ひとりの後ろに隠れた俺は、ひとりの両肩に手を乗せて安心したように小さく呟くと、驚いたひとりは慌てて自分の襟元を引っ張り上げたり、左右の腕を鼻に近づけて自分の匂いを嗅いでいた。

 

「虹夏先輩。とりあえず店長からオーディション合格貰ったんでSTARRYでライブやろうと思ってるんですけど、結束バンドって今月ライブやりますか?」

 

「勿論やるよ! 毎月一回はライブやるからね!」

 

 ひとりの防虫剤臭を嗅いで落ち着きを取り戻した俺が質問すると予想通りの答えが返って来た。となると個人的にはBoBも同じ日にライブをやるのがベストなんだが……ここで問題が二つ出て来るのだ。

 

 一つは単純に今から店長に頼んで結束バンドと同じ日に空きがあるのかという点だ。現時点で一月の二週目の土曜なので、次の結束バンドのライブまであと二週間も無い状況だ。まあこれは店長パワーでなんとかして貰うか、無理なようなら来月にするか、若しくは結束バンドとは別の日にやるしかない。

 

 もう一つの方が割と問題で、結束バンドが毎月徴収してるアレ……つまりライブをする為のノルマ代だ。俺やヨヨコ先輩は問題ないだろうが、ひとりは結束バンド分のノルマ代しかバイトをしていないし、廣井さんは年中金欠そうだし……

 

「と言う訳でノルマ代なんですけど……」

 

 俺が二つの問題を説明してから申し訳なさそうにBoBメンバーへ向けて言うと、案の定ひとりが固まった。だが意外な事に廣井さんはまるで平然としている。流石社会人? 冠婚葬祭色々あるからか、急な出費でもノルマ代位なら何とかなるのだろう。それとひとりはスマホで肝臓の売り方を調べるのはやめろ、将来のパフォーマンスが下がるって前も言っただろ。

 

「ちょっと心配してたんですけど、廣井さんは大丈夫そうですね」

 

 俺がひとりからスマホを取り上げながら安心したように言うと、廣井さんはまるで表情を変えずに鬼ころを一度すすってから気負った様子も無く口を開いた。

 

「えっと……ノルマ代だっけ? 無いけど?」

 

「ちょっと!? 何でそんな平然としてるんですか!?」

 

「大丈夫大丈夫。SICKHACK(わたし)ももうすぐライブあるから!」

 

 もうすぐ給料日だから大丈夫! なんてギャンブル中毒みたいな事を言う廣井さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「そもそもノルマ代ってライブ終わった後にノルマが達成できなかった分を払う訳でしょ? ノルマのチケットって二十枚だっけ? それならBoB(私たち)なら絶対大丈夫だよ~!」

 

 カラカラと笑う廣井さんの随分と自信に満ちた発言に、何を根拠にそんな事をのたまっているんだと疑わしげな視線を俺が送っていると、ヨヨコ先輩も廣井さんの考えに同調するように声を上げた。

 

「でも、確かに姐さんのいう事も一理あるかもしれませんね……クリスマスライブに来ていた人は、BoBのベースとリズムギターが私たち二人だって気づいてる筈です。そこから姐さんと私のファンを引っ張ってこられるなら、ノルマ二十枚を達成できる可能性は十分あるはずよ」

 

「そうなんですか? っていうか廣井さんのファンは分かるんですけど、ヨヨコ先輩のファンって引っ張ってこられるんですか? この前のクリスマスライブは、一応SICKHACKのライブでしたよね?」

 

「うっ……」

 

 俺の率直な疑問にヨヨコ先輩は痛い所を衝かれたように呻き声を漏らしたが、もしかして気付いてなかったんだろうか……まぁFOLTという事でSIDEROSファンも来ていた事は十分考えられるし、来ていたファンから情報が伝わっている可能性もあるが……

 

 ちなみに俺は友人がいないし、ひとりだって同じだ。結束バンドと同じ日にライブをするなら虹夏先輩達にチケットをお願いする事も出来ないし、一号二号さんは恐らく結束バンドのチケットを買うだろう。お互いの両親にならなんとか行けるが、それだって二人で四枚が関の山だ。なんならひとりは結束バンドのチケットノルマを自分の両親に頼む可能性もあるので、その場合BoBでの俺達二人のノルマ十枚を捌くあて(・・)は俺の両親の二枚だけって事になる。

 

 そんな訳で自分では全く集客に貢献出来ない事を悟った俺が本当に二十枚なんてノルマを達成できるのか不安気にヨヨコ先輩を見ながら訊ねると、ヨヨコ先輩は先程の俺の指摘に恥ずかしそうに一つ咳ばらいをしてからより具体的な説明を話し始めた。

 

「と、とにかく。私たちは普段キャパ五百人のFOLTでワンマンライブをしてるの。そうすると乱暴な計算だけど姐さんは百五十人、私には百人近いファンが付いてると考えられるわ。もしその十分の一がBoBを見に来てくれたとしたら、それだけで二十人は呼べる可能性があるわね」

 

 まぁあくまで可能性だけど……なんて言いながらも、ヨヨコ先輩は難しい顔で口元に手を当てて何事か考えながら話を続ける。

 

「……あとはBoBのトゥイッターフォロワーがどれだけ来てくれるか……って所かしら? 私のフォロワーが一万人、さっき言ったライブに来る私のファンが百人……つまりフォロワーの百分の一が店に足を運んでくれると仮定すると……」

 

「た、確かBoBのフォロワーって三万人でしたよね……? という事は……さ、三百人……?」

 

「う、STARRY(ウチ)のキャパは二百五十人くらいだよ……」

 

 ヨヨコ先輩の呟きを聞いて数字を計算してみた喜多さんと虹夏先輩がたじろぎながら声を漏らした。二人はもっともらしい事を言うヨヨコ先輩の変な雰囲気に飲まれているが、流石の俺でもこの計算が少し考えれば無茶苦茶なのは気付いている。

 

「でも結束バンド……というか喜多さんのイソスタフォロワーは一万五千でしたよね? けど普段のライブには百五十人も来てませんよ? 流石にちょっとその計算は乱暴すぎるんじゃ……」

 

 俺が率直な意見をぶつけるとヨヨコ先輩は困ったような顔で肩を竦めた。やはり本人もちょっと無茶が過ぎる予想だというのは自覚しているようだ。

 

「まぁトゥイッターのフォロワーはともかく、私と姐さんのファンに関してはそこそこ信頼できるんじゃないかしら? 特に姐さんは普段やらないサイケ以外の曲を歌ってるから、もしかしたら想像以上に人が来るかも……」

 

 そういう話なら同意できる。クリスマスライブでやった廣井さんのサイケ以外も、ヨヨコ先輩のメタル以外も、かなり好意的に受け入れられていた感じはあった。それこそ二人の新たな方向性の音楽が聴きたかったファンなんかはBoBライブに来てくれるかもしれない。

 

 だが同時に思うのは、それって俺が覆面バンドにした理由……つまり廣井さんやヨヨコ先輩というビッグネームに頼りたくなかったという事そのものなんじゃないだろうか? なんて考えも頭を過ぎるのだ。

 

「……まぁあなたの悩む理由も分かるけどね」

 

 俺が果たしてこれでいいのか難しい顔をしていると、ヨヨコ先輩が少し申し訳なさそうに呟いた。

 

「大方、姐さんや私の知名度を利用する事になるから迷ってるんでしょう? けど、それは私達がBoBで活動していく以上避けて通れない事だし、私も姐さんも分かっていた事だから、あなたが気に病む必要はないわ。それに……」

 

 ヨヨコ先輩は俺がまるでしょうもない事に悩んでいるかのように呆れ顔で諭すように話を続ける。

 

「どうせ、BoBのライブに来た人は遅かれ早かれBoBのファンになるんだから、今来るファンは、その前借りだと思ってればいいのよ。あなた得意でしょ? そういう考え方」

 

 「まあ、最後の最後には全員私のファンにして見せるけどね!」なんて言いながら、ヨヨコ先輩はそっぽを向いて、まるで苦虫を噛み潰したような表情で鼻を鳴らした。

 

 どうもヨヨコ先輩は、BoBのトゥイッターフォロワーがヨヨコ先輩のフォロワー一万人をあっという間に追い越した事を根に持っているようで、今回も自分のファンをBoBに取られるとでも思っているのかもしれない。しかしヨヨコ先輩のファンがBoBのヨヨコ先輩の音楽を聴きに来たらそれはヨヨコ先輩のファンでは? 太郎は訝しんだ。

 

 だがそんな事より聞き捨てならないのがヨヨコ先輩の俺のイメージだ。「どうせ最後はBoBのファンになるんだから……ままええか!」うわすげえ言いそう……いや違う。俺はそんなアホではない筈だ……

 

「そういう考え方が得意って……いや、ヨヨコ先輩は一体俺を何だと思ってるんですか……」

 

「怖いもの知らず。後先考えないバカ。楽観主義。お節介焼き。お調子者。無茶振り野郎。初ライブが姐さんとの路上ライブとかいうアホ。いきなり姐さんの紹介でSIDEROSの試験を受ける奇人。私がバンドに加入して直後に、渋谷で即興路上ライブさせる変態。新曲を二週間でマスターしろとか言ってくる狂人。初の箱ライブの観客が五百人とかいう変人」

 

 流石に俺のイメージがあんまりだったので軽く抗議を入れて見ると、ジロリとこちらを睨んできたヨヨコ先輩から遠慮のない数々の言葉が飛んできた。

 

 なんだこの人!? なんでそんな辛辣な言葉がつらつら出て来るの? もうちょっと褒める所とか……無いですかね? というか最後の方は印象じゃなくてただの事実を羅列してるだけじゃねーかよ……

 

 俺が驚愕しながら聞いていると、ひとりもその感想にシンパシーを感じているのか何度も頷いている。いやマジでどういう事だよ……お前までそんな風に思ってたのか? 俺は褒められて伸びるんだからもっと褒めてくれ。

 

「まぁでも……」

 

「はい! この話は終わり! やめやめ! ノルマ代の事は分かりました! 最悪の場合は俺が一旦全額出して後で皆から回収するんでそれで行きましょう!」

 

「ちょ、ちょっと、まだ私の話は……」

 

「それじゃあ虹夏先輩、店長にライブ出たいって伝えたいんですけど何処にいるか分かります?」

 

 とりあえず二つあった問題が解消されたので、まだ何か言いかけていたヨヨコ先輩に被せるようにして強引に終わらせると、虹夏先輩に店長の場所を教えてもらいSTARRYでのライブ出演の事を伝えに行くことにした。

 

 虹夏先輩に教えて貰った店長の所在まで訪れると、店長がノートPCを広げていたので声をかけた。俺は折角フェスへの応募を薦めて貰った手前申し訳ない気持ちもあったのだが、とりあえず夏フェスオーディションは今の段階では見送る事を伝えてみると、話を聞いた店長は特段気にした様子も無かった。

 

「そうか。お前らが出たら面白い所まで行けそうだと思ったんだが……まぁ確かにメンバー二人が別々のバンドでライオットに出るんならそれどころじゃないかもな……それで? 虹夏達と同じ日にライブやりたいんだっけ?」

 

 店長は開いていたノートPCの画面を覗き込んだ。おそらく結束バンドの出る日の出演バンドや空きを確認しているのだろう。画面を見ながらキーボードを弄っていた店長は、しばらくすると画面から目を離さずに口を開いた。

 

「まぁねじ込んでやる事は出来るけど、次からはもっと早く言えよ。でも本当にこの日でいいのか?」

 

「? どういう意味ですか?」

 

 日付の事を熱心に確認する事に疑問を感じた俺の言葉に、今まで画面から目を離さずにいた店長はようやっとこちらに顔を向けた。

 

「いや、この日だともうライブまで二週間位しかないだろ? つまり周知する時間もそれくらいしかないけど……客は呼べそうなのか?」

 

 確かに店長の言う通りだ。なんならもう既にこの日のチケットの販売は始まってるし、見に来る人の予定だって埋まってる可能性も十分ある。店長の話ではそもそもブッキングライブの応募ってのは一ヵ月以上前にやるべき物らしく、場所によっては応募は三か月前とかもあるらしい。

 

「ええと……まあ大丈夫です……多分……」

 

「おいおいほんとに大丈夫か? まあこっちはノルマ代さえきちんと払ってくれればそれでいいけど……」

 

 先程のヨヨコ先輩と話をした、廣井さんとヨヨコ先輩のファンとBoBトゥイッターフォロワーの一パーセントがSTARRYへ来てくれる事を願うしかないだろう。最悪ゼロ人でも普通にノルマ代を払うだけだし。へーきへーき。

 

 とりあえず伝える事は伝えたのでそのまま踵を返してフロアに戻ろうとする俺は店長に呼び止められた。振り返ると店長は再びノートPCの画面へと視線を戻してキーボードを弄っている。

 

「出るのは分かったから、次はとりあえずWEBページに乗せるアー写を撮ってきてくれ。確かお前らまだ持って無いだろ? まぁ最悪アー写は無くてもいいけど……期限は今日中な」

 

「あーしゃ?」

 

「そう、アーティスト写真」

 

 店長が一瞬何を言っているのかよく分からなかった俺はオウム返しの様に聞き返して、意味を理解した瞬間飛び上がった。

 

 あーしゃ……? アー写! やばい、今の今まですっかり忘れていた。前に結束バンドのアー写撮影に同行した筈なのに話に出た事すら無かった。今まで路上ライブしかやって無かったから必要無かった上、前回のクリスマスライブはゲストだったのでなにも用意しなくても良かったのだ。恐らくめんどくさい事は廣井さんか志麻さん辺りが何とかしてくれたのだろう。

 

 すっかり忘れていた恐ろしい事実を指摘された俺は店長に一言告げると、廣井さん達がいるフロアへと慌てて戻る事にした。

 

 

 

「廣井さんっ! アー写ですよ、アー写っ!!」

 

「ええ? なになに? アー写?」

 

 フロアに戻った俺は即座にくつろいだ様子で椅子に座って鬼ころを飲んでいた廣井さんに詰め寄ると、先程店長に言われたアー写の事を早口に説明した。するとアー写の事は廣井さんも忘れていたのか困ったような声が返って来た。

 

「そっか~……アー写かぁ~……」

 

「そう言われてみれば、私が入ってからも撮ってなかったわよね?」

 

 廣井さんの隣に座りながら話を聞いていたヨヨコ先輩もアー写を撮っていない事を思い出したのか困ったような顔をしている。最悪今回の告知は写真無しで行く事になるが、とりあえず今後どうするかの緊急BoBアー写会議が開かれる事になった。

 

 

 

「まず撮影の前に決めなきゃいけないのは方向性やコンセプトね……太郎、BoBのコンセプトは?」

 

 真っ先に発言したのは腕と足を組みながら偉そうにふんぞり返って椅子に座っていたヨヨコ先輩だ、やはりこういうプロデュース方面には一家言あるのだろうか。リョウ先輩という自分の(結束)バンドの時もやる気が無かったのに、他所のバンドという事で更にやる気の無い人とは対照的だ。

 

「BoBのコンセプトですか? えーっと……やっぱり名前の通りぼっちが集まってるって所じゃないですか?」

 

 急に話を振られた俺が少し悩んで答えるとヨヨコ先輩は小さく頷いた。前に志麻さんや廣井さんにも言ったが、BoBのコンセプトは『磨き上げた個』の集まりだと思っている。

 

 しかしなるほど、大雑把にでもコンセプトが決まると何となく撮るべきアー写が見えて来た気もする。ぼっちズなんて言ってるのに、結束バンドの様に下北沢のおしゃれな壁を背景に手を繋いでジャンプなんぞしているのは方向性が違うだろうという事だ。となると……

 

「……だとすると屋外より屋内ですかね? それもあんまりおしゃれな感じがしない場所……」

 

 ぼっち、なんて言っているのだから太陽が燦々と輝く屋外はちょっと違う気がした。そうなると室内だが、これもおしゃれな屋内は違う気がする。だとすると……自宅とか? いや流石にそれは無理か……

 

 虹夏先輩や喜多さんが色々案を出してくれたがいまいちしっくりくる場所が無く俺が悩んでいると、ひとりが珍しくおずおずと手を上げた。

 

「おっ? 何処か心当たりがあるのか?」

 

「えっえっと……あの、それならSTARRY(ココ)で撮ったらどうかな……」

 

「STARRY?」

 

「うっうん……太郎君の言ったイメージで最初は自宅が思い浮かんだんだけど、それは流石に無理だから……でもそれなら拠点であるSTARRYはBoBにとって……と言うかバンドにとっての自宅みたいな物かなって思った……んだけど……」

 

 自分のイメージをおっかなびっくり説明し始めたひとりは、皆の視線が自分に集まっている事に気付くと段々と声が小さくなっていき、終いには恥ずかしそうに俯いてしまった。

 

 ひとりの事だからどんなトンデモ空間を提案されるかと思ったが、中々良い着眼点かもしれない。ライブハウスは大体地下にあって暗くてじめじめしてるイメージ(偏見)だし、ひとりの言う通り拠点はバンドにとっての自宅とも言えるかも知れない。こいつ結束バンドのアー写の時もよさげな壁を見つけて来るし、案外こういう才能があるのだろうか……

 

「なるほどな……いや、結構良いんじゃないか? お前中々センスあるかもな」

 

「!! うへへへ……まっまぁこれくらい、私と言うバンドの申し子にかかればお茶の子さいさいだよ。将来太郎君がマイホームを買う時は私が場所を選んであげるね……」

 

 いや、なんでアー写の撮影場所のセンスを褒めただけで、そんな俺の人生を賭けたデカい買い物をお前に任せなきゃいけないんだよ……怖すぎんだろ……せめて俺が高校卒業した後に一人暮らしを始める時の賃貸の場所位にしておいてくれ。

 

 自分のセンスが誉められた事で顔がモチモチになっているひとりをスルーして、俺は虹夏先輩へSTARRYでの撮影が可能かどうか聞いてみると特に問題ない旨の言葉が返って来た。廣井さんやヨヨコ先輩からも特に反論がなかったので、BoBのアー写はSTARRY内で撮影する事に決定した。

 

 何とか撮影場所は決まったが、どんな写真を撮るかはまだ何も決まっていない。だがこういう物はあまり難しく考えても仕方ないので、覆面とパーカーを身に着けた俺達四人はとりあえずSTARRYの壁を背にして横一列に並ぶというよくある構図で写真を撮る事にした。撮影係は虹夏先輩だ。

 

「おいひとり、もうちょっとこっちに寄れ。それじゃ見切れるぞ」

 

「あっはい……」

 

「それじゃあいくよ~……はいおっけー」

 

 結束バンドのアー写撮影の時もそうだったが、どうもひとりは端っこに行きたがるので腕を掴んでこちらに一歩引き寄せると、メンバー全員が画面に収まった事を確認した虹夏先輩がシャッターを切った。

 

「……どうですか?」

 

 俺の預けたスマホで撮影した写真を虹夏先輩に見せて貰うと、各々の個性が出ている中々良い感じの写真が撮れていた。

 

 写真一番左にいるひとりは、前に下北沢の壁の前で一番最初の結束バンドのアー写撮影をした時のような格好で、行儀よく体の前で両手を重ねて所在なさげに俯きがちに立っている。こんな如何にも引っ込み思案っぽいポーズの癖に、顔には厳つい仮面が付けられているギャップで中々愉快な絵面になっている。

 

 ひとりの隣、写真左から二番目に立つ俺は両手をパーカーのポケットに突っ込んでいる。顔は少し傾けてカメラを見下ろすようにしている、まぁよくあるポーズだ。

 

 俺の隣、右から二番目にいる廣井さんは左手はパーカーのポケットに入れて俺の左肩に右腕を乗せて寄りかかりながら、俺とは逆に顎を引いて気だるそうな恰好でカメラに顔を向けている。普段はちゃらんぽらんだが、アー写となるとこうしてカッコよくなるのは流石バンドマンと言った所か。

 

 写真一番右にいるヨヨコ先輩は、画面の外側に少し体を向けるように立ちながら両肘を掴むように腕を組んで顔だけカメラに向けている。これがまた如何にもヨヨコ先輩っぽいポーズだ。

 

 前に虹夏先輩はこれと同じような横に四人並んだ構図の結束バンドの写真をイマイチバンド感が無いと言っていたが、BoB的にはかなり良いんじゃないだろうか? この統一感の無いバラバラなポーズがまたいい味を出してる気がする。

 

「メンバーの個性も出てますし、これ結構いいんじゃないですか?」

 

「あっ……太郎君。私にも写真送って」

 

「私にも頂戴~!」

 

「あ……じゃ、じゃあ私にも……」

 

 中々良いアー写が撮れた事に俺が満足していると、ひとりや廣井さんだけで無くヨヨコ先輩にも写真のデータを送るよう頼まれたので全員にデータを送ってから、俺はアー写の提出を行なう為に店長の元へ再び足を運んだ。

 

 

 

「へぇ~……いいんじゃない? メンバーの個性も出てるし」

 

 相変わらずノートPCに向かって仕事をしていた店長にアーティスト写真の提出を行うと、写真を見た店長は楽しそうに呟いた。そうしてHPに写真を載せる為にキーボードを叩くと、決定のENTERキーを押す前に一度こちらに振り向いた。

 

「それじゃあBoB参加をHPに載せるけど、本当にいいんだな? 後でやっぱりやめますは無しだぞ?」

 

「大丈夫ですよ……一応集客の当てはありますし、駄目でもちゃんとノルマ代は払いますから」

 

 俺の言葉に店長は無言でノートPCに視線を戻してENTERキーを押し込んだ。これでいよいよSTARRYのHPでBoBのライブ参加が告知されたので、待った無しの状態になったと言えるだろう。

 

 今回参加するのはBoBと結束バンド含めて4組がライブする対バン方式と言われる物だ。大体二週間前に出演者に当日のタイムテーブルを告知するらしいので、今日がまさに参加するかどうかのデッドラインだったと言える。いやちょっと踏み越えてる気もするが……因みに店長曰く今の段階でBoBはライブの一番最後、大トリを考えているらしい。

 

 ライブ出演が決定した事で店長から諸々の説明を受けた俺は再び皆がいるフロアに戻り、無事参加が決定したライブの日時を廣井さんやヨヨコ先輩に伝えると、今日はライブオーディションに夏フェス参加の有無やアー写撮影と結構な時間を食ってしまったので解散という事になった。

 

「それじゃあね太郎君、ぼっちちゃん。あとSNSでの告知よろしくね~」

 

「じゃあまた当日にね」

 

 今日は結束バンドも解散という事で、STARRYを出て廣井さんとヨヨコ先輩と別れてしばらく歩くと、ひとりが緊張した面持ちで話しかけてきた。

 

「たっ太郎君、いよいよだね……」

 

 だがひとりをよく見ると、緊張もしているがなんだか珍しくやる気が溢れているようにも感じられる。

 

「え? ああ、そうだな。ってなんだかいつもよりやる気があるな? どうしたんだ?」

 

「えっえっと……だって、中学の時から言ってた私たち(・・・)のバンドの、初めてのライブだから……」

 

 心なしか嬉しそうな表情のひとりの言葉に、俺は驚くと同時になんだか少し嬉しくなった。『太郎君のバンド』ではなく『私たち(・・・)のバンド』と言う言葉から、一応ひとりもBoBの事を大事に思ってくれている様に感じられたからだ。

 

「そうか……そうだな。ありがとな、ひとり」

 

「うっうん……ってなんで私、今お礼言われたの!?」

 

「……あっ、そうだ(唐突)。SNSで告知しておかないとな」

 

「えっあの……太郎君? ねえ、私なんで今お礼……」

 

「うるさいですね……」

 

 頭にはてなマークを浮かべながらしつこく食い下がって来るひとりへ、俺は気恥ずかしさを誤魔化すように渋い顔を作りながらスマホを取り出すと、BoB公式トゥイッターへライブの告知を投稿する事にした。

 

「えーっと……かなり急ですがライブハウスでのライブが決定しました。場所は……」

 

 スマホの画面を見ながら場所や日程、対バンするバンドの情報やOPENの時間、チケット料金に別途ドリンク料金がかかる事や予約方法まで、初めての人でも迷わない様になるべく詳しく情報を書いて投稿して行く。こういうSNS投稿に関する細かい気遣いは勿論ヨヨコ先輩の受け売りだ。

 

「まぁこんなもんかな? よし、あとは当日を待つだけだな」

 

「ねぇねぇ太郎君。さっきなんで……」

 

「う、うるせぇなぁ……もういいだろ」

 

 トゥイッターへの投稿が終わってスマホをポケットに突っ込むと、俺が言い返さない事に味を占めたのかなにやら楽しそうに絡んで来るひとりを帰りの電車で二時間もあしらうことになってしまった。

 

 その後、流石に三万人もトゥイッターのフォロワーが居ると反応も沢山あり『ライブ絶対行きます!』『FOLTライブも行きました! 今回も行きます!』『渋谷路上ライブからのファンです!』『東京は無理だ……』『大阪にも来て』『告知急スギィ!』『もう予定入ってるよ……』『BoBってマジで実在したのか……』など、色々な返信が投稿されているのを見ながら俺達はライブ当日を迎える事になった。




 メタ的な事を言えば結束バンドはライオットファイナルに進めないので、その時に誰よりも主人公自身が後悔しそうな事に今になって作者が気付いた事と、この小説では実力があればそれに見合った評価がされる感じの世界観で書いてるんですが、そうすると金沢八景路上ライブ→渋谷路上ライブ→FOLT500人ライブ→夏フェスとインフレしていくと今後ちょっと収集つかなくなりそうだったんでフェス応募は見送りました。フェス参加が見たかった人には申し訳ない。
 ちなみにBoBの人気はちょっとやりすぎか? って言うくらいを基準にしてわざと大げさに書いてます。
 今回物語で一番面倒な場所が終わったと思うんで、次回以降はもう少し早く投稿できるかもしれません。
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