ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 読者ちゃん達さ~……そういう面白アー写ネタがあるんならもっと早く教えてよ(無茶振り)。これじゃ真面目にカッコよさげなアー写考えて書きながら恥ずかしがってた作者が馬鹿みたいじゃないですか……

 今回演奏描写は全カットです。というか今回の話はBoBがSTARRYでライブしてますよって実績作りの話なので、正直『STARRYでのライブは大成功だった』って一文でも別に良いっちゃ良いんですよ……


028 ライブのち萌え体験

 ライブ当日。俺はいつもの如くひとりの旧ギターが入ったギターケースを担いでひとりと共にSTARRYへと赴くと、廣井さんとヨヨコ先輩が既にフロアにあるテーブルについているのが見えた。

 

「おはようございます。良かった、廣井さんちゃんと来てますね」

 

「やっほー太郎君。いや~大槻ちゃんがうるさくってさぁ~」

 

「もう、何言ってるんですか姐さん……初回くらいちゃんとしないと……」

 

 陽気にダメ人間みたいな事を言う廣井さんに向かってヨヨコ先輩が呆れた様に窘めたが、初回と言わず次回以降もちゃんとしてくれることを祈るばかりだ……

 

「あっ! ひとりちゃんに山田君! たっ大変よ!」

 

「あ、喜多さん。今日はよろしくお願いしますね」

 

「ええよろしくね! ……って違うの!」

 

 俺達が話しているとなにやら興奮している喜多さんが駆け寄ってきた。何事か気になったが俺は先に用事を済ませようと一言断ると、座っていた廣井さんとヨヨコ先輩が椅子から立ち上がった。

 

 用事と言うのは既にSTARRYに来ている結束バンド以外の二組のはじめましてのバンドに挨拶に行く事だ。先に着いていた廣井さん達はもう挨拶を済ませていたのかと思っていたが、ヨヨコ先輩曰く、最初の挨拶はメンバー全員で行くらしい。

 

「あ、どうもおはようございます。今日四番目に出演させていただくBoBです。よろしくお願いします」

 

「どうも。おはようございます、よろしくお願いします」

 

 一組目のバンドにつつがなく挨拶を終えると、俺達は二組目のバンドへと足を向けた。

 

「おはようございます。四番目に出演させていただくBoBです。よろしくお願いします」

 

「あっはい! お、おはようございます! よろしくお願いします!」

 

 二組目のバンドに挨拶すると、なんだかえらく恐縮したように挨拶を返してくれた。その様子に俺達が若干驚いていると、相手のバンドメンバーの一人が興奮気味に質問してきた。

 

「あっあの……BoBってもしかしてネットで流行りのメドレー動画を演奏してるあのBoBですか!?」

 

「えっと……はい、そうです」

 

「! やっぱり! あ、あの! 私あの動画凄く好きで……特に三曲目のメタルアレンジが凄く好きなんです! だからあの……あっ、すみません! きょ、今日はよろしくお願いします!」

 

「い、いえ……ありがとうございます。改めてよろしくお願いしますね」

 

 俺達の事を動画で知っていたのか熱心に感想を語ってくれた人は、自分が一方的にまくし立てている事に気付くと恥ずかしそうに話を打ち切って頭を下げた。そんな話を俺の後ろに隠れるように立って聞いていたひとりは頬をモチモチにして喜んでいる。

 

 俺達は二組のバンドに挨拶を終え再び喜多さんが待つ元のテーブルへと戻って来た。きょろきょろと辺りを見回すと店長や虹夏先輩が慌しく動いているのが見える。

 

「……それにしてもなんか今日雰囲気違いますね? それでどうしたんですか喜多さん?」

 

「それが……!」

 

「どうしたもこうしたも無いよ!」

 

 先程話を中断した喜多さんに呑気に訊ねる俺の言葉が聞こえたのか、STARRY内を慌しく動いていた虹夏先輩が怒ったように眉を吊り上げてこちらに来た。

 

「もぉー! 二週間前からBoBのおかげでSTARRY(ウチ)はてんてこまいだよ!」

 

「てんてこまいって……何かあったんですか?」

 

 二週間前と言ったら俺達がライブ出演を発表した日だ。もしかしたらやはり二週間前という直前に参加表明した事がやばかったのだろうかと思いおそるおそる聞いてみると、興奮している虹夏先輩の代わりに早速椅子に座って紙パックの鬼ころを飲んでいた廣井さんが答えてくれた。

 

「SOLD OUTだって」

 

「は?」

 

「だから、売り切れたのよ。今日のチケット」

 

 廣井さんから出てきた単語に、そんなバカなと素っ頓狂な声を上げた俺にヨヨコ先輩が改めて言い放った。俺だけでなく隣にいるひとりもとんでもなく驚いている。そんな間抜け面を晒す俺達を見て虹夏先輩は疲れたような表情で言葉を漏らした。

 

「ここ数日は電話がかかってきたと思ったら『BoBのチケットはまだありますか?』ってそればっかり……断るの大変だよぉ、お姉ちゃんは喜んでたけど……」

 

 そういえばちょっと前にノルマのチケットがどれ位捌けたかを確認する連絡が虹夏先輩からあった。その時正直に俺とひとりの二人分のノルマ十枚の内、一枚も捌けていない事を伝えるとそのまま売らずに持ってこいと言われたのだが、聞けば廣井さんが三枚、ヨヨコ先輩も二枚チケットを余らせていたらしいが、それもそのまま今日回収されて予約の分に当てられるみたいだ。

 

「ねぇ~、だから言ったでしょ? BoB(私達)なら大丈夫だって」

 

「いや……そりゃ言ってましたけど……」

 

 まさかこんな事になるとは思ってなかった。集まってもせいぜい廣井さんとヨヨコ先輩のファン二、三十人位だろうと思っていたのだが、BoB以外の三組のバンドがノルマの二十人ずつ集客していたとしたらそれで六十人、結束バンド以外の二組のバンドがどれくらい集客したのか分からないがSTARRYのキャパは二百五十人なのでBoBは百五十人位集客したんだろうか? 

 

 その後普段の自分たちのライブからは考えられない観客の人数に興奮気味の喜多さんの話を聞きながら、お金の匂いを嗅ぎつけたのかやたらベタベタしてくるリョウ先輩をあしらっているとリハーサル開始を告げに店長がやって来て、逆リハ(本番の出演順とは逆からリハーサルをしていくこと)でのリハーサル開始となった。

 

 BoBの出演は最後なので、トップバッターでリハーサルが終わり暇を持て余していた(逆リハは最後の出演者が一番待ち時間が長くなる)俺は、いよいよ観客を入場させる時間になると店長に呼び出された。

 

「太郎、悪いんだけど今日受付やってくんない? バイト代は出すから」

 

「ええ!? 俺今日ライブするんですけど……」

 

「頼む! 今日の客の人数だとお前らバイト抜きだときついんだよ。虹夏達は出番が二番目だから時間が無いし……お前は出番最後だから受付なら出来るだろ?」

 

 自分が出るライブの受付するのって普通なんだろうか……? そんな疑問を持ちながらも、両手を合わせて拝むように頼んでくる店長に続きPAさんからもガチトーンで頼まれては断る事も出来ず、俺は受付を担当する事になった。

 

 いつものバイトのように受付をする為に椅子に座り客が入って来るのを待つ。いつもと違う事があるとすれば今日はライブステージ用のパーカーとマスクを被って椅子に座っている事だ。店長曰く『今日はお前ら目当ての客が多いだろうから、自分の応援するアーティストがチケットをもぎってくれたら嬉しいだろ……多分』との事でこんな格好で受付をしている。

 

 実際入場してくる客は俺を見て驚いている。中には『本人ですか!?』とか『応援してます!』なんて言って来る人もいるが、その度に淡々と『本人です』や『ありがとうございます』とか返事しながらお金を貰ってドリンクチケットを渡している。

 

 そうしてしばらく受付をしていると見知った顔がやってきた。ひとりのファン一号二号さんだ。

 

「!? 太郎君何してるの!? 今日出演じゃなかったっけ!?」

 

「まぁそうなんですけど……今日はどのバンドを見に来られましたか?」

 

「えっ!? えっと……結束バンドです……あ、あれ? おかしいと思ってるのって私達だけ?」

 

 あまりにも普段通りに応対する俺に、一号二号さんは混乱した様子で受付を終えるとフロアに進んで行った。大丈夫ですよ、受付に来た人大体みんな驚いてます。

 

 こんな恰好をして受付をしている理由の二つ目がこれだ。FOLTでの客は信じていないようだったが俺は本名を名乗っているので、俺の事を知っている人からは素顔の時も太郎と呼ばれてしまうのだ。今の一号二号さんのように、素顔の時に名前と今日ライブに出る事を同時に話題に出されると正体一発バレなので覆面を付けろと店長に言われたのだ。

 

 その後も世紀末風貌の男達や、渋谷の路上ライブで声をかけてくれた女子二人なんかにも声をかけられながら受付をしているとまた見知った顔が受付に現れた。まあ廣井さんがチケットを二枚捌いたと聞いた時から大体予想はしていたのだが……

 

「どうも山田君」

 

「Hey太郎! 見に来たヨー!」

 

「あ、どうも志麻さんにイライザさん」

 

 二人の受付をしていると、志麻さんとイライザさんを見つけたフロアの客がやにわに騒がしくなった。

 

「うお……あれSICKHACKの志麻とイライザじゃないか?」

「マジだ……BoBを見に来たのか?」

 

 廣井さんやヨヨコ先輩のファンなど、普段FOLTに出入りしている人はこの二人をよく知っているので驚くのも無理はないかもしれない。

 

「前回は楽屋で聞いていたので、今日は前の方で見させて貰いますね」

 

 受付が終わり志麻さんがフロアへと進んで行くと、それを追うイライザさんは俺の前を通る瞬間俺の耳元に顔を近づけて小声で囁いた。

 

「タロー……ライブ終わったら、ちょっとだけ話したいことあるノヨ」

 

 俺が驚いてイライザさんの顔を見ると、イライザさんは快活そうな笑顔を浮かべて俺に向かって手を振って志麻さんと共に歩いて行った。

 

 耳元で金髪美女に囁かれてちょっと……いやかなりドキリとしたが、急に俺にそんな色っぽい話が出て来る筈も無いのでまたなんぞ面倒な事に違いない。俺は詳しいんだ。

 

 流石に今日は客の数が多く、途切れる事のない人の列をさばいているとまたまたフロアがざわつき始めた。見れば正面に見知った顔がずらりと三人列をなしている。

 

「あれ? 山田さんなんでそんな恰好で受付なんてやってるんすか? っていうか今日ライブですよね?」

 

「ああ、長谷川さん。それに本城さんに内田さんもどうも。これにはちょっと訳があってですね……」

 

 ヨヨコ先輩のノルマチケットの行き先は予想通りSIDEROSのメンバーだったようだ。SICKHACKといいSIDEROSといい今回のみのサービスとは思うが、それでも全員来てくれるとはありがたい事だ。

 

「ヨヨコ先輩に言われた通り、今日は山田さんのドラムを勉強させて貰うっす」

 

「頑張ってくださいね~」

 

「ふふふ……応援してるわぁ~」

 

 受付が終わると三人は俺に一言声をかけてフロアへと入って行った。前にあれだけ俺の事を避けていた内田さんは今では普通に接してくれるが、何故か立場が逆転して俺がタジタジになってしまっている。くそう……霊感少女はズルイでしょ……

 

 それからも受付業務を続けていると、ライブ開始の時間が来たのかようやっと人の波が一段落した。しばらくするとフロアの照明が落ちていよいよ一組目のバンドのライブが始まるようだった。

 

 一組目は俺達の事を知っていたバンドのようだ。受付の椅子に座って引き継ぎを待つ間、始まったMCを聞いていると随分と緊張しているように感じられた。もしかしたら二百人近い観客に緊張しているのかも知れない。

 

 流れて来るライブの曲を受付で聞きながら、落ち着いたとはいえぽつりぽつりとやって来る客の受付をして引き継ぎを待っていると店長が姿を見せた。

 

「店長、お疲れ様です」

 

「悪い悪い、ありがとな太郎。お前の受付結構好評だぞ、BoBがライブする時の恒例行事にしてもいいかもな」

 

「えぇ……」

 

 上々の客の入りの為か、大変そうだが上機嫌の店長がそんな事を言ってきた。確かにこのまま結束バンドと同日にライブをして、毎回同じくらい人が入るなら人手不足を補う為に受付くらいはやらないといけないかもしれない。

 

 おかしな恒例行事が誕生しそうな事に困惑しながら場所を譲ると、椅子に座った店長は頬杖をついて俺へと顔を向けた。

 

「毎回こんくらい集客できるならワンマンの方が良いんだけどな……」

 

「いやいや無理ですよ。って言うか集客云々関係無く俺達にワンマンは無理ですよ……三曲しか持って無いんですから……」

 

「だよなぁ……」

 

 対バン形式のライブは一組三十分、四組で二時間の予定だが、ワンマンになると文字通り一つのバンドで二時間演奏しなくてはいけないのだ。一曲五分だとして、MCを入れても最低十五曲程は持っていないと二時間は埋められない。

 

 残念そうな店長と別れてフロアへ向かうと、ステージから一番遠いバーカウンター付近に廣井さんとヨヨコ先輩が立っていた。二人して既にマスクにパーカーを着て準備万端だ。SICKHACKとSIDEROSの姿が見えないのは恐らく前の方で見ているのかもしれない。結束バンドの面々は出番が次なので楽屋で待機中だ。

 

「あ、来たわね……っていうか大トリの演者に受付させるってどうなってるのよ……」

 

「まぁいいじゃん~。お客さんのウケは良かったみたいだし」

 

「おかげでBoBライブでの恒例行事になりそうですよ……」

 

「えぇ……」

 

 ヨヨコ先輩は困惑していたが俺だって困惑しているのだ。だが廣井さんや店長が言うように覆面受付で喜んでくれるならまたやっても良いかもしれない。と言うか人手の問題でやる事になるだろう。

 

 そうこうしている内に一組目のバンドの演奏が終わり、転換時間を挟んで結束バンドの出番となった。FOLTで観客五百人のライブを既に経験しているとは言え、やはり二百人を超える観客を前にすると緊張した様子だった。

 

「ひとりちゃーん! 頑張ってー」

「ひとりちゃーん! 応援してるよー!」

「後藤ー!」

「ぼっちちゃーん!」

 

 一号二号さんに乗っかるように俺と廣井さんもひとりに向けて声を出す。俺は今日はBoBのドラマーとしてなので後藤呼びだが、一応左手首にピンクの結束バンドを巻いて他とは違うファンをアピールして応援している。

 

 BoBのドラムとベースが応援した事で観客が若干ざわついてひとりに注目が集まった。当の本人であるひとりは二百人近い観客に一斉に注目されて泣きそうな表情であたふたと周りを見渡していた。

 

 やはり観客の大多数がBoB目当てなのか結束バンドの演奏が始まっても大盛り上がり、とまでは行かなかったが、ちらほらと観客からポジティブな言葉が聞こえて来たのでここから結束バンドや今日一緒になった二組のバンドに興味を持つ人が増える事を祈るばかりだ。

 

 

 

 結束バンドの出番が終わり三組目のバンドがステージに姿を現すと、俺達BoBは結束バンドと入れ替わるように楽屋に入る事になった。

 

「お疲れ様です」

 

「あ、太郎君。いやーSTARRYでのライブなのに緊張したよ~」

 

「す、凄い数のお客さんでしたね……」

 

「これは今日の物販が楽しみ」

 

「ぼっちちゃんはこのまま残るんだよね。それじゃあ太郎君、それにぼっちちゃんも! 頑張ってね!」

 

 虹夏先輩達と言葉を交わして楽屋に入り、演奏中のバンドの音楽に耳を傾けて出番を待つ間俺は楽屋をきょろきょろと見回した。

 

「どうしたの? 太郎君」

 

「いや……そういえば俺STARRYの楽屋に入ったの初めてじゃないかなって……」

 

 隣に座ったひとりにそう答えると、ひとりは急に嬉しそうなモチモチした顔を披露した。

 

「わっ分からない事があったら何でも私に聞いて良いよ。私はもうSTARRYでのライブ一年近いベテランだからね……うへへ」

 

「マジすかひとりさん! あざーす! あっ! あの隅っこにある完熟マンゴーって箱なんなんすか!?」

 

「えっ!? あああああれは……」

 

 随分と大口を叩くひとりに適当に目についた段ボールの箱の事を聞くと急にしどろもどろになってしまった。ガスマスクをしている為表情は見えないが、ヨヨコ先輩は俺達の馬鹿みたいなやり取りを見て呆れた様に息を吐いた。

 

「全く……もう少し緊張感って物を……」

 

「そういうヨヨコ先輩は今日は大丈夫ですか? ちゃんと寝てきました?」

 

「うっ……」

 

 正直ライブの度に三日寝ないのは普通に体に悪いので何とかした方がいいと思う。廣井さんの飲酒と言い、なんでこんなに命を削りながらライブをする奴が多いのだろうか……これがロックなのか? 

 

「それにしても太郎君って緊張しないよね~」

 

「確かに、この心臓の強さは不思議だわ……」

 

 今まで話を聞いていた廣井さんが不思議そうに言葉を漏らすと、ヨヨコ先輩とひとりも同意するように頷いた。

 

「いや別に俺だって緊張はしてますよ」

 

「え~でもいっつも平気そうじゃ~ん。なんかコツとかあるの?」

 

 廣井さんは俺の言葉が信じられないのか唇を尖らせながら聞いてきた。

 

 しかし緊張しないコツか……別に俺は緊張していない訳では無い。ただ俺以上に緊張しているひとりがいるので、俺まで緊張していられないと言うのは有るかもしれない。二人して緊張でガチガチだとどうなるか分からないからな。だがそんな事より――

 

「緊張しないコツですか……まあ()いて言えばですね……」

 

「言えば?」

 

「天才ベーシストと天才ギタリスト二人がメンバーにいるって言う信頼感ン……ってやつですかね?」

 

 廣井さんなら俺がミスったとしても何とかしてくれそうだし、ひとりやヨヨコ先輩のギターテクニックがあれば客も満足するだろう。そう、ぼっちずなんて言ってるが俺達はチームで戦ってるんだ! 誰かがミスったら俺がカバーしてやるけど、俺がミスったら誰かカバーしてね! だから迷惑かけても全然大丈夫! 一蓮托生! 

 

 三人が見守る中俺がはっきりと言い切ると三人は俺に顔を向けて黙ってしまった。全員覆面で表情が見えないのがとても怖い。沈黙が楽屋を支配してライブの演奏がよりはっきりと聞こえて来る。

 

「な、なぁ~んちゃって~! 良い事言っちゃった~」

 

 気まずくなった俺がかつての廣井さんの真似をして誤魔化した瞬間、廣井さんが椅子から立ち上がって近づき俺の隣に腰を下ろした。狐面をしている為表情が読めないのが非常に怖い。ややあって廣井さんは急に肩を組むように腕を回して来た。

 

「はぁ~……悪い男だよこいつは……仕方ない……ぼっちちゃ~ん、太郎君貰ってい~い?」

 

「えっ!? だっ駄目です…………えっと……あっやめた方がいいですよ……」

 

「何言ってるんですか……ひとりも酔っ払いの戯言を……やめた方がいいですよ!?

 

 なんだこいつ!? すげぇ切れ味の言葉を放って来るじゃねぇか……いい度胸じゃねぇの(ザッ)思わず肩幅がでっかくなっちまうよ。

 

「そうですよ姐さん。やめた方がいいですよ」

 

「そうそう言ってやってくださいよヨヨコ先輩……やめた方がいいですよ!? 二度打ちはルール違反でしょ!?」

 

 俺が驚愕して二人を見ると、二人はふいと顔を背けた。おかしい……俺はメッチャ良い事を言った筈だったのに……そもそも何の話してたんだっけ? そうだ緊張しないコツだよ。なんで質問に答えた俺が傷ついてんだ? おかしいでしょ? 

 

 酔っているのか上機嫌でベタベタしてくる廣井さんを軽くあしらいながら俺は一つ咳ばらいをすると、大勢の前で実力が出せないひとりや、緊張を紛らわす為に酒を飲み始めた廣井さん、緊張の為三徹してくるらしいヨヨコ先輩へ向けて言葉を続けた。

 

「つまりですね、自分の努力も自信になりますけど俺は自分が別の大きなモンに支えられてるって思ってるんです。そう思えばちょっとは気が楽でしょう? ぼっちずなんて言ってますけど、俺達はステージの上では一人じゃ無い(・・・・・・・・・・・・・・)んですから」

 

 バンドは一人では出来ないのだ。別にBoBだけじゃ無くて全てのバンドで同じ事が言えるんだけどな! ぶっちゃけ責任転嫁とも言う。カッコつける為に黙っていよう。もう遅ぇけどな! ままええわ! 切り替えていけ。

 

 そうこうしている間に音楽が止んでいるのに気付いた。どうやら前のバンドが終わったようだ。しばらくすると演奏していたバンドが楽屋へと戻って来た。

 

「あ、BoBさん。全員撤収完了しました」

 

「お疲れ様です、分かりました。そんじゃあ行きますか」

 

 前のバンドと交代するようにステージへ向かう途中、ヨヨコ先輩は小走りで俺の横に並ぶとこちらに顔も向けず前を向いたまま小声で呟いた。

 

「……ま、まぁ一応信頼はしてるわ」

 

「あっはい。その代わり俺がなんかやらかしたら頼んますよ」

 

「ふんっ」

 

 転換時間を経てステージへ出ると大きな歓声が起こった。今までSTARRYで俺は向こう(・・・)側でひとりを応援していたのに、なんだか不思議な気分だった。

 

「おきくー! 来たぞー!」

「つっきーちゃーん!」

うおおおお! ごとり様ー!

「ひ……ごとりちゃーん!」

「太郎ー! おきくの制御方法を教えてくれー!」

きゃー! 太郎くーん!

 

 何か変なのが居ますね……廣井さんの制御方法なんか知らねーよ……俺に聞くな。まぁ強いて言うなら未成年を周りに置く事じゃないですかね? 今だってステージ上に酒を持ち込んでないし、明らかにSICKHACKの時より遠慮してるから。いつまで保つかは知らんけど……

 

 そんな事より俺への声援を送ってくれたのはおそらく渋谷女子二人(俺のファン)だろうか? 文字通り黄色い(・・・)声援が聞こえて来た事に気を良くした俺はドラムスティックをクルクルと回して答えてみる。

 

きゃー!

 

 気づけばステージの上の三人がこちらを見ていた。なんすか? ってか怖ぇーよ……なんで全員こっちを見てんだよ……目の前の自分のファンをもっと大事にしろ! 

 

 ステージ上の三人がちょっと怖くなった俺はさっさとライブを始める事にした。

 

「えー……ライブ告知が急だったにもかかわらず今日来てくれた皆さん、ありがとうございます。早速一曲目に行きたいと思います。一曲目は――」

 

 

 

 

 

 

 

 BoBが務めたアンコールを含めて全てのライブが終了すると、次は物販が始まるとの事で廣井さんとヨヨコ先輩は先に行ってしまった。BoBは物販で売る物など無いのだが、ファンとの交流って意味もあるとの事で俺も汗だくのシャツを着替えたら合流する予定だ。

 

「うへぇ~……汗すげーな……やっぱドラムってしんどいわ……」

 

「はい太郎君。タオル」

 

「おお、ありがとなひとり。お前は大丈夫か? 今日随分と演奏してただろ?」

 

「えっえっと……うん、大変だったけど大丈夫だよ」

 

「そっか、そういえば結束バンドの物販あるんだろ? 俺の事は放って置いて行っていいぞ。あ、ちゃんと覆面とパーカーは置いて行けよ」

 

「うっうん、じゃあ先に行くね」

 

 ひとりが出て行った楽屋に一人残された俺が早速パーカーを脱いでシャツを着替えていると急に扉が開いた。

 

「ちょっと太郎! いつまで着替えて……って、きゃあ!」

 

「うわびっくりした……ヨヨコ先輩、着替えるって言ってたでしょうが。急に入ってこないで下さいよ」

 

「だ、だって後藤ひとりが戻って来たから……ってそれはいいから、早く何か着なさいよ!」

 

 ガスマスクを着けている為表情は分からないが、ヨヨコ先輩は上半身裸の俺を見て驚いたのか少し背けた顔の前で両手をわたわたと動かしている。しかし自分から突撃して来たくせになんて言い草だ。まぁ一応文句を言ってみたが、別に見られても問題無いので気にせず着替えてさっさと廣井さんと合流する事にした。

 

「あ、来た……ってどうしたの(おお)……つっきーちゃん? なんかあった?」

 

「聞いて下さいよおきくさん。さっきつっきーさんが……」

 

「ちょっとぉ!? な、何でもないんです姐さん! おほほ……全く太郎ったら……」

 

 おほほって何!? って言うか誰!? こんな事言ってるけど滅茶苦茶言葉に怒気が混じってますよこいつ。こわいなーとづまりすとこ。

 

 隣を見れば結束バンドが物販を売り出している。デモCDとかガチの結束バンドとかメンバーの私物とかだ。更に隣では今日一緒した二組のバンドも物販を開いていて、Tシャツとかトートバッグとかリストバンドなどが並べてある。

 

「それでどうします? 俺達物販とか何も無いですけど? フリーハグでもします?」

 

「あははは! いいね太郎君!」

 

「あなた本当にぼっちなの? その行動力はどこから来るのよ……」

 

 俺は店長から貰ったガムテープにFREE HUGSと乱雑に書いて適当な長さに切ると、自分のパーカーの胸の部分に無造作に貼り付けた。とはいってもやるのは俺だけだ。男性客が多いから廣井さんとヨヨコ先輩はセクハラが怖いからね。

 

 そうこうしているうちに次々とBoBファンが寄って来た。俺はやって来るファンと話をしながらライブの感想や物販で欲しい物を聞いてみたり、希望する人がいればフリーハグをして交流してみる事にした。

 

 

 

「今日のライブ良かったです! 曲の配信とかしないんですか?」

「ありがとうございます。配信は考えてるんですけど、ちょっと先になりそうです。すみません」

「いえ! 応援してます! あ、ハグいいですか?」

「はいどうぞ」

「ありがとうございます。え? 欲しい物販ですか? そうですね……やっぱりメンバーと同じパーカー……と思ったけど、BoBのパーカーって市販品ですよね? ならTシャツですかね」

 

「おきくのパンクいけるやん!」

「ありがと~」

「あっ、いけるやんおじさんだ」

「おじさんちゃうわ! お兄さんや! えっ!? 今日はおきくとハグしてええんか!?」

「そんな訳無いでしょう。代わりに俺がやりますよ」

「そらそうか……ほんなら太郎でもええわ」

「ばっちこい」

「……おっ今なんかやってんの? スポーツ……すごいガッチリしてるよね」

「特にはやってないんすけど、トゥレーニングはし、やってます……ってうわああ! 急に標準語になるな! 怖ぇよ!」

「おおきに! やっぱし物販ゆうたらキャップやろ! BoBって書いてるキャップなら球場に被って行ってもバレへんか」

 

「つっきーさんのサイケ良かったです」

「どうも」

「あの……自分つっきーさんとハグいいすか?」

「駄目です。俺じゃ……駄目ですか?」

「その言い方気持ち悪いからやめなさいよ……」

「やっぱ駄目ですか……あっ!! じゃ、じゃあ太郎さんがつっきーさんとハグした後にハグお願いします!」

「は?」

「この短時間で間接ハグを思いつくとか天才かよ……しゃあない、つっきーさん俺と……」

「い、嫌よ!」

「嫌みたいです」

「あっはい……あっじゃあ太郎さんお願いします」

BoB(ウチ)のファンはあったけぇなぁ……」

「太郎君。君最初スルーされてるからね……? まぁ君がそれでいいならいいけど……」

「あざす。物販ですか? うーん……キーホルダーとかですかね? 普段から身に着けられるし」

 

「太郎君! 来ました!」

「あっ渋谷のお二人。ありがとうございます」

「ライブ良かったです、それにドラムも……って、えっ!? 太郎君がハグしてくれんの!? じゃ、じゃあお願いします!」

「うへへ、俺でよければ喜んで」

「太郎、あなたとは短い付き合いだったわね」

「ちょっとつっきーさん!? スマホをしまってください! 通報はやめて! じゃ、じゃあほら! 俺はこうやって手を広げて動かしませんから! さあどうぞ!」

「伊地知先輩ひとりちゃんの様子が!?」

「ぼっちちゃん顔ヤバイって……」

「それじゃあ失礼しまーす……あっなんかスポーツとかやってます?」

「トゥレーニングは……ってもうこのくだりさっきやったんですよ」

「さっきから何言ってるのよあなた……」

「太郎君ありがとー! 物販で欲しい物ですか? そうですね……あっ、BoBのロゴのタトゥーシールとかカワイイかも!」

 

「太郎さん! ごとり様はどこっスか!?」

「何よこの現代に似つかわしくない世紀末風貌の(やから)共は……」

「ロックだねぇ~」

「ごとりちゃんは飼ってる犬の散歩の為に先に帰りました」

「何!? それじゃあ仕方ねぇか……散歩は大事だからな」

「あなた達それで納得するの!?」

「ごとりちゃんへの声援なら伝えておきますよ。ってか大きな声で叫べば本人に届くんじゃないかな(隣にいるし)」

「マジっすか! うおおお! ごとり様のギター最高でした!」「ごとり様のギターリフ感動しました!」「ごとり様のチョーキング痺れました!」

「あばばばば」

「ひとりちゃん大丈夫!? しっかりして」

「はい、じゃあ伝えておきますねー」

「あ、じゃあ太郎さんハグおねしゃーっす」

「しゃあこい」

「あざっす! っておい見ろ! 太郎さん左手首にごとり様とお揃いのピンクのバンドをしてるぞ!」

「あっ……実は俺達結束バンドさんの後藤ひとりさんのファンでして……隣の物販で売ってますよ」

「マジっすか買いに行くぞ! すあっせ~ん! このピンクの結束バンド? おねしゃす……って五百円!?」

「きゃー! 伊地知先輩! ひとりちゃんが白目を剥いて気絶しました!」

「ぼっちちゃんしっかりして!」

「へいらっしゃい。今日は特別にサイン付は六百五十円だよ」

「いやいつもその値段でしょ!」

 

「やっほー太郎君。ライブ良かったよ」

「あ、一号さん。今日はありがとうございます……ってどうしました二号さん!?」

「太郎君さっきは女の子ファン二人に随分嬉しそうだったね……」

「へへ、そりゃ大事な俺のファンですからね……あ、勿論一号二号さんも大事ですよ、へへ」

「……騙されないからね?」

「何の話!? 別に騙してないですから!?」

「それより太郎君、なんで渋谷の路上ライブ教えてくれなかったの? 言ってくれれば見に行ったのに」

「いや、あれ道路の許可取ってないんで宣伝は無理ですよ……だから今後も路上でやる時は宣伝しませんから」

「えー……仕方ない、ジカちゃんに情報を流して貰うか……」

「ちょっと一号さん達内部に入り込み過ぎでしょ……スパイかな? でもBoBの活動はジカちゃん先輩にも伝えてませんからね」

「ちょ、ちょっと太郎君! ジカちゃん先輩言うなし!」

「じゃあ……はい」

「? どうしましたお二人とも。手なんか広げて?」

「いやハグしてよ!? フリーハグでしょ!?」

「ええ……まあいいですけど」

「へぇ、結構ガッチリしてるんだね太郎君。それで欲しい物販だっけ? そうだなぁ……やっぱりラバーバンドかな? 結束バンドの結束バンドと一緒に付けられるしね」

 

 

 

 そんなこんなで長かった物販も終了して観客が全員退場した後、最後に各バンドのノルマ代の精算が終わると結束バンドとSICKHACKとSIDEROSのメンバー、それに店長とPAさんなども誘って今日のライブの打ち上げに行く事になった。ちなみに他の二組のバンドには丁重に断られた。

 

「いよ~し! 打ち上げいこーぜー! 今日はBoBの奢りだよ~!」

 

「「ごちになりまーす」」

 

「廣井さんがあんな事言ってますけどいいんですかヨヨコ先輩?」

 

「ま、まあ今日くらいは良いんじゃないかしら?」

 

 今日の観客の内訳は、BoBが二百人で他の三バンドが合計で五十人だった。なのでBoBの取り分は、(集客200人-ノルマ20人)×(チケット代2000円÷2(チャージバック50%))=180000円という事になり、ここから機材のレンタル代などを諸々を差し引いて約十七万円だった。これをメンバー四人で割るので一人当たり約四万三千円の分け前だ。

 

 ただここで素直に四分割して全額分配するとレコーディングやらMV撮影やらの諸々纏まった出費が必要な時困るので、ある程度の金額をバンドのお金として俺が一括管理して残りを均等にメンバーに分配、BoB解散時には残ったバンドのお金を四分割して全員に返還する事に決定した。ちなみに一括管理金から打ち上げ代が捻出される。

 

 一応廣井さんにはくれぐれも酒代に使わない様に言っておいたし、ひとりに至っては継続的な収入があると本当にSTARRYでのバイトを辞めかねないので、おばさんを通して俺が責任を持って例の豚の貯金箱に全額入れておく事にする。

 

 ちなみにこれを毎月だと税金的な事が心配になった訳だが、必要になったらヨヨコ先輩が教えてくれるらしい。やっぱこの人マネジメント力すげーわ。

 

 打ち上げ会場は台風ライブの時にも行った居酒屋だ。今回は前回より成人が多いしファミレスなどより都合が良いのだろう。良いのだろうけど、結束バンド四名、SIDEROS四名、SICKHACK三名、他三名で十四人もいるんですけど!? 今日BoBの奢りってマジ? 大丈夫かよ……

 

 今回もひとりの近くに座ろうかと考えたが、これは結束バンドとしての打ち上げでもあるので俺は離れた端の方に一人座ると、テーブルを挟んだ向かい側に志麻さんが腰を下ろした。

 

「今日はお疲れ様です山田君。今回の演奏は前回のクリスマスライブより良くなってましたね」

 

「ありがとうございます志麻さん。分かります? この間店長にダイナミクス(音の強弱)に気を付けろって言われたんで、今回意識してみたんですけど……」

 

「なるほど、それでですね。確かに良くなっていたと思います」

 

 志麻さんと話していると志麻さんの隣に長谷川さんが座り、俺の隣に虹夏先輩が座って来た。

 

「私も話聞かせて貰っていいっすか?」

 

「あっあの、私もいいですか? なんだか勉強になりそうなんで」

 

 俺達ドラマー組が集まってあれやこれやと話していると、既に酒が入っているのか出来上がりつつある廣井さんがジョッキ片手に声を上げた。

 

「あ~! ドラマー四人が集まってる~! よ~しベース組も集まれ~! ベースの何たるかをこのきくりお姉さんが教えてやるぞ~」

「明日からまた野草生活だからここで食い溜めしておかないと……」

「こっちに屍骸の内臓(レバー)お願いしますぅ~」

「きゃー! 他のギタリストと普段あんまり話した事ないから楽しそう! 私達もギター組で集まりましょう! ねっひとりちゃん!」

「えっ!? あっ……はい……」

「イェイ! 今日は無礼講だヨ!」

「え~なんだか楽しそう~」

「ちょっ……私はそういう分け方は……」

「よし、私も昔はギターだったからぼっちちゃんと同じギター組に……」

「ちょっと先輩~。ベース組人数少ないんで入ってくださいよ~」

「うるせー〇ね」

「私はPAで楽器組じゃないんで……一番まともそうなドラマー組に……」

「お前もこっちに来てこいつを何とかしろ! 店長命令!」

「そんな~……」

 

 案の定ギター組は喜多さんと本城さんとイライザさんが楽しそうに話をしていて、ひとりとヨヨコ先輩は少し居心地が悪そうに料理を食べながら間を持たせている。ベース組はリョウ先輩も内田さんもマイペースで、廣井さんに店長とPAさんが振り回されているが、たまにはこういうのもいいだろう。

 

「今日改めて山田君のドラムを聴きましたが、山田君は演奏の引き出しが多いですね。パンクやメタルやサイケでそれに合った叩き方をしてます。どこかで習ったんですか?」

 

「いえ、ドラムは独学です。引き出しが多いのはアレかもしれませんね、流行りの曲はジャンルに拘らず片っ端から叩いてるんで」

 

「ドラムヒーロー……でしたっけ? 確かに色んなジャンルの音楽をやってましたね……廣井の演奏の質が良い方に少し変わった気がするのはBoBでの多彩なジャンルの影響があるのかもしれません」

 

「ああ、確かにヨヨコ先輩もBoBに入ってからなんだか変わった気がするっす。同じ曲でも演奏に幅が出て来たって言うか……」

 

「確かにぼっちちゃんも引き出し凄いもんね……本番ではアレだけど……一本調じゃないって言うか……」

 

「皆さんそう思ってるなら本人を褒めましょうよ……」

 

「「「絶対嫌(だ)(です)(っす)」」」

 

 渋い顔をして同時に否定した三人を見て思ってしまう。拗らせてんなーこのドラマー達。まぁひとりや廣井さんやヨヨコ先輩と全員癖の強い人ばかりだから気持ちはわかる……って全員俺のバンドのメンバーやんけ!? 

 

 改めて自分の集めたバンドメンバーの癖の強さに驚愕しながら、俺が台風ライブで廣井さんに鍛えられたお酌を志麻さんに披露しながら皆で話をしていると、不意に志麻さんが不思議そうにこちらを見て来た。

 

「でも残念ですね。BoBの実力と集客力ならワンマンも出来そうですけど……」

 

「そういえばあんなに集客できるのにワンマンじゃないんすね。なんでですか?」

 

 志麻さんの言葉を聞いて不思議に思ったのか長谷川さんが意外そうに訊ねてくる。

 

 受付時にも店長に話したが俺達は三曲しか持って無いのでワンマンライブはまだ無理だ。そもそもSIDEROSは一年でワンマン出来るほどの人気を得たらしいが、活動自体は三年前からしているので曲自体はストックがあったのだろう。俺達は結成半年、ヨヨコ先輩が入ってからだと三か月足らずなのでまだ始まったばかりである。正直ワンマン出来るまでの曲が貯まる頃には結束バンドやSIDEROSが人気バンドになってBoBは解散してるんじゃないかとさえ思っている。

 

 俺達BoBがワンマンライブが出来ない理由を説明すると長谷川さんは納得した様子だったが、志麻さんはなんだか考えこんでいる様子だった。

 

「それなら山田君が作曲してみるのはどうですか? そうすれば廣井の曲を待つ必要はありませんし、なによりあれだけ色んなジャンルの音楽を演奏できるならドラム以外の楽器の理解度も相当高いと思いますけど……」

 

 しばらくすると志麻さんから意外な提案が返って来た。すると今の話を聞いていたのか廣井さんの相手に疲れたのか、酒の入ったグラスを持って店長がこちらにやって来た。

 

「なんだか面白そうな話をしてるな」

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「廣井さんの相手お疲れ様です店長」

 

「そう思うんならお前が代わってくれよ……それより太郎が作曲するって?」

 

 言いながら虹夏先輩の隣に座った店長は、テーブルに頬杖をつきながら面白そうな物を見つけたようにこちらを見て来た。

 

「確かにお前が曲作れるようになった方が話は早いよな、BoBがワンマン出来るようになったらSTARRY(ウチ)としても助かるし。ドラマーでも作曲してる奴なんて沢山いるんだし……夏まで暇なら私が少し教えてやろうか?」

 

 志麻さんや店長からの提案に俺は考え込んだ。確かに理屈では俺が作曲すれば話は早い、だがひとりだって作詞はするが作曲はやっていないので、とても俺には出来る気がしないのだが……

 

「俺に出来ますかね?」

 

「まあこういうのは慣れもあるからな。すぐには難しいかも知れないけど、結局始めないと出来るようにはならないぞ」

 

 店長に不安気に訊ねると至極真っ当な返事が返って来た。そりゃそうだ、それに新しい可能性を探るとか言ってるBoBの理念的にも教えて貰えるなら勉強しておくに越した事は無いかもしれない。将来何が役に立つか分からないからな。

 

「う~ん……それじゃあ店長、お願いできますか?」

 

「おう。とは言っても結局はお前のセンス次第で、教えられるのは基礎的な事だけだけどな。まぁ頑張って早くワンマン出来るようになってくれ」

 

 俺が店長にお願いすると何とも謙虚な言葉が返ってきた。てっきり『私に任せれば問題無い』みたいな事を言って来るのかと思っていた。そんな店長の言葉を聞いて虹夏先輩がむくれたような声を上げた。

 

「えー! それなら私にも教えてよお姉ちゃん!」

 

「お前はもうちょっとドラムが上達したらな」

 

「むー!」

 

「ちょっと待ったーーっ!! タローの夏までの予定はネ! 私がもう予約済みなのヨ!!」

 

 俺達の話を聞いていたのかイライザさんがジョッキ片手に乱入してきた。なんか変な事を言ってるが夏までの予定を予約された覚えはないが、受付の時に言っていた話って奴だろうか? 

 

「いや初耳ですけど……そういえば俺になんか話があるんでしたっけ?」

 

「うんうんっ! きくりから聞いたヨ〜! ひとりとヨヨコが未確認ライオットに出るから、タローは夏まで予定がないってネ! 私、トゥイッターに投稿されてるBoBの路上ライブ見た時に、ビビッときたのヨ!! そして……今日のライブを見て、決めちゃったノ!!」

 

 突然乱入してきて座りもせずに興奮気味にまくし立てるイライザさんを俺達が呆然と眺めていると、イライザさんはその勢いのまま俺に向かってテーブルから身を乗り出して高らかに宣言した。

 

「タロー!! 私と一緒にアニソンコピーバンドやろうヨーー!!!」

 

「はぁ……アニソンコピーバンドですか?」

 

「そう! BoBは、フツーのバンドじゃやらない音楽やるバンドだって聞いたヨ!! だったらネ!? アニソン以上にピッタリな音楽、ほかにないでしょ〜〜っ!?!? ロックも! ポップも! メタルも! 讃美歌まで!?!? ぜーーーんぶあるヨ!!」

 

 イライザさんが言う事も一理ある。ギターヒーローやドラムヒーロー宛てに来る流行りの曲のリクエストはドラマや映画の他にはアニメソングが結構多い。イライザさんがどんなアニソンをやりたいのかは分からないが経験と言う意味では不足はないだろう。作曲にはいろんなジャンルの音楽を聴くのが良いとも言われているし、コピーバンドも面白そうではある。

 

「まぁ俺で良ければ構いませんけど……志麻さんはいいんですか?」

 

「構いませんよ。私はアニソンにはあまり興味が無いんで、山田君さえ良ければイライザに協力してやってください」

 

 イライザさんは初めて会った時もアニソンコピーバンドがやりたいと言っていたので、俺はてっきりSICKHACKのメンバーでやりたいのかと思っていたがそこにこだわりは無いらしい。ギターとドラムが決まって、俺が残りのメンバーを訊ねるとイライザさんは今までとは打って変わってとても困った顔で廣井さんを見た。

 

「まさか……」

 

「残念ながらネ……私たちに合わせられるベーシストの当て、他にいないノヨ……! でもでも!ダイジョーブ!! タローがいれば、きくりを制御できるって……もうバッチリ判明したから!!」

 

「いやそれは誤解ですよ……」

 

「え~なに~? 私になんか用~?」

 

「うわこっちくんな」

 

「先輩ひど~い! 今日は私達の奢りなんだぞ~」

 

「うるせぇな……BoBのリーダーは太郎なんだから実質太郎の奢りだろ」

 

 店長やイライザさんに続き廣井さんまで混ざって来て辺りが混沌の様相を呈してきたが、気にする事無く志麻さんと長谷川さんの間に座ったイライザさんに虹夏先輩が質問した。

 

「そういえばアニソンコピーバンドをするって言いましたけど……ライブとかするんですか?」

 

「わっ!! イイ質問だネ!! よくぞ聞いてくれました!! アニソンコピーバンドだけ集めたブッキングライブにも、もちろん出たいけど……! 私たちの最終目標は……ズバリッ!! 夏のコミマだよ!!!」

 

「コミマ? コミマってあのコミマっすか? でもコミマとアニソンコピーバンドってなんか関係があるんすか?」

 

 上機嫌に答えるイライザさんに長谷川さんが訊ねた。コミマと言ったら日本最大級の同人誌即売会でアニメとの繋がりも大きいが、アニソンコピーバンドとの繋がりは確かに謎だ。

 

 イライザさんは長谷川さんの疑問に勿体ぶったように得意げな顔で鼻を鳴らすと、満面の笑みで答えた。

 

「フッフッフッフッ……イイ!? 私たちが目指すのは、ただのアニソンコピーバンドじゃないノ! コミマで同人誌を頒布するついでに! ハイレベルなコスプレ披露して! 売り子もして! ライブの宣伝もして!! ——そしてそのまま、そのコスプレのまんまでライブハウスに降臨!! やるのはもちろん、ワンマンアニソンライブ!! つまりつまりネ!?!? ハイレベルなコスプレ×ガチ演奏、両方を実現させた——2.5次元・本格アニソンコピーバンド!! その名も……ッ!! 『Moe(萌え) Experience(体験)』!!!!』」

 

「「お、おお~……」」

 

 話を聞いた一同の困惑を意にも介さず一人で盛り上がるイライザさんを他所に、志麻さんは自分が巻き込まれなかった事に胸を撫で下ろし、虹夏先輩や店長、長谷川さんは何とも言えない視線を俺へと送って来た。よく分かっていないのは廣井さんだけだ。

 

 イライザさんのその自信満々な宣言と皆の気の毒そうな視線に俺は一転顔を顰めると、コスプレなどと言うまたぞろ厄介な事を引き受けてしまったと思いながらグラスに残っていた炭酸飲料を喉の奥へと流し込んだ。




 正直原作から外れるほど面白さに自信が無くなっていくのと書くのが難しい、更にノープランだからどこに向かってるの分からなくなってきて困る。

 主人公が自分のバンドを持っていない事が短所であるなら、長所はバンドを持っていない事によるフットワークの軽さだと思ったんです。あとは作者が原作であんまり交流の無いキャラ同士が交流する話が好き(今回のドラマー組とか)なので、コピーバンドのベースは内田幽々ちゃんでも面白そうとか考えてたんですが、SIDEROSはライオット出るんで……だけど正直コスプレ衣装制作に幽々ちゃん入れた話は面白そうって思ってます。予定は未定。

 コスプレだけど主人公の女装は無いです。
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