ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 すあせん! 投稿間隔が空いたのは飽きたとかでは全然無いんです! ただ今回の話原作のシーンに主人公突っ込んだだけだと劣化コピーだなって思うと上手く書けずに筆が進まなかったんです! 江ノ島階段の時もこんな気持ちでした! でもちょっと吹っ切れたんで次から頑張ります!


029 ゼロから始めるMV撮影

 BoBのSTARRYでの初ライブが無事終わり、その打ち上げでSICKHACKのイライザさんからアニソンコピーバンドのお誘いを受けてしばらく経った二月某日。遂に未確認ライオットのデモ審査に提出する新曲が完成したとの事で俺はひとりと共に虹夏先輩にSTARRYへと呼び出された。

 

「曲が完成しました!! 『グルーミーグッドバイ』」

 

 STARRYへ到着して早々フロアにあるテーブルへとみんなで集まり、そのテーブルの中央に置かれたノートPCから再生された新曲を聴き終わると、虹夏先輩が嬉しそうに声を上げた。

 

 ノートPCの傍に置かれた新曲の音源が入っているであろうCDの表面には、乱雑な文字で曲名である『グルーミーグッドバイ』と書かれている。

 

 『Gloomy Goodbye』を直訳すると『憂鬱な別れ』となり別れを惜しむ強い気持ちを表すらしいが、リョウ先輩の「陰キャな歌詞だけどサビはちょっと明るい感じ」や喜多さんの「何か爽やかでいい」と言う感想曰く、結束バンドと出会った事によるひとりの心の成長みたいな物がこの歌詞から感じられる気がする。

 

「へぇ~、確かに明るくて爽やかな感じありますね。ひとり、お前歌詞のレベル上がって来たんじゃないか?」

 

「!! うへへへ……あっいやー今回はインスピレーション湧いてきて一時間くらいで書けたよ……へへっ」

 

「いやなんでよりによって俺の前でそんな嘘を付くんだよ……お前がここ三日くらい徹夜してたの知ってるぞ」

 

「えっ!? なっなんで知って……」

 

 なんでも何も毎日顔を見てたら分かるだろ……何故バレて無いと思ったのか。しかしどうしてライブ前に三徹するヨヨコ先輩のような似て欲しくない所ばかり似てしまうのだろう? 普通に体に悪いからちゃんと寝なさい。ただでさえ俺達は通学の為に早く起きなきゃいけないんだから。

 

「まぁでもマジで良いと思うよ。中学の頃に丑三つ時に藁人形で呪ってやるとか書いてた人間とは思えないくらい前向きな歌詞だし」

 

「!? ちょ、ちょおぉ……太郎君……そ、そういう余計な事は言わないで……」

 

「はいはい二人共そこまで! 今日は曲も完成した事だしMVを撮ろうと思ってるんだから!」

 

 過去をバラされて恥ずかしそうに俺にしがみ付いて抗議して来るひとりの姿を見た虹夏先輩は一度手を叩くと、今日の本題であるMV(ミュージックビデオ)撮影の話を切り出した。

 

 本来関係ない俺が今回この場にやって来たのもMV(コレ)が目的だ。動画サイト等でお馴染みのMVだが、その撮影などどうするのか想像も付かない俺は将来BoBで必要になるかもしれない為見学させて貰いに来たのだ。

 

「やっとですね~! やっぱりMVがあるのとないのじゃ大分変わるんですか?」

 

「前にライブ映像をアップしてましたけど、アレとはやっぱ違うんですかね?」

 

 MVと聞いて出てきた喜多さんと俺の疑問に答えてくれた虹夏先輩曰く、今は動画サイトで音楽を探して聴く時代である事、MVがあるとよりバンドの世界観を伝えられる事、そして何より来るネット投票時により拡散され易くなる事が利点であると教えてくれた。

 

 確かに最近の音楽を聴くならサブスク配信か動画配信サイトが真っ先に候補に上がるだろう。特にインディーズで曲を配信していないバンドの曲を聞こうとすると、動画配信サイトかライブの物販のCDくらいしか選択肢がないかもしれない。

 

 動画配信サイトで音楽を聴く時も、MVがあった方が曲に入り込めるし、アー写やら文字だけの一枚絵の背景に曲が流れて来る動画より人に薦めやすいだろう。

 

「あとは音楽配信サイトにも曲を申請しよう! そういえばBoBは曲を申請したりしないの? あ、EP盤出すんだっけ?」

 

「あの~……EP盤ってなんですか?」

 

「あっ喜多ちゃんそういう質問は……」

 

 喜多さんからEP盤とは何ぞや? との質問が出た瞬間、虹夏先輩の静止も間に合わず、今まで我関せずと話を聞いていたリョウ先輩が己の間合いに入って来た獲物を狩る為にテーブルに身を乗り出した。

 

「EP盤って言うのは元々アナログ時代のシングル盤に由来する言葉でシングル以上アルバム未満の物を指す言葉。大体の傾向としてシングルは三曲までEPは四から六曲アルバムは七曲以上と考えられている。ちなみにEPとミニアルバムは基本は同じものを指すけれど違いに関しては作品全体でコンセプトがある場合はミニアルバムただ単に曲を並べている場合はEPと呼ばれる事が多い。他にはEPのほうが総尺が短いイメージで三十分未満のものがEP三十分を越えるものはミニアルバムと称している作品が多い。ただ三十分未満と言っても厳密に規定されている訳じゃなくて……」

 

「ス、ストーップ!! はいそこまで! 駄目だよ喜多ちゃん、隙を見せたらこんな風にガブリと食いつかれるんだから!」

 

「好きな物を熱く語る先輩もステキ……」

 

「無敵かこの人(喜多さん)……?」

 

 なんとか虹夏先輩がリョウ先輩の長文を中断させたが、止められたリョウ先輩はまるで堪えた様子も無く、反対に言葉の洪水をワッと一気に浴びせかけられた喜多さんは目をパチクリとさせて混乱しながらもうっとりした表情を見せていた。

 

「それでえっと……そうだ、EP盤出すって話だったっけ。時期が決まったら教えてね! あたしも楽しみに待ってるから!」

 

「あっはい。まぁ、まだちょっと時間掛かりそうなんですけど……」

 

 先程のリョウ先輩の説明にもあった通り、EP盤を出すには四曲以上必要なのであと一曲作らなければいけないのだ。だがそんな事よりも実はBoBはまだ一曲もレコーディングしていなかったりするので、EPとか以前に曲の配信自体現状不可能だったりする。

 

 レコーディングに関しても、お金はかかるがプロのエンジニアにお願いするスタジオレコーディングか、自分たちで録るセルフレコーディングか。セルフにしても宅録で録るか、スタジオで録るか。スタジオで録るにしても各パートごとに別々で録り重ねていく『ダビング』か、全員で集まって全パートを一気に録音する『一発録り』か。バンドメンバーと相談しないといけない事が沢山あり、しかもライオットもあるので中々時間が掛かりそうだ。

 

「確か結束バンドってレコーディングは一発録りでしたっけ?」

 

「そうだよ。本当はダビングが良いんだろうけど、お金がね……」

 

「あっあっ……そっそういえばどこの配信サイトに申請するんですか?」

 

 何気なく訊ねた質問が金欠の心を抉ったようで、遠い目をしている虹夏先輩に慌てた俺は、空気を変える為に適当な話題を振る事にした。金 金 金! バンドマンとしてはずかしくないのか! いやマジでお金かかるんですねバンド活動って……

 

 曲の配信場所と言っても様々あるようなので今後の参考に聞いてみると、虹夏先輩はおもむろにポケットからメモを取り出して恐縮した様子で書かれた内容を読み始めた。

 

「えっと……スポチファイが無理でもバインドキャンプゥなら審査が通りやすい……って大槻さんに貰ったメモに書いてある……」

 

「あの人親切過ぎませんか!?」

 

「ほんまヨヨコ先輩の優しさは五臓六腑に染み渡るで……」

 

 虹夏先輩が下北沢の天使なら、ヨヨコ先輩は新宿の天使ですよ。ちなみに下北沢の魔王(サタン)が店長なら、新宿の魔王(サタン)は廣井さんだね多分。知り合いが善悪入り乱れすぎてるだろ……

 

 それにしても喜多さんの言う通り、一応敵でもある結束バンドに色々情報を教えてくれるのはちょっと親切過ぎやしないだろうか? それとも結束バンドなぞ歯牙にもかけていないのだろうか? いや、多分ヨヨコ先輩の事だからフェアに戦いたいだとか、黙って見過ごせないだとかの人の良さから来る物だろう。

 

 自分の持ってる情報の価値が分からない訳でもあるまいに……まぁこの辺りが現SIDEROSメンバーがヨヨコ先輩の元を去らない魅力なんだと思う。あとはちょっと素直過ぎて心配になるからな、この辺の感じはひとりも似ているかもしれない。

 

「そういえばさっき太郎君が言ってた、前にアップしたライブ映像どうなってるかな? 一万再生くらいはいってんじゃない~~?」

 

「うおおお! やばい! ひとりが世界に見つかっちまう~!」

 

「きゃああ! まずいわ! リョウ先輩が世界に見つかっちゃう!」

 

「ちょっと二人とも落ち着いて……っていうかその心配はアップする前にこそすべきじゃないの? 何で今更……え~っとライブ映像ライブ映像っと……」

 

 先程俺が話題に出したからか、前回アップしたライブ映像を確認する為に虹夏先輩がノートPCを操作しているのを期待に胸を膨らませて見ていた俺と喜多さんは、画面に映し出されたライブ映像の再生数を見て驚愕した。

 

「千!!」

 

「……っかしーなぁ……動画を投稿してから今まで通信障害が発生してオーチューブにアクセス出来無かったって情報は無いですね……」

 

「何言ってんの太郎君!? 現実を見て! まぁこういうのはきっかけが無いとなかなか伸びないよ……」

 

 俺がスマホで確認しながら首をかしげると、虹夏先輩は俺を諭すように「現実を見ろ」なんて叫んだが、再生数が千という現実を見てダメージを受けているようだった。

 

 前にリョウ先輩に広告収入が入るくらい再生しておいてくれと頼まれて、俺も自宅にいる時はPCをつけっぱなしにして映像をループ再生をさせてかなり貢献していた筈なんだが……おかしいな? これ数字の後ろにKとかついていて、実際は百万再生とかじゃないの? 違う? マジで千再生だけ? 

 

 実はこの前のBoBのライブを店長に撮って貰っているので、BoBのオーチューブを作った折には結束バンドの真似をしてライブ映像を載せようと思っていたのだが、なかなかどうしてそう簡単には再生されないようだ。まぁなんもないよりはマシか。

 

「あっでも結束バンドの公式トゥイッターはフォロワー増えてるじゃん」

 

「あっ……はは……」

 

「皆喜多ちゃんの話しかしてないけど……」

 

「自撮り付きの方が反応多くってつい……」

 

 動画の現実から立ち直った虹夏先輩が結束バンドの公式トゥイッターを確認してフォロワーの増加を喜ぶと、喜多さんは気まずそうな笑いを溢した。見ればトゥイッターにはズラリと楽器を背景にした喜多さんの自撮りが投稿されていて、投稿に対する返信も喜多さんの肌の白さやアイシャドウのメーカーを訊ねるような美容アカウントの如き様相を呈していた。

 

「いや……でも喜多さん一人の自撮りでここまでフォロワー伸びるんだったら、結束バンド全員で自撮りしたら四倍いくんじゃないですか?」

 

「だーめーでーすー! わたし達はアイドルじゃ無くてロックバンドなんだから! それにぼっちちゃんやリョウは良いけど、あたしは……」

 

 結束バンドのトゥイッターを見て思いついた俺の適当な提案に自分たちはロックバンドだと主張して反対した虹夏先輩だったが、本音としては他三人と比べると容姿に自信がないのか少し困ったように呟いた。

 

「いやいや虹夏先輩も全然いけますって! きゃー虹夏ちゃーん! 世界一カワイイよー!(野太い声)」

 

「ちょ、ちょっと太郎君! えへへ……ま、まぁ太郎君がそこまで言うならちょっとくらいなら……」

 

 俺が虹夏先輩の呟きを否定するように気味の悪い黄色い声援を送ると、虹夏先輩は両手を顔の前でわたわたと動かしながら恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 

 ちょろい……ちょろすぎて心配になりますよクォレワァ……いやお世辞とかでは無くてマジで行けるとは思ってるけど、この丸め込まれる速さはちょっと心配ですよ。ひとりみたいなちょろさになっちゃってますよ虹夏先輩。

 

「はっ! ちっ違う違う! もー! とにかくMVだよ! 本当はMVにお金かけたかったんだけど、ちょっと無理なので自分たちで撮ります」

 

「でも、撮影なんて詳しくないあたし達だけで撮れますかね?」

 

 俺におだてられてにやけていた虹夏先輩は突如自分の浮かれポンチさに気が付いたのか、少し頬を赤らめながら慌てて本来の目的であるMV撮影の話へと軌道修正を行なった。そんな虹夏先輩の「自分達で撮る」との発言を聞いた喜多さんが少し不安気に虹夏先輩へと確認すると、その疑問は想定内だったのか虹夏先輩は自信満々で声を上げた。

 

「ふっふっふっ。そんなこともあろうかと超強力ゲストを呼んでるよ。じゃーん! 結束バンドファンのお二人です!」

 

「どもー、一号です」

 

「二号です~」

 

 虹夏先輩が自信満々に紹介すると、隣のテーブルに座っていた一号二号さんが待ってましたと言わんばかりに立ち上がって挨拶したので俺は胸を撫で下ろした。なにせさっきから誰も座ってる二人の事に触れないし、二人からも一切リアクションが無かったから、俺だけに見えてる生霊(いきりょう)かと思っていたのだ。

 

「やけに不安そうにチラチラこっちを見て来ると思ってたらそんな風に思ってたの!?」

 

 俺の不可解な様子に気付いた一号さんが不思議そうに俺に訊ねてきたので、心底安堵して語った俺に二号さんがさも心外そうに叫んだが、出来れば許して欲しい。

 

 新曲を聴き始めてから今まで随分と話していたが二人があまりにも何も言ってこないので、生霊を疑った俺は恐怖のあまりずっとひとりの傍に張り付いて離れられなかったのだ。最近は内田さんの登場でこういう事にちょっと過敏になっているのかもしれない。

 

「それで超強力ゲストってどういう事ですか? もしかして、知らない間に結束バンドの株式の五十一パーセント以上を保有してて、経営に口出ししてきた感じですか?」

 

「それじゃあゲストじゃなくて面倒くさい株主じゃん!? 実は私たち、美大の映像学科生なんだよ」

 

「前に遊んだ時に作品見せてもらったけど、プロと遜色ないの作ってるんだよ!」

 

「ジカちゃん褒めすぎだよ~」

 

「へぇ~……えっ!? ジカちゃん先輩一号二号さんとプライベートで遊んでるんですか!?」

 

「そうだよ! ってジカちゃん先輩いうなし!」

 

 はえ~、道理で前のライブの物販で仲良さそうな感じだった訳だ……っておいひとり、お前ファン取られてるぞ!? いや、箱推しって奴なんだろうが、やっぱり陽キャのコミュ力には勝てなかったよ……

 

 見ればひとりも一号二号さんがいつの間にか自分より虹夏先輩と仲が良い事に気づいたのか、ショックを受けているようでリョウ先輩に慰められていた。俺も自分のファンである渋谷女子二名が廣井さんあたりにNTRたら生きていけないので気持ちは分かる。仕方ない、後でファ〇チキとコーラを奢って慰めてやることにしよう。

 

 学生とは言えプロと遜色ない作品を作っているなら、MV撮影依頼のお値段はさぞお高いのだろうと思いきや、超強力ゲストの名は伊達ではなく、好きなバンドと関われるだけで嬉しいとの事で報酬は結束バンドとの食事で良いらしい。まさかJOJO苑に行く訳でもないだろうから、かなりお安く請けてくれるようだ。BoBのMVも撮ってくれないだろうか? 

 

 そういえば一号二号さんは前回のライブの打ち上げも誘う前に帰ってしまっていた。これくらいの距離の近さならしれっと打ち上げに紛れ込んでいても誰も何も言わなそうだが、その辺りは二人の決めたルールがあるのだろう。

 

 報酬の話が纏まると、虹夏先輩は傍に置いてあった高そうなカメラを大事そうに両手で抱えて見せてくれた。どうやらそれで撮影するらしい。MVを撮影するカメラや機材に関しても既に用意は出来ているようで、STARRYで使っている結構いい機材を店長に借りたみたいだ。

 

「えっ店長よくそんなの貸してくれましたね!」

 

 虹夏先輩の説明を聞いた喜多さんが驚いて声を上げると、いつものようにバーカウンターに座っていた店長へと皆の視線が一斉に集まった。

 

「好きなだけ使っていいぞ……他にも困った事があったら言えよ……」

 

 喜多さんに名前を出された店長は半身(はんみ)になってこちらへ振り向いた。なんとなく上機嫌な雰囲気の店長は皆に見つめられる中改めて機材の使用許可を出すと、再びバーカウンターへと体を戻した。

 

 気味の悪い程の店長のやさしさに一同驚いていたが、俺が思うに普段はツンケンしているが、やはり妹である虹夏先輩がかわいいのだろうと思う。常に一枠空けていたライブオーディションといい、店長は身内にゲロ甘だからな。

 

 なんて思っていたのだが、後でPAさんに聞いた話によると虹夏先輩の事も勿論あるが、結束バンドに釣られた形で参戦したBoBの収益が予想以上だった事(これからの継続的なライブを含めて)に気分をよくして判定が甘くなったんじゃないかとの事だった。身内を応援する美談じゃねぇのかよ……この話聞かなかった事に出来ませんかね? 

 

 改めて機材の使用許可が下りると、虹夏先輩がいつも結束バンドの会議で使うホワイトボードを持って来た。一号さんが司会進行という形でホワイトボードの前に立ち、まずはどんなMVにするのかという企画会議という事で、新曲でありデモ審査に提出する『グルーミーグッドバイ』に関するイメージの模索から始める事になった。

 

 曲に関してはエモいや切ない、歌詞に関しては思春期や葛藤などのイメージを各々で出し合ったが、中々これと言ったMVのイメージが纏まらずに会議が停滞し始めた頃、虹夏先輩がリョウ先輩に意見を求めた。

 

「そういえばリョウは結構バンドのMVとかチェックしてるでしょ? 何かお決まりのやつとかないの?」

 

「……特に関係ない女が出てきて、泣くか踊るか走ってる」

 

「あ~見るわ」

 

「見ますね。俺がこの間見たのも走ってました」

 

「あれ何で走るんだろうね?」

 

「やっぱ疾走感とかじゃないですか? あとイライザさんが『EDで走るアニメが神アニメなら、MVで走るバンドは神バンドなのデハ!?』って言ってました」

 

「……なんで?」

 

 イライザさんとはMX(Moe Experienceの事。多分そうだろうと思っていたが本人曰くBoBに対抗してjimi hendrix experienceからパクっているらしい)の件もありロインを交換したのだが、イライザさんは結束バンド……正確には結束バンドのジャンプアー写が琴線に触れたらしく(きららジャンプ? だと言って興奮していた)、今日のMV撮影の事を伝えると興奮気味に「とにかく走らせろシンイチ」と言っていた。

 

 全然関係ない話だが、前回の打ち上げの時にこれからも俺が廣井さんとつるむなら連絡先を交換しておこうと言われて志麻さんともロインを交換した。これによりSICKHACK全員の連絡先が俺のスマホに登録されたのだが、大丈夫? 俺このままSICKHACKに取り込まれたりしないよね? 

 

「ま、まあ走るのは大変そうだし泣くのもアレだから、皆で踊るMVとかにする?」

 

 確かに去年の江の島階段を思い出すと喜多さん以外走るMVなんて撮れないと思う。それでも走るMVを撮るんなら喜多さんに全力で下北沢のどっかにある坂を駆け上って貰うしかねーな。

 

 虹夏先輩も恐らくそういった諸々の事情を鑑みて踊るMVを提案したのだろうが、そういう事が一番得意そうな喜多さんから意外な答えが返って来た。

 

「私ダンスとか振り付けあまり得意じゃないですけど」

 

「大丈夫、どのMVも一夜漬けみたいなキレのないダンスしてるから」

 

「ちょっとリョウ先輩……なんで全方位に喧嘩売るんですか……」

 

「え~ちょっとわからないなぁ。こんな感じ? K-POPみたいな」

 

「喜多ちゃんめっちゃキレキレじゃん!!」

 

「いいダンスしてんじゃないかよ。パラパラだろ?」

 

「いや違うわよ!? 私、いまK-POPって言ったでしょ!?」

 

 え? そうなの? っかしーなぁ……国民的キャラクターである小学生探偵も踊ってたらしいんだけど……まあ後二年くらいしたらまた流行の最先端になりますよ。多分。

 

 しかし分からないとか言いながらあんなキレキレのダンスを披露するなんて、こいつやってんな~。喜多さんも意外とそういう所あるんですね。なんかちょっと親近感みたいなの出てきましたよ。

 

「でも喜多ちゃんのダンスはちょっと難しそうだな~……ぼっちちゃんは何かある?」

 

「えっ……あっ……」

 

 世界大会に出るボディビルダーの筋肉の如きキレ味の喜多さんのダンスを見て、流石に全員でアレを踊るのは難しそうだと判断した虹夏先輩がひとりに意見を求めた。

 

 突然話を振られた事で驚きに肩を跳ね上げたひとりは、軽いパニックになりながらも自分の出来るダンスを披露しようと思ったのか、おもむろに椅子から立ち上がった。

 

 ひとりは崩壊した顔面のまま右足を踏み出して中腰になると、両腕で何かを持つような構えを取り、その手に持った見えない道具で何かを掬うように腕を前後に動かし始めた。

 

「いいゾ~これ。島根県から案件とれるぞひとり!」

 

「それ、ドジョウ掬いじゃん! 案件なんて取れないから! っていうか取らないよ! わたし達はロックバンドだからね!」

 

 俺は喜多さんのダンスにも引けを取らない動きの切れ味を見せるひとりのドジョウ掬いをスマホで撮影していたのだが、どうにも虹夏先輩はお気に召さなかったようだ。

 

「あ……もしかして虹夏先輩苦手でした……? 島根県」

 

「流石にドジョウ掬いは……って急に島根県に喧嘩を売るのはやめて!? も~! ダンスはやっぱり無し!」

 

 何が気に入らなかったのか、憤懣やるかたない虹夏先輩の怒号によってダンスMVはお流れとなった。

 

 そんな光景を見ながら、司会進行役である一号さんはホワイトボードに『ダンス』と書き加えながらも先行きが心配そうに皆に他のアイデアを訊ねると、しばらくして何事か思いついたのかリョウ先輩がひとりを見た。

 

「ぼっちの家、犬いたよね。そいつを使おう」

 

 リョウ先輩が言うにはこの世に動物ほど簡単にバズるものはないので、演奏シーンなんかよりずっと犬の映像を流しておく方が再生数が稼げるとの事だ。たしかに動物と子供とおばあちゃんは三大バズるものと聞いたことがある。あれ? おばあちゃんじゃ無くて食べものだっけ? ままええわ。 

 

 そんな事で再生数を増やしても意味が無いと必死に止める虹夏先輩を他所に、ひとりも俺と同じ情報を知っていたのか子供もセットにしたらもっとバズると主張して妹であるふたりちゃんを出演させようと提案した時、突如俺の頭にアイデアが舞い降りた。

 

「ふたりちゃんとジミヘンでちょっと思いついたんですけど……」

 

「太郎君……今度はどっかに喧嘩売らない?」

 

「いや、元からどこにも売ってませんよ……それでMVなんですけど。時は20××年、核戦争で荒廃した世界をシェルター内で生き延びていたふたりちゃんとジミヘン扮する少女と犬が壊れかけのラジオを見つけて、そこから今回の新曲が流れて来るんです。ラジオの内容からそれが生放送だと知った少女と犬はその曲を演奏している生存者を探す為にシェルターを出て荒廃した世界に繰り出すっていうMV……」

 

「Fall〇utじゃん!」

 

「ちなみに犬の名前はドッグミ……」

 

「それF〇lloutじゃん!? しかもちょっと面白そうなのがなおさら腹立つ!」

 

「あ……虹夏先輩苦手でした? ベセス……」

 

「山田ぁ! もう喧嘩売らないって言ってたでしょ!?」

 

 俺の提案したMV内容を聞いた虹夏先輩はえらく興奮した様子で叫んだ。途中俺に対しての怒りで叫んだ苗字でリョウ先輩の肩が跳ねていたので悪い事をした気もする。

 

 興奮して荒い息遣いだった虹夏先輩は深呼吸を二、三度行なって呼吸を落ち着けると、ふと何かを思い出したようにひとりへと向き直った。

 

「そういえばぼっちちゃん、ギターヒーローアカでは再生数持ってるけど何かコツとかあるの?」

 

「俺はですね……」

 

「太郎君には聞いてません!」

 

「そんな~……俺だってドラムヒーローですよ? はぁ~……ドラムヒーローさんはこんな事言わない……とか言ってたジカちゃん先輩が懐かしいなぁ……」

 

 俺は机に頬杖をつくと、台風ライブの打ち上げで遭遇したサラリーマンの様な遠い目をして呟いた。だが虹夏先輩は俺の言葉を聞いても耳まで真っ赤にして震えるだけで、ツッコミもなければ振り向く事さえしなかった。どうやら徹底抗戦の構えらしい。

 

 ひとりは虹夏先輩や不貞腐れたフリをする俺の様子をチラチラと横目で窺いつつも、律儀に質問に答えている。

 

 再生数を上げる為に俺達がやったことは単純で、タグ付けを沢山するだけだ。だがひとりの演奏動画についているタグの#胸キュンとか#キュンキュンとかはまぁ分かるのだが、#ネギ塩カルビってタグだけが未だに意味が分からなくて怖い。一体どっから出て来て、誰に向けているタグなんだこれは……

 

 ひとりから話を聞いた虹夏先輩は、今まで出てきた情報が書かれたホワイトボードを見ながら頭の中を整理するように一つひとつ声にだして読み上げた。

 

「じゃあ総合すると、サムネは動物と子供で釣って。タグも引っかかりやすいのつけて……」

 

「動画タイトルは『荒廃した世界で生き残った私のペットが実はフェンリルだった件~外の世界でも余裕で生存出来るのでのんびりラジオの演奏者を探します~』で」

 

「リョウ先輩! せめて曲名だけは残してください!!」

 

「逆に曲名だけ残したら喜多さんはそのタイトルでもいいんですか……」

 

 ぐだぐだなまとめになったので更にアイデア出しを続けるのかと思いきや、虹夏先輩達はそのまま次の議題である浜辺やらネオン街やらと、お金のかからないロケ地の相談を始めてしまった。

 

 それに驚いた二号さんが慌てた様子でさっきの案が採用されたのか俺の耳元で囁いて確認してきたが、そんな事俺が知りたいくらいだ。そもそも『動物と子供で釣って』なんて発言が出て来る虹夏先輩も既に相当毒されている気がする。

 

 虹夏先輩がロケ地として去年の夏休みにみんなで行った江ノ島を候補に挙げると、喜多さんがいいMVを思いついたと楽しそうに声を上げた。陽キャに海……その組み合わせを理解した瞬間――猛烈に嫌な予兆を感じ取った俺は椅子から立ち上がると、掃除用具入れへと駆け出した。

 

「おいどうした太郎!?」

 

「すあせん店長! バケツ借ります!」

 

「高校生カップルが浜辺デートで喧嘩してるんですけど。私たちバンドの演奏を観て、なんやかんやで仲直りして。それで曲の終わりにキス! それを祝福する結束バンド! みたいなのよくないですか!?」

 

 よくないですよ。むしろ隣で苦しそうにしているひとりちゃんの顔をよく見て下さい。

 

 目を輝かせて興奮気味に自らの考えたMV内容を話す喜多さんの声を聞きながら、俺は掃除用具入れからバケツを取り出すと、急いでひとりの元へと向かう。見れば喜多さんの話を聞いているひとりの頬が見る見る内に膨らんでいっている。おいひとりもうちょっとだけ我慢しろ! 前科二犯になるぞ! 

 

「あっいいと思いまっ」

 

「ヘイお待ち!」

 

おぇっ ぼろろろろろろろ

 

「キャー! 汚い!!」

 

「全力で拒絶反応が!!」

 

 俺の差し出したバケツが寸での所でひとりの吐瀉物を受け止めた。ひとりじゃなければ思わず貰いゲロをしてしまいそうな近さでの嘔吐だ。背中をさすってやるが、酸っぱい匂いに思わず顔を顰めてしまう。

 

 危なかった。第六感が無ければ間に合わないくらいギリギリだった……これも昔に家にあったマイ〇ドシーカー(超能力を開発するというテーマのゲーム)をやりこんだ成果だろうか? 友人がいないからやりこんでいたあの日々は無駄じゃ無かったんだな……しかしこいつは廣井さんとは別の意味でエチケット袋を持ち歩いた方が良いんじゃないだろうか……

 

「いっいつもごめんね太郎君……」

 

「それは言わない約束でしょ、ひとっつぁん」

 

「なんでこの二人こんな時だけ息ぴったりなのかしら……」

 

「これが幼馴染の絆って奴ですよ。それにしても喜多さん、あんまり恐ろしい事を言わないでくださいよ」

 

「核戦争で荒廃した舞台を提案する山田君には言われたくないわ……でも私、そんなに変な事言ったかしら?」

 

 俺に背中をさすられていたひとりが喜多さんの提案したMVの内容に血の涙を流しながら愛想笑いを浮かべるのを見て、一号二号さんはこのままだといよいよ収拾がつかなくなってきたのを感じたのか、結束バンドのメンバーに楽器と衣装を持たせるとSTARRYの外へと放り出した。

 

「もう、私が全部決めて撮るんで言う通りにしてください。バンドマンは大人しく楽器だけいじっとけばいいんですよ」

 

 普段からは想像もつかないような声色で、顔に青筋を浮かべた一号さんの怒気に気圧された結束バンドのメンバーは大人しく従う事にしたようだ。その後一号二号さんの考えた撮影場所である公園へと案内されたので、俺もドラムセットの運搬要員としてついて行く事になった。

 

 公園に着くと、結束バンドのメンバーは一号さんからカメラを気にせず自然体で遊んでいてくれと頼まれて公園のあちこちで皆思い思いに過ごしていた、そんな中ひとりは木の陰で所在なさげに座っている。確かに自然体と言えば自然体だが……

 

「どうしたひとり? 公園デビューに失敗した子供みたいになっちゃってるぞ」

 

「……あばばばばば」

 

 まずい、公園デビューに失敗って単語がまずかったのだろうか? なにやらトラウマを思い出したのかひとりがバグってしまった、こいつ一体過去に何があったんだよ……こういう時は楽しい事で上書きせねばならない。何かないだろうか? 楽しい事楽しい事……

 

 なんとかひとりを元に戻す為に辺りを見渡して面白そうな事を探していた俺は、カメラに向かって喜多さんが両手を頬に添えている姿が目に入った。流石陽キャの喜多さんだ、まさかあんな面白そうな事をしているとは……

 

「おいひとり喜多さんを見てみろ! 首が落ちるマジックをやってるぞ!」

 

「そんなの出来ないし違うわよ!? これは小顔効果……じゃなくて虫歯ですっ!」

 

 それはそれでこんな所でMV撮ってる場合じゃないでしょうが、撮影終わったら早く歯医者に行きなさい。

 

 しかし木陰に体育座りをして土をいじるというひとりのあまりの画面映えの悪さに一旦撮影を中断すると、ひとりの周りに皆が集まって原因の究明をする事になった。

 

「ひとりちゃんいつも猫背で俯いてるから映りが悪いだけじゃないの?」

 

「二重顎になっちゃうからどう撮っても可愛くはならないわよね」

 

 はぁー!? ウチのひとりちゃんはどんな格好でも世界一可愛いんですけどぉ!? 素人は黙っとれ。君たちにはこのレヴェルの話はちょーっと早かったかなぁー。

 

 俺が一人で後方腕組ナントカ面しながら憤慨していると、喜多さんがひとりの姿勢を矯正し始めた。猫背や巻き肩を正して真っ直ぐに立たせて、顎を引いて少し顔を上げさせると――

 

 うおっまぶしっ。ひとりからなんか変なキラキラエフェクトが出てますよ!? なんですかこれ怖ぁ……でもメッチャイケメンじゃないですかひとりさん! 

 

 戸惑いながらも正しい姿勢でこちらを向いたひとりの端正な顔立ちを見て、俺と喜多さんは思わず外人四コマみたいに両手でガッツポーズを取るリアクションをしてしまった。なんだこいつ顔が良すぎるだろ……

 

「あっなっ何か変わります……? って、どっどうしたの二人とも」

 

「アイドル事務所に入れると思わない山田君!? ビジュアル担当で売り出しましょうよ~~!」

 

「これは日本一……いや世界が狙えますよ喜多さん! っておいひとりどうした!? 下を向くな! 猫背になるな!」

 

「ああ……ぼっちちゃんが心を閉じて……」

 

 結局付け焼刃の矯正なぞ長時間もつ筈も無く一瞬で元に戻ってしまったので、いつも通りのひとりと結束バンドでMV撮影を再開して無事終了した。

 

 後日、グルーミーグッドバイのMV完成の知らせが届いたので早速視聴してみた。映像的にはかなりシンプルな物だったが、結束バンドの魅力を十分に伝える物だと思う。

 

 だがMVを何度も見返す内にある事に気付いた俺は、同じ事に気付いた虹夏先輩と共に監督である一号さんに思い切って質問してみる事にした。

 

「ぼっちちゃん演奏シーン以外居なくない?」

 

「演奏シーン以外ひとりが居ない気がするんですけど……」

 

「映えないんで全カットしました!」

 

 無慈悲な一号監督の言葉に俺は泣いた。

 

 まぁでもね、あんなスタイル抜群超絶イケメン美少女が世界に見つかったら一瞬でトップスターだからね。だから悪いけどまだしばらくは俺の気安い幼馴染でいてくれよひとり。




 正直オリジナルエピソードの方が面白さ問わなければ書きやすい感ありますねぇ! 原作を読んでるとどうしても引っ張られると言うか、勝手に削った個所が後で重要シーンだったとかがあると怖いんですよ……ただでさえこの小説の廣井さんとイライザさん関係の設定を、廣井さんのスピンオフ漫画で後ろから刺されないか心配してるのに……
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