ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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バイト回は金銭が発生していると思うとあんまりふざけた事書けないので短め。


003 初バイトの話

 虹夏先輩からSTARRYバイト合格連絡を受け取った俺は、(きた)るバイト初日にひとりと共にSTARRYへと訪れた。

 

 あれだけ嫌がっていたひとりも覚悟を決めたのか、特にぐずることも無くすんなりとSTARRY前までやって来た。のだが、今日はひとりに先に入る様に言って後ろに控えていると、ひとりは扉の取っ手を掴んでまるで石像の様に動かなくなってしまった。

 

「おい、まだか?」

 

「ちょ、ちょっと待って。もうすぐ、もうすぐ絶対入るから……」

 

「チケットの販売は五時からですよ。まだ準備中なんで」

 

「ひいぃ!」

 

 しばらくひとりが沈痛な面持ちで扉の前で立ち尽くしているのを俺がせっついていると、後ろから女性の声が掛けられてひとりが飛び上がった。振り返ると女性は訝しむような視線を俺達に向けていた。完全に不審者扱いである。

 

「あっうぇ……ちちち違……いったんおちおち、落ち着い……」

 

「あっすみません、俺達今日からここでアルバイトさせて貰うんですけど……」

 

「えぇ? ……ああそういえば虹夏がそんな事言ってたわ」

 

 暴走しかけたひとりを遮って慌てて弁明した俺の言葉を聞いた女性は、どうやら虹夏先輩から聞いていた何かを思い出して納得がいったようで先程よりも少し雰囲気を柔らかくして、気だるそうに俺達二人の横を通り過ぎて扉を開いてこちらを見た。

 

「じゃあとりあえず中に入って」

 

 そう言って扉を潜った女性に続くように、すっかり怯えてしまったひとりを背中にくっつけて俺もSTARRYへと入っていった。

 

 女性はドリンクカウンター前の椅子に座ると紙パックのジュースにストローを差しながらこちらへと向き直った。

 

「あたし、ここの店長だから、よろしく」

 

「……ってことは、虹夏先輩のお姉さんですか?」

 

「あ? 虹夏に聞いたの?」

 

 俺がなんとなく聞いてみると、睨むような、眠そうな様な目でこちらを見てきた。

 

「はい、連絡貰った時に聞きました」

 

「に、虹夏ちゃんのお姉さま!?」

 

 ひとりが驚いた事に俺が驚いた。いやなんでお前が驚くんだよ、多分どっかで虹夏先輩から説明されてるぞ。

 

 店長は俺の隣で緊張の為かウネウネとせわしなく動いていたひとりを見て、少し悩んでから思い出したように言った。

 

「あれ? って言うか段ボールに入ってライブしたギターの子じゃん……確かマンゴー仮面」

 

「マンゴー仮面?」

 

 俺が疑問を抱きながらひとりを見ると、何故かひとりは店長のマンゴー仮面呼びにいたく感激していた。

 

 もしかしてひとりはマンゴー仮面と言うニックネームでバンド活動する気だろうか? 流石にそれはダサい気もするが、あえて外したイカす名前だったりするんだろうか? それよりも俺は段ボールに入っていた事の方が気になるんだが……もしかしてライブパフォーマンスってやつだろうか? なんてことだ、ひとりの奴演奏だけでなくもうライブパフォーマンスまで完備してるのかよ。ホンマひとりさんの向上心は冬の八甲田山並みやで! しかし段ボールに入ってやるパフォーマンスってどんなものだろう……

 

「そんな名前じゃないでしょ、お姉ちゃんも適当なあだ名つけないでよー」

 

 ひとりのパフォーマンス内容を聞こうとした所で背後から虹夏先輩の声が聞こえて来た、どうやら俺達が店長と話している間にリョウ先輩と二人で入って来たらしい。

 

「ここはお姉ちゃんがやってる店だから、そんな緊張しなくていいよー」

 

「ここでは店長って呼べ、あと仕事に私情を挟むな」

 

 ひとりの緊張をほぐそうとして言った虹夏先輩をやんわりと(たしな)めた店長はそのままノートパソコンに向き直った。ライブハウスの店長と聞いてクールな感じを想像していたが、今飲んでいる紙パックジュースの名前を見る限りそういうのが好きなんだろうか? 今度なつかしの味で健康サポートするマ〇ーでも差し入れてみようかな。

 

 そうこうしている間にそのままバイト開始の時間となり、結局ひとりのライブパフォーマンスについては聞けずじまいだった。くそう、これが円盤には収録されないライブだけの特典って奴か。

 

 俺達の様な新人バイトの仕事は清掃や機材の片づけ、ドリンクスタッフに受付くらいらしい。照明や音響などの仕事もあるがこちらは専門的な知識が必要なので専属スタッフが行うとの事だった。

 

 テーブルを片づけてからの掃き掃除が終わり、ひとりは虹夏先輩にドリンクの仕事、俺はリョウ先輩に受付の仕事を教わる事になった。

 

「多分この仕事は太郎の担当になるだろうから頑張って覚えてね」

 

 俺はひとりのおまけで雇って貰っているので、基本はひとりと同じシフトで働くことになる。虹夏先輩は大体いるらしいがリョウ先輩は毎回いる訳では無いので、虹夏先輩俺ひとりの三人の場合、スペース的にも一人で行う受付業務は確かに俺の担当になりそうだった。

 

 そうリョウ先輩に言われて受付の仕事を教えてもらったが、受付の仕事はざっくり言うと客から来店した目的のバンド名を聞いてチェックを入れ、ドリンク代とチケットを受け取り、チケットをもぎって半券とドリンクチケットを渡す仕事……らしい。

 

 ドリンクカウンター付近から途中で聞こえて来るギターの音や虹夏先輩の叫び声に不安を感じながら一通り受付のやり方を教わった後は自分が客の役になったり、リョウ先輩に客の役をやってもらったりして仕事を覚えていた。

 

 内容自体はそれほど難しい物ではなかったので早々に手持無沙汰になってしまい、なんとなく居心地の悪さを感じているとリョウ先輩が話しかけてきた。

 

「太郎はバンド組むの?」

 

「えっ? バンドですか?」

 

 リョウ先輩の唐突な質問の意味が分からず思わず素っ頓狂な声で聞き返してしまった。

 

「そう、この間のバンド活動会議で熱心にメモ取ってたから」

 

「ああ、なるほど。メンバーに当てがないんで組めるかは分からないんですけど……ひとりがバンド始めたって聞いてちょっとやってみたくなりました。といってもまだ何も決まってなくて、前のメモも将来の為の勉強って感じです」

 

 リョウ先輩はこの間の俺が色々とメモっていたことを見ていたらしい。納得した俺が正直に話すとリョウ先輩は小さく頷いた。

 

「楽器は何やるか決まってる? 私としてはベースをお勧めする」

 

「ドラムがやりたいです」

 

 特に隠す事も無いので、悩む事も無く即答した俺にリョウ先輩は少し驚いた顔をした。

 

「なるほど、虹夏狙い」

 

「いや違いますよ」

 

 冗談とも本気とも判断がつきづらい表情でリョウ先輩が言った言葉を即座に否定した。もし本当にそんな理由で虹夏先輩に近づいたらあの店長の事だ、おそらく速攻で出禁である。

 

「冗談。でも虹夏も喜ぶと思う、ドラムは色んな理由でやりたがる人が少ないから。何か知りたいことがあれば、もしよければ私から虹夏に話しておくけど」

 

「ありがとうございます、でも必要になったら自分で聞きに行きます」

 

 どうやら本当にドラムは人口が少ないらしい。まあその辺りは俺も身をもって体験しているので理解している。練習場所とか練習場所とか練習場所とか。そう思うと実家がライブハウスな虹夏先輩がかなり羨ましい。しかしドラムが供給不足なら俺がどこかのバンドに潜り込める日も近いかもしれない。

 

 そんな話をしているといつの間にかチケットの販売時間になりSTARRYの扉が開き客が入って来たので、俺の受付バイト研修が始まったのだった。

 

 しばらくはリョウ先輩の見学をしていたが、客足が落ち着いてきた所でリョウ先輩と交替して受付をしていると店長から声が掛かった。

 

「リョウ、今日のバンドはどれも人気あるし勉強になるだろうから見てきていいぞ」

 

「ん、わかった」

 

 そう言って席を立って歩いて行くリョウ先輩を見送った店長は、先ほどまでリョウ先輩が座っていた俺の後ろにある席に入れ替わるように座った。

 

 ライブの始まる時間のせいか新しく客が入ってくるような事も無く、俺と店長の二人は無言で椅子に座っていた。なんだ? なんで店長は無言なんだ? 座るのは監督って事で理解できるが、なんで無言なんだ? いや仕事中だし当たり前か。 

 

 そんな風に不安に思っていると、思い出したように店長が口を開いた。

 

「そういえば太郎君はぼっちちゃんのギターって聞いたことあるの?」

 

 早くもぼっち呼びが定着している事と、突然の質問に俺は困惑した。もちろん聞いてる、というか動画サイトの奴でもいいのなら多分妹のふたりちゃんの次くらいには聞いてると思う。

 

「は、はい。ありますよ。そういえば店長さんは聞きましたか? あいつのギター、俺はかなりのものだと思ってるんですけど」

 

 俺がそう言うと店長は少し驚いた顔をしてこっちを見た。あれ? もしかしてそんなでもないのか? 俺は上手いと思うし、動画サイトでは絶賛の嵐だったが……

 

「……いや、うん。結構上手いと思うよ」

 

 少しだけ悩んでそっぽを向いてそう言った店長は、それきり眠そうな顔をして腕を組んだまま黙ってしまった。

 

 おかしいな、俺の予想ではあいつは十年に一人(ひとりだけに)の才能、だとか今の邦ロックの頂点を狙える逸材、とかそういうのを期待してたんだが……

 

 結局俺のバイト終了まで店長は後ろの椅子に無言で座ったままだった。

 

 

 

 バイトが終わって店長達に見送られてSTARRYを出た俺達は駅に向かって二人で歩いていた。

 

「そういえば……」

 

 先程の店長の言葉が気になったが、俺は言葉を飲み込んだ。こういうのは次のライブに行く楽しみに取っておくとしよう。だから俺は別の話題を振る事にした。

 

「そういえばひとり、俺が受付教えて貰ってる時にそっちからギターの音が聞こえて来たけど、何してたんだ?」

 

「あ、あれは、その……虹夏ちゃんの説明が覚えきれなくて、歌にしたら覚えられるかなって……」

 

 そう言ったひとりは恥ずかしかったのか慌てて話題を変えるように話し出した。

 

「そ、そういえば太郎君はライブハウスが飲食店扱いだって知ってた? 確かライブだけだと営業許可取るのが大変なんだって、だからドリンクを提供するんだって虹夏ちゃんが言ってた」

 

「えっ! そうなのか? って事は俺達あのリア充陽キャ御用達のファストフードやファミレスなんかと同等の飲食店バイトやってるって事か!?」

 

「そうだよ! あのハードルの高い飲食店バイトをいつの間にか私たちやってたんだよ!」

 

 ひとりの説明に興奮した俺が問いかけると、ひとりも興奮したように答えてきた。心なしか頬も上気している気もする。というか実際に赤くなっている。こいつ飲食店バイトの事でそんなに興奮してるのか。

 

「で、どうだったひとり。初バイトの感想は」

 

「う、うん。このバイトなら意外とやっていけそう。明日も頑張るぞ~」

 

 なんとか初バイトを乗り切った解放感からか、ひとりにしてはかなり強気な発言が飛び出した。あるいはこれからの自分を鼓舞しているようにも見えたが。先程STARRYを出た時も虹夏先輩にまた明日、と言っていたから案外本当にやる気があるのかもしれない。

 

 最初はどうなるかと思ったバイトも何とかなりそうだと思った俺は一番気になっていることを聞いてみる事にした。

 

「ところでひとり、段ボールに入ってライブ出たって言ってたけどどういう事したんだ? やっぱライブパフォーマンスか?」

 

「!? あ、ああれはなんていうか……そ、そう! パフォーマンス! ライブパフォーマンス!」

 

「マジか!! どんな事やったんだ!?」

 

「えっ!? あっ……だ、段ボールを……その……や、やっぱりひ、秘密……くしゅん!」

 

 俺の疑問にひとりは落ち着きなく視線を動かして、しどろもどろになりながら盛大にくしゃみをした。先輩達に聞けば分かるのだが、どうやら本人は教える気は無いらしい。

 

 そっかぁ……やっぱりライブ限定特典か……こりゃ次のライブは絶対に行くしかねーな。




主人公は結束バンドに入ってないので、後藤ひとりの意識を大きく変える話、俗に言う良い話に主人公を関わらせるのは意図的に避けてます。
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