ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

32 / 46
 あはっ あはっ こんな(二万八千字)になっちゃった………… たはは なっちゃったからにはもう……ネ……

 いや今回マジで長いです。もっと短くまとめる力が欲しい……というか前後編に分けた方がいいんだろうか? あとイライザさんと内田さんの性格とか口調難し過ぎるんですけどぉ!?

 2025/06/06追記 廣井さんの住んでるアパートが御茶ノ水に比較的近い場所と判明したので修正しました。


032 この世は戦う価値がある

 下北沢での結束バンドの路上ライブの後、泥酔して自力で歩けなくなった廣井さんを家まで送り届ける為に、俺はまずはタクシー捕まえると、廣井さんを車内へと押し込むことに成功した。

 

 志麻さんの話によると廣井さんは御茶ノ水付近のアパートに住んでいるという事で、とりあえずはタクシーでアパート前まで運んで貰うように運転手にお願いする。運賃はニ、三千円といった所で、後日志麻さんから補填される予定だ。

 

 無事アパートへ辿り着いたが、廣井さんはまだ自力で歩けないようなので、ここから部屋までは廣井さんを背負って歩く事にした。おんぶ(・・・)の最中にリバースされるとマジで洒落にならないので廣井さんには割と真剣に釘を刺しておいたが、どこまで効果があるかはわからない。

 

 アパート前から部屋までの短い距離とはいえ背負われている廣井さんは何が楽しいのか、機嫌良さそうに鼻歌なんぞ歌いながら両足をブラブラさせている。左手に一升瓶を持った妙齢の酔っ払い美女を背負っているのもあって、アパートの住人と鉢合わせない事を祈るばかりだ。

 

「廣井さんもうちょっとお酒控えた方がいいんじゃないですか? 体に悪いですよ」

 

「ええ~……でもこ~ゆ~とっけん(・・・・)があるからお酒はやめらんらいんだよね~」

 

 他人に背負われるという恥ずかしい体験を特権だと上機嫌で言う廣井さんに諫めるように小言を漏らすと、廣井さんは俺の首元により強く抱き着いてきて、まるで犬や猫が自分の匂いをつけるかのように頭をこすりつけて来た。

 

「それにたろ~くんらってこんら美人なおね~さん背負えて嬉しいでしょ~? ほらほら~」

 

「言うて、いつ肩からマーライオンの如くゲロが降って来るか分からない状態で喜んでいられる奴なんかいないでしょ……」

 

 俺の返答を聞いた廣井さんは何がおかしいのかケタケタと笑っている。

 

 かなり酔ってますねクォレハ……酔いが醒めてから覚えてたら柱に頭を打ち付ける奴じゃないだろうか? しかし普段廣井さんの腕やらなんやらを見ていて細いとは思っていたが、背負ってみて確信した。ちょっと軽すぎじゃないコレ? 

 

「それにしても廣井さん随分軽いですけど、ちゃんとご飯食べてますか?」

 

「あはははは! たろ~くんお母さんかよ~! らいじょ~ぶ、毎日おにころ飲んでま~す! しってる~? おにころって意外とカロリーあんらよね~」

 

「全然大丈夫じゃないですよそれ。飯食って筋トレをしろ筋トレを」

 

 ケラケラと楽しそうに笑う廣井さんに呆れながらも、話をしながら背負って歩く。

 

 アパート入り口から廣井さんの部屋までの短い距離、そしていくら廣井さんが軽いと言っても、人間一人背負って歩くのはやはり結構しんどい。去年の夏から鍛えて無かったら俺は死んでたんじゃないだろうか……やはり筋トレは全てを解決する。

 

 ようやく一番奥の部屋の扉の前まで辿り着くと、廣井さんは得意げに自分の部屋を紹介する。

 

「この築五十二年のアパート、風呂なし事故物件の角部屋がわたしの根城で~す」

 

 背中で楽しそうにしている廣井さんとは裏腹に、俺は廣井さんの説明と目の前の玄関扉を見て硬直した。

 

「あ、あああの廣井さん!? じ、じじじ事故物件って……そ、そそそそれになんか扉にお、おおお(ふだ)みたいなのが沢山貼ってあるんですけど……」

 

「あ~これね~……へーきへーき。ちょっと出る(・・)だけだから」

 

 バカ廣井さんの馬鹿! 何故か扉に貼ってある督促(とくそく)状はもうスルーするけど、このお札はイカンでしょ!? しかもサラッっと出る(・・)とか言ってんじゃねーよ! 助けてひとり! くそう、廣井さんを置いたらすぐにおうちかえる! って言いたいんだけど、志麻さんが言うにはこの後イライザさんが来てくれるらしいので、引き継ぎするまでおうちかえれない……

 

 ともかく廣井さんを背中から降ろすと、今度は肩を貸して立ち上がらせる。廣井さんはポッケから鍵を取り出すと無造作に扉を開け、そのまま部屋へと入ろうと足を進める。変なお札や督促状に若干怯んでいた俺も、廣井さんに導かれるように意を決して中に入った。

 

 扉を潜ると部屋の中はなんてことない和室のワンルームで、意外な事にわりと小奇麗にしている。

 

 想像通りなのは万年床と化しているであろう布団とその辺に無造作に置かれた中身の入った酒のパックや瓶くらいだろうか。廣井さんの事だから服や下着が脱ぎ散らかされていたり、酒の空き瓶やコンビニ弁当のゴミなどが散乱している等、もっと汚い部屋を想像していたのだが意外とそんな事は無かった。

 

 どちらかと言うとミニマリストの様な印象で、汚くないのは単純に物が少ないだけだからかも知れない……借金のカタに家具が持って行かれたとかじゃないよな? そういう意味ではひとりの部屋に近い感じだ、あいつの部屋も和室で割と殺風景な部屋だ。それよりも部屋の隅に鎮座しているスーパーウルトラ酒呑童子EXを見つけ、失くしていない事に安堵する。

 

「まーまー上がってってよ太郎君」

 

 廣井さんは下駄を脱ぎ散らかすと、俺の肩からスルリと抜けて四つん這いで部屋に入る。そのままモソモソと部屋に置いてあるお酒を取りに行こうとしたので、俺は慌てて廣井さんの両脇を掴んで布団まで引き摺るように移動させた。

 

「は~い、きくりちゃんはおねんねしましょうねー」

 

「やだー! お酒飲むのー!」

 

 両手を振り回しながら駄々をこねる様はまるで発言が物騒な五歳児のようだ。五歳児(同じ年)ならふたりちゃんの方がはるかに聞き分けが良い。リアル五歳児に聞き分けで負けるアラサーはイカンでしょ? 

 

 廣井さんからなんとか酒を取り上げて無理矢理布団に押し込むと、俺は布団の隣にあぐらをかいて座り込んだ。

 

「なに~太郎君、おねーさんを無理矢理布団に押し込んでエロい事するつもり~?」

 

「なに言ってるんですか……そう言うのはせめて道端にゲロぶちまけなくなってから言ってください……」

 

 ひとりは緊張や青春コンプでリバースするし、廣井さんは酒でリバースする。そこになんの違いもありゃしねぇだろうが! 

 

 しかし何故俺はこんなにも他人の粗相(・・)に縁があるのか。まさかヨヨコ先輩もリバースしたりしないだろうな? あの人の一番ある可能性としては三徹からのエナドリ飲みすぎ体調不良リバースだが……大丈夫だよな? 信じてますよヨヨコ先輩! 

 

 布団の中で相変わらずケタケタと楽しそうに笑っている廣井さんの傍に座りながら、俺は溜息をついた。

 

「もういい歳なんですから……ひとりも言ってたけど、やっぱちょっとお酒控えた方がいいですよ……廣井さんいくつでしたっけ?」

 

「え~? えーっと、太郎君達と会った時に二十……五? だったから……二十六?」

 

 なんでそんなに自分の年齢があやふやなんだ……なんて思う暇もなく、廣井さんの年齢を聞いた瞬間――ぶわりと俺の背中に嫌な鳥肌が立つ。ここが事故物件だからと言うだけ(・・)ではないだろう。店長とは大学の後輩だと言っていたから二十八くらいだと思っていたのだが……おいおいおいおい、勘弁してくれ(・・・・・・)

 

 『The 27(トゥエンティセブン) Club(クラブ)』と言われている都市伝説(・・・・)がある。

 

 これは滅茶苦茶簡単に言うと『天才ミュージシャンは二十七歳で死ぬ』と言われているもので、ジミ・ヘンドリックスやブライアン・ジョーンズ、カート・コバーンなどロック史における錚々(そうそう)たる人物がこの『The 27 Club』という概念に名を連ねている。

 

 勿論二十七歳で亡くなっていない偉大なロックスターの方が断然多く、『The 27 Club』が神格化されているのだって偶々そういう時代だったと言うだけの、今となっては『愚か者のクラブ』なんて言われている概念である。

 

 ただ、あまりに錚々たる面々がこの『The 27 Club』に名を連ねているので、逆に二十七歳で死ななかった(・・・・・・)ミュージシャンは天才ではない(・・)なんてバカげた意見さえ出てくる始末だ。

 

 ただ廣井さんの酒量を見ていると、どうにもいらんことを想像をしてしまう。

 

 アルコールを大量に長期間摂取する事による病気なども心配だが、今日のような酩酊(めいてい)時の嘔吐による窒息死というのが割とポピュラーだそうで一番怖い。確かジミ・ヘンドリックスも表向きの理由はこれだった筈だ。

 

 それにあくまで個人的な意見だが、廣井さんが『The 27 Club』に入る才能を十分に備えていると思うのがまた迷信に拍車をかけて心配になる……

 

 そんな馬鹿馬鹿しい(・・・・・・)考えが頭をよぎった俺は、大きく一度かぶりを振って息を吐いた。全く笑えない冗談だ。

 

 そんな俺の心配を知ってか知らずか、布団に寝転びながら天井を見上げていた廣井さんは、はにかみながら困ったように言葉を溢した。

 

「でもさ~、太郎君も知ってるでしょ~? 私がお酒飲んでる理由(・・)

 

「……前に言ってたライブの緊張を紛らわせる為とか将来の不安とかってヤツですか?」

 

 もし廣井さんが完全に断酒した場合を想像してみる。

 

 今までのような陽気な廣井さんでは無くなるかもしれない。ライブに出るのに緊張して演奏のパフォーマンスが下がったり、サイケデリック・ロックという事もあって作曲に影響するかもしれない。傍若無人な廣井さんのライブを期待している観客は来なくなるかもしれないし、それでSICKHACKの人気が落ちるなんて事もあるかもしれない。

 

「そうそう。だから私にとってお酒は……」

 

「でも――それの何が悪いっていうんですか」

 

「…………太郎君?」

 

 ぼんやりと畳の一点を見つめながら呟いた俺の言葉に、廣井さんが珍しく不思議そうな瞳を向けて来た。

 

「俺はたとえ廣井さんが陰キャな根暗に戻って、好き勝手にやりたい事が出来なくなって、ファンにちやほやされなくてつまんない人生になって、ライブで緊張してミスして、凄い曲が作れなくなって……」

 

「ちょっと太郎君!? 素面の私の事、どんな風に思ってるの!?」

 

 俺の想像する酒をやめた廣井さん像に本人から抗議が入ったが、構わず話を続ける。

 

「それで…………もし廣井さんが天才ベーシストでなくなったとしても、それでも――」

 

 俺はふと、自分の言っている事の身勝手さに気付いて自嘲する。だが心の内側で膨らんだ不安が溢れ出るように俺の言葉は止まらなかった。

 

「それでも俺は……廣井さんに生きていて欲しいんですよ……」

 

 きっと俺だけじゃなくて、ひとりも、ヨヨコ先輩も、志麻さんやイライザさんや店長も、廣井さんを知る多くの人がそう思っているんじゃないだろうか? 

 

 だが、俺の今の言葉がどれだけ自分勝手で無責任な事かはよく分かっている。もし先程の想像のような事になりSICKHACKでの稼ぎが無くなったら、廣井さんは今後どうやって生きていくというのだ。俺が廣井さんを養えない以上、こんなもんはただの俺の我儘でしかない。

 

 だが、それこそソレ(我儘)何が悪い(・・・・)

 

 俺は俺の望んだ未来……廣井さんとバンドを続けるという未来のために廣井さんを生かすのだ。このクソ面倒くさい世界と戦わせるのだ。悪いが廣井さんには俺という面倒な奴に目を付けられたと思って諦めて貰おう。俺はやると決めたらやる男だ。

 

 うん、中々良い目標が出来たんじゃないだろうか? そうなると、一番手っ取り早いのはやはりBoBが売れる事だろうか? 一生食いっぱぐれる事の無いくらいお金が稼げたら、廣井さんだけでなくひとりの将来の不安とやらも無くなるだろうか? こんなもん(お金)なんぼあってもいいですからね。

 

 しかし『The 27 Club』なんて物騒(・・)な物を思い出してしまったせいか、随分と感傷的な事を言ってしまった。今になってなんだか猛烈に恥ずかしくなってきたゾ。

 

「な~んて……でもお酒はマジで少し控えた方が……って」

 

 俺はおちゃらけた感じでいつもの台詞で誤魔化すと、耳まで赤くした廣井さんは弾かれたように俺と反対方向へと体を向けて布団を頭から被って丸くなってしまった。

 

「ちょっと廣井さん!? 恥ずかしいんで何か言ってくださいよ!」

 

「ちょ、ちょっと待って……」

 

 丸くなった布団を両手でゆすってみたりもしたが、ますます丸くなるだけで廣井さんは返事をしてくれなかった。

 

 これ以上ゆすっても埒が明かないと悟った俺は膝を抱えて座り布団を眺めながら、どうせ恥ずかしい事を言ったのなら最後まで言ってしまおうと思い口を開いた。

 

「……まぁでも廣井さん。この世は戦う価値が……」

 

 決め台詞を言おうとすると、インターホンの音が鳴り響いた。

 

「……廣井さん、誰か来ましたよ」

 

 音は聞こえていただろうと思うが一応確認してみたが、布団に包まったままの廣井さんから反応はなかった。

 

 まさか借金取りではないかと思いながら一人玄関扉を見ていると、突然ドアノブが動き扉が開き始めた。そういえば入ってすぐに飲酒しようとする廣井さんを布団にぶち込んだから鍵を閉めてなかったような気もする。

 

 呆然と扉が開くのを見ていると、扉の向こうから覚えのある声が聞こえて来た。

 

「……アレ? 開いてる? きくり~?」

 

「イライザさん~。勝手に入っていいんですかぁ~」

 

No Problem(大丈夫)! ……多分。あっタロー! イライザお姉さんが来たヨー! あれ? きくりは寝てるノ?」

 

「あら~、廣井さんもしかしてまだ気分悪いんですか~?」

 

 おっかなびっくり扉を開けたイライザさんは、布団の傍で座っている俺を見つけて安心したのか笑顔で手を振って来た。

 

「イライザさん、それに内田さんも。いきなりドアが開くんで驚きましたよ。あ、楽器持って来たんですか?」

 

「Yes! せっかくだからM(Moe)X(Experience)のミーティングをしようかなって!」

 

「幽々わ~SIDEROSの練習終わりにイライザさんに誘われました~」

 

 部屋に入って来たのがイライザさんと内田さんだった事に俺は胸を撫で下ろした。

 

 二人は布団を頭から被った廣井さんを見るとまだ気分が悪いのかと心配していたが、あれは多分ただ恥ずかしがってるだけだ。しかし志麻さんとの電話でイライザさんが来てくれる事は分かっていたが、内田さんまで一緒なのは驚いた。

 

 話し声から借金取りでない事に安心したのか廣井さんも布団から頭だけ出して玄関を見た……が、布団から出る気は無いようで、部屋に上がって貰うように俺が二人に声をかける。

 

 それにしても内田さんは普段からゴスロリなのかよすげぇな……と思ったけど、ヨヨコ先輩も普段着がステージ衣装みたいなヤツだったわ……もしかしてSIDEROSって……

 

「も~イライザはタイミングが良いのか悪いのか……」

 

「なんのタイミングですか廣井さん……それより待ってましたよ。殺風景な部屋ですけど入って、どうぞ」

 

「お邪魔シマース!」

 

いいよ、上がって(†悔い改めて†)

 

「太郎君なに言ってんの? あと一応、ここ私の家なんだけど……まぁいいか。じゃあ私、ちょっと寝るね」

 

「寝るんなら仰向けじゃなくて横向いて寝て下さいよ」

 

 客が来たというのにお構いなしに寝る体制に入った廣井さんへ、就寝中にリバースした時を考えて一応寝る向きを指示しておくと、廣井さんは素直に横向きになって目を瞑った。

 

 イライザさんと共に入って来た内田さんは部屋の中をゆっくりと一度見回すと、ある一点を見つめて安心したように息を吐いた。

 

「よかったわ~。山田さんがいるって聞いて浄化(・・)されたかと思って慌てて来たけど~、無事だったのねぇ~」

 

「ちょっと何の話ですか? やめっ……やめろ! 虚空を見つめて微笑まないで!?」

 

 内田さんは怖がる俺の反応が面白いのかニコニコしているが、ともかく廣井さん係の引き継ぎが終わって安心した俺はそろそろお暇しようと思い立ち上がった。が、それを見たイライザさんに「さっき言ったでしょ! 今からミーティングだヨ!」と頬を膨らませながら怒られてしまったので再び腰を下した。

 

 MoeExperience参加に誘われたライブの打ち上げからひと月ほど音沙汰が無かった理由を聞くと、ライブで演奏したい曲のアニメを片っ端から見返していたとの答えがイライザさんから返って来た。何やってんだこの人……

 

 だがそれなら内田さんは何をしに来たのか聞いてみた所、コスプレ衣装担当だと言われた。なんでもSIDEROSのステージ衣装はデザインがヨヨコ先輩で、裁縫は全て内田さんが担当しているらしい。はぇ^〜すっごい 。

 

「あ、でもやっぱりやるんですねコスプレ」

 

「当然だヨー! MoeExperienceはコスプレとバンドの二本柱なの!」

 

「そういえばどんなコスプレするか決まったんですか?」

 

「ツイン〇ーボきくりが見たいって要望がきてるヨ! あと伊吹〇香とか」

 

「は? ツ、ツイン?」

 

「タローはやっぱりドカベンだって! あと顔出ししないなら〇卿」

 

「ボ? いやちょっと待って……要望ってどこから来てるんですか?」

 

「私の同人誌用のSNSだヨ! コスプレバンドするって言ったら、皆反応してくれたノ!」

 

 どういう事だよ……俺の預かり知らない場所でなんか変な交流会が開かれている。

 

 まぁイライザさんがやりたいコスプレをすればいいけどさ……っていうかドカベンのコスプレってユニフォーム着ろってコト!? 俺は出来れば顔出し無しでオネシャス。廣井さんとイライザさんのファンに刺されたく無いからね! え? キャッチャーマスク!? ダメダメ顔見えてんじゃん! 

 

 あのコスプレもやりたいこのコスプレもやりたいと興奮気味のイライザさんに促されて、早速俺のコスプレ用の体のサイズを測る事になった。といっても体に張り付くくらいぴったりな服は作らないので服は着たまま計測する。

 

「でも内田さんに衣装制作お願いするのって大丈夫なんですか? SIDEROSもライオット出るんですよね?」

 

「MoeExperienceのライブは八月らしいから十分間に合うわ~。それにイライザさんからお金を貰って依頼される以上その辺りの心配はしなくても大丈夫ぅ~。最悪ライオットが終わってからでもギリギリなんとかなると思うしぃ~」

 

 色々サイズを計られながら訊ねた内田さんの返答を聞いて俺は驚いた。当たり前だけど衣装制作にお金かかるんじゃん! その資金がどこから出るのかイライザさんに訊ねてみると、コスプレは自分のワガママだから全員分自分が出すと言い始めた。

 

「流石にそれは……MoeExperienceのライブ売り上げとかで何とか出来ないんですか?」

 

「それなら出来るケド……でもそうすると太郎達の報酬が……」

 

「いやいや、別に俺達も報酬目当てじゃないですから大丈夫ですよ。そういえば箱はもう決まってるんですか?」

 

「場所は秋葉原のライブハウスを考えてるヨ!」

 

 ちょっと意外だ、FOLTじゃないのか。まぁMoeExperienceの初ライブ初ワンマンに五百人も集まるとは思えないので、そういう意味では妥当なのかもしれない。

 

「だってコミマ参加するような人は新宿に来ないヨ!」

 

「偏見が凄い!? 廣井さんと言い、SICKHACKの人間はこんなのしかいないのかよ!? って言うかコミマ参加の筆頭が新宿拠点のイライザさんでしょーが!」

 

「でも~秋葉原の箱はどれもキャパが小さいですよ~」

 

 秋葉原のライブハウス情報を調べていた内田さんがスマホを見せてくれた。それを見ると秋葉原のライブハウスは大体キャパ五十~百人くらいで、一番多い箱でも二百人だった。

 

 そもそもイライザさんがどれくらいの集客を想定しているかだ。やっぱりFOLT基準の五百人だろうか? 知り合いがいない俺に集客能力を期待しないで欲しいので、本気で五百人集める気ならイライザさんと廣井さんで二百五十人ずつ集めて貰う事になる。まぁ満員にならなくても、箱のレンタル代と衣装代でトントンになればそれでいいのだが……あ、でも打ち上げ代も欲しいかも……う~ん強欲。

 

 俺の採寸も終わり、俺達三人は車座になってライブハウスについての話をはじめた。ちなみに廣井さんはいつの間にか気持ちよさそうに寝息を立てている。客が来てるのに本当に寝る奴があるか。

 

 さっき言ったように、会場のレンタル代と内田さんへの衣装代、それに打ち上げ代でトントンにするならチケット代二千円で百人くらい集客できたら十分だろう。もう少し人数が少なくてもいけるかもしれない。

 

「う~ん……それじゃあここなんかどうカナ?」

 

「秋葉原駅から徒歩一分ですか~。キャパわ~オールスタンディングで七十五名~」

 

「あ、そこ音響照明PAがセルフってなってますよ? 人のレンタルも出来るみたいですけど、自分たちでやればちょっと費用が浮きますね」

 

 音響照明PAは簡単な機械の使い方を教えて貰えるらしいので、虹夏先輩やヨヨコ先輩なら協力してくれる気がする。一瞬本職であるPAさんにお願いする事も考えたが、流石に本職をタダ働きさせたらいかんでしょ。

 

 ライブ会場という大事な事は勢いで決めても良い事は無いので一旦保留にしてイライザさんが預かる事になった。基本的に観客はイライザさん関係の人が大部分を占めそうなので、その辺の兼ね合いで決定するようだ。イライザさん本人は「コミケ四日目~!」などと言って秋葉原のライブハウスに乗り気なようだが。

 

「では次の議題はライブでやるアニソンについてダヨ! やっぱりきんモザの曲は外せない……ってタロー! 今ワタシが話してた時きくりの事チラチラ見てたデショ!? もしかしてなにかヤラシイ事を考えてるノ!?」

 

「やらしぃ~」

 

「え? いや、ちっ違っ! ご、ごごご誤解!」

 

「ウソつけ絶対見てたゾ」

 

 あんまり静かに眠っているのでまさか死んでいないだろうかと廣井さんの様子を窺っていたのだが、変な因縁を吹っかけられてしまった。このままでは俺が廣井さんの寝込みを襲う機会を窺う変態野郎のレッテルを貼られかねないので、二人が来る前の出来事も含めて弁明する事にした。

 

「いやホント違うんですって……あの~、お二人は『The 27 Club』って知ってますか?」

 

 

 ――――

 

 

「ナルホド~。それでタローはきくりを心配して見てたんだネ」

 

「確かに~、廣井さんなら『The 27 Club』入り(・・)しても不思議じゃないかも~」

 

「でしょう? それで俺は提案したんです。もしBoBが凄く売れて一生分稼げたら酒をやめて、その結果もしSICKHACKが解散したら俺と一緒にバンドやりましょうって」

 

「へぇ~……えっ!? SICKHACK無くなっちゃうノ!?」

 

「そんで、それでも断酒を渋る廣井さんに俺は言ってやったんですよ。廣井さん、この世は戦う価値が……ってなんだよ? ロイン通知?」

 

「ちょっとタロー!? SICKHACK……」

 

 先程の説明をすると納得した二人がなかなか良い反応を返してくれるので、調子に乗ってある事ない事話を盛って喋っていると、俺のスマホからロインの通知音が鳴った。

 

 せっかくの決め台詞を中断された事に不満を覚えつつも画面を見ると、送り主はひとりだった。どうやらいつまでもSTARRYに戻ってこない俺を心配したらしく、今どこにいるのかと聞いてきている。

 

「えーっと……いま、廣井さんちに、いるぞ……っと。あ、二人とも一緒に写真いいですか?」

 

 廣井さんが寝ている布団を背景に自撮りの要領で三人で写真を撮ると、ひとりに送ったメッセージの後に貼り付けた。これでひとりも安心するだろう。

 

「それでどこまで話しましたっけ? ああそうだ。それで俺は言ってやったんですよ。『廣井さん、この世は……』って今度はなんだよ!?」

 

 またも決め台詞を中断するように今度はロインの着信音が鳴り出した。画面を見るとまたひとりだ。いまメッセージを返したばかりだというのに何の用かと疑問に思いながらも、二人に断りをいれて通話ボタンを押す。

 

「もしも……」

 

『たっ太郎君! しゃ写真見たけど今なにしてるの!?』

 

「え? いや、廣井さんちでMoeExperienceのミーティングだけど……お前こそ今どこだよ? え? 打ち上げ終わって帰る途中? 下北沢駅? それなら悪いけど今日は一人で帰ってくれよ。ちょっと遅くなりそうだからさ」

 

『……えっ!? なっなんで……』

 

「ライブでやるMoeExperienceの曲とか決めようと思ってな。それに廣井さんもちょっと心配だし……明日は休日だろ? 起きるまで様子を見ようかなって」

 

『…………………………わっ私も行こうかなぁ~』

 

「えっ?」

 

 突然来ると言い始めたひとりはどうやら本気の様だった。現在の時刻を考えると、ミーティング次第では最悪泊まりの可能性があると説明してやんわりと一人で帰るように促してみたのだが、泊りと聞いたひとりはますます頑なになり、引く様子が無かった。

 

「わかったよ。え~と、ちょっと待ってろ……あの、ひとりが来るって言ってるんですけど」

 

「いいんじゃない~。幽々としてわ~ぼっちさんがこの部屋に来るのは興味あるしぃ~」

 

「ひとりが来るの!? イーヨ! Welcome!」

 

 家主の廣井さんは寝ているが、一応二人の了承が取れたのでひとりに廣井さんの家の場所を教えておく。

 

 前に虹夏先輩を自分の家に放置して一人で御茶ノ水の楽器店に来た前例(通称マイニューギア事件)があるので大丈夫だとは思うが、一応駅についたら迎えに行くと伝えたのだが、一人で大丈夫だと主張するひとりに押し切られる形で不安ながらも電話を切った。まぁ駄目ならまた連絡が来るだろう。

 

「……本当に来るのか? って言うか来れるのか? 不安だ……」

 

「く~る~きっと来る~」

 

「内田さんがこの家(事故物件)でそれを言うのはシャレにならないからやめろ!」

 

 あとそれ最初のく~る~は本当はOooh(ウ~ウゥ)らしいですよ。

 

「イイネ! ひとりが来た後、きくりが起きたら皆で何か食べに行こーヨ!」

 

 とりあえずひとりの話はついたので、俺達は先程話していたライブで演奏するアニソンの選曲に戻る事にした。

 

 俺もドラムヒーロー(投稿者)として結構な数のアニソンを演奏してきたが、どうもイライザさんがやりたいアニソンはそれに加えて所謂きらら系? とかいう奴らしい。

 

「きんモザとスローループは外せないヨー! あとはわかばガールとごちうさとあんハピとゆるきゃんとこみがと……バンド物ならけいおんも外せないネ! あっ、タローがいるなら球詠もいいかも! 沢山あって選べないヨー!」

 

「なんとか二時間に収まるように選んでくださいよ」

 

 ハイテンションのイライザさんからは随分沢山の作品名が出て来たが、ワンマンライブは大体二時間、一曲五分で計算して120分÷5分で24曲、MCの時間を考えると二十曲くらいが限界だろうか? 

 

 きらら系に留まらず演奏したいアニソンが沢山あるとの事でひとまずやりたい曲をピックアップすることになった。

 

 今回のMoeExperienceのライブは一応BoBの武者修行的な物も兼ねているのでいろんなジャンルのアニソンをやりたいのだが、俺はアニソンに詳しくないのでイライザさんが持って来た林檎マークのタブレットで実際に曲を聞きながら選曲する。

 

 きらら系に留まらず色々なアニソン曲を聴いて三人で話しながら選んでいると、しばらくしてまたしても俺のスマホからロインの通知音が鳴った。

 

 画面を見れば案の定ひとりから『たすけて』とだけ書かれた短いメッセージが来ていたので今どこにいるのか聞いてみると、やはりというか御茶ノ水駅のホームを出てすぐの場所で身を小さくしているらしい。正直以前のひとりならホームに辿り着けるかも心配だったたので、なんだかんだ成長が感じられる。

 

「すみませんお二人とも。ひとりが駅に着いたみたいなんでちょっと迎えに行ってきます。選曲の続きと廣井さんの事お願いしますね」

 

「廣井さんわ~ルシファーちゃんとベルフェちゃんが見張ってるから大丈夫よ~」

 

「それはあんまし大丈夫じゃないんだよなぁ……」

 

「Okay! あ、ちょっと待ってタロー。今からメモを書くから、戻って来る時にコンビニで買って来てー」

 

「幽々もお願いしま~す」

 

 二人からお金と買って来る商品が書かれたメモを受け取って目を通す。

 

 食べ物に飲み物に紙コップ……そういえばこの家には大人数分の食器がないな。あとは……処女の生き血!? あ、注釈がある……ああ、鉄分サプリか……びっくりした。

 

「ふむふむ……おっけーです。っていうか廣井さんちの冷蔵庫になんか入ってないんですか……ってうわぁ……」

 

 俺は廣井さんちの冷蔵庫を勝手に開けてその中身にドン引きすると、ひとりを迎えに御茶ノ水駅に向かう事にした。

 

 

 

 ひとりは駅前の広場から動けないとの事なので迎えに行く。

 

 駅を出てすぐの広場を見渡すと、でっかいギターケースを大事そうに抱えながら震えているひとりの姿がすぐに見つかった。こういう時に全身ピンク色なのは発見しやすくて助かる。まるで山での遭難者のようだ……

 

「ようひとり。御茶ノ水までおつかれ」

 

「!! たっ太郎君!」

 

「よーしよしよしよし」

 

 近づきながら片手を上げて声をかけると、俺の姿を確認したひとりは地獄に仏でも見つけたように抱えていたギターケースごと俺の腹へと飛び込んできた。ただ突っ立っていただけとはいえ、意外に人通りの多い駅前でひとりぼっちだったというのが余程(こた)えたのだろう。

 

 腹に抱き着いているひとりを、ジミヘンをかわいがるように背中やら頭やらをわしゃわしゃと撫でてやる。ピンクのジャージが目立つこともあって道行く人々の眼差しが正直少し恥ずかしい。

 

 しばらくメンタルケアに務めていたが、ひとりは一向に俺の腹から離れる気配が無かった。

 

「おいひとりそろそろ離れ……」

 

「…………スーハースーハー…………」

 

「おいバカなにしてんだお前!?」

 

「えっ!? いっいや違っ……くないけど……ちょっ、ちょっとパワーを充電してて……」

 

「どういう事だよ……そういうのはジミヘンでやれ!」

 

「じっ自分だって、私で同じ事やってたのに!?」

 

 何の話だよ? ってやってたわ……昔バンドメンバー集める為に昼休みに軽音部に行った後の傷だらけの心を癒す為にやってたわ……

 

 自らの過去を思い出して丸め込まれそうになったが、知的な雰囲気漂うの御茶ノ水駅でこれ以上抱き合っているのは少し恥ずかしいのでなんとかひとりを引っぺがすと、今度はすぐさま腰にしがみ付いて来た。久々のケンタウロススタイルである。

 

 個人的にはこの格好こそが恥ずかしいと思うのだが、どうせ言っても聞かないので腰に回されたひとりの手首を掴んで今度こそ歩き始めた。

 

「しかしひとりが御茶ノ水駅まで一人で頻繁に来れるようになるとはなぁ……」

 

「…………あっおばさんに太郎君の事頼まれてるから……」

 

「俺の子守かよ……そりゃ悪かったな。まぁひとりが一緒の方が母さんも安心するか」

 

 俺の腹に回したひとりの腕に力が籠る。もしかして俺のせいで御茶ノ水くんだりまでこさせられた事に怒っているのかも知れない。定期券の範囲外だし悪い事をしたかと一瞬思ったが、そもそもこいつが来たいと言ったのだから俺は何も悪くない気もする……

 

 駅の利用者からの好奇の視線に晒されながらもおかしな歩き方で駅前広場を後にした俺達は、イライザさん達に頼まれた買い物を済ませる為にそのまま近くのコンビニに入る事にした。

 

 コンビニに入ると、渡されたメモを見ながら書かれた商品を二人でかごに入れていく。

 

「えーっと……アレとソレとコレとあとは……あ、ひとりもなんか食いたいもんあったら持って来ていいぞ。今日は俺が奢ってやるよ」

 

 そうはいってもひとりは遠慮するだろうから、自分で率先してひとりの好きそうなものをカゴへと入れていく。ひとりの趣向は俺と似ているので特に悩むことは無い。

 

「やっぱ飲み物はコーラだよな。サンドウィッチはカツサンドと……って結構種類あるな。まぁ三種類くらいあればいいか。あとは……フルーツサンドとかも美味そうだな……あ、おにぎりもアリか? ツナマヨに鮭におかか……ホットスナックのからあげもいいな。ひとりも食べるか?」

 

「うっうん。あっでも太郎君。私、あの後虹夏ちゃん達とファミレスに行ったから、そんなに沢山食べられないよ……」

 

「え? そうなの? そう言えば打ち上げ行ったんだっけか。まぁいいよ。余ったら俺が食うし、なんなら廣井さんに食わせるから」

 

 かごに入れた商品の数を見てひとりが困ったように言ったが、別に好きなだけ食べて残してくれて問題無い。それにおんぶした時の廣井さんの軽さを思い出すと、何か食わせなければいけない使命感に駆られてしまう。

 

 イライザさん達に頼まれたモノと自分達用の買い物を全てかごに入れ終えると、ひとりはレジに並ぶ俺について人の多い店内に残るか、御茶ノ水を行きかう大勢の人に怯えながら一人で外で待つか悩んでいたが、結局俺の上着の裾を掴みながら店内に残る事にしたようだった。

 

 レジを済ませて準備が整うと、ひとりを引き連れて廣井さん宅へ戻る事にした。

 

 

 

「あの……太郎君? ここお姉さんの家……だよね……? このドアのお札って……」

 

「やめろ。俺も考えない様にしてるんだから……ただいまでーす。ひとり連れてきましたよー」

 

 廣井さんの部屋の前に辿り着くと、玄関扉の惨状を見たひとりが恐る恐る俺に説明を求めてきたが、それ以上話題を広げない様に話を打ち切って扉を開ける。事前にイライザさんに連絡を入れておいたのでインターホンなど押さずに入室だ。

 

「ただいまー……でいいのかね、これ?」

 

「あっおかえり! 待ってたヨー! ひとりもWelcome!」

 

「遂にぼっちさんがこの部屋に……あとはヨヨコ先輩がくれば完璧だわ~」

 

「あっ……おっお邪魔しましゅ……」

 

 こういう部屋に食料を買い込んで集まると言うのはなんとなくルームシェア的というか、秘密基地感があってちょっとワクワクしてしまう。これは俺がひとりの家以外友人宅に行った事が無いというのも関係しているかもしれないが……

 

「廣井さんの様子とか、選曲はどんな感じですか?」

 

「きくりは相変わらず気持ちよさそうに寝てるヨ!」

 

「曲わ~いくつかは決まったわ~」

 

 イライザさんに内田さんというあまり交流が無い人に緊張気味のひとりを伴って空いてる場所に腰を落ち着ける。頼まれていた買い物の品を二人に渡しながら進捗を聞いてみると先程の答えが返って来た。

 

 このペースならなんとか今日中にニ十曲決まりそうな目途が立った事と、お腹も空いて来たということでアニソンを流しながらひとまず休憩となった。

 

「あっ! からあげイイナー! タロー、私にも頂戴!」

 

「はいはい、全員分買ってますよ。これは俺の奢りです」

 

「キャー! 流石タロー! やっぱりモテ男は違うネー!」

 

「その発言廣井さんと同レベルですよ。内田さんもどうぞ。ほらひとりも」

 

「ごちそうさまで~す」

 

「あっうん。ありがとう」

 

 美味しそうにからあげを頬張るひとりを見ているとなんだかほっこりした気持ちになってしまう。沢山お食べ。コーラもあるぞ。

 

 どうしてひとりちゃんって食べてるだけでこんなにも絵になるのかしら……これは将来は食レポの仕事が来るわね。感動~! 後藤さん仕事の幅広いのね~! おっと心の中の喜多さんが出て来てしまったぜ。

 

「ねぇ太郎君。一応家に連絡しといた方がいいんじゃないかな?」

 

 食事をしながら四人でアニソンを流しながら話をしていると、ひとりが小さく俺の袖を引っ張り耳打ちしてきた。時計を見ると確かにもういい時間だ。

 

 この時間だと恐らく今日は一泊コースになる……というか片道二時間かかるのに終電で帰るとかもう面倒なので、各人の家に連絡を入れておいた方が良いと思った俺は、早速まずは自宅へ連絡する事にした。

 

「……あー、もしもし母さん俺俺。え? いや詐欺じゃねぇよ俺だよ、太郎だよ。え? 信用できない? いやこれロインの通話だから名前出てるんだけど……幼馴染の名前を言え? ひとりだよ、後藤ひとり。何なんだよこの茶番は……」

 

 母さんに電話が繋がると、次のライブのミーティングの為今日はバンドメンバーの家に泊まる事を伝える。案の定心配してきた母さんにひとりが一緒だと伝えると、電話を替われと言ってきたのでひとりにスマホを手渡した。

 

「あっもしもし後藤ひとりです……あっはい…………はい……えっ!? いっいや、ちちちち違っ……ひゃっひゃい! がんばりましゅ……」

 

 電話をしながら顔を赤くしているひとりを見ると、母さんと何を話しているのか非常に気になる所だが……ままええわ。

 

 ひとりが電話をしているのをサンドウィッチを食べながらぼけっと眺めていると、イライザさんが面白そうなものを見つけたかのようにぬるりと俺の傍に寄って来た。

 

「なになに? タローのお母さん? それなら、今日の保護者役として私も電話するヨー! ひとりー、代わってー!」

 

「えっ? ちょっとイライザさん!?」

 

 丁度話が終わったらしいひとりから俺のスマホを勝手に受け取ると、イライザさんは俺の母さんと話し始めた。最初の内は日本語で喋っていたイライザさんだったが、突然驚きの声を上げたかと思うと急に流暢な英語で喋り始めた。

 

「もしもし初めまして! イライザです! ……はい! イギリスから来ました! 日本は三年……No、四年目です! 今日はバンドのミーティングでタローとひとりが来て……ってReally!?(本当!?) Wow!(うわ!) You speak English very well!(凄く英語上手ですね!) ……Yes, it is!(そうです!) Taro is a very awesome drummer!(太郎は凄いドラマーだよ) And he's a good boy!(それに良い子だし!) ……Yes!(そう!) So I asked him to put(だから私からお願いして) together an anime song copy band!(アニソンコピーバンドを組んで貰ったの!) ……Ok!(分かった!) I'll be responsible for taking(今日は私が責任を持って) care of you both today!(二人の面倒を見るよ!) ……Yeah!(うん!) I'll look forward to working with you then!(その時はよろしくね!) See you then!(それじゃあまたね!) Bye! ……はいタロー! 今度家に遊びに来てねって言われちゃった!」

 

「何の話してたんですか!?」

 

 話が終わり電話を切ったイライザさんが俺にスマホを返して来たが、俺とひとりは怒涛の英会話に色んな意味で驚いてそれ以上何も言えなかった。

 

 なんの約束をしてんだよ母さんは……っていうかいま何の話してたのぉ!? スパイに内容がバレないように母国語で喋るエージェントみたいになってるじゃん! 恐らく話の当事者であろう俺が分からない会話は怖いから勘弁してほしい。

 

 しかし母さんは英語が出来ると自慢してたけど、まさかガチだとは思わなかった……おっしゃBoBの海外進出のために英語教えてもらお。なお俺の現在の成績。

 

 続けて後藤家にも連絡すると、案の定俺にも代わるよう言われておばさんと話をしたが、くれぐれも高校生らしい節度ある行いを心がけるようにと言われたので、おばさんを安心させるためにまたイライザさんに話をして貰った。

 

 今度は英語で話し出すことは無かったが、やはり後藤家にも呼ばれていた。もしかしたら俺達の両親はイライザさんの存在を疑っているのかもしれない。そりゃ今まで友達が居なかった俺達にいきなり年上の外国人女性バンドマンが出てきたら疑うわな。まず耳を疑う。次に頭だ。

 

 内田さんは俺がひとりを迎えに行っている間に家に連絡を入れたらしい。これで未成年組の問題はクリアしたので、その後は食事の続きをしながら作業を再開する事になった。

 

 

 

 

 

「俺は個人的にはキャップを作りたいんですよね。正面にBoBって書いてある奴」

「単価的にわ~やっぱりTシャツが無難よね~。四人のマスクのシルエットのデザインTとかどうかしら~?」

「私はラバーバンドなんかもイイと思うナー! 制作費用も安いし、グッズ入門にはイイヨ! あ、BoBとMoeExperienceのコラボラバーバンド作ろーヨ!」

「わっ私はやっぱり、全てを包み込んでくれるパーカーが……もうすぐ暖かくなるし、半袖パーカーとかどうかな?」

 

 随分前に日も暮れて既に夜である。ちなみにこの部屋の壁は薄そうなので、声の音量は絞ってアニソンは大分前から止めてある。

 

 あの後MoeExperienceのライブ用の二十曲はなんとか決まったので、俺がBoBのグッズ展開について相談して三人に意見を聞いていると、廣井さんが寝ている布団から声が聞こえて来た。

 

「……う、う~~ん……んあ? あれ? 皆でなにやってんの?」

 

「あ、廣井さんおはようございます、といってももう夜ですけどね。廣井さんが無事か見張ってたんですよ。気分はどうですか?」

 

「うぇ? あー……なんか今日はよく眠れたかも」

 

 ゆっくりと布団から起き上がって車座になって話していた俺達を眺めている廣井さんの顔色は酔っぱらっていた時よりも大分良くなっている感じだ。

 

 廣井さんの体調が問題なさそうな事を確認した俺達は、いそいそと部屋の片づけやら忘れ物が無いか荷物の確認を始めた。

 

 これは壁が薄い廣井宅では騒げない事に気付いたイライザさんが、廣井さんが起きたらどこかにご飯を食べに行った後、カラオケかレンタルスタジオに行こうと提案していた為である。始発が動く時間になったら現地解散予定なので、廣井さん宅にはもう戻ってこないつもりだ。

 

「さあさあ廣井さんも準備してくださいよ。廣井さんが起きたら皆で飯食いに行くって話をしてたんですから」

 

「え? そうなの? そういう事ならちょっと待ってね~」

 

 俺の言葉に廣井さんはいそいそとその辺に散乱しているノートから一冊を手に取るとパラパラとページを捲った。そうしてその途中に挟んであった封筒を開くと、中から一枚の諭吉さんを取り出した。

 

「!? 廣井さん……まさか……」

 

「まさかって何!? ちょっと太郎君大槻ちゃんに毒され過ぎでしょ……これはBoBライブで稼いだお金だよ~。何かあった時用のとっておき(・・・・・)なんだ~」

 

 酒代に使わないという俺の言いつけを律儀に守ってくれていたらしい廣井さんは、大事そうに諭吉さんを一枚財布に入れると、ベースケースを背負い皆の後に続くように家の外へと出た。最後に部屋を出た廣井さんは玄関扉の鍵を閉めると、俺達に向き直ってこれから向かう先を訊ねて来た。

 

「それで? どこに行くの? カスト?」

 

「水道橋です」

 

 

 

 世の男性諸君なら分かってくれると信じているが、俺は一度でいいから夜中に屋台のラーメンと言う物を食べてみたいと思っていた。

 

 地元の金沢八景付近で屋台ラーメンがあるのかは知らないし、あったとしても夜中に未成年一人で食べに行くのも難しそうなので、今回の機会を活かすべく調べてみると、東京では渋谷駅、虎ノ門駅、水道橋駅付近の三か所でのみ屋台のラーメンが食べられるという情報が得られた。

 

 残念ながら「この辺(御茶ノ水)にィ、美味いラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ」という事にはならなかったが、このアパートから徒歩なら十五分程、電車なら一駅(二分)で行けるという事で、廣井さんの寝ている間にイライザさんと内田さんにお願いしていたのだ。

 

 そういう訳で御茶ノ水にある廣井さんの住むアパートから、はるばる夜の水道橋へとやって来たのである。

 

 夜の水道橋に着くと、ひとりはSTARRYのある下北沢やFOLTのある新宿とはまた違った雰囲気に圧倒されているのか、相変わらず俺の背中に張り付いている。

 

「あ! あれじゃない?」

 

 水道橋駅のガード下というネット情報を頼りに五人で屋台を探していると、先頭を歩いていた廣井さんが前方を指さしながら声を上げた。廣井さんが指さす先にはまさに俺のイメージ通りの赤い提灯(ちょうちん)と暖簾を掲げた屋台が停まっており、そこから胃袋を刺激する良い匂いが漂ってくる。

 

 俺達が屋台を見つけた時は丁度先客がいたのだが、丁度お会計を済ませて席を立つタイミングだったようで、俺達五人全員が同時に座れるスペースが空くと廣井さんが暖簾をくぐって店主だろう男性に声をかけた。

 

「大将~。ラーメン五人分くださ~い。あ、あとお酒持ってるんですけど飲んでもいいですか~?」

 

「夜に屋台のラーメン……アニメみたい~!」

 

「幽々も屋台は初めて来たわ~」

 

「俺もテンション上がってきましたよ! けどこの時間だと流石に冷えますね。大丈夫かひとり? 寒くないか?」

 

「うっうん。大丈夫」

 

 廣井さんが代表して全員分の一番オーソドックスなラーメンを頼むと、各々屋台のラーメン屋の感想を漏らしながら席に座り、出来上がるのを待つ。席の内訳はカウンター席に廣井さん、イライザさん、内田さんの三人、側面に増設されたスペースに俺とひとりの二人といった具合だ。

 

 三月の真夜中も近い時間帯という事もありかなり冷えるが、こういうのも込みでなんだかワクワクしてくる。

 

「おまちどうさま」

 

 出来上がったラーメンはネギ、チャーシュー、卵に海苔、メンマというオーソドックスな具材で、これぞ屋台のラーメンといった感じの醤油ラーメンだ。ほーいいじゃないか。こういうのでいいんだよこういうので。なんて言葉が思わず出てきそうな出来栄えだ。

 

「いただきます」

 

 隣に座るひとりと同時に声が出て早速食べ始める。外で食べるものは何でも美味いと言うが、冷たい風が吹く街角で食べる屋台のラーメンは五臓六腑に染み渡る美味さだ。やっぱ~屋台の~ラーメンを……最高やな! 

 

 隣を見ればひとりも白い息を吐きながら美味そうにラーメンを食べている。ただあんまり夢中で食べているもんで、もみあげ部分の長い髪がどんぶりに入りそうになっているのを見た俺は慌ててひとりの顔に手を伸ばした。

 

「おいひとり! 髪の毛が器に入りそうになってるぞ」

 

「ふえ? うわっ! あ、ありがとう太郎君」

 

「気を付けろよ。お前髪長いんだから」

 

 間一髪の状況に驚くひとりのもみあげ部分の髪をやさしく指で掬って耳にかけてやると、ひとりはくすぐったそうに小さく身をよじった。瞬間、眩い光が放たれてシャッター音が聞こえて来る。急な光に目を瞑った後、二人して驚いて光の出所を見るとイライザさんが楽しそうにスマホを構えていた。

 

「キャー! 流石Japanese OSANANAJIMI! 見て見てよく撮れてるでしょー!? このネタ夏のコミマで使えるかもー!」

 

「使うって何に使うんですか……でもその写真後で俺のスマホに送ってくださいね」

 

「あっ……太郎君、貰った写真、私にも頂戴……」

 

「写真にはぼっちさんの凄い(・・)の映らないのねぇ~……残念~」

 

「ちょっと内田さん!? この写真に妙な思い出を上書きしないでください!」

 

 俺達の騒がしさの為か、はたまた美味しそうなラーメンの匂いに釣られたのか、周りにいる人達から「金髪浴衣外国人?」「ラーメン美味しそ~」「黒ゴスで屋台ラーメンかよ……すげぇな」「スゲー良い匂い……後で寄ろう」「うわすげぇピンクの奴がいる……流石東京……」なんて声がチラホラと聞こえて来る。

 

 そんな声の中、ふらふらと赤い提灯に吸い寄せられるように楽器を背負った三人組の女性がこの屋台へと近寄って来た。チラリと横目で三人の様子を窺うとどうやら酔っているようで、あの感じはライブの打ち上げが終わった後の締めのラーメンを食べに来た……という感じだろうか? 

 

「くあ~いい匂い! ねぇみんな、ちょっと寄って行こうよ……ってもしかしてSICKHACKの廣井さんですか!?」

 

「うえ?」

 

「えっ!? マジで!? ってイライザさんもいる!?」

 

「うわっ! SIDEROSの内田ちゃんもいるじゃん!」

 

 楽器のケースを背負った女性が屋台のカウンター席で持参のおにころを飲みながらラーメンを啜っている廣井さんに気付いて声を上げると、他の二人も寄って来てカウンター席に座っているイライザさんと内田さんの姿を見つけて驚いている。

 

 女性たちは屋台の側面に増設された席に座る俺とひとりには気付いていない……というよりは、恐らく俺たちの事は廣井さん達とは無関係な一般客だと思っているのだろう。BoBは覆面だし、現時点での結束バンドの知名度の低さを考えたらさもあなりん。

 

 廣井さん達に大興奮で話しかける女性の話を盗み聞いていると、どうやら彼女達は渋谷を拠点にしているスリーピースガールズバンドで、ノルマはなんとか捌ける程度の人気らしい。SICKHACKの大ファンでライブを良く見に行くため、新宿FOLTを拠点にしているSIDEROSの内田さんの事も当然知っているとの事だ。

 

 憧れの三人と話が出来て感激している女性達の言葉に廣井さんイライザさん内田さんも嬉しそうで、特に廣井さんは普段ないがしろにされているせいかとりわけ浮かれている。

 

「君たち見る目あるねー! よーし! この屋台のラーメンは私が奢ってあげよう! 大将~、この子たちの料金、私が払うから~」

 

「えっ!? い、いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 おいおい。おだてられて気持ちよくなった末にとっておきのへそくりで奢っちゃうのかよ……男前が過ぎるというか単純というか……この人マジで刹那に生きてんな。まぁそこが廣井さんの魅力なのかも知れないが……

 

 コミュ障は知り合いが知らん人と盛り上がっている話に入っていけないので、俺は目立たない様に小声でひとりに話しかけた。

 

「ご覧ひとり。あれが承認欲求を拗らせた者の末路だよ……」

 

「え? なんで私に言うの!?」

 

「いやあれを見てるとお前の未来を見てるような気がしてな。気を付けろよ」

 

「そそそそんな事……な……くはないかもしれないけど……」

 

 ひとりは強く迫られると断れないし(場合によっては爆発する)、おだてられると警戒心が下がる奴なのでどうにも心配になる。褒められて気持ちよくなって金欠の癖に三人分のラーメンを奢る事になった廣井さんを見て是非学んでいってほしい。

 

 一足早く食べ終わった俺は隣のひとりが食べ終わるのを待ちながら、自分の器に残ったスープをチビチビと飲みながら席を立つタイミングを計っていると、三人のうち唯一楽器を背負っていない女性から驚きの話題が飛び出して来た。

 

「そういえば廣井さん! BoBのドラマーって誰なんですか!?」

 

 女性の口から突然出て来たBoBのドラマーと言う単語に、スープを飲んでいた俺は思わず(むせ)てしまった。突然咳き込みだした俺に驚いたのか女性達はこちらを一瞥したが、顔を背けてひとりに背中をさすられながら咳き込んでいると、すぐに興味を無くしたのか廣井さんとの会話に戻って行く。

 

「BoBのドラマーって……太郎君の事?」

 

「そうです山田太郎! 凄い偽名ですよね。この子去年のFOLTクリスマスライブ見に行ってからBoBのドラマーにハマった(・・・・)みたいなんです。それで一月のSTARRYでのライブ終わりの物販でフリーハグがあったって聞いて、未だにその時のライブチケット取れなかった事後悔してるんですよ」

 

「じっ自分だってリードギターの子が気になってるって言ってたじゃん! 物販に居なかったみたいだからって余裕ぶってるけど! そういえばあのリードギター、イライザさんじゃないかって噂もあるんですけど……」

 

「フフフ。NO、私じゃないヨー!」

 

 女性たちの興奮気味な言葉を聞きながら、イライザさんは自分が褒められたかのようにニコニコと微笑んでいる。

 

「でも実際この辺の界隈じゃ最近結構話題ですよBoB。突然現れた実力派バンドだって。この前なんかウチらの拠点のライブハウスにも痛い恰好した雑誌ライターを名乗る女が乗り込んできて、凄い剣幕でBoBの……特にドラムの聞き込みしてましたし」

 

 これマジ? BoBの評判気持ちよすぎだろ! 最後に出て来た痛い恰好した雑誌ライターが不穏だが、話題なのは嬉しい話だ。隣で自分の評判を聞いて嬉しさでニヤケ面を晒しながら液状化しかけているひとりの脇腹を、正体バレの注意の意味も込めて肘で軽く小突いておく。

 

 この感じなら廣井さん達から俺達の正体が漏れる事はなさそうだが、このまま持ち上げられると俺もひとりも嬉しさから舞い上がってボロを出しかねないので、少々強引だがこの場から一足先にお暇する事にした。

 

「ごちそうさまでした。お会計お願いします」

 

 話をしている廣井さん達を尻目に、赤の他人を装い二人分の器を返却しながら店主に料金を払い、ひとり目くばせすると、二人で屋台を後にする。憧れのバンドマンと話している興奮の為か女性三人がこちらを気にする様子は全く無い。

 

 屋台から離脱出来た事に安堵しながらとりあえずその場を離れるため駅に向かって歩きだすと、女性達との話をやんわりと切り上げて会計を済ませて席を立つ廣井さん達の声が背後から聞こえて来た。

 

「ごめんね~。長居したら大将に悪いし、わたし達もそろそろ行くね。大将~お勘定お願い~。この子達の分も一緒にね~」

 

「あっすみません長々と話しちゃって」

 

「いいよいいよ~。良かったらまたライブ見に来てね。SICKHACKも……それにBoBも」

 

「またネー!」

 

「SIDEROSもよろしくおねがいしま~す」

 

 女性達に別れを告げた廣井さんはカラコロと三月の寒空に不釣り合いな下駄の軽快な音を奏でながら、先を歩いていた俺とひとりにイライザさん達と共に駆け寄り、最後に悪戯を思いついたようなとても楽しそうな顔を浮かべると、俺の方を叩きながら屋台にいる三人にわざと聞こえるような声を上げる。

 

「……も~待ってよ太郎(・・)君、ごとり(・・・)ちゃ~ん!」

 

 廣井さん達が立ち去り、憧れのバンドマンと話せた嬉しさの余韻を和やかに味わっていた様子の女性達三人だったが、廣井さんの言葉が聞こえたのかやにわに騒ぎ始める。

 

「………………は? え? はぁっ!? たっ太郎君とごとりちゃんって……」

 

「えっ? もっもしかしてさっき隅に座ってた二人って……!?」

 

「いっ今から追いかけたらまだ間に合うんじゃ……!」

 

「はいラーメンお待ち! お代はさっきのおねーさんから貰ってるからね!」

 

「あああああああああ!!」

 

 女性達三人の悲痛な叫びが後ろから聞こえて来る。ちょっと悪い気もしたが、でも絶対俺達の顔見るよりそのラーメン食べる方が価値があるから! そこのラーメン美味しいから! 

 

 屋台から響く女性たちの叫び声を背中に浴びながら、俺達五人はその場を後にした。

 

 

 

 

 

「全く……何でいきなり名前呼ぶんですか……」

 

「ごめんごめん。でもこうやってアピールしとかないと、特に太郎君は実在してるのか疑われるよ~」

 

 現在の時刻は午前零時を過ぎている。

 

 屋台のラーメン屋を後にした俺達にイライザさんは始発までレンタルスタジオで演奏しようと提案してきた。が、今日の俺は結束バンドの路上ライブの見学だったので道具を一切持っていない。ドラムスティックはレンタル出来ない場合が多いのでその事を伝えたのだが……

 

「あっそれなら私持ってるよ」

 

「なんでお前が持ってんだよ……」

 

 何故かひとりが鞄からドラムスティックを取り出して来たので、俺達は二十四時間営業のレンタルスタジオへやって来て、今は各々機材のセッティングをしている。

 

「本当に廣井さん一曲目参加しないんですか? 楽器持って来てるのに」

 

「いいのいいの。ベース一人の編成はSIDEROSや結束バンド、BoBと同じだからね。最初は私はお客さん役~。それに太郎君のドラムを客席から聞くのって初めてじゃない?」

 

 確かに廣井さんと出会ってから、俺が演奏する時には常に廣井さんがベースとして参加してくれていた。俺は今日初めて廣井さん以外のベーシストとセッションするのだ。そう思うとなんだか少し緊張してきた。

 

「それじゃーそろそろ演奏しようヨ! 曲は……まずはSIDEROSの曲でイイ?」

 

「俺は行けますよ。ひとりはどうだ?」

 

「あっ私も大丈夫。前に聞いた事あるから……」

 

 ひとりは大体どんな曲でも一度聞けば弾けるようになるらしい。正直何を言ってんだこいつ? と思うが、実際に弾けているので俺も何も言えないのだ。

 

 俺も聞いたことがある曲ならキメさえ分かればアドリブで大体何とか出来るが、流石にひとり程の完成度は無い。これは同じ時期に楽器を初めた俺がひとりに追いつけなかった能力だ。

 

 内田さんはSIDEROSなので当然問題ない。今回の曲はイライザさんがボーカル&リードギター、ひとりがリズムギターを担当する事になり、廣井さんを観客に見立てていよいよ曲が始まった。

 

 俺は今日のメンバーとはひとり以外は合わせるのが初めてなので、まずは俺のドラムを知って貰う事やバンド全体の音を掴む為に出来る限りフラットな演奏を心がける。

 

 ドラムは中心だから好き勝手に演奏すればいいのかというとそうでもない。なので同じリズム隊である内田さんのベースに意識を向ける。もっとこうした方が良いだろうか? ああした方が良いだろうか? そんな事を考えながら少しずつ少しずつ内田さんのベースに歩み寄る。

 

 内田さんも同じ事を考えているのか、ベースを弾きながらも時折こちらの様子を窺っている。恐らく俺の動きなどからドラムのリズムを感じているのだろう。

 

 気付けば一曲目が終わっていた。このメンバーで初めて合わせる一曲目という事で全員手探りだった為か、かなり無難な仕上がりになったと思う。

 

「えー? 何今の演奏~。太郎君遠慮してんの~?」

 

「うるさいですね……あーそういうことね。完全に理解した(わかってない)。イライザさん内田さん、次もSIDEROSの曲でいいですか?」

 

 曲が終わり、茶々を入れる廣井さんの言葉を聞いた俺は右手でスティックを回しながらイライザさんにお願いした。まぁひとりは大丈夫だろ。

 

 SIDEROSの曲をリクエストしたのは、まだ二曲目という事で俺に合わせるのに苦労している内田さんの負担軽減を考えた為だ。でも大丈夫、内田さんの呼吸は完全に理解した(わかってない)。

 

「! ……OK! じゃあ次もSIDEROSの曲で……」

 

 イライザさんが曲を指定して演奏の準備に入ると、俺は内田さんに向けてニヤリと笑みを浮かべた。

 

「そんじゃあ行きますか内田さん。俺達のリズム隊ってヤツを見せてやりましょう」

 

 リズム隊におけるベーシストには三通りの人間がいると聞く。ドラムを引っ張る奴。ドラムに寄りそう奴。ドラムの後に付いて来る奴の三種類で、最後の派生としてベースの方がドラムより上手い場合に『一歩下がって、ドラムを後から追い立てる』という奴がいる。

 

 これはどのベーシストが良いとか言うものでは無く相性の様な物で、これがピタリと合うとお互い気持ちよく演奏出来る。ってネットで書いてた! 先程の演奏を聴くに内田さんは寄り添う型だと思う。

 

 ベーシストはバスドラでドラムとリズムを合わせている人が多いので強めにドラムを叩く。あとは視線だ。人は目で見ている方向に意識が向くという事で俺は演奏中にメンバー……特にベースである廣井さんをよく見ている。

 

 今回も演奏中に内田さんを見ていると、内田さんもドラムと合わせる為なのかこちらを見て俺と目が合い、お互いニヤリと笑みを浮かべた瞬間――何かがカチリと噛み合った気がした。

 

 

 

 二曲目の演奏が終わると内田さんは息も絶え絶えだった。

 

 今のはかなり良かったんじゃないだろうか? 内田さんの疲労は、リズム隊がしっかりしているからこそのイライザさんやひとりの好き勝手なのびのびとした演奏に引っ張られる形で実力以上の物が出て来た事によるものだろう。

 

 俺が首元のシャツを引っ張り上げて顔の汗を拭っていると、イライザさんが今の演奏に興奮したように声を上げた。

 

「キャー! 今のすっごく良かったヨー!」

 

「はっはい。わっ私も良かったと思います」

 

「コレ幽々が居ればMXにきくり要らなくナイ?」

 

「駄目ですよ。内田さんもライオット出るんですから。ただでさえ衣装もお願いするんですし」

 

「ちょっと太郎君? それ、私が要らない否定になってないからね? でも確かに良かったよ~。太郎君も調子出てきたじゃん」

 

 俺達が話をしていると、肩で息をしていた内田さんが顔を上げた。生気のないような印象の目は、何故か今は爛々(らんらん)と輝いているようにも見える。

 

「う、うふふふふ……ヨヨコ先輩の言ってた意味が分かったわぁ~……」

 

 ヨヨコ先輩が何を言ってたのかは知らんがどうせ碌な事じゃないだろう。しかし疲れた様子の内田さんのやる気はまだまだありそうだ。

 

「お、何か分からないけどやる気十分って感じですね。そんじゃあ次はSICKHACKの曲やります?」

 

「いいね~。志麻になんかあった時に太郎君が助っ人出来るか見とこうか」

 

「え? なんかあった時って何ですか怖……それにそんな大役俺が出来る訳ないでしょ……」

 

「イイネ! それじゃあひとりは私のパートやってヨ! 私はアドリブでリズムギターやるから!」

 

「あっはい…………えっ!?」

 

「じゃあ内田ちゃんは私のパートね~。これでSICKHACKのコピーバンド完成~」

 

「え? ちょ、ちょっとぉ~、廣井さん~?」

 

「廣井さんベース弾かないならボーカルだけでもやってくださいよ。自分の曲でしょ?」

 

「え~しょうがないにゃあ……それじゃあ『ワタシダケユウレイ』を……あ! じゃあ太郎君サビのコーラスやってよ! お姉さんとの初めての共同作業ってねぇ~」

 

「何言ってんだこの人……? まぁいいですけど」

 

「廣井さんにボーカルだけさせるなんて贅沢な使い方……ヨヨコ先輩に言ったら……面白そぉ~~」

 

 俺達はその後SICKHACKやSIDEROSだけでなく結束バンドやBoBの曲や有名なアニソンなんかを、パートを交替したりボーカルを入れ替えたり、アレンジでベースやギターを二人にしたりコーラスを勝手に作ったりと、なかばカラオケ気分で休憩を挟みながら午前四時を迎えるまで演奏していた。

 

 レンタル終了の時間が来ると、スタジオを出て近くのファミレスで始発が動くまで朝食を取りながら反省会という名の先程の演奏の感想を言い合い、予定通り最寄り駅で解散する事になった。

 

「はぁー……今日は楽しかった! 皆またやろうネー!」

 

「今日は付き合って貰ってすみません内田さん。衣装(コスプレ)決まったらお願いしますね」

 

「衣装は任せて頂戴~。それに、今日はヨヨコ先輩の気持ちがちょっと分かったわぁ~」

 

「ぼっちちゃん大丈夫ー? なんか眠そうだけど」

 

「あっはい……大丈夫……です……」

 

 今日……というか昨日は結束バンドの初路上ライブだったので色んな意味で随分疲れていたのだろう。ひとりは疲労が限界に来たのか立ちながら舟を漕ぎ始めたので、俺は腕を掴んで支えながら廣井さん達に向かって別れの挨拶をした。

 

「それじゃあ俺達は帰ります。イライザさんも内田さんもありがとうございました。またなんかあったら連絡ください。廣井さんは……また今月のSTARRYでのBoBのライブで会いますね。あ、冷蔵庫にサンドウィッチとか色々入ってるんで帰ったら食べて下さい」

 

「太郎君ホントにお母さんみたいになってるよ……」

 

「言われたくなきゃ体重をもうちょっと増やしてくださいよ……一応廣井さんちで俺が言った事は本気ですから。『この世は戦う価値がある』ってね。それじゃあまたSTARRYで」

 

 廣井さん達と別れた後、俺達は品川駅まで行き金沢八景駅行きの電車の座席に座ると、ひとりは早速ギターケースを抱きながら隣に座った俺にもたれ掛かって眠り始めたので、すかさず俺はひとりの寝顔を写真に撮り始めた。

 

 おいおいおい……この角度のひとりちゃん可愛すぎだろ! こっちの角度はイケメンだしよぉ……なんだこいつ顔が良すぎる。

 

「んん……」

 

「あっやべ」

 

 これ以上撮影しているとひとりが起きそうだし、なにより俺が他の乗客から通報されかねないので、適当な所で撮影を切り上げて金沢八景駅に着くまで俺も少し目を瞑って休む事にした。

 

 寝過ごさず金沢八景駅に到着してひとりを起こしてなんとか改札を出たのだが、余程疲れているのかひとりはまだふらふらとしていた。

 

 これは心労の大きかった路上ライブに加えて、完徹しながら四時間近くスタジオで演奏していたせいな可能性が濃厚なので、責任の一端は自分にあると感じた俺はひとりの前で背中を向けて屈みこんだ。

 

「ほらひとり。家までおぶってやるからこっちにこい」

 

「ん~」

 

 ひとりは寝ぼけ(まなこ)な緩慢な動作で甘えるように俺の背中に覆いかぶさってきた。なんだかこの感じは昔を思い出してしまう。そのままひとりの膝の裏側から自分の腕を通して持ち上げながら、俺の首の前で交差させたひとりの手首を掴む。これぞ意識が無い奴でも後ろに倒れないおんぶの基本姿勢だ。

 

「よっと……お、健康優良児。安心する重さだな」

 

「うぅん……太郎君……」

 

「はいはい太郎君ですよっと」

 

 背負っているギターの重さが加わっているとはいえ、廣井さんを背負った後だとひとりの重さに安心してしまう。それくらい廣井さんの軽さは衝撃的だった。

 

 休日の朝という事もあって閑静な住宅街をひとりを背負いながらゆっくりと歩く。背負われたひとりは気持ち良さそうに眠っていて、時折変な笑い声も聞こえて来る。一体どんな夢を見ているのやら。

 

 だが廣井さんを送った時と違って人とほとんどすれ違わないのはありがたい。しかし一日に二人もおんぶして家に連れて帰るハメになるとは中々難儀な一日である。

 

 後藤家に辿り着きインターホンを押してしばらく待つと、玄関扉を開けておじさんとふたりちゃんとジミヘンが現れた。もしかしたらおじさんはひとりを心配して起きていたのかもしれないので、連絡を入れていたとはいえちょっと申し訳ない気分だ。

 

「おはよう太郎君。わざわざありがとね。後は僕が……いや、悪いけどこのままひとりを部屋まで運んでくれるかい? 布団は敷いてあるから」

 

「ウッス分かりました」

 

「あー! おねえちゃんズルイ! たろーくんふたりもおんぶしてー!」

 

「後でね、あとで……ちょ、ちょっとやめ……いま登ってこられると危ないからぁ!」

 

 おじさんに先導される形で俺の足元にまとわりつくふたりちゃんとジミヘンを引き連れてひとりを部屋まで運んで布団に寝かせてから、眠気を堪えながら約束通りふたりちゃんをおんぶしたり肩車したりしてしばらく遊んでいると、俺の様子を見たおばさんから朝食や布団は出すからしばらく眠っていくか誘われた。

 

 朝食はもうファミレスで済ませたし、家も近所なので申し出を断って帰る事にしたのだが……

 

「ふたりもたろーくんといっしょにお昼寝するー!」

 

 これが鶴の一声となり、後藤家で一寝入りさせて貰う事になった。でもこれはみんなには内緒なんだけどね……実はまだお昼寝するような時間じゃないんだよふたりちゃん。

 

 眠るなら静かな部屋が良いだろうという事で、既にひとりが眠っているひとりの部屋で俺も眠る事になった。父親自ら娘の部屋を提案するのはどうなんだろうとも思ったが、まぁそれくらい信頼してくれているのかもしれない。

 

 いい加減眠気も限界だったので布団に入ると、一緒にふたりちゃんやジミヘンも潜り込んできたが気にしない。俺はもう寝るから後は好きにしてほしい。

 

 ふたりちゃんとジミヘンを湯たんぽ代わりに抱き締めながら、気が付けば俺は深い眠りへと落ちていた。

 

 

 

 オレンジ色の常夜灯に照らされた薄暗い和室で目を覚ます。そういえばひとりの部屋で寝ていた事をぼんやりと思い出すと同時に、何となく人の気配や視線を感じて薄目で枕元へ顔と視線を向けると、何故かひとりがスマホ片手に俺の顔を覗き込むようにして眺めていた。

 

太郎君の寝顔……うへへ……

 

「……何やってんだお前」

 

「ぴゃっ……!」

 

 寝起き特有のガラガラ声で俺が話しかけると、ひとりは悲鳴にも近い声を発しながら驚き、あたふたと慌てた様子で持っていたスマホを引っ込めた。

 

「えっ!? あっいやっ……あのっ…………そっそうだ! おっお母さんが晩御飯が出来たって……言ってたような……言ってないような……」

 

 しどろもどろになりながら、焦った顔で視線をあちこちに彷徨わせるひとりから出て来た晩御飯という言葉を聞いて枕元に置いた自分のスマホで時間を見ると、もう十八時を過ぎていた。後藤家に着いたのが朝の七時くらいだった筈なので十一時間程寝ていた事になる。これ昼夜逆転大丈夫かな……? なんて不安になってしまう。

 

 伸びをしながら体を起こすとトタトタと賑やかに階段を上って来る音が聞こえて来る。その音はひとりの部屋の前で止まったかと思うと、すぐに出入口の襖が勢いよく開いた。廊下から入って来る強い光に思わず目を細めると、そこにはふたりちゃんとジミヘンが立っていた。

 

「あっ! たろーくんおはよー! おかーさんがばんご飯できたから呼んできてって! いっしょに行こー!」

 

「ああ、今ひとりにも聞いたよ。伝えに来てくれてありがとねふたりちゃん」

 

「うん!」

 

 ふたりちゃんにお礼を言いながら俺は布団から抜け出した。だがふたりちゃんは俺の今の言葉に疑問を覚えたのか、可愛らしく小首を傾げている。

 

「あれ? でもなんでおねーちゃんがごはんできたの知ってるの? ずっとおへやにいたんじゃ……」

 

「さっさぁふたり! お姉ちゃんと一緒にご飯食べに行こっか!」

 

「え~。ふたり、たろーくんと一緒に行く~」

 

 疑問を口にするふたりちゃんの言葉を遮るように、ひとりは慌てた様子で食卓までの同伴を申し出る。だがふたりちゃんはその申し出を断ってトテトテと俺の傍まで歩いて来ると、俺と手を繋いできた。

 

「そんじゃあ行こうかふたりちゃん。ほらひとりも。なんならお前も手を繋いでやろうか?」

 

「えっ!? あっいやっ…………だっ大丈夫……」

 

 あまりにはっきりふたりちゃんに断られて肩を落としているひとりに冗談交じりに声をかけると、ひとりは目を真ん丸にして驚いていた。薄暗い部屋でこいつが一人で何をしていたのかは気になる所だが……まぁ大方俺の変な寝顔の写真でも撮るつもりだったのだろう。

 

 手をつないだふたりちゃんに食卓へと案内され晩御飯をご馳走になった俺は、おじさんとおばさんに一宿一飯のお礼を言うと自宅へと帰る事にした。

 

 玄関の外まで見送りに来たひとりと今日の事や世間話をしていると、そろそろ進級の季節だという話になった。

 

 そう言えばもうそんな時期か。一年前のお互い合わせもせず、バンドも組まず、ライブもした事が無かった俺達を思えば、随分遠くに来たもんだと思ってしまう。

 

「俺達ももうすぐ二年かぁ……ひとりは将来音ステに出た時の幼馴染トークとして一番面白い展開て何だと思う? やっぱ小中高の十二年間一度も同じクラスにならない事か?」

 

「えっ? うーん……それならやっぱり最後の年に同じクラスになる事じゃないかな?」

 

「お? お前も案外青春って奴が分かってるじゃねーか。じゃあ次もまた俺とひとりは別のクラスかもな」

 

「……そう、かな」

 

 実際のクラス分けは教師しか与り知らぬところだが、今の教室に知り合いがいないせいか心なし寂しそうな雰囲気のひとりの背中を軽く叩いてやる。

 

「そう落ち込むなって。登下校は俺と一緒だし、学校には喜多さんがいるし、STARRYにはバンド仲間がいるだろ。それに案外喜多さんとは同じクラスになるかもしれないぞっ……と。じゃあな」

 

 あまり長話をして遅くなってもマズイので、言うだけ言って俺はひとりと別れて家へと歩きだす。

 

 次の一年は虹夏先輩やリョウ先輩、ヨヨコ先輩達にとっては高校最後の一年だ。就職か進学か……はたまたフリーターなどしながらバンドを続けていくのか、俺も将来の事を考えなくてはならないのかもしれない。

 

 出会いがあれば別れもある。いや正確には先輩達とは別れではないのだが……ともかくもうすぐ始まる新しい一年に思いを馳せながら、俺は家へと帰るのだった。




 次回は進級話+α(あれば)で、その次が池袋ブッキングライブ編の予定です。

 イライザさんの電話シーン、多機能フォームのプレビューだと問題無いんですが、それ以外だとどうしても二か所ルビが機能しないのは何が原因なんでしょう?感想で対処法教えて貰って一応解決しました。ありがとうございます。

 以下の後書きは長いんで読まなくても大丈夫です。

 今回の話は廣井さんをおんぶして廣井宅に行って、ひとりちゃんをおんぶして帰ってくる。という流れは決めてました。

 廣井さんの部屋の中の様子は漫画四巻冒頭のグビグビ安酒レビューコーナーの背景が一応の根拠ですが全部妄想です。詳しい描写が来たら直します。



 廣井さん断酒話はかなり初期から考えてたんですが、廣井さん生存断酒ルートは真面目にやると滅茶苦茶重い話になりかねないんですよね。なんとか説得しようにも出会って一年足らずの主人公の泣き落としごときで断酒できたら、廣井きくりというキャラクターの否定だと思ってしまうんです。とは言えやっぱりなんとか助かって欲しいので一応今回の話で生存断酒フラグが立ったくらいに考えて貰えればいいかなと。

 正直今回の話はラーメン屋行く辺りから滅茶苦茶眠たい話書いてるなぁ……って自覚はあります。珍しいメンバーで普段いかない所に行ってわちゃわちゃする話がやってみたかったんですが、正直全てが中途半端になった感は否めない。

 屋台で会うSICKHACKファンの話は外伝漫画読んで急遽ぶっこみました。BoBを第三者から見た感想とかやってみたいんで、掲示板回とか興味あるんですが、私は主人公スゲーってやるのが苦手なので、BoBアンチスレとかで「正直山田太郎とか全然大した事ない。志麻の方が余裕で上」「バンド内で一人だけ男の山田は頭チ〇ポ野郎」とか書かれてる方が面白いと思ってます。でも多分やらない。あと主人公は一生表舞台では顔出さなくても良いんじゃないかなって……BoBがめっちゃくちゃ人気出ても、素顔知ってるのは共演者とスタッフ、知り合いだけっていうね。

 割とマジでなんとかひとりちゃんを正ヒロインっぽく書きたいんですが、この子マジで率先して喋らないし、この小説は一人称でひとりちゃんのモノローグとかもないので難しい。ただ、現時点で主人公が本当の意味で心を開いているのはひとりちゃんだけです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。