ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 ヘイお待ち! この話だけで一ヵ月かかったってマジ!? なんか異常に難しかったです。

 ところで秀華高校の制服ってブレザーとセーラーのどっちなんでしょう?
 調べたら正面の二本の縦線は『プリンセスライン』とかいうモノらしくて、これはセーラーにある奴はあるらしいです。
 原作でも冬になると喜多さんや佐々木さんが上着の上からセーター? カーディガン? を着てるんで、やっぱセーラーか?。
 でも女子がセーラーで男子はブレザー(前の話で太郎がブレザーを着てる)の学校ってあるのかな? ヤ、ヤバイ……もしかしたらしれっと学ランに修正してるかもしれません。


037 ひとり・ざ・ろっく!

 池袋のライブが終わってしばらく経った今日は、ライブの打ち上げとSTARRYスタッフの慰安旅行を兼ねてよみ瓜ランドへ遊びに行く日である。

 

 STARRYに集合してからよみ瓜ランドへ向かう為、早めに準備をしていた俺のスマホに虹夏先輩からロインのメッセージが送られてきた。

 

『太郎君状況はどう?』

 

「『今からひとりの家に向かいます。成否に関わらず家を出る前にまた連絡するので、そのまま待機お願いします』っと。送信」

 

 虹夏先輩のメッセージに返事を送ると、了解と描かれた可愛らしいスタンプが返って来た。それを確認した俺は自分の身支度を終えると、決意を新たにひとりの待つ後藤家へと向かう事にした。

 

 

 

「たろう君いらっしゃーい!」

 

「こんにちは、ふたりちゃん。お邪魔するね」

 

 後藤家のインターフォンを鳴らすと、すぐにふたりちゃんとジミヘンが出迎えてくれた。家の中へあがると、そのまま俺はすぐにひとりの部屋へは向かわずに、まずリビングへ向かいおじさんとおばさんに挨拶すると、二人に前もって伝えておいた作戦を確認する事にした。

 

「おじさん、おばさん。こんにちは」

 

「やあ太郎君、いらっしゃい。待ってたよ」

 

「太郎君いらっしゃい。ひとりちゃんは部屋にいるわよ。それと例のアレ(・・)、準備出来てるわよ」

 

「本当ですか! ありがとうございます!」

 

「頼んだよ太郎君! 僕はここでビデオカメラを準備して待ってるからね!」

 

「うふふ。でも本当に大丈夫かしら?」

 

「その辺は俺に任せて下さい」

 

 作戦の確認が滞りなく終わると、俺はおじさん達と別れていよいよひとりの部屋へと向かう。ひとりの部屋の襖の前まで辿り着くと、いつもと同じように部屋の中へと声を掛けた。万が一にも着替え中だったりしたら大変だからな。

 

「おーいひとり、俺だけど入っても大丈夫か?」

 

「えっ? 太郎君?」

 

 出発時間よりも早く来た俺の声に、驚いたように反応したひとりの声が中から聞こえると、俺の前の襖がひとりでに開かれて、その先にはいつも通りのピンクのジャージを着たひとりが立っていた。

 

「随分早いね……ってあれ? 今日って遊園地に行く日……だよね? 太郎君その恰好……」

 

 俺は開いた襖から無言で部屋の中へと入ると、後ろ手で襖を閉めながらひとりへと視線を移す。そのまま俺に不思議そうな視線を向けるひとりへ一歩詰め寄ると、ひとりは驚きながら一歩後ずさった。

 

「なななななに……!? どっどうしたの!?」

 

 俺が一歩詰め寄るとひとりが一歩後ずさる。そのまま壁際までひとりを追い詰めると、俺は左肘から先を壁につけてひとりへ身を乗り出した。いわゆる壁ドン(誤用)ってヤツだ。

 

「ああああにょ……そにょ……たっ太郎君?」

 

「なぁひとり……」

 

「ひゃっひゃい!」

 

 顔を真っ赤にしながらあたふたとしているひとりの耳元へ俺が顔を近づけて静かに語りかけると、ひとりの体がビクリと大きく震えた。

 

「まず俺さぁ……もうすぐ誕生日なんだけど……」

 

「はっはははい……知ってましゅ……」

 

「それでな、ひとりに頼みがあるんだよ」

 

「ななななんでしょう……」

 

 顔を赤くしながら俯いて、困ったように両手の指をもじもじと重ね合わせているひとりを見ながら、俺は一応今のところ作戦が順調に進んでいる事に安堵する。

 

 ちなみにここまでの演出は全て、今日の計画を相談した時に喜多さんとリョウ先輩から貰った、『こうすればひとりはイチコロ』というよく分からんアドバイスだったりする。

 

 正直慣れない態度に体がムズムズしているので、さっさと終わらせたいのだが……えーっとこの後はどうするんだっけ? 確かひとりの顎を……

 

「ッ!?」

 

 俺が喜多さんとリョウ先輩のアドバイスを思い出しながら、空いている右手で俯いているひとりの顎を軽く持ち上げながら視線を合わせると、ひとりは驚愕したように目を見開いた。のだが……

 

 うお!? こいつ……顔が良い! なんだこいつ顔が良すぎるだろ!? 顔が良すぎる! やばいな、思わず語彙力が消失してしまった……おいやめろ! そんな潤んだ瞳で俺を見つめて来るな! まずい、早くしないと俺の方が堕とされそうだ……

 

 長い間見つめ合っているとまずいと感じた俺はさっさと本題に入る事にした。

 

「ひとり、お前は俺の頼みを聞いてくれるな?」

 

「えっ? いや、あの……」

 

「はい、って言え」

 

「は、はぃ……ってあああああああの……! そっそそそそれってもしかして、今日太郎君が制服着てる事にかっ関係あったりする……?」

 

 なんとか遠回しな言い方でひとりから了承を取り付けようと思ったのだが、流石に内容も聞かずに承諾は出来なかったのか、ひとりは焦ったように高速で視線をあちこちに動かしながら俺に質問してきた。

 

 そう、よみ瓜ランドへ向かう今日、俺は秀華高校の制服を着ているのである。

 

「お、中々勘が良いじゃないか。バレちまったら仕方ない。なぁひとり……今日は俺と一緒に制服デステニーならぬ制服よみ瓜で青春しようぜぇ……」

 

「制服よみ瓜っ!?」

 

 俺の言葉を聞いたひとりは驚いて叫んだ後、そのまま壁に背を預けながら白目を剥いて全身を震えさせ始めた。

 

 まずい、『制服よみ瓜』というワードのあまりの青春濃度の高さにひとりが泡を噴きながら痙攣を起こしてしまった。だが俺は慌てない。何故ならこいつが人の形を保っている状況はまだギリギリ大丈夫だからだ。

 

 そんな訳で、俺は痙攣を起こしているひとりに壁ドン(誤用)を続行したまま説得を続ける事にした。

 

「あばばばば……」

 

「お、おいひとり落ち着けって、な? 今回だけ俺への誕生日プレゼントだと思って頼むよ。大丈夫、お前が乗ってくれたら虹夏先輩達も制服で来るからさ」

 

 実は虹夏先輩達とはもう話は付いている。後藤家に来る前に連絡していたのがそれだ。ひとりの返事の結果を後藤家を出発する前に伝えれば、俺達がSTARRYに到着するまでの約二時間で虹夏先輩達は準備が出来るって訳なのである。

 

「でっでででも……」

 

「まぁまぁ、ちょっと考えてもみろよひとり」

 

 制服で行くのが俺達だけではない事に若干態度が軟化しかけたが、未だ渋る様子のひとりに俺はとっておきの手札を切る事にした。

 

「お前が虚言を投稿し続けてたギターヒーローの動画投稿欄があるだろ?」

 

「うっ……! でっでででもそれは太郎君だって……!」

 

「おっ落ち着け……! いっ今はそういう(・・・・)事を言ってるんじゃない……! よく考えろひとり……もし今日お前が制服でよみ瓜ランドに行ったとして……その事が書ける(・・・)んだぞ?」

 

「…………えっ!?」

 

「次の動画投稿の時に、『高校生はイベント盛りだくさんで大変!( *´艸`) この間なんて友達と制服でよみ瓜ランドに行ってきたよ!(*^▽^*)』なんて事が、虚言でも妄想でも誇張でも無く、嘘偽りない事実として書けるんだぞ……!」

 

「!!?!」

 

 おーおー驚いとる驚いとる。落ちたな(確信)。これで駄目だった場合は、最終手段として次のひとりの誕生日に俺がなんでも()言う事を聞いてやるとかなんとか言って説得しようと思っていたが、もう大丈夫そうだ。

 

 ひとりは動画を投稿した時の事を想像したのか、幸せそうに顔をふやけさせながら遂に俺の提案に乗っかって来た。

 

「うっうへへへへ……しっ仕方ないなぁ~……太郎君がそこまで言うなら、きょっ今日だけ制服着ちゃおうかなぁ~……」

 

「マジすかあざーっす! 流石ひとりさんっス!」

 

「うへへ……あっ、でっでも制服なんて今まで着てなかったから、急に言われても準備が……」

 

「大丈夫だ、その辺は抜かりない。ちょっと待ってろ」

 

 一年以上制服の上着を着ていなかった事を思い出したのか、ひとりが不安そうな声を上げた。だが問題無い。ひとりがその気になった時の為に、その辺は事前に対策をしてあるのだ。

 

 制服着用の言質を取った俺はひとりに部屋で待つように言ってリビングへと向かい、待機していたおばさん達にひとりの了承が取れた事を伝える。

 

 話を聞いたおばさんとふたりちゃんは、待ってましたと言わんばかりに用意していた秀華高校の制服の上着を持ってひとりの待つ部屋へと駆けて行った。

 

 おばさん達が行った直後はひとりの部屋が騒がしかったが、今は静かになったので上手くいったのだろう。俺はひとりの着替えが終わるのをリビングでおじさんと話をしたりジミヘンをモフったりしながら待っていると、リビングの外からふたりちゃんやおばさん達の声が聞こえて来た。

 

「おねーちゃんはやくー!」

 

「まままま待ってふたり……手を引っ張らないで……こっ心の準備が……!」

 

「えーなんでー? 早くたろー君に見て貰おうよー」

 

「太郎君お待たせ~。ほらひとりちゃん」

 

 一番初めにリビングに入って来たおばさんが廊下にいるであろうひとりに向かって声をかけると、ふたりちゃんに手を引かれて秀華高校の制服に身を包んだひとりが恥ずかしそうにリビングへと姿を現した。

 

「「おおー!」」

 

 俺とおじさんはソファーに座ったまま二人同時に感嘆の声を上げた。ソファーから立ち上がったおじさんはいつの間にかビデオカメラを回している。

 

 しかし秀華高校の入学式以来のひとりの制服姿だが……可愛過ぎか!? いや中学の時も似た様な制服を着てたんだが、こんなに似合っているのにどうしてこいつは高校からピンクジャージなんて物を着だしてしまったんだろうか? 謎は深まるばかりだ。

 

 まぁそんな事を考えていても仕方ないので、俺もおじさんに倣って自分のスマホでひとりの写真を撮る事にした。次に制服姿のひとりの写真を撮れる機会なんて卒業式になってしまうかも知れないし、こいつの事だから下手すると卒業式でもピンクジャージを着かねない。

 

 ひとりの写真を撮ったり、ひとりと一緒の写真をおじさん達に撮って貰ったり(まるで高校の入学式に戻ったような気分だ)しているうちに、そろそろSTARRYへと出発する時間がやって来た。

 

「おっとそろそろ時間だな。よし……じゃあひとり、最後に虹夏先輩達に送る用の写真を撮ろうぜ!」

 

 この写真はひとりとのツーショットを自慢する為……では勿論無く、本当にひとりが制服を着てよみ瓜ランドへ行くことの証明の意味を込めての写真である。万が一にも俺とひとりの二人だけが制服で、他の人は私服という事だけは避けなければならない。流石にそれは恥ずかしすぎる。

 

 そういう訳で俺はひとりと肩を組んで自撮りをすると、虹夏先輩に写真と共にメッセージを送る事にした。

 

「えーっと……『ウェ~イ! 虹夏先輩見てる~? 今からお宅のリードギターのひとりちゃんと~……制服でSTARRYに向かっちゃいま~す!』っと……パリピってこんな感じか?」

 

「いっいいねっ! 制服で遊園地なんて……もしかして私達もう陽キャなパリピなんじゃ!?」

 

 自分で送っといてなんだが、絶対に違うと思う……まぁひとりが楽しそうだからいいか。でも今はテンション爆上げでハイになっているが、絶対この後に我に返って面倒な事になるだろうけどな! 電車に乗ればこっちのもんよ。

 

 虹夏先輩にロインを送るとすぐに返事が来た。内容はひとりの写真を見た感想なのか、怒涛のスタンプ連打と、最後に『他の人達には私から伝えておくね!』といったメッセージが書き込まれていた。

 

 その返信を見た俺達は後藤家に見送られてSTARRYへと出発したのだった。

 

 

 

 電車に乗っている時も落ち着かない様子のひとりだったが、下北沢に着くと普段着ていない制服姿で歩くのは余程恥ずかしかったのか、この一年で下北沢に慣れて来たと思ったひとりを久々に背中に張り付けながら俺はなんとかSTARRYへ辿り着いた。

 

「おはようございまーす」

 

「あっ太郎君来た……って、あー! 本当にぼっちちゃん制服で来たんだね! かわいいー!」

 

「きゃー! ひとりちゃんかわいいー! こっちに目線お願いしまーす!」

 

「おお~……ぼっちの制服姿……SSRブロマイドとして一枚千五百円で売ろう」

 

「あっ……へへっ……あっちょ……しゃ写真はちょっと……たっ太郎君助けて……」

 

 いつものSTARRYの扉を潜り、階段を下りながら、手筈通り制服を着てテーブルについていた先輩達に挨拶すると、俺の背中に張り付いていた秀華高校の制服姿のひとりを見つけた三人は歓声を上げながらすぐに写真を撮り始めた。

 

「へぇ~、こうして見るとやっぱり後藤さんもちゃんと女子高生なんですねぇ~」

 

「ぼっちちゃんもキラキラしてるなぁ~……かぁ~! おにころが進むなぁ!」

 

 今日のよみ瓜ランドへ同行する、もう一つのテーブルに座っていたPAさんや廣井さんも、初めて見るひとりの制服姿に感慨深げな言葉を漏らしている。

 

 しかしひとりの恰好が可愛い事はいいんだが……こいつ人が多くなって来た場所からずっと俺の背中に張り付いてるのは、もうそういう妖怪としか思えないんだが? 見た目の良さで人を油断させるモノノケの(たぐい)だろこいつ……

 

「……そういえばひとりちゃんって昔はスカートの下にジャージなんて履いてたかしら? 履いてなかったわよね? せっかく可愛いのに、どうしてジャージを履くようになったの?」

 

 夢中になってひとりの写真を撮っていた喜多さんが突然気が付いた疑問を口にすると、俺の背中に隠れながら写真を撮られていたひとりは明らかに体を硬直させた。

 

 そう言われてみれば、確かに秀華高校に入って直ぐの頃は上着こそジャージだったが、スカートの下にはジャージなんて履いていなかった気がする。それが気が付けば何時からか全身ピンクになってしまっていたのは何故だろうか? 

 

 俺達が疑問に思っていると、ひとりは俺の背中にしがみ付いて震えながら声を上げた。

 

「ああああの……わっ私がスカートなんて履いたら、また(・・)太郎君に無価値な物を見せてしまう可能性が……」

 

「え? またってなんだよ? なんか見たか俺?」

 

「いっいや……あっあの……アー写撮影の時のジャンプで……その……」

 

「ジャンプって………………っ!?」

 

 恥ずかしそうに俺の背中に顔を埋めながらぽしょぽしょと話すひとりの言っている意味が分かった瞬間、俺は自分の顔が熱くなるのを自覚して、思わず声が裏返ってしまった。

 

「おっおまっ……なんでっ……!?」

 

 なんとかすっとぼけようと思ったが、俺の口から出て来たのは間の抜けた叫びだけだった。何故なら、あの時の写真の事は誰にも言っていない筈なのに、ひとりの口ぶりは完全に何があったのか分かっているようだったからだ。しかしそう言われて思い返してみれば、それ以降のひとりの恰好に思い当たる節もある。

 

「もしかしてお前がスカートの下にジャージ履き始めた理由ってあれ(・・)か!? いや、でもなんで……確かに俺は誰にも言わずに消した筈だぞ!? もしかしてデータが残ってたとか!?」

 

 俺の『データが残っていた』発言に対してひとりは背中に顔を埋めたまま首を横に振った。ならば何故バレたのかと疑問に思っていると、その答えがひとりの口から返って来た。

 

「だっだって……太郎君があんな風に何も言わず渋い顔する時は、私が何か、冗談にしづらい失敗した時だもん……」

 

 え……? つまり顔に出てた……ってコト!? おかしいな平静を装っていたつもりだったんだが……しかしまいったな……後藤ひとり全身ピンク化の原因の片棒を自分が担いでいたと思うと、何とかしないといけない気分になって来る。

 

 しかし何とかすると言ったって、どうすればいいんだよ……まさか無価値な物では無く、とても価値あるものを見させて頂きました、なんて言う訳にもいかない。そんな事言って万が一にでもひとりにドン引きされたら、これからどうやって生きていくんだよ……

 

「えー、なになに? 何の話? アー写撮影の時って言ったら……確か太郎君が怖い写真が撮れたからってすぐに消したヤツだよね?」

 

 やばい、いつもは頼りになる虹夏先輩だが、今だけは話に入ってこないで欲しかった。まさかひとりの下着を写真に収めてしまって(すぐに消したが)、今はその弁明をしていますなんて言えないからだ。

 

 ひとりも思い出して恥ずかしかったのか、俺の背中に顔を押し付けたまましがみ付いている状態に俺が困っていると、ふいにリョウ先輩と目が合った。リョウ先輩はいつもの無表情で一度頷くと、一歩前へと踏み出した。任せていいんですねリョウ先輩? ここが乗り切れたら超特盛の牛丼を奢ってもいいですよ! 

 

「虹夏、落ち着いてよく聞いて」

 

「何? リョウは何か知ってるの?」

 

「多分だけど、アー写撮影でジャンプした時に太郎がぼっちのパンツを撮った」

 

「えっ?」

 

「ちょっとリョウ先輩!? なんだったんですかさっきのドヤ顔は!?」

 

 俺が声を荒げると、リョウ先輩から鋭い視線が返って来た。まるで素人は黙っとれとでも言いたげな視線だ。結論から言うとリョウ先輩の思惑通り自体はきちんと収束して、俺はこの後リョウ先輩に感謝して食べ物を奢る事になる。

 

「……ああ~! あの時のってそういう事だったんだ! も~! 太郎君ももっと早く言ってよ~! あたし、あの後しばらく怖かったんだから~!」

 

「……えっ? あの……? はい……」

 

「そういえば池袋のライブでもそうでしたけど、ひとりちゃんってあんまり運動神経良くないみたいですもんね。ごめんね、私がジャンプしようなんて提案しちゃったから……」

 

「あっいや……きっ喜多ちゃんのせいじゃないです……」

 

 あ、あれ? なんか割と大丈夫な感じ? てっきりバレたらつるし上げを食らってなんやかんやえらい目に遭うのかと思っていたが、なんだか和やかな雰囲気になっている。これが山田リョウメゾット? って奴か!? スゲー! 

 

 しかしこの空気が未だに信じられない俺がよほど訝し気な顔をしていたのか、俺の顔を見た虹夏先輩は笑顔で説明してくれた。

 

「まぁそういう写真が撮れちゃったのが事故だって事は、多分ぼっちちゃん含めてみんな分かってるから大丈夫だよ。それに太郎君もすぐに写真消してたしね!」

 

「は、はぁ……」

 

「そうよ。それにひとりちゃんも今日ジャージを履かずに来たって事は、一応気持ちの整理は付いたんでしょ?」

 

「えっ!? えっと……あっはい……」

 

 例の写真の事での俺の一応の無罪が確定すると、今度はひとりの制服の話になった。

 

 まさか今日の制服が俺の誕生日プレゼント替わりにとなかば強引に迫った事と、動画投稿欄にリア充エピソードが書けると丸め込んで着させたとバレる訳にはいかない。ひとりも同じような事を考えたのか、喜多さんの言葉に微妙な声色で返事をしていた。

 

 ただ理由はどうであれ、今日の制服の下にはジャージを履いていないという事は、実際気持ちの整理が多少は付いたって事なのだろうか? だとしたら少し安心する。

 

 俺が撮影を担当したせいでひとりにおかしなトラウマを植え付けてしまったのも事実なので申し訳なくも思う。もし撮影者が虹夏先輩辺りだったなら、たとえ下着を撮られてもジャージを履くような事は無かったかもしれない。

 

 高校時代はまだ良いとしても、これからずっとジャージを着て生きていくって訳にもいかないので、喜多さんの言う通り今日ジャージを履かずに制服を着た事は、一歩前進(中学の頃は普通に制服を着ていたので、元の位置に戻ってきたのか?)したという事で良いのだろうか? 

 

 しかしそういう事ならばと、せっかくなので俺は欲をかいてもう一歩先のステージを目指してみる事にした。

 

「じゃあひとり、今度その格好で一緒に学校に行こうぜぇ~」

 

「……えっ!?」

 

「いいわね! じゃあその時は、私の友達も誘って、今度こそみんなで一緒にお昼食べましょう!」

 

「え゛っ!?」

「え゛っ!?」

 

「どうして二人してそんな声出すのよ!?」

 

 藪を突いて蛇を出すとはこういう事だろうか。俺が欲をかいたせいで出て来た喜多さんのあまりに恐ろしい提案に、俺達二人は同時に絞められた鶏の様な声を上げてしまった。

 

 実を言うと喜多さんに友人を交えての昼食に誘われたのは初めてではない。だがその度に、俺はのらりくらりと喜多さんのお誘いをかわし続けている。それでもなお懲りずに誘い続けてくれるのが喜多さんという陽キャの良い所であり、厄介な所でもある。

 

 考えても見て欲しい。俺の様な人間が喜多さんとその友人達という陽キャ集団に混ざって昼ご飯を食べるという状況を。新手の拷問か? さらに言えば、喜多さんの友人の中に男子を見た事が無い。ということは、男子は俺一人確定である。やっぱり新手の拷問だろ? 

 

 ひとりは一度喜多さんに捕まってお昼を一緒してから(俺は不参加だった)、昼休みになるとまるで忍者のように忽然と姿を消すようになってしまった。余程耐えがたい何かがあったのだろう。おかげで最近は昼休みになったら二人していつもの謎スペースに一目散に逃げ込んでいる始末だ。

 

 おまけにひとりは席が喜多さんの真後ろであることから、休み時間に少し席を外せば大勢の喜多さんの友人が席の周りに集まり、ひとりの机にもたれ掛かったり座ったりしているのだ。教室に戻って来て自分の席が占拠されてオロオロしているひとりを見るたびに、俺はひとりを誘って廊下で休み時間終了まで駄弁っている。

 

 そんな訳で、二年になって喜多さんと同じクラスになってから、ある意味で俺達の心労は一年の頃より増えたと言っても過言では無い。

 

 あれほどクラスメイトから話しかけて貰おうと頑張っていたひとりも、いざ本当に向こうから話しかけられると上手く会話出来ずにストレスを感じているのだから上手くいかないものである。

 

 勿論喜多さんやその友人たちは良い人達だ。きっと普通の人間ならこういう事をきっかけに交友関係を広げたりするんだろうが、結局俺達がぼっちなのは周りからのアプローチが無かったからでは無く、俺達自身の気性とか性根の問題だったようで、世の中なんともままならないものだと感じてしまう。

 

 制服姿で一緒に昼ご飯を食べるというその時(・・・)の事を想像しているのか、楽しそうにはしゃいでいる喜多さんを俺達がこわばった表情で無言で見つめていると、店長が姿を表した。

 

「おい、そろそろ時間だから出発するぞ……ってぼっちちゃん本当に制服着て来たんだな……」

 

 店長はフロアを見渡して全員が揃っている事を確認すると、目ざとく俺の後ろに隠れていたひとりを見つけて、流れるようにスマホを突き出し写真を撮った。

 

「そういえば店長達は制服着ないんですか?」

 

「はぁ? 着るわけ無いだろ」

 

「でもほら、大人でも制服で遊園地って今流行ってるみたいですよ? ひとりもみんな一緒に制服の方がいいよな~?」

 

「えっ……? あっ……えっと……」

 

「…………」

 

「……えっ? 先輩もしかして迷ってるんですか~!?」

 

「ちょっとお姉ちゃん!? 太郎君も変な事言わないで! 三十路の姉の制服(コスプレ)姿と一緒に遊園地に行く(あたし)の事も考えてよ~!」

 

「……実際ディステニーなんかじゃ大人の制服って居るみたいですけど、現役JKが言葉にすると破壊力ありますね……」

 

 虹夏先輩の切れ味鋭い言葉のおかげか、結局大人組の制服(コスプレ)姿は叶わず、俺達はよみ瓜ランドへ向かう事になった。

 

 

 

「ついた~~! よみ瓜ランド!!」

 

「見てひとりちゃん! 私達の他にも結構制服の人いるわよ!」

 

「あっはい……」

 

 よみ瓜ランドに到着すると、テンションの高い虹夏先輩と喜多さんから改めて今日ここに来た目的が発表された。

 

 今日は池袋のライブの打ち上げと、STARRYスタッフ一同の慰安旅行、そしてなにより――未確認ライオットの一次審査の結果が来る日なのである。

 

 先の説明の通り本日は池袋ライブの打ち上げという事もあって本当はヨヨコ先輩も誘ったのだが、ヨヨコ先輩はSIDEROSメンバーと共にライオットの結果を待つとの事で今日は断られたのだ。ちょっと制服姿のヨヨコ先輩も見たかったが仕方ない。

 

 ヨヨコ先輩からは結果が届いたらすぐに連絡するとの事なのだが、未だに連絡は無い。そして結束バンドである虹夏先輩のスマホにも未だ連絡は無い。ヨヨコ先輩は自分達(SIDEROS)が一次で落ちるとは全く思っていないようだったし、俺もそう思うが、まだ連絡が来ない事にいささか不安になってくる。

 

「今日は日頃の不安吹き飛ばすくらい遊ぼーーー!」

 

 同じく当事者である虹夏先輩は不安も人一倍なのか、去年の夏に江の島に行った時とは比べ物にならないくらいはしゃいでいるが、出て来る言葉を聞けば無理矢理テンションを上げて現実逃避を行なっているみたいだ。

 

 そんな虹夏先輩の高いテンションとは正反対に、気だるげにベンチに座っているのが大人三人組だった。

 

しんどい

だるい

吐きそう

 

「やさぐれ三銃士!!」

 

「あ、あれ? 今日って慰安の意味もありましたよね……? なんでお三方はそんなダメージ受けてるんですか? 折角来たんですから俺達と一緒に回りましょうよ!」

 

「うるせぇな……この歳になって遊園地ではしゃぐとか……大人はそんな単純じゃないんだよ……」

 

「なんなんスか……こんなに明るい場所でそんな話聞きたくないですよ……」

 

「まぁとにかく私達は何か食べて時間潰してるから、お前ら遊んで来いよ」

 

 周りの同年代の子連れの来園者を見てダメージを受けていた大人三人はそういってレストランへ向かうと、オープンテラスで酒を飲み始めてしまった。あれだけやさぐれていたのに酒が入ると上機嫌になるのは、大人の方がよっぽど単純なように見えるんだが……

 

 仕方が無いので大人三人は放って置いて俺達だけで周る事になった。今回の遊園地で音頭を取るのは、こういう事をやらせたら俺達の中で右に出る物はいないであろうテーマパークマスターの喜多さんだ。

 

「今日は私に任せてくださいっ! 楽しい一日にしてあげます!」

 

 意気込み十分に喜多さんが語る中、大人組と同じ位低いテンションなのがひとりとリョウ先輩だった。

 

「おいどうしたひとり?」

 

「あっいや……カップルとか子連れとか学生集団とか、私の心を抉るものが多すぎて……」

 

「カップルは分かるが子連れはお前と関係ないだろ……あとお前は自分の恰好を思い出せ……今のお前は遊園地では割と上位の存在だぞ……リョウ先輩はどうしたんです?」

 

「家でだらだらしたかった……」

 

「えぇ……ほら二人とも、喜多さんもはりきってますし俺達も行きますよ」

 

 俺がひとりとリョウ先輩と話をしている中、よみ瓜ランドのマスコットキャラである瓜ボーと写真を撮っていた虹夏先輩と喜多さんが戻って来ると、テーマパークマスターの喜多さんにまず案内されたのは色々なグッズが売られているショップだった。

 

「いきなりショップですか?」

 

「そう! まずは形からって事で、瓜ボーカチューシャつけましょう!」

 

「え~……こうゆうのつけるの恥ずかしいんだけど」

 

「いやいや似合ってますよ虹夏先輩! キャー虹夏チャンカワイイー!」

 

「もー調子いいんだから~! あっ、それじゃあ太郎君もどうぞっ……って、くっ!」

 

 喜多さんにカチューシャを被せられた虹夏先輩を褒める俺の頭に、虹夏先輩がカチューシャを被せて来た。だがカチューシャを被った俺の姿を見た瞬間、虹夏先輩は笑いが噴き出すのを堪えながら顔を真横に逸らした。

 

「ぷっ……くくっ……た、太郎君も、か、かわいいよっ……くくっ……」

 

「ぷぷぷっ……たっ太郎、に、似合ってる……」

 

「なんなんすか虹夏先輩もリョウ先輩も……」

 

 どうせならせめて一思いに笑って欲しい。まぁ男の俺がこういうのをつけても様にならないのは分かっていたので、俺は自分につけられた瓜ボーカチューシャを外してひとりの頭につけてやる事にした。

 

「あっ……えっ!?」

 

「おー、やっぱりひとりの方が似合うな」

 

「きゃー! ひとりちゃんかわいいー!」

 

「いいね~! ぼっちちゃん似合ってるよ!」

 

「瓜ぼっち」

 

「おしっ! それの代金は俺が払ってやるから、お前今日はそれつけて周ろうぜ!」

 

「えっ……えっ!?」

 

 そんな訳で、俺とこういうのにあまり興味の無い様子のリョウ先輩以外は瓜ボーカチューシャをつけて遊園地を周る事になった。女子が制服姿にこういうグッズを身に着けると、一気に青春感が増してくるので大変よろしい。後でこのレアなひとりの写真を撮っておこう。

 

 いよいよアトラクションに向かう事になりまず一番最初にやって来たのは、喜多さんが言うには遊園地の定番らしいお化け屋敷だ。

 

 ここだけの話、俺はお化けと虫が苦手だ。しかしお化けに関しては今までこういう人工的な物はそうでもない筈だったのだが、ここ最近SIDEROSの霊感少女である内田さんと交流を持ってから、なんだか昔より弱くなったような気がする。

 

 俺が若干の神妙な面持ちでお化け屋敷の建物を見ながら、こういうのに強いひとりを盾にして後ろから付いて行こうかと考えていると、突然虹夏先輩が俺の左腕をガッチリと組んでホールドしてきた。驚いて虹夏先輩を見ると、先輩は不気味に口の端を吊り上げていた。

 

「えっ? な、何ですか虹夏先輩……あの、動きづらいんですけど……」

 

「……太郎君お化け苦手なんでしょ? じゃあ行こっか! ぼっちちゃんは右腕を拘束して!」

 

「あっはい!」

 

「あっはい! じゃねぇよ! なんで珍しくそんな元気なんだよ……やめ、やめろ! ちょっと虹夏先輩!? 俺は人工物はそんなに……ってちょっと……やめ、やめて! せめて自分のペースで歩かせて!」

 

「太郎、南無」

 

「じゃあリョウ先輩は私と一緒に行きましょう!」

 

 喜多さんはリョウ先輩と腕組みして、俺は右側をひとり、左側を虹夏先輩という二人に腕を拘束されて、動きを封じられながらお化け屋敷に入る事になった。

 

 

 

 

 

「あー面白かった。まぁお化け屋敷も怖かったんだけど、お化け役の人に別の意味で驚いたぼっちちゃんに驚いたお化け役の人の声に驚いた太郎君の声に驚いたって感じだったね……」

 

「お化けより前を歩く太郎達を見てる方が面白かった」

 

「俺はえらい目に遭いましたよ……虹夏先輩は怖がってるフリしながらもどんどん進んでいくから足を止める事も出来ないし……」

 

「あはは! よしっ! じゃあ次はジェットコースター乗ろう!」

 

 なんとかかんとか無事お化け屋敷が終わり、次に虹夏先輩がリクエストしたのはジェットコースターだった。

 

 確かひとりはこういう絶叫系は苦手だったと記憶しているのだが、虹夏先輩に大丈夫か確認されたひとりは元気よく肯定の返事をしていた。恐らく他の三人が楽しみにしているこの空気を壊さない様に頑張っているのだろう。ならば俺も止める事はすまい、骨は拾ってやる。

 

「じゃあ五人だし席はどうします?」

 

「あ、俺はひとりの後ろに座りますんで、皆さんで隣どうしで座ってください」

 

「いいの山田君?」

 

「ええ。そこがベストポジションなんですよ」

 

 流石の陽キャ兼テーマパークマスターの喜多さんである。こういう遊園地奇数問題に関しても抜かりなく気を遣ってくれる。

 

 遊園地奇数問題とは、大体遊園地の乗り物は偶数であることが多い問題である。ジェットコースターは大体横二列だし、観覧車は定員が四人までだったりするアレだ。

 

 喜多さんは一人席になってもあまり気にしないのかも知れないが、俺も今日は結束バンドに割り込むような真似はするつもりは無かったので、自分から端数になるように申し出る。それにこれに関してはひとりの後ろに座る理由というか、必要性もあるのだ。

 

 そういう訳で、俺達は第二のアトラクションのジェットコースターの列に並ぶのだった。

 

 

 

 

 

「は~どきどきした! ってひとりちゃん!?」

 

「これは……ぼっちちゃんの魂がジェットコースターの速度に付いて来れずに飛び出しちゃったんじゃ!?」

 

 ジェットコースターが一周して元の位置に戻って来ると、一番前に乗っていた虹夏先輩と喜多さんが後ろのひとりの異変に気付いて声を上げた。だが何も問題は無い。こういう事の為に俺はひとりの後ろの席に座ったのだから。

 

「でも気絶してるのに、ひとりちゃんなんだか凄く幸せそうな顔してますね?」

 

「太郎君大変! ぼっちちゃんが……って何持ってるの!?」

 

「ああ大丈夫ですよ。ほら、ひとりの魂ならこうして捕まえときましたから」

 

「どういうこと!?」

 

 俺は慌てた様子の二人に、胸に抱いていたピンク色のフヨフヨした謎の物体を掲げて見せた。

 

 今回俺はジェットコースターを楽しみつつも、いつ速度に耐え切れずひとりの体から魂が飛び出すかの方に全神経を集中していた。

 

 ひとりの体からすっぽ抜けた魂を、よみ瓜ランドのジェットコースターの最高速度である110kmでキャッチして、どこかに吹っ飛んでいかないように抱き締めておくのは、どのアトラクションでも体験できないスリル満載のイベントだぜ! これ絶対なんか楽しみ方間違ってるよな……? 

 

「で、でもどうやってソレ(・・)をぼっちちゃんに戻すの?」

 

「……まぁこういうのは口とかその辺の穴からぶち込めば大丈夫でしょ? へーきへーき」

 

 よく分からんが、確かおばさんも何かあったら適当に穴という穴にぶち込めって言ってたしな。

 

 俺がピンク色のフヨフヨした謎の物体をひとりの口から無理矢理捻じ込むと、ひとりの体がえび反りになり一度大きくビクリと跳ねた。ホラーかよ……お化け屋敷はもう終わった筈だろ……だがその処置で正解だったのか、直ぐにひとりは目を覚ました。

 

「んがが…………んはっ!? あっあれ!? 私は今まで何を……」

 

「よかった! 大丈夫ひとりちゃん?」

 

「えっ? あっはい……でもなんだか気を失ってからさっきまで、凄く暖かくて安心できる場所にいた気が……」

 

「おい怖ぇよ……本当に大丈夫なんだろうなお前……」

 

 ひとりの言葉を聞いていると、こいつは極楽浄土へ片足を突っ込みかけているんじゃないかと思ってしまう。怪談の季節にはちょっと早いぞ……

 

 意識を取り戻したひとりの話を聞いている間、何故かリョウ先輩も席から中々立ち上がろうとしなかった。そんなリョウ先輩を見かねた虹夏先輩が早く降りるよう促すと、リョウ先輩は無言で片手を突き出して来た。

 

「え? 何? 手なんか出してどうしたのリョウ?」

 

「太郎」

 

「え? 俺ですか?」

 

「……腰が抜けて立てない」

 

「えぇ……しょうがないですね。じゃあ肩貸しますんで……」

 

「だからおぶって」

 

「えぇっ!?」

 

 そんな訳で俺は今、次の喜多さんおすすめアトラクションであるアシカショーへ向かう為に、ジェットコースターで腰が抜けてしまったリョウ先輩をおぶって移動している。

 

「はぁ……自分で歩かなくていいのラク過ぎる……一生太郎の背中で暮らしたい……」

 

「イヤですよ……リョウ先輩は子泣き爺(妖怪)かなんかですか……」

 

「だらけてる先輩もイイっ! あっ! この角度なんかアンニュイな感じでステキ!」

 

「ちょっと誰か喜多さんを止めて下さいよ……」

 

 俺の背中に全体重を預けてぐでっとしているリョウ先輩は、いつぞやの廣井さんを思い出して仕方ない。なんでベーシストって皆こんな感じなんだ……? え? もしかして内田さんも……!? 

 

 実は最初、リョウ先輩に肩を貸したり背負ったりする役に喜多さんが自ら立候補したのだが、リョウ先輩の「郁代は安定感が無さそうだから」という一言で何故か俺が背負っていく事になってしまったのである。

 

 確かにリョウ先輩より背の低い喜多さんが背負っているのは見た目がよろしくないし、大変そうなので仕方ない。だからって歩いてる最中ずっと俺達(主にリョウ先輩の顔)の写真を撮ってるのはやめて欲しい。

 

 遊園地で人を背負って歩いているだけでも目立つのに、背負われているリョウ先輩の顔が良いせいなのか、それとも同じく顔の良い喜多さんが俺達の周りをウロチョロしながら写真を撮っているからなのか、さっきから道行く人がこちらを見て来るのがなんだかメチャクチャ恥ずかしい。

 

 完全に余談だが、この日を境によみ瓜ランドで制服の男女がおんぶをして写真を撮るのが少し流行ったのは完全に喜多さんが原因だと思う。誓って俺は関係無い。

 

 そんなわけで、好奇の目線からの羞恥心を堪えながらリョウ先輩を運び、アシカショーへとやって来たのである。

 

 俺はあまり興味の無かったアシカショーだったが、しかし実際に見てみるとちょっとガチでアシカに感心してしまった。

 

「はえ^~すっごい。いやマジで。アシカってなんて言うか……すごくすごいんですね」

 

「太郎君語彙力!? でも確かにすごかったね!」

 

「アシカって頭いいんですね~!」

 

「…………じゅるり」

 

「ちょっとリョウ!?」

「リョウ先輩!?」

 

「冗談冗談」

 

「もー、リョウのは冗談に聞こえないよー」

 

「ワイルドな先輩もステキ……!」

 

「えぇ……もはや喜多さん(この人)リョウ先輩ならなんでもいいんじゃ……で? ひとりは何を真剣にお願いしてるんだ?」

 

 お腹を鳴らしながら笑えない冗談を言うリョウ先輩に俺達がツッコミを入れている間、ひとりはショーを見ながら両手の指を組んで、涙を流しながら真剣に何事か祈っていたので気になって訊ねてみた。

 

「あっいや……その……らっ来世はアシカになれたらなって……」

 

「えぇ……お前アシカになりたいの……?」

 

 とんでもない事を聞いてしまった。こいつもう来世の事考えてるのかよ……どうせひとりの事だから今のショーを見て、拍手したりボールを運んだりジャンプしただけでちやほやされてるアシカになりたくなったんだろうが、アイツ等多分アシカ界のエリートだぞ。

 

「マジかよ~……来世も俺と一緒に人間やろうぜ~」

 

 その言葉を聞いたひとりは俺の顔をぼんやりと見て少し考えこんだ後、膝に置いた手を強く握ったまま無言で俯いてしまった。やはり人間はもう嫌なのだろうか? それともそんなにアシカになりたいのか? ここはひとつ人間の良さをアピールしておくべきかもしれない。

 

でっでも……それ(来世)だと太郎君とはもう…………

「じゃあ来世もお互い人間だったら、バンド……かどうかは分かんないけど、また一緒になんかやろうぜ~」

 

「……っ!!」

 

「うわびっくりした……! どうした急に?」

 

 アシカより人間の方が絶対楽しいぞと伝える為に一緒に何かやろうと誘った途端、突然弾かれたように顔を上げたひとりは、なんだか泣きそうな様な、感極まった様な表情でこちらを見て来たので、俺は何事かと驚いてしまった。

 

「何なになんなの? そういえば今何か言いかけてたけど、どうした?」

 

「そっそれはもう大丈夫……! うへへ……」

 

「そ、そうか? まぁいいけど……」

 

 ひとりは先程まで泣きそうだったのに、急に気持ち悪いにやけ顔を浮かべ始めたのでどうしたのかと聞いてみたが、もう大丈夫らしいので俺はそれ以上突っ込まない事にした。ああいう顔を浮かべている時のひとりは変な妄想をしている時なので、そっとしておいた方が良い。ほう、経験が生きたな。

 

 そうしている間にリョウ先輩のお腹がもう一度大きく鳴ったので、俺達は何か食べてから次のアトラクションに向かう事にしたのだった。

 

 

 

 フードコートで軽く食事をして(リョウ先輩に今日の例の写真騒動のお礼として一品奢っておいた)、その後も色々と周り閉園時間が近づいてくると、喜多さんが最後に観覧車に乗ろうと言い出した。

 

「観覧車は四人乗りですね。組み分けはどうします?」

 

「! し、仕方ないなぁ~……じゃあ、あたしと太郎君とぼっちちゃんで……」

 

「あ、俺は店長達の様子を見て来るんで、四人で乗ってください」

 

「……えっ!? た、太郎君乗らないの? 制服で女子と観覧車だよ!? 青春だよ!?」

 

「言い方……まぁ俺はまた来年もチャンスあるんで!」

 

「ちょっと! それじゃあ、あたしにもうチャンスが無いみたいじゃん! ……じゃあ卒業旅行! わたし達の卒業旅行は大槻さん達なんかも誘って、みんなで制服ディステニー行こうよ!」

 

「それは構いませんけど……虹夏先輩、なんでそんな必死なんですか?」

 

 アー写の時といい、虹夏先輩は青春って単語に拘っているみたいだから、案外そういうのが好きなんだろうか? しかし、提案はちょっと魅力的だが、ここで虹夏先輩の言う通り三対二の組み分けで観覧車に乗る事になるとまずいので、俺は自ら観覧車乗車を辞退する。

 

 何故なら忘れてはいけない、もうすぐ一日が終わりそうなのにも関わらず、ライオットのデモ審査結果がまだ虹夏先輩のスマホに届いていない事を。受かる事を信じてはいるが、もし観覧車内で落選通知が届いたらと思うと……ぞっとする。

 

 俺はぶー垂れる虹夏先輩がひとり達三人と観覧車に乗るのを見送った後、店長達がいるであろう最初のフードコートに向かう事にした。

 

 周りを見渡しながら歩いていると、フードコート近くのベンチで無事やさぐれ三銃士を発見したが、三人は飲み過ぎたのかぐったりとしており、見知らぬ子供たちに髪を弄られたり、空き缶を頭に載せられたりしておもちゃにされていた。

 

「お、おい何してんの君たち!? 命が惜しくないのか!?」

 

「なんだおまえー」

 

「おにーちゃんこのおねーちゃんたちの知り合い?」

 

「…………ソウダヨ」

 

 いかん……飲み潰れた三人のあまりのアレな姿に、肯定するのにちょっと躊躇してしまった。しかし良かったですね三人とも! 純真無垢な残酷さを持つ子供たちにまだお姉さんって呼ばれてますよ! 

 

 美人だがクール系の店長や酔っ払いの廣井さん、それに加えてピアスバチバチである意味一番見た目が怖いPAさんの三人をおもちゃにするという、そんな恐れを知らぬ子供たちを注意して帰らせると、俺のスマホにヨヨコ先輩からロインの連絡が入った。

 

『未確認ライオット一次通過の連絡が来たわ』

 

「おお! 『おめでとうございます』っと」

 

 お祝いのメッセージを返すと、『ま、まぁ私達なら当然だけど?』みたいな返信がすぐに返って来た。ドヤ顔のヨヨコ先輩が目に浮かぶようだ。

 

 しかしSIDEROS(実力者)であるヨヨコ先輩から今頃俺に連絡が来たという事は、審査の通過者には今まさに合格通知が一斉送信されたのかもしれない。だとすると、受かっていれば虹夏先輩のスマホにも連絡が来ているのだろう。もし落ちてたら……ナオキです。

 

 虹夏先輩達は観覧車に乗車中だし、店長達は酔いつぶれてグロッキーなので、俺は結束バンドの審査結果に今更ながらドキドキしつつ、店長達と同じベンチ、PAさんの隣に座って滅茶苦茶ロインを送って来るヨヨコ先輩とやり取りしながら待つ事にした。

 

 

 

「ん……あれ? 山田君?」

 

「あ、PAさんおはようございます……でいいんですかね?」

 

「…………うっ、目が覚めて挨拶してくれる人が居る生活ってこんな感じなんですね……」

 

「急に何の話ですか!?」

 

 しばらくすると、三人の中で比較的まともな様子のPAさんが最初に目を覚ました。俺が挨拶すると、起き掛け一番に意味不明な事を言いながら、PAさんがよよよと萌え袖を目元に当てて泣き出してしまった。いきなり私生活の闇を噴き出すな。泣き声に反応したのか、店長や廣井さんも続々と起き出して来た。

 

「うるせぇな……ってなんだこの髪は!? 誰だ、こんなことしたのは!?」

 

「う~ん……頭ガンガンする……記憶もねぇ……」

 

「二人共、今日なにしに遊園地に来たんですか……」

 

 目が覚めた店長達と少し話をしていると、ふいに虹夏先輩の声が聞こえて来た。声のする方に顔を向けると、手を振りながらこちらに向かって駆け寄って来る虹夏先輩と三人の姿が見えた。

 

「おねーちゃん-ん!! たろーくーん!! デモ審査とおった~~~!」

 

 走って来たそのままの勢いで嬉しそうに店長に抱き着く虹夏先輩や、その周りに集まるリョウ先輩や喜多さんを見ていると、ふと一歩引いた場所で佇むひとりの姿が目に入った。

 

 なんだか神妙な顔のひとりに、審査通過のお祝いでも言おうかと思ったが、すぐに虹夏先輩達は俺の元へとやって来たので、浮かしかけた腰を再びベンチに戻すことにした。

 

「やったよ太郎君! デモ審査通ったよ~!」

 

「やりましたね! おめでとうございます!」

 

 俺がベンチに座ったまま両手の平を相手へ向けてバンザイの様に上へ上げると、すぐに意図を察してくれたのか、虹夏先輩、リョウ先輩、喜多さん、最後にひとりが順番にハイタッチをしてくれた。

 

 そうして閉園時間ギリギリまで虹夏先輩達と審査突破を喜び合った後、特に店長が焼肉を奢ってくれるといった事も無く俺達は各自帰途に付いた。

 

 審査突破という喜ばしい事があったというのに、しかし俺はどうにもひとりが観覧車を降りてから……正確には審査突破のメールを貰った後からだろうか? 何かに悩んでいるのではないかと感じていた。

 

 その証拠に帰りの電車に乗っている今も、普段なら恥ずかしがってすぐに外すであろう瓜ボーカチューシャ等の遊園地グッズを身につけっぱなしで、神妙な顔をして座っている。

 

 結局、電車が最寄り駅に着いてもひとりの様子が治る事も無く、上の空と言った感じで後藤家の前まで来てしまった。こいつが悩んでいる時は、何故かいつも夜の後藤家の前で話をしている気がする。

 

「審査通ってよかったなひとり。まずは第一関門突破って感じだな」

 

「うっうん……ありがとう太郎君」

 

「いやー俺の方が緊張してくるぜ……ここから始まっちまうかもなぁ……後藤ひとりの伝説がよぉ……」

 

 このまま家に帰すのもどうかと思い、改めて審査突破のお祝いと冗談を俺が言うと、ひとりは何やら神妙な顔をしてこちらを見ていた。

 

「どうした?」

 

「いや……あの……」

 

 ひとりは何かを言い淀んだ末に、両手でスカートを握りしめて俯くと、やがて絞り出すように声を上げた。

 

「……私だけ(・・)楽しくていいのかな……って」

 

「? どういう意味だよ?」

 

「いや……その……たっ太郎君が……太郎君も……太郎君……だって……」

 

 消え入りそうな声になりながら、ひとりは怯えたような上目遣いで俺を見て来た。

 

 ああ、なるほど。優しいひとりはずっと俺の事で悩んでいてくれたのかもしれない。そう思うと、やっぱり俺はひとりの足を引っ張ってばかりだ。そんな思いをさせる為に、俺はお前の傍に居たかった訳じゃないんだ。だから、俺のせいで出て来てしまったこの問題は、俺がなんとかしなければいけないのだ。

 

 俺はゆっくりとひとりの正面に立つと、スカートを強く握りしめていたひとりの両手を優しく手に取り、真剣な表情でひとりの不安気な目と視線を合わせた。

 

「なぁひとり。俺と結束バンド、どっちの方が大事だ?」

 

「っ!! そっ……れは……」

 

「わはは冗談だよ。ご、ごめんな」

 

 ちょっと冗談を言って場を和ませるつもりが、勢いよく顔を上げたひとりが今にも泣きだしそうな表情だったので謝っておく。

 

 俺は手に取ったひとりの両手に視線を向けるように下を向いて、ギターの練習で固くなったひとりの指先を弄りながら言葉を続けた。

 

「正直お前とバンド組んでる虹夏先輩達が羨ましいって気持ちはまだ少しはある……でもまぁ、それに気付けたから、俺はもう大丈夫だよ。お前とはBoBもあるしな!」

 

 羨ましいのも事実だが、大丈夫なのも本心だ。だから、俺の事は気にせずに頑張って欲しいのだが……後はどうやってひとりに納得して貰うかというのが問題だ。

 

「それに、いま俺とお前が組んだらU-20じゃ敵なしになっちまうからな。それはそれで面白くないだろ? 可愛い子には旅をさせよとも言うし、俺のいないバンド活動でこそ、得る物もあるんじゃないか?」

 

 なんとかそれっぽい事を言ってひとりのエンジンを掛けようと思ったのだが、ひとりの顔を見ると納得したようなしていないような、何とも微妙な顔をしていた。こいつは自分の事はそうでもないが、他人の事になると意外と強情だからな。

 

 だがその表情から、あともう一押しだという雰囲気も感じるので、なにか発破になるような言葉は無い物だろうかと改めて考える。

 

「うーん……でもお前、あの(・・)メンバーで頑張ろうって思ったんだろ?」

 

「……うん」

 

「じゃあ行けるところまで頑張ってみようぜ。最後まで応援するからさ。それで俺に聴かせてくれよ、結束バンドでのお前のロックを」

 

「結束バンドでの……私のロック……」

 

 なにか感じる物があったのか、ひとりは何かを確かめるように、呆然と俺の言葉を繰り返した。

 

「ああ。BoBでしか出来ない物があるように、結束バンドでしか出来ない、結束バンドのお前だからこそ出来るロックってのが、きっとあると思うんだよ。だから、それを聴かせてくれよ」

 

「……うんっ」

 

 ひとりは小さな声ながらも力強く頷いた。覚悟が決まったなら、後は背中を押して送り出してやるだけだ。

 

「俺と二人……というか、BoBはぼっちの集まりだからぼっちず・ろっく! だったよな……なら後藤ひとりのロックは……ひとり・ざ・ろっく? ……でもこれじゃ語呂が悪いか? そうだな……」

 

 最後にバシッとなにか決め台詞を言おうと思って考え込んでいたが、思いついた言葉はどうにも語呂が悪いと感じ少し考え直す事にした。しばらく悩むと、良さそうな案が思い浮かぶ。

 

「よしっ……そんじゃあ見届けさせて貰おうかな。結束バンドでしか出来ない……結束バンドだからこそ出来る後藤ひとりのロック――」

 

 ひとりの背中を押すように――万感の思いを込めてその言葉を口にする。

 

 

 

 

 

「――ぼっち・ざ・ろっく! ってヤツをさ」

 

 

 

 

 

「――っ!! ……うんっ! じゃ、じゃあ……一番近くで見ててねっ! 太郎君!」

 

 ひとりは息を呑んで一度大きく目を見開き、だが嬉しそうに、楽しそうに、力強く頷いた。そんな眩しい顔を見た俺は、感極まって思い切りひとりを抱き締めた。

 

「!!?! ななななな何でっ!! たったたたたた太郎君っ!? 」

 

「でもやっぱりちょっと寂しいから、俺の事もたまには構ってくれよな~ひとり~」

 

 そう言ってひとしきり抱き締めると、ひとりの体が何故かデロデロになってしまった。

 

 デロデロの体でひとりが無事家へと入っていくのを見届けた俺は、恐らく遊園地グッズを身に着けた浮かれポンチな恰好のひとりを玄関で目撃したおばさんの驚きの悲鳴を聞きながら、なんだか晴れやかな気持ちで帰途に着いたのだった。




 実は今回のタイトルギリギリまでアニメ8話に倣って『ぼっち・ざ・ろっく!』だったんですが、こんなどうでもいい話に神タイトルを付けてもいい物か散々悩んで変更しました。あ、よかったらEDに各自で『なにが悪い』流しといてください。

 主人公の心の整理は池袋編で終わったんですが、ひとりちゃんの心の整理がまだ終わって無いので、遊園地編の最後の方がなんとなく問題提起と解決に丁度良い感じだったのでこうなりました。

 実はアシカショーの後、オリジナルU.F.〇(カップ焼きそば)を作るワークショップに行って、出来上がったBOBデザインU.F.〇を欲しがる虹夏先輩に誕生日プレゼント(この話は五月上旬)って事で渡したりする話があったんですが、ちょっとダラダラしそうだったんでカットしました。

 これがギャルゲーなら一番好感度の高い女子と二人きりで観覧車に乗るFF7みたいなイベントがあったかもしれない。え? 廣井さん? ヨヨコ先輩? そこに居なければ無いですね…… 

 次回は……ちょっと時間軸が遊園地の前か後のどっちになるか分かりませんが、一回は書いておこうと思ったBoBスタジオ練習風景とかの予定です。
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