ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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陽キャエアプなのでおかしなこと言ってるかもしれません


004 ギターボーカル探しの話

 STARRYでの初バイトの後に風邪を引いたひとりが復帰してしばらく経った月曜日の朝、ニコニコ顔でギターを担いだひとりを発見した。

 

「おはようひとり、今日はえらく機嫌が良いな。ギターまで持ち出してどうした」

 

「おはよう太郎君! あのね、私今朝考えたんだけどね……バンドしてライブハウスでバイトまでした私ってもう陰キャじゃないと思わない!? 後藤ひとりレベル百だよ百!」

 

 まだ熱があるんじゃないかと思う程の勢いでまくし立てられた俺は若干怯んでしまった。

 

「そうかな……そう、かなぁ?」

 

 昔ひとりが言っていた、バンドは陰キャでも輝けるという言葉は、陰キャのままでも輝けるって意味であって、輝いてる(イコール)陰キャじゃ無いとはならないだろ。しかし珍しく積極的なひとりにそんな事を言って勢いを削ぐ必要も無いので俺は言葉を濁した。

 

「そうだよ! だからギター持っていったら今日こそは誰か話しかけてくれるかなって!」

 

 なんで最後に発想が陰キャになるんだよ、そこは話しかけるぞとかだろう。ただまあ無理な物は無理だし、過去にこれでバンドメンバーをゲットしている実績があるので俺は強く言えなかった。成功してない奴の言い分に耳を貸すなとか成功を掴むまでやり続けろって言うしな。案外毎日ギターを持って学校に行ったら話しかけてくる奴がひょっこり出てくるかもしれん。知らんけど。

 

 結局俺は浮かれ気分のひとりを何も言わずに見守る事にした。

 

 昼休みになりいつもの場所に向かうと、ひとりはもう先に着いており半泣きになりながらおにぎりを食べていた。朝のテンションとはえらい違いだ。

 

「おいおいどうした、レベル百の後藤ひとりともあろうお方がそんな顔して。それで結局誰かに話しかけてもらえたか?」

 

 俺がそう言うとひとりはがっくりと肩を落としながら話し始めた。

 

「実は今日クラスの人が音楽の話をしてて……」

 

「ほう」

 

「それでつい反応しちゃって……そしたら、あ! って思ったよりも大きい声が出ちゃって……」

 

「お、もしかしてひとりから行ったのか?」

 

 自分の弁当を食べながら話を聞いていると、なんだか本当にレベル百の様な展開になって来た。

 

「い、行ったと言えば行ったんだけど……」

 

「だけど?」

 

「普段話かけて貰う事ばっかり考えてたから何言えばいいのか分かんなくなっちゃって……つい、忘れましたってぇ……」

 

「そっかぁ……」

 

 そこまで言うと、ひとりはがっくりと項垂れた。ノープランで動くと不測の事態に対応できないのは理解できるので俺はそれ以上何も言えなかった。

 

「絶対ヤバイ奴だって思われた、もう調子に乗るのはやめる……慎ましく生きる……」

 

「バカおまえ、ギタリストが慎ましく生きるな。ギタリストならもっと図太く生きろ、それこそがロックだろうが。あと多分おまえがヤバイ奴なのはもうバレてるぞ」

 

 慎ましさからかけ離れた理由でギタリストを目指した奴がおかしなことを言うので、俺は突っ込んだ。するとひとりは勢いよく顔を上げて俺の顔を見た。

 

「……そうかな?」

 

「そうだよ」

 

 前半部分と後半部分どちらに対しての疑問なのかと考えたが、結局どちらも間違っていないので俺はただ頷くことにした。

 

 その後少しだけ元気になったひとりと弁当を食べていると上の方から女子の話し声が聞こえて来た。人の声に驚いたひとりと一緒に聞き耳を立てていると、どうやら喜多さんなる人物の話だった。それによるととても歌が上手いらしく、前はバンドをしていてギターも弾けるらしい。

 

「あっ、喜多ちゃーん」

 

「やっほー」

 

 どうやらご本人が登場したようで、先ほどの女子が喜多さんにバスケの試合の助っ人をお願いした辺りで声は聞こえなくなった。

隣を見ると、いつの間にか近くにあった机を積み重ねたその上でひとりが頭を抱えていた。

 

「うわ何してるんだお前、危ないぞ」

 

「た、太郎君……降ろして……」

 

 不安定な足場から降りられなくなったひとりの脇の下を抱えて猫のように降ろしてやると、ひとりは焦ったような顔をして話し始めた。

 

「ど、どうしよう太郎君。喜多さん凄くかわいくて……絶対いい子だ。その上人望もあってギターまで弾けるなんて……そんな人に私がウチのバンドのギターボーカルに興味ありませんかなんて聞けないよぉ……それにもし断られたら……」

 

 頭を抱えたひとりの言葉で俺は結束バンドがボーカルを探していたのを思い出した。なるほど確かに歌がうまくてギターが出来るなら最適な人材かもしれない。ひとりもバンドメンバーの一人としてボーカル探しの役に立とうとしているみたいだし、ここはひとつ俺が背中を押してやろう。

 

「よし、じゃあひとり。今からお前は喜多さんに断られに行ってこい」

 

「はぇ? ……どういう事?」

 

「いやだからお前は今から喜多さんに、ウチのバンドのギターボーカルに興味ないですか? って聞いてごめんなさいって言われに行くんだよ。そう考えれば気が楽だろう? お前が声をかけようと思ったんなら後悔だけはしない様に声だけはかけて来い、骨は拾ってやる」

 

 俺がそう言うとひとりは少し考えてから大きく頷き、荷物もそのままに走っていった。

 

「断られに行ってこい、ね。どの口が言ってんだかな……よしっ」

 

 ひとりの背中を見送った俺は手早く弁当を食べ終えると、ひとりに先に戻る旨のメモを残して立ち上がり歩き出した。

 

 ひとりはウルトラCで校外のバンドに入ったが、俺はそんな芸当は出来ないのでまずメンバーを探すなら軽音部からだろうと前から考えていた。なかなか踏み出せずにいたが、今日のひとりを見て一度足を運んでみる事にしたのだ。部屋の中から微かに演奏の音が聞こえて来る事から人が居るのは確かだが、良く考えると昼休みに見学に来るのもおかしな気がしてきた。

 

「軽音部に何か用?」

 

 やはり放課後に出直すかと考えていると、後ろから声が掛かった。見れば如何にもチャラそうな、軽音やってますみたいな男子生徒だった。

 

「あ! もしかして入部希望者!?」

 

 男子生徒の圧力に気圧された俺は曖昧に返事をすると、男子生徒は勢いよく扉を開けた。中には七人程の生徒が練習していたようで、勢いよく開いた扉に驚いた部員はこちらを見た。

 

「おい! 入部希望者来たぞ!」

 

 声をかけてきた男子生徒は大声でそう言うと馴れ馴れしく俺の肩を抱きながら部屋の中へと歩を進めた。

 

「え! マジで!」

 

「こんな時期に珍しいな、一年?」

 

「あ、すまん。まだ聞いてなかったわw俺達は二年で、俺はドラム、あいつらは見ての通りギターとかベースとか」

 

「あ、一年の山田太郎です! 右投左打でポジションはキャッチャーです。軽音部の見学に来ました」

 

 俺が勢いでいつものネタ自己紹介をすると、沈黙が場を支配した。しかし次の瞬間軽音部達が反応した。

 

「え! 太郎くん野球部なん!? なに野球部と軽音部の掛け持ち!?」

 

「スゲーw 掛け持ちとかパネェw」

 

「俺昔野球やってたから結構詳しいよ、ほらコレw」

 

「出たwトルネードw古いw」

 

「いやいや、どう見ても今のネタだからwえっ、山田太郎って本名なのwマジでwどこまでがネタなのw」

 

「山田くん面白いねw見学だっけ? なんか希望の楽器あるの? やっぱギター?」

 

「あっえっと。ドラムです」

 

「おっドラム! 俺と一緒じゃん」

 

「めっちゃ地味だけどなw」

 

「はぁwドラム馬鹿にすんなw」

 

「いやwでも地味じゃんw太郎君知ってるギターのコイツにはファンクラブとかあるんだせw」

 

「文化祭めっちゃ格好良かったからファンになったんだってw」

 

「ギターメッチャモテるよw前にベースの先輩が連れてきたボーカル志望の女子がギターの先輩と付き合い始めたしw」

 

「あれメッチャウケたよなwそのあと他の軽音部全員で励ましのカラオケ行って喉潰れたしw」

 

「あん時の先輩メッチャ泣いててスゲーウケたw」

 

「お前ら脱線してるぞw太郎君ドラムやるならこいつに聞けばいいよw」

 

「こいつと俺等おな中でさあ、中学の時からバンド組んでんだけど、コイツ結構上手いよw」

 

「コイツ以外でもドラムやってる人いるからコイツ駄目でも他で聞けばいいからw」

 

「ウチの部活マジでいいよwみんな仲良くて和気藹々で、何て言うの……団結力がスゲーみたいな?」

 

「週一でカラオケ行くしなw」

 

「そういえば今度先輩の彼女の誕生日にライブハウスでライブするとか言ってなかった? 貸し切りでやるから出たい奴でれるらしいぞw」

 

「マジで!」

 

「マジマジ、っつっても軽音部全員参加するだろーけどwあ、恋愛ソング限定らしいぞw」

 

「全然おっけーだわwあっ! 太郎君も軽音部入ったら行けるじゃんw」

 

「おっ! そうだなw太郎君良かったら……」

 

 ……地獄かよここは。俺が一体何をしたって言うんだ。いや何もしなかったからだわ。そんな暗澹(あんたん)たる思いで話を聞いているとこの状況を救う昼休み終了の予鈴が鳴った。

 

「おっと、そろそろ戻らないとな」

 

「あっ、太郎君良かったら放課後にまた来てよwそんで俺達の演奏聞いてみてよw」

 

「あっはい……」

 

 そう返事をするので精一杯だった。ちなみに放課後は行かなかった。だってバイトがあるから。

 

 

 放課後、人目に付かないような校門脇で立っているひとりを見つけた俺は、思わず駆け寄ってひとりを抱きしめた。

 

「ひとりっ!!」

 

「あ、太郎君……って! ど、どどどどうしたの!? ちょ、ちょちょちょ待……」

 

 昼休みに軽音部で陽キャオーラを浴び過ぎた俺は、ひとりの伸ばしっぱなしの前髪と姿勢の悪い猫背とダサいピンクジャージに実家の様な安心感を覚えてどうにも耐えきれなくなってしまったのだ。

 

「う”う”……ひとり……はあ……やっぱお前の傍が一番落ち着くわ」

 

「!? な、ななななな何何なに!? ど、どどどういう事!?」

 

 俺の腕の中でパニックになっているひとりを他所に昼休みのトラウマから俺はしばらく半泣きになりながらひとりの陰キャオーラを堪能していると背後から少女に声をかけられた。

 

「ごめんね後藤さん、お待たせ……って、きゃー!! 後藤さん何してるの!!」

 

 少女の叫びに驚いてひとりから離れて声がした方を振り返ると、そこには大きなギターケースを背負った赤髪の少女が驚きに瞳を輝かせながら立っていた

 

「へ?……誰? って、ち、ちちち違うんです! 知り合いなんです!」

 

 俺は慌てて弁明した。確かに見ようによっては男子生徒が女子生徒を襲っているようにも見える、と言うか事情を知らない人が見たらそうとしか見えない。ヤバイ、しかも目の前の女子生徒は雰囲気からカースト上位勢だ、マズイ、俺の学校生活が終わる。とにかくここはひとりに助けを求める他ないと思い俺はひとりに声をかけた。

 

「すまんひとり、お前からも説明してくれ! 最低でも知り合いである事を証明してくれ!」

 

 そう言ってひとりを見たが、ひとりは顔を真っ赤にして盛大にバグっていた。意味不明な言葉を呟きながら不気味に笑っている。なんだってこんな時にいつもの発作が……と思ったがよく考えたら俺のせいなので覚悟を決めて赤髪の少女に土下座を実行した。

 

「すあせん(すみませんの略)! あ、あの……違うんです。俺は今日その……いろいろありまして……ちょっとひとりに、いや後藤さんにパワー的なものを分けて貰おうと思って……」

 

 イカン、口を開けば開く程犯罪者に聞こえて来る。これならいっそ付き合ってますと嘘をついた方がマシだったのではないだろうか。どうせ俺やひとりの事など一日と経たずに忘れられるだろうし。俺がそんな言い訳を並べていると赤髪の少女は興奮したように叫んだ。

 

「今ひとりって……後藤さんこの人ってもしかして後藤さんのカレ……」

 

「あっ、ち、違……太郎君はそういうのじゃなくて……えっと……あっ舎弟です」

 

 赤い顔で意識のみ急速に復帰したひとりが速攻で否定した。お前それ気に入ったのかよ。でもナイスだひとり! なんとかひとりのおかげで助かりそうになった流れにのって俺は自身の潔白を証明するために自己紹介を始めた。

 

「あの、俺は山田太郎……です。ひとりの幼馴染です。それでえっと……」

 

 流石の俺もこの状況でドカベンネタをぶっこむ気にはなれなかった。俺の発言をひとりが否定しなかったせいか、納得したらしい赤髪の少女は俺に名乗り返した。

 

「喜多郁代です。喜多ちゃんって呼んでね。それにしても山田君って後藤さんの幼馴染なのね! すごい! だからあんな大胆な事してたのね! それに本当にそんな人いるのね!」

 

 なんとか乗り切ったようだが、この話をするとみんな同じこと言うな。まあ確かに俺も十年来の幼馴染がいますって人には会ったことが無いから気持ちは分かるが……それにしてもこの人が喜多さんって事はひとりは昼休みの勧誘に成功したのかよ、ひとりって実はコミュ強なのでは?

 

 どうやら喜多さんも一緒に行くらしく、道中話を聞けば喜多さんは実はギターが弾けないらしい。その為に前に入っていたバンドを逃げ出したので、ひとりにギターを教えて貰って弾けるようになって謝りに行きたいとの事だった。

 

 確かにひとりは独学でギターを弾けるようになったので、同じような初心者の難しい所などが共感しやすいかもしれない、それにひとりは学校の休み時間図書館通いだったせいかこう見えて意外と理論も備えているのでコミュニケーションさえなんとかなれば教えるのに向いているのかもしれない。

 

「それにしても喜多さんギター持ってたんですね。逃げたって言ってたからてっきり……それ中身入ってます?」

 

 ギターが弾けなくて逃げたと言っていたから、最悪買っていないか、空のギターケースだけ持ち歩いているかもしれないと思った俺は冗談めかして聞いてみた。

 

「失礼な! ちゃんと入ってます。流石にギターも買わずにバンドに入るほど肝は座ってないわよ」

 

 そう言うと喜多さんは困ったように笑いながらギターケースをゆすって見せた。

 

 うわあ、かわいい。喜多さん絶対いい子だ。なんて昼間のひとりと同じ感想を抱いてしまった。

 

「痛っ! おいひとり、下北苦手なのは分かるけど力を入れるな、抓ってるぞ」

 

 話しているといつの間にか下北沢に着いていたらしく、相変わらず下北沢が苦手なひとりは俺の背中に隠れながら俺の腰を掴んで歩いていた。向かう先が下北沢にあると知った喜多さんは辺りを見渡しながらややこわばった声で言った。

 

「バイト先って下北沢だったのね……」

 

「……来たことあるんですか……?」

 

 下北沢の空気に気圧され気味なひとりが弱々しく尋ねると、喜多さんは説明しだした。いわく前のバンドが下北系だった事と、先輩の一人が下北沢に住んでいるらしい。

 

 しばらくおっかなびっくり歩いていた喜多さんも、俺達の奇妙な歩き方の方が気になったのか不思議そうに尋ねてきた。

 

「それって歩きづらくないの?」

 

「もちろん歩きづらいですよ、でもこれでも随分マシになったんで多分その内一人でも大丈夫になりますから。それまでの辛抱です」

 

 それ、とは背中に隠れているひとりの事だろう。もっともな疑問をぶつけてきた喜多さんに少し困ったように返すと、次の瞬間虹夏先輩の声が聞こえて来た。

 

「あ、太郎君とぼっちちゃーん。よく分かんないけどエナドリ沢山買ってきたよぉ……って、あっ! 逃げたギターーーーーーーーーー!!!」

 

 見ればエナジードリンクを両手いっぱいに抱えた虹夏先輩がこちらを向いて叫んでいた。

 

「「逃げたギター?」」

 

 俺とひとりの声がハモる。叫んだ虹夏先輩は何故か喜多さんがここにいる事を驚いているようだったが俺たち二人には何のことだかさっぱりだった。虹夏先輩を見ながらあわあわと慌てていた喜多さんは、少し遅れて片手でエナジードリンクの箱を抱え、もう片方の手でエナジードリンクを飲みながら登場したリョウ先輩を見つけると突然往来の真ん中で土下座を始めた。

 

「何でもしますからあの日の無礼をお許しください! どうぞ私を滅茶苦茶にしてください!」

 

 何があったかは分からんが喜多さんってかなりやべー奴かもしれんねこれは。

 

 その後何とか喜多さんをなだめすかしてSTARRYへ連れてきた俺達五人はテーブルを囲んでいた。

 

 先輩達からエナジードリンクを一本買い取って飲みながら話を聞いていると、どうやら喜多さんが逃げたバンドとは、ひとりが公園で声をかけられる直前の結束バンドだったらしく、真実を話した喜多さんは気まずそうに下を向いていた。

 

 話を聞いた虹夏先輩は喜多さんが逃げ出した事に特に怒った様子も無く「あの日はなんとかなったしね」とひとりに笑いかけていた。

 

 なるほど、たしかに喜多さんが逃げたからこそひとりは結束バンドに入れたとも言える。そういう意味からいうと先輩方や喜多さんには悪いが、喜多さんの行動には感謝するべきなのかもしれない。

 

 それでもなお何か罪滅ぼしをと食い下がる喜多さんの為に、何とかこの場を丸く収める手段を考えていると店長から声が上がった。

 

「じゃあ今日一日ライブハウス手伝ってくんない? 忙しくなりそうだから」

 

 とりあえずそれで納得した喜多さんは店長に連れられてどこかへ行くと、何故かメイド服を着て戻ってきた。

 

 そのままバイト開始となり、メイド服姿で拭き掃除をしている喜多さんの事を店長や虹夏先輩やリョウ先輩が口口(くちぐち)に褒めてはひとりがショックを受けていたので俺がフォローをしてやることにした。

 

「ひとり、お前もメイド服着たら評価上がるんじゃないか?」

 

 そう冗談めかして言った瞬間、店長が凄い勢いでこちらを見てきた。うわ怖すみません冗談なんです半人前がメイド服なんか着てんじゃねーよって事ですねわかってますすみません。

 

 ひとりは自分のメイド服姿を想像して吐きそうな顔をしていたので店長からのそれ以上の言及は無かった。すまんひとり。

 

 その後虹夏先輩が喜多さんに受付の仕事を一通り教えると、喜多さんはドリンク業務へと戻っていき、いつも通り俺とリョウ先輩で受付の仕事を開始した。

 

 店長の言った通り今日は忙しく、リョウ先輩と二人体制で受付に対応してピークを乗り切り一段落したところでリョウ先輩と世間話をしていると、いつの間にか今日の昼休みに起きた事の話になったところで虹夏先輩が椅子を持ってひょっこりと現れた。

 

「なになに、何の話?」

 

「あ、虹夏先輩おつかれさまです。向こうはもういいんですか?」

 

 自然に椅子に座って話を聞く体勢に入った虹夏先輩に、ひとりと今日から入った喜多さんだけを残すのは少々不安があった俺は一応聞いてみた。

 

「大丈夫。喜多ちゃん優秀だし、ぼっちちゃんも慣れてきたからね。それになんとなく二人だけにした方が良いかなって……それでなんの話してたの?」

 

 思うところがありそうにそう言った虹夏先輩は、気持ちを切り替えるように俺達に聞いてきた。

 

「太郎がバンド組む為に今日の昼に軽音部に行った話」

 

「え! 太郎君バンド組むの!?」

 

 リョウ先輩が説明すると、俺の事情を知らない虹夏先輩が驚いて聞いてきた。ひとりとバンド組もうとしていた事は秘密だが、俺がバンドを組みたい事は特に隠す事でもないので気軽な調子で俺は答えた。

 

「そういえば虹夏先輩には言ってませんでしたっけ? 楽器はひとりと一緒に始めたんですけど、ひとり見てたらバンドもやってみたくなったんです。それで今日メンバー探しと言うか、軽音部に行ったんですけど……」

 

 そう言って俺は昼休みに軽音部で起こったことを二人に説明すると、虹夏先輩は盛大に笑った。

 

「あはは! そりゃ災難だったね!」

 

「悪い人たちじゃないとは分かってるんですけどね……どうにも俺とは合わないというか」

 

「高校の軽音部以外にもメンバー集めはいろいろ選択肢あるから、そのうち太郎にも見つかると思う」

 

 先輩達に慰められながら昼間の心の傷を癒していると、虹夏先輩が質問してきた。

 

「そういえば太郎君は楽器何やるの?」

 

「あっドラムです」

 

 俺が何気なく答えると虹夏先輩はとても嬉しそうに言った。

 

「えー、本当!? あたしと一緒じゃん! 太郎君どれくらい叩けるの?」

 

「それは私も気になる、それに太郎の腕次第でメンバー集めも変わってくるだろうし」

 

 そう聞かれた俺は悩んだ、ドラムヒーローの動画では沢山褒められているが実際あれはどれくらい叩けているのだろうか? めっちゃ出来ますっていうのも恥ずかしいし、全然ですって言うのも嫌味な感じだ。結局俺は曖昧な感じで誤魔化すことにした。

 

「あー……そこそこです」

 

 俺がそう言った瞬間先輩達二人の表情がスンってなった。まるで以前にそう答えて全然駄目だった奴を知ってるみたいな顔だ。

 

「アーウン、ダイジョウブダイジョウブ。コレカラコレカラ」

 

「キットメンバーミツカルトオモウ」

 

 くっそ、全然信用がねえ! 誰だよ、前にそこそこって答えて駄目だった奴は! お前のせいで先輩達俺のメンバー集めまともに取り合ってくれないじゃん! どうしてくれんのこれぇ!

 

 そうやって俺が心の中で前任者に八つ当たりをしていると虹夏先輩が思い出したように声を上げた。

 

「そうだ太郎君! ドラムヒーローさんって知ってる!? 数年前から動画投稿してる人なんだけど、ギターヒーローさんって人と並んで滅茶苦茶上手いって一部で評判なの!」

 

「えっ」

 

「知らないなら後でURL送るよ! 多分、あたし達とそんなに歳変わらないんだけど、もう最っ高に上手いから聞いてみて!」

 

「私もオススメに何度も上がってくるから聞いたけど、この人も凄く上手かった」

 

「ねっ! ギターヒーローさんと一緒でネーミングセンスはちょっと痛いけど……」

 

「えっ!?」

 

「あたし、この人もフォローして新着通知もオンにしてるんだー。いつか生で演奏見てみたいなあ……」

 

 ……おいおいマジかよ。自分ではよく分からなかったけど、ドラムヒーローって名前痛いの? いやこれはひとりのギターヒーローに対抗して付けた名前だからほぼあいつの責任……じゃなくてそんな評価高いの? って言うかひとり! お前の評価も凄い事になってるぞ。

 

 俺は自分の高評価に思わず笑みが零れそうになるのを必死に抑えた。そうだ、こういう時はひとりから言われた昔のドラムヒーロー動画のダメ出しを思い出そう……「太郎君スネア引きづってるよ」「太郎君端叩いてるよ」「太郎君ここ遅れてるよ」「太郎君ここテンポずれてるよ」あっヤバイ切れそう。いや、あいつの指摘のおかげで俺は上手くなったん……駄目だわやっぱ腹立つから今度ギターヒーロー動画のダメな所探し出すわ。

 

 ひとりへの怒りで怖い顔になっていたのか、虹夏先輩は慌てて話を続けた。

 

「つまり何が言いたいかって言うと、上手くて話題の人も、あたし達が見てない所でたくさん、たっ……くさんドラムを叩いて来たんだろうなって。って前に同じ事、ぼっちちゃんにも言ったんだけどね。だから今は駄目でも大丈夫、きっとバンドメンバー見つかるよ」

 

 そう言って励ましてくれた虹夏先輩にお礼を言うと、時間が来たのか虹夏先輩は椅子を持って戻っていった。そうして残った俺達はバイト終了の時間まで受付をして過ごしたのだった。

 

 バイトが終わる時間になると一目散に帰り支度をした喜多さんがひとり達結束バンドのメンバーに向かって挨拶をしていた。

 

「今日はありがとうございました。これからもバンド活動頑張ってください! 影ながら応援してます」

 

 俺はてっきり、ひとりがギターの先生になる事で喜多さんは結束バンドに入ると思っていたので、この発言に驚いていたのだが、その後結局ひとりや先輩方の説得もあって無事喜多さんは結束バンドに加入する事となった。俺? 俺は何も言わずに後ろの方で成り行きを見守ってただけだよ? バンドメンバーでもないのになんか言える訳ないだろ。

 

 喜多さんと話始めた先輩達を横目に、喜多さんの説得の為に柱に頭をぶつけて座り込んでいたひとりに近づくと手を貸して立ち上がらせながら声をかけた。

 

「お疲れさん。良かったな、喜多さん入ってくれて」

 

「う、うん……えへへ……太郎君もありがとう……」

 

 まさかひとりからお礼を言われるとは思っていなかった俺は怪訝な表情でひとりを見た。正しくオレ何かやっちゃいました? 状態だ。そんな俺を気にすることも無く、ひとりは下を向きながら話を続けた。

 

「今日のお昼、太郎君に声掛けて来いって言われなかったら……私何も出来なかったと思うから……だから」

 

 そう言ったひとりに俺は即答した。

 

「いや、俺が何か言わなくてもお前行ったと思うぞ」

 

「へ?」

 

 ひとりが驚いたように顔を上げた。

 

「お前がなんかやるって決めた時の爆発力は凄いからな……良くも悪くも。だから今回の事はお前自身の成果だよ」

 

 そう言って軽く背中を叩いてやると、ひとりは嬉しそうに頷いた。

 

 それから俺達は帰り支度をして挨拶すると、今回の立役者という事でひとりが他のメンバー三人に呼び止められてひとしきり褒められた後、喜多さんが申し訳なさそうに切り出した。

 

 「でも私、いくら練習しても本当にギター弾けなかったの……何かボンボンって低い音がするのよね……」

 

 喜多さんの説明でそれはベースじゃないかと疑ったひとりに、喜多さんは笑いながら否定すると、みんなの前でケースを開けて見せた。

 

「弦が六本のとかもあります……」

 

「それ多弦ベース」

 

 俺や虹夏先輩のドラム組はよく分からなかったので黙って見ていると、ひとりとリョウ先輩に指摘された喜多さんはケースに入ったベースとひとり達とを視線を何度も往復させると……

 

「あひゅう……お父さんにお小遣いとお年玉、二年分前借したのに……」

 

 そう言って倒れた。

 

 結局喜多さんの多弦ベースはリョウ先輩が買い取ってくれる事になり、新しいギターもリョウ先輩から貸し出される事になった。最後に所持金が無くなったので草を食べて生きていくと言っていたリョウ先輩には不安を覚えるが、それ以外はおおむね丸く収まった様でなりよりだ。

 

 そんなSTARRYからの帰り道、俺はひとりと今日あったとりとめのない事を話しながら歩いていた。

 

「…………ってな訳で、今日の放課後お前に抱きついたのは深い訳があったんだよ」

 

「そ、そうだったんだね、学校であんな事してくるからびっくりしたよ……」

 

 ひとりは俺に抱きつかれていた事を喜多さんに見られたのを思い出したのか、少し顔を赤くしながら答えた。

 

「そういえば、虹夏先輩に昼休みの話をしたら俺がどれくらいドラム叩けるかって話になってな。そこそこって答えたら先輩達二人共まるで信じてなくてな、あれはきっと昔そこそこって答えてド下手だった奴がいると思うんだよ。おかげで俺の腕前の信用ゼロだぞ、まあいいけど」

 

「……ヘ、ヘェ。ソレハタイヘンダッタネ」

 

 そんなどうでもいい事を話しながら歩いていたが、やはり話題は喜多さん、ひいては今後の結束バンドの事になった。

 

「喜多さんが入っていよいよ結束バンド始動って感じだな」

 

「う、うん」

 

「そんでひとりは喜多さんのギターの先生か」

 

 俺がからかうように言うとひとりは猫背を一層深くしながら不安そうに答えた。

 

「う、ううう……私に出来るかな……」

 

「まあ喜多さん次第な所もあるけど、多分大丈夫だろう。なにせ初心者であんな高い楽器買うくらいだから覚悟は相当あるだろうからな。教える側に関しちゃひとりは理論も一応しっかりしてるし、実力に不足はないだろうし」

 

 なにせギターヒーローだからな。そう言うとひとりは顔をデロデロにしながらにやけていた。

 

「それにしても、バンドって具体的になにするんだろうな?」

 

 俺がそう言うと、ひとりもいまいちピンと来ていないようだった。もちろん曲を作ったりライブをしたりするんだろうけど、もう少し具体的に何をするのかと聞かれると俺にはさっぱり分からなかった。だってバンド組んだことないし。

 

 結局よく分からなかった俺達は、バンドと言ったら武道館だのドームだのと馬鹿な話をしながら帰路に着いたのだった。

 

 

 後日、ひとりと喜多さんはギター練習の為STARRYに早めに到着して、併設されたスタジオでギターの練習をしていた。

 

 特にやることも無い俺は二人の了承を得て練習を見学させてもらっていたのだが……

 

「もう嫌ぁああああ!! 私ギター辞めます!!」

 

 Fコードと言う初心者の壁にぶつかった喜多さんが叫んでいた。

 

 そんな姿にひとりがギターを弾き始めた頃を思い出していた俺は、先生役のひとりを見ながら懐かしさを覚えて小さく笑うと、同じことを考えていたのか、ひとりも俺の視線に気付いて少し恥ずかしそうに笑った。

 

 ひとりがゆっくりとギターを奏でる。喜多さんの手を取るように、導くように。喜多さんもそれに続くように拙いギターの音を重ねた。

 

 そんな姿を見ていると、ひとりは常々バンドが売れて高校中退したいなどと言っているが、もし音楽で成功できなくても将来はギターの先生なんてのも良いんじゃないかと思えてくる。ひとりはその性格からか、人を追い立てないし急かさないから人に物を教えるのに向いているんじゃないかと素人ながら思ってしまう。コミュニケーションが課題だが、物怖じしない子供相手なら意外といいんじゃないだろうか? ふたりちゃんの面倒も見ているし。

 

 そんな取り留めもない事を考えながら練習を見ていると、スタジオの扉が開きリョウ先輩が入ってきた。見れば右手には食べたい野草ハンドブックなる本と、左手には謎の野草が握られている。

 

「三人とも早いね」

 

 そう言うとリョウ先輩は盛大に左手の謎の野草を頬張った。




アニメ三話最後のギターシーンがなんか凄く好きです





閲覧、お気に入り、感想などその他諸々ありがとうございます。自分の中の承認欲求モンスターが出てくるので返信などは出来ませんが全て読ませてもらっています。
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