ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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書きあがって投稿する前に読み直してると、もっとこうしたほうがいいかも……ってなるのは、なんなんだろうねあれ。
投稿した後に確認の為に読み直してると、あれこれと改善点が見つかって修正したくなるのは、なんなんだろうねこれ。

原作漫画を読み返してたら、今更ながら虹夏ちゃんの一人称が「あたし」な事に気づきました。正確には「私」や「わたし」とかなり混在していて(ちなみに9歳の時は「虹夏」)、多分自分が主体の時は「あたし」「あたし達」で、自分以外(結束バンドやメンバー)が主体の時は「私達」「わたし達」と使い分けてる(それでもかなり混在してる)んじゃないかと思います。なので、この小説でもそんな感じでやっていきます。(この投稿時点の過去全話修正しました)


046 Whatever

「こんなの女子高生の遊びじゃない……」

 

 各々会計を済ませHARD-OPP(ハードオプ)を出ると、一人ベンチに座りながら黄昏(たそがれ)ていた喜多さんに、虹夏先輩が肉巻きおにぎりを奢って機嫌を取っていた。

 

 そんな物(食べ物)で機嫌が直るのかと思って見ていたが、肉巻きおにぎりを一口食べた喜多さんは、その味に目を輝かせていた。さらに、テレビドラマの主人公が食べていた物だと虹夏先輩に説明された途端、手の平を返したように機嫌を直していた。ドラムコーナーでのこともそうだが、やっぱり喜多さんは案外ちょろ……素直な人なのかもしれない。

 

 HARD-OPP(ハードオプ)ではせっかく俺に付いてきたのに、最終的には凄い顔をさせてしまったお詫びと、古着屋での優勝賞品という事で、肉巻きの他に、喜多さんが食べたがっていたクレープをご馳走する事にした。

 

 こんな事もあろうかと、テレビで紹介された下北沢の店は一通りチェック(情報源は母親)しているのだ。テレビで紹介されている程の有名店なら味も間違いないだろうし、先程の喜多さんを見るに許してくれる事間違いない。

 

 俺は素早く秘密裏にクレープを購入すると、肉巻きおにぎりを食べ終わった喜多さんの隣に恭しく身を屈め、そっとクレープを差し出す。

 

「喜多さん、古着屋での賞品って事でこのクレープをどうぞ。約束通り俺の奢りです」

 

「え? いいの? わっ! それテレビで紹介されてるやつよね!? ありがとう山田君!」

 

 肉巻きおにぎりとクレープ。禁断の有名店“二度打ち”が効いたのか、喜多さんは嬉しそうにクレープを頬張っている。この様子なら先程の無礼は許してくれたと思う……もしかすると既に気にしていないだけかも知れないが。

 

 喜多さんにクレープを渡したあと、自分でも別のメニューを買って食べてみたところ、有名店のわりには意外に普通の味で、少し肝を冷やした。だが、喜多さんは「やっぱり有名店のは全然違うわ~」と満足そうに食べていたので、まあ大丈夫だろう。いつか機会があれば、「有名店の物です」と言って、ひとりが作った物を渡したらどうなるか……ちょっと試してみたい所である。

 

 とりあえず喜多さんの機嫌が直った事に安堵して、リョウ先輩と並んでベンチに座っているひとりの隣に座ろうとすると、両手で持ったクレープを緩んだ表情で頬張るひとりの姿が目に入った。

 

「ンギャワイイ!!」

 

 俺の叫び声に驚くひとりを他所に、俺は自分でも驚くほどの速さでスマホを操作して、ひとりの写真を撮る。

 

 オイオイオイオイオイ。さっき古着屋で喜多さんが言ってた「この恰好のひとりがクレープ食べてたらすごくカワイイと思う」って内容が早速実現してるじゃねーか!? え? もしかしてこの買い食いを見越した上でのこのコーデ……いや、このコーデだからこそのクレープ提案……ってコト!? 陽キャ(イコール)神。喜多さんは最も“神”に近い人間なんや。

 

 俺が写真を撮っている間、ひとりは恥ずかしそうに持っているクレープで自分の顔を隠そうとしていた。これがまたなんとも可愛らしくて、写真撮影が捗って仕方がない。

 

 一通り写真を撮った事で満足して、落ち着きを取り戻した俺は、謝りながら自分の持っているクレープをひとりへ差し出した。

 

「ふぅ……すまんすまん。お詫びにこっちのも食べてみるか? お前の食べてるのとは違うヤツだぞ」

 

「…………えっと……じゃ、じゃあちょっとだけ……あ、こっちも美味しい」

 

 俺の取ってつけたような謝罪に、ひとりは少し青ざめた表情を向けてきた。だが、別の味という好奇心には勝てなかったのか、差し出されたクレープにそっと口をつけ、クリームの甘さに思わず顔を綻ばせた。

 

 くぅ~これこれ! 今日は普段のジャージ姿と違う事もあって可愛さ三倍増。やっぱりひとりちゃんの可愛さは三千世界に響き渡るでぇ~。

 

 ひとりの食べている姿を見ながらバカな事を考えていた俺に、今度はひとりが自分のクレープを差し出してくる。

 

「あっじゃあ……はい、お返し」

 

「いいのか? サンキュー」

 

 ひとりから差し出されたクレープを一口もらうと、不思議なことに、なんだか自分の買ったものよりもずっと甘く感じられた。

 

 クレープを食べている間、虹夏先輩が次は何処へ行くか意見を募っていた。そこで俺は、今日の主目的であるヨヨコ先輩の誕生日プレゼントを買うために、どこかオサレなアクセサリーショップを紹介して欲しいと頼んでみた。すると、喜多さんも賛同するように手を上げた。

 

「はいはい! 私もリョウ先輩がオススメするお店行きたいです!」

 

「分かった。ちなみに太郎はどんな系統の店がいいの?」

 

 どんな系統がいいとか聞かれてもよく分からん。ただヨヨコ先輩への誕プレという事で、ヨヨコ先輩が身に着ける事を考えるなら、やはりメタルバンド色全開の物がいいだろう。そういう訳で、そんな感じの物が置いてある店をリクエストしてみると、リョウ先輩は短く「わかった」とだけ返して来た。

 

 クレープを食べ終わり、リョウ先輩に案内されたのは、喜多さんが今日の散歩が始まる前に希望していた様な、おしゃれでレトロな雑貨屋だった。

 

 中々どうしてシャレオツな佇まいの店で、それほど広くない店内には、オサレなアクセサリーや雑貨が所狭しと並んでいる。俺一人なら気後れして、まず入店すら出来なかったであろう雰囲気の店だ。逆に喜多さんはまさに望んでいた雰囲気の店だったようで大喜びしている。

 

 店に入ると、ひとりもオサレ過ぎる雰囲気に気圧されたのか、狭い店内にもかかわらず俺の腰にしがみ付いて震えている。正直歩きにくくて邪魔なのだが、今回だけは張り付くのも許してやろう。だってほら……この店オシャレ過ぎて、なんか俺一人だと浮いてる気がして落ち着かないからな……

 

 ひとりを腰に張り付けながら店内を見て回る。ヨヨコ先輩からは俺のセンスで探して来いと言われているのだが、中々ピンと来るものは見つからない。何か良い感じのアイテムは無いかと探していると、素晴らしいデザインの商品を見つけてしまった。

 

「おいおい見ろよひとり! 蛇が巻き付いたギターのネックレスが売ってるぞ!」

 

「うわっ……かっ……かっこいい……!」

 

 こいつなら分かってくれると思い声をかけたのは正解だったようで、ひとりは目を輝かせながら商品を眺めている。龍が巻き付いた剣のキーホルダーにも負けないデザインに、俺達は興奮してはしゃいでいた。すると、珍しく騒がしい俺達二人の様子に気付いたのか、虹夏先輩が声をかけて来た。

 

「なになに、何かいいの見つかった?」

 

「あ、虹夏先輩見て下さいよ! どうですこれ? 最高にカッコイイと思いません!?」

 

「どれどれ……ってダッッッッッ

 

「えっ? 今なんて……」

 

 虹夏先輩は、俺が自信満々に見せた蛇の巻き付いたギターのネックレスを見て何かを言いかけたかと思うと、慌てて口を抑えた。そして、すぐさま取り繕うような、引きつった笑みを浮かべる。

 

「いっいや……その……も、もうちょっと探してみてもいいんじゃないかなぁ~って……」

 

 虹夏先輩の反応を見て、ふとヨヨコ先輩の事を思い出す。確かに、龍の巻き付いた剣のキーホルダーの話題への食いつきが少し弱かったような気もする。

 

 もしかして今の若い人たちって、こういうのあまり好きじゃないんだろうか? あれ、おかしいな? 俺とひとりも若者のはずなんだが……

 

 龍の巻き付いた剣に、ド〇クエに出てきそうな鍵のキーホルダー、それに日本刀のペーパーナイフ──これが修学旅行お土産三種の神器だったはずだ(ちなみに木刀は殿堂入り)。だから、これが嫌いな人間なんていないと思ってたんだけど……。

 

 思えば異性への誕生日プレゼントなんて、今まで十七年間生きて来て身内と後藤家以外の人間にあげた記憶が無い。

 

 最近になって色々な人に渡す機会が増えたが、店長には事前に教えて貰ったぬいぐるみ、喜多さんには無難にギターの弦、虹夏先輩には本人が欲しがった俺の私物(これだけ聞くと虹夏先輩が断トツでヤバイ奴に感じる)を渡して来たので、年頃の女性が欲しい物なんてよく分からない。女性向けのアクセサリーなんて尚更だ。

 

 個人的には、この蛇の巻き付いたギターは最高にカッコイイと思っているのだが、念のため、ヨヨコ先輩と同じ現役女子高校生という立場である四人に意見を聞いてみる事にした。

 

「わっ私はカッコイイ……と、思う……けど……でっでも太郎君が選んだのなら、なんでもいいと思うよ」

 

「それはダッッッ……じゃなくて……ほっほら! 太郎君さっきメタルバンドっぽい物って言ってたよねっ!? そっちの方が大槻さんっぽいんじゃないかなっ!?」

 

「……私の誕生日は、そんなものよりハイエンド楽器を貰えると嬉しい。具体的には……」

 

「えっと…………そっそれより私、これを買おうか悩んでるんだけど、どう思う!?」

 

 誰がどのアドバイスをくれたのかはあえて伏せるが、一人を除いてなぜみんな目を逸らすんだい? 俺は真剣だよ? しかも後半の二人は自分が欲しい物言ってるだけじゃねぇか、いい加減にしろ。

 

 流石に、誕プレに相手が望まない物を送るのもまずいと思ったので、四人の意見(正確には二人)を参考にして、改めて当初の予定通りメタルらしいモチーフの物を探してみる。

 

 メタルのモチーフといえばやはり髑髏(ドクロ)と逆十字が定番だろうか? 探してみるとこの手のデザインはアクセサリーとしても定番だという事もあり、目立つ場所に良い感じのデザインの物がいくつか置いてあるのを見つけた。

 

 髑髏にするか逆十字にするか迷っていたが、FOLTちゃんねるのメントスコーラ動画で、ヨヨコ先輩が十字架のネックレスを着けていたのを思い出し、髑髏を選ぼうとした。ところが、BoBでヨヨコ先輩が着けているガスマスクに似たデザインのネックレスを見つけてしまった。

 

 メタルのモチーフには戦争も入っているので、テーマからも外れていないし、髑髏や逆十字は、ともすればありきたりとも言えるので、これは中々良い物を見つけたかもしれない。

 

 俺が購入を決めると、ひとりは流石に会計の時まで俺の腰に引っ付いているのは恥ずかしいと思ったのか、虹夏先輩達と待つと言って俺の傍を離れた。

 

 ひとりが虹夏先輩の元へ合流したのを確認してレジへ向かう。その途中、蛇の巻き付いたギターのネックレスが再び目に入り、俺は棚の前で足を止めた。しばらく迷った末、結局俺は二つ(・・)の商品を手に取り、レジへと向かった。

 

 会計を済ませ、紙袋を提げて店を出て虹夏先輩達と合流する。虹夏先輩の「次どこ行く?」の発言に、喜多さんが大きな声を上げた。

 

「ビレパン行きましょうよ! ビレパン! 下北来たら絶対行きたいって思ってたんです!」

 

 喜多さんの熱心な提案によって、次の行き先はビレパンに決定した。

 

 ビレパン。下北沢の迷宮のような雑貨の聖域。狭い通路、天井すれすれまで積まれた書籍と雑貨、鳴り止まぬBGMと、店員のテンション高いポップ。遊べる本屋と言われている店内には、本以外にも、CD、謎のグッズといった大量の商品が所狭しと置かれている。

 

 カラフルな店内や、陽キャ女子高生の集団に目を回しているひとりとは対照的に、喜多さんははしゃぎながら、店内を縦横無尽に動き回っていた。

 

 どこまでが売り物かも分からない雑多な店内を五人で色々と見て回り、一番奥のCDコーナーに足を踏み入れた瞬間――ふと喜多さんが足を止める。

 

「ここのバンドコーナーにCD展開されるのって憧れませんか!?」

 

 喜多さんが指さすバンドコーナーの棚には、インディーズもメジャーも、ジャンルの枠を越えてCDがごちゃ混ぜに並び、ビレパン特有の味のある手書きポップが、それらをカラフルに彩っている。

 

 そんなバンドコーナーを見つめながら、虹夏先輩は、遥か遠くを見据えるようなまなざしで呟いた。

 

「いつか、結束バンドとBoB、両方のCDがここに並んだら嬉しいよね」

 

 それは誰かに向けた言葉というより、自分の胸の奥をそっと確かめるような声だった。俺はそんな虹夏先輩に、冗談めかした様な、しかし、真剣な声で言葉をつけ足す。

 

「どうせならSIDEROSやSICKHACKも一緒に並べましょう!」

 

「……そうだね! ……って、でも大槻さん(SIDEROS)はともかく、廣井さん(SICKHACK)かぁ……」

 

 俺の言葉に、虹夏先輩は力強く頷いた。だが、廣井さんの素行を思い出したのか、すぐに苦笑いを浮かべて言葉を濁す。その様子を見ていた俺たちは、一斉に顔を見合わせると、みんな同じ事を考えたのか、少し困ったように笑った。

 

 店内を一通り見て回り、喜多さんが満足した様子を見せると、俺たちは散策を終え、下北沢駅へ向かうことにした。

 

 夕暮れの下北沢。ビレパンから下北沢駅へ続く古びたレンガの路地を五人で歩いていると、古着屋とカフェのあいだの隙間から、ふと歌声とギターの音が漏れ聞こえた。サブカルの街ならではの路上ライブが目に入ったその瞬間、虹夏先輩は嬉しそうに足を止めた。

 

「路上ライブって、箱とはまた違った良さがあるよね~……そういえば、BoB(太郎君たち)って渋谷で路上ライブやったんだよね? (なま)で見たかったなぁ~……またやらないの?」

 

「予定はないですね。でもMoeExperienceとしてなら、つい最近同じ場所でやりましたよ」

 

 それまで穏やかな表情で路上ライブを眺めていた虹夏先輩は、俺の言葉を聞くや否や、一転、もの凄い剣幕で詰め寄ってきた。

 

「えっ!? い、いつやったの!? なんで教えてくれなかったの!?」

 

 いや、なんでと言われても……あの時は結束バンドがライオット二次審査である、WEB投票を突破できるかどうかでピリピリしていた時期だったし……勘弁してほしい。

 

 それに、虹夏先輩も知っているとは思うが、本来路上ライブは警察に道路使用許可申請をしないといけない。だが、無名のアーティストの路上ライブではその許可はまず下りないと思ってよい。

 

 路上ライブが警察に見つかる理由の大半は、通行人からの通報らしい。なので、比較的路上ライブに寛容な場所を選んで勝手にやる――というのが、実際のところ一般的だ。当然これは違法行為なので、俺としては事前に人を集めるような告知は一切しないと決めているのだ。

 

 説明を聞いて納得してくれたのか、虹夏先輩は渋々引き下がってくれた。が、すぐに「二回も、太郎君(ドラムヒーロー)の路上ライブ見るチャンスがあったのに……全部見逃してる……!」とガチ泣きしはじめた。

 

 実は、BoB結成のきっかけである金沢八景を含めれば三回やっているのだが……それはさすがに黙っておいた方がいいだろう。まあ、こういうのは全部皆勤するより、適当なところで見逃していた方が、後々苦しまずに済むと思う。そもそも皆勤している人間は存在しないので、あまり落ち込まないで欲しい。

 

 虹夏先輩を慰めながら駅に辿り着くと、最後に今日の散歩の感想を虹夏先輩に聞かれた喜多さんは、つい数時間前にSTARRYのフロアで転げ回って駄々をこねていたとは思えないほど、満面の笑みを浮かべていた。

 

 今日の散歩ですっかり浄化された喜多さんのあまりの眩しさに、俺とひとりは思わず目を押さえた。そのとき、どこからか緊迫した女性の声が聞こえてきた。

 

 声の聞こえて来た方を見れば、キャミワンピに見慣れたスカジャン、足元は下駄の女性――まごうことなき廣井さんが地面に倒れ込み、そばでは見知らぬ女性が心配そうに介抱している。

 

 その光景を目にした瞬間――今日一日のきらきらした下北沢散歩の思い出が、最後の最後で廣井さんの泥酔姿にすべて上書きされた喜多さんが――すごい顔してる! 

 

 

 

 廣井さんの泥酔姿を見たひとり以外の三人から、『太郎(お前)がなんとかしろ』といった視線と空気がビシバシと飛んでくる。ひどい話ではあるが、いつぞやの路上ライブ後のように、俺を置いて逃げ出さないだけまだマシかもしれない。

 

 とはいえ、俺が声をかけると『倒れて(泥酔して)いる女性(廣井さん)の知り合いを名乗る謎の若い男』という、どう見ても犯罪臭しかしない状況になってしまう。なので、今は虚無顔になっている喜多さんに続いて、コミュ力のある虹夏先輩にお願いすることにした。

 

 虹夏先輩に話しかけられた女性は、案の定《知り合い》を名乗る俺達(というか俺)を見て、少し警戒していた。だが、虹夏先輩の人柄と柔らかい雰囲気のおかげか、やがて信用してくれたようで、「あとは私たちで対応します」という言葉を聞くと、逆に申し訳なさそうな顔で去って行った。なんていい人なんだ。

 

「廣井さん、大丈夫ですか?」

 

「う~ん……」

 

 地面に寝転がっている廣井さんの肩を軽くゆすって声をかけてみたが、随分と酔っているのか、返って来たのはうめき声とも言えないような曖昧な声だけだった。とりあえず呼吸もしているし、すぐにどうこうという様子でも無さそうなので、そのまま寝かせておくことにする。

 

 さて――問題は泥酔した廣井さんの処遇だ。STARRYに連れて行くにも、もうすぐ営業が始まる時間なので、そこに泥酔者を連れ込むのは邪魔になるだけだろう。かといって、この場に放置するのは元の木阿弥だ。

 

 虹夏先輩とリョウ先輩はこのあとSTARRYでのバイトがあるようだし、喜多さんは……さすがに酔っ払いの相手が散歩の締めくくりではかわいそうなので、家に帰ってもらうのがいいだろう――となれば、廣井さんの世話は、もう俺とひとりで見るしかないのだが……

 

「あの……ひとりさんも帰ります?」

 

「……えっ? どっどうしたの急に!? 一緒に行くけど……?」

 

 三人と一緒に帰ってしまうかもしれない――そんな可能性を考えて、下手(したて)に出ながら恐る恐る聞いてみたのだが……ひとりの返事に、俺はぶわりと涙をながしながら抱き着いた。お前なら、そう言ってくれると信じてたぜ。

 

「えっと……じゃあお願いしちゃうけど、何かあったら連絡してね」

 

「頼んだ、太郎」

 

「それじゃあ、山田君、ひとりちゃん。また学校でね」

 

 ひとりと並んで三人を見送ったあと、さてどうしたものかと考えたが、こういう時こそ先人の知恵を借りるべきとだろうと、俺はさっそく志麻さんに連絡を入れる。しばらくして返ってきたメッセージは『引き継ぎの人間を送るから、なんとか自宅まで運んでくれ』という内容だった。

 

 このミッションは、過去に一度経験済みなので問題無い。前回と同じように、タクシーに乗り、そこからは背負って送り届ける段取りだ。

 

 さすがに荷物を持ったまま人を背負うのは厳しいので、今日買ったスネアドラムの入ったバッグや、その他の荷物をひとりに預け、俺は泥酔している廣井さんを背負うことにした。相変わらず、心配になるような軽さだ。

 

「よいしょっと」

 

「だっ大丈夫? 太郎君」

 

「おう。ついこのあいだ背負ったお前より軽いから余裕だぞ。お前こそ、色々持ってもらったけど大丈夫か?」

 

「うん、私は大丈夫……って、えっ!?」

 

 いつのまにか生まれていた自分の黒歴史に慌てふためくひとりをよそに、とりあえずタクシーを拾って御茶ノ水まで向かう。

 

 廣井さんの住むアパートに着くと、ひとりに頼んで廣井さんのポケットを探ってもらい、出てきた鍵で部屋に入る。六畳一間の畳部屋の中央に鎮座してる丸テーブルを端に寄せ、布団を敷いて廣井さんを寝かせると、俺とひとりは引き継ぎの人が来るまで、その丸テーブルで隣り合って一息つく事にした。

 

「ありがとなひとり。俺の荷物、持って貰って」

 

「はぁ……はぁ……こ、これくらい……ちょ、ちょちょいの……ちょい……だよ……はぁ……おぇ……」

 

 ひとりはすっかり疲れ切った様子で、大量の汗を流しながら青ざめた顔で呼吸を乱してぐったりとしている。

 

 ソフトケースに入ったスネアはおよそ4キロ、加えて、古着を買う前に着ていた俺とひとりの服が入ったバッグが1キロほど。つまり、ひとりは合計で5キロ近い荷物を持って、ここまで歩いてきたことになる。お前、いつもギグバッグ背負って移動してるだろ、と言いたくなるが、持ち慣れていない荷物を持って疲れたのだろう。ちょっと申し訳ない気持ちである。

 

 俺は自分の荷物を手繰り寄せ、バッグから紙袋に入った商品を取り出した。

 

「ほら、ひとり。荷物のお礼……ってわけじゃないけど。これ、やるよ」

 

 不思議そうにそれを受け取るひとりに、早速開けてみろと急かしてみる。重い荷物を持って疲弊しているのか、ひとりはぷるぷると震える手でおそるおそる紙袋を開封する。中から現われたのは――あの雑貨屋で見かけた、蛇の巻き付いたギターのネックレスだった。

 

「お前、これ気に入ってただろ? 最初は俺が自分用に買おうかとも思ったんだけど……見ろよ、このギター、なんかレスポールに似てる気がしないか? もうこれは、お前が持つべきだろ!?」

 

 これぞ『俺の考えた最強の後藤ひとり』の最終強化パーツだ。《喜多さんが選んだ古着》を着たひとりが、この《蛇の巻き付いたギターのネックレス》を身に着けると、光と闇が両方そなわり最強に見える。

 

 ひとりはネックレスを手に、驚きながらも目をきらきらと輝かせながらじっと見つめていた。が、すぐに不安そうな表情で俺を見る。

 

「でも……いいの? 私、もらえる理由なんて……」

 

「え゛っ……もしかして……いらなかったか……?」

 

 勝手に買ったものだけど、いらないとか言われると困ってしまう。俺が青ざめると、ひとりは慌てて大きく頭を横に振り、着ている古着に視線を落とした。

 

「そっそうじゃないけど……それに……この服ももらっちゃったし……」

 

「……なぁひとり。お前、もし自分一人だったら、その服買ってたか? そのアクセサリーは? どうせお前は、自分には似合わない……とか思って、見向きもしなかっただろ」

 

 責めるようなジト目を向けると、ひとりは図星だったのか、バツが悪そうに視線を逸らす。俺はそんなひとりの様子に小さく鼻を鳴らすと、目を伏せる。

 

「お前はさぁ……バンドがピンチの時、いつだって先陣を切って進んで行くだろ? それは多分、お前じゃなきゃ出来ないことなんだよ。お前だからこそ出来ることなんだよ。だからさ――」

 

 誰かのために先陣を切って進む事。自分に出来なかった事が悔しくもあり、ひとりが出来た事が誇らしくもある。だからこそ――

 

 俺はひとりの右手をそっと両手で包み、ネックレスを握らせる。

 

「だから俺は――今はまだ、お前が自分では踏み出せない一歩は、俺が代わりに踏んでやろうって……そう思ってるんだよ」

 

 顔を上げ、晴れやかな表情でそう言うと、ひとりは眉を下げ、目の奥をかすかに震わせながら、まるで何かを噛みしめるように俺を見つめ返してきた。

 

 もしひとりが、本当は付けてみたいけれど、自分には似合わないと思っているなら……俺がプレゼントしてやろう。不安で音が出せないというのなら――いつだってドラム(後ろ)で支えてやる。

 

 ひとりは、可愛い服を着たっていい。カッコイイアクセサリーを身につけたっていい。どこでだって音楽を奏でられるし、望めば――歌だって歌える。

 

 そしてなにより。いつか言ったように、差し出された指に止まってもいいんだ。俺はいつだって助けてやる。だけど、もし――自分から一歩を踏み出せば、その扉はいつだって開いている。それだけは、どうしても伝えておきたかった。

 

 ――と、いうのは勿論あるが。それ以上に、俺が「可愛らしいひとり」や「カッコイイひとり」を見たかっただけだろう、と言われれば、まあ否定はしない。当たり前だろ。

 

 そもそも、俺のイヤーカフもヨヨコ先輩に貰ったものなので、自分で一歩を踏み出してない気もするが……わかった、この話はやめよう。ハイ!! やめやめ。

 

 まあ、ひとりが自分で一歩を踏み出せるようになると、また俺の仕事がなくなる訳だが……まあええでしょう。きっと、それが一番良い事だからな。

 

「それより早く着けてみてくれよ! 絶対カッコイイから!」

 

「え? そっそうかな? うへへ……」

 

 湿っぽくなった空気を散らすように、俺はひとりにアクセサリーをつけてみることを勧める。

 

 まさに、「ツチノコもおだてりゃ木に上る」とでも言おうか。ひとりはカッコイイと言う言葉にニヤケ面を浮かべながらネックレスを着けようとする。だが、疲労した腕のせいか、首の後ろの留め具を留めるのに随分と苦戦しているようだった。

 

 いよいよパーフェクト後藤ひとりが見られるとワクワクしていたのだが、もたもたと留め具に手こずるひとりに、我慢できなくなった俺の手が動いた。

 

「……ええい! 貸してみろ!」

 

「えっ? ……ふぁっ!?」

 

 俺が正面から首の後ろに両手を伸ばすと、ひとりは小さく叫び声を上げて、体をこわばらせた。

 

「あっあのっ……たったたた太郎君……かっ顔、(ちか)っ……それに私、いま、汗、かいてて……」

 

「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」

 

 ひとりの髪は長いし、おまけに今日は古着のパーカーのフードをすっぽりと被っているので、首の後ろが見えづらいことこの上ない。だが、俺に任せろと大口を叩いた癖に、『やっぱり出来ませんでした』は恥ずかしすぎるので集中する。

 

 後ろに逃げるように体を引こうとするひとりに、俺が前のめりになって追いかけると、お互いの顔が触れそうなほど接近し、すぐそばにひとりの体温を感じる――だが、今はそれどころではない。俺のプライドと、「不器用」という不名誉な称号がかかっているのだ。

 

「……よしっ、出来たぞ……! おお、なかなか似合って……っておい、どうした!?」

 

 永遠にも感じられた数十秒の後、ようやく留め具がカチリと嵌る。安堵と喜びが同時に押し寄せ、俺はそっと体を離した。だが――見ると、ひとりは緊張したまま目を固く閉じ、息を止めていたのか顔が青ざめている。慌てた俺は、現実に引き戻すため、ひとりの頬を軽くペチペチと叩いた。

 

「……ぷはっ! あっあれ? 一体なにが……」

 

「なにが……じゃねぇよ。俺が聞きたいよ……それより、ほら。首元」

 

「え? あっ、カ、カッコイイ!」

 

 俺が首もとを指さすと、ネックレスに気付いたひとりは目を輝かせた。忙しいやつだな……一体何なんだよ。だが確かにカッコいい。これは写真に収めておかねば。

 

 俺が、恥ずかしがるひとりをモデルにスマホで写真を撮っていると、インターフォンが鳴った。おそらく、志麻さんの言っていた「引き継ぎ」の人が来たのだろう……いや、そうであってくれ。もし借金取りだった場合、俺はどうすればいいんだ……

 

 恐る恐るドアののぞき窓を覗くと、そこにはベースが入ったギグバッグを背負い、両手で二体の人形を大事そうに抱えている内田さん姿があった。借金取りで無かった事に胸を撫で下ろ……いや、あの人形がいると撫で下ろせないのだが、とにかく扉を開けた。

 

「入って、どうぞ」

 

「お邪魔しま~す」

 

「いいよ上がって」

 

 いつかの様なやり取りを交わしながら、内田さんを部屋に迎え入れる。部屋の奥に座る、いつものジャージ姿でないひとりを見つけた内田さんは、意味深な笑みを浮かべて目を細めた。

 

「もしかしてぇ、お邪魔だったかしらぁ~」

 

「こっちが呼んだんだから、そんなわけないでしょ」

 

 おかしなことを言う内田さんにツッコミを入れると、何故か隣であたふたと慌てているひとりの様子を見て、内田さんはクスクスと楽しげに笑った。

 

 とりあえず内田さんにも座ってもらい、三人でテーブルを囲む。「粗茶ですが」なんて言いながら、勝手に冷蔵庫から出したお茶を振舞う。

 

 ゴスロリ姿の内田さんと、古着コーデのひとりが揃うと、途端に部屋が華やかになり、ここが六畳一間のボロアパートであることを忘れそうになる。相変わらずあの二体の人形は恐ろしいが……

 

 しかし、まさか内田さんが来てくれるとは思っていなかった。理由を尋ねてみると、ここが角部屋で、隣が空き部屋なのをいいことに、廣井さんの部屋を楽器の練習場所として借りているのだという。いまはその廣井さんが寝ているのだが……大丈夫なのだろうか? 

 

 ライオットが近い事もあり、こんなところに来ていても大丈夫かと聞くと、どうやら今日のSIDEROSの練習はすでに終わったらしい。だからこそ来てくれたのだろう。志麻さんが来なかった事にも納得がいった。

 

 いい機会なので、コスプレ衣装の進捗についても尋ねてみる。聞けばコスプレの内容は遂に決まったらしく、衣装の製作も順調に進んでいるようだ。ただ、俺のものに関しては少し特殊らしく、別口(・・)に頼んでいるとの事で……一体なにが起きてるんだ。イライザさんは俺に何も言ってはくれない。

 

 一応結束バンドとSIDEROSはライバル? ということになるのだが、ライオットに関しても聞いてみる。すると、内田さんは少し雰囲気を変え、俺をじっと見つめながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

「私たちわ順調よ~。ぜひ、山田さんも見にきてね~」

 

 なんだか内田さんの言動から、若干の敵意? のような物を感じなくもない。ただ、心当たりがまるでないので、恐らく俺の気のせいだろう。

 

 暗黒微笑()で俺の事を見ていた内田さんだったが、ふと傍らに置かれた俺のスネアバッグに気付くと、表情をわずかに強張らせた。

 

「えっとぉ~……これってもしかして~山田さんのですか~~?」

 

「ああ、そうですよ。今日HARD-OPP(ハードオプ)見つけたんです。71年物の402ですよ! すごくないですか!?」

 

……これじゃあ差が縮まらないじゃない~……むしろ開いていってるわぁ~……

 

 俺はよくぞ聞いてくれたとばかりに、どんなに素晴らしい出会いがあったかを早口でまくし立てたが、内田さんには聞こえていないようで、虚ろな目でスネアバッグを見つめたままだった。

 

 やはり、ベースの内田さんにはドラムの事はあまり響かないのかもしれない。これがもし長谷川さんだったら、俺の感動を分かってくれた事だろう。

 

 廣井さんの面倒をみるという建前で練習に来た内田さんの邪魔をこれ以上するのも悪いと思った俺は、ふと気になっていた事を尋ねてみることにした。

 

 先程までSIDEROSのスタジオ練習をしていたということは、内田さんならヨヨコ先輩の予定を知っているかもしれない。もし予定が空いているなら、どこかで待ち合わせて、今日プレゼントを渡そうと思ったのだ。別に本人に直接聞いてもよいのだが、知っていそうな人が目の前にいるのなら、そっちのほうが手っ取り早い。

 

 内田さんに誕生日プレゼントの事も含めて伝えると、ヨヨコ先輩の予定はなかったはずだと返ってきた。内田さんは、もし仮にヨヨコ先輩に予定があったとしても、呼ばれれば飛んでくるだろうと笑っていた。

 

 俺は内田さんにお礼を言い、その場でヨヨコ先輩に御茶ノ水駅まで来てもらえないか連絡してみる。すると、「すぐに向かう」との返信がきた。おそろしく早い返信、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 全ての用事が片付き、廣井さんを内田さんに任せて、ひとりと一緒に廣井さん宅を出て御茶ノ水駅へと向かう。

 

 駅に着くと、信じられない事にヨヨコ先輩が既に到着しており、落ち着かない様子で辺りを見回していた。俺が手を振って挨拶すると、ヨヨコ先輩は一度こちらを見たにもかかわらず、すぐにそっぽを向き、また落ち着きなく周りを見回す。

 

 どういう事だと俺が困惑しながら近づいて声をかけると、ヨヨコ先輩は目を細めて訝しむようにこちらをじっと見つめ、一瞬だけ顔を喜色に染めたかと思うと、すぐにまた不機嫌そうな顔に戻った。

 

 何故一度無視したのか訊ねると、「だっだって、貴方たちいつもと違う恰好だし……べっ別人かと思ったのよ……!」と、ヨヨコ先輩が少し怒ったように言い返して来た。どうやら気恥ずかしさを誤魔化しているらしい。俺はともかく、確かにひとりは普段のピンクジャージではないので、言われてみれば納得ではある。

 

 知り合いだと気づいて安心した様子のヨヨコ先輩は、まだ少し怒っていながらもどこか嬉しそうな様子で、突然呼び出して何の用事だと聞いて来たので、バッグからプレゼント用に包んでもらった紙袋を取り出し、手渡した。

 

 ヨヨコ先輩は少し戸惑いつつも嬉しそうに紙袋を受け取り、中を見てもいいかと尋ねてきた。俺は「もちろん」と自信をもって頷いた。ヨヨコ先輩は紙袋の中を覗き込み、ガスマスクのネックレスを取り出すと、目を見開き、よく見つけたと感心したように息を漏らした。

 

「へぇ……貴方にしては、なかなかいいじゃない。もっとこう、蛇の巻き付いたギターみたいなのを――……っ!?」

 

 ヨヨコ先輩はガスマスクのネックレスを見ながら褒めてくれる。だが、ひとりの胸元に光る蛇の巻き付いたギターのネックレスに気付くと、目を見開いたまま息を呑んだ。驚愕の色を浮かべたヨヨコ先輩の視線に気付いたひとりは、ぎこちなく笑い、照れくさそうに頭をかく。

 

「あっ、わっ私にはちょっとかっこよすぎますかね……? へへっ……」

 

「…………そっそうね……ほんとに……よくぞ、これ(・・)を見つけてくれたわ……」

 

 怯えた様な目でひとりを見ながら、ヨヨコ先輩はガスマスクのネックレスを強く握りしめていた。

 

 とりあえず喜んでくれたことに安堵する。俺は先程ひとりにしたのと同じように、「俺がつけましょうか?」なんて冗談めかして聞いてみると、ヨヨコ先輩は顔を真っ赤にして、即座に声を荒らげて拒否した。ストレートな拒絶にちょっと傷つくと同時に、先程ひとりにやってしまったことを少し申し訳なく思う。

 

 ヨヨコ先輩は自分でネックレスを首にかけると、不安と期待が入り混じった表情で俺たちに感想を求めてくる。自分で言うのもなんだが、「いいじゃないですか!」と自画自賛すると、ヨヨコ先輩は「そ、そうかしら?」なんて照れながら、安心したように息をつき、呆れたように笑った。

 

 ヨヨコ先輩はひとりにライオットの近況を聞きかけたが、途中で言葉を濁した。代わりに、自分達SIDEROSの事を簡単に話してくれて、自分達は絶好調だと笑ってみせた。そして最後に、ファイナルステージへ進むのはSIDEROS(自分たち)だと力強く言い残す。

 

 その言葉に、ひとりは決意のこもった目をヨヨコ先輩に向ける。その視線を真正面から受け止めたヨヨコ先輩は、どこか嬉しそうに、楽しげに鼻を鳴らす。なんだか二人の関係が眩しく見える。まぁ俺は完全に空気なわけだが……ままええわ。

 

「それじゃあね。三次審査、楽しみにしてるわ……後藤ひとり」

 

 まるで宣戦布告のような別れの挨拶を残し、そのまま立ち去ろうとしたヨヨコ先輩だったが、ふと俺の持つスネアバッグに気づくと、目を輝かせて興奮気味に声を上げた。

 

「ちょっと! 貴方、それって……!!」

 

 お手本のような二度見だった。かっこよく立ち去るかと思ったのに、どうにも締まらない人だ。内田さんに話したことをもう一度繰り返し、71年製のLM402だと伝えると、ヨヨコ先輩は目を見開き、興奮した様子で、今からレンタルスタジオへ行こうと言い出した。

 

 さすがに今日はもう疲れたので帰りたいと正直に答えると、ヨヨコ先輩はまたしても不機嫌そうな顔になる。しかしすぐに調子を取り戻すと、次のスタジオ練習には必ず持って来いと強い口調で言い残し、内田さんに会いに行くのか、廣井さん宅へと向かって歩き出した。

 

 この――嵐のように突然現れて、嵐のように去って行く感じ。前にもどこかで体験したと思っていたのだが、金沢八景の時の廣井さんだ。やはり、弟子は師匠に似るというか、尊敬する相手に、自然と似てくるものなのかもしれない。と、思わず苦笑してしまう。

 

 ひとりも同じことを考えていたのか、目が合った瞬間――俺たちはいつかと同じように、顔を見合わせて笑った。

 

「俺たちも帰るか……!」

 

「うん」

 

 俺たち二人はヨヨコ先輩を見送ると、改札を抜けてホームに向かう。ひとりはまだ少し照れてるみたいだけど、首にかかるネックレスを大事そうに触りながら、どこか満足げな笑顔を浮かべていた。




長かった下北散歩が遂に終わりました。一年間古着コーデ姿だったひとりちゃんかわいい。
一年前の044のあとがきで、散歩後編は分割したヤツとか言ってたのに、さらに2分割してるのはどういうことなの? 書いてたら無限に長くなっていくのを助けて欲しい。
なんとかアニメ二期前にはライオットの話までだけでも終わらせたいです。

「蛇が巻き付いたギターのネックレス」で画像検索すると出てくるやつがまさにそれです。

現在再結成ツアー中のoasisのWhateverは凄くいい曲なんでみんなも聴こう。今ならyoutubeに公式日本語訳付き4K画質リマスター音源のMVがあるぞ! 
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