この小説書く前はひとりちゃんの二代目ギターのパシフィカいいな~って思ってたんです。値段もまあ手頃だし。
でもこの小説書くためにドラムの事馬鹿みたいに調べてたら、ドラムも面白そうだなって思ってきたんです。
怖いですよね。
路上ライブから数日、俺は廣井さんからの連絡を待ちながらいつもの日常を過ごしていた。
今日も朝早くから起き出して朝食を済ませると、部屋のテーブルに雑誌やコップ、空き缶などを並べて疑似ドラムを作ってドラムの練習をしていると母親が部屋にやって来た。
「太郎、お友だち来たよ。女の子二人」
雑誌を叩く手を止めた俺は母親の顔を見た。お友だち? いねーよそんなの。いないもんは来れないだろう。ひとりとふたりちゃんかとも思ったが、あの二人ならそんな言い方はしないだろうし、それにひとりが来るときは必ず事前に連絡が来るので、ひとりが来たと言う可能性もないだろう。そもそも今日のあいつは虹夏先輩達が家に来るらしく、飾り付けがあるから忙しいと言っていた筈だ。
「母さんそれ多分詐欺だよ詐欺。俺に友達いないの知ってるだろ」
今日来るらしい結束バンドメンバーの可能性も考えたが、それなら二人はおかしい。仮にそうなら
「伊地知さんと喜多さんって子なんだけど、本当に知らない?」
ドラムの練習に戻ろうとしていた俺は驚いて母親を見た。
「えっ……マジで? 来てるの? 何処に? ウチに? 何で?」
「それは知らないけど、とにかく玄関で待ってもらってるから知り合いなら早く行きなさい」
俺はドラムスティックを部屋へ投げ捨てると、母親の後を追うように部屋を出た。虹夏先輩と喜多さんを騙る詐欺の可能性もまだ残っているが……と言うかリョウ先輩はいないのか? なんで俺の家を知ってるのだろうか? そもそも何しに来たのか? などと色々考えながら玄関へ行くと、本当に虹夏先輩と喜多さんが立っていた。
「あっ、やっほー太郎君! 来たよー」
「山田君。ごめんね急に」
「あっどうも。今日はどうしたんですか?」
二人に挨拶して事情を聞くと、今日はひとりの家でライブのTシャツのデザインを考えるらしい。そのついでにひとりの家に行く前に、ひとりから聞き出した俺の家まで遊びに来たという事だった。あとリョウ先輩は来てないらしい。
「と言う訳で……太郎君の部屋に行ってもいい?」
「えっ俺の部屋ですか?」
虹夏先輩がのほほんと言った言葉に俺は悩んだ。別にみられてまずい物は無いが、特に面白い物も無い。喜多さんを見ると何故かこちらもわくわくした様子で俺を見ていた。さてどうしようかと俺が悩んでいると母親から手招きで呼び出された。
「太郎……上がってもらいなさい。さっき喜多さんからお土産頂いたから、それ持って行ってあげるから」
そう言う事らしいので、俺は自分の部屋に二人を案内する事にした。
「ありがとうございます、喜多さん。わざわざお土産持ってきてくれたらしいじゃないですか」
「ううん、たいしたものじゃないから」
そんな事を話しながら俺は二人を部屋に招いた。あっやべ、疑似ドラムセット出しっぱなしだったわ……まあいいか、虹夏先輩にはドラムやってる事は伝えてあるし。
二人は俺の部屋に入ると、興味深そうにまじまじと殺風景な部屋を見渡して小さく感嘆の声を上げた。
「私、男の子の部屋って初めて入りました。こんな感じなのね……」
かすかに頬を紅潮させて言った喜多さんの言葉に、俺と虹夏先輩の二人が驚いた。
「へえー、喜多ちゃんって友達沢山いそうだから、男子の家も遊びに行った事あるのかと思った」
「俺も意外でした。喜多さんって連日陽キャグループの各家でパーティー三昧かと思ってました」
「パーティー三昧って……そんな訳ないじゃない。そう言う伊地知先輩はどうなんですか? やっぱり二年生は進んでる……ハッ!! という事はリョウ先輩も……いやー!!」
俺達の勝手な喜多像を困った顔で笑って否定した喜多さんは、自ら勝手にパンドラの箱を開けて発狂していた。
「大丈夫! あたしもリョウも、男の人の部屋とか入った事無いから! だから落ち着いて喜多ちゃん」
虹夏先輩に宥められた喜多さんは落ち着きを取り戻すと、改めて部屋を見渡した。何気なく見た机の疑似ドラムセットを発見した喜多さんは、俺がゴミを散らかしていると思ったのか苦笑を漏らし、虹夏先輩は珍しい物を見たかのように小さく驚きながら言った。
「やっぱり男の人ってこういうの片づけずに置きっぱなしにしてるのね」
「いや、違うよ喜多ちゃん! これは多くのドラマーの必須技能……家にあるその辺の物で作る疑似ドラムセットだよ!」
虹夏先輩の言葉に驚いた喜多さんは、一度虹夏先輩を見るともう一度机の上を見た。
「……えっ!? これドラムなんですか!? ゴミを散らかしてるんじゃなくて!? 確かに山田君はドラムやってるって後藤さんが言ってた筈なのに、ドラムが部屋に無いなって思ってたんですけど……」
まあ喜多さんには分からなくても無理はない。ギターやベース、あるいはキーボードなんかは楽器が家にあるのが普通だ。しかしドラムは違う、あのデカさと騒音問題の為とてもじゃないが部屋になど置けないのだ。電子ドラムなどもあるが、どうにも叩いた感じに違和感があるので俺は持っていない。あと高いし……だがやはり虹夏先輩、心の友よ。やはりドラマーはドラマーとしか分かり合えないのかもしれない。
「って言っても、あたしもここまで本格的な疑似セットはやった事ないんだけどね……家にドラムあるし」
虹夏先輩の言葉に俺は膝から崩れ落ちた。そうだこの人実家がライブハウスだった……そりゃこんな事やって無いよな。どうも虹夏先輩は俺が同類だと思って心を許すと後ろからぶっ刺して来る事が多い、この人悪魔か?
しかし喜多さんにこれが疑似とはいえドラムであると証明しないままでは世のドラマーに申し訳が立たないと思い、疑似セットで結束バンドの曲、この前に路上ライブでやった曲の頭の部分を簡単に叩いて見せる事にした。するとこんなゴミみたいな物がドラムっぽい雰囲気を再現出来る事に驚いた喜多さんは凄い凄いと終始興奮した様子だった。
「……なんかさあ……太郎君の使ってるスティックってドラムヒーローさんのと同じじゃない?」
俺の演奏をじっと見ていた虹夏先輩が急にそんな事を言ってきた。
「えっ……あっ、そっすね……」
まさかそんなもんを見てる奴がいるとは思わなくて思わずキョドってしまった。こえーよ探偵かよ。虹夏先輩は部屋をキョロキョロと見渡すと乱雑に置いてあったツインペダルを見つけて、これをまたまじまじと見つめだした。
「これも概要欄に書いてあった奴と同じ奴だ……」
おいおいおい、死んだわこれ。いきなりのガサ入れは卑怯すぎるでしょう。俺が感情を殺して嵐が過ぎるのを大人しく待っていると喜多さんが虹夏先輩に質問した。
「ドラムヒーローってなんですか?」
「喜多ちゃんは知らないか。ネットで一部の人に話題の、もうす~~~っごくドラムが上手な人! 前に太郎君にも同じこと言ったけど、あたし、同じドラマーとして滅茶苦茶ファンなんだよね! 歳も近いみたいだし! もう本当、一度会って生演奏を見て見たいんだよね!」
「伊地知先輩がそこまで言うなんてすごい人なんですね!」
「喜多ちゃんも今度聞いてみてよ! もう本当すっごいから!」
顔を赤らめて興奮したように語っていた虹夏先輩は、突然難しい顔になった。
「そういえば、これは本当に一部で話題なんだけどさ……」
ひどく勿体ぶった話し方の虹夏先輩に、俺は緊張した面持ちで続きを待った。
「実はね……ドラムヒーローさんとギターヒーローさんは付き合ってるんじゃないかって噂があるんだよね」
「……………………は?」
あまりの突拍子もない話に俺は間抜けな声が出た。え? 俺とひとりが付き合ってる? なんでそんな話になっているんだ?
「名前が似てるとか、歳が同じとか、活動開始時期が近いとか色々あるんだけど、一番はドラムヒーローさんにはギターの彼女が、ギターヒーローさんにはドラムやってる彼氏がいるって書いてある事なんだよ」
虹夏先輩が噂の根拠を説明してくれたが、バカひとりバカ。お前が余計な設定を付け加えたおかげでなんか変な噂が立ってるじゃねーか。なんで寄りにもよってドラムを選んだんだよ、ギターにしておけば格好もついたし、私が教えてます! とか言ってアピール出来ただろうが……
「でも音楽をやってる人なら、付き合ってる人が楽器やってるっていう偶然もあるんじゃないですか?」
「まあね、それにギターヒーローさんの彼氏はバスケ部エースで、ドラムを始めたのは高校に入ってかららしいから、時期が合ってないって事で妄言とか妄想扱いされてるみたいなんだけどね」
喜多さんの素直な感想に、虹夏先輩本人はあまり噂を信じていないのか頭の後ろで手を組んでぼんやりと答えていた。ナイスだひとり。お前の思い付きの行動が捜査のかく乱に役立っているぞ。でも絶対後で文句言うからな。
「まあ付き合ってるとかはどうでもいいんだけど……この二人ってコラボとかしないのかなーって思ってるんだよね。さっき言ったみたいに結構共通点が多い二人だからそう言う話とか無いのかな? もし共演するんだったら絶っっっ対見たいなあ! 絶対凄い人気でるよ! 絶対!」
すみません、それ先日やったんですよ、天才ベーシストも添えて。観客十五人くらいでしたよ。ハハッ。
自分の妄想コラボを大興奮で語る虹夏先輩を他所に、俺は遠い目をしていた。
「……それにしてもあの道具を見るに太郎君ってもしかして……」
虹夏先輩の訝しむ視線に、これ以上この話題はまずいと感じ取った俺は、その辺に置いてあったスタンド付きのドラムパッドを引っ張ってきて喜多さんの前へと置いた。少々強引だがこれで流れを変えるしかない! 虹夏先輩の言葉に被せるように俺は早口でまくし立てた。
「あっそうだ(唐突)ききき、喜多さんもちょっと叩いてみませんか? ストレス解消にもなりますしドラムを経験することでよりバンドメンバーへの理解を深める事が……」
「ドラムヒーローさんのファン?」
「……えっ?」
「だってこんなに同じもの買い揃えるなんて、それはもう大ファンでしょ!」
ドラムヒーローの凄さは正直いまいちよく分かっていないが、丁度いいからそういう事にしておこう。なりきるんだ、俺はドラムヒーローフリーク。
「そ、そうなんですよ。前に虹夏先輩から教えて貰って、動画見たら凄い? 人だったんでファンになったんです! いや凄いですね! なんていうか……こう……凄いです!」
「そっかあ……太郎君にもドラムヒーローさんの凄さが分かっちゃったか……」
具体的な事は何一つ言っていない俺に、後方腕組古参ファン面しながら虹夏先輩は語っていた。正直
「ちなみにどの動画が良かった!? あたしはね~……」
ちょっと、まだ引っ張るんですか、もういいでしょう。俺にとってはもう味のしないガムみたいになってるよ。喜多さんを見れば話に入れなくてちょっと困った顔をしている。俺は強引に虹夏先輩の話を打ち切る事にした。
「まあまあ虹夏先輩、その話は今度ゆっくりしましょう。ほら喜多さんも動画見ないと話に入れないですし……それよりどうです喜多さん、さっき言ったみたいにちょっと叩いてみます?」
まだ語り足りないのか不満そうな虹夏先輩を横目に、ドラムを叩くことに割と乗り気な喜多さんにドラムスティックを渡すと、メトロノームを引っ張り出してまずは基本の8ビートから教えてみる事にした。
「こ、こう? 手だけや足だけは出来るけど両方やるのは難しいのね!」
割と楽しそうに叩いていた喜多さんだったが、そのリズム感を見ているとこの人意外とドラムの才能があるんじゃないか? なんて俺は思った。隣では虹夏先輩が何故か喜多さんの才能に怯えていたが。
そのうち母親が喜多さんのお土産を持って来たので、机の上を片づけてシャレオツスイーツを食べながら、今日いないリョウ先輩の欠席理由なんぞを聞いていると、もう
「二人ともそろそろひとりの所へ行った方がいいんじゃないですか? もう飾りつけの準備も終わってると思いますよ」
「えっ? もうそんな時間? 本当だ、じゃあそろそろ行こうか」
そう言って立ち上がった二人を見送る為に俺も玄関まで付いて歩いて行く。
「今日はわざわざありがとうございました。ひとりの事よろしくお願いします」
靴を履いている二人にそう言うと、二人は心底不思議そうな顔をしてこちらを見た。こんなにも明確な何言ってんだこいつって目は見た事無いかもしれない。
「え? 太郎君も行くんだよ?」
「山田君行かないの? 私、てっきり一緒に行くものだと思ってたんだけど……」
何故か一緒に行くことになっていた。いやひとりともそんな四六時中一緒にいないからね。それに俺は結束バンドのメンバーではないので、いても邪魔になるだけだろうと伝えると、二人からまたも不思議そうに返された。
「まあ確かにメンバーじゃないけど……アドバイザー? ぼっちちゃんのスーパーバイザー? みたいな物だし。それにTシャツデザインはアイデアの数が勝負だからね! 人数が多い方がいいと思うんだ!」
「そうよ、それに後藤さんも山田君がいた方が安心すると思うの……私たちも何かあった時安心だし……」
怖、何かってなんですか。喜多さんの言葉に、ひとりが特定(危険)動物指定種リストに認定されている気配を感じたがあまり深く考えないようにしよう。まあこの二人が良いと言っているのでお邪魔しようと思ってそのまま靴を履いて付いて行こうとしたら二人が物凄く驚いた。
「えっ! 太郎君その格好で行くの!?」
「? ええ、まあひとりの家に行くなら別に……」
「凄い……! 幼馴染ってこんな感じなのね……」
お目目キラキラの喜多さんに俺は困惑した。いや別に半袖にスウェットっておかしくないでしょう……靴下だってちゃんと履いてるし。流石にひとりの家と言えども裸足で尋ねる勇気は俺には無い。
母親にひとりの家へ行くことを伝えると、俺達三人は後藤家へと出発した。
俺達三人は後藤家に辿り着くと、三人とも唖然とした表情で後藤家を見上げていた。そこにはでかでかと横断幕が掛かっており、歓迎! 結束バンド御一行様とでっかい文字が書かれている。思わず辺りを見回した。こんな所に入っていくのを見られたらたまったもんじゃ無い。俺は手早くインターホンを押した。
「あっ、幼馴染でもインターホンは押すのね……」
「なんでそんな事で驚いてるんですか喜多さん……おーいひとり、虹夏先輩達来たぞ」
流石に勝手に入ったりはしないので外から呼んでみると、玄関の扉の向こう側からひとりの声が聞こえて来た。すぐに扉が開くと玄関には星の形のゲーミングサングラスと一日巡査部長と書かれた襷を装備したひとりがクラッカーを構えていた。
「いっいええぇええい! ウェウェルカム~~~~~」
言ってひとりがクラッカーを鳴らしたが、俺は何事も無かったかのように靴を脱いで玄関を上がった。いやだって歓迎されてるのは俺じゃないし……ひとり渾身の一発芸にあれこれ言うのも違うかなって。
ひとりの歓迎にちょっと引いていた気もしたが、概ね好意的な感想を言っていた二人を家に上げて、ひとりの先導で部屋へと向かった。
ひとりの部屋へ案内されると、部屋は薄暗く、机に置かれたミラーボールの光が回っている。壁や襖には何故かナイトプールのポスターやハートの形の風船、机の上にはお菓子が置かれていた。
ひとりはそのまま飲み物を取りに行くようなので、俺もそっちに付いて行く事にした。
「そういえばおばさん達は? こういう時は真っ先に飛んできそうだけど……」
「……そう言えば見てないかも」
「あー! たろう君だ! おねえちゃんのお友だちってやっぱりたろう君だったの?」
リビングに着いてひとりが飲み物の準備をしていると、妹のふたりちゃんが俺の足にしがみ付いてきた。どうやらひとりの友人の存在を疑っていたようだ。
「いや、ちゃんと来てるよ。今はひとりの部屋で待って貰ってる」
俺がそう言ってもふたりちゃんは信じられなかったようで、ジミヘンを連れてひとりの部屋へ走って行った。その後何故かシャンパングラスを持って行こうとするひとりと一悶着あったのだが、結局ひとりに押し切られる形でそのまま持って行く事になった。絶対飲みにくいだろうコレ。
麦茶とシャンパングラスを持って部屋へ戻ると、ふたりちゃんと随分と仲良くなった二人に迎えられた。ひとりは家族がいるとはっちゃけられないからと、ふたりちゃんに出て行って欲しいようで土下座などしていたが、最後はふたりちゃんの耳元で何事か呟くと、ふたりちゃんはまたジミヘンを連れて走って行った。
「じゃあ俺はふたりちゃんを見とくわ。おばさん達いないみたいだし」
「あっうん。じゃあふたりの事お願いするね」
身内がいるとはっちゃけられないのは俺も理解出来るので、気を利かせて出て行く事にした。喜多さんは先程の俺達の会話が琴線に触れたらしくまた目を輝かせていたが、藪をつつく必要も無いと思った俺はそのまま立ち去る事にした。
リビングへ行くとふたりちゃんはアイスを食べていた。なるほど、ひとりは
「あ、たろう君。どうしたの?」
「いやー、ふたりちゃんと遊ぼうと思ってね」
「ほんと!? じゃあたろう君たいこ叩いて!」
ふたりちゃんは何故か俺に太鼓を叩いて欲しがるのだ。これは普通の太鼓じゃなくて太鼓の〇人の方だ。しかしドラマーは別に太鼓の達〇が上手い訳ではないので微妙な得点になる、これをふたりちゃんは毎回楽しそうに笑っているのだ。多分この子俺の事自称ドラマーって思ってそう……
ふたりちゃんの相手をして遊んでいると、玄関が開く音がしておじさんとおばさんの声がしたので、俺達二人は玄関へおじさん達を出迎えに向かった。
「おじさん、おばさん、お邪魔してます」
「ああ、太郎君来てたんだね。ひとりは?」
「もう虹夏先輩と喜多さんが来てるので、部屋ですよ」
「え!? 本当に来てるの!? 本当の本当に?」
おじさん達に挨拶すると大層驚いていた。どうやら虹夏先輩達をもてなす為の買い物に行っていたようだ。おじさんとおばさんは荷物を置くと、ふたりちゃんに連れられて事の真偽を確かめる為にひとりの部屋へと歩いて行った。
結局おじさんおばさん主催のパーティーが開かれる事になり、俺もご相伴にあずかる事になった。
今日は後藤家と結束バンドメンバーとの親睦会みたいなものなので、俺は隅の方で大人しくしている事にした。
おじさんやおばさんは、ひとりがレンタル友達的なサービスを利用しているのではないかと疑ったり、割と辛辣な評価をしていたが、同性の友達が出来た事を大層喜んでいた。だが平穏に進んでいた親睦会に、急に爆弾が降って来た。
「いやあ、それにしてもひとりに太郎君以外の友達ができて良かったなあ。なあ母さん」
「ええ、でもこの子昔から太郎君……」
「お、お母さん! お父さん! そういう事は言わなくていいから!」
ひとりが途中で割って入ったが……なになに怖い……やめてよそういう言いかけて止めるの。どうせ碌でもない事だろうけど、途中で止められると怖さ倍増である。
ふたりちゃんが喜多さんの持って来た映画に興味を持った事でこの話は終わったので、真相は闇の中である。この後俺達は皆で青春胸キュン映画()を見た後、大富豪をやったり、ツイスターゲームをやって、ひとりの部屋へと戻って来た。え? 俺がツイスターを誰とやったかって? そりゃひとり……の親父さんとだよ。当たり前だろいい加減にしろ。
ひとりの部屋に戻って来た俺達は、ようやっとバンドTシャツのデザインに取り掛かった。
「デザイン考えてみたんですけど、こんなんどうです?」
俺が見せたデザインはTシャツの中央に四つの色の丸くなった結束バンドが、上下に互い違いに少しずつ重なるように配置されている。
「へえ……中々いいじゃん……ってオリンピック! これオリンピックの奴じゃん!」
「あっ気が付きました?」
「そりゃ気付くよこんな有名な奴!」
俺が虹夏先輩のノリ突っ込みを受けていると、リョウ先輩からデザイン案が届いた。カレーと寿司の雑コラを送ってきて、どちらの晩御飯がいいか聞いてきたのを見て俺は思い出した。
「あっそういえばリョウ先輩に金返して貰ってないわ」
「え! 太郎君リョウにお金貸して返して貰ってないの!?」
「ええまあ、前にアー写撮った時にカレー食べてました」
俺の言葉に虹夏先輩は「すぐに返すように言っとくから!」と怒り心頭の様子だった。そんな話に割り込むようにひとりは声を上げると、立ち上がってTシャツデザインを発表してきた。それにしてもこいつなんで家族の前以外ではずっとパーティー眼鏡かけてるんだ?
ひとりのデザインのTシャツは裾が破けており、中央には謎フォントで文字が書かれている。シャツ全体にファスナーが多数ついていて、右肩から斜めに鎖が掛けられていた。
喜多さんがファスナーと鎖の使い道を聞いていたが、そんなにピック入れいらないだろ……そんなにピック入れてたらデコボコで着ずらいし、絶対ファスナーが噛んで開かなくなる奴出てくるぞ。鎖のギターストラップも肩に食い込んで痛いだろ多分。こいつ自分が着ることになるって分かってるのか?
えらく自信があるのか、ひとりは体をくねらせていたが、ひとりのセンスを危惧した虹夏先輩が恐る恐る私服もこんな感じなのか尋ねていた。
「あっ服はお母さんが買って来てくれるから違います。一度も着た事無いけど……好みじゃないから」
ひとりの言葉を聞いた虹夏先輩と喜多さんは、今日一番の笑顔でおばさんが買って来た服を着てくれるように頼んでひとりから了承を取っていた。
ひとりが着替えている間、俺達三人は部屋の外に出ていることになった。俺以外は出なくても良いんじゃないかと聞いてみたが、こういうのはサプライズが大事らしい。
「そういえば太郎君はぼっちちゃんの私服見たことあるの?」
「一応小学校の時なんかはありますよ、ウチの学校は制服じゃなかったんで。でも中学からは無いですね。中学は制服でしたけど、あいつ家ではいつも上下スウェットでしたから」
部屋の外で待っている間そんな話をしているとひとりから声が掛かった。どうやら準備できたようだ。
部屋の中には清楚系の服に着替えたひとりが座って待っていた。
「「か、かわいい~~!」」
虹夏先輩と喜多さんは大興奮だった。かくいう俺もレアなひとりにテンションアップだ。
写真を撮ろうとした俺と喜多さんにひとりは撮影拒否していたが、構わず写真を撮っていた俺に何か言って来る事は無かった。多分こいつは俺が写真を見せる相手がいない事や、SNS等をやっていない事を知っているのでスルーしたのだろう。もしくは言っても無駄だと思ったのかも知れないが……まあ俺も後で絶対に見返さないだろうけど、なんか珍しい物があったら撮ってるだけなのでそれも関係しているかもしれない。喜多さんに撮られるといつの間にかSNSに上がってそうだからな。
ひとりのかわいさに騒いでいた二人だが、前髪を上げたらもっと良くなると言ってひとりの前髪を虹夏先輩が触った瞬間――ひとりがしおしおと萎れだして、あっという間に小さくなった。
「ぼっちちゃん……死んじゃった」
「新しいギタリスト……探さないとですね」
虹夏先輩も喜多さんも随分ひとりの扱いに慣れて来たなと俺が思っていると、萎れ尽くしたひとりの胞子が充満した部屋の空気を吸った二人は、突然倒れたかと思うと鬱々とした事を呟き始めた。
俺はもうある程度耐性があるので大丈夫だが、こうなると自力で復帰するしかないので、倒れた二人を写真に撮ってしばらく放っておく事にした。
結局おじさん達が食後のデザートに呼びに来るまで二人は元に戻る事は無かった。しばらくして元に戻った二人は鬱々としていた事を覚えていないようで、何事も無かったかのように帰っていった。
その後俺も自宅に戻ると、廣井さんから新宿FOLTの場所と共に、加入テストをするらしいのでFOLTに来てくれとの連絡が俺のスマホのロインに届いたのだった。
シデロスのドラムの長谷川あくびとの交代は、元々自分でもかなり消極的な案だったんですが、なんとか主人公をバンドに入れる為の苦肉の策だったんです。
でも感想でも貰ったんですが、原作キャラのリストラはやっぱりなんか違うよなと思ったのと、シデロスに入らなくても話が作れそうな感じしてきたんでやっぱ無しにします。期待してくれた方にはすみません。
別に貰った感想に屈して渋々とかではないので皆さんこれからも気軽に感想書いてくれると嬉しいです。
本当にやるつもりの無い事は書いてあってもスルーするので。