ぼっちず・ろっく!   作:借りて来た猫弁慶

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 ヨヨコ先輩はそんなこと言わない(先手必勝)

 主人公の評価が盛り盛りになってしまったけど本作ではギターヒーローも同じ位置です。


009 SIDEROS加入試験

 廣井さんから連絡を貰った俺は新宿の人の多さと複雑さに驚きながら、なんとか地図を頼りにFOLTまで一人でやって来たのである。ひとりも一緒に来ると言っていたが、結束バンドの初ライブがもう間近に迫っている事もあり、練習で忙しいだろうと思った為に俺の方から断った。まあ、仮に付いてきてもどうせ新宿の人の多さに参ってしまっただろうし。

 

 しかしFOLTに辿り着いたのだが、入り口の扉の前で俺は立ち止まってしまった。今なら初バイトの時に躊躇していたひとりの気持ちがよく分かる。これ普通に入っていいのか? 廣井さん(あの酔っ払い)はちゃんと話を通してくれているんだろうか……そんな不安が脳裏を過ぎったが、まあその時はその時だ、廣井さんの名前を出せば何とかなるだろうと俺は意を決して扉を開き中に入った。

 

「失礼しまーす」

 

 恐る恐る挨拶して中に入る。少し周りを見渡して思ったがFOLTはSTARRYと大分雰囲気が違う気がする。なんというかちょっと怖い感じがする、やはりこれは新宿という雰囲気がそうさせるのだろうか。おっかなびっくり進んでいくと髪を後ろで縛った男性と相変わらず酒を飲んでいる廣井さん、それとツインテールの女性が席に座っているのが見えた。

 

「お! 太郎く~ん! こっちこっち~」

 

 俺に気付いた廣井さんが大きく左手を振りながら声を掛けて来た。それと同時に男性と女性もこちらに視線を向けて来る。その睨むような視線に俺はちょっと怯んだ。ただでさえ雰囲気が怖いのに勘弁してほしい。

 

「あら~、この子が廣井ちゃんが言ってた子~? 随分若い子じゃな~い」

 

「そうだよ~、太郎君。この人がココの店長の銀ちゃん。心が乙女なおっさんだよ」

 

「吉田銀次郎三十七歳で~す。好きなジャンルはパンクロックよ~」

 

 挨拶された瞬間、今まで感じていた恐怖を吹っ飛ばす衝撃が脳みそを襲った。廣井さんに紹介された男性――吉田さんは見事なオネェ口調だった。はぇ~流石都会は凄いっすね~。これが新宿二丁目って奴ですか? え? 違う? しかしパンクロックが好きとはちょっと気が合いそうだ。

 

「ウッス、山田太郎です。高校一年です。右投げ左打ちのキャッチャーです。ドラマーです。俺もパンクロック好きです、特に疾走感が好きです」

 

 俺が自己紹介すると、吉田さんは同じパンク好きと知ってとても喜んでいた。まあドカベンネタはスルーされたが……このネタってもしかして面白くないのか!? しかしそんなことよりもさっきからツインテールの女性の圧が凄い。メッチャ睨んでくる。

 

「そんでこっちが今回太郎君をテストするSIDEROSのリーダーの大槻ちゃんだよ」

 

 廣井さんから紹介された女性――大槻さんの目がさらに鋭くなった。やばいなあ、テスト前からスゲー嫌われてんのか? もしかしてあれか? 廣井さん俺が男だって言ってなかったんじゃないだろうな? 

 

「大槻ヨヨコよ。SIDEROSでギターとボーカルを担当してるわ。外のスタジオを予約してるから、早速だけどあなたの演奏を聞かせて頂戴」

 

 そう言うと大槻さんは立ち上がってFOLTの入り口へと歩いて行く。それに続くように廣井さんも立ち上がり、吉田店長は手を振って見送ってくれていた。

 

「あの……廣井さん。スタジオってFOLTに併設されてたりしないんですか? わざわざ外のスタジオ借りるって……」

 

 先頭を歩く大槻さんについて歩きながら、俺が小声で廣井さんに話しかけると、廣井さんは悪びれた様子も無くあっけらかんと返して来た。

 

「いや~、私も同席するって言ったら、銀ちゃんが貸してくれなかったんだよね~。多分また機材ぶっ壊されるって思ったんじゃない?」

 

 ええ……廣井さんそう言うアレなんですか……? ていうかまたってなんですかまたって……

 

 俺が廣井さんにくれぐれも今から行くスタジオでは大人しくしているようにお願いすると、廣井さんは赤ら顔で「大丈夫、大丈夫!」なんて言っていたが、まるで信用できない。もしもの時は大槻さんに何とかしてもらおうと彼女を見ると、廣井さんと小声で話しているのがまずかったのか、また凄い目つきでこちらを睨んでいた。あっこれは駄目かもしれんね。

 

 スタジオに到着するとほぼ予約の時間ぴったりだったらしく、特に待つ事も無く入室出来た。俺は持って来た鞄から道具を取り出すと手早くセッティングを済ませて指示を待った。

 

「そういえば大槻ちゃん、他のメンバーは来てないけどいいの?」

 

 廣井さんの疑問に、大槻さんは問題ないと返していたが……おいおい大丈夫か? 大槻さんの独断で入った後にいじめ倒されて辞めさせられるとか、考えただけで恐ろしい。まあしかしここまで来たら大槻さんを信じるしかない。

 

「じゃあ何曲かやってもらうけど、あなたはどんな曲が出来るの?」

 

「えっと、最近の流行りの曲なら大体出来ます」

 

 中学時代ひとりと話し合って決めていたのだが、バンドを結成した時にすぐ対応出来るように俺もひとりもここ最近の売れ線バンドの曲は大体マスターしている。そんな俺の言葉に少し考えこんだ大槻さんは、しばらくすると考えが纏まったのか演奏する曲を提示してきた。

 

「じゃあ行きます」

 

 俺はそう言ってドラムを叩き始める。大槻さんが指定した曲は、まあ普通の曲だ。今の俺には特に難しい事もない。もちろん手は抜けないが、多少余裕のある俺はここぞとばかりにアピールしてみることにした。

 

 とりあえず滅茶苦茶動作を大きくしてドラムを叩く。所謂ドラムパフォーマンスだ。特にリフ(イントロやサビで繰り返される部分)で大げさにシンバルをぶっ叩いた。動画サイトでみて恰好良かったから練習したんだよなあ。

 

 演奏が終わってちらりと二人を見ると、廣井さんは相変わらずニコニコしているが大槻さんはなんだか難しい顔をしている。やばいなあ……こういうパフォーマンスは嫌いだったか? 

 

 しばらく難しい顔をしていた大槻さんは、続けて二曲目を指定してきた。さっきより難しい曲だ。しかし今の俺はまあ問題ないので今度は別のパフォーマンスをしてみる事にした。

 

 今度は少し大人しめに、演奏中にドラムを叩いていない方のスティックを手のひらで高速回転させる、所謂スティック回しをやってみた。興が乗って来た俺は高速回転させたスティックをそのまま二十センチ程上へ放り投げてキャッチしてドラムを叩いて見せたりした。どうっすかこれ? ひとりの歯ギターや背ギターに対抗する為にメッチャ練習したんですよ! もちろん演奏も問題ない。というか演奏が駄目ならこんなもん練習している場合ではない。

 

 二曲目が終わると廣井さんから拍手が返って来た。

 

「いよっ! 名ドラマー! キレキレだよ!」

 

 廣井さんからのおべっかに俺は気を良くしてどや顔でスティックを回して答えた。しかし大槻さんはまだ渋い顔をしている。これは本格的にヤバいかもしれん。大槻さんはこういうパフォーマンス全般が嫌いなのかもしれない。

 

 大槻さんは渋い顔のまま三曲目を指定してきた。おいおいこれメッチャむずい奴やんけ。これは落とす気マンマンやね。しかし俺はこれもちゃんと練習しているので問題は無い。流石にパフォーマンスなんぞ入れてる余裕は無いが……

 

 俺はひとりの様に、あそこまで緊張してパフォーマンスを極端に落とすことは無い。さらに他人と合わせるという事も路上ライブからずっと考えていた事だが、俺に合わせろ(・・・・・・)って事で落ち着いた。結局ドラムはバンドのテンポとリズムをキープする大黒柱みたいなもんだ。それがあっちに合わせてこっちに合わせてってやってたらバンド全員が安心できない、と思う。そういう事で俺は、テンポとリズムキープに心血を注いで練習している。まあバンドに入ったらグルーヴ感みたいなやつが必要なんだろうけど。

 

 問題なく三曲目も演奏し終えると廣井さんが口を開いた。

 

「どう? 大槻ちゃん。まだ足りないならとっておきをやってもらうけど?」

 

「? ……とっておきってなんですか?」

 

 大槻さんの訝しむ視線に、廣井さんがこちらを見ながら一つ頷いた。

 

 えぇ……あれやるんですか……正直ちょっと、いや滅茶苦茶自信が無い。なんてったって、とにかく時間が無かったからだ。しかし確かにこれは加入テストに一番相応しい曲かもしれない。

 

 俺が四曲目を演奏しだすと大槻さんの目がさらに鋭くなった。そりゃそうだ、これは廣井さんから日程が送られて来た時に、一緒に送られて来たSIDEROSの曲だ。絶対ウケるからという廣井さんに煽られてこの数日間ずっと練習していたのだ。俺としてはご本人様の前でやる物真似芸人みたいな心境だ。

 

 流石に俺も緊張したが、なんとか大きなミスも無く演奏が終わると廣井さんが大槻さんに詰め寄っていた。

 

「どう? どう? 太郎君は? これなら大槻ちゃん納得するかな~って思って紹介したんだけど」

 

 廣井さんに詰め寄られた大槻さんは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。廣井さんの話しぶりからするにSIDEROSはかなりの実力者揃いなのかも知れない。これはちょっとパフォーマンスはマイナス材料だったかな、なんて思いながら緊張した面持ちで俺が合否を待っていると、大槻さんは一つ大きくため息を吐いてから口を開いた。

 

「ありがとう、よく分かったわ。結論から言うけど……山田太郎、あなたをSIDEROSに入れる事は出来ないわ」

 

 俺は一つ息を吐いた。まあしゃーない。反省点は色々あるが、俺の居場所はここでは無かった、という事だろう。だが廣井さんは納得できないのかまだ大槻さんに絡んでいた。

 

「ええ~、なんで~。大槻ちゃん上手いドラマー欲しいって言ってたじゃ~ん」

 

「ちょっと廣井さん。あんまり駄々こねないでくださいよ。俺が恥ずかしいんですから」

 

 通知表を見て担任に絡みに行く親みたいな事をしてる廣井さんをなだめていると、大槻さんがしびれを切らしたかのように叫んだ。

 

「ちょっ! 私の話はまだ終わってないんだけど……ちゃんと理由を説明するから」

 

 聞けばスタジオの予約を一時間しか取っていなかったようで、俺が四曲も演奏した為に時間が迫っていたのでとりあえずスタジオを出る事になった。スタジオを出た俺達は何処か落ち着ける場所に行こうという事で、近くのカスト(ファミレス)に入る事にした。

 

 俺達は席に着くと、簡単な料理とドリンクバー(廣井さんは酒を頼んでいた)を注文した。料理が届くまでの間に各自でドリンクを取ってきて一息つくと、何故か俺の隣に座った廣井さんが急かす様に大槻さんに質問した。

 

「それで太郎君が入れない理由ってなんなの?」

 

 廣井さんの質問に表情を曇らせた大槻さんは、悔しさに震える声で語り始めた。

 

「その……悔しいんですけど、上手いんです……」

 

 大槻さんの言葉に俺は驚いたが、廣井さんはそうでもなかったようで平然とした顔で話を聞いている。下手くそだから落ちたんじゃないのか……

 

「上手いなら良いんじゃないの? 大槻ちゃん上手い人と組みたがってたじゃん。それとも大槻ちゃんは自分より上手い人が入ってくるのが嫌なの? バンド内でも自分が一番じゃないと駄目?」

 

 いつもニコニコ顔の廣井さんが目を開いて真剣な顔をしている。レアだ。撮っとこ……じゃなくて凄く居心地が悪い。もっとこう、ここが悪かったからもっと練習しておきなさい! みたいな反省会が始まるものだと思っていたんだが……

 

 廣井さんの指摘に大槻さんは大きく否定の声を上げた。

 

「違います! そうじゃないんです! ただ……今のSIDEROSに彼がいる意味が無いんです……」

 

 大槻さんはとても悔しそうに言葉を続ける。

 

「確かに彼に抑えて(・・・)演奏してもらう事で活動自体は出来ると思います。その間に実力が追いつけばいいという事も……でもその間に彼が得る物(・・・)が無いんです……それが私には納得出来ないんです……私が……許せないんです……自分が一番じゃなきゃ嫌だとか、そんな事じゃなくて……」

 

 そう言って大槻さんは俯いて黙り込んでしまった。

 

「そっか……だってさ~太郎君」

 

 廣井さんが場の空気を明るくしようと陽気な声で俺に話を振って来たので、俺もそれに倣って冗談めかして肩を竦めて見せた。

 

「まあ気にしないで下さい。SIDEROSは俺の居場所じゃ無かったってだけの事です。それにしてもバンド組むのって難しいんすね~。俺こんなにバンド組めないと思ってませんでしたよ」

 

「もう太郎君SICKHACK(ウチ)の子になっちゃう~?」

 

「またそんな事言って……もう志麻さんがいるでしょーが。あ、でも練習混ざってもいいなら呼んでください」

 

 俺と廣井さんが冗談を言っていると、大槻さんが信じられないような物を見た顔をしてこっちを見ていた。

 

「ちょっと待って! あなたバンド組んだことないの!?」

 

「え? ええ、そうですね。まだ一度も組んだ事無いです」

 

 俺が正直に伝えると大槻さんはさらに驚いていたが、今度は廣井さんが抗議の声を上げた。

 

「ええ~! 太郎君、私と組んだ事あるじゃん!」

 

「ええ! あなた、姐さんとバンド組んだの!?」

 

 あーもうめちゃくちゃだよ。酔っ払いが「私はヤリ捨てられたんだ~!」とか言って泣いてるが、誤解を招く表現はやめて欲しい。ここはファミリー(・・・・・)レストランだぞ。ほら大槻さんも滅茶苦茶怖い顔でこっち見てるし……路上ライブのアレは即席バンドじゃん。今言ってるバンドはみんなで音合わせしたりちゃんと練習してやるバンドでしょ。

 

 しかし廣井さんのおかげで重苦しい雰囲気が無くなったようでなによりだ。まああの雰囲気を作ったのも廣井さんなんだが……

 

 先程のお通夜みたいな雰囲気から、なんだかわちゃわちゃした雰囲気になってしまった所に注文した料理が届いたので、取り合えず食事タイムとなった。

 

「そんなにがっつり食べるなんて、やっぱり太郎君は男の子なんだね~」

 

 俺の注文したハンバーグとライスを見ながら、廣井さんがそんな事をしみじみと呟いた。やっぱり歳取るとこういうのきついんだろうか? 殴られそうで言わないが。

 

「いやあ、なんだかドラム叩いてたらお腹すいちゃって……廣井さんも少し食べてみます?」

 

「え? いいの? 悪いね、催促したみたいで」

 

 そんな事を言いながら廣井さんはハンバーグを切り取って食べると、酒と一緒に楽しんでいた。というか俺の周りこんな人ばっかじゃねーか! リョウ先輩といい廣井さんといいどうなってんだベーシスト。大槻さんも何故か対抗して自分の料理を差し出してるし……それでいいのか最年長……まあこれもこの人の人柄なんだろうか。

 

「まあでも――山田太郎。あなたが上なのは今だけよ。すぐに追いついて……いえ、追い抜いてやるから。そして、私は一番になるの!」

 

 俺がハンバーグライスをぱくついていると大槻さんがそんな事を言ってきた。先程は随分落ち込んでいた気がしたが、なかなかタフなメンタルをしている。

 

「そりゃあ楽しみです。でもなかなか難しいかもしれませんよ、一番になるのは。俺と同い年で、俺と同じくらい凄いギタリスト知ってますから」

 

 俺の言葉に大槻さんはぎょっとした顔をした。大槻さんはマジで? みたいな顔で廣井さんを見たが、廣井さんはまた相変わらずニコニコしているだけだった。

 

 その後は食事をしながら大槻さんが先ほどの俺のSIDEROSの曲の演奏に、ああだこうだと細かい改善点を話していたが、ふと思い出したようにポツリと云った。

 

「……そういえば廣井さん、今日ライブじゃないんですか?」

 

 大槻さんの発言に俺は飛び上がった。

 

「ちょ、マジですか? 何時から……っていうかいま何時ですか!? なんで廣井さんそんなにゆっくりしてるんですか!? リハーサルとかあるんじゃないですか!?」

 

 俺の慌てっぷりに大槻さんは落ち着くように言ってきたが、とてもそんな気になれなかった。なにせ俺の用事に付き合ってくれているので、遅刻したら俺のせいみたいなモンだ。

 

 大槻さんの話では時間はまだ大丈夫そうだが、俺が会計を済まそうと伝票を持って行こうとすると大槻さんから待ったが掛かった。

 

「ここは私が払っておくから、あなたは廣井さんを送って頂戴」

 

「いや、そんな訳には……」

 

「いいから……まあ、今日のお詫びだとでも思ってもらえばいいから……」

 

 バツが悪そうにそっぽを向いて言った大槻さんに、なんとなくこの人は折れないだろうなと感じ取った俺は、お言葉に甘える事にした。というか自然に奢られてるぞ廣井さん……

 

「すみません。今日はごちそうになります。また何かあったら廣井さんを通して連絡ください」

 

「それなら大槻ちゃんも太郎君と連絡先交換しといたら?」

 

 遅刻は自分の事なのに随分とのんびりしている廣井さんからそんな提案があった。なんでもSIDEROSはメンバーの入れ替わりが激しいらしく、将来的にまた空きが出る可能性も十分あるらしい。

 

「そういうことなら俺は構いませんけど……どうします?」

 

「ま、まあそういう事なら私もいいけど……」

 

 そうしてロインの交換をする事になったのだが、驚くことに大槻さんはロインの交換をした事が無いらしい。こんなに美少女なのにそんな事ある? と思ったが、これはあれだな高嶺の花って奴だな。しかし俺は美人に気後れすることはない。何故ならひとりで耐性があるから。あいつ家族の前では極端な猫背も二重顎になる俯きも無いから常時美少女なんだぞ。

 

 ロイン交換になんだか感動している大槻さんに挨拶して、俺と廣井さんは店を出た。

 

 なんとかかんとか酒でぐでぐでの廣井さんを引っ張ってFOLTに辿り着くと、吉田店長が驚きながら出迎えてくれた。

 

「す、すみません……廣井さん連れて来ました……」

 

「あら~! 廣井ちゃんがリハに遅刻せずに来るなんて珍しいわね。山田君お疲れ様、しばらくここで休んでなさい~。ほら廣井ちゃん、行くわよ」

 

「太郎君また後でね~」

 

 廣井さんが遅刻常習犯の様な、恐ろしい事を言う吉田店長に連れられて、廣井さんはリハーサルへと向かった。遅刻の恐怖に精神的にどっと疲れた俺は、吉田店長の言葉に甘えてその辺の椅子に座って待っていることにした。

 

 しかし、やはりFOLTはなんだか落ち着かない、何と言うか大人な雰囲気だ。SIDEROSの大槻さんも妙な貫禄があったが、ここを拠点にしているならそれも頷ける話だった。

 

 しばらく落ち着かない様子で待っていると、吉田店長が戻ってきてリハーサルが終わったという廣井さん達の元に案内してくれた。

 

「あっもしかして路上ライブの時の? 今日は廣井の事、ありがとうございます」

 

「いえ。あっ山田太郎です。志麻さん……でしたよね。路上ライブではありがとうございました」

 

 そう言って俺は頭を下げた。路上ライブの時も思ったが志麻さんは大人って感じだ。廣井さんがアレ過ぎるのもあるが。

 

 頭を上げた俺の目に、金髪碧眼の外国人美少女が写った、彼女と目が合った瞬間、俺は硬直して思わず叫んだ。

 

「あ、あいきゃんのっとすぴーくいんぐりっしゅ!!!」

 

「私、日本語で大丈夫デス! イライザって呼んでイーヨ。イギリスに十八歳まで住んでました! 日本三年目! 仲良くしてネ!!」

 

「あっはい……山田太郎です。よろしくお願いします」

 

 陽キャ外国人のイメージ通りなイライザさんは、俺の名前を聞いて何故か大興奮だった。

 

It's a miracle(信じられない)!! 山田太郎!? がんばれ♡がんばれ♡のドカベンですか!?」

 

 いや断じてその頑張れでは無い。しかし凄い食いつきだ、かつてこの名前でここまで食いつかれた事は無い。滑った事は幾度となくあるが……そういえば外国人は日本のアニメ好きな人も多いらしいから、そう言う古いアニメが好きなんだろうか? 

 

「私、コミマ参加したくて日本きたのヨー! 日本のアニメ大好きデス! もちろんドカベンも大好き! 本当はアニソンコピーバンドしたいネ!」

 

 日本のアニメ好きでコミマ参加は分かったけど、それならドカベン好きはマニアック過ぎだろ……っていうかドカベンの頑張れがコミマ知識に汚染されてるじゃねーか。

 

「イライザはアニソンこそが日本の最先端っていつも言ってるんだー」

 

「へぇ~、でもなんか分かる気もします。人気ありますよね日本のアニメ。皆さんでアニソンコピーとかはしないんですか?」

 

 廣井さんの言葉に俺が質問すると、志麻さんと廣井さんは苦笑いを返して来た。まあそりゃそうか、廣井さんたちのバンドがどれくらい人気なのかは知らないが、今更コピーバンドをするようなレベルじゃない事はなんとなく分かる。

 

 三人と話していて思ったよりも長く居座ってしまった為に、そろそろお暇しようと思った俺は廣井さんに引き留められた。

 

「待って待って。今日のお詫びじゃないけどさ、太郎君、私たちのライブ見て行ってよ?」

 

「いいんですか? じゃあ……」

 

 そう言って財布を取り出そうとした俺を廣井さんは制した。

 

「チケット代はいいよ、紹介するなんて言って流れちゃってごめんね。ライブはそのお詫びって事で。」

 

「そう……ですか? それじゃあ見させてもらいます」

 

 今日は大槻さんと廣井さんにお詫びという事で奢られてしまった。あまり気にしないで欲しいので、いつか何かで返さないと借りで首が回らなくなりそうだ。

 

 そんな訳で俺は廣井さん達SICKHACKのライブを見てから帰る事となった。

 

 SICKHACKはかなりの人気バンドの様で、ライブもワンマンライブの様だった。廣井さん達と別れて荷物を預けて客席へ向かうと、続々と客が入って来ており、最終的には五百人近い観客となっていた。

 

 俺は観客の中央程の位置でライブが始まるのを待っていると、照明が落ちて歓声が上がった。ベースの音が響き、ゆっくりと幕が上がりきると本格的に演奏が始まった。

 

 ライブが始まって、俺はSICKHACKの演奏レベルの高さと、廣井さんのその圧倒的カリスマ性にただただ圧倒されていた。本格的にライブを見たのも、サイケデリック・ロックを聞くのも初めてだったが、その全てが最高にかっこよかった。

 

 ライブが終わると俺は物販に直行して、とりあえずTシャツとCDとスコアを購入した。預けた荷物を回収して帰り支度をしていると、吉田店長に呼ばれてライブが終わった廣井さん達と会える事になった。

 

「あっ太郎君。私たちのライブどーだった~?」

 

「最っ高にかっこよかったです! 良かったらCDとスコアにサイン下さい!」

 

 俺が差し出したCDとスコアに嫌な顔もせずに三人はサインをしてくれた。なんと俺の名前入りだ。これを大事に鞄にしまってから、俺は大興奮でライブの感想を語り始めた。

 

「サイケって初めて聞いたんですけど凄かったです! ドラムなんか凄い変拍子なのに完璧だし、ギターも……」

 

「まあまあ太郎君。その話はあとでゆっくり聞くから……とりあえず打ち上げ行こーぜ!!」

 

 廣井さんの言葉に俺は思わずきょとんとしてしまった。何言ってんだこの人? 

 

「大丈夫大丈夫! 私が口を利いてあげるから。今夜は寝かさないぜ!」

 

 なんだか勘違いしているようだが、そういう事ではないのだ。だから俺はごく当たり前の事を、諭すように廣井さんに言った。

 

「いや、俺未成年なんで無理ですよ。それに俺、今から二時間かけて電車で帰らないといけないし……っていうか皆さん今から打ち上げなんですね。すみません、それじゃあ俺はこれで失礼します。今日はありがとうございました!」

 

「え? ちょ、太郎君……」

 

 そう言って頭を下げると、廣井さんの言葉をスルーして俺は足早にFOLTを後にした。

 

 帰りの電車の中で、今日買ったスコアを早く練習したいだとか、やはりひとりも連れてきてこの興奮を分け合いたかっただとか考えていた。今日は残念な事もあったが、それよりも大興奮の一日だった。

 

「あ、そういえば志麻さんとイライザさんを結束バンドのライブに誘うの忘れてたな……」

 

 まあ廣井さんが言ってくれているだろう。そう思って俺は気を取り直した。

 

 

 

 結束バンドの初ライブが、もうすぐそこまで迫っている。




 納得できない人もいるだろうけど、とりあえずこれで通します。

 落ちた理由は男だから無理とか、顔がね……とかでもおっけーです。各自で補完ヨロ。
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