シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る 作:むーんしゃいん
海洋惑星ブルーハワイへようこそ
≪ブルーハワイの白い砂浜≫
ぼく、空に上がるのが夢なんだ。日焼けした褐色の子供が見上げる光点の先。
≪海洋惑星ブルーハワイ
青く輝く空。コバルトブルーの海。
ヤシの木に白い砂浜。
シャロンの赤いセパレートの水着で日焼けを楽しむ。
そして何より、久しぶりの余暇を満喫する。
白い砂浜が続く、海岸線をオープンカーを運転して、ルナと一緒に爆走するはずだったのに…。
そんな妄想をするシャロン艦長は、
それなのに、なんで、なんで…。
「いい加減、あきらめてください」
大体、車の免許持ってないでしょう。と、副長が今回の全艦隊に演習の開始を無線する。
「こちら、オブザーバーバニラ。
虚しいだけだ…。やめよ。シャロン准将が妄想を吹き飛ばし、ぐぬー。と背伸びするシャロンする。
艦内を見学していたブルーハワイの政府高官や貴族が帰ってきた。
課長補佐級
なお、EDFでは疾うの昔に、シビリアンコントロールの概念は消え去っている。
「艦内はご覧になりいかがでしたか?」
艦橋に設けた即席のシートへと案内した。
副長は停泊しているバニラの指揮を執る。今回の演習は、バニラは参加しない。
その一方で、巡洋艦レゼングラーク1隻は、敵駆逐艦3隻と巡洋艦3隻を相手にする。
攻撃側戦力三倍の法則ならぬ、いまや六倍だ。むちゃくちゃだ。
それもそのはず。
シャロン准将が、新人士官クルー達を集めて。なんでもいいから書いてこい。と。すでにハンコの押された白紙の作戦指示書を手渡し完成した。お笑い作戦計画書の内容だ。
返ってきた作戦指示書を見たとき。いやー、これはー無理だろ。シャロン准将はおなかを抱えて笑っていた。
しかし、そのあとすぐ、嘘か誠か、その作戦計画書を触れたクルー達が原因不明の腹痛になるという噂がたった。
少しクルーは気が立っているのだろう。副長はその作戦計画書を手に艦橋に立っている。
この演習内容を、レザングラークのヒスイ艦長は、案外簡単に引き受けた。ヒスイ艦長も変わったな。と副長は考え深けにしている。
質的にもさほど変わらないだろ。全員がそう予想する。
『
発射してから、すぐレゼンクラークは、回避行動に移る。
エアーダミーとエネルギーマスカー光子かく乱膜展開し敵の
ロックオンしているのにまったくあたらない!
巡洋艦レゼングラースが、演習ミサイルをブルーハワイ各艦船4発ずつ発射し。
対宙防御速度をそぎ落とす。
副長は饒舌なシャロン准将を見る。
あの衛星事件以降、シャロン艦長は少し変わった。副長は苦笑する。
『こちら
「さらに
「
船速も対処も遅い。もっと早く連携らないとって動かないと負けるぞ。
『こちら
『続き。
弾道を変え迫る対宙ミサイルに対し、アンチミサイルを発射され、標的に落としていく。
レゼングラーセ着弾10秒前。さて、カウンターメジャーが成功するかな。シャロンもふと黙って見守る。
敵ミサイルが発射されてから爆発するまでの間。レゼングラーセの上部のドームから、
間近すぎて
爆破の衝撃を、黒い対高爆装甲板が防いだ。
チャフで輝き舞う、その黒いカラーリングは、まるで神の使いヤタガラスだ。
結局、
この戦果を見ていたバニラのクルーは、レゼングラーセが特に上手いとは思わない。
自分が出来なきゃやられるのだ。
「…やるじゃん」
ぽつりと言ってしまった微笑むシャロン艦長は、背後からオブザーバーの観客のしらけムードを感じとった。演習途中にも関わらず。レゼングラークのヒスイ艦長を
『こちら
シャロン准将は、惑星ブルーハワイとレゼングラーゼに挟まれているブルーハワイ艦隊の位置配置を考え、このままでは
「存知あげております。ヒスイ艦長。相手はうちらの艦を使ってるんだ…。意味、分かるよね?」
そもそもが演習ごときでスペック晒すな。シャロン准将が、八百長をボソボソと小さくヘッドセットに告げる。
『はぁ…。わかりました』
やべー、コハク少尉戻せとか言わなきゃよかった。シャロン准将は、粗暴に通話を切る。
「いやーさっきのは、幸運ですね。奇跡です。これまぐれですよー」
おー、そうだよな。専門家がいうなら間違いないな。と観客たちは笑い声をあげる。
『
バニラの艦内に、飛翔体の高速接近を知らせる
ミサイルより手ごわいデブリの襲来だ。艦橋の雰囲気が一瞬にして変わる。
「後進。ダウントリムぅ…」
ルナが、瞬時に操舵を変わった。艦橋の灯りが青色の照明から赤に変更される。
常に全天を把握しているルナの即時対応力は高かった。
ルナは重力発生装置《G E N S》をOFFにして、バニラのスラスターを操作していた。
「全員、シートベルトして!」
脊髄反射的に声を上げるシャロン艦長がオブザーバーにドスを効かせて怒鳴る。
着席していたオブザーバーが、
少しのほほんとしてたクルーの顔つきが変わる。シャロン艦長もただちに艦長席につき、ヘッドセットをした。
『レッドクロス…10…』
艦長席のディスプレイに光学スキャナーがピックアップされている。真上からのコースだ。回避は不能である。ルナもコース飛翔体との進入角度を変更をしていた。
即座に、ブルーハワイの重力と遠心力が、巡洋艦バニラを捉える。
「頭を抱えて下さい。大丈夫ですよー」
ここは軌道上だ。難しい舵取りになる…。シャロン艦長は、オブザーバーを気にしながら声を掛け続ける。
「艦橋。
虹色のバリアが直撃コースの飛翔体に展開される。
『こちら
「対デブリ用ブラスター」
シャロン准将は航宙員に告げる。
艦の周りを特殊な空気で保護し、物理的なダメージを軽減する。こんなの民間航法の気休めだった。
「ブラスター起動サー。防護開始」
「総員耐ショック姿勢」
艦内にシャロンの冷静な無線が響く。
『レッドクロス…3秒前』
ガタガタとディスプレイと機材が軋む。
振動にオブザーバーから悲鳴が上がった。
『…2』
嫌に青く明るいブルーハワイの地表が艦船前面を映した艦橋のメインディスプレイを支配している。
やばい…やばい…。ジェットコースターに乗ったときのような気分のシャロン准将は、冷静な頭を巡らせる。
『…1』
それと同時に、デブリが巡洋艦バニラに当たる。酷い衝撃と轟音がこだまする。
音の場所からして第3ブロックか。シャロン准将とクルーは判断した。
艦長席に鎮座しているシャロン艦長は、すぐにダメコンを呼び出す。
「こちら艦橋。ダメコン。状況」
『こちらダメコン。第三ブロック装甲板が小破。その他異常確認されず』
飛翔体を受け流せたようだ。真空の流入もない。対応は良い。シャロンは溜めていた息を零した。
「こちら艦橋。応急員は第3ブロックの内部確認いそげ」
今は忙しいから、内部からの応急要員に、点検作業だけさせる。あとは副長に引き継ぐ。
『こちら
「
ルナが再起動し、巡洋艦バニラの重力が元に戻った。
ううう…、こんな舞台でデブリがぶつかるなんて。なんてついてない。と、シャロン准将は軽くうなだれ乱れた金髪を掻く。
「演習を中止しますか?」
「いや、続ける。おそらく、損傷は軽微だ」
嫌な予感がする。クルーたちを戦闘では味わえない。
なにか霊的な、目に見えぬ、どんよりとした恐怖を感じ始めた。
「シャロン外事官。何が起こったんだ」
艦長席から立ち上がり、高官や貴族達を見る。
「デブリです。たまにありますから大丈夫!乗っていたのが巡洋艦でラッキーでしたねぇー!」
「旅客船だったら、堕ちてますよー!」
シャロン准将は極めて明瞭に明るく言ったはずだが、オブザーバーたちの顔色はすぐれないようだった。