シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る   作:むーんしゃいん

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なんてこった!死んでしまう!


呪われた船。名前はバニラ

 

≪海洋惑星ブルーハワイ演習終了から数日後。航宙域。EDSF002-222(バニラ)艦橋≫

 

 ブルーハワイでの演習は一方的な防勢に徹した巡洋艦ラゼングラークは敗戦した。

 

 些細ないざこざはあったもの。EDFはブルーハワイから、巡洋艦6隻の正式配備の受注権を会得したようだ。

 

 EDFの高飛車政策のご成約ありがとうございます。

負けたヒスイ艦長は、演習内容に怒ることもなく。いい準備訓練になった。と、EDSF戦闘作戦システム(L I N K 18)で告げていた。一皮剝けたな。シャロン准将は思った。

 

 周りはいい思いをしているのに、巡洋艦バニラはちっともかんばしくない。なんだか、何か、ブラックホールにとらわれているようだ。シャロンの調子はすぐれない。

 

「なんだか、最近、アクシデントが多いな」

 

「気を引き締めろ」とシャロン准将がクルーに怒号を浴びせる。

 

「あのシャロン艦長。先日から、体調がすぐれないようですが」

 

 優しい航宙士がシャロン艦長に声をかける。

 

 元々色白のシャロン艦長の顔がさらに白い。

皆一様に「そうだね」とシャロンの顔を心配そうにのぞく。

 

「あ? 大丈夫だよ」

 

 シャロン准将は航宙士に、ありがとう。グーパンチを軽く返す。

 

「あの、シャロン艦長。もしかして、呪い…」

 

 クルーの間では、ふざけて書いた作戦指示書が、もはや、原因だと確信しているようだった。

 

 シャロン准将は呪いなんてホットリーディングの産物でしか無いと思っている。

 

「アァ…ッ? なんだと?」

 

 シャロン准将は、パワハラにらみに目を伏せる。

 

「いえ、なんでも」

 

 そんな中、ルナだけが何のお構いもなしに、核心に踏み込む。

 

「きっと、サボったからあの紙(作戦指示書)に、シャロン。呪われてるんだね」

 

「いつから紙切れが神聖なものになったんだ」

 

 カン。船体に何かが当たる。艦橋クルー一同がびっくりした。

 

 その中でも、シャロン艦長はパントマイムも驚く15秒間。髪の毛一本動かさずフリーズしていた。

 

「…何もしていない私がか?」

 

 悪いことはしてないが仕事もしてない。「確かに、ハハ…ッ!」その第一声に、艦橋クルーの一人が思わず笑い、口をふさぐ。

 

 笑ってしまったなお前。たしかに、私の耳にはお前の声が鮮明に聞こえた。この件が済んだらいじめてやる。パワハラにらみを飛ばし罵声を浴びせる。

 

 こういう悪行の積み重ねが、不幸を招くとシャロン艦長本人はいまだに知る由もない。

 

「副長、その紙切れをよこせ」

 

 副長がもっていた記録簿ごと、作戦指示書を奪い取る。

そして、こんなのこうだ。と、二種機密情報の紙切れを子供の遊びのようにびりびりに切り裂き艦橋にばらまく。

 そんなことをして、記録簿の控えはどうするの?とクルー一同の視線を一心に浴びていた。

 

やり終えた後、高々に勝利宣言をする。

 

「お前ら、お化けがでる宇宙巡洋艦なんて…。そんな…バーカ…っ!」

 

わけのわからないことをいい残し、自分の艦長室へと戻る。

 

 だが、すぐに戻ってきた。

 そして、自分が無造作に捨てた作戦立案書の紙くずを今度は、一片の欠片も残さず後生大事に拾い集める。

 

「お顔が青いよ。シャロン。本当に大丈夫?」

 

大丈夫だ…!と言いたくても言えなかった、シャロン准将ただことではない顔をしてルナに無視する。

 

 そうだよね。かかわった人間だけが腹痛になるなんてほん少しだけおかしいよね。

さっきのデブリが、宙域衝突防止装置(T C A S)に感知もされず忍び寄るなんて絶対…、おかしいよね。弱気なシャロンが改めて問題点を自覚し始める。

 

「…覚悟しろ、諸悪の根源。今すぐ、終止符を撃ってやる」

 

そういうと、紙くずを抱きしめ。

あわただしく艦内を駆け回り、医療室の中に設けられた遺体安置室へと向かう。

 

 遺体安置室は、バニラでは幸運にも誰も使ったことがない。

医療室に入ってきたシャロン准将に、救護長が何事だ。と。あとを追う。

 

 めったに医務室も来ない健康優良児のシャロン准将が、死の代名詞の遺体安置所へ

今にも天寿を全うしそう顔をして到来したことに驚きを隠さない。

 

 シャロンは、何もない医療室のタイルで、なぜか、壮大に転び、おでこを強打する。もうシャロン艦長の涙目には、すべてがどす黒く見えている。

 

「シャロン艦長。顔色が悪いようですが…」

 

 そのセリフ何度目だよ。

 

「ほんと…大丈夫だからさ…」

 

 ひどい汗と浅い息を吐きながら救護長に答える。

このとき、トリアージで診断をうければ、イエロータグぐらいにはなったかもしれない。

 

 自分を鼓舞すように、歩みを進めた。

 

 遺体安置所に設けられた鎮魂の鐘を、ガガガガガ。と、10回ほどやっつけ仕事で鳴らす。

そして自分は、船外放出ベットのロックドアの端末を操作した。

 

 指輪物語の主人公のように、金の指輪ならぬ、作戦計画書の紙屑を船外放出ベットに突っ込む。

 そして、マグマの宇宙へ。エジェクトボタンを痛いほど連打して放出した。

 

 キラキラと散乱し漂う紙吹雪に

満身創痍の身体に鞭を打ち、最近で最もきれいな敬礼を捧げる。

 

 シャロン准将渾身の宇宙葬を執り行った。

 

 まさか、戦場のあらゆる不確定要素を予想し巡洋艦バニラ作った設計者も

初めて宇宙葬をした相手が、紙屑になるとは予想はしていなかっただろう。

 

 その後、シャロン准将の祈祷の成果か。

それ以来、呪いを解かれた巡洋艦バニラに平穏無事にもどった。

 

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