シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る 作:むーんしゃいん
≪月面型惑星EDF-DA40補給基地。巡洋艦バニラ船外≫
砂と石と小さなクレーターそれ以外は、何も見えないこの静かな砂漠。
シャロン准将は、軍用PDAを接続した軽量船外活動着を身に着け。巡洋艦バニラの外へと飛び出し、人生初の月面型惑星歩行に乗り出した。
おお。と、人工重力に慣れた体が軽く浮く。これは少し楽しい。
たぶん、最初の2、3時間で飽きると思うけど。シャロン准将は、華麗に着地を失敗ししりもちをつく。
ルナも、船外活動着を身に着けて、飛び回って楽しそうにしている。
この月面型惑星の石だらけの地表に作られたDA40補給基地は名称すらない。
ここは、宇宙のはずれのさびれたガソリンスタンドみたいな感じの場所だ。
そこに、巡洋艦バニラ艦隊が停泊し。やっと、1週間の長期休暇を許された。
この不毛の地でである。
EDSF総司令部は鬼である。
月と同じで、どこにも何にもない。
ただ、月と違うのは、足跡を残したところで感動すらない。
なんで、前にいた観光星ブルーハワイじゃないのか!ヒスイ艦長のクルーたちは『上司に、上司はその上司に、その上司はそのその上司に、意見具申する』なんて非生産的な意思伝達法で不満を漏らしている。
それに比べて我々のバニラクルーは優秀だ。シャロン艦長はバニラクルーの行動を褒めたたえる。
彼らは、シャロン艦長とヒスイ艦長だけではなく。すべての士官にも分け隔てなく殺意を宿し、黙って睨み付けてくる。
ヒスイ艦長とコハク少尉を筆頭とするヒスイの士官たちが、バニラの下士官にびくびくしながらドッキング通路を歩いている。
そこはちょっとかわいい。もちろん、艦長シャロンと副長を筆頭としたシャロンの配下の士官は、会釈代わりにパワハラ(にらみ)返す。
大切な部下を怖がらすのは、大変心苦しい。
だが。【いま】やらなければ、【いつか】やられるのだ。
この星は、足元に石だけはいっぱいある。
このような、クーデターを起こしかねない状況において。投石は、もはや、この補給基地では最強の射撃武器なのである。
いよいよ、ここ宇宙補給基地ではなく、原始時代にタイムスリップをした様相を呈してきた。シャロン准将は、なかなかここが楽しくなってきた。
シャロン准将は、バニラの若い下士官を招集し、小石によるヒスイ艦長、拉致作戦を敢行する。
そんなことをして遊んで。シャロン准将たちの、長い三日が経過した。
もう出発でいいんじゃないか?と、クルーたちがお互いの顔を見合わせ始めたころだ。
シャロン准将は、宇宙補給基地倉庫で、見つけた秘密兵器を思い出した。
「見ろ。月面自動車だ!」
電気で発動する小型の旧式車だ。電池がなくなっていたので、充電してたのを忘れていた。
バニラの若い兵卒はだらけきって、イイッスねー。とやる気なく歩いている。
ルナは、レゼングラースの若者たちに、ちやほやされている。
双方に、上官に対しての態度として許せないものがあり、直々に制裁する。
やるせない気持ちになって、シャロン准将は、一人。外にお出かけすることにした。
「おー。結構スピードが出るね。アウラ」
『お気を付けください』
いつも携帯しているアウラは、もはや逃げられない
移動のための最低限の機能を備えた自動車で。
一人ダカールラリーを開催している。
「風はないけど、艦橋と違って、疾走感が味わえるね」
こんなに自動車の運転上手いのに、地球の教習所の教官は全員がハンコをおさない。シャロン准将は、その悔しさと情けなさに愚痴がこぼれる。
「あ。目の前に石だ。アウラ飛ぶぞつかまれー」
片輪だけで飛び、自動車ともども、ゴロゴロと転がる。
『とても、危ないです』
注意を促すアアラに対して。シャロン准将は大笑いしながら、身体を地面に預けた。シャロン准将の目の前に
頭上を大きな隕石郡がゆっくりと通過している。そして、星々が輝いている。
『准将閣下、どうされました?』
いつも見ている
ただ、そんな、感傷的なことを言える柄でもない。
一呼吸置くシャロンは「何でもないよ」と答え、自動車まで歩いていく。
「あれ、これ壊れてないか?」
乗り上げた片輪が曲がってる。
『本当ですね』
「これだから中古品はダメなんだよ」
バニラの機関長に、機器は大事に扱え。と先日も怒鳴られたばかりなのに、倉庫の備品を壊して文句をつける。
ここまでだいぶ走ってきたからな。まあ、歩いて帰るか。シャロンはとぼとぼ歩き始めた。
しばらく歩いて、何か電子音がするのにシャロン准将は気が付く。
『准将閣下。酸素の残量が少ないです』
アウラには、酸素が足らないのは分かっていたが。
シャロン准将はどうころんでも、助かりそうじゃないのでいままで黙っていた。
「え、あ、やば!」
残り1時間を切ることを知らせている。
あー、そうか。空気もないのか。ほんと。何にもないんだな。ここは。
「おい、だれか、聞こえるか?」
軍用PDAの無線を起動させ、迎えを頼む。
素直にそうしておけばよかった。とシャロンは思いながら、通信に違和感を感じる。
「おーい。応答しろー」
バニラの艦橋にいる、都合のいい電話番の副長を呼び出すが、なんの応答もない。
アウラは最初から原因を知っていた。
『走り始めたときから、低速で大きな隕石群が通信障害となっています』
前言撤回だ、やっぱり宇宙はひどい。シャロン准将は倒れこむ。
『准将閣下、大丈夫ですか?』
「もー、このままでいいよ。寝かせて」
いいんじゃないかなー。こういう日も。のんびりした日も。そう思いつつ、いつもの雑務の疲れで、すぐに小さく寝息を立てて寝始めた。