シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る 作:むーんしゃいん
頭がぼーっとする…。眠たすぎて…瞼が開かない。副長がカーテンを開け、寝てるシャロン准将を見た。小さく口を開けて、すーすーっと寝息を立てている。
あー、マジで眠い。どうしてだ…。副長が担当医務官の経過観察を聞く。
「シャロン艦長の具合は?」
私のことを聞いてるのか…。副長は心配性だな。
「このまま安静にしていれば、時期に覚醒すると思います」
シャロン艦長が深い吐息を吐いて、再び眠りについた。
≪月型惑星停泊中。
頭が重い…。なに、ここどこ。シャロン准将は、まぶたをゆっくり開け、半目の状態になる。
『目覚められましたか?』
右肘だけ曲げてお姫様っぽく横になったシャロン准将は、ぼーっとした意識で声の主を探った。サイドテーブルにいる軍用PDAのアウラが声がする。
『いま、救護員はいません』
アウラか。少し目が冷めてきたわ。シャロン准将は、大層な酸素マスクをはずそうとする。
あー、腕が上がらん。まじか。どうなってるんだよ。見える天井はバニラの医療室だった。
『ご自愛下さい。准将閣下』
はぁ…はぁ…と息を荒げ、力を込めようと奮闘するシャロン准将に、ジト目のアウラはそう告げた。しばらくシャロン准将が、力なくぼーっと天井を見ていた。
「…分かってるって」
シャロン准将は言葉を紡ぎ出す。アウラは驚いたように、ジト目をパチクリされた。
シャロン准将の身体の自由が戻ってきた。
最初は、右手で酸素マスクをずらす。
「はぁ。やっとか」
やがて、上体を起こしたシャロン准将は、ぼーっと辺りを見回す。
ルナがシャロン准将の足のそばで寝ている。その顔にそっと酸素マスクをつけてやる。
ルナは、むにゃむにゃがくぐもって聞こえる。
「どのくらいで救援が来た?」
『あれから80分ほどしてです。准将閣下』
間に合ったんだ。実感していたシャロン准将は、そばにあった第2種軍服にそでを通す。口を開こうとするとアウラの声が返ってくる。
『脳へのダメージの恐れはないそうです』
金髪をヘアゴムで束ねながらシャロン准将が口を開くと『大丈夫です』との声が返ってきた。
『誰にも私の存在はばれていません』
こいつは、最近、私が。検索したい。聞きたいワードをすべて把握してきているような気がする。
しかし、コードが鬱陶しいな。これ。シャロン准将は心電図のシールを剥がした。シャロン准将はゆっくり立ち上がる。
「そう。ならいいんだ。ありがとう。アウラ…」
ルナが起きると同時にアウラは消える。ルナは、泣くと思ったが、やっと起きた。と怒っている。
「私がタイヤ痕を分析して探しに行かなかったら、大変だったんだよ」
PDAの電源の節電するため、生体維持機能を最小限に調整していた。さすがはアウラ、衛星アウラで医療機器の調整を自動でしていただけはある。
アウラとルナには頭が下がりながらも。シャロン准将は、ルナに、ありがとう。と言っていると、救護長が部屋に帰ってきた。
「艦長。立っては危ないです」
救護長が椅子を引き寄せ、シャロン准将を座らせようとする。
「大丈夫。大丈夫」
シャロン准将がヘラっとパワハラで笑うと医務室を後にする。
そのあと、シャロン准将は元気な姿を見せると、全員に頭を下げた回った。
≪月型惑星停泊中。
夜間時間になり。シャロン准将は、艦長室に戻った。
電池が切れでスタンバイ状態になった軍用PDAアウラを充電器にセットする。ルナとシャロン准将はベットで一緒に横になった。
「さすがに寝れない」
暇だが何かする気にはなれない。そんな、変な何もない1日だった。横になって2時間。
のどが渇いたな…。と思い、腕枕をしていたルナの頭の上に、そっと、枕をのせてあげる。
寝苦しそうにしているルナをそのままにして、PDAを手に艦長室を後にした。
静かなもんだな。夜勤の艦橋の数名のクルーをじーっと見ながら、シャロン准将はタラップを降り洗面所へと向かう。
「寝すぎて頭いたい」
頭を押さえ洗面所から出る。誰もいないはずの食堂室に二つの人影。
なんだ、つまみ食いか。ちゃんと、私を混ぜろよ。と、シャロン准将が軽い気持ちで踏み出す。
「少佐殿。好きです。私と付き合ってください。お願いします、お願いします!」
赤毛の女性下士官が90度に頭を下げた。
「え、でも、私は…」
巡洋艦バニラの
この月面惑星。意外と面白いのかもしれない。いやなオーラを感じ、二人が振り返る。シャロン艦長の悪魔の微笑が、二人の門出を照らし出していた。
≪月型惑星停泊中。
シャロン准将は、とりあえず、二人を艦長室に軟禁する。
軟禁といっても、もちろん、ドアは二人で開けさせ閉めさせた。
他人に迷惑をかけても。決して、自分の面倒にはしたくない。
そんな、シャロン准将のちょっとしたプチ法律豆知識だ。
片づけられている艦長室で、ルーンラビットが、うー…ん…。かわいそうに苦しそうに寝息を立てている。
「かけてかけて」
シャロン准将は、二人を応接間セットのソファーに促した。
自分は、事務机の椅子に腰掛ける。
そして、スタンバイモードの軍用PDAアウラを取り出し3Dディスプレイを起動させた。
『御用でしょうか、准将閣下?』
「ごめん。レザングラースの人事表の機関科のID一覧を見せて」
『かしこまりました』
シャロンは引き出しから、配置転換の書類を取り出す。
「それで、ふたりは、どうするの。お付き合いするの?」
この二人なら大丈夫だろ。人材の他己分析が得意なシャロン准将は、デスクの引き出しからフォルダー分けされた書類用紙を2枚取り出した。
「シャロン艦長。自分は、この人と、け。お付き合いしたいです!」
もうヤケだ。という感じで、顔を真っ赤にしたミル曹長が。突然、起立しお辞儀を披露する。
それを聞いて、セドア中尉も顔を赤らめ、恥ずかしそうに顔を伏せる。
アウラもぼーっとミル曹長の赤い顔を見ていた。
うん。別に、いいじゃん。戦場結婚。そのお辞儀に一瞥もせず。
すぐさま、レゼングラースの機関科IDを表示したアウラに「ありがとう」礼を言うと書類に情報を記入をしていく。
「で、セドア中尉はどうなの。ミル曹長は好きじゃないの?」
「いえ、私も、その…その好きです。しかし私は…。」
「じゃあ、何が問題だ?セドア」
急に書類を書く手を止めた。
軍隊にプライベートなんてない。と、シャロン准将は言いたげに管理官のような険しい顔つきになった。
その心の奥底を見透かしそうな蒼色の瞳で、セドア中尉の目を注視する。
立体ディスプレイに映ったアウラも興味深げに、セドア少佐を見つめていた。
3人に詰め寄られ。覚悟を決めたセドア中尉は答え始める。
「…私は、罪を犯したのです」
セドアのロマンチックな比喩表現にシャロン准将は、セドア中尉に犯罪歴があったかな?と、素で思考をめぐらす。
セドア中尉は、自分の半生についてながながと語り始めたが…。要するに恋人を自分の運転する交通事故で失ったらしい。
あー、そうなんだ。ひどいね。と、シャロン准将は、自分より年上のセドアに適当な同情を示す。
セドア中尉がプライベートなことを言わされ、むげに扱われて。当然いら立ちを覚える。しかし、それ以上に隣のミル曹長の顔を見つめた。ミル曹長は、真意を知り、泣き崩れていた。
それを見て、セドア中尉は、ミル曹長がそれほど私を思ってくれていることに気が付く。
こいつに比べて大違いだ。シャロンを見つめる。
見つめられたのをシャロンは何を勘違いしたのか。3つの恋のアドバイスをし始めた。
「でもさあ。そこは考えて?二人でEDFにいたら。とりあえずは、死ぬときは一緒だよ?」
もちろん。私は死なないけどね。と付け足す。
「それに、二人ともやめたところで、艦隊運用に支障ないし」
唖然とする二人に、シャロン准将はどや顔で微笑み決め台詞を言う。
「35億も借金あるから、式にはいかないけどね」
シャロン准将は、席を立ち上がり、二人の背中をたたく。全て記載済みの除隊申請証と配置転換願い書を、二人に各2枚手渡す。
「破るもよし。辞めるもよし。残るもよし。私は応援するよ」
上官としても人としても、最低なアドバイスの数々を放ちながら「はい。解散」と言って、二人を追い出す。
急に軟禁され、そして、また、急に解放された。二人に、しばし、立ち尽くした。
「一体、何がしたかったのだろうか…」
セトラ中尉が口火を切る。ミル曹長がそれに続けて
「わかりません…。セトラさん。でも、もう付き合ってとは言いません」
初めて。中尉を付けず。名前で呼んだ。もう、セトラ中尉にはそれだけで十分だ。
ミル曹長は、真意を知り、気持ちの整理を付けた。今にも泣きそうになりながらも我慢した。
セトラも、少し…気楽に考えてみよう…かな。と思いはじめた。
セトラはミルに、自分のハンカチを貸した。
ミル曹長は驚きはしたが嬉しそうに厚意に甘えた。
そして、二人より添って自分たちの寝室へ戻っていった。