シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る 作:むーんしゃいん
≪ワープリンク付近。
隠密行動で、だいぶ時間がかかったが。皇女クレハ回収の2週間後には、ブルーハワイのワープリング付近にまで到着した。ブルーハワイの青い惑星が遠目に見える。
ワープリングを越境すれば太陽圏だ。
「あれは救援部隊に見えないな」
第3艦隊旗艦ワルツ級戦艦グリーズリーが護衛艦も連れずワープリング前で停泊している。
信号弾がグリーズリーから発射された。
「信号弾です。停船信号。並び。通信封鎖解除の命令です」
「両舷停止」
シャロン准将は停船を指示した。
「こちら艦長。
通信封鎖を解除し、
≪ワープリンク付近。
『こちら、第三艦隊旗艦バドル中将だ』
やっぱり、アウラでの核バンカー攻撃を早々に行ったバカ中将かよ。識別コードもなしで名乗るな。シャロン准将は無線を受ける。
「こちら
田舎中将が。准将風情が。お互いの内心の罵声が交差するような通信が始まった。
「当作戦の計画書を拝見してないので恐縮ですが。貴艦はなぜこの宙域に停泊されていますか?」
バイル中将から30秒待っても返答はない。通信官の方を見たシャロン准将に、診断プログラムに不備はないと通信士が首をふる。
「こちら
30秒待つ。シャロン准将は暇だったので自分の右手の爪をじーっと見ていた。
「微速前進して」
バニラはワープポータルへと直進する。
『停船していろ』
なんだ、喋れるじゃん。シャロン准将はめんどくさいパイル中将の対応策を考えていた。
「停船理由を聞かせてください」
コイツに敬語は不要かもしれない。シャロン准将はとっさに仲の良さレベルと鑑みて対応を切り替える。
『命令だ』
どこの命令だよ。シャロン准将は無線の通信を全艦内に設定した。
「当艦は第三艦隊の
『第一艦隊の命令である』
嘘つき。さてどうするか。
「当艦への命令とはなんでしょうか?」
『要人を我が艦へと移送し、アズキ・キントキまで護衛しろ』
艦橋のクルーは、もはや驚きはしない。ただ、ああ…やっぱりそういうことになるのか。と自己解決する。
「
『よろしい』
「しかし、パイル中将の命令には承服しかねますー。なのでぶっちゃけった話しますね」
「難しい話じゃない。いくら払えます? お金で手を打ちます それとも逃げます 健全な取引です ほんとに
ラップのように韻を踏み初めた。ノリノリのシャロン准将。クルーもパイル中将も、内容もそうだが少し聞いてみたい気がしたので黙ってた。一応、全クルーに聞こえるようにシャロン准将は話している。
「気しなくていい。けど、アナタ気を使う。私、ものすごく気をもむ。それ、貴方の気のせいじゃね。まじ勘弁。ほんねも残念。かかげる理想。まったく無念。永年どうでもいい能書き垂らす、
そこまで言うと、シャロン准将は何事もなかったかのように真顔で黙る。
お互いの沈黙、数十秒間があく。
『いいか…?』
「あ、はい」
『本気でお金払えと言ってるのか?』
「いいじゃないですかー。どうせあっちに行ったら、血縁一族の資産差押なんですから。言っておきますけど、凍結なんて生ぬるい話じゃないですよ?」
何もなかったような顔をしているシャロン准将に、艦橋クルーの数人が少し残念がっていた。
「パイル陛下の動かせる流動資産はだいたい50億ドルですよね?」
「では、入金をお願いします。バイル陛下」
シャロン准将は
突如、戦艦グリーズリーに転送されたアウラはきょとーんとしていた。
とりあえず、目の前の中将閣下に深々とお辞儀する。
「まあ、時間も必要でしょう。しばらく待ちますよ。そうだ。その間、今後のクレハ様の扱いを後学のためにご教授いただけませんかー」
「ふ…お前は賢いな。そう、両国は、クレハを人柱として渡すことで合意しているクレハは大事なコマ…」
否定もせず。素直認めるお前は素直でいい子だね。シャロン准将は、艦長席でヘッドセットを外して艦内放送を薄ら薄ら聞いていた。
「誰かクレハ様を連れてきてー」
シャロン准将は指示を飛ばすと、手元の各科の隊内予算請求報告書の計算を始めた。
アウラの事件もシャロン准将に阻止される。
アズキ・キントキ秘密の研究所に部隊を突入させたのも。パイル中将のせい。
両国で戦争を引き起こそうとしたが、今度も、惑星アズキが逃げ腰になり頓挫した。
2回も戦争を企てたけど失敗。もはや、上級士官は付いて来ない。
それで、単騎でここにいる。
最後に、両国のかなめ。EDFの人質で、惑星アズキ・キントキの皇女にかけたようである。
この夢見る中将は、どうしても一国の主になりたいようだ。
なら、その望みをかなえてあげよう。
男の夢を叶えるお手伝いをするのはいい女の条件である。
シャロンは爪を磨くのをやめヘッドセットをつける。パイル中将は、まだ、自分の野望について話していた。
「…なるほど。大変、敬服致しました」
警務官が小柄な和服の皇女クレハをディスプレイに連れてくる。
カメラ通信に切り替え、パイル中将に姿を見せる。シャロンが満遍なく微笑み答えた。
『これはこれは。皇女のクレハ様。大変、
「…お、…おぬし!ど、ど、どういうことじゃ!?」
クレハが和服を振り乱しシャロンを振り向く。
だが、シャロン艦長は悪魔の微笑を浮かべ通信を続ける。
≪
「入金を確認しろ」
バイル旗艦から小型艇で乗り付けた隊員にそういわれ、
確かに40億が銀行の口座に振り込まれている。
半額ぐらいピンハネするとは思ってけど。たった10億か。ほんと真面目な御仁だ。シャロン准将は、人格者のパイル中将を褒める。
ニヤニヤしながらシャロン艦長は拘束していたクレハを手渡す。
「おぬし、最低じゃの」
敵意をむき出しにしたクレハに対して、シャロン艦長は笑顔で見送った。
「まあ。一度は。祖国の空気を味わったらいかがでしょうか。クレハ様」
こいつ気づいていたのか。その言葉に皇女クレハは驚き。フフ。と苦笑した。
「…一度は? ほんにおかしなことをいうやつじゃの」
小型艇とのドッキングが閉鎖されるや否や。
シャロン艦長は、壁に取り付けられてた艦載無線で艦橋を呼び出す。
「全エネルギーをエンジンに集約。最大船速で、太陽圏へのワープリングへ突っ込め」
「やつは撃ってくるぞ。撃ってくるぞー」
「「遺恨になるようなやつは撃つ」」
シャロン准将とバイル中将の唯一の意見の一致だった。