シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る 作:むーんしゃいん
<<火星・地球圏の中間宙域
新型の電磁ディスプレイが訓練時刻までの残り時間を無機質に刻んでいる。
青色の通常運行照明の元、艦橋を行き来するヒスイ艦長の足取りだけが、わずかに乱れていた。
ヒスイ艦長は毛羽立ち一つない艦長席に腰を下ろす。
肘が小刻みに震え、右手の爪を噛み、すぐにそれを意識して手を下ろした。
――訓練に過ぎない。
そう自分に言い聞かせるのは、これで何度目だろう。
ヒスイ艦長は、艦長席の備え付けの真新しい端末の電源をつける。
対AI戦闘の戦績を睨みつける。
あの時と同じ。胸やけで吐きそうだ。
15年前の防大時代。
「ヒスイ先輩。才能がないんじゃないですか?」
そのシャロン准将の一言を、まだ忘れられない。
ヒスイ艦長は、操艦席のコハク少尉の後ろ姿に視線を移す。
コハク少尉のこめかみの接続端子が淡く発光する。
コハクの視線は瞬きせず、ディスプレイの変化を追っていた。
そうだ、私にはこいつがいる。
――そう何度も繰り返したはずなのに。
ヒスイ艦長は席を離れ、操艦席のフラットシートに踏み出す。
「コハク。状況は?」
安心感を得るための鎮痛剤とはわかっていた。ただ、それをコハク少尉に聞かざるを得ないほど、ヒスイ艦長は足取りがおぼつかない。
「操艦に、問題ありません」
視線はディスプレイの数値を追ったまま、コハク少尉は平板な声で返す。
「第一案の成功確率は?」
何度も聞いた。それでも足りない。それだけが未来を明るく照らしている。
コハク少尉はしばし沈黙した。
「成功確率は91%」
ヒスイ艦長の口角が上がる。
もし、何かあっても、コハク少尉が居ればおそらくは安全だ。
「ただし、シャロン准将の平均値より、2.3%低い」
ヒスイ艦長の視線がコハク少尉を凝視する。
「比較対象にする必要性はない」
「戦術最適化のため、優秀な指揮官データを参照しています」
「シャロン准将は判断が速い。迷いがありません」
「…しかし、艦長の指示は、理論値より0.4秒速い」
その一言は、慰めなのか事実なのか判断しにくい。
「……それは良いのか」
「効率は向上しています」
「0.4秒か。誤差だな」
「誤差ではありません」
コハク少尉は語尾を強めることなく、ディスプレイの数値の羅列に視線を落とす。
『訓練開始10秒前』
「私は
「了解」
ヒスイ艦長が、下士官の「艦長。出られます」との点呼を後に艦橋から
『訓練を開始します』
ヒスイ艦長の歩む通路で、青色照明が、戦時体制を意味する赤灯へと変化する。
――負けるわけにはいかない。