シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る   作:むーんしゃいん

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当たらなければ、どうという問題ではない

《新型艦EDSF002-334(アラハ級レゼングラーセCL002-334) 戦闘情報指揮所(C I C)

 

――今は、まだ互いに戦場の霧の中でいいのか…?

 

 戦闘情報指揮所(C I C)の電磁ディスプレイに赤外線と可視光線の複合スキャンが光点として収束した。直後、戦闘情報指揮所(C I C)に短音の警告が落ち、ヒスイ艦長はそこで初めて異常を理解した。

 

 ヒスイ艦長に、防空担当員の報が届く。

 

「後方14リウムより、RLM(シーカーミサイル)2を感知」

 高精度光学スキャナーを向けると、そこには対レーザー塗装(ステルス)の白いバニラの艦影が数百倍率で映し出される。ヒスイ艦長は拡大された映像を指先で机を叩きながら注視する。

 

 敵艦の配置から、極遠距離戦闘に対応して戦術行動官(T A O)が即座に反応した。

 

 敵は長遠距離主砲(HLL)する。

 こちらはアイギス・バリア展開。

 

バニラとレゼングラーセ。双方の位置が露呈した。

 

「アイギスバリア。射出」

 

「|マスカー≪デコイ≫を展開」

 

 防空担当員が指示に従い操作盤を叩く。

押された確認警告音(アラーム)の単音が戦闘指揮所(C I C)を包み込む。

 

 レゼングラーセの後方部を守るように。バリア・リングシステムを展開し

ECM(マスカー)を発動する。

 

フレアに似た青白い後光がレゼングラーセを包み込む。

 

――先手は免れた。

 

「こちら艦長。第三戦速。バニラに対して距離を取り回避行動に移れ」

 

 ヒスイ艦長はヘッドセットで艦橋を指揮する。

 

 レゼングラーセは、このまま前進し、慣性速度を維持しつつ、後方のバニラに振り向く機動を開始した。

 

――勝てる

 

「この勝負、勝ったな」

ヒスイ艦長は勝利を確信し小声でささやく。

 

「有利になっただけです」

 戦術行動官(T A O)が苦言を呈す。

 

 防空担当員がレーダーチャートを確認し、訓練通りに動いた。

 

「バニラが対宙ミサイル発射。総計16発。右舷(みぎげん)六発をAlpha(アルファ)左舷(ひだりげん)十発をBravo(ブラボー)呼称。到達まで40秒」

 

 戦術行動官(T A O)がフォネティックコードでミサイル郡を識別する。

 

 六発の対宙ミサイル郡(alpha)十発の対宙ミサイル(Bravo)が40秒後に全グラーセに着弾する。戦闘指揮所(C I C)がミサイル一発ずつの危険度を自動判定していった。

 

 レゼングラーセの上部に搭載された球体ドーム。

電子攻撃システム(E C M)が早速仕事を開始する。

 

 バニラの発射したミサイルの頭脳を誘導し、六発のミサイルをあらぬ方向へと導く。残り十発の対処に移る。

 

マテリアル(ATM-34)1番から12番。発射」

 

 防空担当員が対空ミサイルを12発を発射し、次弾24発を発射する。

 

「本艦ゼクターレーザー(HLL)発射角に到達まで3秒」

 

 レゼングラーセは反撃用のHLLの準備段階に入る。

 

「バニラに高エネルギー反応を感知」

 

ゼクターレーザー(HLL)か。この出力なら受け切れる。」

 

「これは…ゼクターレーザー(HLL)とは違います!」

 

 巡洋艦バニラは光学スキャナーでアップされたディスプレイから消え去った。

レゼングラーセの全員が何が起こったかわからなかった。

 

 そして、バックで高速行進して距離を離していた巡洋艦レゼングラーセの衝突コース(レッドクロス)へと姿を見せた。

 

 EDSF002-334(レゼングラーセ)の完成予測と回避ベクトルを逆算した上での転送だ。

 EDSF002-222(バニラ)は、艦運用期間が3年縮む緊急用短距離ワープを大盤振る舞いして来た。

 

衝突警告。衝突警告。(トラフィック トラフィック)直撃コースの飛翔体接近まで13秒(レッドクロス サーティン セカンド)

 レゼングラーセの艦内に宙域衝突防止装置(TCAS)の衝突コースを示す自動警告音が艦橋に不気味に鳴り響く。

 

 

EDSF002-334(レゼングラーセ) 艦橋》

 

衝突警告。衝突警告。(トラフィック・トラフィック)直撃コースの飛翔体接近まで13秒(レッドクロス・サーティン・セカンド)

 

 音速(マッチナンバー)の5倍で、バニラに向かってバックしながら、進行する操舵手コハク少尉は、あっけにとられていた。

 

『コハク!』

 

 ヒスイ艦長がコハク少尉(特殊操舵手)へ無線越しで怒鳴りつける。目線のヘッドマウントディスプレイ(H U D)が回避コースを選定している。

 

 ――回避航路測定開始。BC7へのコース推奨――

 

 コハク少尉(特殊操舵士)演算の負荷に動作が停止していた。

 0.1秒がこんなにも長い。

 全回避コースの表記されたヘッドマウントディスプレイ(HUD)の光線が指数関数的に潰れていく。

 

「…なぜ」

 コハク少尉の視点がディスプレイ上を激しく動く。

 

 ――回避航路再測定。BD9へのコース推奨――

 

 我に戻った時には、減速。ワープ。回避コースはない。あらゆる進路線が衝突を示した。

 

 ――回避航路再測定。全ルート回避不能

 表示が更新された瞬間、コハク少尉の喉が乾いた。

 

 レゼングラーセとバニラの衝突は免れない。

 

衝突まで(レッドクロス)…10…』

 

 宙域衝突防止装置(T C A S)が無慈悲に衝突時間のカウントダウンを始める。

コハク少尉はヘッドセットに対応に出る。

 

「艦の全電力をカット。回避航路確保の動力エンジンへ転換」

 

全電力カット。

艦内の空調と重力が消えた。

 

 ---回避航路再測定。BA5へのコース推奨---

 

 特殊操舵手のヘッドギアに見える宙に、うっすらとだが希望の光点が映し出される。その軌跡に、全力で操舵意識を右前へと押し込む。

 

 艦橋の機材が、歪な音を立てて揺れる。

 コハク少尉(特殊操舵手)の身体が、バニラの重力波で左前に引きよされ、ハーネスが必死に抵抗し、肉体に食い込んだ。

 

 

EDSF002-334(レゼングラーセ) 戦闘指揮所(C I C)

 

『レッドクロス…10…』

 宙域衝突防止装置(T C A S)が早々に死への時計(カウントダウン)を進めた。

 

 コハク少尉(特殊操舵手)と同時に、戦闘情報指揮所(C I C)のエネルギーは消えさり、宇宙と同じ闇が訪れる。

 

『総員、耐ショック姿勢!』

 

 ヒスイ艦長はヘッドセットに最後の命令を下す。

 

 ガタガタと力なく震える機材。支えられない身体。

 ヒスイ艦長は、薄暗くよく見えない宇宙に囚われた。

 

『…3』

 

 情報指揮所(C I C)は、補助灯の薄暗い非常灯火しか付いてなく。

 ヒスイ艦長は、暗闇の中、艦載無線の機械声に恐怖する。

 

 普段、神に祈ったこともないヒスイ艦長ですら。手心を加えてくれ。と、バニラ

(あるじ)にすがる勢いで祈っていた。

 

『…2』

 

 それは、バニラの乗組員(クルー)を含め、全員が死を覚悟し祈っていた。

 

『…1』

 

 強力なバニラの重力が、船内を鈍色に包み込み、装甲板が悲鳴をあげる。

巡洋艦レゼングラーセは恐怖している。

 

 

衝突は回避された(クリア・オブ・コンフリクト)

 

 宙域衝突防止装置(T C A S)が感情のない歓喜の声を上げる。

 

 

《新型艦EDSF002-334(アラハ級レゼングラーセCL002-334) 戦闘情報指揮所(C I C)

 

「…か…回避成功です…!」

 

 しばらく重力波が元に戻り、電灯が戻る。

 

 短音の無機質な機材たちの再起動音にレゼングラーセは息吹を宿し直した。

 

『こちら艦長。ダメコン。被害状況は?』

 

『こちらダメコン(ダメージ・コントロール)電源復旧中。現在破損箇所を解析します』

 

 ヒスイ艦長は、重大インシデント(ニヤミス)の発生に訓練の注視を判断。EDSF戦闘作戦システム(L I N K 18)にてバニラを呼び出す。

 

 

「こちらEDSF002-334(レゼングラーセ)EDSF002-222(バニラ)何をやっている!」

 ヒスイ艦長の当然の激怒。バニラの主は、ヘラヘラと笑いながらシャロン准将は答える。

 

『あーあー、こちらEDSF002-222(バニラ)EDSF002-334(レゼングラーセ)。貴艦は、我々の長遠距離主砲(H L L)により撃破された。繰り返す、撃破された』

 

 撃破…。この非常時に何を言ってる。ヒスイ艦長はとらわれた。

 

「こちら艦橋。戦闘指揮所(C I C)どういうことだ…」

 

重大インシデント(ニアミス)を故意に起こしておきながら、こいつは、それも訓練の一貫だというのか?艦長席へと力なく座り込む。

 

『こちら戦闘指揮所(C I C)…。システムの再起動中。情報が…。10秒ください』

 

『回避行動中。バニラの長遠距離主砲(H L L)より、演習用レーザー光線照射を検知しています』

 

――死線を超えた先にいる。

 

ヒスイ艦長は椅子に座りこむ。今になり膝が小刻みに震える。

 

 

『こちら、アクチュアリ・ソフトクリーム。全艦艇(オールステーション)。戦闘訓練終了。該当艦は通常航行速度へ移行せよ…』

 

 光景を監査していた第一地球艦隊軍事衛星エリア・リスαは帰還を命じる。

 新鋭艦が緊急回避という最高のデータは取れた。

演習の体裁も問題なく整っている。

 

 ヒスイ艦長は、ようやく肺の奥に溜まっていた空気を吐き出した。

遅れて膝が震えだす。

 

――生きている。

 

その実感が、今まさに押し寄せる。

ヘッドセットを外し、数秒だけ目を閉じる。

 

『こちら|ダメージコントロール≪ダメコン≫。艦に異常は見られません。接触まで0.8秒でした』

 

ヒスイ艦長は、ゆっくりとヘッドセットを持ち上げ、ディスプレイに叩きつける。

 

「…あの女め」

 

数秒、誰も動かなかった。

 

戦闘情報指揮所(C I C)は静まり返る。

 

戦術行動官(T A O)が、恐る恐る口を開いた。

 

「艦長…」

 

「なんだ」

 

「演習評価、S判定です」

 

 ヒスイ艦長は天井を見上げた。

 

「…だから何だ」

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