シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る 作:むーんしゃいん
《新型艦
――今は、まだ互いに戦場の霧の中でいいのか…?
ヒスイ艦長に、防空担当員の報が届く。
「後方14リウムより、
高精度光学スキャナーを向けると、そこには
敵艦の配置から、極遠距離戦闘に対応して
敵は
こちらはアイギス・バリア展開。
バニラとレゼングラーセ。双方の位置が露呈した。
「アイギスバリア。射出」
「|マスカー≪デコイ≫を展開」
防空担当員が指示に従い操作盤を叩く。
押された
レゼングラーセの後方部を守るように。バリア・リングシステムを展開し
フレアに似た青白い後光がレゼングラーセを包み込む。
――先手は免れた。
「こちら艦長。第三戦速。バニラに対して距離を取り回避行動に移れ」
ヒスイ艦長はヘッドセットで艦橋を指揮する。
レゼングラーセは、このまま前進し、慣性速度を維持しつつ、後方のバニラに振り向く機動を開始した。
――勝てる
「この勝負、勝ったな」
ヒスイ艦長は勝利を確信し小声でささやく。
「有利になっただけです」
防空担当員がレーダーチャートを確認し、訓練通りに動いた。
「バニラが対宙ミサイル発射。総計16発。
レゼングラーセの上部に搭載された球体ドーム。
バニラの発射したミサイルの頭脳を誘導し、六発のミサイルをあらぬ方向へと導く。残り十発の対処に移る。
「
防空担当員が対空ミサイルを12発を発射し、次弾24発を発射する。
「本艦
レゼングラーセは反撃用のHLLの準備段階に入る。
「バニラに高エネルギー反応を感知」
「
「これは…
巡洋艦バニラは光学スキャナーでアップされたディスプレイから消え去った。
レゼングラーセの全員が何が起こったかわからなかった。
そして、バックで高速行進して距離を離していた巡洋艦レゼングラーセの
『
レゼングラーセの艦内に
《
『
『コハク!』
ヒスイ艦長が
――回避航路測定開始。BC7へのコース推奨――
0.1秒がこんなにも長い。
全回避コースの表記された
「…なぜ」
コハク少尉の視点がディスプレイ上を激しく動く。
――回避航路再測定。BD9へのコース推奨――
我に戻った時には、減速。ワープ。回避コースはない。あらゆる進路線が衝突を示した。
――回避航路再測定。全ルート回避不能
表示が更新された瞬間、コハク少尉の喉が乾いた。
レゼングラーセとバニラの衝突は免れない。
『
コハク少尉はヘッドセットに対応に出る。
「艦の全電力をカット。回避航路確保の動力エンジンへ転換」
全電力カット。
艦内の空調と重力が消えた。
---回避航路再測定。BA5へのコース推奨---
特殊操舵手のヘッドギアに見える宙に、うっすらとだが希望の光点が映し出される。その軌跡に、全力で操舵意識を右前へと押し込む。
艦橋の機材が、歪な音を立てて揺れる。
《
『レッドクロス…10…』
『総員、耐ショック姿勢!』
ヒスイ艦長はヘッドセットに最後の命令を下す。
ガタガタと力なく震える機材。支えられない身体。
ヒスイ艦長は、薄暗くよく見えない宇宙に囚われた。
『…3』
ヒスイ艦長は、暗闇の中、艦載無線の機械声に恐怖する。
普段、神に祈ったこともないヒスイ艦長ですら。手心を加えてくれ。と、バニラ
の
『…2』
それは、バニラの
『…1』
強力なバニラの重力が、船内を鈍色に包み込み、装甲板が悲鳴をあげる。
巡洋艦レゼングラーセは恐怖している。
『
《新型艦
「…か…回避成功です…!」
しばらく重力波が元に戻り、電灯が戻る。
短音の無機質な機材たちの再起動音にレゼングラーセは息吹を宿し直した。
『こちら艦長。ダメコン。被害状況は?』
『こちら
ヒスイ艦長は、
「こちら
ヒスイ艦長の当然の激怒。バニラの主は、ヘラヘラと笑いながらシャロン准将は答える。
『あーあー、こちら
撃破…。この非常時に何を言ってる。ヒスイ艦長はとらわれた。
「こちら艦橋。
『こちら
『回避行動中。バニラの
――死線を超えた先にいる。
ヒスイ艦長は椅子に座りこむ。今になり膝が小刻みに震える。
『こちら、アクチュアリ・ソフトクリーム。
光景を監査していた第一地球艦隊軍事衛星エリア・リスαは帰還を命じる。
新鋭艦が緊急回避という最高のデータは取れた。
演習の体裁も問題なく整っている。
ヒスイ艦長は、ようやく肺の奥に溜まっていた空気を吐き出した。
遅れて膝が震えだす。
――生きている。
その実感が、今まさに押し寄せる。
ヘッドセットを外し、数秒だけ目を閉じる。
『こちら|ダメージコントロール≪ダメコン≫。艦に異常は見られません。接触まで0.8秒でした』
ヒスイ艦長は、ゆっくりとヘッドセットを持ち上げ、ディスプレイに叩きつける。
「…あの女め」
数秒、誰も動かなかった。
「艦長…」
「なんだ」
「演習評価、S判定です」
ヒスイ艦長は天井を見上げた。
「…だから何だ」