シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る 作:むーんしゃいん
《地球
レゼングラース巡洋艦とバニラ巡洋艦は
巨大軍事衛星軍港エリア・リスαの内部ドックに収まっていた。
エリア・リスα。地球軌道に位置する軍事衛星要塞。
第一機動艦隊の母港。単独で戦争を維持できる規模を持つ。
時は五十年前…。
地球圏では、外宇宙からの脅威が現実の軍事問題として議論され始めていた。
軌道上に単一の巨大要塞を建設し、圧倒的抑止力とする。
――集中防衛構想が提唱される。
これが、エリア・リスα計画である。
一方、複数の小型防衛衛星を分散配置し、一大迎撃網を構築べきだという技術側の意見もあった。
これが、エリア・リス・カーテン計画。
議論の末、結論は単純だった。
両方、作る。
以後、地球防衛軍の防衛予算は桁を変えることになる。
もはや、地球の子どもたちが流れ星に願う余地すらない防空網だ。
巨大軍事要塞エリア・リスαの内部は、当然ながら秘匿区分に指定されている。
もっとも――
シャロン准将の個人端末には、その例外が大量に保存されていた。
内部景観を撮影し、ダークウェブを通じて販売している。
軍事愛好家と、夢見がちな過激思想家向けだ。
本人曰く、
「堅実な資産運用」である。
ルナと金髪の悪魔シャロン准将は、タラップの下で腕を組んでいた。
舌打ちしながら降りてくるヒスイ艦長を確認する。
目があう。
シャロン准将は、わずかに口角を上がる。
面白くなりそうだった。
「これは、これは。ヒスイ艦長。奇遇ですねー」
現金の詰まった分厚い封筒の角を、シャロン准将は親指で弾いた。
紙の硬い感触を確かめてから、明るい声を投げかける。
ヒスイ艦長は肩を張り、形式通りの敬礼を返した。
だが、指先にだけ力が入っていた。
「これは、どうも。シャロン艦長。あの行動力は素晴らしいですね」
「私もすごいとおもったよー、さすが、私のシャロン!」
ルナは全力でうなずいた。
状況はまったく理解していない。
シャロン准将は、ルナの額を軽く小突いた。
幹部宿舎階層まで、ヒスイ大佐とシャロン准将は、同じ通路。
ヒスイ艦長は、とどまることもないシャロンの自慢や会話に、ヒスイ艦長は左太ももに携行している拳銃のカバーをなぞる。
すると、急にシャロンが立ち止まる。
「これは、エイス総監」
二人とも、きびすを返し敬礼をし直立する。
ルーンラビットは、とっさに口角を消し無機質に立ち尽くす。
「シャロン艦長。EDC-LL4050の状況は?」
その型式を聞き、ルナは、ふと、瞳に悲しさを浮かべる。
「ハード、ソフト。ともに良好です。また、戦闘においても問題なく機能しています」
「シャロン准将。君には期待しているよ。来年には、大統領官邸軍務武官の推薦も考えている」
シャロン准将は敬礼を崩さず、総監の胸元へ視点をずらす。
「ハッ、ご期待に沿えるようがんばります!」
ヒスイ艦長は敬礼しながら指先に力を込める。面白くない。
それでは…。三人は別々の道に分かれる。
ハニカム柄の自室の前までシャロン准将が、胸ポケットのカードキーを探っている。
ルーンラビットが黙ってうつむいたまま、シャロンの右手小指をこっそりと握りしめた。シャロンもルナを見下ろし、深く、手を握り返す。
「ルナ。どうした?」
ルーンラビットの背丈にしゃがみ込む。シャロンが少し涙目のルーンラビットの紅い瞳を見つめる。
「なんでもない…けど…」
ルナはシャロンに抱き着く。フローラルな香水が鼻につく。
「甘えん坊だなぁ。ルナは~」
シャロンと同じ金色のルナの髪を、ぐしゃぐしゃとおもいっきりわしづかみにして撫でまわす。
ルナの無機質な顔が解け、少し口角が上がる。
「大丈夫。ルナにはみんなもついてる。もちろん、私もいる」
「絶対に置いて行きはしないよ」
結局カードキーを紛失し、シャロン准将は、45回目の自室のカードキーの再発行の手続きに行く。発行手続き中に、嫌なヤツに出会った。
「これは、これは、グース先任准将。お疲れ様です」
回り回って。これは考えを変えれば、幸運か。グースと呼ばれた男性将官とその取り巻きの女性士官が二人がシャロン准将に気がついた。
「シャロンか。俺の提案を飲んでくれたかね?」
シャロン准将は上官に対して一応敬礼はする。
「提案?ああ、あの婚姻の話でしたか。私など分不相応ですよ?」
グース先任准将は、シャロン准将の顎くいをして顔面を近づける。
シャロンは、ふっ。と息を漏らし、手を払いのけた。
「私のような貧乏人を相手にしても仕方がない。と考えます」
「そういう高飛車なところが好きなんだ」
クリス准将とたまに出くわすとこういう訳の分からない戯言を行ってくる。
シャロン准将と三名は、いつものお決まりの勝負をするため。近くの休憩室へと足を運んだ。
スツールに腰掛けると、シャロン准将は用意してた新品のカードを取り出しテーブルに並べる。
「では、いつも通り。ハイ&ローでもしますか?それとも、ポーカー?」
どちらも勝負したことがある。その
「そ、そうだな、どちらも、いい勝負だったが。もっと簡単な物がいい」
シャロン准将が強い理由はただの幸運だけではない。。
「では、スリーカードモンテにしましょう」
「さて、聞いたことがないな?」
「また、イカサマじゃないの?グース様があんなに負けるなんて考えられないわ!」
取り巻きの少尉が野次を飛ばす。金とイケメンに集う二人組だ。
「一度もイカサマなんて使ったことない。言葉を慎め。少尉」
「そうとも、俺がイカサマを見抜けないわけがないだろ」
「「ですよねー」」
2枚のローカードの真ん中に、1枚のハートのクイーンおいた。
「この、ハートのクイーンが私です。伏せたカードを混ぜるので捕まえる事ができたら今夜一晩お供しましょう」
クリス准将は、ニヤニヤとゲスな笑いを浮かべる。
「ほう、簡単そうだな」
「ただし、参加料は一本です」
「百万ドルか」
「千万ドルです」
「千万ドル…!?」
「どうしまあしたーぁ?怖気づきました?」
シャロン准将のあおりに、グース先任准将は、精一杯の右頬引きつりながら肩を揺らし余裕をアピールする。
「まあ、いいだろう。三回ぐらいなら出来る…。」
シャロンはカードを両手でシャッフルするふりをした。
だが、その指先には巧妙な仕掛けが隠されている。
真ん中のクイーンを一瞬で把握し、勝負の流れを自在に操った。
グース准将がどのカードを取ろうと、結果は見えていた。
シャロンの微かな手の動きと視線だけで、運命は決まっていたのだ。
「さあ、どうぞ」
挑戦するグース。だがカードは言うことを聞かない。
シャロンは小さく鼻で笑い、勝利を確信した。
「シャロン准将。今夜、君はいただいた」
グース准将はローカードを引いた。
「あれ、おかしいな…? シャロンよ。もう一回だ」
「お金の続く限りどうぞ」
グース准将は3回ほど。挑戦した。
「くそ、なぜ外れる、最後だ…!」
この瞬時の細工と値段設定に、グース准将は匙を投げる。
見えるものを疑えない。それが、この手の勝負の本質だ。
「では、時間もないので。そろそろ、お金を振り込んでもらえますかぁ?」
「今回は、勝たせたが。次はうまくいかないぞ!」
グース准将は肩を落とし、目の前の3千万ドルを見つめた。
「次こそは…」呟くが、シャロンは鼻で笑って通り過ぎる。
「この手の賭け事って苦手なんだけどな」
席から離れ、シャロンはPDAをポケットにしまい、ルナを見下ろす。
「さて、次は誰を楽しませようか」
ルナは小さく笑い、金色の髪を揺らした。
流れ星に願う余地はない――だが、この二人には必要なかった。
「ルナは好きだよー面白い」
ルナが小声で囁いた。
「あの人、まだ諦めてないよ」
シャロンは振り返り、指で笑う仕草。
「それもまた、面白い」
シャロン准将は小悪魔である。
淑女のたしなみである|眠剤≪どく≫は携帯している。