シャロン准将は金でしか動かない――インサイダーは生中継で踊る 作:むーんしゃいん
アウラへ~ようこそ~
≪火星衛星港アウラ付近・EDSF002-222バニラCL・艦橋≫
『アウラアプローチ。こちら
担当の航宙士がヘッドセットでアウラコントロールとやり取りをしている。
レゼングラースとバニラの2隻には、諸外国との共同演習派遣が下令された。
あなたのお友達だからお古の艦を高く売ってあげる。ついでに乗り方も教えてちゃう。超上から目線・軍事外交の一環だ。
大規模恒星ワープ航行が可能な火星衛星港アウラに寄港する。
前方の巡洋艦レゼングラースの
その間、副長が紛らわしのウンチクを放つ。
「火星衛星港アウラは、民間の娯楽施設と軍事基地を兼ねそろえた新型宇宙港ですね」
150万人の住民が暮らし…。と、副官が説明しているが。シャロン艦長は、ぼけーっとディスプレイの画面に映る衛星港見つめていた。
衛星アウラは地球所外諸国でも、誰もが羨む有名な観光地だ。ヤシの木と海辺がばえる。半分が強化ガラスの一面張りで美しく光輝く。
もう一方はいつも通りの武骨な鋼鉄製の軍事基地である。
そういえば、そろそろ、髪が切りたかったのよねー。と。バストまで伸ばしたロングヘアーの毛先をいじり始めた。
シャロン准将はだんだん浮かれてくる。
「…これより、バニラは、火星中継基地アウラに入港します」
やたら時間のかかったレゼングラースの停泊作業が終わり、航宙長がアウラに寄港する旨伝える。
「操艦をお願いします。艦長」
艦長が、港へ艦をドッキングするのは古くからの慣例だ。
CLクラスは大きいので、どうしても外壁への接岸になる。
外壁部への接岸は難しい操作なのだが、シャロン艦長は、何故かなかなか上手い。
シャロン准将の問題は、決してそこではない。
「あ、そうね」
操舵手が恐る恐る操舵ハンドルから手を放す。
シャロン艦長が、変わりに操舵シートに腰を掛ける。そして、航行補助アップリンク・HUDヘッドセットを付けた。
さてと、今日は私のバニラをどうしてやろうか。と。ワクワクさせながら操舵ハンドルを握る。
『こちら、アウラコントロール。
「あら~、ずいぶん遠くに接岸させるのね」
誘導線がHUDヘッドセットの宙に浮かび上がる。
「いやな予感がするね!」
リンクシートの上でルナが足をパタパタさせて笑う。副官がしかりつける。
「ルナ喜ぶな。ぶつからないように補佐しなさい」
はぁーい。と、まだ、クスクス笑いながら、シートに身を隠す。
「いやな予感とはこのことかな!」
シャロン艦長は、操舵ハンドルを乱高下させ始めた。
≪民間シャトル商業スペース≫
「パパ!すごい!あのお船くるくる回転してるよ!」
民間港の壁面特殊ディスプレイに映し出される巡洋艦バニラの曲芸に歓声を上げる。
右に左に、低速ながら、その場回頭を繰り返した挙句。
トルネードをしながらの天使の翼のような照明弾の連射で、その場を盛り上げた。
≪
『こちらアウラコントロール。
至極まともなアウラの管制官が、この銀河の無法者に怒りをあらわにする。
調子が乗ってきたときにやぼな奴だ。とシャロンは逆に、管制官に怒鳴り声を上げる。
「こちら
毎度のことながら一同絶句していた。副官が、すぐさまアウラコントロールに連絡を入れる。
「こちら
これで通るEDFの軍国主義は異常だ。と、艦橋クルーは常に感じる。
まじめなところは、まじめで、警報もなることなく。すぐに接岸を成功させた。
ヒスイ艦長みたいに操艦が下手な艦長は、やり直しを繰り返し。いつまでたっても帰れない。シャロンが操船上手いのはクルー全員が嬉しい。
「副長!私が戻るまで、んー…1300時までに基地兵站部との調整を済ませておいて」
「あ、内務科長にバニラアイスの補充を頼んどいて」
「私のもー!」
艦長室で私服に着替えると、ルナをお供に民間エリアへつながるシャフトエレベーターへと向かった。
「あ…、これは、シャロン准将」
そこには、ラベンダー色のショートヘアに清楚な少尉が、エレベーターで開閉ボタンを押しながら敬礼をした。
香水のいい香りがする。と、思いながら、少尉は、私服のシャロン准将が乗るのを少し待つ。
シャロン准将はエレベーターに乗ると、すぐさま頭の中の士官辞書を確認する。
「んー、貴方は、確か、ヒスイ艦長の妹さんにして、レゼングラースの特殊操舵手のコハク少尉だ!」
シャロンのお得意。士官早覚えだ。
この銀河系の士官の顔を全て覚えるというおかしな能力だ。
名簿に名前の乗らない諜報部局士官も特殊部隊士官も知っている。
名簿に無い時点で調べるからだ。
NEED TO KNOWの原則は、お金のために必要だ。と体現するシャロン准将には無に等しい。
「は…、はい!どちらへ?」
「至急、民間商業エリアへ!」
高速で動き出すエレベーターの表示パネルをコハク少尉とシャロン准将。
そして、ルーンラビットのルナが見つめていた。
静かだ…。とコハク少尉は、居心地の悪さを感じ、額に汗が出てきた。
「…ねえ、コハク少尉。操艦には慣れた?」
ふと、シャロン准将が声をかける。
「あ、いえ。私は、いま、艦の内務科に配置されました」
あー…、更迭とは、ヒスイ大佐も度量も狭いな。エレベーターの居心地がさらに悪くなった。
「あー…。そうなんだ~…てへ」
やっちまった感を出すと。次の瞬間、エレベーターが自動停止をした。
「…あれ?」
コハク少尉が、エレベーターのボタンを何度も押すが動かない。
緊急通信ボタンを押してみるが、応答もない。
「シャロン。危ない気がする」
ルナが警告を促す。
「どういうこと?」
コハク少尉が泡を吹いて倒れこむ。
「…こういう時、どうすればいいのか分からないの。いや、マジでどうしよう!コハク少尉起きてー!」
シャロン准将は、突っ伏すコハク少尉に駆け寄りはしたが。早々に一次救命を放棄する。
ルナは冷静にシャロン准将の袖を引っ張る。
「大丈夫。ただの
そうか、コハク少尉は、半分機械だったな。と思い出す。コハク少尉の頬をペチペチと殴る。
「
核の電磁波でも、対処できるルーンラビットの丈夫さに、小さい体ながらも感心する。コハク少尉の頬を殴り続ける。
『非常事態発生。非常事態発生。全エリアをロックダウンします。民間市民は付近の保護シェルターへ…』
衛星アウラ中に警報が鳴り響く。しかし、それもすぐに止まる。
「ロックダウン!?」
全エリアの隔壁が閉鎖される。当然、エレベーターは動かない。
「まじかー。サイゼでメロンソーダ飲もうと思ってたのに…」
シャロン准将は食べるのが好きだ。普通のレストランにもたまに行くが。
大体サイゼでエビのドリアとグリーンピースのサラダが好きだ。あれはコスパと味を両立した至高の食べ物である。
真顔でドリアシャロン准将は、泡を吹いて卒倒するコハク少尉を、そっちのけで自分の欲望に身を託す。
「今、状況解析中…」
ルナが、何かとコンタクトしているようだ。
「んとね、この基地の戦略型ルーンラビットが、物理的に乗っ取られているみたい」
「テロ?それとも…
テロなら警察の組対が対応するだろう。軍隊は専門外である。
クーデターは多少気が重い。
そもそもコロニーの重要区域に入れる。なんて、アウラのガバ警備を疑う。
いや待て。そういうことか。シャロンは一人で納得した。
「よくわかんない」
どうやらルナもよくわかってないらしい。
「エレベーターを近くの階につけるね」
エレベーターが復旧し、整備エリアへとたどり着く。
ルナちゃん、やるじゃない。とさらに関心する。
「とりあえずルナ。コハク少尉はどうすればいい?」
「んとね、リカバリーしなきゃいけないよ」
「どうやって?」
「
うへへー、役得だー。と、シャロン准将は、少し喜びながら、コハク少尉の胸襟のボタンを少し外す。
しかし、でかいな…。自分のと比べ、今度は、逆にいらだちを覚える。
すぐに小さなジャックを発見した。
「これか、それで?」
「
「あー、私の
シャロンは、ウサギ柄のフリルトートから軍用PDA取り出し、少尉の胸元のジャックに差し込んだ。
ルーンラビットと二人で画面を見つめ、シャロン准将は
カハ…ッ!コハク少尉が血反吐を吐く。
「シャロン。そのボタンじゃないよ!」
シャロン准将の衛星アウラ奪還作戦。二歩下がる。