「よし」
私はアイテムボックスから【9枚の果たし状】を取り出した。
そして、そのアイテムを使用する。
『これからイベント【ホロ剣客十番勝負】が開始されます。
このイベントは1プレイヤー1度きりのイベントになりますが挑戦しますか?』
前回と同じ機械音声、私はYESボタン押す。
『挑戦者確認。
では、シアターミッション【ホロ剣客十番勝負】を開始します』
そして、私の周りの景色が一変した。
「今度は墓場でごさるか」
さっきまで昼だったのにここは夜だった。
所々、ランタンが空中に浮遊して辺りを照らしているが、かなり薄暗い。
(これは少々戦いづらいでござるな)
風丸はそう考え、スキルを発動する。
使うスキルは【古参の騎士】
風丸の姿は青と白で彩られた侍の姿に変わった。
風丸は頭に被っている笠を触る。
すると、笠は形を変えて鬼の面に変わり風丸の顔を覆った。
(よし、これで暗闇でもはっきりと見える)
風丸の装備している笠はその環境に合わせて変化する特殊防具だ。
「な~んだ、顔隠しちゃうんだね」
(!
気配を感じなかった)
墓場の奧から誰かがこちらに歩いてくる。
(あの人は…)
「メル殿?」
「は~い、こんかぷー
数日ぶりだね」
そう言ってメルは笑う。
「本当に。
まさか、メル殿もこのイベントの参加者とは。
あの時は何も言ってくれなかったでござるな」
「当たり前じゃない。
種明かしなんてしたら面白くないでしょ」
少し前屈みになり人差し指を立ててめっと怒るような姿でウインクする。
そう、メル殿には数日前、【魔界】の薬屋で出会っていた。
このイベントに挑戦する為に、ポーション系を購入しに行ったのだ。
(しかし、あの時やたらにギガポーションを買うように勧めていたのは、自分が参加するからこのイベントの内容を知っていたという事でござるな)
「それで、もちろんお相手はメル殿でよろしいでござるな?」
「ふふ、ここまできてメルじゃなかったら、それはそれで面白いね。
でも、残念。
相手はこのメルだよ」
メルが両手を胸の前で交差する。
そして、現れる赤い刀。
「血晶刀(けっしょうとう)、これがメルの武器だよ」
「前から思っていたのでござるが、その得物は血で出来てるのでござるか?」
「え?
まさか、そんなことあるわけないじゃない。
メル、血嫌いだもん。
これはメルの力で作ってる刀で、色は別に赤にされてるだけ、もちろん名前も運営さんが決めたから」
「なるほどでござる」
「メルはヴァンパイアだけど、血を吸わなくてもアセロラジュースがあれば生きていけるから」
「はは、そうなのでござるな。
さて、それでは手合わせをお願いするでござる」
風丸は天叢雲剣を構える。
「まつりちゃんからの連戦で大丈夫なの?」
心配そうに聞いてくるメル。
「もちろんでござる。
それに1度発動したアイテムをなかった事にはできないでしょう?
それに心配そうに聞いてくれていますが、メル殿、今すごく嬉しそうな顔をしてるでござるよ。
まるで目の前に獲物が迷い混んできた肉食獣ように」
「はは、そう?
分かっちゃう?
だって久しぶりなんだもん。
本気出していいなんて」
バァサ!
メルの背中から巨大な蝙蝠の羽が広がる。
そして、赤黒い気を放つメルは、先ほどまで優しそうな雰囲気をしていたメルとは別人だった。
(さすがは、ホロメンと言うところでござるか。
普段はあまり戦闘に出ないメル殿だが、その実、もっともオリジナル世代に近い存在。
スキル【解放】が使えないがいけるか?)
まつりとの戦いで【溜め】のストックは切れている。
今、【解放】を使ったとしてもあまり効果は期待できない。
それに本気のホロメン前で【溜め】を使う事もできない。
「じゃ、心行くまでやりあおう」
そう言ってメルは不適に笑った。
『真夜中の流浪人 夜空メル
疾風の女侍 風丸
いざ尋常に勝負!』
野太い声の機械音声の後、風丸は先制攻撃を仕掛けた。
ザン!
「!」
勢いよくメルに横を通り抜け、すれ違い様に胴を薙ぐ。
(手応えがある?)
避けられると思っていた風丸は、手応えがあったことに驚く。
だが警戒はしない、武器を構えメルを見た。
メルの胴は確かに斬られていた。
しかし、メルの上半身は下半身の上に浮かんでいる。
ぐるりと上半身だけが回り風丸を見る。
「もう、いきなりだからびっくりした」
その後、上半身を追いかけるように下半身も回れ右をする。
「ヴァンパイア…」
風丸は冷や汗をかく。
切り口に血が一滴も流れ出ていない。
「よいしょ」
メルはまるでズボンを履くように下半身を掴み、上半身に繋ぐ。
「ま、一応【不死の王】だからね」
笑顔で言われるが、風丸にしてはまさにそれは恐怖の笑顔だ。
「じゃぁ、今度はこっちからかなぁ?」
メルは両手に刀を持ち、風丸に突っ込んできた。
(まずは右)
メルが右腕を動かした事で、風丸は右に剣を動かし防御する。
しかし。
(な、持ってない!)
そう、メルが振り下ろした右手には何も持ってなかった。
(どこにいったでござる?
ぐ!)
そう一瞬考えた時に風丸の左腕に痛みが走る。
見るとそこに血晶刀が刺さっている。
(いつの間に)
次にメルは左腕を動かす。
(今度は血晶刀を持っている)
風丸は痛みを堪えながら右手で剣を持ち防御。
血晶刀は天叢雲剣に当たるとパリンっと割れる。
(脆い?)
風丸はその違和感に後ろに下がる。
それが功を奏した。
天叢雲剣を通り過ぎた瞬間、砕けたはずの血晶刀が元に戻る。
しかし、その刀は後ろに下がった風丸の胸をかするだけだった。
「やるね!」
メルはそのまま、ドロップキックを風丸に放つ。
ドカ!
吹き飛ぶ風丸。
「がは!」
風丸は背後にある墓石に当たり止まる。
「はぁはぁ、く」
風丸はゆっくりと立ち上がりながら、腕に刺さった刀を抜いて捨てる。
刀は塵に変わって消えた。
(つ、強い。
それにあの刀が厄介でこざる)
「初めに言ったでしょ?
この刀は私の力で作ってる」
そう言ってメルは右手に血晶刀を作り出す。
「だから」
刀を振り上げメルはそのまま振り下ろす。
「!」
風丸は何かを感じて剣で防御する。
ガキン!
その剣に血晶刀が当たる。
「こういう風に伸ばしたり」
メルは右手を上に向ける。
すると伸びていた刀はナイフぐらいの長さに変化した。
「縮めたりもできるの」
にこっと微笑むメル。
(これが第一世代組の夜空メル殿のリミット解除)
風丸は肩で息をしながらメルを見る。
「ほら、せっかく時間稼ぎしてるんだから、メルのお店で買ったポーション使って」
「え?」
(時間稼ぎって何か使い方間違ってるでござるな…)
「まさか、メル殿のお店で買ったポーションをメル殿にやられて使う事になろうとは」
風丸はアイテムボックスからポーションを取り出し飲む。
腕の痛みがなくなり、動かせるようになる。
「やはり、メル印のポーション。
普通のポーションより回復率が高い」
「まぁね」
風丸の言葉にえっへんと胸をはるメル。
「しかし、その自在の武器は厄介でござる」
「ふふ、そうでしょう」
メルは両手を胸元まだ持ってきて、手の甲を風丸に見せる。
「こういう事もできるんだよ」
メルの爪が突然全て伸びる。
(赤い爪でござるか?)
「もちろん、本物じゃないよ?」
「血晶刀でこざるな」
風丸の言葉に微笑むメル。
(自由自在でござるな。
さて、どうすればいいでござる?
こちらが今使えるスキルは【覚醒】ぐらい。
しかし、それも時間制限付き。
この状況で使うのは悪手でござるな)
「考えまとまった?」
メルは爪をカチャカチャ鳴らし風丸を見ている。
(なら、こちらから仕掛けるのみ。
そして、この力を使ってまずは1つ封じるでござる)
風丸はぎゅっと天叢雲剣を握る。
「決まったみたいね」
いうが早いかメルは羽を広げて風丸との間合いを詰める。
ブン
「!!」
メルが振りかぶり攻撃した風丸に感触がない。
「残像でござる」
メルの横側から風丸が攻撃を繰り出す。
ガキン
血晶刀で受けるメル。
しかし、風丸はその勢いを落とさず攻撃を続ける。
ギン、キン、キン
風丸の攻撃は続く。
しかし、その攻撃をメルは全て受けている。
だが、メルの顔は何か冴えない。
「どうして…」
「砕けないのが不思議でござろう?」
「!
何かしたの?」
「この剣の能力でござる。
水を操る能力でメル殿の刀を凍らしてるでござるよ。
まず1つ。
破壊して再生する攻撃方法を封じさせてもらったでござる」
「だからといってこっちに攻撃当たってないけど?」
「今はね」
メルの言葉に微笑む風丸。
(…手がうまく動かなくなってる?)
メルは自分の手が動き辛くなっているのを感じた。
(これって)
徐々に押され始めるメル。
「直接手から血晶刀を出してるのが仇になってるでござる」
(なるほどね、あの時にこれを考えた訳ね。
さすが英雄さん)
メルは嬉しい気持ちになった。
「このまま、押しきらせてもらうでござるよ」
風丸は勝機と感じスキルを使う【覚醒】
風丸のステータスが10倍になる。
勢いを増した連撃はメルを追い詰める。
そして、とうとうメルの体に剣が届いた。
「凍らせ!天叢雲剣」
メルに突き立てた剣の力を解放する。
そして、メルは氷に包まれた。
「や、やった」
氷の彫像になったメルを見てふぅと息を吐く風丸。
「?」
しかし、戦いが終わった筈なのにあの声が聞こえない。
「それはまだ、決着がついてないからだよ」
「な!」
氷の彫像がひび割れていく。
そして、氷の彫像が砕けちり、中からメルが現れた。
「ああ、寒かった」
「あの氷を砕けるのでござるか?」
「ま、スターズ程度のエネミーなら無理だろうけど、ホロメンクラスには時間稼ぎにしかならないよ」
「…」
(【覚醒】の時間は残りわずか。
このままでは勝機を失うでござる)
「さ、次はどうする?」
今度は両手に剣を持つメル。
天叢雲剣対策をしている。
(同じ手は通用しないでござるか)
無意識に唇を噛んでしまう風丸。
口の中に血の味がする。
かなり噛んでしまった。
(血?
そういえばメル殿は初めに言っていた…
もしや、これが勝利の鍵でござるか?)
【覚醒】終了まで後1分。
(もう、考えている暇はないでござるな)
風丸は覚悟を決める。
(恥ずかしいでござるが、やるしかないでござる)
そして、風丸は最後の攻撃を仕掛ける為に、メルとの間合いを詰めた。
「戦いを諦めてないその目好きだよ」
迫り来る風丸にメルは攻撃を繰り出す。
風丸はそれを残像を使い避ける。
「攻撃はしないの」
「これが私からの攻撃でごさるよ」
メルの目の前まで迫る風丸。
「攻撃って、ん?ん!!」
風丸は完全にメルとの間合いを詰め、その唇にキスをした。
ドン!
「な、な、何を」
顔を真っ赤にして風丸を突き飛ばすメル。
キスをした風丸も顔が真っ赤だ。
「これしか方法が思い浮かばなかったでござる」
そう言って風丸は口を開け舌を出す。
そこには風丸が口の中に溜めていた血の後。
「な、まさか」
メルは口の中にある物の味を知る。
「血」
「そうでござる。
メル殿は血は苦手と言ってござった。
だから、私の血を口移しさせてもらったでござる」
「自分以外の血…
ふ」
「あわわ」
いきなり倒れこむメルを風丸は慌てて抱き止める。
「気を失ってるでござるか?」
『勝者 疾風の女侍 風丸』
今度こそ野太い声の機械音声が風丸の勝利を宣言した。
「ん」
「起きたでござるか?」
「ここは?」
メルは風丸の膝の上で目を覚ます。
「場所は変わってないでござるよ。
墓場でござる」
風丸は苦笑いをする。
「あ、メル気を失ってた?」
慌てて起きて風丸に聞く。
「はい、まさかあれほど効果があるとは思っても見なかったので、すまないでござる」
風丸は頭を下げてメルに謝る。
「あ、いいよ。
あの過剰反応は、この規格外の力、【不死の王】の力のデメリットだから。
他者の血を飲まない、が力を発揮する条件だからね」
「ヴァンパイアが血を飲まないとは」
「ま、メルにはうってつけな条件なんだよ。
血は嫌だから」
そう言ってメルは微笑む。
お互いにその場に立つ。
風丸の目の前に光の玉が現れ、それが徐々に形になっていった。
それを手に取る風丸。
『アイテム【8枚の果たし状】を手に入れた』
機械音声の後、風丸は次への切符を手に入れた。
「おめでとう」
メルはそう言って手を差し出してくる。
「ありがとうございます」
風丸はその手を掴み握手する。
「あと、これは忠告というか助言。
このイベントは連戦しない方がいいよ。
万全に体制を整えてから挑むようにしなよ」
メルは心配そうに言った。
「はい、それは今回の事で嫌という程思い知りました」
メルの言う通り、風丸は自らのスキルが万全ならもっと上手く立ち回れていたと感じていた。
(次はきちんと【溜め】ていかないと。
メル殿みたいに回復する時間を与えてくれるとは思ってはいけないでござるな)
「なら、よし」
メルは笑顔で頷く。
その笑顔はいつも見せてくれる優しい笑顔だった。
「これからも期待してる。
勝ってまた、お店に報告しに来てね」
「必ず」
そうして、2人は笑顔で別れた。
【ホロ剣客十番勝負】の情報となります。
2人目は【魔界】の薬屋主人、天才バンパイアの夜空メルちゃんでした。
あまり表だって戦いに加わらないホロメンの方ですが、その実、報告にも書かれていましたが、もっともオリジナル世代に近い存在でもありますので、かなりの強さを持っていました。
普段は可愛い薬屋店長さんも実は…
ま、弱点もあるみたいですので、それを上手く使えば切り抜けられそうですね。
ただし、次も唇を許してくれるかは分かりませんが…
今回の作戦は初見殺しという事で、挑まれるプレイヤーさんは別の方法を考えてくださいね。
それではまた、情報が入りましたら更新します。