例の如く。
私は宿屋から出た後、町の外に出てアイテム【7枚の果たし状】をアイテムボックスから取り出す。
これで4人目の相手。
誰が現れるか予想はつかない。
1人目であるまつり殿に聞いた通り、このTMを挑戦するのは私が初めて、事前の情報もない。
だから、事前の対策もたてれない。
今できる自分の精一杯を相手にぶつけるだけ。
今回もスキルのチャージは終わっている。
ステータスだけでいえばスキルを使えばチートと呼ばれるホロメンと肉薄できる。
(今度も負けない。
私は彼女が目標にできる剣客にならないといけないから)
私は【7枚の果たし状】を頭上に掲げた。
アイテムを使用する。
『これからイベント【ホロ剣客十番勝負】が開始されます。
このイベントは1プレイヤー1度きりのイベントになりますが挑戦しますか?』
私はYESボタン押した。
『挑戦者確認。
では、シアターミッション【ホロ剣客十番勝負】を開始します』
そして、私の周りの景色が一変した。
『わぁ~!』
「な、なんでござるか?」
いきなりの歓声に風丸は驚き辺りを見回した、
「え、宴会場?」
風丸の言う通り、そこはかなり広い宴会場。
両端には盆の上に料理が置かれ、1人ずつ様々な種族の人が座っていた。
そして、中央に立つ風丸。
その風丸に両端に並ぶ人達が歓声を上げたのだ。
「え?
えっと…」
今までとはまったく違う雰囲気に風丸は戸惑う。
「あはははは、まさか相手って風丸くん?」
そんな風丸を明るい笑い声で話しかけてくる相手がいた。
上座のステージからゆっくりと向かってくる着物を着た人物。
「まさか!
ラミィ殿?」
「はい、正解!」
風丸の声に、その笑い声の主はにこやかに答えた。
ラミィは片手に一升瓶を持ってにこにこしながら、風丸の前に立つ。
「えっとこれは?」
風丸は未だに状況が分からず辺りを見る。
「え?
風丸くんは戦いに来たんじゃないの?」
そう言いながらお酒を飲むラミィ。
(一升瓶から直接飲んでるでござるな)
「そ、そうでござるがこの観客は何でござるか?」
風丸は不思議そうにラミィに聞く。
今は歓声は止み、みんな雑談をしているように見える。
「あ、これ?」
ラミィはそう言って一升瓶に蓋をして、くるりと手元を回し、底が上を向くように持ち変える。
そして、おもむろに観客?に向かって一升瓶を振った。
衝撃波が放たれて観客?に襲いかかる。
「ちょ、ラミィ殿!?」
びっくりする風丸だが、衝撃波は観客?をすり抜け壁に当たった。
「この人達はこのエリアの演出で、ダメージも何も与えられないんだよ」
「知ってたのでござるか?」
「ん?」
少し間をあけて「知ってた」
「いや、微妙でござらんか。
本当のNPCが配置されてたらどういう事になるか」
「ん~
ちょっとしたホラー?」
「ちょっとどころではござらんよ」
「なに言ってるの」
慌てる風丸にラミィは笑って言う。
「これからラミィ達が本気で戦うのに、NPCなんて配置したら、誰も生き残れないよ」
そう言ったラミィの顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。
「確かにそうでござるな」
風丸は気を引き締める。
(ここがどんな場所であろうと戦場。
雰囲気に流されてしまうところでござった)
風丸は真剣な面持ちでラミィを見て剣に手をかける。
「そうそう、ここはもう戦場だからね。
本気でかかってこないとラミィ退屈になるよ」
一升瓶の蓋を開け、またお酒を飲むラミィ。
「雪夜月でござるな」
風丸はラミィから目線を外さず聞く。
「当たり!
ラミィと言えば雪夜月、雪夜月と言えばラミィだからね」
笑顔のラミィ。
その間もごくごくとお酒を飲む。
「そんなに飲んで大丈夫でござるか?」
風丸は少し心配になって聞く。
「だいじょ~ぶ。
ラミィは酔えば酔う程強くなるから」
「え、それって」
『それでは、ホロ剣客十番勝負を開始します』
突然若い女性の声のアナウンス。
そして、すぐに野太い声のアナウンスが続く。
『酔剣女王 雪花ラミィ
疾風の女侍 風丸
いざ尋常に勝負!』
「やっぱり酔拳!」
「けんはけんでもこっちの剣だけどね」
一升瓶に蓋をしてさっきのように持ち変えるラミィ。
「いや、それって剣ではござらん」
風丸は酒瓶を構えるラミィにツッコミを入れる。
「あは」
笑って誤魔化そうとするラミィは、ゆらりと揺れながら一瞬で間合いを詰めた。
(早い、そして、間隔が掴めない)
ガキン!
何とか一升瓶を剣で受ける風丸。
「すごい、よく反応できたね」
嬉しそうに言うラミィ。
「この剣客勝負で培った経験でござる」
風丸はそう言いながらラミィを押す。
ラミィはそのまま距離を取った。
「【古参の騎士】」
風丸はすぐにスキルを使う。
その姿が青と白の衣装を纏う侍に変わる。
「そら先輩の【円卓の騎士】」
ラミィは風丸を見て言った。
「まだ【解放】」
躊躇なくスキルを発動する風丸。
(初めの一撃は防げたが、何かラミィ殿から嫌な気配がする)
風丸は言い様のない気配にスキルを惜しみ無く使った。
本当は【覚醒】も使いたかったが、まだ何かを隠していると感じた風丸はスキル発動を躊躇った。
「さすがここまで勝ち残った剣客だけはあるね」
ラミィは微笑み、一升瓶を持ってない手を風丸に向ける。
その手は拳銃のような形をしていた。
「バン!」
笑顔でそう言ったラミィの指先から高速で何かが撃ち出される。
「な!」
キン!
何とか剣で防ぐ風丸。
地面に落ちたそれを一瞬確認する風丸。
(氷の弾丸?)
「だって雪花ラミィは氷使いだから」
「く!」
すぐ近くで声がして風丸はラミィを見た。
一瞬目を離した隙に間合いを詰められている。
酒瓶の乱打を風丸はどうにか剣で受け流す。
何合かの後、ラミィの下から振り上げるような一撃で、背後に飛ばされる風丸。
ラミィは自分の胸元に左手を持ってきて、勢いよく風丸に向かって伸ばす。
伸ばした手から網状の氷が風丸に向かって放たれた。
「!」
風丸は素早く体勢を整え、自分に向かってくる氷を斬り払う。
「すごい、すごい」
風丸の動きにラミィは嬉しそうにはしゃぐ。
相変わらずふらふらと立つラミィを、風丸は息を整えながら見る。
(確かにレアな氷の魔法の使い手のラミィ殿でござるが、何か違和感がある)
にこにこ笑顔でまた、お酒を飲み始めるラミィ。
(さっきの舞うような動き。
完璧な狙いの射撃。
それに相手の注意をそらすような完璧な牽制。
やはりこれは)
ダン!
お酒を飲むラミィに間髪いれず間合いを詰め攻撃する風丸。
しかし、その攻撃をラミィはのらりくらりとお酒飲みながら全て避けている。
「もう、お酒飲んでるのに~」
ラミィは不満を口にしながらも、風丸の攻撃に当たる事はなかった。
(やはり)
風丸は何かを確認して背後に跳び間合いを取る。
「やっとゆっくり飲める」
ラミィはごくごくとお酒を飲む。
「はぁ~美味しい」
嬉しそうにラミィは言った。
「酔えば酔う程でござるか?」
風丸は剣を鞘に納めて構える。
「ふふ」
ラミィは風丸の質問に笑顔で答える。
(酔えば酔う程?
いや、本当の酔拳はそうではござらん)
「ラミィ殿、参る!【覚醒】」
スキルを発動し、さっきよりも数倍の早さで間合いを詰める風丸。
そこから「剣術奥義【八花閃】」
居合で抜いた剣から八つの斬撃がラミィを襲う。
しかし、その攻撃さえもラミィは避ける、が!
キン!
「奥義を囮にするなんてさすが風丸くん」
風丸の鋭い突きをラミィは一升瓶で受けていた。
ピシッ
一升瓶に亀裂が入る。
そして、パリンと割れた一升瓶から酒は溢れることなく、1本の氷で出来た刀が現れた。
「やはり、飲むフリでござったか」
「気づいてたんだ」
ラミィの顔から笑みが消え、真顔に戻る。
「酔拳は酔ったような独特な動きをする拳。
ラミィ殿も酔剣を名乗るなら本当に酔う必要はないと思ったでござる。
それに酔えば戦いにならないでござるよ」
キンっと剣をうち鳴らし背後に跳び間合いを取る両者。
「ま、一升瓶で酔う程ラミィはお酒に弱くはないんだけどね」
ラミィはそう言って微笑む。
「それに、ラミィ殿。
【絆】の力も使ってるでござろう」
風丸の指摘にラミィは一瞬大きく目を開く。
「すごい、そこまで分かっちゃうんだ」
「動作や攻撃方法で予想はつくでござる」
「さすが風丸くん」
ラミィはそう言って少し胸元を開ける。
「な、何を」
「こらこら、変な想像しない」
笑うラミィの胸元に何か紋章が浮かび上がっていた。
「第五世代組の紋章」
「そう、今、風丸くんが相手しているのは、私達第五世代組って事になるね」
ラミィは笑顔で言うが、言われた風丸はその事実は恐怖でしかない。
(第五世代組全員が相手。
勘弁して欲しいでござる。
ホロメンの中でも最強の部類に入っているでござるよ)
風丸の頬を冷や汗が流れていく。
「さぁ、【氷刀 雪夜月】を出す事になったし、ここからはお遊びなしで相手してあげるね」
氷の刀を構え微笑むラミィに風丸は先程以上の恐怖を感じる。
(昔、会ったそら殿やすいせい殿の圧と同様でござる)
「なら、私も全力で。
スキル【オーバーブースト】」
風丸はその身に青と白の混合した気を纏った。
【オーバーブースト】は【古参の騎士】のスキルを持つプレイヤーにだけ許されたスキル。
【古参の騎士】を数日間使えなくする代わりに、自分をチート化する。
お互いに一瞬で間合いを詰める。
そして、打ち合う2人。
激しい音が宴会場に響きわたる。
雑談していた観客?は静かに2人を見守っていた。
【氷刀 雪夜月】は斬ったものを凍りつかせる能力がある。
それはもちろん触れたものも同様だ。
しかし、風丸の剣は凍りつかずラミィと打ち合っている。
(チート能力ね)
ラミィは打ち合いながら気づく。
【オーバーブースト】により今の風丸に状態異常は効かない。
もちろん、その手に持つ武器にも。
打ち合い、時には離れ牽制で氷の弾丸を撃ち出すラミィ。
しかし、その弾丸を剣で払いながらすぐに風丸は間合いを詰めた。
(離れてはいけない。
離れなければ攻撃方法がぐっと狭まる)
風丸はそう直感で感じていた。
離れればぼたんの銃火器の技術、アロエの膨大な魔力より放たれる魔法。
それらが全て使われる。
そうなれば風丸に勝ちはない。
(やっぱりすごいな、風丸くんは)
ラミィはそう激しい一撃を1つ1つ受けながら、心の中で感心する。
このイベントに参加して勝ち上がってるプレイヤーがいるのは、耳にしていた。
ラミィはその事を第五世代組のみんなにも伝えており、他の4人にも羨ましがられていた。
なんせ、本気を出して良いのだ。
一部のプレイヤーしか知らない前大戦のような事が起きない限り、ホロメンは全力を出す事は殆どない。
しかし、このイベントだけは違う。
ラミィ達ホロメンが普段押さえている力を出しきっても良いのがこのイベントだ。
だからラミィは自分の使えるスキルを惜しげもなく使っている。
(だから、楽しい)
普段、この世界の生活は楽しい。
でも、ここまで力を使い、それを受け止めてくれるプレイヤーとの時間も本当にラミィは楽しかった。
(キミ以来かも)
ラミィは昔共に旅したプレイヤーを思い出す。
今はどこで何をしているか分からないけど、きっとこの世界を旅しているのだろう。
ラミィは目の前の相手、風丸を見た。
これだけ打ち合っているのに、風丸の顔は少しも疲れた顔をしていない。
むしろ楽しそうにも見える。
(一緒の気持ちなのかな?)
ラミィはそう感じて、打ち込む力をより一層強めた。
(すごいでござるな、ラミィ殿は)
より強くなった一撃に風丸はそう感じた。
これまで戦った3人のホロメンの相手も相当強かった。
しかし、それ以上に目の前の相手、雪花ラミィは強い。
風丸が奥の手の【オーバーブースト】を使っても今の状態を維持するだけで精一杯だった。
(もうすぐ【覚醒】も終わる。
そうなったらいくらチート能力でも、基本の能力に差が出る。
そうなれば今の状況を維持できない)
風丸は考えた。
もう、後がないのだ。
(なら、ここで決着をつけるしかない)
風丸は覚悟を決めてラミィを押した。
ラミィはその一撃を受け数歩後ろに下がらされる。
(今まで離れてもすぐに間合いを詰めてたのに?)
押されたラミィが一瞬疑問に思った。
その瞬間、勝負が決まる。
振りかぶった剣を風丸はラミィの目の前で振り下ろした。
(あ、これって)
ラミィは全身の力が抜けるのを感じる。
(立ってられない。
まさか、その技を使えるなんて)
ラミィはゆっくりと膝を宴会場につけた。
「すまないでござる。
【運命共同】を使わせてもらいました」
その場に座り込んだラミィに申し訳なさそうに言う風丸。
「謝ることないよ。
それも風丸くんの全力の1つだから」
ラミィはそう言って力なく笑う。
スキル【運命共同】
あるプレイヤーだけ使えるスキル。
使ったプレイヤーは自分と同じ人の力を使える。
「まさか、あやめ先輩の秘奥義が使えるなんて思ってなかった」
「私も驚きでござる」
「この勝負、風丸くんの勝ちだね。
おめでとう」
ラミィは笑顔で風丸の勝利を祝う。
「ありがとうございました」
剣を納めて風丸は一歩引いてラミィに頭を下げた。
『勝負あり!
勝者 疾風の女侍 風丸』
宴会場が歓声に包まれる。
そして、風丸の目の前に【6枚の果たし状】が現れた。
風丸は【6枚の果たし状】を手に持ち、本当に自分が勝てたのだと実感した。
お待たせしました。
楽しみにしていただけていたら嬉しいなと言う事で、風丸のTM【ホロ剣客十番勝負】の追加情報です。
相変わらずチート相手に頑張っている風丸ですが、その実、この人もチートなのではと話を聞いていると思ってしまいます。
4人目の相手であるラミィちゃんはほぼ全力で戦ったらしく、とても楽しんでいたみたいです。(感想はゲームキャラのラミィちゃんです)
さて、次は誰が相手なのか?
それを予想しながら、追加情報をお待ちください。
そして、謎のプレイヤー風丸の正体は?
では、また情報が入りましたら、更新します。
お楽しみに。