「ふぅ、やっとここまで来た」
私は【5枚の果たし状】を見る。
たぶん、これを使えばあのこがいる。
なぜかそんな予感がした。
私がこの運営のおふざけで作られたと言われるTMを受ける理由は、たぶんこれを使った先にいる人物の為。
私はあのこの為に強くならなくてはいけない。
そうしないとあのこの目標になってあげられない。
私はギュッと【5枚の果たし状】を掴む。
そして、覚悟を決めて頭上に掲げた。
『これからイベント【ホロ剣客十番勝負】が開始されます。
このイベントは1プレイヤー1度きりのイベントになりますが挑戦しますか?』
いつもの機械音声。
そして、始まりの言葉。
風丸は砂浜を1人歩いていた。
「パッと見、どこかの孤島でござるな」
(ま、あのこらしいと言えばそうなのかな)
風丸はそんな事を考えてくすっと笑う。
しばらく歩くと、砂浜に1人の人物が立っていた。
こちらには向いていないが、風丸にとっては忘れる事はない後ろ姿。
「やっぱり、あなただったでござるな」
風丸の声にその人物は振り返る。
「待っていたでござるよ、風丸殿」
そう言って第五世代組風真いろははにこっと笑った。
「しかし、本当に風丸殿がこのイベントを受けていようとは」
微笑みを崩さずいろはは風丸に言った。
「ま、こっちもこのイベントをやる理由があるでごるから」
風丸もそう言って笑った。
「では、いろは殿。
一戦お願いするでござる」
そう言って天叢雲剣の柄を持ち半身に構える。
「何か照れるでござるな」
そんな風丸にいろはは少し照れた顔で言う。
「照れる?」
「そうでござる。
風丸殿にいろは殿と言われるのは、何か違和感があって」
その言葉に少し考える風丸。
「確かにそうかも」
そう言って風丸も笑う。
「なので、いろはで良いでござる」
「分かったでござる」
頷く風丸。
「では、風丸…」
「なら」
「え?」
いろはの言葉を遮り風丸が言う。
「私も風丸でお願いね」
「YES、承知したでござる」
いろははチャキ丸を抜き構えた。
『謂われなき剣聖 風真いろは
疾風の女侍 風丸
いざ尋常に勝負!』
野太い声の機械音声。
開始の合図がされても両者は動かず相手を見ていた。
「謂われなき?」
そう風丸が言う。
「そうでござる。
まだ、かざまはその頂点に達していない。
なので剣聖などとたいそうな通り名を付けられたので謂われなきを付け加えたでござるよ。
では、参る」
タン
軽やかな音と共にいろはは一瞬で風丸との間合いを詰めた。
(【縮地】?)
キン!
両者の刃が交差する。
「ちなみに【縮地】ではないでござる」
風丸の考えが分かるのか、いろはが答えた。
「はぁ!」
天叢雲剣を振り、いろはを押し払う。
軽く背後に跳んだ後、いろははまた一瞬で間合いを詰める。
切り結びまた、押し払う。
しかし、すぐに間合いを詰めて打ち込まれる。
刀の交差する音と、いろはの軽いステップの音が淡々と流れていく。
(このままでは、こちらの体力が削られるだけ)
風丸はいろはの一撃を受けながらそう感じた。
きちんと防いでいるものの、いろはからの一撃はとてつもなく重い。
(なら)
いろはは変わりなく打ち込んで来た。
風丸はその一撃を下へと受け流した。
「!」
体勢を崩すいろは。
すぐさまそこに風丸は一撃を入れた。
「え?」
しかし、その一撃は空を斬る。
「危なかったでござる。
まさか、受け払いを続けての受け流し。
さすが風丸」
少し離れた場所でチャキ丸を構えてまま微笑むいろは。
「忍者?」
「あなたがそれを言ってはおしまいでござるよ」
風丸の言葉に苦笑いするいろは。
「あ、ごめん。
でも、まさかあの体勢から避けられるなんて」
「【縮地】の応用でござる。
間合いを一気に詰める事が出きるのだから、その逆もやろうと思えばできる。
ま、【裏・縮地】と言うやつでござるかな」
簡単に言うが実際にそれをやろうと思って出きるものではない。
(我ながらなんて相手になってるんだか)
「すごく成長してるでござるな」
「この世界でたくさん良い経験をさせてもらってるでござるから」
風丸にいろははそう嬉しそうに答えた。
「しかし、風丸もすごいでござるよ。
基本スペックの違いがあるにも関わらず、先程からかざまの攻撃を確実に防いで、それも反撃してくるなんて」
確かに一般プレイヤーとホロメンAIの基本能力は段違いだ。
ホロメンAIがチートと呼ばれるのはスキルだけではなく、その基本が違う事も言われる要素の1つになっている。
「一回だけ打ち込むのだから、軌道さえ分かれば受けられるのは道理でござる」
「分かってて出きる相手はそうそういないでござるよ。
なのでもう一段階ギアをあげるでござる」
そう言っていろははまた間合いを詰めた。
(右袈裟)
風丸はいろはの狙いに防御する。
しかし、(左!)
確かに右袈裟斬りの斬撃を刀で受けたが、すぐさま左袈裟斬りが来る。
風丸は咄嗟に背後に跳んだ。
「よく避けたでござる」
空を斬ったいろはは風丸を見ていた。
(さっきよりも打ち込みのスピードが違いすぎる)
「【古参の騎士】」
風丸の姿が変わる。
「やっと出たでござるな、円卓の1人」
いろははチャキ丸を構える。
「そら先輩との訓練生かさせてもらうでござる」
いろははまた間合いを詰める。
「は!」
しかし間合いを詰めてからの一撃は空を斬る。
「そのスピードなら避けれる」
そして、いろはに一撃を振る風丸。
だが、その一撃はいろはに届かない。
寸前のところで避けられている。
にこっと笑ういろはを風丸は見た。
いろはは体勢をすぐに立て直し風丸に打ち込む。
風丸はそれを避けて、いろはに一撃を放つ。
それを避けていろはは反撃をする。
今度はお互いに攻撃を避けての反撃戦となった。
お互いの刀は空を斬る。
受けるより避けて反撃する方が難しい。
それが上級者同士ならなおのことだ。
しかし、2人はそれを続ける。
紙一重で避けての反撃。
空を斬る刀の音と2人のステップがまるで音楽を奏でるように、この空間に流れていた。
タン。
同時に2つの音がなり、お互いに間合いを離す。
「力を押さえているでござるね?」
風丸の言葉にいろはは頷く。
「風丸もまだ本気ではござらん。
なら、かざまも押さえるのが道理。
そちらも本気で来るなら、こちらも全力を出すでござる」
「…」
風丸は考える。
(そうこの相手はそういう相手だ。
こちらが本気を出さずに倒してもよしとしない。
いつも正々堂々。
自分が納得し相手も納得した勝負をする)
「難儀な性格でござるな」
「風丸に言われたくはないでござるよ」
いろはの返答にお互い笑う。
「【解放】【オーバーブースト】」
風丸はスキル解放し、その身に青と白の混合した気を纏う。
「やっと本気の風丸と戦える」
いろはは楽しそうに風丸を見た。
いろはは風丸がこのイベントを勝ち上がって来ているのを、ラミィに聞いていた。
「【絆】の力を使って戦っても負けた」とラミィは嬉しそうに笑って教えてくれた。
いろははいつか来る風丸の為に、そらに頼み【円卓の騎士】の侍で対風丸戦の練習をさせてもらっていた。
自分の前にあの人が来る。
なら、今の自分を、全力の自分を見てもらおう。
いろははそう思っていた。
「【模擬真眼・改 鬼神大元】」
いろはの片目に紋章が浮かび上がり、背後に緑のアストラル体の鬼神が現れる。
そして、その鬼神はいろはと重なり、いろはは緑のアストラル体の鎧を身に纏った。
「二刀流…」
緑の刀とチャキ丸を持ついろはを見て風丸が言う。
(フブキ殿の言う通りでござったな)
「これが今のかざまの精一杯でござる」
いろはは風丸に言った。
黙って頷く風丸。
そして、風丸はアイテムボックスからアダマンタイトの剣を出す。
その剣は淡く白い気を纏っていた。
「まさか、風丸も?
それにその剣」
「フブキ殿に力を貸してもらってるでござるよ」
前回のイベント後にフブキが自分の加護をアダマンタイトの剣に与えた。
「【白狐の宝刀】そう名付けられたでござる」
風丸はその剣を見ながら言った。
「これで装備は五分」
風丸の言葉にいろはは嬉しそうだ。
「では、尋常に」
『勝負!』
それはまさしく風だった。
いや暴風か?
緑と白と青の色が線となって渦巻いている。
時には打ち合い時には離れて剣撃を放つ。
二刀流対二刀流のあり得ない手数の多さ。
そして、それを防ぎきる技量。
チートホロメン対チート化したプレイヤー
チート同士の戦いは目で追うのが難しい程、激しさを増していた。
「楽しいでござる」
「私も。
いろはと戦える時が来るなんて嬉しいでござるよ」
時折、両者の楽しそうな声が聞こえて来る。
しかし、その時間を永遠に続ける事は出来ない。
どんなに楽しい時間にも終わりがある。
「【覚醒】」
風丸は最後に残していたとっておきを使った。
全てのステータスが10倍に膨れ上がる。
前回は【オーバーブースト】をする前に使っていた。
しかし、今回はそのスキルでチート化した後に使用している。
もし、その時風丸がステータス画面を見れたなら、呆れてしまっただろう。
彼女のステータスは全て正常に表示されずバグっていたのだから。
『く!』
風丸の勢いが上がりいろはは攻撃を受けきれなくなってきている。
しかし、攻撃している風丸も苦しそうだ。
プレイヤーキャラでは到底なし得ない動きをしているのだ。
操作している本人にもかなりの負担があるのは明らかだった。
『勝負を決めるでござる!』
ギャン!とつばぜり合いの後に両者は離れた。
そして、お互いに間合いを詰め交差する。
両者動かず静かな時が流れた。
バシュっと風丸のスキルが霧散して元の姿に戻る。
「やっぱり強いよ、いろは」
そして、風丸はゆっくりと前に倒れた。
「何を言うでござるか…」
いろはも体から緑の気が消え、チャキ丸を地面に指して体を支えるように片膝を地面に付けた。
「今回は風丸の勝ち…でござるよ…次こそは」
そう言ってそのままいろはは気を失った。
ごろんと寝返りをうち仰向けになる風丸。
「うん、待ってる。
その時はもっともっと強くなって胸を張って、あなたの目標だよって言えるようになっておくね」
『勝負あり!
勝者 疾風の女侍 風丸』
静かな空間に野太い機械音声が流れた。
お待たせしました。
風丸のTM【ホロ剣客十番勝負】の更新情報です。
さて、今回は風丸が誰なのか?という事が分かる情報になっています。
ただ、本人よりきちんと明かすのはやめてほしいとの事なので、何となく分かる人には分かる状態になっています。
さて、6人目の相手も無事に倒し、【4枚の果たし状】を手にした風丸。
残りは4人。
果たして全ての相手を倒せるのだろうか?
詳細はまた分かり次第の更新ということで、お楽しみに。
加えてこれはフィクションである事をもう一度表示させていただきます。