目の前の敵は本当の意味で最恐だった。
風丸が【2枚の果たし】を使い来た場所は、空に満月が浮かぶ草原だった。
普段より大きく見えるその月の下に彼女は1人佇む。
「まさか、るしあ殿?」
緑髪の少女が振り返り微笑んだ。
「まさか、ここまで勝ち上がってくるプレイヤーさんがいるなんて、るしあ思っても見なかったです」
その愛くるしい笑顔と裏腹に、何故かるしあから圧を感じる風丸。
「それにその相手が風丸だなんて」
るしあはゆっくりと手を胸の前へと持ってくる。
その手には1本の出刃包丁が握られていた。
「!!」
風丸は驚く。
その手に持っていた物が噂で聞いた【死屍累々】だとしたら風丸が相手にするのは、オリジナル世代の1人星街すいせいよりある意味強い。
「勝利条件はるしあの本当の力から生き残る事。
風丸がそれは果たしてくれるのを、るしあは願っているのです」
そして、【死屍累々】から黒くどす黒い気がるしあに纏わりついた。
【死屍累々】
るしあだけが使える武器。
意思を持ったその武器は所有者の体を借りて、見た者を倒すまで追い続ける。
誰1人その解放した姿を見た人はいない。
るしあの頭のお団子がほどけ髪が広がる。
ゆっくりと開かれた目は真っ赤に染まっている。
「【古参の騎士】【解放】」
風丸は今までに感じた事のない圧にスキルを発動した。
そうしなければ一瞬でやられる気がしたのだ。
「み~つけた」
そうるしあが言ったような気がした。
突然、背後に膨れ上がる圧。
風丸は咄嗟に剣を抜き防御する。
ガキン
(なんとか防いだ)
背後に真っ黒なワープホールが開き、そこから上半身を現したるしあが【死屍累々】で攻撃してきた。
『最後の良心 潤羽るしあ
疾風の女侍 風丸
いざ尋常に勝負!』
(ぜんぜん尋常にではないでござるよ)
機械音声に心の中で愚痴る風丸。
先程攻撃してきたるしあはもう目の前にはいない。
(どこからくるでござるか?)
警戒しながら辺りをうかがう風丸。
(気配は完全にない。
それなのに辺りからすごい圧を感じる)
狙われている事は分かるがどこから来るか分からない。
風丸はそういう状況の中にいた。
(あれをやるしかないでござるか…
しかし、今の私に出来るのか…)
風丸は鞘に納めて仁王立ちになる。
そして、目を瞑った。
(昔、ある人と戦った時に使われた技。
時間があれば練習はしていた。
その後、本人にも会ってこの技を聞いたけど、その人は笑って「まだ、余はその領域ではない余」と言っていた)
「【奥義 光風霽月】」
ワープホールからるしあが現れ【死屍累々】を振るう。
しかし、風丸には当たらなかった。
確実に捉えたはずの一撃が外れる。
るしあの中の【死屍累々】の意識が混乱する。
そして、消えるるしあ。
次は風丸の頭上から。
るしあが普段抑え込んでいる圧で相手を包む事で、自分の居場所を探れなくするこの方法は破られた事がない。
真上からの出刃包丁が風丸の頭に刺さる。
はずだった。
しかし、風丸は紙一重で避けている。
(???)
完全に死角。
なのに攻撃が当たらない。
【死屍累々】は訳が分からなかった。
それから、幾度となく繰り返される攻撃。
しかし、風丸は目を瞑ったまま、その攻撃を全て避ける。
そして、風丸の目の前にるしあが姿を現した。
「まさか、あの子を諦めされるなんて」
風丸はゆっくりと目を開けてるしあを見た。
るしあが笑顔を向けている。
「まだ、完全ではござらんよ。
私がしたかったのは、避けた後に完全にカウンターを放つ事。
まだ、その領域には到底届いてないでござる」
ふぅと息を吐き風丸は言った。
「これで、終わりにするでござるか?」
ゆっくりと首を横に振るるしあ。
「まだ、これからだから」
【死屍累々】を構えたるしあから、またあのどす黒い気が纏わりつく。
「同じ手は効かないでござるよ。
私はその攻撃を避け続ける」
「うん、分かってる。
だから、次はるしあの番」
「!」
ギン!
るしあが一瞬で間合いを詰めて打ち込んでくる。
「意識が変わってない?」
「そう、【死屍累々】の力を今度はるしあが使う」
スゥーと空気を吸うるしあ。
そして、「わぁぁぁぁぁぁ-!」
るしあの口から衝撃波が放たれた。
「な!」
たまらず後ろに吹き飛ばされる風丸。
「【骸骨よ、踊れ!】」
るしあの言葉に地面からスケルトンが現れて、吹き飛んだ来た風丸を掴む。
両手を抑えられた風丸にるしあは出刃包丁を持って突進してきた。
(意識を落ち着かせ心を無にしなければ先程の技は出来ない)
「【覚醒】」
スキルを発動しスケルトンを力任せにるしあの方に投げる。
しかし、スケルトンはるしあに当たる前に灰となって霧散した。
「やぁぁー!」
出刃包丁を突き出するしあ。
それに合わせて風丸も天叢雲剣を突き出した。
先と先がカっと合わさり止まる。
数ミリの狂いがあればずれるはずが、風丸は完全に攻撃に合わせた。
「やるのですね」
微笑むるしあ。
「これくらいはしないとここまではこれなかったでござるよ」
お互いに間合いをとる。
「では、これはどうです?」
るしあはどこからか無数のナイフを取り出すと目の前へと放り投げる。
「【操縦眼】」
るしあの目が赤く光る。
乱雑に投げられたナイフの刃が全て風丸に向いた。
「いくのです!」
るしあの号令でナイフが無軌道に飛び風丸を襲う。
「それくらい!」
飛んでくるナイフを風丸は全て払う。
「まだ、なのです」
次に飛んでくるのは無数の岩。
風丸はアイテムボックスから【白狐の宝刀】を取り出し、二刀流で対処する。
そこに、ゴーっと風を切る音の中、巨大な拳が風丸を襲う。
「な!」
間一髪背後に跳ぶ風丸。
ドゴンっと巨大な骨の拳が地面を穿った。
「ジャイアントスケルトンです」
巨大なスケルトンの肩に乗ったるしあは嬉しそうに笑っている。
「全てを見せてくれるのでござるな」
何故か風丸も笑っていた。
「もちろんです。
るしあの全てを受け止めてもらうのです。
【竜牙兵よ、闇夜に踊れ!】」
今度はただのスケルトンではなく武装した赤黒いスケルトンが現れる。
「さぁ、るしあのお祭りに付き合ってもらうのです!」
そして、るしあの全ての力が風丸に襲いかかった。
「ふぅ」
「さすがです」
無傷のるしあと所々傷をおいながら立つ風丸。
風丸に残っているスキルは【解放】のみ。
【古参の騎士】も【オーバーブースト】を使った為力を失い。
【覚醒】の時間も終わっている。
「楽しかったのです」
るしあはそう言って【死屍累々】を虚空へと還した。
『勝負あり!
勝者 疾風の女侍 風丸』
「いいのでござるか?」
どう見ても風丸の負け、それなのにるしあは自ら敗けを宣言する。
ゆっくりと近づくるしあ。
アイテムボックスから何かの瓶を取り出すと、風丸にかけた。
「うわ」
驚く風丸だったが、風丸の傷がみるみる回復していった。
「メル先輩の回復薬です」
そして、風丸の隣に座るるしあ。
風丸も武器をしまいその場に座った。
「楽しかったです」
るしあはもう一度風丸を見て言った。
「最近はほとんど【大霊園】の奥のドームに引きこもって、みんなに会えてなかったのです。
ぺこら、フレア、ノエル、マリン。
皆は元気にしてるのでしょうか?」
少し寂しそうな顔で言うるしあ。
(そういえば、るしあ殿は【大霊園】でモンスターの魂を管理する役目を与えられているのでござったな)
最近、【ホロライブワールド】を始める人口が増えたお陰でモンスターも多く倒され、魂の管理もかなり大変だった。
そのお陰でオリジナルAIのるしあは他のホロメンAIと会えていない。
「なので、今日は風丸と会えてとても嬉しかったし、全ての力を出せて本当に楽しかったのです」
微笑むるしあ。
少し吹っ切れた顔をしている。
「それはよかったでござる」
風丸は本当にそう思った。
(いくら長年生きている設定のるしあ殿でも、このゲームにインストールされたのは、他の第三世代組のホロメン殿達と同じ。
他の方と違い自由に動けないゆえ、寂しかったのでござろうな)
「さてと、そろそろ帰るのです」
「戻るでござるか?」
もう少しそばにいたい気持ちの風丸。
しかし、るしあはそれを察して「ありがとうです」と言ってゆっくり歩いていく。
「今度はイベントではなく【大霊園】に会いに行くでござる」
「うん、待ってるですよ。
約束です」
るしあ振り返り微笑む。
「約束でござる」
風丸も微笑む。
いつの間にか風丸の手の中に【1枚の果たし状】があった。
風丸はその手を上げてるしあに手を振る。
るしあも少し手を上げ手を振った。
風丸は思う。
(必ずるしあ殿に会いに行こう。
私がこのイベント全てをクリアした報告をしに)
お待たせしました。
風丸の挑戦しているTMの最新情報です。
9人目は潤羽るしあちゃん。
第三世代組4人がいないと戻せないと言われる【死屍累々】状態を、その攻撃を避け続ける事で諦めさせるといった無茶苦茶な解除方法を取りました。
ちなみに風丸が百鬼流の奥義を使えたのは、【運命共同】のスキルである技を使った為、【百鬼流】を会得し、そこからあやめちゃんに会って修行しているからという事です。
あと、るしあちゃんが最後に「全ての力を出した」と言っていましたが、全力を出したという意味ではなく、持っている力を全部使えたという事です。
全力を出した場合、たぶん風丸は勝てなかったと思われます。
彼女はすいちゃんとほぼ同等の力を保持していると言われてますので…
それではまた、新たな情報が入りましたら更新します。
お楽しみに