(久しぶりだな、こうやって海に出るのも)
「おい、なにやってんだ?」
船の縁に座って海を眺めている俺にパーティーメンバーが声をかけてきた。
「ん?
海に出るのも久しぶりだなと思ってさ」
「まぁ、確かにな」
同じように座るパーティーメンバー
他にも釣りをしているやつや酒を飲んで騒いでいるやつもいる。
このゲームの初期の頃からパーティーを組んでいる気心の知れているやつらだ。
酒を飲んで騒いでいる俺達のリーダーが、突然「久しぶりに海に出るぞ~」とか言い出して、パーティー共通の財産からお金を出して、この船を借りた。
案外でかいのを借りたので、船の上で少し騒いでも揺れる事はない。
「しかし、いつ以来かな海に出たのは」
「昔は新しい島を見つけるんだってよく沖に出てたからなぁ」
酒を差し出してくるメンバー
「そうだよな。
でも、裏世界の実装なんかでそっちに行っちゃったから、最近はほとんど海に出てなかった」
俺は酒を受け取り飲む。
「だからだろ。
リーダーは恋しくなったんじゃないか?」
「海がか?」
「ああ。
それにこの前の大型アップデートで新しい島もできたみたいだしな」
「ああ、あれか【武闘都市バルト】」
「そうそう、リーダーが今度みんなで行くって張り切ってたぞ」
「そうか、それは楽しみだな」
俺は酒を飲みもう一度海を見る。
(今日は天気がよくて潮風も気持ちいい)
ふと、ある方向を見た時、違和感があった。
「おい、なんであそこだけ真っ黒な雲があるんだ?」
「え?」
俺が隣のメンバーに声をかけると、メンバーもそちらを見る。
「本当だ、なんだあれ?」
俺はアイテムボックスから双眼鏡を出して、そちらを見る。
(ん?
何かが追われてる?)
「リーダー
あの黒い雲の方いけるか!」
リーダーは俺の声を聞いてこちらに来る。
「どうしたぁ」
「う、酒臭いなぁ。
あれだよ、あれ」
俺は黒い雲の方を指差す。
少しずつだが、こちらに動いてきているように見える。
「おい、アレって」
リーダーがいきなりへべれけの顔から素面の顔に戻った。
「おい、やばいのが来てるぞ」
みんなこちらに来て黒い雲の方を見る。
「なんだ?」
「あ、もしかしてアレって」
あの黒い雲の正体を知ってるやつもいるみたいだ。
「なんなんだアレは」
「皇帝イカだよ」
リーダーは真剣な顔つきで言った。
皇帝イカは深海に住む凶悪なモンスター
普段は海面に現れないが、海面近くに来た時その上空に黒い雲が現れるらしい。
噂では凶悪なモンスターの警告として運営が分かりやすく目印を付けていると言われている。
「どうする逃げるか?」
船を運転していた仲間がリーダーを見る。
黙るリーダー
「何か追われてるのが見えたんだよな?」
リーダーの質問に頷く俺。
「なら、見捨てれねぇな」
リーダーの言葉にパーティー全員が笑う。
「あ~あ、また出たよ」
「本当にお人好しだよな。
うちのリーダーは」
そう言いながらもフル装備に着替えていく仲間達。
「無理に倒そうと思わず、その逃げてるやつを助けたら撤退だ」
『おー!』
パーティーメンバーは威勢よく武器を掲げた。
「ありがとうな、リーダー」
俺はリーダーに礼を言う。
「困っているやつを助けるのが俺達パーティーの掟だろ」
「ああ」
(そういうところが好きで俺はこのパーティーに入っている)
「じゃ、行くぞ野郎共!」
『おー!』
そして、船は皇帝イカのいる方へと向かった。
俺は船の先頭に立ち、双眼鏡を覗く。
(あれは?
魚?
いや、シャチか?
それも赤ちゃんだな)
必死で泳ぐ赤ちゃんシャチが見える。
その後ろから無数の足がシャチを狙うように追いかけていた。
「リーダー
シャチの赤ちゃんが狙われてる」
「なんだと!
赤ちゃんを狙うなんて許さん。
急いでそのシャチと皇帝イカの間に入るぞ。
飛ばせ!」
船はシャチと皇帝イカの側面に回り込む。
そして、今にもシャチに体当たりをかました。
グギャァ~
気味の悪い叫び声と共に現れる巨大なイカ。
「こいつはでけえな」
リーダーや他のメンバーも皇帝イカに攻撃を開始している。
魔法や技を放つが皇帝イカに確実なダメージは通っていない。
俺はふとシャチを見る。
どういう事か逃げるのを止めて近くでこちらを見ていた。
(何やってるんだ、あのシャチ)
そんなシャチに向かって海の中を皇帝イカの触手が向かう。
「逃げろ!」
俺はシャチの方に向かってジャンプした。
「おい!」
慌てるリーダー
しかし、俺にはこの魔法がある。
「フライ!」
俺は空飛ぶ魔法を発動。
そのまま、シャチを襲おうとする触手に突撃した。
触手に剣を突き立てる。
「逃げろ!」
俺は触手に巻き付かれながらシャチに叫んだ。
シャチはその言葉が分かったのか、すぐにどこかに逃げ出した。
(よかった)
触手が絡み付いて逃げれそうにない。
「すまない、リーダー
俺の事はいい、逃げてくれ!」
「お前!」
リーダーが悔しそうな顔をしているのが見えた。
(ここでリスポーンになるが、仕方ない)
俺は仲間達に笑顔を向け皇帝イカに海の中へと引きずりこまれた。
「あ~あ」
俺は第3の町にリスポーンして戻ってきた。
(ペナルティは無効化するコインがあったから、アイテムはなくなったが、やっぱりリスポーンは辛い)
「よ、無事とは言えないが戻ったか」
「みんな」
俺の目の前にはパーティーメンバーが待っていた。
「あれからどうなった?」
「あの後、アイテムボックスにあった爆弾をしこたま船に乗せて皇帝イカに突撃させたよ。
その隙に俺達は思ひ出の石で逃げた」
「はは、そっか、無事でよかった」
「無事なものか、俺達船の弁償代稼がないといけなくなったぞ」
メンバーの1人が笑いながら言う。
「確かにそうだな。
だけどよ。
そのお陰で赤ちゃんシャチが守れたんだ。
安いもんだ」
別に助けなくても俺達には何もマイナスはない。
でも、困ったものがいたらそれが何であれ手をさしのべる。
本当にこのパーティーに入ってよかった。
「よし、飲みなおすぞ」
『おー!』
リーダーの言葉にみんな明るく返事をした。
「う、気持ち悪」
飲み過ぎたようで、俺は1人宿屋に向かっていた。
飲み会も終わり、明後日から金策をする話をした後、解散になった。
「ねぇ、大丈夫?
お兄さん」
「え?」
千鳥足で歩いていた俺に、街灯の下から声をかけられた。
そちらを見ると黒いパーカーを着た人が立っている。
(誰だ?)
俺はその人物へと近づいた。
少し大きめのパーカーでフードを深く被っていて顔までは分からない。
しかし、前を閉じてないのでその豊満な肉体はよく見えた。
(うわ、凄い短いショートパンツ。
それにだぼっとしたTシャツなのに胸すご)
「な、お兄さんエッチだねぇ」
パーカーのポケットに両手を入れていた女性は、パーカーの前を閉じる。
「え?いや、ほらね」
俺は慌てて言葉を濁し目を反らす。
「ま、いいけど」
女性は笑いながらまた、閉じていた前を開けた。
「それでさ。
今暇?」
相変わらず顔は見えないが、女性の可愛い声から俺はその女性に興味が出ていた。
(こ、これって逆ナンされてるのか?
俺)
「ま、まぁ、今から部屋に戻るだけだから。
暇と言えば暇かな」
少し照れながら俺は答える。
「じゃぁさ、ちょっと付き合ってよ」
「え?」
ガシッと手を掴まれて俺は女性引っ張られる。
「どこに行くんだよ?」
「いいからいいから」
そう言って女性はぐいぐい俺を引っ張る。
思っていた以上の力の強さにビックリしながら、俺は仕方なく女性の後についていった。
俺達は町を出て海の方に向かった。
(町から離れたけど俺大丈夫か?)
酒もだいぶ抜けてきて頭がクリアになってきた俺は、手をひく女性を見た。
(小柄な女性だけど、そう言えばさっき聞いた声。
どこかで聞いた事あるような)
「着いたよ」
女性はそう言って止まる。
そこは砂浜海岸だった。
「こんなとこで何が」
「お礼を言いたくてね」
女性はくるりと振り向いた。
「私の眷属を助けてくれて」
そう言ってフードを脱ぐ。
「な、あんた、いや、あなたはクロヱちゃん?」
「ばっくばっくばく~ん、初めまして沙花叉クロエで~す」
そう言ったクロヱちゃんの後ろの海に1匹の赤ちゃんシャチが顔を出す。
「あ、あの時の」
「そう、あの子を救ってくれたみたいだから」
クロヱちゃんはそう言った後、シャチに手を振る。
シャチは高くジャンプした後、また海へと潜っていった。
「でも、俺だけが救った訳じゃない」
「確かにね。
でも、あなたがあの子を見つけて、体をはって助けてくれたのは確かだと思うけど?」
そう言って前屈みになってこちらを覗き込むクロヱちゃん。
自然に目がいってしまう。
(だぼっとしたTシャツの胸元から見えそうで見えない。
これが全年齢対象ゲームの限界か)
「変な事考えてるでしょ?
食べちゃうよ?」
「ははは」
俺は笑って誤魔化すしかなかった。
「で、お礼なんだけど」
「え?」
砂浜に並んで座っていたクロヱちゃんが、こっちを見ながら言う。
「明日、1日付き合ってもらうってのはどう?」
「へ?」
(それってデート?)
「ん?何にか用事ある?」
「べ、別に用事はない、かな?」
「何で疑問系なの?
変なの。
じゃ、決まりね。
明日の朝8時に町の噴水前で」
そう言って立ち上がるクロヱちゃん。
「え、ちょっと」
「じゃ、明日楽しみにしてるねぇ」
そう言ってクロヱちゃんは颯爽と夜の闇へと消えていった。
1人浜辺に取り残される俺。
(夢か?)
そう思ってほっぺたをつねったが、あまり痛くはなかった。
(ま、ゲームだしな)
俺はゆっくりと立ち上がって、自分の家へと向かいログアウトした。
次の日、ログアウトした俺は少し早めに噴水の前に来ていた。
(ま、昨日のが幻でも万が一って事もあるしな。
でも、あのホロメンのクロヱちゃんとデートできるなんてマジなのか?)
持ってる服で一番いいと思うやつを着た俺は、時間を今か今かと待つ。
そして、8時が過ぎた。
(あ、やっぱり幻だったか)
俺は力が抜けたように噴水の縁へと座った。
「ま、普通ないよな」
「ん、何が?」
「いや、クロヱちゃんとデートなんてって」
俺は隣を見る。
「ごめん、寝坊しちゃった」
そう笑いながら昨日と同じ格好のクロヱちゃんがいた。
「ほ、本当だったんだ」
「え?
夢かと思ってた?」
クロヱちゃんと一緒に歩きながら、呟く俺を見て笑うクロヱちゃん。
「いや、まじでホロメンと出かけるなんてありえるのかと思ってさ」
「案外、あるみたいだよ。
そういうイベント」
「え?そうなの?」
クロヱちゃんからの意外な情報に驚く。
「なんか恋愛ゲームみたいだ」
「それって沙花叉達が攻略される感じ?」
「そうなるかな」
「あ、じゃぁ、沙花叉攻略しても面白くないかも」
「え?なんで?」
「いや、だって沙花叉。
夏のイベントはまぁ、水着は着てあげるけど。
冬に温泉とか誘われても絶対に行かないよ」
「あ」
(確かお風呂嫌いだったっけ?)
「そういうわけだから、沙花叉は健全な恋愛ゲームに出れるね」
「いや、そうなの?」
チラリとクロヱちゃんを見る。
(どう見ても全年齢の体型ではないような)
「そ、そう言えば、風呂は入らないなら汗かいた時とかどうしてるの?」
疑問を聞いてみた。
「ま、リアルの方は分からないけど、ここでは川や海に飛び込んで汗流してる」
そう言っておもむろにTシャツを捲るクロヱちゃん。
「な、何やって」
「別に見られてもいいよ、水着だし」
「え?」
(つうか、黒のビキニってヤバイって)
「わ、分かったから隠して」
「ふぅん、案外うぶなんだ」
こちらを見ながらニヤニヤするクロヱちゃんに、俺は「うるせぇ」と呟いた。
それから、俺はクロヱちゃんとお店を見て回ったり、最近港の近くに出来た水族館を見て回った。
ホロメンと食べ歩きしながら歩く町は普段とぜんぜん違った。
そして、あっと言うまに夕方。
そろそろお別れの時間だ。
「楽しかった」
噴水の前で先を歩いていたクロヱちゃんが振り返る。
「こっちこそ、最高のお礼だった」
素直にそう思う。
所々、チラリズムポイントがあって、惑わされては笑いながら突っ込みを入れられたけど…
「ありがとう、クロヱちゃん」
俺の言葉に微笑むクロヱちゃん。
「それじゃ、また会う時もあると思うから。
というか、会いに来てよ。
【魔王城】なら確定で会えるから」
「はは、その時は敵同士じゃないか」
「確かにね」
お互いに笑う。
「じゃ、行くね」
そう言ってクロヱちゃんは手を振りながら日の落ちていく方に走っていった。
「また」
俺もその後ろ姿を見て手を振り見送る。
そして、見えなくなるクロヱちゃん。
俺はステータス画面の推し一覧を開いた。
その一番下に第六世代の列がある。
俺は淡く光るクロヱちゃんのアイコンを押した。
『沙花叉クロヱを推しますか?』と説明文が出た。
俺は迷わずYESを推した。
お待たせしました。
今回は沙花叉クロヱちゃんのイベントとなります。
普段はゲームではアサシンとして行動している彼女ですが、こういったイベントもあるみたいです。
クロヱちゃんが言っていたように他のホロメンにもどうやらこのようなお出かけイベントがあるようなので、探してみるのもいいかもしれません。
ただし、あまり色んなホロメンに行ってると全部覚えられてるので注意はしてくださいね…
さて、前回のアンケートですが、そろそろ終了して結果を情報提供者の方にお伝えしようと思います。
ですので、次回はその続きになると思います。
そして、ついでに教えてもらっているレシピを元に実際に作って実食する予定です。
それではまた、情報が入り次第更新します。
※選ばれるレシピによって代用品を使って調理する予定となっておりますのでご容赦ください、特にはあとちゃんルート。