お昼過ぎにパン屋のカウンターでつっぷしているころねを見かけ声をかける。
(今日こそ一番乗りしてやる)
俺は【学園】から急いで【ころねのパン屋】に向かう。
ここ1ヶ月、俺はころねちゃんが店番しているパン屋で昼飯のパンを買っている。
昼から開くその店は、プレイヤーに大人気で通いはじめて1度も一番乗りをした事がない。
(絶対に今日は、ころねちゃんの笑顔を一番にもらうんだ)
俺はそう息巻いて走った。
「うわぁ!」
「ひぇ~」
曲がり角を曲がる時に危うくおばあさんにぶつかりそうになった。
とすん。
尻餅をつくおばあさん。
「す、すいません大丈夫ですか?」
俺は急いで手を差し出す。
「ええ、ええ、すいません。
ありがとうございます」
おばあさんは、俺の手をとり立ち上がった。
見るとおばあさんの後ろには大きな荷物が2つ。
立ち上がったおばあさんは、重たそうにその荷物を担ごうとする。
(たぶん、手伝ったらパン買い損ねるかもな)
俺はそう思った。
「おばあさん手伝いますよ」
「ほえ?」
俺はそう言って荷物を2つ持つ。
(うお、かなり重いわ)
「でも、何か急いでいたんじゃないですか?」
「いえ、大丈夫です。
さ、行きましょう」
(今回も一番に笑顔を見れなかったけど、チャンスはまだあるしな)
俺はそう思いながら、おばあさんの後についていった。
「ここで大丈夫ですよ。
ありがとうございました」
おばあさんは古い一軒家の前で止まる。
「いえいえ、こっちこそぶつかりそうになってすいませんでした」
俺は荷物を下ろして頭を下げた。
「もしよかったらこれを食べてください」
おばあさんは袋の中から木箱を取り出し、俺に渡してくる。
「え、でも」
「お礼ですから」
そう笑顔で言われて、俺はありがたくその木箱を貰う事にした。
「何かあったらまた訪ねてきてください」
おばあさんはそうやって手を振って見送ってくれた。
「はい、ありがとうございます」
俺は手を振りながら、ころねちゃんのパン屋に向かう。
(何かのイベントだったのかな?)
俺はそんな事を考えながら走った。
「あちゃ、終わってる」
ころねちゃんのパン屋に着いた俺は入り口に引っかけられたcloseの掛札を見た。
(1ヶ月頑張って通ったんだけどな)
俺は苦笑いしながら、お店から離れようとした。
ふと帰る前に店を覗く。
「え!」
誰かがカウンターで倒れているように見えた。
「ど、どうして?」
俺は急いで店のドアを引く。
カラン。
ドアの開く音がした。
俺は躊躇なく店に入った。
「大丈夫ですか!」
俺は急いでカウンターに向かう。
「え?
あ」
そう言ってカウンターの人物が顔を上げた。
「ころねちゃん?」
「ん?
あ、◯◯◯くんじゃん」
(あ、名前覚えてくれてたんだ。
1度だけ、初めてパンを買った時に言っただけなのに)
「どうしたんですか?
倒れてるからびっくりして」
「あ、ごめんごめん。
別に倒れてたわけじゃなかったんだけどね」
ころねちゃんはそう言って頭をかきながら笑った。
「そうですか、それならよかった」
「ありがとうね、心配してくれて。
せっかく来てくれたんだし、座って」
「はい」
俺はカウンターにつく。
「コーヒー飲める?」
「あ、はい、大丈夫です」
「は~い」
(人がいないと静かだなぁ)
俺はパン屋の中を見回した。
パンは全部売り切れていた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「熱いからね」
そう言ってカウンターにカップを置いてくれた。
「それで、何かあったんですか?
もし力になれるようなら力になります」
俺はふーふーしながらコーヒーを一口飲んで聞いてみた。
(話せない事かもしれないけど、推しの力になりたい)
「ん~
そうだなぁ、実はあれなんだけど」
ころねちゃんが壁を指差す。
見るとそこにはカレンダーが。
「明後日なんだよね」
ポツリと呟く。
(明後日?)
カレンダーは10月。
明後日は31日。
という事はハロウィンか。
「うちでもハロウィン用のお菓子パンを作りたいんだけど、いい案が浮かばなくて」
(あ、それで考えてつっぷしてたんだ)
「お菓子パンっていろいろあるし、ハロウィン仕様の特別な形のパンもあるんだけど、新作が出したくって」
「新作かぁ」
ぐぅ~
「あ」
「お腹空いてるの?」
「はは、お昼ご飯食べ損ねてしまって」
「何か取ってこようか?」
そう言ってころねちゃんが立ち上がる。
(そう言えば)
「いえ、大丈夫です」
俺はそうころねちゃんに伝えて、アイテムボックスから木箱を取り出した。
「なに?」
興味津々にその木箱を見るころねちゃん。
「さっき、もらったんです。
食べてくださいって」
俺は木箱の蓋を開ける。
「あ」
「お餅」
木箱には2つの真っ白いお餅が入っていた。
「美味しそう」
ころねちゃんの素直な感想に俺も頷く。
「一緒に食べますか?」
「いいの?」
「はい、2人で食べた方が絶対美味しいですから」
俺はお餅を1つころねちゃんに渡した。
「いただきま~す」
「いただきます」
パク。
「美味しい。
それに凄く柔らかい、このお餅」
「はい、それに中に餡が入ってますね」
俺は餅の中を見る。
色はオレンジ色。
「これって…」
どこかで食べた事ある。
「カボチャだ、カボチャ餡だよ」
「ああ、カボチャかぁ。
ん?カボチャ?」
カボチャって…
「カボチャ餡に柔らかいお餅…」
ころねちゃんが何かを考える。
お餅をモグモグしながら。
「ん!
閃いた!」
キュピンっと一瞬、ころねちゃんの頭の上で豆電球が光ったように見えた。
(なんかそういうゲームあったなぁ)
「これ作った人に会えない?」
ころねちゃんは何か楽しそうな顔をして聞いてくる。
「あ、会えます。
家教えてもらったので」
「じゃ、早速行こう!」
「え?
あ、はい」
俺は残りのお餅を食べた後、ころねちゃんをあのおばあさんの家に案内した。
突然の訪問にも関わらずおばあさんは、快く俺達を迎えてくれた。
それから、ころねちゃんは何かおばあさんに話していたようだった。
「明日また、今日と同じ時間にお店に来て」
そうころねちゃんに言われて、俺はおばあさんの家でころねちゃんと別れた。
(何かいい案が浮かんだんだろうか?)
俺はこの縁がいい方に向くように祈りながら、寮へと帰った。
次の日。
お昼過ぎに俺は約束どおり、【ころねのパン屋】に来た。
入り口には準備中の掛札がかかっている。
中を見るとカウンターに座っているころねちゃんと目があった。
(手招きしてる)
俺は店のドアを開ける。
カラン
「いらっしゃい、待ってたよ」
ころねちゃんが笑顔で出迎えてくれた。
「さ、座って座って」
俺はカウンターにつく。
「今日来てもらったのはこれを食べてほしくって」
奥から何かを持ってきたころねちゃんが、それをカウンターに置いた。
「ジャックオーランタン?」
カウンターに置かれたのは、ハロウィンでよく見る飾り。
「の形のパンだよ」
(あ、確かに)
手に取るとパンの柔らかさがある。
手のひらサイズで案外可愛いなぁ。
「食べてみて」
「はい、いただきます」
パク。
「ん?
カボチャ餡。
それにお餅?」
「そう、カボチャ餡の中にお餅を入れてみた」
「あ、なんか面白い食感です。
それに美味しい」
「そっか、よかった」
俺の言葉に満面の笑顔を浮かべるころねちゃん。
「間に合いましたね」
俺はカレンダーを見て言った。
「うん、◯◯◯くんのおかげだよ」
ころねちゃんもカレンダーを見ながら言った。
明日はハロウィン。
おばあさんとぶつかりそうになって色々あったけど、ころねちゃんの最高の笑顔を見る事ができた。
その思い出のジャックオーランタンのパンが明日、たくさん売れるといいな。
お久しぶりの更新になります。
今回は少し時期が遅れてしまってますが、ゲーム内ですのでハロウィンはまだ大丈夫のはずです、たぶん。
さて、今回のパンはこういった形になっておりますが、他にも別のパンの道がいろいろとあるみたいです。
もし、別のパンになった方がいらっしゃいましたら、その条件を教えていただけると助かります。
それではまた、新たな情報が入りましたら更新します。