情報屋から『ファンタジーの花談』を聞いた事がある。
夜空メルのイベント【いつもの君へ】をクリアしている。
その日、私は【ファンタジー】の第3の町からある場所に向かって歩いていました。
目的の場所は【大霊園】に行く途中にある森の中。
その決して大きくない森の中にぽかんと空間があり、そこには、ある花がたくさん生えています。
私はその花を見る為とある目的の為に、そこに向かっているのです。
花の名前は月下美人。
リアル世界にある月下美人とは違う花で、満月の夜、それも4月の満月にしか咲かない花です。
花の形はリアルの花によく似ていますが、ピンクの花が咲きます。
私がその月下美人が咲く場所を耳にしたのは、ある居酒屋でご飯を食べている時でした。
近くのプレイヤー達が話していた『ファタジーの花談』の噂。
「ある満月の夜にだけ咲く月下美人の花園の真ん中に、1人の騎士が誰かを待っている」と言った話でした。
私はその噂の元を探して、たくさんの町を回りました。
そして、この第3の町の情報屋から、その話を聞きました。
噂の話には続きがあり、待っている騎士は自らと戦うに値する相手を待っているとの事でした。
私はぐっと手に持つ武器を握りました。
(たぶん、予想通りならそこに待つのはあの人のはず)
私は例の森の中に入っていきました。
しばらく歩くと目の前が開けました。
「すごい…」
目の前に広がる月下美人の花園。
ピンクの花が月を見上げるように咲いて揺れていました。
その花園の真ん中に確かに誰かが立っていました。
ちょうど月が雲に隠れて、誰なのかはっきりと分かりません。
私はゆっくりと花園の中に入りました。
雲から満月が姿を現して、花園の人物を照らします。
淡い月の光に浮かんだのは、まさしく。
「姫…」
私の言葉にその人はゆっくりと振り向きました。
私の顔を見て、その人物は少し驚きながら微笑みます。
「まさか、筆頭騎士団のルーナイト◯◯◯がくるとはね」
優しく微笑みながら完全にこちらに向いた姫はいつもと違って見えました。
「姫ですよね?」
私は確かめるように聞きます。
「え?」
姫は自分の体を見ました。
「あ、そういう事。
これはある人からもらった薬を飲んだから」
いつもの姫の口癖もなくなった姫はくすくすと笑っています。
「もらった薬をですか?」
「そう、【可能性の薬】」
「あ」
私はその薬の名前を聞いた事がありました。
確か以前、メルちゃんのイベントを手伝った時に聞いた薬です。
その薬の能力は、使用者の未来の姿に一定時間変えると言っていました。
「いつもならここに来て、月下美人の中で満月を眺めながら、お酒を飲むのだけど、今日はお酒を持ってくるのを忘れて。
それでその薬を飲んじゃった」
「いや、お酒の変わりに薬なんて飲まないでください」
私は少し呆れて姫に言いました。
「はは、ごめん」
少し大人びたその姫騎士は、私に謝りながら手に持つ剣をこちらに向けます。
「せっかく薬使ったんだし、手合わせしない?」
「姫と戦う機会をいただけるんですね」
私はゆっくりと剣を抜きました。
「やっぱりその剣を使ってるんだね」
姫は私の剣を見て微笑みました。
「もちろんです。
姫直々にいただいた物ですから」
わたしが持つ剣、【ルーナの剣】が月光に輝いています。
筆頭騎士団の中でも、数人にしかいただけない姫が持つ剣。
私はある功績により、これをいただいた。
月下美人の花園の中、私は姫と対峙します。
ホロメンと一対一で、それも姫と戦う事が出来るなんてまずありえません。
あやめちゃんとは戦える場所があると聞いた事はありますが、姫とそれも未来の姿と戦えるなんて光栄です。
私は普段の冒険用の装備から、ルーナイトの専用装備へと切り替えました。
この装備は、姫の為に戦う時のみに装備する事を許される決戦用装備。
普段これを装備しようとしても出来ませんが、これを装備出来たという事は、姫も私の全力を望んでいる。
「いきます」
姫は頷く。
私は全力で姫へと踏み込んだ。
そして、その勢いのまま姫へと突きを放つ。
ガ!
しかし、その突きを姫は体を半身にして剣の腹で受けた。
姫は姫士王の姿ではなく軽装だ。
間違いなく私の剣が当たればダメージを与えられる。
しかし、私の渾身の一撃はいとも簡単に受けられる。
すぐに私は開いた足を閉じて、姫を連続で斬りつけた。
ギン、ギャン、キン
と甲高い音が響きながらその攻撃全てを受ける姫。
顔色1つ変えない。
微笑んだまま、姫は私を見ている。
タンっと私は背後に飛ぶ。
もちろん剣は姫に向けたまま。
「真・断頭斬」
私は着地と同時に剣を振り上げ、姫に向かって剣を振り下ろす。
光の斬撃が姫に向かって飛ぶ。
上級職、ナイトの高レベル帯で習得できる技の1つ。
(星持ちのモンスターにもダメージを与えられる技ですが…)
姫が剣を振りかぶる。
そして、斬撃が目の前に迫ったその時、斬撃に重なるように剣を振り下ろした。
(なんて技術…)
光の斬撃を縦2つに切り裂いた姫。
(普通は出来ない)
私はそう考えながら、相手はあの姫なんだと今一度心構えをする。
(生半可な攻撃では届かない)
私は今一度、「真・断頭斬」を放つ。
しかし、先程と違うのは私はその斬撃に追走した。
姫は剣を構えたまま、私を見ている。
私は斬撃に追い付き、並走した。
そして、その斬撃を横から追撃する。
「騎士王一閃」
ナイトで覚えられる最強技の1つ。
十字になった斬撃が姫に向かう。
姫がその斬撃を受けるように剣を構えた。
(やはり、真っ向から受けてくれるんですね)
私はそう確信して剣を地面に突き刺した。
地面に突き刺さった剣は目の前に進む斬撃と重なるように十字となる。
姫が目を見開いた。
(お察しの通りです、姫)
「グランドクロス!」
自分のMPを十字の物を通して放つナイト最強の技。
突き刺した剣の十字と先を行く十字の斬撃を通して、私の放ったグランドクロスは普段以上の威力となった。
十字の光が姫を飲み込み、月下美人の花弁が月夜に舞う。
「うん、合格点」
月下美人の花弁が舞う中、我らの姫は銀色の鎧とピンクのマントをなびかせていた。
「【姫士王】モード」
第四世代組が持つ専用スキル【変身】
姫はそのスキルを使って【姫士王】に変わる。
普段より少し大人びた姫の凛々しいその姿に、私は魅了された。
「それじゃ、今度はこっちから」
その言葉と同時に姫の姿が一瞬で視界から消える。
ぞくっと背筋が凍りつく感じがした。
私はすぐに頭を守るように剣を持ち上げる。
ガキン!
甲高い音と共に足が地面にめり込むような、重い一撃に襲われる。
「へぇ~」
いつの間にか姫は、私の目の前にいて、私はなんとか姫の一撃を受けていた。
「やるね」
姫は怪しく微笑む。
(危なかった。
通常スキルで【危険感知】を覚えていて良かった)
背中に走った悪寒は、敵の攻撃を予兆するもの。
そして、さっき頭にズキッと痛みが走ったのはそこが攻撃されると感知したから。
(しかし、姫の攻撃速度に私はついていけるのか?)
「いけそう?」
そんな私の考えを見抜くように、姫のラッシュが始まった。
1本しかない姫の剣が無数に増えて、こちらに襲ってくるかのように感じる。
背中は悪寒がしっぱなし、私はなんとか急所の部分だけを剣で防いでいた。
決戦用ルーナイト装備のお陰か、急所以外の場所への攻撃ダメージはまだ耐えられる範囲だ。
ガキン!
私は姫とつばぜり合った。
「なかなかやる」
そんな姫の称賛に、私は笑顔で返すのみ。
正直、姫の攻撃についていくだけで息があがっている。
ふと、姫の剣を見た。
宝石の付いていない私が持つ剣と同じ物。
(ルナカリバーじゃない?)
姫は自らの主力武器を使っていなかった。
(はは、手加減されているか)
私は全力で姫を押した。
その反動を使い、姫は大きく後ろに跳んだ。
「姫!
決着です」
私はアイテムボックスからハイMPポーションを取り出して飲み、姫に向かって大きく剣を振りかぶる。
右足を前に出して、少し腰を落とした。
姫と共に戦う時に、幾度となく見たあの技。
私は密かにあの技を使えないか研究し実践してきた。
姫はそれに気づいたのか、ゆっくりと頷き私と同じ構えをする。
「まだ、未完成なれど、これが私のエクススラッシュ!」
剣に魔力を通す。
武器は同じ、姫がしている事も理解している。
前に質問して答えももらった。
私の全魔力が剣に集まり、剣から魔力が溢れ出して光の剣となった。
私はそのまま勢いよく剣を振り下ろす。
光の剣は、光の筋となって姫に向かっていった。
「まさしく、エクススラッシュ!
頑張ったのらね」
最後、姫はそう言って笑ったように見えた。
姫が振りかぶる剣から凄まじい光が溢れ出す。
それは天を貫き、あの満月さえも落としそうだった。
「お見事」
私はその圧倒的な出力に感動すら覚える。
「エクススラッシュ!!」
姫の最高の技が私に向かって振り下ろされる。
凄まじい光の奔流が私を襲う。
(悔いなし)
私はそう思いながら目を閉じた。
「は!」
私は勢いよく起き上がりました。
辺りを見るとまだ月下美人が咲いています。
(あれ程の戦いをしたというのに、花がまだ咲いているなんて)
「起きたのらね」
私は声がする方を見ると、そこにはいつもの可愛らしい姿の姫が微笑んでいました。
「ま、ゲームだからあんな戦いしても花はなくならないのらよね」
姫も同じ事を考えていたのか花園を見ています。
「気分は少し晴れたでしょうか?」
私は立ち上がり姫を見ました。
「やっぱり、気にしててくれたのらね」
姫はそう言って罰悪そうに微笑みました。
私が姫の屋敷の護衛をしている時、ちょうど姫が「刺激がなくて退屈なのら~」と言っているのを聞いてしまったのです。
その時、姫は慌てて「今のなしなし」と笑っていましたが、やはり退屈はされていたのでしょう。
たから、私は情報屋からこの話を聞いた時、姫が退屈しのぎの相手を探しているのではないかと感じたのです。
「ありがとう。
まさか、エクススラッシュまで見せてもらえるなんて思ってもみなかったのら」
「いえ、まだまだ未熟な一撃です」
「誰しもはじめはそうなのらよ」
そう言う姫の笑顔はすごく優しかった。
「もう少し付き合える?」
姫はそう言うと花園に座り込みました。
「はい、姫の時間が許す限り」
私はルーナイトの兜を取って姫の少し後ろに立ちます。
「綺麗だね」
月下美人の花畑に黄色い満月。
「はい、とても」
私は心からそう姫の言葉に賛同したのでした。
こんにちは、今回のイベント紹介はルーナちゃんのイベントとなります。
実はこのイベント、私が調べたところ、ルーナちゃんと戦わずに一緒に月見するだけのバージョンがあるみたいです。
その条件は、メルちゃんのイベントをクリアしていない事と、お菓子を持参する事。
そうすると、【可能性の薬】を使ったルーナちゃんとは会えず、戦闘にならないようです。
ただ、【可能性の薬】を使ったルーナちゃん未来の姿を見たい方は、ぜひメルちゃんのイベントをクリアしてから挑戦してください。
大人びたルーナちゃんはまさしく大人の女性でしたので、一目見る価値ありです。
ちなみに情報提供者の方は、ルーナちゃんの愚痴を聞いていてこういう結果になりましたが、愚痴を聞いていなくてもイベントは発生するようなのでご心配なく。
例えルーナイトでなくてもイベント条件さえ満たせば、イベントは発生します。
ただ、勝てるかどうかは分かりませんが…
では、また情報を整理出来次第更新となりますので、よろしくお願いします。