仏頂面の社員   作:主義

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後輩

 

「それじゃあ…今回はお前に新人教育を頼む」

 

―――――――――

 

オレに新人教育が向いていないのは顔を見れば分かるだろうに。新入社員ってのは大概、不安を抱えているものだ。自分がこれからこの会社でやっていけるのかや人間関係とか心配する材料なんて腐るほどある。それなのにオレなんかが教育係になったら確実に…数日も持たずに仕事を辞める羽目になるのは分かるだろう。

 

だが、上司からの命令には従わない訳にはいかない。

 

 

「は、はるさきのどかです!!!よろしくお願いします!」

 

 

「ああ、よろしく」

 

今時の子って感じの子か。こういうタイプならえーちゃんにでも任せた方が一番良かったんじゃないか。せめて、男であれば百歩譲って分からないでもなかったが、これなら本当にオレに任せた上司の判断ミスとか言いようがないな。

 

「まずは…挨拶周りに行くか」

 

 

「は、はい!!」

 

 

「そんなに緊張しなくて大丈夫だ。肩の力を抜いていい」

 

 

「は、はい!」

 

まあ、そう簡単に緊張は抜けないか。オレとかはいつも来ているからこのオフィスとかで緊張するなんてことはないが、初めて来てこれからここで上手くやっていけるか不安な子にとっては緊張するだろうしな。

 

 

 

そしてそれから色々な部署に挨拶しにいった。どうやらオレが新入社員の教育係になったことが面白かったのか、ちょっと笑われた。少し不快だが…新入社員の春先さんはそれなりに上手く挨拶出来ていたので結果的に良かったことにするか。

 

「それじゃあ、ちょっとこれからのことについて話すか」

 

 

「あ、はい!よろしくお願いします!」

 

本当に堅い。これはしばらくの間はこの状態が続きそうだ。それからオレはこれからのスケジュールや部署のことなど色々と説明した。春先さんはしっかりとメモをしていて…よくオレの話を聞いてくれていた。これぐらい真面目な子なら…これからも大丈夫そうだ。

 

そしてある程度、説明終えた後に腕時計を見るともう昼休みに入る時間になっていた。

 

 

「それじゃあ、そろそろ時間的にもいいし、一度休みにするか」

 

 

「はい!ご説明頂いてありがとうございます!」

 

 

「あ、ああ…1時30分になるまでは自由時間で構わない。1時30分になったらまたこの場所に来てくれれば」

 

 

「はい!わかりました!」

 

オレは逃げるように屋上に向かった。

 

 

 

 

 

 

「やつぱり…オレに新人教育は向かないんだよなぁ」

 

もっと他の適任にがいたろうに。いつものようにタバコを取り出してライターで火をつけようとした時に…手が止まった。

 

 

「さすがに…新人にタバコの匂いをさせて接する訳にもいかないな」

 

別に新人はタバコの匂いがしていたとしても我慢して説明を聞いてくれると思うが、さすがに気分が良いものではないだろう。オレが新人でそんなことされたら『このおっさん、タバコくさい』と思うだろうし。

 

オレはタバコを箱に戻して…空を見上げていると端末が震え出した。確認するとそこにはえーちゃんから『今日の新入社員歓迎会のこと忘れないでくださいね』と連絡が来ていた。

 

「あ、そうか。そんなこと言ってたな」

 

まだ新人に説明していないな。午後にでも言っておくか。

 

 

 

 

 

そんなことを考えながら空を見上げているとあることに思いだした。端末で自社のホームページに入って、あるボイスを見て…ため息を吐く。

 

「はぁ…なんでこんなことになったのか。それに驚いたことにこんな男のボイスにお金を払うような人間がいるとはな」

 

同僚から聞いた話だとそれなりに売上を上げているらしい。それに風邪の便りではタレントの中にオレのボイスを買った奴がいたらしい。どうせ…聞いてオレをからかおうとでも思っているんだろう。本当に黒歴史だ。これが後世に残っていくと思うだけで…最悪だ。

 

 

 

 

―――――――――――

 

その後も色々と考えていると…屋上の扉が開く音が聞こえてきた。振り返るとそこには春先さんが息を荒くしていた。どうやら急いで階段を駆け上がってきたのだろう。

 

「あ、あの……」

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

「…もう時間が」

 

そう言われて腕時計を確認するともう1時30分を過ぎていた。

 

 

「あ、わるい」

 

 

「大丈夫です!」

 

そして急いでオレは屋上から戻って後輩に続きの説明をした。まあ、今日は初出勤の日だし、あんまり多くの事を説明したとしても全て頭に入る事でもないだろうし。

 

一応、一通り説明し終えたところでオレはえーちゃんから来た連絡のことを思い出した。

 

 

「そう言えば…言うのが遅れたんだが…『新入社員歓迎会』をやるらしいんだが、春先さんは参加する?」

 

 

「…参加します!」

 

 

「そうか。じゃあ、オレも行くか」

 

さすがに春先さんが行くのにオレが行かないなんて…言うわけにはいかない。それに飲み会の席だと後輩の仕事は色々と多いだろうし。しっかりと見守らないとか。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくしてそれぞれお店に向かう。オレは一応、春先さんと一緒に目的の場所にいった。

 

オレは周りの奴と話していると…後輩が明らかに出来上がっちゃっている、上司に絡まれている。ここで見て見ぬ振りをするのは教育係としてさすがに…だめだな。

 

そしてオレは上司と後輩の間に入って…なるべく上手く収めることに努める。

 

 

「あんまり絡まないであげてください」

 

 

「え~いいじゃない~」

 

いや、酔ったあなたは何をするか分からないんですよ。

 

 

「まだ入社して一日目なんで…あんまりビビらせないでください」

 

さすがに新入社員にとって…全ての人が先輩だろうから何と言われても断れないだろうし、上司からの嫌なお願いをされても嫌々やる羽目になる。そしてそういうことが嫌になって辞めるという話も多いというしな。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

「まあ、あんまり無理しないでいい。無理なことがあったら頼ってくれればいい。なるべくやりやすいようにするからさ」

 

一応…新入社員の教育を任されている訳だし、これぐらいのことをした方がいいだろう。

 

 

「…はい!私、先輩の役に立てるように頑張ります!!」

 

 

「い、いや、別にオレの役に立たなくてもいい。キミはキミの仕事をしてくれればそれでいいし」

 

 

「いえ…必ず、先輩に恩返しできるように頑張ります!」

 

恩返しって何の恩だろう。だけど、後輩はどうやらすごく気合が入っているようなのでここで水を差すようなことをする必要もない。やる気が出るのは別に悪いことじゃないですし。

 

 

「まあ…頑張ってくれ」




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