仏頂面の社員   作:主義

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初めてホロメンが登場しないお話。


慰安旅行

 

うちの会社には年に一度だけ『慰安旅行』が行われている。そしてそれは社員はもちろんのこと、タレントに対してもだ。だが、あくまでタレントと社員が一緒に行くことはなく、日付が違ったりする。

 

 

 

そして社員の慰安旅行は今日から2泊3日で沖縄だ。色々と年末とか夏は忙しいということもあって行くのは5月。新入社員に関しては入って1ヶ月で慰安旅行なのだ。

 

最初は海外旅行という話も出ているが、色々諸々な事情でそれは無理になって沖縄になったと聞いている。今は沖縄へと向かう飛行機の中。オレは窓から外の景色を眺めていると隣のえーちゃんが話し掛けてきた。

 

 

「意外ですね。マネさんってこういうの来ないですし」

 

 

「まあ、そうだな。オレも行く気はなかった」

 

 

「じゃあ、なぜ?」

 

 

「後輩がな。どうしても付いて来てほしいとうるさくてな。別に予定が入っている訳ではないから承諾したが」

 

 

「へぇ~マネさんを動かすなんてのどかもやるなぁ~」

 

後輩の中でもオレが教育係を勤めている奴の頼みを断るわけにもいかない。この思考自体が今までのオレにはあまりなかったかもしれないな。

 

 

 

そんな話をしていると後ろから後輩の声が聞こえて来る。

 

 

「す、すいません」

 

たぶん、オレが話している声が聞こえてきたのだろう。

 

 

「いや、別に迷惑という訳じゃない。キミが誘ってくれなければ今頃、部屋のベッドで寝転がってただろうからな」

 

 

「…ほんとにすいません」

 

どうやら後輩はオレが怒っていると思っているようだ。それぐらいにオレの堪忍袋は小さいと思われているのが、ちょっと嫌だな。元々こんなような顔だから怒っていると勘違いされることも多いが、本当は怒っていないんだがな。

 

 

 

 

 

 

そして沖縄に着くとホテルにチェックインを済ませてその後はそれぞれ自由行動。唯一、決まっているのは午後5時にホテルの近くの懐石料理店に集合というだけ。あくまで大人なので全体で行動するようなことはしない。それぞれ回りたいところも違うだろうしな。

 

「今日はどうするか」

 

ホテルにチェックインをしたわけだし、自分の部屋で寝ていてもいいんだよな。だが、どう考えてもそんなことをさせてもらえるような感じはないな。

 

 

視線を後ろに向けると後輩とえーちゃんが楽しそうに話している。

 

 

「こっちも行きたいよね!」

 

 

「そうですね。でも、水族館も今日行きたいですね」

 

僕が視線を向けていることに気付いたのか、えーちゃんと後輩はこちらに歩み寄って来る。

 

 

「マネさんはどこか行きたいところとかありますか?」

 

 

「オレは別にないな」

 

 

「そ、そうですか…」

 

なぜか、後輩は俯いてしまった。別に気に障る事を言ったつもりはないんだが。このままずっと俯かれていてもこちらとしても居心地が悪い。

 

 

 

そんなオレのことを見て、えーちゃんが耳打ちしてきた。

 

「ほら、マネさん、こう言ってください」

 

 

 

 

えーちゃんが言ったことは別に特段、変わったことはない。普通のこと。本当にこれを言えば、後輩の機嫌が直るのかと若干不安に思ってしまう。

 

「ゴーヤチャンプルが食べてみたいな~」

 

本当にこんなことでと思っていると…後輩の俯いていた顔はすぐに起き上って、笑顔だった。

 

 

「先輩はゴーヤチャンプルが食べたいんですね。それだったらこのお店とかどうでしょうか!ガイドブックでもゴーヤチャンプルが美味しいと有名ですし、先輩のお口に合うんじゃないでしょうか!」

 

なんか急に熱弁された所為でほとんど頭に入らなかったが、元気に戻ってくれたようでよかった。

 

 

 

 

それからオレとえーちゃんと後輩はそのゴーヤチャンプルが美味しいというお店に行った。まじで美味しかった。正直なことを言うとあんまりゴーヤチャンプルは得意な方ではなかったんだが、全然食えた。そしてさっきも言ったかもしれないが、まじで美味しかった。

 

どうやらそれはオレだけではなくて、えーちゃんも後輩も美味しそうに食べていた。

 

 

「本当に美味しかった」

 

 

「そうですね。私もあんな美味しいゴーヤチャンプルを食べたのは初めてかも」

 

 

「先輩方もそうなんですね。私もあんなに美味しいとは思ってもいなかったです。それに何よりも……せ、せんぱいが………って…やめましょう」

 

 

「え、そんないいところで止めるの…」

 

話している途中で後輩は話を止めて次の話へと行こうしている。さすがにそこまで話したら最後まで言ってくれないと体がむず痒い。

 

 

「オレも続きが気になるんだが…」

 

スッキリしない。どんな下らない事でもいいから最後まで言ってくれ。それでオレの気は収まるし、このむず痒さも弱まるだろうからな。

 

 

「せ、せんぱいが…『美味しそうな顔』をしていたので、よかったで…す」

 

 

「でも、確かに私もマネさんがあんなに美味しそうに食べているのを見たのは初めて見たかも」

 

 

「そうか?」

 

 

「はい、まあ、元々ご飯を食べに行ったりすることがほとんどないですけどね。でも何よりもマネさんはあんまり表情に出さない人ですし」

 

それは確かにそうだな。自分でも自覚しているぐらいには怖い顔だし、笑っている顔が般若みたいで怖いと同級生に言われたこともあるぐらいだからな。

 

 

「そうかもな」

 

 

「だから、嬉しかったんです。先輩が幸せそうな顔をしてくれて!」

 

 

「なんでだ?」

 

 

「先輩は私のために来てくれたんですよね。先輩の貴重なお休みを取っちゃたわけですし、少しでも先輩にはこの旅行を楽しんでほしくて…」

 

 

後輩にこんなことを言わせるとは…オレもダメだな。

 

 

 

「そんなにオレに気を遣うな。オレはただお前が楽しそうにしていれば来た意味があるんだよ」

 

 

「え、わたしですか?」

 

 

「ああ」

 

確かに後輩が来てきてと言われたのが、来た理由ではある。だが、それ以上に後輩にはこの休みを謳歌して欲しかったし、ここでオレが行かないと後輩が遠慮して行かないなんて選択肢を取りかねないと思ったからだ。

 

後輩の覚えは良くて、もう一人立ちできるぐらい。

 

 

でも、やっぱり仕事は大変だ。ずっとやっていれば息も詰まるし、キツイと感じることもあるはず。

 

だからこそ、こんな風な休みは楽しんで欲しいんだ。

 

 

 

 

 

そして後輩が少しでも来てよかったと思えたのなら、オレとしては付いて来た意味があるのだからな。

 

 

「それはどういうことですか?」

 

 

「それは言わない」

 

 

「え、なんでですか?」

 

 

「言いたくないからだ」

 

 

そんな二人のやり取りをちょっと離れたところでえーちゃんが写真を撮っていた。

 

 

「この写真を皆さんに送ったら発狂するだろうな~~」

 

ドSの顔をした、えーちゃんがホロメンに送ってすごいことになるのはまた別のお話。

 

 




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