「二人は一体なにをしている?」
「マネさんはみこと過ごすの」
「いや、すいちゃんと過ごすって決まってる!」
この二人の争いに巻き込まれるのは勘弁したい。出社してきて早々にこんな事に巻き込まれたら仕事を始める前から疲れてしまう。
「どっちとも過ごす予定はない。早い内に離してくれ」
「…みこと…星街は明日にすればいいだろ!」
「みこちの方こそ明日にすればいいじゃん!」
「いやぁだぁ~~」
「すいちゃんはマネさんと…」
この人たちはオレの言葉が響いていない。このままにしておくといつまでも言い争いを続けることになるな。
「そろそろ離してくれ」
普通の人間だったらオレが少し低い声で少しを目を細めて言えば恐怖して後ずさったりするものだ。
「いやだ。みこと一緒に」
「違う!すいちゃんと一緒に過ごすの!」
この二人はまるで怯えることもなく、気にしないように接している。こういう時は怖がって離れて欲しいんだが。
「キミたちは怯えてくれないな」
「怯える?」
「オレのことを。自分で言うことでもないが、オレは後輩や新人の人からかなり怖がられたりするんだけど。二人はまるでそんな感じじゃないから」
「すいちゃんたちはマネさんのことをよく知っているからね。確かに初対面の時に恐怖心が無かったかと聞かれるとさすがに首を縦に振れないけど、少なくとも今はマネさんは怖くないよ、ねぇ、みこち」
「うん!!このエリートみこはマネさんのことを信頼しているからねぇ…」
信頼されているという言葉を言われるのは決して悪くないんだが、こういう時には面倒だ。全然離してくれる様子がない。
「すいちゃんたちはマネさんが優しくてすいちゃんたちのことを想ってくれていることを知っているから。表情にでは出ないけど…第一に考えてくれている」
「……普通だと思うが。別に特別想っているつもりはない」
「素直にすいちゃんたちのことが大好きだって言えばいいのに」
「言う訳ない。オレはオレなりにキミたちを支えているだけだ。そこに『大好き』という感情はない」
「そう言ってもみこは知ってゆよ。マネさんがみこを大好きなことは」
「だから『大好き』ではない。少なくとも一タレントとして接しているだけだ」
だがどうやらオレの声は聞こえていないようでさくらさんと星街さんは二人でずっと会話をしている。
「みこの配信に出てもらうの!!」
「すいちゃんの配信!!」
「みこはずっと前からマネさんにお願いしてたもん。絶対にすいちゃんよりも先に」
「いや、すいちゃんの方が先だった!!」
その後も二人の会話を聞いていて、どうもおかしいことに気付いた。何でこの二人はオレが配信に出るという前提で話を進めている。オレは一度たりとも配信に出るとは言っていない。それに出るつもりも毛頭ない。確かにさくらさんや星街さんから出て欲しいというメッセージが届いたのは知っている。でも、オレはそれを丁重に断ったはずだが。
「先に行ってはおくがオレは誰かに配信に出るつもりもなければ興味もない」
「出てくれてもいいじゃん!!マネさんとの対談とか面白そうだもん。それにホロライブにはこんなスタッフもいるんだよってアピールすることも出来るし」
「いや、アピールする必要性はないだろ。えーちゃんや春先さんが出ている。そこで態々オレなんかが出る必要性を感じない。それにスタッフはあくまでもスタッフ。えーちゃんや春先さんは例外として普通はタレントの配信に出たりはしない」
裏方は裏方らしく裏方の仕事に徹底する。それにそんなことをしても誰も喜ばないし、誰も得をしない。そのようなことをするぐらいなら普通に仕事をする。
「え~~じゃあ…みこのマネージャーになって」
「ううん。すいちゃんのマネージャーになって欲しい!」
「キミたちは本当に…二人のマネージャーにはならない。色々苦労するし、オレはマネージャーには自分で向いていないと思うし」
やっぱり人には向き不向きが存在する。その人にはどうても会わないようなものがあったりするもの。それがオレにとってはマネージャーであったということ…。でも、それなら……。
それからも二人のやり取りに巻き込まれるという…地獄は数分続くのだった。