「これからよろしく頼む」
その文字をオレは一人一人に向けて送った。一応顔合わせのようなものがない以上はこれぐらい送っておいた方がいいだろ。
まあ…『統括マネージャー』に就任したからといってタレントとすごく関わりが強くなる訳ではない。あくまでタレントには個人個人にマネージャーが付いている。そのマネージャーたちを統括する役割。
簡単に言えば…タレントの手伝いのようなもの。マネージャーの仕事にはタレントのメンタルケア―などをすることも一つ。
それらことも含めて…タレントが全力を出せるようにする仕事。タレントに関わる事であれば記念ライブやグッズ発売、配信のことについても全てを統括。
言葉以上に仕事量は多い。一人一人に目を配らなくてはならない。最初の頃に比べればタレントの数も増えている。
最初この『統括マネージャー』になることについては否定的だった。
だがどうしてもオレじゃないとダメだと上の人に言われたから渋々ながら引き受けることになった。勿論マネージャーとは違うがタレントとも接する訳だからある程度コミュニケーション力が高い人を就かせた方がいいと個人的には思うのだが。
一度も接したことのないタレントだっている。
そして今日はホロライブ五期生の雪花ラミィのグッズのことで話し合いが持たれた。そこに就任したばかりのオレも同席することになった。資料には目を通してはいるものの…本人の口からどのようなものを作りたいなどを聞いてない。そして雪花さんとは初対面。いつものメンツで話し合った方が迅速に話し合いも進めると思ったがどうやら『統括マネージャー』は全てのことに関与するらしい。
「よ、よろしくお願いします」
明らかに動揺しているのが言い方だけでも分かる。自分の外見が怖いという印象を抱かれるは分かっていた事で何も感情を抱かなくなった。
「ああ、よろしく。もうある程度グッズの外枠は決まってる?」
「は、はい…今日で決まると思います」
「…やっぱり萎縮しているな」
「え……」
「雪花さんとは初対面だから仕方ない。別にこの風貌で委縮しない人間の方が少ない」
「いや、そんなつもりは…」
「仕方のないことだ。それと一応、連絡はしたいと思うが『統括マネージャー』みたいな向いていない仕事に就いてしまったが、一応は統括マネージャーだ。何か仕事に支障が出たりすることなどがあったら連絡してくれ。まあ、オレよりも普通にマネージャーに言った方が全然いいとは思うがな」
あくまでマネージャーとタレントの間で解決できない事やタレントがマネージャーに対して言いづらいことなどの相談に乗る。タレントと担当マネージャーの間で物事が解決できるのであればそれが一番なのは言うまでもない。
「…はい…」
これ以上なにを言ったとしても…雪花さんを緊張させるだけだ。まだ会議が始まるまでは時間がある。だがこの場に居たとしても雪花さんがリラックスできないだろう。
「オレはまだ時間もあるから屋上に行っている。もし早く会議が始まるようなら呼び来てくれと言っといてくれ」
「は、はい……」
席を立って部屋を出ようとした時にオレは言うべき事を言っていないことに気付いた。そして振り返ると…急に振り返ったことに雪花さんがビクッとしたのを見逃さなかった。
「雪花さん」
「は、はい…なんでしょうか」
「配信頑張って。そろそろ記念配信も近いし」
オレは言いたいことだけ言えたので屋上へと向かうことにした。
「はぁ…」
タバコを吸いながらオレは空を見上げた。やっぱりこの時が一番落ち着けるな。会社内じゃ吸えないし。それに一人きりになれる空間が会社にあるというのはやっぱりいいものだ。
「やっぱりオレにはこの仕事は向いてないな」
もっと裏方でタレントと関わらないような仕事の方が全然いいと思うんだが。まあ、上からの指示じゃ従うしかないけどな。
それから数分して後輩がオレのことを呼び来たのでオレはタバコの火を消して…会議に行くことにした。