『午後の部最初の競技は借り物競争です!』
昼休みが終わり、俺が出る競技が始まった。それと同時に、やっと放送席から解放されたわけだ。今放送席には、刀奈とソフィアーがいる。
本当は刀奈一人だけのはずだったんだが、政府関係者連中から『表面上だけでいいから、ISのコア人格のサンプルデータ取らせてくれぇ!』と懇願され、そのまま解説役を続投となった。お偉いさんに付いてきた研究者が、今も忙しく観客席を走り回ってる。その様子を見て、束はケラケラ笑ってたな。
「うぅ……」
「大丈夫か?」
「何とか……」
オルコットの特級呪物にやられ、胃洗浄をする事態にまで発展した一夏。何とか借り物競争に参加するために医療テントからカムバックしたが、心なしか顔が青褪めてる気がする。当然下手人のオルコットは、織斑先生に拉致られて教員用テントでOSEKKYOUの真っ最中だ。
『ルールはよくある借り物競争ね。ただし、借りるものが書かれた紙は、封筒とかじゃなくてガチャに入ってまーす!』
……マジだ。コースの途中に、100円玉入れてハンドルを回す"あれ"が5台ほど設置されてる。ちなみに豆知識なんだが、あれって『ガチャガチャ』とか『ガシャポン』とか色々呼び名があるが、正式名称は『カプセルトイ』らしい。
『選手には、事前にコインが1枚配布されています。スタートしたら好きなガチャを回して、出てきたカプセルの中のお題を探してね。見つかったら私のところに来ること。ちゃんとお題と合ってるか確認するわ』
「ただの借り物競争なのに、すごい凝ってるね……」
「これって、お題の書かれた紙を選ばせないようにしてるのかしら?」
なるほど、そういう考えも出来るか。……刀奈の性格的に『そっちの方が面白いじゃない!』ってだけの理由もありそうだが。
『それではさっそく1年生から、よ~いドン!』
何の猶予もなくピストル音が鳴って、慌ててみんな走り始める。
「ぐぅ! 宮下君早いぃ!」
「織斑君、大丈夫?」
「へ、平気だから」
一夏も本調子ではないものの、何とか先頭の俺に追いすがっている。
そして問題のガチャゾーンへ。当然装置には何も表示されていない。中のカプセルが見えるだけだ。
「(あんまり悩んでも仕方ないか……)南無三!」
自分の直感を信じて、5台ある内の右端にコインを入れてハンドルを回す。
ガコッという音とともにカプセルが出てきたのを拾い、中の紙を取り出す。
『年上からのキス』
「誰だこのお題書いたやつぁぁぁぁ!!」
『ま、マスターがとんでもないお題を引いたみたいです』
『お題を他の人と交換しちゃだめよー』
くっそ! どうする? まさか2,3年のところに行って『俺にキスしてくれ』なんて言って回るわけにもいかんし、だからと言ってこのまま突っ立ってるわけにも……。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
『織斑君も当たりを引いたみたいね』
『当たりというより、は、ハズレな気が……』
どうやら一夏もトンデモお題を引いたらしい。めっちゃ頭抱えてる。
2組、3組の選手も
「レリエルのナンバーシックスとか、誰が持ってるって言うのよ~!」
「誰か伊達眼鏡の人いない~!?」
『あの、れ、レリエルのナンバーシックスって……?』
『毎年百個しか生産されない、シリアルナンバー付きの高級香水よ』
ホント、誰が持ってんだよそんなもん。……いや、持ってそうなやつに心当たりがあるな。教えないけど。
「って、そんなことより、俺のお題をどうするかだな……」
どう考えても無理筋……いや、待てよ?
『陸君がこちらに向かってくるけど……何も持ってないわよね?』
『はい、お題のものはど、どうするんでしょう……?』
手ぶらでゴールの放送席へ走ったのもあって、俺が断然トップだ。
「えっと陸君、何も持ってないけど……」
困惑する刀奈に、心の中で謝りつつ
「んぅっ!?」
「ま、マスター!?」
刀奈を引き寄せて、そのまま唇を奪う。
「んん! ん……んぅ!」
「わ、わわわわ……!」
ソフィアーに見られながらも、たっぷり10秒は続けた上で刀奈から顔を離した。
「り、陸君、一体何を……!」
顔を真っ赤にした刀奈の質問には答えず、スッとお題の紙を差し出した。
「えっと、お題は『年上からのキス』……か、会長さんなんてお題混ぜてるんですかぁ!」
横から覗き込んだソフィアーも、これにはツッコまざるを得ない。というかこれ、女子生徒(しかも彼氏なし)が引いたら大変なことになってたぞ。
「それで、お題通りですよね?」
「あ、あぅぅ……!」
「楯無さん?」
「陸君の……バカァァァァ!!」
バチィィンというキレのいい音とともに、刀奈のビンタを食らった俺の視界は強制的に右方向へ移動していた。これ書いたのお前だろうに、解せぬ……。
『陸君の馬鹿! さっさとゴールしちゃいなさいよ!』と言われ、ゴール判定になってからしばらくして、一夏がゴール前に到着した。お? 束を引っ張ってきた?
「あの……楯無さん、大丈夫ですか?」
「だ、だだだだ、大丈夫よ!?」
「ぷぷぷっ」
束、刀奈があんな顔真っ赤にして首ブンブン振ってる姿が面白いのは分かるが、笑いが堪えられてないぞ。
「そ、それじゃ織斑君! お題の紙をちょうだい!」
「は、はい……」
「『セクシーなお姉さん』とか書いてあるのかな~♪」
「どれどれ~……へぇ?」
なんだ? お題を見た瞬間、刀奈がニヤッと笑い出したんだが。
「えっと、お題は「わー! 声に出さなくても――!」『初恋の相手』……え? ドクターが初恋の相手って、ええ?」
「うぅ……」
「へ?」
ソフィアーの大暴露で、各テントも観客席も、みんな静かになる。そして俯く一夏と、予想外のことに固まる束。
「いっくん、本気で言ってる?」
「嘘じゃ、ないです……」
「そ、そっか……あ、あはははは……」
あの大天災・篠ノ之束の視線が、あっちこっち彷徨う。なんだこの、初々しい一夏と束とかいう、SSRなシチュは。
「い、いっくん! ちょっとお話しよう!」
「えぇっ! ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
最終的に顔を真っ赤にした束は、いつかののほほんのように一夏を小脇に抱えると、全速力でどこかに走り去ってしまった。
「えっと……と、とりあえずお題とは合ってたようなので、1組は2着になります」
混乱状態から復帰したソフィアーの宣言で、止まっていた時間が動き出したかのように、競技が再開したのだった。
ちなみに、レリエルとかいう香水はオルコットが、伊達眼鏡は簪が持ってたそうだ。簪の眼鏡、あれって簡易型ディスプレイで度は入ってないんだよな。
トンデモお題を引いたのは俺達1年だけだったようで、後続の2,3学年は普通のお題だった。(とはいえ『イカの塩辛』とか、普通女子校にはねぇだろって代物も混じってたが)
それと、今回のお題を作ったのは刀奈の友人で新聞部の
ーーーーーーーーーーーーー
「そんなわけで、束さんもいっくんのお嫁さんになったから。よろよろ~♪」
「「「「「はいぃぃぃぃぃ!?」」」」」
借り物競争が終わって生徒用テントに戻ってきたら、一夏の嫁が増えてたでゴザル。
「織斑君、篠ノ之博士、おめでとう」
そんな中、簪だけがパチパチと手を叩いていた。
「いっくんにあれだけ熱い想いを語られたら、束さんもキュンとしちゃうよね~」
「一夏、お前姉さんに何を言ったのだぁぁぁ!」
「いや、その」
篠ノ之に肩を掴まれ、ガックンガックン揺らされる一夏を、他のハーレム面子は誰も助けない。山田先生の時はハーレムが増えるのも止む無しとか言ってたが、まさかの展開だからなぁ。てか一夏、『熱い想い』って何言ったんだよ。(野次馬根性)
と思ってたら
「陸」
「おう、なんんぅ!」
呼ばれて振り向いたら、簪に接吻されたんだが。
「お姉ちゃんと陸がキスしてて、羨ましかったから」
「だからって更識さん、こんな公衆の面前で……」
「私と陸がラブラブなのは周知の事実だから、問題ない」
「つ、強い……! これがクラリッサの言っていた"バカップル"というものなのか……!」
おうクラリッサとやら、何ボーデヴィッヒに嘘知識植え付けてんだよ。
「なるほどなるほど~、参考になるよ。いっくん」
「はい、なんですんんっ!?」
「「「「「あ~~~~っ!!」」」」」
簪の真似をするように、束が一夏と唇を重ねる。それと同時に、ハーレム5人の絶叫がテント中に響いた。それにしても束、顔真っ赤にして目を思い切り瞑った状態でキスするとか、初々しいにも程があるぞ。
「あの束が、私の義妹になる……? あ、あははははは……」
同時に、織斑先生の壊れた笑い声が聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだろう。……気のせいだと思いたい。
一夏、人生初めての胃洗浄。ちなみにカプサイシンは水に溶けにくいので、現実ではあまり効果が無いかもしれません。
たっちゃん、公開キス。簪も夏休み明けに4組の教室で公開キスしてるし、これで姉妹お揃いだね。(ゲス笑顔)
一夏ハーレムにまさかのニューカマー。完全に血迷いました。そしてまーやんとどっちがいいかな~と考えたところ、束の方がちーちゃんの胃腸によりダメージが入りそうなので採用しました。(暗黒笑顔)
あれ? そうなると、クロエは一夏の娘に……?