あれ? 評価バーが緑? えっと……高評価ありがとうございます。
決闘当日。指定された第3アリーナに入ると、お姉ちゃんが待っていた。
「お姉ちゃん……」
「簪ちゃん……」
私の打鉄弐式と、お姉ちゃんのミステリアス・レイディ。2機のISが向かい合う。
「言いたいことはいっぱいある、はず……けど、うまく言葉に出来ないから、戦って、全てをぶつけたい」
「そう……分かったわ。かかってきなさい」
私が夢現を展開すると、お姉ちゃんも水を纏った槍――確か、蒼流旋だっけ――を展開した。そして
――試合開始のブザーが鳴った。
――ドォン!
――ドドドドッ!
私は試合開始と同時に、春雷を撃ち込んだ。それとほぼ同時に、お姉ちゃんも蒼流旋についた4門のガトリングガンで撃ってきた。
お互い、射撃を繰り返しながらも距離を詰めていく。そして、ミステリアス・レイディの周りの水が蒼流旋に集まり出したところで――
「そこぉ!」
「っ!」
防御用の水を攻撃用に転換する際のわずかな間。私が放った夢現の一撃は、お姉ちゃんの腕部装甲を少し掠るだけに留まった。だけど高速振動の一撃は、装甲に確かな傷跡を付けていた。
「高速振動の接近武器、だったわね?」
「知ってたんだ……」
「ええ、対戦相手の情報収集は戦いの基本だからね」
事前に情報が知られていた。悔しいと思う反面、嬉しいとも思う。それはお姉ちゃんが『勝つために情報を集める必要がある相手』だと認識したということだから。
「それじゃあ、今度はこっちから行くわよ」
「っ!」
周囲の水を纏った蒼流旋――表面を超振動させて貫通力の増した刺突――が、私に襲い掛かった。
ーーーーーーーーー
「あわわわ~……!」
「さすが学園最強、やっぱ強いな」
「はい。あれでも一国の国家代表ですから」
ピットで簪を見送った後、俺とのほほんは観客席に移動し、そこで虚先輩と合流していた。
「お嬢様曰く、『フルスペックの山嵐以外脅威ではない』と」
「ちっ、やっぱり情報収集してたんですか」
「ええ。本音が整備科に来た時から、ね」
つまり、
「お姉ちゃんずる~い!」
「いやのほほん、俺だってミステリアス・レイディの情報を集めて簪に話したんだ。条件はイーブンってことになる」
「あ、そうか~……」
のほほんは納得したものの、しょんぼりした。
「ほら、簪が戦ってんだ。しょんぼりしてないで応援してやれ」
「そ、そうだね~!」
そう言って視線をアリーナに戻したのと同時だった。
――ドゴォォォォォンッ!!
耳をつんざく爆音と閃光。それが収まった時、そこには、所々装甲に傷をつけながらも余力のあるパイセンと、息も絶え絶えな簪がいた。
ーーーーーーーーー
(やっぱり……強い……!)
私の攻撃をお姉ちゃんが躱し、お姉ちゃんが攻撃すれば私が躱す。そうやって何度も夢現と蒼流旋が交差し、その度に装甲に細かな傷が増えていく。
お互い振動系の武装、装甲で防ぐという手段が使えないから、相手の攻撃を当たらないよう警戒し合う戦いになる。
そして何度目かも分からない、蒼流旋の刺突。私はそれを回避しようと半身をずらし
――そこに、刺突はやってこなかった。
(しまった――!)
嵌められた。そう気付いた時には、蒼流旋からガトリングガンの掃射をもらい、SEが削られた後だった。しかも今ので、お姉ちゃんとの距離が開いてしまった。
(まずい……! 今ここで距離を開けられたら……!)
急いでまた距離を詰めようとした瞬間、目の前の空間が爆ぜた。
(
陸はリアクティブアーマーって言ったけど、別に自身の周辺じゃなくても発動する。むしろ、お姉ちゃんはこうやって"地雷"として使うのを得意としているのかも。
何とか耐えきったけど、私のSEは2割を切っていた。
「まだ……! 山嵐!」
ミサイルポッドから射出された24基のマイクロミサイルがお姉ちゃんに襲い掛かる。そして、爆炎が包み込む。
「これなら……」
そう思った時だった、爆炎が一瞬で消し飛び、そこに現れたのは――
「強くなったわね、簪ちゃん」
装甲は傷だらけで、それでもお姉ちゃんは、そこにいた。
「だから―――私も全力で行かせてもらう!」
ナノマシンで制御された水が蒼流旋へ集中する。さっきまでとは違う、全ての防御を攻撃に転換した姿へ。
「ミストルテインの槍!」
お姉ちゃんが放った一撃が、スローモーションのように私に近づいてくる。
(ああ……やっぱり、私じゃ勝てないんだ―――)
『また、逃げるのか?』
「え……!?」
聞こえた幻聴……じゃない、この声、私知ってる……!
「ランディ、さん?」
『そうやってまた逃げるのか、嬢ちゃん』
「でも……仕方ない……」
『仕方ない? まだやられたわけでもなければ、手足だって動くんだろ? なら、最後まで足掻いて見せろよ」
「そんな事言っても……」
『嬢ちゃん……お前さん、
「……っ!」
あの二人。そう言われて、私は言葉を継ぐことが出来なかった。
『リクとホンネだったか? いいダチ持ったじゃねぇの。……そいつらに、お前の勝利を信じてるやつらに、今と同じ事を吐けるってのか?』
「……い……」
「そんなわけない! お姉ちゃんに勝ちたい! 勝ちたいよ!」
『そうだ。分かってんじゃねぇか』
詰るような口調から一転、ランディさんの声が飄々としたものに、そして真剣なものに変わった。
『弱かった過去の自分から逃げるな。自分を心の弱さを免罪符にして逃げるな。――自分の中の姉ちゃんから、逃げるな』
「私の中の、お姉ちゃん……」
そう呟いた時、私の目には、あの時のお姉ちゃんが映っていた。
――あなたは何もしなくてもいいの。
まだ、
――私が全部してあげるから。
いつからだろう。私が、お姉ちゃんと本気でぶつかることを諦めたのは。
――だから、あなたは……
――感謝の言葉は、パイセンに勝ってから受け取るからな
――大丈夫、かんちゃんなら勝てるよ~。だって、かんちゃんが頑張ってたの、私知ってるもん~。だから、ね?
それでも……そんな私を、信じてくれる人がいるんだ。だから、私は……
――無能なままで、いなさいな。
「私は! お姉ちゃんに勝つんだ!!」
あらん限りの声で叫んだ。すると
『嬢ちゃん、やれるな?』
「うん……!」
『腹は決まったようだな。なら、俺も少しだけ手を貸してやるか』
「手を、貸す?」
『おう。だから気合入れろよ』
「(コクリ)」
どう手を貸してくれるのか分からないけど、信じてみようと思う。
槍が届くまであとわずかという中、私は大きく息を吸った。そして
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
先ほどと同じぐらい、あらん限りの声で叫ぶとともに、私の体は打鉄弐式ごと光の珠に包まれた。
ーーーーーーーーー
「ミストルテインの槍!」
全ての防御用ナノマシンを攻撃用に転換する、一撃必殺の大技。それを、簪ちゃんに突き立てた。いや、突き立てようとした。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃあっ!」
けれど、槍が届く直前。私は簪ちゃんから放たれた光によって吹き飛ばされた。
「い、いったい何が……」
体勢を立て直した私の目の前には
さっきまでと違う、真紅の装甲を纏った簪ちゃんがいた。
「まさか……『
そんなっ! だって簪ちゃんの打鉄弐式が完成したのはつい最近で、実戦データの蓄積だって……!
「私は、ずっと逃げていた」
「簪ちゃん?」
「お姉ちゃんと比較され続けて、否定され続けて。ずっと劣等感に苛まれてた」
「……」
これは間違いなく、簪ちゃんの本心、なんだろう。
ずっと心の底で溜まり続けていた、そして私が向き合うことを恐れて避け続けて来た、簪ちゃんの本心。
「だけど陸や本音が……こんな私を信じてくれる人がいる。もう、『更識楯無の妹』じゃない。『更識簪』として、自分の足で立てる。そんな"足場"を、私は見つけた。この"足場"で、私は自分の"業"に抗う。弱かった過去の自分……心の弱さを免罪符にしていた自分と、完全に決別する」
「簪、ちゃん……」
「これが――私のけじめ」
そう言いながら、簪ちゃんは限界が近い夢現を手放し、新たな武装を展開した。
「もう、"勝ちたい"なんて言わない。私はお姉ちゃんに……"勝つ"!」
簪ちゃんが展開したのは……簪ちゃんに似つかわしくない、大型のライフルだった。
ーーーーーーーーー
「行くよ、お姉ちゃん!」
ガガガガッ!
引き金を引くと、打鉄の
だけど、お姉ちゃんも回避と装甲を駆使して致命傷を避けている。
私は射撃を続けながら、お姉ちゃんと距離を
「その武装で距離を詰めるのは悪手よ!」
お姉ちゃんが再度槍を構える。確かに、こんな大型のライフルで
「はぁぁぁ!」
お姉ちゃんの槍が届くほどの距離で、私はライフルを
振り上げた。
「え……?」
私のあまりの行動に、お姉ちゃんの手が、一瞬止まった。
そして私が振り上げ切ったところで、銃身下部のパーツがはじけ飛ぶ。中から出てきたのは――
「ブレード……!?」
呆気に取られていたお姉ちゃんの顔が、驚愕に変わる。
「行って――」
『いけ! 嬢ちゃん!』
「ベルゼルガァァァァァァァァ!!」
ライフルの重量とISの力で振り下ろされた大型ブレードは蒼流旋を破壊し、
「が……っ!」
お姉ちゃんの装甲外を直撃して、壁際まで吹き飛ばした。そして、
『ミステリアス・レイディ、SEエンプティ。勝者、更識簪』