まぁ、嘆いてても仕方ないですね。切り替えていこう。
『次の競技は、二人三脚になります』
『……』
『あのー、会長さん? マスターとのキスの余韻に浸るのは、あ、後にしてもらえますか?』
『ひゃうぁ!?(ドンガラガッシャーンッ!)』
「お姉ちゃん……」
「ソフィアーも、空気読んでくれよ……」
マイクのスイッチがONのまま身内ネタを披露されて、俺と簪は周りから好奇の視線で針の筵なんだが……。
「というか、だ」
その視線を逸らしたいがために、俺は別方向に話を向ける。
「まさかお前が二人三脚に参加するとは思わなかったぞ、一夏」
「そうか?」
「織斑君一人に対して、1組のお嫁さんが4人。絶対揉める」
「お、おう……」
簪の指摘に、別の意味で苦笑いする一夏。
「で、タッグを組むことになったのが」
「うむ、私だ! 一夏との体格差や身体能力を考慮すれば、私以外に適任はいまい!(そして姉さんにばかり美味しいところを持ってかれるわけにはいかん!)」
ふんす!、と擬音語が聞こえてきそうなほど胸を張る篠ノ之。こいつ、一夏が関わると時々精神年齢が下がるよな。ボーデヴィッヒと同じで。
「陸」
「ん、そろそろか」
周りに合わせて、俺達もお互いの足を布帯で結ぶ。
「う~ん、やっぱりこうなるよなぁ」
「そうだね」
簪も別段小さいわけじゃないんだが、男の俺と比べるとどうしても身長差がある。一般的に、二人三脚で身長差があると歩幅が合わず走りづらくなる。こうなりゃ、俺が簪に合わせるか……。
「陸は全力で走って」
「は?」
だが、簪が言ったのは俺の考えと真逆だった。
「私に策がある」
そう言って、簪が俺に耳打ちする。……それならいけそうだが、可能なのか? まぁいいか、やるだけやってみよう。
『On your mark…Set……Go!』
「行くぞ一夏!」
「おう!」
「「織斑君達に勝つぞぉ!」」
俺達を含め、全員がスタートダッシュを決める。が、すぐに差が付き始める。
「織斑君早いよぉ!」
「篠ノ之さんと体格差あるのにどうしてぇ!?」
「ふんっ! 私だって鍛えているからな、一夏が私に合わせてもこれだけの速さになるのだ!」
「というか、陸達早過ぎね!?」
一夏がツッコむように、俺と簪は2位の一夏達を大きく引き離していた。どうしてそんなに早く走れるのかと言えば……
『ねぇソフィアーちゃん、簪ちゃんの足、もしかして浮いてない?』
『う、浮いてますね』
「何っ!?」
「気付いたか、簪の作戦に」
そう、二人で走ってるように見えて、実は簪は俺に抱えられてる状態。足も地面に付いてないから、実質俺が一人で走ってるようなもんだ。そりゃ早いに決まってる。
「卑怯だぞ宮下!」
「ルールには『二人とも地面に足がついてないといけない』なんて書いてないからな」
『そ、そうなんですか?』
『……ええ、書いてないわね』
「マジかよ!」
いや、これにしたって、簪がきっちり足の力を抜いてるから出来ることだからな。そうじゃなきゃ、文字通り簪に足を引っ張られかねねぇ。
「一気に終わらせるぞ、簪」
「うん」
「うそぉ!? まだスピード上がるの!?」
そこからさらにスピードを上げた俺と簪は完全独走状態でゴール。見事MVPを獲得したのだった。今回は簪の作戦勝ちだったな。
その後は400m走があったが、スプーン競争以上に見どころが無かったから割愛で。
ーーーーーーーーー
二人三脚が終わり、陸が参加する個人競技は全部終わった。『あとはフリーだー』とか言ってたら
「りったーん! ちょっと手伝ってよー!」
「なんでじゃぁぁぁぁ!!」
篠ノ之博士に拉致られて、どこかに行ってしまった。今度は何をしでかすんだろう……?
「簪ちゃん、陸君見なかった?」
「陸なら、篠ノ之博士に拉致られてどこか行った」
「あらら~、400m走が終わって次のパン食い競争、私も出るからまた代打をお願いしたかったんだけどな~……」
困った困ったと言いながら、お姉ちゃんは私の方を見る。何?
「というわけで簪ちゃん、代わりに実況お願いね♪」
「え?」
私が返事をする前に、お姉ちゃんは肩をポンポン叩いていずこかに消えていた。……私が、実況?
「次の競技は、パン食い競争です。……どうして私が……」
「え~っと……簪さん、ご、ご愁傷さまです」
結局私は放送席に座ることになり、ソフィアーに慰められていた。コア人格に慰められるって……。
「パン食い競争の参加者は……織斑君が連投なんだ」
「そ、そうみたいです。他にも1年では、1組から織斑選手の他にボーデヴィッヒ選手、2組から凰選手が参加します」
パン食い競争も100m走や二人三脚と同じく、1クラスに二人走者がいる。1組は織斑君とボーデヴィッヒさんらしい。凰さんは100m走でMVPを獲ってたけど、パン食い競争ではどうなんだろう。
「2年はお姉ちゃんと、玉打ち落としでMVPを獲ったウェルキン先輩が出ると」
「はい。さ、3年のケイシー選手は参加しないようです。先ほどの400m走で出場枠を使い切ったそうで」
参加可能人数が少ないなどの理由が無い限り、個人種目に参加できるのは一人2種目ってルールになっている。ケイシー先輩は玉打ち落としにも参加してたから、それと400m走で終了したみたい。
「しゅ、出場選手の準備が整ったようです」
『On your mark…Set……Go!』
ピストル音が鳴り、第1走者が一斉に走り出す。1年はボーデヴィッヒさんと凰さん、2年はウェルキン先輩だ。
「今回、走者にはパンを手で取らないよう、腕をう、後ろに縛った状態で走ってます」
「すごい走りづらそう」
腕が振れないから、いつもの調子で走ったら転んじゃいそう。
「あ、凰さんが転んだ。しかも手が付けないから、なかなか起き上がれない」
「こうならないよう、次の走者の方々には気を付けてほしいです」
「あたしをダシにして実況すんなぁぁぁ!」
ここからでも聞こえるぐらいの大声が。凰さん肺活量すごい。(そうじゃない)
「おーっと、3年のトップがぱ、パンゾーンに辿り着きました」
投影ディスプレイには、レーンに吊るされた袋に入ったパンを相手に、悪戦苦闘している3年の先輩が映っていた。
「後ろ手に縛られた状態だと、余計に難しそう」
「そう言ってる間にこ、後続の選手がパンゾーンにやってきます」
みんな、なかなかパンが取れずに藻掻いている。
あ、2位で入ってきた人が上手くパンをレーンから取った。その人はそのまま、パンをくわえてゴール。やっぱり、どれだけ早くパンを取れるかが勝負みたい。
「に、2年のフィールドでは、ウェルキン選手があっさりパンを取ってゴールしています」
「さすがですわサラ先輩!」
生徒用テントから、オルコットさんが手を振ってた。ウェルキン先輩も、恥ずかしそうにしながら手を振り返してる。同じイギリス人だからなのか、仲いいなぁ。
「1年の方は……まだ誰もゴールできてない」
「完全にだ、団子状態です」
「ぐぬぬ……! まさかこれほど難しいとは……!」
ボーデヴィッヒさんが何度もパンにトライするけど、その度にパンがクルクルと回るから、余計取りづらくなってる。
「おっさきぃ!」
「なぁっ!?」
「ふぁ、凰選手が一発でパンを取って、一気にゴールしました!」
「転んで最後尾だったのに……」
むしろ、転んで立ち上がるまですごい時間がかかったってことなのかな? 100m走の記録を思えば、もっと早くパンゾーンに着いてただろうし。
その後もパンを取ってゴールする選手が出てきて、最後にボーデヴィッヒさんがゴールした。
「くそぉ……軍事障害物競走といい、これといい、ここまで見せ場が……」
ゴールにいる運営スタッフ(虚さん)に腕を縛っていた布を解いてもらったボーデヴィッヒさんが、トボトボとテントに戻って行く姿が印象的だった。
「第2走者は、織斑選手がどのような走りを見せてくれるかき、期待です」
「ソフィアーは、織斑君が気になるの?」
「いえ、織斑選手の番になったらそういうように、し、指示されて……」
「陸……」
コア人格に何を仕込んでるの……
『On your mark…Set……Go!』
第2走者も第1と同じように、一斉に……って、織斑君早っ!
「あやや……! お、織斑選手、あっという間にパンゾーンに、ってええ!?」
「嘘ぉ!?」
思わず私もソフィアーも叫んでいた。
織斑君、減速することなくレーンの手前でジャンプして、首の動きだけでパンを掻っ攫って着地。そのままの勢いでゴールイン。そ、そんなのアリ……?
「シャ、シャルロットさんが織斑君の流し目にやられたぁ! 誰か担架ぁ!」
生徒用テントの方が騒がしくなり、そこから担架で医療用テントに運ばれる、鼻血を流したデュノアさん。織斑君がパンを取った時の流し目にやられたってことだけど……どういうこと?
ちなみに、ゴール後の織斑君に話を聞いたら
「いや、いけそうだな~って思って、やってみたら出来ちゃった。それに俺、流し目なんてしてないんだけどなぁ……」
と言われた。ええ~……。
負傷(?)者が出たものの、パン食い競争のMVPは織斑君に決まった。途中で転んでなければ、凰さんがタイム的にMVPをダブル受賞だったんだけどね。残念。
パン食い競争は終わったけど、私には別に仕事が残っていた。
「お姉さん、全然目立ってなかったんだけど……」
「よしよし」
「よしよし~」
織斑君に話題を全部持ってかれて落ち込むお姉ちゃんを、本音と一緒に慰めるという仕事が。
簪、二人三脚で策士になる。実際二人三脚って、ちゃんとしたルールってあるんですかね?
シャルロット、一夏の流し目にやられる。さすが織斑計画、身体能力は桁違い! それにしても、どうしてチョロインのセシリアでなく、アザトイさんが倒れたのか。書いた本人にも分からない。(オイ
次回、やっとマドカの出番です。お楽しみに。