『まもなく京都、京都です。We will soon make a brief stop at Kyoto』
車内放送が流れると、お菓子やトランプを出していた生徒がゴソゴソと仕舞いだす。俺も読んでた雑誌を……
「陸、まだ読んでる」
「いやお前、もうすぐ着くって放送聞いてたか?」
「う~」
俺の膝の上で不満げな簪を無視して、
「ほら楯無さん、起きてください」
「んん……あえ? もう着くのかしら~?」
俺に寄りかかって寝ていた刀奈を起こすと、ショルダーバッグに雑誌を仕舞う。
「お姉ちゃん、涎」
「えっ、嘘!?///」
簪の指摘に慌てて手鏡を見ると、急いでハンカチを出して口元を拭う。その間、顔は真っ赤だ。
「うう~……陸君に見られたぁ……」
「(安心しろ、もっとすごいの見てるから)」
「(な、何言ってるのよ!)」
周りに聞こえないように少し揶揄ったら、さらに顔を赤くして右肩をポカポカ叩いてきた。
「会長、堕とされてるわね……」
「宮下君、やるぅ」
「会長さんって、結構甘えん坊系なんだぁ」
「ぬあぁぁぁぁぁ! 今まで演じてきたお姉さん路線がぁぁぁぁ!」
「「そんなものはない」」
「二人揃ってひどいっ!!」
ガビーンッて効果音が聞こえそうな顔をする刀奈を後目に、俺達を含めた4組全員が降車準備を始めるのだった。
ーーーーーーーーー
京都駅に着き、ぞろぞろとIS学園の生徒達が下車していく。
俺達1年1組は最初に下車して、京都駅から外に出ていた。
「一夏、何を探してるの?」
外に出た途端荷物を漁り出した俺に、シャルが声をかけてきた。良かった、あの方言は抜けたようだ。
「ええっと……あったあった!」
「カメラ?」
「しかもアナログの一眼レフとは、古風ですわね」
「懐かしいな」
「アンタ達、一体何して……一夏、まだそれ持ってたんだ」
シャルやセシリアが俺のカメラを珍しがってる間に、後続で降りてきた2組の中から鈴が姿を現した。俺が持ってるカメラのことを知ってるのは、鈴と箒ぐらいだもんな。
「鈴も箒も、あのカメラを知ってるのか?」
ラウラの問に、二人とも首を縦に振る。
「知っている。一夏が千冬さんに初めて買ってもらったカメラで、それ以来一夏はそのカメラで写真を撮り続けているんだ。私も引っ越す前は、何枚も撮られたことがある」
「私もよ。織斑家にアルバムがあったはずだけど、まだあるの?」
「あるぞ。なんてったって、これが俺と千冬姉の絆、そして俺の存在証明みたいなもんだからな」
「一夏……」
俺の出自を知ってるみんなが、慈しむような目で見てくる。な、なんかくすぐったいんだが……。
「お前達、何をそんなところで固まっている」
「ちふ、織斑先生」
さっきの流れで『千冬さん』と言いそうになった鈴が、途中でなんとか言い直す。たぶんそのまま言ったら、どこからともなく取り出した出席簿が火を噴いてただろうな。
「ほう、懐かしいものを持っているな。ついでだ、記念に一枚撮っておくか」
「え、いいんですか? 織斑先生」
千冬姉から返事がある前に、みんながささっと整列しだした。
「それじゃ、撮るぞ~」
「いやいや、お前が写らなくてどうすんだよ」
「え?」
横からすっとカメラを取られて振り返ると、陸達がそこに立っていた。
「ほら、俺が撮ってやっから、お前も並べ並べ」
「ちょっ、おっとと……」
陸に背中を押され、そのまま列の中央に立たされていた。
「そんじゃ撮るぞ~。3、2、1」
――カシャッ
「こんな感じか」
そう言って陸が、俺にカメラを返してくる。
「サンキュな陸」
「いいって。むしろあそこでお前がシャッター切ってたら、嫁共が暴動起こしてたぞ」
そんな馬鹿な……と思って振り返ったら、箒達が(なぜか千冬姉も一緒に)揃って腕を組んで首を縦に振っていた。お、おおう……。
「ねぇねぇ織斑君、できれば私達も撮ってほしいな~」
「楯無さん達をですか? いいですよ」
「やった♪ ほら、並びましょ」
「お、お姉ちゃん」
「引っ張るなって!」
楯無さんにぐいぐい引っ張られた陸と更識さんが、横一列に並ぶ。陸の左右それぞれに腕を絡ませて……うん、爆発しろ。(自分棚上げ)
――カシャッ
鋼の精神(自己申告)でシャッターを切った。まさか俺も、周りからはこんな風に見られてたり……するんだろうなぁ……。
ーーーーーーーーー
修学旅行1日目は、ホテルの集合時間まで自由行動となっている。さて、どこに行ったもんか……。
「陸、駅のすぐ近くに――」
「わざわざ京都でアニ〇イトは行かねぇぞ」
「ええ~……」
どうして分かったみたいな顔すんな。お前のような奴が考えることなんざ、お見通しなんだよ。
「寺を見て回ってもなぁ……」
「あら、たまにはそういった文化遺産を見るのもいいものよ? というか、それが修学旅行ってものでしょ?」
「それは、まぁ……」
「そうだけど……」
「ほら、それなら京の街並みを散策しましょ」
そう言うと刀奈は俺と簪の腕を掴んで、五重塔が見える方に向かって歩き出した。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それから俺達3人は京都の町を見て回ったわけだが、なるほど確かにいいものだ。
「三十三間堂、教科書の写真ではよく見たが、実際に見ると迫力あったな」
「うん。千手観音像が1000体とか、圧倒されそうだった」
「でしょ~?」
そんな俺達の手には、それぞれジェラートが握られている。秋空の下でジェラートってのも乙なもんだ。
ちなみにそのジェラートの店の前で、一夏と凰が1つのジェラートを二人で食べてるところを目撃したから、修学旅行が終わったらそれをネタに揶揄ってやる予定だ。
「それじゃ次は……あら?」
「どうしたのお姉ちゃん? 猫?」
そう、俺達の前に、真っ白な猫がこちらをじっと見つめていた。首輪も付いてるから、飼い猫が逃げ出したのか?
「『シャイニィ』、こっちサ」
突然後ろから声がして振り向くと、どうやら飼い主らしい女の肩に白猫が飛び乗った。
右目に眼帯をした着物の女。それならまだ分かるが、着物は思いっきり着崩してる上に、袖から出ていない右腕。もしかして、隻腕なのか?
「あ、貴女は!?」
「もしかして……」
「ああ、さすがにIS学園の生徒には気付かれるネぇ」
「……誰だ?」
「「「ちょぉぉぉ!?」」」
ガクッと俺以外の3人がコケそうになる。お、猫が肩から落ちてねぇ。やるな。
「陸……さすがにそれはない」
「これは、私が自惚れてたってことなのかネぇ……」
「いえ、さすがにこれは陸君が悪いです」
なんか俺、めっちゃ集中砲火を浴びてんだが?
「陸、この人は第2回モンド・グロッソの優勝者でイタリアの国家代表、アリーシャ・ジョセスターフ選手だよ」
「第2回大会の……ってことは、2代目ブリュンヒルデってことか?」
「アイツとの決着が着く前にその呼び方はやめてほしいネ。アーリィって呼ぶといいのサ♪」
そう言ってアーリィはウインクをして、肩に乗った猫(シャイニィだったか)の頭を撫ぜる。
「で、でも、どうしてアーリィさんがここに?」
「人を待ってるところ……と言いたかったんだが、向こうからドタキャンされてしまったのサ」
「ど、ドタキャン?」
刀奈がポカーンとした顔をしてオウム返しをした。国家代表との約束をドタキャンって、ずいぶん肝が据わってるなそいつ。
「まぁ仕方ないサ。とある"きぎょう"からお誘いが来てたんだが、来日したらその"きぎょう"は潰れたと知らされてネ。それで話はご破算、ただイタリアにトンボ返りするのも癪だから、こうやって日本観光と洒落込んでるわけサ」
「はぁ……」
「それはまた……」
簪も刀奈も、アーリィの話に呆けた声しか出せない。来日したその日に潰れたのを知ったって、運が悪ぃなぁ……でも待てよ? 最近『国家代表を雇えるような企業』が潰れたって話あったか? まさかとは思うが……
「なぁアーリィ」
「ん? 何かナ?」
「もしかしてなんだが……」
「そこ、
「「っ!?」」
「へぇ」
俺の問いに、簪と刀奈は驚いた表情でアーリィの方を見た。奴さん、『面白い』と言わんばかりの顔をしている。つまり当たりか。
「なかなかどうして、いい勘してるのサ」
「あんがとよ」
偶然"きぎょう"が"機業"に脳内変換されたのと、最近亡国機業が壊滅したって話を聞いてて頭に残ってたっていう話なんだがな。
「それにしてもなんでまた、あそこに入ろうと思ったんだ?」
「簡単な理由サ。『チフユ・オリムラとの再戦』それだけが私の望みなのサ」
「そのために、亡国機業に?」
「そのつもりだったんだけどネぇ……」
完全にアテが外れたのサ、そう言ってキセルをくわえて吹かし始めた。
「織斑先生との再戦ねぇ……」
いつだったか、一夏に聞いたことがある。
第2回のモンド・グロッソで、織斑先生は誘拐された一夏を助けるために決勝戦を棄権したって。そしてそれがアーリィの言う『チフユ・オリムラとの再戦』に繋がっていくんだろう。なるほどなるほど、それなら……
「よしやろう」
「「「は?」」」
目が点になってる3人を一旦放置して、俺はスマホに登録されているナンバーにかけた。
「織斑先生、アーリィと決闘してください」
「いきなり何を言い出すんだお前はっ!?」
めっちゃ怒鳴られた。
たっちゃん、お姉さん路線には戻れない。(そんな路線、そもそも)ないです。
一夏のカメラ。ここはほぼ原作再現ですね。最初は束も写らせようと考えていたんですが、話がごっちゃになりそうなので今回はカットで。大丈夫、まだまだ出番はあるから。
アーリィ初登場。亡国機業が無くなったから、仕方ないネ。