「……」
仰向けに倒れたまま、私はアリーナの天井を見つめていた。
「お姉ちゃん……」
そんな私に、大型のライフル――最後に私を倒したブレードが付いた――を引きずって、簪ちゃんが近づいてきた。
「ホント……強くなったわね……」
「私一人じゃお姉ちゃんに勝てなかった。陸や本音が居たから、私は戦えた」
「そっか……」
"足場"、簪ちゃんはそう言った。『更識簪』として、自分の足で立つと……。
「でも……あの時言ったこと、一つ訂正したい」
「か、簪ちゃん……!?」
私を抱き起した簪ちゃんは、そのまま私を抱きしめた。
「もう『更識楯無の妹』じゃないって言った。あれは訂正」
「簪ちゃん……」
「私は、お姉ちゃんの妹。今までも、これからも」
簪ちゃん……あ、あれ……? なんでかしら、泣くつもりなんて、無かったのに……
私も両腕を伸ばして、簪ちゃんを抱きしめた。
「お、お姉ちゃん……」
「今まで簪ちゃんの気持ちから逃げ続けて来た、ダメなお姉ちゃんでごめんね……。そして、私の妹で居続けてくれて、ありがとう……!」
「お姉、ちゃん……!」
簪ちゃんの頬にも、涙が伝って落ちた。そんなところまで、姉妹で似なくてもいいのに。でもそんな事ですら、今は嬉しかった。
「うわぁぁぁぁっ!お姉ちゃんっ!」
「簪ちゃん…っ! 簪ちゃん……っ!」
私たちは抱き合って、一緒に泣いた。 今までの分を埋め合わせるように、強く、強く抱き寄せ合って。
勝負がついて、真っ先に虚先輩が観客席から飛び出していき、それをのほほんと俺が追う形になった。
そしてピットからアリーナに入ろうとしたんだが……
「えーっと……」
「ここで出て行ったらお邪魔かな~……?」
「多分な……」
姉妹で感動の抱擁を交わしていたわけで、出るに出れなくなってしまったわけだ。
「と、とりあえず、もう少しだけ待ちましょう?」
「分かった~」「分かりました」
虚先輩の提案にのほほんと頷いて、俺達はピット内で待つことにした。
幸い、5分ほどで感動の抱擁は終わった。
「かんちゃーん、大丈夫ー?」
「お嬢様、簪様。お怪我はありませんか?」
「倒れた直後は起き上がれなかったけど、もう平気よ」
「私は問題ない」
「そうか。二人とも大きな怪我が無くて何より……って簪!」
「え?」
俺の声に、周りにいた全員が簪を見た。
簪が纏っている紅い打鉄弐式。それが淡く光り出して……
「元に、戻った……?」
打鉄弐式は元の淡青色の、俺達が見慣れたものに戻っていた。あの大型ライフルも、いつの間にか消えていた。
「ほ、本音。管制室に行って試合時のデータを用意しておいて」
「う、うん!」
虚先輩に指示されて、のほほんがバタバタを走っていた。
ーーーーーーーーー
「で、何も分からなかったと」
「はい……アリーナの観測装置では、真紅の方も『打鉄弐式』と認識しており、
「打鉄弐式が完成したのが先週。それからどう考えても、
管制室でのほほんが揃えたデータを見て、パイセンと虚先輩が腕を組んで首を傾げていた。
「困ったわねぇ。これじゃあ今回の決闘が公式記録にならないから、簪ちゃんに生徒会長の椅子を譲れないじゃない」
「せ、生徒会長の椅子!?」
「そっか~、かんちゃんはたっちゃんを倒したから~」
「『IS学園の生徒会長は、学園最強がなる』ってパンプレットに書いてあったし」
「本来は、簪様に移譲されるはずでしたね」
「い、いらない! 私そんな……!」
そう言って、簪はブンブンと首を横に振った。生徒会長・簪か……それはそれで見てみたい気もするな。
おっ、それなら
「なぁ簪。生徒会長の椅子に興味ないなら、少し時間はかかるが、別のものを目指してみないか?」
「別の?」
「りった~ん、何を企んでるのかな~?」
「企むとか人聞きの悪いこと言うな。それはだな……」
「目標は、モンド・グロッソ優勝だ」
「えぇ!? む、無理無理!」
「そうかな~? かんちゃんならなれると思うけどな~」
「私も本音の意見に賛成よ」
「確かに、ロシアの現・国家代表であるお嬢様に勝った簪様なら、将来的にも可能性はあります」
「本音にお姉ちゃん……虚さんまで……! 陸ぅ!」
四面楚歌だからって、俺を睨むな睨むな。
「落ち着け。今言った目標だって、学園を卒業して国家代表になるって条件をクリアした上での、まだまだ先の話だ」
「あ……そうか……」
「それに、そん時はこれまで通り、俺ものほほんもサポートするつもりだ。なぁ?」
「もっちろ~ん!」
「陸……本音……」
「だから、俺達と『俺と契約して、
人が真剣に話してる時に、変声機使って俺の声マネしてまでギャグネタ重ねて来やがってぇ!
「う、うわぁ! 思ってた以上に怒ったぁ!?」
「ゆ゛る゛さ゛ん゛!」
「て、撤収ぅ!」
「に゛か゛さ゛ん゛!」
脱兎のごとく管制室を飛び出したパイセンと、怒りの波動に目覚めた俺のリアル鬼ごっこが始まった。
ーーーーーーーーー
「はぁ……お嬢様……」
「あはは~……たっちゃん、今回は相手が悪かったかな~……」
管制室を飛び出していった二人を見て、虚さんはため息をつき、本音は苦笑いを浮かべていた。
「もう、お姉ちゃんも陸も……」
仲がいいのか悪いのか。
――ズキンッ
(え……何……?)
何だろう、今、胸に痛みが……
「かんちゃん、どうかした~?」
「え? う、ううん、何でもない!」
「ん~」
何か悩む仕草をした本音が、私の耳元に顔を近づけて
「りったんとたっちゃんは、
「ほ、ほほほ本音ぇ!?」
な、何を言ってるの!?
「だから、かんちゃん頑張って~」
「何を!?」
「本音、簪様に一体何をしたの?」
「あ、お姉ちゃん。あのね~」
「や、やめて~~~!!」
このあと、めちゃくちゃ本音を黙らせた。
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◆ここまでの登場人物説明
リク→宮下陸(みやした りく)
前作オリ主と同じ、外史に介入して物語を円滑に進める現地作業員。
機械馬鹿なのと時々ギャグネタをかますのに目を瞑れば、比較的常識人。
表面上は軽い性格で、原作主人公の一夏とも普通に接している。ただし、キッチリしている部分もあるため、シメるところはシメる。(現時点で一番シメられているのは楯無)
機械(IS)弄りが絡むと馬鹿になり、本音とつるんで『ジョバンニが一晩でやってくれました』をやらかし、簪が頭を抱えるまでが1セットになっている。
「さ~て、次はどこを強化すっかな~」
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更識簪(さらしき かんざし)
本作のメインヒロイン兼ツッコミ役。
一夏より先にオリ主の陸と知り合い、本音とも和解したため、原作1巻相当の時点で専用機が完成した。それにより心に余裕が生まれて、根暗属性が軽減されつつある。(陸と本音のやらかしに対応していて、暗くなる暇が無くなったともいう)
本作では謎の異世界人と夢(?)の中で対話したり、姉である楯無との決闘の中で自分の立脚点を持ち始めたことで、原作より成長スピードが上がっている。(はず)
「私は私。それ以外の何者でもない」
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更識楯無(さらしき たてなし)
簪の実姉で、IS学園の生徒会長。
暗部である更識家のしがらみに妹を巻き込まないよう行動した結果、却って事態がややこしくなってしまった上、本格的に姉妹の仲が悪くなることを恐れて行動を起こせなかったヘタレ。が、簪との決闘で姉妹間のわだかまりも無くなり、そのきっかけを作ってくれた陸と本音には感謝している。
妹である簪命であり、たまーに理性を失ったりする。(その所為で、陸からアームロックをかけられる事が多い)
「だからアームロックはやめてってばぁ!」
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布仏本音(のほとけ ほんね)
簪の従者で幼なじみ。通称「のほほん」
簪の専用機開発凍結の際、楯無の命令で動いていると勘違いされて疎遠になっていたが、一人で専用機を組み上げる事をやめた簪からの謝罪を受けて和解する。
オリ主である陸の悪ノリに乗ることが多々あり、そうなると一緒になってジョバンニになってしまい、最終的に簪が頭を抱えることになる。
陸達とは異なり1組在籍。そのため、一夏達の動向は本音経由で入ってくることが多い。
「零落白夜みたいに、ビームソードとか作ってみたいよね~」
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布仏虚(のほとけ うつほ)
楯無の従者で幼なじみ。本音の実姉。
本音と比べると落ち着いた性格で、姉妹とは思えないほど。ただ、更識姉妹を考えればそういうものなのかもしれない。
主君である楯無の無茶振りや仕事サボりに頭を痛めることも多く、鎮圧用に陸からアームロックを習おうか本気で検討中。
「お嬢様、まだ書類仕事が残ってますよ」
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織斑一夏(おりむら いちか)
原作主人公。唐変木なのは相変わらず。
オリ主の陸との仲もそこそこ良好で、その時受けたアドバイスを実行したため、1組内での評判も『かっこよくて、女尊男卑に迎合しない意志の強さがあって、それでいて自分の間違いを素直に認めて謝罪できる人』と右肩上がりになっている。同じ男性操縦者として、陸ともっと仲良くなりたいと思っている。(もちろんホモォ的な意味ではない)
「俺はもっと強くなるんだ!」
ここに来て、やっとタイトル回収