これなら前後編一回で出した方が良かったのでは……?
アリーナの観客席から見えるジョセスターフ選手は、織斑教諭に若干押し込まれているはずなのに、とても楽しそうに見えます。
「どうして……なんでしょう……」
「それはあの眼帯が、全力でぶつかってるからだよ。くーちゃん」
「え?」
突然の回答に振り向くと、そこには束さま――出来損ないの私を引き取ってくださった恩人――がいました。
束さまは私の頭を撫ぜると、クラスの方々が空けて下さった左隣の席にドッカリと座って
「いいものだよ、自分の全てをぶつけられる相手がいるっていうのは。束さんにとってのちーちゃんみたいにね」
「束さまも、ですか?」
「そだよ。もしちーちゃんがいなかったら束さん、この世界を見限ってたかもしれないね。いっくんや箒ちゃんがいても」
「そういう、ものなのですか?」
「うんうん。くーちゃんも、いつかそんな相手を見つけられるといいね♪」
「束さま……」
「う~ん、そろそろ"ママ"って呼んでくれてもいいんだよ~?」
「そんな、恐れ多い……」
「む~……仕方ない、今回は諦めよう! それじゃあくーちゃん、またあとでね~!」
最後にまた私の頭を撫ぜると、束さまは席を立ち、颯爽と去って行きました。
「クロエさん、篠ノ之博士の娘ってホントだったんだ~」
「ねねねっ、いつもはどんな話をしてるの?」
「あ、あの……」
束さまが去った後、クラスメイトの方々が集まってくるのですが、私は束さまとは……
「こらこらみんな~、あんまりくーちゃんをイジメちゃだめだよ~」
「いや布仏さん、別にイジメてるわけじゃ」
「む~!」
「あ、はい」
私が困っていると、布仏さん――どうしてあんな、袖がダボダボの制服を着ているのでしょう?――が騒ぎを収めてくださいました。
「大丈夫~?」
「はい、ありがとうございます」
「みんな、篠ノ之博士やくーちゃんのことが知りたかっただけで、悪気は無かったんだよ~。だからみんなのこと、嫌いにならないでね~」
「分かってます」
束さまがどれだけ世界に影響を及ぼすお方かも、そんな束さまのことをみなさんが知りたがってることも、承知しています。
「それじゃあみんな、仲良くね~」
布仏さんは手(袖)を振ると、自分の席に戻って行きました。
(自分の全てをぶつけれる相手、ですか……)
布仏さんに手を振りながら、私は束さまの言葉を反芻していました。
ーーーーーーーーー
「はあぁぁぁぁぁ!」
「ふっ!」
(アーリィめ、なかなかやる! 零落白夜の弱点を、尽く突いてくる!)
三度再生されて突撃してくる分身を、零落白夜で切り裂く。
「零落白夜はあらゆるエネルギーを無効化する。けれど自分のSEを消費してしまう分、長期戦には不向きサ」
――ガキィィンッ!
「かといって、私が風の槍や分身をぶつけるだけだと思われるのも心外さネ!」
そう、奴のテンペスタは格闘型のIS。分身を片付けてるのに少しでも手間取れば、あっという間に間合いを詰められて拳が飛んでくる。今は展開装甲で防いでいるが……
「それにしても、その装甲は反則じゃないかネ? 尽く防御されて困るヨ」
「これが桜花の数少ない装備なんでな」
とはいえ、ここままでは奴の言う通り、こちらのSEが底を尽きてしまう。
「っ!」
分身を斬って、一旦距離を取る。
「すまんが、そろそろ終いにさせてもらうぞ」
「おやおや、私はもっと戦っていたかったんだがネ」
「言っていろ」
梅花を正眼に構え、息を整える。更識妹の時と同じ、一瞬で片を付ける……!
「本気、みたいサ」
「当たり前だ」
アーリィもこちらの意図を読んできたのか、風の槍を持って構える。
「征くぞ」
「来るといいサ」
「いざっ!」
――ドンッ!
瞬時加速で突撃を掛ける私の左右から、風の分身が襲い掛かる。
――キィィィン
「なぁ!?」
アーリィの驚いた声が、ドップラー効果のように聞こえてくる。
驚きもするだろう。
私を攻撃しようとした2体の分身が、同士討ちをして消え去ったのだから。
「勝負っ!」
正眼に構えていた梅花を霞に構え直し、そのまま奴の喉元に、突きを叩きこむ。
「ゴッガッ!」
咄嗟の動きで狙いを外され、それでも中心線を捉えた私の一撃は、テンペスタのSEを一撃で削り切った。
「さすが、ブリュン、ヒル、デ、ネ……」
『テンペスタ、SEエンプティ。勝者、織斑千冬』
――ワァァァァァァッ!!
試合終了のアナウンスと共に、観客席からの歓声が全方位から響き渡る。
(ああ、久々の感覚だな)
かつてモンド・グロッソの場で戦っていた、あの時の感覚が蘇る。未練はないが、振り返れば輝いていたあの日々――
(最初は仕方なくだったが……私にとっても、この"やり残し"を行えたことは幸運だったな)
だが宮下、おまえは後でシバく。
ーーーーーーーーー
「……負けた、みたいサ……」
目が覚めると、私は布団の上にISスーツのまま寝かされていた。
見覚えはある。日本の京都に来てから宿泊してる部屋、のはず。
「満足したか?」
「ああ、この上なく」
上半身を起こして声のする方に向けると、チフユとの勝負を斡旋してくれた少年が――
「……少年、その頭どうしたのサ?」
少年――確か2人目の男性操縦者で、宮下陸だったカ――の頭に、三段アイスかと言わんばかりのタンコブが乗ってるネ……。
「エキシビションマッチの後、織斑先生にシバかれた」
「oh……」
聞いた話曰く、私をこの部屋に運んだ後、出席簿の角で叩かれまくったらしい……しかも篠ノ之博士も一緒に。さすがチフユ、容赦ないネ。
「ところで、聞いていいかナ?」
「ん?」
「あの試合、私の分身がチフユを攻撃しようとした時のあれ、なんだったのか分かるかネ?」
風の分身の攻撃が、同士討ちを起こしたあれは……
「推測で良ければ」
「それでいいヨ」
「おそらく織斑先生は、分身の攻撃を梅花で釣ったんじゃねぇかな?」
こんな感じにな、と言いながら、少年は身振り手振りで説明を始める。だが、その説明通りなら
「つまりチフユは、こっちの攻撃を引っ張って、わざと勢い付けたのカ?」
「ああ。その際にほんのちょっとブレたベクトルが、最終的には桜花を掠りもせずに反対側の分身を捉えるほどの誤差になったわけだ」
「そんなことが……」
だが、言われてみれば思い当たる節もある。これは本当に、チフユにしてやられたわけだナ……。
「あ~、完敗サ~」
起こしていた上半身を、再び布団にダイブ。ついでに両手両足も伸ばして大の字に。
「そういうのはやめとけ。ISスーツだからいいけど、着物だったら下見えてるぞ」
「あんまりジロジロ見てると、あの青髪のカノジョ達に怒られるヨ」
「うっせ。それに言ってることは間違ってないが、ニヤニヤしながら言うことじゃねぇよ」
おっと、顔に出てたカ。
「心配しなくても、目が覚めたら戻ってくるように言われてるからな」
そう言って、少年は立ち上がると部屋を出て――行こうとして、一旦戻ってきた?
「忘れるところだった。これ、写しな」
「写し?」
何のことか分からず、渡された紙を反射的に受け取っていた。
「そんじゃ、
紙を受け取ったのを確認すると、今度こそ少年は部屋を出て行った。
「相変わらず不思議な少年だったネ……ん゛ん゛!?」
ふと渡された紙を見た私から、普段出さない声が出たんだガ!?
『IS学園 雇用契約書』
「IS学園の教師って……しかも私のサインと押印!? いつの間ニ!?」
書類には書いた覚えのない私のサインがされ、拇印が押されていた。 うわっ、親指がうっすら赤くなってるヨ!
え? もしかして私が気絶してる間にサインを偽造して、勝手に拇印を押したのカ!? 犯罪じゃないのサ!
――ガサッ
「紙が、もう一枚?」
『お前が望んでいた勝負を受けてやったわけだが、私にメリットがないのは不公平だろ? だからお前には、しばらくIS学園で仕事をしてもらうぞ。
なにせ学園は万年人手不足でな。特に世界大会に出られるほどの人材は、喉から手が出るほど欲されてるんだ。
どうせテロリストになる気だったんなら、堅気の仕事をして私を楽させろ。
契約書に重なっていたらしい、もう一枚の紙を見て、思わず目眩がしそうネ……。
(けどこれは、考えようによっては好機なのではないカ……?)
IS学園にはチフユがいる。その学園の教師になれば、チフユとの再再戦の機会も……?
「ふふふ……やってやる……やってやるヨ!」
そうと決まったら、さっそくチフユのところに――!
「おぐっ!」
急に起き上がったせいなのか、チフユに一撃入れられた胸元が痛み出して、しばらく布団の上を転げ回ることになってしまったのサ……。
決着。さすがにちーちゃんは強かった。簪? あれはイレギュラーだから……。
アーリィ、教師にさせられる。スコールが社長の椅子に縛り付けられて学園を抜けることが確定しているので、その代わりをちーちゃんは求めていたのだ……。
次回、もしかしたら原作のマッサージ回。