世紀の試合が終わり、IS学園の生徒達を乗せたシャトルバス(急遽チャーターされたものらしい)は、今夜泊まる旅館の前に停車した。
「それにしても、すごい試合だったよね~!」
「前回のモンド・グロッソで見られなかった、幻の対戦でしょ? それを見れた私達ってラッキーじゃない?」
「そうそう! やっぱり織斑先生強かったねぇ!」
荷物を持ってぞろぞろと下車するクラスメイト達が言ってるように、俺もまさか修学旅行に来て、また千冬姉の試合を見ることになるとは思わなかった。
しかもその試合のために沖合にアリーナを作るとか、束さんは一体何考えてんだ? 陸達も陸達で、一夜城よろしく作っちまうし……。
「どうしたのだ一夏?」
「いや、あのアリーナ、どうすんのかなって」
「確かに……姉さんも宮下達も、試合後にすぐ解体する素振を見せなかったからな……」
さすがにあのサイズの建物を沖合に放置はしないと思うけど……。
「その辺は抜かりない」
「織斑先生」
箒と話していると、旅館の入り口から千冬姉がいつものスーツ姿で出てきた。対戦相手の、えっと……アーリィ選手? を運ぶとか言っていなくなってたけど、先に旅館に着いてたのか。
「それで織斑先生、抜かりないとは?」
「うむ、あのアリーナは上部部分のみ解体して、下部のフロート部分は残すことになっている」
「フロート?」
「フロートって……あのアリーナ、フロートの上に建ってたんですか!?」
「さすが篠ノ之博士、とんでもないことをしますわね……」
俺が首を傾げていると、後からバスを降りてきたシャル達がすげぇ驚いていた。そんなに驚くことなのか? と思っていたら
「いいか嫁よ、フロートというのは簡単に言えば
「いかだ!? あんなデカイのが!?」
「そうだ。そのいかだの上に、ISの試合ができるアリーナを建てていたんだ、あの宮下達は」
ラウラの説明に、俺も驚くしかない。箒も隣で驚いているのか、声が出ないようだ。
「いやいやいや……だって試合中、全然揺れもしてなかったぞ?」
「あれだけの
少なくとも、ラウラが首を捻るぐらいには謎技術ってわけだ。
「今後フロート部分を、海産物の養殖場として再利用するそうだ」
「はぁ……」
それはまた、壮大な話で。というか、そのフロートの資材は束さんの持ち出しだったみたいだけど、回収しなくて良かったのか?
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「どうしてこうなった」
俺はそう呟いていた。
「さあ一夏」
「一夏さん」
「いーちか♪」
「一夏ぁ」
「嫁よ」
「いっくん♪」
俺の目の前にずらっと並ぶ、浴衣姿の6人。そして
「さぁ時間は有限だ、キリキリ片付けろよ」
缶ビール片手に面白そうに囃し立てる、マイシスターの姿があった……
事の発端は、風呂上りに瓶牛乳を飲んでいたら、同じく風呂上りの千冬姉と遭遇したことだ。
「織斑、悪いんだが頼みがある」
「頼みですか?」
「ああ、こっちに来い」
「は、はい」
そうやって連れてこられた先には、『教員室』の張り紙が貼られた襖が。
「さぁ、入れ」
言われるがまま部屋の中に入ると、千冬姉は備え付けの小型冷蔵庫からビール缶を取り出してプシュッ! と景気のいい音をさせると
「んぐ、んぐ……ぷはぁ!」
勢いよく呷り出したんだが? いいのかよ?
「気にするな。今日の仕事は終了した。あとは山田先生とスコール達に任せてある」
「お、おう……」
「それで一夏、頼みなんだが」
俺のことを"一夏"と呼ぶってことは、生徒としてではなく、弟しての頼み事ってことか。
「今日の試合はさすがに疲れた」
「そうだろうね」
「で、だ。私も自分の体を労わってやりたいと思っているわけだ」
「それでビールを飲んでるんじゃ?」
「内側はな。外からも体を癒してやる必要がある」
そこまで言われて、千冬姉が何を言いたいか段々分かってきたぞ。
「つまり『マッサージしろ』ってことか」
「うむ。察しが良くて私は嬉しいぞ」
ニヤッと笑うと、千冬姉は敷かれていた布団の上にうつ伏せに寝転んだ。
昔はよく仕事から帰ってきた千冬姉にマッサージしてたけど、最近はまったくやってなかったな。
「久々だから、最初は軽めからするよ」
「ああ、お前に任せる」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「千冬姉、久しぶりだから緊張してる?」
筋肉が固くなってるな。疲労だけでこれだけ固くなってるなら相当だぞ。
「そんなわけあるか、馬鹿者……んっ!」
「あ、ごめん。痛かった?」
「いや、大丈夫だ。続けてくれ」
「はいはい。それじゃあ、ここは?」
「つぅっ! そ、そこは……!」
あ~、胃腸のツボはやっぱり痛いか。
「すぐ(胃腸の動きが)良くなるって。だいぶ(乳酸も)溜まってる感じだし、ね!」
「お、おぉぉぉ!」
肩のツボを指圧すると、よほど痛かったのか、千冬姉は大声を上げた後にボフンッと枕に顔面から倒れ込んだ。
「い、今のはなかなか効いたぞ……」
「千冬姉の体が悪いんだから、文句言わない。それじゃ次は――」
「いや一夏、少し待て」
「?」
すくっと立ち上がった千冬姉が、部屋の入口である襖を開けると
――ドシャァァァァァ!
「「「「「「ぐへっ!」」」」」」
浴衣姿の6人が、部屋の中に文字通り雪崩れ込んできた。
「箒達、一体何やってんだよ……? しかも束さんまで」
「ガキ共もそうだが、束、お前もか……」
「あ、あはは~……」
束さんと筆頭に、誤魔化し笑いでどうにか乗り切ろうとするが、千冬姉にそれは効かないだろう。
「はぁ……まぁいい、入れ」
「「「「「「え?」」」」」」
千冬姉のまさかの発言に、6人とも目を丸くする。
「そ、それじゃあ……」
「お邪魔しま~す……」
そう言ってぞろぞろとみんなが部屋に入ると、千冬姉は襖を閉めて
「で? お前達は襖の前で何をしていた?」
「「「「「「えぇ!?」」」」」」
なんだよみんな、なんでそんな顔真っ赤にして驚いてんだよ?
「どうせお前達のことだ。私が一夏にマッサージさせているのを、いかがわしいことをしていると早合点したんだろう?」
「え? マッサージ?」
「今のが、マッサージ……?」
「わ、わたくしは分かっていましたわ!」
「セシリアだって、『姉弟でなんて、そんなアブノーマルな!』とか言ってたでしょ……」
そんなに俺が千冬姉にマッサージしたらおかしいかよ。というか、ホントに一体何を想像してたんだ?
「どうせならお前達も、一夏の腕前を味わってみたらどうだ?」
「一夏の腕前って……」
「マッサージの、ですか?」
「ああ。一夏、まだ体力は残っているな?」
「俺は大丈夫だけど……」
俺がそう答えると、目をキラキラさせた6人が……
「さぁ時間は有限だ、キリキリ片付けろよ」
そしてここに至るわけだ。
「やるのはいいけど、全員まとめては無理だからな? 順番にやってくぞ」
「順番か……」
「はいは~い! いっくんよろしく~!」
「ああっ! ズルいぞ姉さん!」
いつの間にか、束さんが布団の上でうつ伏せになっていた。千冬姉の方を見ると、
「どうせ全員に順番が回ってくるんだ。先に束をやってしまえ」
とのお達し。
「分かった。束さん、体から力を抜いてくださいね」
「お~け~だよ~」
「思いっきりダレてますわね」
セシリアが言うように、束さんは布団の上で完全にダレきっていた。その方がマッサージはしやすいんだけどな。
「それじゃあ始めますよ」
束さんに声を掛けて、俺は手始めに背骨に沿って存在するツボを指圧――
「あひぃぃぃっ❤」
「ぶふっ!」「ぬわぁ!」
束さんが上げたあられもない声に、千冬姉がビールを吹いた。そしてそれを被った不幸なラウラ。
「た、たたた、束! 貴様なんて声を出すんだ!」
「え、今の束さんが……?」
どうやら束さんも、千冬姉に指摘されるまで気付かなかったみたいだ。……グイッと
「ひぃぃぃぃんっ❤」
「ね、姉さんが、あんな声を上げるなんて……」
「もしかして、一夏のマッサージって……」
「ですが、織斑先生はここまでの声は……」
「まさかとは思うが、教官は……」
「なんだお前達、何が言いたい?」
「これで声が出ないなんて、ちーちゃんの神経、恐竜並みだよぉ」
「……っ!?」
いやいや、どうしてそうなるんですか束さん。そして千冬姉、どうしてそこで膝から崩れ落ちるんだよ……?
「た、試しに、他のみんなもやってもらえばいいよ」
束さんがゴロゴロ転がって布団の上を空けると、
「そ、そうね。なら次はあたしが試してやるわ」
と言って寝転がったから、肩甲骨の辺りを――
「ふわぁぁぁぁぁぁ❤」
さっきの束さん以上の艶声だった。
「こ、こりぇだめぇ……だめになっちゃうぅ……」
ピクピクと軽く痙攣する鈴。自分でやっといてなんだけど、大丈夫か?
「つ、次は僕だね……」
「あの、シャル? 今の鈴を見て無理しなくても……」
「やるよ! 一夏よろしく!」
「お、おう」
そこまで言われたら仕方ない。確か横腹にもツボが――
「きゃぁぁぁぁぁぁっ❤」
鈴と負けず劣らずの声が出た。
「あ…ひっ…ふわぁ…❤」
あれ? 俺って確か、普通のマッサージしてるんだよな? 自分でも不安になってきたぞ。
「なんか、もうやめた方がいい気が……」
「ここでやめるのは男らしくないぞ一夏!」
「マッサージやめたら男らしくないのかよ!?」
始めて言われたぞそんなこと!
「さあ次だ!」
布団の上から動けないシャルをゴロンと転がして、そこに箒が横になる。分かったよ、やればいいんだろ!
え~っと、箒なら肩コリとか酷そうだからここを――
「らめらぁぁぁぁぁっ❤」
……だからやめようって言ったのに……
「次はわたくしですわ!」
――コリッ
「あぁぁぁぁんっ❤」
「即落ち2コマとは、やるねぇ……」
いや束さん、何がやるんですか、何が。
「ふむ、最後は私だな!」
最後に残ったのはラウラ。千冬姉にかけられたビールを洗い流しに行ってたらしい。
「ラウラ、本当にやるのか?」
「ここまで来て、私だけ体験しないわけにはいかないだろう?」
ここまでの惨状で、どうしてウキウキしながらうつ伏せになれるのか……。
「それじゃ、始めるぞ?」
「ああ、頼む!」
そんなラウラの足、ふくろはぎにあるツボを――
「お、おおぉぉぉっ!?」
おや? 他のみんなと反応が違うな。
「こことかどうだ?」
膝の裏やくるぶし近くにあるツボを順々に指圧していくと
「お、おお。こ、これが、痛気持ち、いいと、いうもの、か」
どうやらラウラだけは、他のみんなと感覚が違うようだ。これなら――
「あ、ああ~。この指圧された直後に、痛みとコリが引いていくのが、いい~」
よっぽど気持ちよかったのか、うつ伏せのままラウラは
「すぅ……すぅ……」
「寝ちまったか……」
しかし困った。
「はぇぇぇ……」
「はにゅぅぅぅ……」
「私の神経は、恐竜並み……」
部屋には力尽きたみんなと、崩れ落ちたまま微動だにしない千冬姉。
「……仕方ないよな」
一人じゃどうにも出来ないと悟った俺は、ひとまず山田先生を
フロート跡地は再利用。現実なら隣の半島から口出しされそうな案件。フロートとはいえ陸地が増えるようなもんですから。
テクニシャン一夏の本領発揮。原作でもアンジャッシュしてたマッサージですが、本作では思い切って微エロくしてみました。けれどラウラの微エロは想像できなかったです……。