でも最初は茶番から。
第128話 とある冬の日
――ラビット・カンパニー 社長室
「ふおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「す、スコール、大丈夫か?」
「これが大丈夫に見える!?」
あんの紫兎! なんなのよこの殺人的な忙しさは! 私がサイボーグだからって、24時間戦えると? 無茶言わないでよ!!
「受信アンテナの資材調達に業者の選定、設置工事の場所や日程についてIS学園との折衝……頭がおかしくなりそうよ!」
「そうは言っても、実際の作業は部下に振ってるだろ」
「それでも書類の決裁は私がしないといけないのよ!」
これで実働まで私がやったら死ぬわよ! というかオータム、貴女最近私に冷たくない?
「とりあえず、クリスマス休暇が取れるように頑張ろうぜ」
「クリスマス休暇ねぇ」
窓の外に視線を向けてみれば、ちらちらと雪が舞い始めていた。もうそんな季節なのね。
「はぁ……こうやって叫んでても仕方ないわよね……」
「頑張ろうぜ」
「ええ。と、いうわけで」
――ドンッ!
オータムの机の上に、未処理の書類の山を置いた。
「す、スコール?」
「貴女も書類仕事、頑張りましょ?」
「ファーッ!?」
ムンクの叫びのような顔になったオータムを見たら、少しやる気が戻ってきたわ。さぁ、さっさと片付けましょうか。
ーーーーーーーーーーーーー
「セシリア、買い物に付き合ってくれないか?」
「お買い物、ですの?」
俺のお願いに、セシリアは首を傾げた。
「実は買いたいものがあるんだけど、俺全然知識が無くてさ、セシリアならその辺詳しそうだと思って」
「一体何を買いますの?」
「それは……ごめん、今は言えない」
「はぁ」
セシリアに怪訝な顔をされてしまった。そうだろうな、買うものを伝えずに買い物に付き合えって言ってるんだから。でも、言えないんだよ。
「分かりましたわ。一夏さんのお願いですもの、お付き合いいたしますわ」
「サンキュ、セシリア! 助かる!」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
というのが日曜の昼、つまり1時間ほど前の話。私服に着替えて(コートを羽織って丁度いいとか、もう冬なんだなと感じずにはいられない)校門前で待ち合わせた俺達は、モノレールに乗ってレゾナンスへ。そしてとある店に向かって歩いていた。
「えーっと、確かここだったはず」
「あら、初めて行くお店ですの?」
「ああ、陸から教えてもらったんだけど……あ、あの店だ」
「あのお店って……」
目的の店を見たセシリアが、目を見開いて固まっていた。
「い、一夏さん? わたくしの見間違えでなければ、ここはジュエリーショップ、ですわよね?」
「そうだな」
「い、一夏さんが身に着けるものですの? そ、それとも……」
「俺が? いやいやまさか」
「そ、それではどなたに?」
「そりゃ、セシリア達に決まってるだろ?」
「へ?」
え? なんで目が点になってるんだ?
「クリスマスプレゼント、みんなの分を用意しなきゃいけないだろ」
「わたくし達に、ですの?」
「ああ。でもアクセサリーなんて全然分からないからさ、セシリアにアドバイスをもらおうと」
「なるほど……そういうことでしたら、お付き合いいたしますわ」
そこまで説明してようやく納得したのか、セシリアは
「それでは参りましょうか」
「お、おう」
俺の手を引いて、店の中に入って行った。
「いらっしゃいませ」
店の中に入ると、店員らしき初老の男性が丁寧なお辞儀をして出迎えてきた。り、陸の奴、こんな店紹介したのかよ……。
「失礼ですが、織斑様でございますか?」
「え? え、ええ、そうですが……」
「では、こちらへどうぞ」
「え、ええ?」
「一夏さん、とりあえず付いていきましょう」
突然のことに固まっていたが、セシリアに促されて店員さんの後を付いていった。なんで俺のことを?
そうして案内されたのは、ブレスレットやネックレスが並ぶ一角だった。
「あの、どうしてここに?」
「実はとあるお客様から、織斑様が来店された際に、こちらへ案内してほしいと依頼されておりまして」
「依頼? どなたからですの?」
「はい、宮下様という方からです」
「宮下……もしかして、陸か?」
なんであいつが? というか、お店にそんなこと頼めるなんて、どんだけ太客なんだよ……。
「それと、言伝も預かっております」
「言伝?」
「はい。『どうせお前のことだから、箒達の指のサイズとか調べずに勢いで来たんだろう? ネックレスなら指輪ほど大きさに個人差が無いから、こっちを買っとけ』とのことです」
「一夏さん、もしかして本当に?」
「……調べてない」
うわぁ……サイズのこと全然頭に無かった……。最悪、ここで聞けるセシリア以外、全然サイズの合わないものをプレゼントするところだったのか……。
「情けねぇ……」
「ま、まぁ、今回は宮下さんの助言をありがたく受けておきましょう」
「そう、だな」
ここで落ち込んでても仕方ない、まずはみんなのプレゼントを買うことに集中しよう。
その後セシリアから色々アドバイスを受けて、6人分(箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、束さん)のネックレスを購入した。良かった、なんとか予算内で収まった……。
「あら、織斑先生の分はよろしいんですの?」
店を出てすぐ、セシリアが思い出したように俺に聞いてきた。
「え?」
「え?」
いやいや、なんでそこで千冬姉が出てくるんだ?
「てっきり、織斑先生の分も買うものとばかり……」
「まさか、俺と千冬姉は姉弟だぞ? 実の姉にネックレス送る奴とかいないだろ」
「そうですの? 宮下さんが以前『あいつシスコンだから、絶対織斑先生の分も一緒に買うぞ』とおっしゃって……」
「セシリア、そんな話信じるな、いいな?」
「は、はい! 一夏さん、顔が! 顔が近いですわっ!///」
セシリアの肩をガッシリ掴んで念押しした。正直俺もセシリアの顔が近くて恥ずかしいが、ここで言っとかないとダメな気がしたから手は抜けない。
「まったく……陸の奴、今度会ったらとっちめてやる」
「そんなことおっしゃって、逆襲されても知りませんわよ」
うん、俺もぶっちゃけ、新武装の標的にされる未来がうっすらと見えた。
「そ、それはさておき、今日は付き合ってくれてありがとうな、セシリア」
「いいえ、わたくしも一夏さんに誘っていただいて嬉しかったですわ。それに、クリスマスプレゼントを一緒に買いに出掛けるなんて、こ、恋人同士みたいで……///」
「……///」
顔が赤くなりながら語るセシリアに、俺も顔が赤くなっていくのを感じた。
ここで『みたい、じゃなくて、恋人同士だろ?』なんて歯の浮くようなセリフを言えないのは、俺の経験不足か、それとも単に恥ずかしいだけか。
「と、とにかく、あとは千冬姉へのプレゼントを買ったら俺の用事は終わりなんだけど、セシリアはどこか行きたいところとかあるか?」
「わたくしですの?」
「ああ、ここまで付き合ってもらったからな。まだ日が高いし、このまま学園に帰るのもあれだろ?」
俺が提案すると、セシリアは指を頬に当てて考えるような仕草をしていたが、少しすると何か思いついたようだ。
「それでしたら、行ってみたい場所がありますの。この近くの公園にクレープのキッチンカーが止まってるらしいのですが、そのお店のミックスベリー味を食べると、幸せになるらしいと」
「へぇ、そんなのがあるのか」
「以前、どなたかが話していたのを思い出しまして」
「そっか。なら、後で行ってみるか」
「はい!」
手繋ぎから腕組みにクラスチェンジしたセシリアを伴って、レゾナンス内を散策したのだった。
千冬姉へのプレゼント(高級感のある万年筆)を買った後、キッチンカーが止まっているという公園へ。残念ながらミックスベリー味は売り切れだったらしく、俺とセシリアはブルーベリーとストロベリーをそれぞれ頼んで、二人で分け合って食べた。結構美味しい店だったな。
帰り道、偶然陸達に会った。向こうはクリスマス前祝の買い出しなんだとか。なんだそりゃ。
「いやお前、あれってブルーベリーとストロベリーを食べさせ合ってミックスベリーになるんだからな」
「マジで!?」
そして陸から、ミックスベリーの秘密を教えられた。全然気付かなかった……。
ーーーーーーーーー
「……」
無音の海、そう呼ぶにふさわしい場所。そんな場所――宇宙空間、地球の衛星軌道上――で
「system boot……」
機械の起動音が鳴り響く。
「双方向通信シグナル、良好。目標座標、受信完了。ゼロ・カウント地点への移動開始」
送られてきた
「……」
目覚めた少女は、ただ真っ暗な空間を見つめるだけであった。いや、見つめてすらいない。少女の目には、何も映っていないのだ。
「モード・エクスカリバー、起動」
少女の前に、カウントダウンの数字が表れる。
「9…8…7…」
本来であれば
「6…5…4…」
しかし今はその役目を果たすことは出来ず、偽りの主に支配されていた。
「3…2…1…」
そして偽りの命令に従い、
「0」
聖剣は、抜き放たれた。
スコール、壊れる。そして道連れにされるオータム。やっぱり二人は番なんだね♪(マジキチスマイル
一夏、勢いでプレゼントを買いに行く。セシリアにアドバイス頼んだからヨシ!
エクスカリバー起動。攻撃目標? さて、どこでしょうね~?(暗黒微笑