日曜日でも、IS学園の教師には仕事があります。クラスを受け持っている担任、副担任は特に。
なので、私や織斑先生が職員室にいるもの、珍しいことではないのです。悲しいことに。
「ふぅ……」
「お疲れ様です、織斑先生」
「ああ、すまんな山田君」
コーヒーの入ったマグカップを差し出すと、来学期に必要な書類と格闘していた織斑先生は私からカップを受け取って一口すすりました。
「さすがだな、インスタントでこの味とは」
「そうですか?」
私としては、普通に淹れたつもりなんですが。
「私が淹れると、なぜかいつも泥水になってしまってな……」
「それは粉を入れすぎですよ、先輩……じゃない、織斑先生」
思わず、昔の呼び方が出てしまいました。いけないいけない。
私が代表候補生だった頃から、この人は変わってない。ISや戦闘術に特化し過ぎて、家事一般は全て弟さんに丸投げだったツケが回ってますね。
「んん! さて、確かここに……」
咳払いで誤魔化そうとした織斑先生が、おもむろに袖机の引き出しを開けると、そこには包装された菓子がいくつも入っていました。
「山田君もどうだ? 結構美味かったぞ」
「い、いただきます」
手渡された包装を開けると、中から焼き菓子――確かフィナンシェ、でしたっけ?――が出てきました。バターの香ばしい香りが食欲をそそります。
「意外ですね、織斑先生がお菓子なんて」
「私だって菓子ぐらい食べる……と言いたいところだが、これは貰い物だ」
「貰い物、ですか」
「ああ、宮下からな。『自由国籍の件で、胃壁をすり減らした詫びです』と言って、夏休み明けに渡してきた」
「は、はぁ……」
どこからツッコめばいいんでしょう? 先生に詫びの菓子折りを持ってくる宮下君? それとも、夏休み明けからずっとお菓子を引き出しに入れっぱなしにしてた織斑先生?
心配になって包装を確認しました。……うん、大丈夫。ギリギリ賞味期限内だ。
――トゥルルルル
「あっ、私が出ますね」
職員室の電話が鳴ったので、私が受話器を取りました。
「はい、IS学園職員室――えっ」
「どうした山田君……山田君?」
受話器の反対側から織斑先生の声が聞こえてきますが、私は反応出来ずにいました。だって、だって……!
「おい、どうした!? しっかりしろ真耶!」
――パチンッ
「っ!」
先輩に軽く頬を張られました。それでようやく、私も正気を取り戻しました。
「一体何があったんだ!? 報告しろ!」
そう叫ぶ先輩の顔も、青褪めてる気がします。それは、私の顔も青褪めてるからでしょうか……。
「ショッピングモール・レゾナンスに、ISからと思われる攻撃が、着弾……死傷者、多数、と……」
まるで、地獄の門がこじ開けられたようだと、その時感じました……。
ーーーーーーーーー
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
レゾナンスにいた俺達は、今はIS学園の生徒指導室にいた。
あの後俺達は、緊急時と判断してISを展開。避難する人達の誘導や、避難の邪魔になるガレキの撤去を行った。
それから30分ぐらいだろうか。やっと到着した救助隊や消防隊に状況を引き継いだところで織斑先生から通信が来た。
『お前達、至急学園に戻って来い』
通信はその一言だけ。そして学園に戻ってきた俺達は、そのままここに連れて来られた。部屋を出るのも、他生徒との接触も禁止。ほぼ軟禁状態だ。
「なんで俺達がこんな……人助けしたんだぞ」
「それは~……」
「情報を漏らしたくなかったからだ」
「千冬姉! 一体どうなってんだよ!?」
部屋に入ってきた織斑先生に一夏が食いつくが
「織斑先生だ。いや、今はそれはどうでもいい」
いつもの出席簿アタックもなく、先生が俺達を見回す。
「避難者の救出活動、よくやった」
「いえ、代表候補生として、専用機持ちとして当然のことですわ」
「同じく」
軽く首を振るオルコットに、簪も同意する。
「それで織斑先生、被害は?」
「……幸いお前達が救助活動を行ったため、当時モールにいた者の大半は無事だ」
「そうですか……」
「良かった~……」
「……」
「陸?」
「……いや、なんでもない」
俺のその言葉で、織斑先生は話は終わりとした。
「現在、謎の攻撃がどこから来たものか解析中だ。その結果が出るまで、今日のことに関して口外を禁じる」
「結果が出るまで、ですか?」
「ああ。そしてその結果次第では、お前達にも出動要請が出るかもしれん。覚悟だけしておいてくれ」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「織斑先生」
一夏とオルコット、そしてのほほんが生徒指導室を出たタイミングで、俺は織斑先生に声を掛けた。
「なんだ?」
「死者は?」
「……」
「"モールにいた奴の大半は"と言いましたが、それじゃあ残りの半分は?」
刀奈と簪も、織斑先生の方を見る。
そして苦い顔をする先生。やっぱ、こっちに心配かけまいと、わざとそんな言い回しをしたのか。
「それで、死者は?」
「……死者24名、重軽傷者1084名。行方不明者も100名ほどいる」
「そう、ですか……」
刀奈も何となく察してたのか、『やっぱり』って顔をしていた。
「簪ちゃんは大丈夫?」
「うん。覚悟はしてたから」
「覚悟、か……」
本当に嫌そうな、悲しそうな顔をする織斑先生が俺の方を見る。
「織斑達が出て行ったタイミングで聞いたのは、あいつらに聞かせたくなかったからか」
「ええ。こんな血生臭い話、知らなくていいんですよ」
「更識姉妹はいいと?」
「正直どうかと思ったんですけどね……」
そう言って二人の方に視線を向ければ
「私は陸と一緒の道を歩くって決めた。その道中で血を見る覚悟は出来ています」
「私の場合は今更ですよ。これでも"更識"ですから」
「信頼されてるな」
「なかなか重い信頼ですよ。とはいえ、降ろすつもりもないですが」
「そうか……お前達も疲れてるだろう、さっさと部屋に戻って休むといい」
これ以上話せることはない、と遠回しに言いつつ、俺達を部屋から追い出した。
おそらくあれは、衛星軌道上からの砲撃だろう。くそっ、
誰がやったか知らねぇが、簪や刀奈を巻き込んだんだ……
(ぜってぇ、ぶっ潰す……!)
ーーーーーーーーー
部屋に戻った時、ルームメイトの如月さんは不在でした。でも、それで良かったと思います。
(シャワーを浴びて、少し休みましょう……)
脱衣所で、ガレキの粉塵と汗で汚れた制服を脱ぐ。ISを展開している時はISスーツでしたが、狭い通路ではISを解除して制服姿で誘導していましたから。
そうしてシャワーノズルから噴き出す熱めのお湯を浴びると、ようやく一息ついた気がしますわ。
「それにしても、あの攻撃は……」
あの後、ブルー・ティアーズのログを確認したところ、はるか上空から高エネルギーを感知していました。つまりあの攻撃は、成層圏の向こうから……?
「……今気にしても仕方ありませんわね」
織斑先生が調べているとおっしゃっているのですから、それまでわたくし達は待つしかありませんわね。
そうして汗や埃を洗い流し、ほどよく体が温まり、替えの制服に着替えて少し横になろうとしたところで
――♪
スマホの着信が。
「……チェルシー?」
相手は、わたくしが不在の間オルコット家を管理しているメイド、チェルシー・ブランケットからでした。
「
『お嬢様、大切なお話があります』
受話器の向こうから聞こえてくる彼女の声は、とても切羽詰まったものでした。
『今すぐ
「はい? 何を言ってますの?」
いきなり本国へ戻れだなんて……
「それは、
『いいえ、バッキンガム宮殿からでも、
「話になりませんわ」
わたくしはイギリスの代表候補生として、政府からの指示でIS学園に来ているんですのよ?
『それでも、戻っていただきたいのです』
「チェルシー、どうしたんですの? 貴女はそんなことを言い出す人間では無かったはずです」
両親を亡くしてから、姉代わりとしてわたくしを支えてくれたメイドは、このような道理の通らないことを言ったりはしなかったはず。なのになぜ……。
その謎は、チェルシーの次の言葉で氷解しました。
「道理を曲げてでも、お嬢様にお戻りいただきたいのです。そして、救っていただきたいのです」
「日本に放たれたエネルギー収束砲『エクスカリバー』、そこに囚われている、私の妹……エクシアを」
まーやん、悲報を受ける。久々に出番があったと思ったらこれだよ……。
一夏、被害(表)の少なさに安心する。原作でも、聖剣撃ち込まれた遊園地の被害とか、ほとんど出てきませんでしたね。それで心沈んだ状態でイギリス行こうとはならんかもしれないですが。
オリ主チーム、被害(裏)を聞く。原作と違って死人が出てる? あ、そうなんだ。で? それが何か問題?
チェルシーからのSOS。亡国機業が無くなってるので、素直にセシリアへSOSを出しました。
次回から欧州編、かも。