日独の模擬戦から一夜明け、俺達フランス組は国際列車に乗って西に向かっていた。
「それにしても、俺を突然こっちにするなんてどうしたんだよ?」
「そうですよ、織斑先生も急に承諾しちゃうんですから……」
3人掛けの通路側と窓側、デュノアを挟むように座っていた一夏と山田先生が、疑問に思っていたことを聞いてきた。
そう、本来一夏はドイツ組と海路を進むはずだったが、俺が織斑先生にフランス組への編入を提言して許可されたのだ。
「いやだって一夏、デュノア社に行くんだぞ?」
「それは知ってるって。新装備を取りに行くんだろ?」
「ここはお前、『娘さんを僕に下さい!』って言うところだろ」
「「「ぶふっ!」」」
「あ、なるほど」
「確かにね」
納得する更識姉妹以外の3人が、盛大に噎せた。
「そ、そそそそ、それって、一夏がお父さんに!?」
「はわわわわっ……!」
「陸ぅ!……でも、いつかはやらなきゃならないんだよな……」
「一夏ぁ!?」
「嫌だぞ、俺が挨拶に行かなかったのが原因で、シャルと親父さんの仲が拗れるのは」
「そ、それは僕も嫌だけど……」
「認めてもらいたいんだよ、俺とシャルの仲を」
「一夏……」
う~ん、なんだろうな。窓は開いてるはずなのに、全然涼しくないどころかめっちゃ暑いんだが。
「わ、私、何か飲み物買ってきますね」
「そんな、先生がわざわざ行かなくても……」
「いいえ! ちょっと歩き回りたかったので、気にしなくていいですよ!」
刀奈の制止も聞かず、山田先生は席を立つと隣の車両に消えて行った。先生、逃げたな。
「逃げたね」
「だな」
「そりゃ、こんな甘々なシーン見せられたらねぇ……」
なんて話してたら、一夏とデュノアから白い視線が。なぜに?
「いや、陸達も大概だと思うぞ」
「というか、宮下君達の方が原因だと思うよ」
そう指摘する二人の視線の先には、俺の膝の上に座る簪と、俺の右腕を掴んで離さない刀奈。
「うん、いつも通りだな」
「いつも通り!? それが!?」
「もう嫌だこのバカップル……」
「に、日本のカップルって、これが普通なのかな……? も、もしかして僕達も、いつかはこんな風に……え、えへへ……///」
「シャルぅ! そんなことねぇから、妄想世界から戻ってきてくれぇ!」
デヘ顔で妄想世界に旅立ったデュノアを呼び戻そうと、肩を掴んでガックンガックン揺らす一夏。おーい、あんまやるとデュノアが吐くぞー。
「みなさん、レモンティーで良かった……どうしてこうなったんですか?」
紙コップを人数分持った山田先生は、一夏とデュノアを見て固まった。
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そうして列車に揺られること約4時間。俺達はパリ駅に降り立った。
「ここがパリかぁ……って寒っ!」
「12月のヨーロッパで、その薄着はねぇよ」
一夏の奴、IS学園の冬服だけ着てやがる。
「パリは日本の北海道より北にあるんですよ? 寒いに決まってます」
「そ、そうなんですか……?」
あ~あ、膝ガクガク震わせてからに……。
「南フランスなら、もうちょっと暖かいかもしれないけどねぇ」
「地中海気候、だっけ?」
簪と刀奈も、冬用のコートを着て降りてくる。というか、コートを着てないのは一夏だけだ。
「まったく一夏ってば、もう」
最後に降りてきたデュノアが、予備のマフラーを一夏の首に巻いてやった。
「おおっ、あたたかい。ありがとな、シャル」
「どういたしまして。そしてみんな、フランスに――パリにようこそっ」
デュノアがお辞儀をしてみせる。なかなか様になってるな。
「ええっと、確かデュノア社から迎えの人が来ると聞いているんですが……」
「お嬢様」
「ひゃっ!?」
背後からの声に、山田先生の肩がビクンッと跳ね上がる。
「えっと、デュノアさん、こちらの方は……」
「デュノア家の執事、ジェイムズさんです」
「どうぞ、お見知りおきを」
そう言ってお辞儀をする姿は、さっきのデュノア以上に様になっていた。というか、デュノアはこの人を見て覚えたのかもな。
「お迎えに上がりました。どうぞこちらに」
「うん、分かったよ。それじゃあ行こうか」
デュノアを先頭に、駅を出てすぐのところに停めてあるリムジンに乗り込むと、ジェイムズさんの運転でリムジンは音もなく発進したのだった。
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「宮下君! 学園祭振りだねぇ!」
デュノア社の社長室に案内されるなり、アルベール社長――お父さんが宮下君に握手しながら肩を叩いていた。
「アルベールさんも、お久し振りです。あれから何のお返事も出来ず、すみません」
「いやいや、君の状況もある程度は聞き及んでいるからな。仕方ないさ」
「……」
二人のやり取りを見て、みんなアングリ口を開けて固まっていた。僕も、今見えているものが信じられない。
厳しさの一言に尽きるお父さんが、まるで旧友に会ったかのような気安さで話しかけてるんだから。そして宮下君も、ごくごく普通に応対してるし……。
「それでアルベールさん、ここで新装備を受領するように言われてるんですが……」
「お、おお、そうだった」
宮下君が本題を切り出すと、お父さんが咳払いをして僕たちの方を向いた。
「シャルロット」
「はい」
「リィン・カーネイションの新装備が先日完成してな、それを今回の作戦で使用することが欧州統合政府により決定された」
そう言うと、お父さんはリモコンを操作して、空中投影ディスプレイを起動した。そこに映っていたのは、グレネードランチャーサイズの弾頭だった。
「これが新装備の『ビーム攪乱弾』だ」
「ビーム、攪乱……?」
さらにディスプレイにはシミュレート映像が流れた。
攪乱弾が炸裂すると導電性の高い微粒子を周囲に拡散して、ビームの力場を乱して威力を減衰させる空間を作り出すらしい。
「なるほど、これは使えそうね……」
会長が『納得』と書かれた扇子を口に当てる。
確かにこれをエクスカリバーの下方にばら撒けば、もし衛星砲を撃たれても、威力を減衰させて被害を抑えることができるかもしれない。
「アルベールさん、これってリィン・カーネイションが……お嬢さんがいないと搬出出来ないものですか?」
「弾頭自体はコンテナに詰めてあるから、ISか重機を使えば誰でも運び出せるが?」
「なるほど……なら、デュノアと一夏はここに残ってろ。搬出はこっちでやっとくから」
「え、ええ?」
な、何言ってるの? 更識さん達も『ああ、なるほど』みたいな顔してるけど……。
「それじゃあ山田先生、行きましょうか」
「え、ええ!? そ、それでは失礼します!」
宮下君に押される形で、山田先生も社長室を出て行っちゃった……。
「ふむ、彼に気を遣わせてしまったか」
僕達3人だけになった中、お父さんは苦笑いをしていたけど、突然真剣な顔に変わって、僕達の方を見た。
「君が、織斑一夏だな?」
「は、はい!」
「緊張する必要はない。ただ、意思を確認したいだけだ」
「意思、ですか?」
「お父さん?」
「織斑一夏、君に生涯シャルロットを愛し続けることが出来るか?」
「っ!」
「お、お父さん!?」
と、突然何を言い出すの!?
「君は重婚を認められていると聞いている。そしてシャルロットを含め、複数の女性を囲っているともな。そんな君が、他の女にうつつを抜かして、シャルロットを蔑ろにしないと言い切れるか?」
「お父さん! 一夏はそんな人じゃ……!」
「シャルロットは黙ってなさい!」
「!?」
ギロリと睨まれて、一瞬言葉が出なくなった。だけど、言い返さないと……一夏は、一夏は……!
「当たり前だ」
「い、一夏……?」
「シャルを蔑ろにする? そんなわけねぇだろ! みんなが俺を受け入れてくれた時、腹を括ったんだ! 俺はみんなを愛し続けるって決めたんだ!」
言い切って、ぜぇぜぇと息を荒くする一夏。そんなに君は、僕達の、僕のことを……
「……そうか」
一夏の怒声を聞いていたお父さんは、ただそれだけを言うと一夏に近づいていき
「シャルロットを、娘を頼む」
それだけを言った。
「え……?」
「本来、ロゼンダ以外の女性を、シャルロットの母を愛した私に今のセリフを言う資格はないのだ」
「それなら、なんで……」
「娘の幸せを望まない親がどこにいる」
さも当然のように、お父さんは言い切った。
「だから、シャルロットを幸せにし続けろ。愛し続けろ。二人の女性を同時に愛しておきながら、どちらも中途半端にしか愛せなかった、
「お父さん……」
「……はいっ!」
一夏がお父さんに頭を下げる。その一夏の真剣な眼差しを見て、お父さんの表情が変わる。
「話は終わりだ、そろそろ彼らに合流しなさい。ISアリーナ隣の4番倉庫だ」
「はい!」
「……うん、分かったよ」
一夏と返答すると、山田先生達と合流するために僕達も社長室を出て行った。
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二人が出て行った後、私は社長室の椅子にドッカリと座った。
「まったく、感情に任せるのはいいが、言葉遣いには難ありだな」
「それでも、いい子だと思いますよ」
そう言って部屋に入ってきたのは、妻のロゼンダだった。
「あの娘を、シャルロットを愛すると、あれだけ啖呵を切れるんですから」
だから頼むなんておっしゃったのでしょう、と問われ、私は窓の外を見た。
「それと、貴方には訂正していただきたいことがあります」
「なんだだだだだっ!」
ひ、髭を引っ張るな! 痛い痛い!
痛みに耐えかねて首を捻ると、正面にロゼンダの顔があった。
「貴方はちゃんと愛してくださいました。私も、あの娘の母親も」
「だが……」
「それ以上の卑下は、貴方を愛した私とあの人への侮辱です」
「……以後、気を付けよう」
「そうしてください」
ニッコリ笑うと、私の髭を解放した。
「私も向き合えたんです、貴方も向き合えますよ」
そう言って、ロゼンダは苦笑いをした。
夏にシャルロットが一度フランスに戻ってきた時、ロゼンダと話をしたと聞いている。その時に互いの胸に溜まっていたもの、膿を出し切ったのだろう。
「そうだな。ただ、今は願わくば……」
「ええ、願わくば……
まーやん、砂糖の塊に挟まれる。すまんな、オッパイ枠は紫兎が先に取っちゃったんだ。
デュノア社の新装備。元ネタというか、まんま00でジンクスがダブルオーに向かって投げてたやつですね。
シャルパパ vs 一夏。原作の嫌味系はどこいった……? これ、2股してた以外は普通のおっさんやん。そしてやや話の運びが強引なのは許してちょ。